中世農民転生物語   作:猫ですよろしくおねがいします

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 中世から古代に掛けての物価は、現代と大きく異なっている。

 一応の相場は設定したが、説明を別に設けさせてもらった。 






中世世界観での物価について

 硬貨が不足しているか、実質的に存在していない時代と場所での物品の相場についての話。

 

 

 2021年現在の考古学で遡れる最古の硬貨は、紀元前2500年の昔、青銅器時代のメソポタミア文明に発祥した銀のトークンと言われており、これは麦との交換に使われていたと推測されている。

 古代、鉄器時代や青銅器時代を舞台とする物語においても、硬貨の存在は不自然ではないが、前提として管理通貨制度が確立されるまで、歴史を通じて常に貨幣の供給は不足してきた。

 

 また流通の難しい僻地、或いは孤立した居留地などでは、仮に貨幣が流通していても温存されやすい為、取引に占める物々交換の比重がより大きく、硬貨が補助的な役割に留まるのも一般的であった。

 

 いずれにしても貨幣の流通量が乏しい状況下においては、土地、牛・羊・山羊などの家畜、貴金属の装飾品、レバノン杉・黒檀など希少な木材に拠る家具など高価と見做される財産が同時に通貨としての役割も果たしてきた。

 硬貨が経済の主役となり、村落共同体における経済の血液として物々交換に取って代わるのは、欧州各地で銀鉱山が開発されて一定の供給がなされるようになった中世後期以降と思われる。

 

 

 

 ローマ時代。小麦100キロを収穫するに投下される労働力は300時間であった。これに対し、囲い込み以前の中世に必要とされる労働力はおよそ60時間とされている。

 

 高度な技術を保有していたローマに対して、幾つかの分野で劣っている中世であったが、しかし、農業分野における思想と技術は、これを明確な例外として古代に対して優位に立っている。農業技術が断絶に至らなかった理由としては、冶金や建築などの工学分野が都市インフラに拠る比重が大きいのに対して、農業技術を保有する主な実践者や継承者が大きく田園に拠っている事が影響したのは当たり前だよなぁ。

 

 古代から中世にかけての飛躍的な生産性の向上は、多分に農民層の広汎な役牛の保有と重量有輪犂と言った農具の発達に拠る効率化、三圃制農業の広がりに伴う地力回復の重要性の認知の広がりが要因と推測される。

 

 物語の舞台は冷涼な気候故に生産性がやや落ちるとしても、小麦の生産に必要とされる労働時間は、1キロ当たり3~4H。(より広大な土地は必要とされるだろうが、しかし、収穫量の維持に必要な労働時間は、必要面積ほどには比例しない)

 このうち20~40%が短期間の集中的な収穫と脱穀作業によって占められていると推測される。

 

 1ポンド(450g)は、おおよそ大人が1日に食べる麦の量を指している。

 つまり小麦1ポンド(1日分)を生産するのに、大人2時間分の労働を必要とする。

 

 山羊1頭から採れる乳は、一日あたり2~5リットル。1パイント(0.47リットル)は、大きな杯で1杯の量となる。

 

 中世に身を浸すとヤード・ポンド法凄く便利。

 なんでメートル法なんかあるのやろ?不便やな。あんなんいらんやろ。撤廃してヤードポンド法や尺貫法を復活させるのありと思います(中世脳 

 

 さて、中世世界の物価における参考資料は、例によって数多の記録が残されているイギリスを指標とします。

(※素人にも参照しやすいものとしてケビン・ロディ名誉講師のまとめたリストが有名)

 

 卵2ダースを1ペンス ※14世紀

 チーズ80ポンドが40ペンス(3シリング4ペンス) ※13世紀後半

(=チーズ1ポンドが半ペンス)

 

 つまり卵12個の価格が、チーズ1ポンドにおおよそ該当するのだが、しかし、13世紀イギリス農家におけるチーズ製造の工程の簡略化と大量生産の為の設備は大変に高度なもので、古代、もしくは中世初期を舞台とした物語において、チーズはさらに高価であると設定してもいい。

 

 山羊については、欧米人を著者とする複数のTRPGの物価表が、おおよそ羊の半額から2/3程度の価格としている。中世スキーであろうTRPG作者、頭良さげな現地人が複数名、近似の価格比を採用しており、羊毛を産する羊の生産性の高さを鑑みて、おおよそ妥当だと思えるので、この数値を採用とする。

 

 繰り返すが、山羊一頭から1日に採れるミルクの量は2リットルから5リットル。

 チーズ100gを作るのに現代の技術で牛乳1リットルが必要とされている。

 

 中世イングランド農村の整った設備に比して、発達してない農村でのチーズの価値はより高く、2倍から3倍(より質の高い)もあり得るだろう。

 

 

   さて、取引となる。

  主人公の家は、隣家から3日に1度、壺に一杯の山羊の乳を受け取っている。

 

 ・小麦1ポンドは(大人の労働力に換算して2~3Hの価値を持つ)

 

 ・山羊乳4パイントを3日に1度、隣家から受け取る契約を交わした場合。

  1年で480パイント(220リットル)※山羊100日分の乳

 

  これと引き換えに、収穫期の後に払われる小麦の量は、

  おおよそ10ポンド(大人労働にして20H、大人の10日分)の小麦となる。

 

  山羊一頭の100日分の乳と引き換えとして大人の20時間分の労働力。

  乳搾りと運搬の手間暇を含めれば、おおよそ妥当ではないだろうか。

 

 

  時代は異なるが

  チーズ40ポンド=20ペニーの価値≒山羊乳400パイント

  自由労働者の日当が2~3ペニーと食事。1日の労働時間6~10H

  

  つまり、小麦10ポンド≒大人の労働20H≒7ペニー≒14ポンドのチーズ≠480パイントの山羊乳 となる。

 

  小麦の相場/同時期の時間あたり賃金から割り出した労働単価/加工製品の値段/未加工の山羊の乳

 

 

  読者の中には「我こそは中世経済に自信ニキ(或いはネキ)なり!貴様の計算はまるで間違っている!所詮、ネコなど四足歩行の下等生物に過ぎぬわ!」とほざくサル……げふん、指摘する人類どもがいるかも知れないが、何卒ご寛恕いただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

※2021年06月02日追記

 

(恐らく)13世紀の乳牛 1年に120~150ガロン(540~680リットル)の乳を産する

1ガロン(4.5リットル)あたり半ペニーで売れた

 

(ギースの中世ヨーロッパの農村の生活 P216より)

 

 

  現在の品種の搾乳量

 

 牛

 ホルスタイン種  20~30リットル/日 年間8,000kg強

 スーパーカウ       年間20,000~26,000kg

 山羊       2~5リットル/日  ←これは13世紀の乳牛の量に匹敵する

 

 当時との品種の違い

 

 山羊は品種改良されたか?

 野生種の山羊の乳の量は?

 山羊の品種は多岐にわたる。

 

 

 

 

 

下記のデーターは、全国山羊ネットワーク様のHPを参照させて頂いた。

                    拙いようなら削除します。

 

 

 山羊の品種

 ザーネン種   スイス

     体重 雄 70~90kg

        雌 50~60kg

     乳量 500~1000kg

   泌乳期間 270~350日

 

 ザーネン種は乳用種の山羊。

 体重が30kg~の小型食肉用の山羊種も多くいる。

 

 

 

 動物の乳は、1日あたり体重の1~1.5%?

 同じ体重でも大量の乳を出す動物もいれば、出さない動物もいるだろう。

 山羊は、体重の何%の乳を出す?

 上のHPでは、品種(?)に拠っては、体重の5%近い数字を出す個体も存在している。

 分からん。

 

 古代から中世初期における東欧の野生種に近い山羊がどの程度の乳量を産出したかは不明だが、初期設定よりは少ないことは確実だろう。

 しかし、乳の値段自体は想定していた価格とほぼ一致している。

 

 




  ちなみに中世フランスでは、小麦2リーブルのパン12個を1ドゥニエで購入できた。

 1ペニーで24ポンドの小麦パンを購入できたと言い換えても大体、合っている。
 ただし、フランスは大穀倉地帯で色々と例外なので参考にすると色々おかしくなる。



youtube
What Medieval Peasants Really Ate In A Day

2020年の動画 中世欧州におけるバターの重要性、ビールが水代わりに飲まれていた説と腐った肉に香辛料を使っていた説の誤りを示唆している。


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