サイレンススズカのマイルチャンピオンシップ 或いは女帝と左回りと畳とスペちゃん 作:雅媛
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:ガールズラブ スペシャルウィーク サイレンススズカ エアグルーヴ マイルチャンピオンシップ スぺスズ
そんなサイレンススズカのマイルチャンピオンシップをスペシャルウィークに解説するエアグルーヴ先輩の話です。
「またスペシャルウィークか」
「こんばんは、エアグルーヴ先輩」
「熱心なのはいいが、もう消灯時間だぞ」
「えへへ」
エアグルーヴが日課の校内回りをしていると、AVコーナーでまたスペシャルウィークを見つけた。
どうやらまた研究をしているらしい。
今回もまたスズカのレースを見ているようだ。
「今度チーム内でスズカさんと模擬レースするんです。勝つためにいい方法ないかなって」
「それで研究をしてるわけか……」
スズカに勝つのは生半可ではないだろう。
スズカ自身が強いのもあるが戦法がまたいやらしい。
異次元の逃げで押しつぶしてくるのだから、駆け引きも何もないのだ。
例えばシンボリルドルフ会長も異次元の強さだが、まだ駆け引きができる。
実力があれば勝負になり、万が一を狙える。
しかしスズカのように圧倒的に逃げられたら勝機を探すのも大変なのだ。
スペシャルウィークもそんなことを悩んでいるのだろう。
モニターを見ると、スズカが負けたレースの一つが写っていた。
「マイルチャンピオンシップか」
「この時、スズカさん調子悪そうですよね。どうしたんでしょう?」
スズカが一番惨敗したというレースなら確かにこれだろう。
逃げるべきか、抑えるべきか、そんな悩みを抱えながらふらふらと前の方へ行ってしまった挙句最後にはツインターボ以上の逆噴射をして沈んでしまったレースだ。
相手が悪いのもある。この時の勝ちウマ娘はタイキシャトルだ。
今のスズカですらマイルでは実力互角のマイル王者である。当時のまだ安定してなかったスズカではどう頑張っても勝負にはならなかっただろう。
とはいえ、この逆噴射っぷりは目を覆うひどさなのは確かである。
なぜ惨敗したのか、スペシャルウィークはもしかしたらここに勝機を求めているのかもしれない。
この時の不調の理由は外部資料ではわかりにくいだろうが、同じチームで世話を焼いていたエアグルーヴはその理由を知っていた。
プライベートなことなので話すのはあまり良くないが、公務として知ったわけでもなし、スズカのことについてスペシャルウィークに話す分には問題ないだろう。
エアグルーヴはそう思ってその理由を教えることにした。
「スズカを不調にして勝とうなんて、スペシャルウィークもなかなか策士だな」
「そ、そんなこと考えてませんよ!? スズカさん、抱え込みやすいのでこういう事繰り返してほしくないなって」
単純にのろけであった。
まあそれでもいい。スズカの体調管理のためなら教えるのもやぶさかではない。そんな自己弁護をしながらエアグルーヴは、当時のことを語り始めた。
「スズカがクラシックの頃、気性難だった話はしたな」
「ちょっと今でも信じられないですけどね」
「いまは大切な相手ができたからだろうな」
「からかわないでください!」
「それで気性難、落ち着きのなさを治す方法の一つとして、癖を矯正するという方法があるんだ」
「矯正ですか?」
「そうだ。スズカの場合、左回りの癖を治させようとしてたんだ」
「へー」
落ち着き始めたころに出会い、出会ったことによって完全に落ち着いたサイレンススズカしか知らないスペシャルウィークは感心したような声を上げる。
「当時からスズカは部屋を一人で使っていたからな。ベッドの間の歩けるスペースをつぶせば左回りできなくなるだろうっていう事で、タイヤを置いたんだ」
「タイヤ?」
「硬いものを置いたら怪我する可能性があるからな」
適度に柔らかくて非常に邪魔なもの、という事でまずはタイヤをいくつも置いたのだ。
幸いタイヤはトレーニング用のものが学園内にいくつもある。
それを適当に運び込んで部屋に積み重ねた。
「あんまりかわいくないですね」
「スペシャルウィークが入室後だったらできなかっただろうな。だが、良くも悪くも何も気にしないスズカだから、それ自体には拒否もしなかったんだ」
「それ自体?」
「タイヤの隙間やらタイヤの上で普通に左に回り始めた」
「器用ですね……」
「しかも無意識でやってる部分が多いみたいでな、本人も止められなかったんだよ」
あの大量のタイヤを縫うように、左回りをしていたスズカを見たときはかなりシュールだった。
「ほら、その時の画像がこれだ」
「こ、これってみていいんですか?」
「報告用だが、私個人が撮ったものだから、まあ大丈夫だ」
大量のタイヤの隙間を縫ってぐるぐると回るスズカのすがたをスマートフォンで撮影したものをスペシャルウィークに見せる。
真剣な顔で、タイヤの中を回るスズカは、なんというかとても滑稽だ。
「スズカさんかわいい……」
それを可愛いというスペシャルウィークも末期だろう。あばたもえくぼというやつだろうか。
「最終的に、蹄鉄の火花でタイヤが引火してボヤ騒ぎになったからタイヤ作戦は中止になった」
「スズカさん……」
さすがにあの時は焦った。タイヤがちょっとだけ焦げただけだったが、スズカの左回り癖の強さを思い知った。
とはいえ余計落ち着かなくなっただけだし、癖の矯正もまるでできていなかったから、違う作戦をとることになった。
「で、次は畳を部屋中につるした」
「なんというか、すごい光景ですね」
畳が部屋中につるされた写真を見せる。
今はスペシャルウィークも寝起きしている部屋だ。一時期こんなことになっていたのはちょっと気になる様だ。
「さすがにこれだけ畳が釣り下がっていると回れなくなったみたいでな。一時的に左回りの癖は収まった」
「一時的?」
「今でも回ってるだろう?」
「毎日回ってますね。速度とか旋回半径とか足取りでだいたいの体調が分かります」
満面の笑みで、キラキラ目を輝かせながらそんなことを言うスペシャルウィーク。
さすがにそこまでわかられるとちょっと引く。
スペシャルウィーク、スズカのことが好きすぎないだろうか。
「回らなくなったらストレスで体調を崩してな。このマイルチャンピオンシップ当日キョロキョロオドオド、もう絶不調だったな」
「エアグルーヴ先輩も大変だったんですねぇ……」
「トレーナーの方が大変だったと思うぞ。ちなみにあの時、京都だったのもあって私は応援に行かなかったんだ。私が行くと弥生賞の二の舞になりかねないってね」
「あのゲートくぐっちゃった事件ですか……」
飼い主を見つけたわんこのように駆け寄るスズカの姿は確かにかわいらしいものだったが、一度だけでも大惨事なのに二度やったらどうしていいかわからない。
トレーナーとしても予防策だったのだろう。
「ちなみにスペシャルウィーク、今度の模擬レースはいつだ?」
「3日後ですね」
「勝つなら簡単な方法があるぞ」
「どんな方法ですか!?」
興味深そうにエアグルーヴへと身を乗り出すスペシャルウィーク。
エアグルーヴは笑みを隠し、真顔で告げた。
「くっつき大作戦だ。ずっと抱き着いてスズカの左回りをやめさせればいい」
「それ、ずるいですよね!?」
「作戦のうちだろう。かわいい恋人のお願いだからスズカも無下にはしないだろうしな」
「まだ恋人じゃないです!!」
「あとスズカは寂しがり屋だし、そうやってくっついてやれば喜ぶだろう。そうして不調になれば君の勝ちだ」
「だからまだ恋人じゃないですってば!!」
真っ赤になって叫ぶスペシャルウィーク。
そんな姿を内心愛でるエアグルーヴの耳に、スペちゃーんとよぶスズカの声が入ってくる。
「スペシャルウィーク、お迎えが来たぞ」
「え? スズカさんが呼んでる?」
「消灯時間だし、早くかたづけて戻るんだな」
「は、はい!」
「くっつき大作戦、頑張れよ」
「だから~!」
スペシャルウィークが真っ赤になりながら声を上げる。
そんなスペシャルウィークを軽くあしらったエアグルーヴは一言挨拶をしてスズカとすれ違い、AVコーナーを後にしたのだった。
3日後のスピカの模擬レースにエアグルーヴは観戦に行った。
参加者を見ると、いつも以上につやつやして元気そうなスズカと、寝不足でクマを作っているスペシャルウィークが対照的だった。
おそらくくっつき大作戦をやって、見事スペシャルウィークの方が消耗してしまったのだろう。
スズカの左回りは、寂しさの発散だ。
大好きなスペシャルウィークがくっついていれば、そんなことする必要はないだろう。
むしろテンションが上がって体調も調子も極めてよさそうである。
一方のスペシャルウィークはおそらく恥ずかしくて良く寝れなかったのだろう。
レース前から満身創痍、といった感じである。
実力云々以前に、レースの結果は見えていた。
レースは予想通りに進んだ。
1000m58秒のラップで逃げ続けたスズカはほかの参加者に影も踏ませずに一位を取った。
絶好調のさらに一段階上にいそうである。
一方スペシャルウィークは後方待機したにもかかわらず直線でも全く伸びずに大差で惨敗していた。
体調管理は極めて重要である。
エアグルーヴは自分のしたことを棚に上げてそんなことを思った。
続きというか別のレースについても扱いました。
マチカネフクキタルに油断負けした神戸新聞杯や、エアグルーヴ先輩に完敗した天皇賞秋なんかもありますが、やるかどうか不明です。
アプリ版だとスズカはエアグルーヴに敬語を使わないし、先輩なのに呼び捨てする関係なので非常に仲が良いのではないかと思います。
スぺスズもいいですが、エアスズもありだと思いますし、トレスズも好きです。