八雲紫は安らかな顔で眠りながら夢を見ていた
自らがまだ幼く力も弱い名も無い下級妖怪であった時の…
後に養父となる師との…夜幻との出会いの時を夢に見ていた---
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その少女がふと気が付いた時には何故そこにいるのかも分からず田舎の山奥にひとりで立っていた
ただ分かるのは自分が妖怪であること、そして自分の持つ『境界を操る程度の能力』の名だけだった
これらといわゆる常識と言える物の他には何も分からない、なのにここにいてはいけないと感じ人間にすれば六つか七つほどの幼げな体を動かして少女はその場から離れていった
そしてそれから旅をする内にいつしか少女の中に人間という存在に憧れの念が生まれていた
たった一人で生まれた事への寂しさもあってか『家族』というものにどうしようもなく憧れていた
そしてそれと同時に漠然とした夢が生まれていた
『妖怪と人間が共生する世界を作りたい』
妖怪にしてはあまりにも異端で馬鹿げた夢だと自覚はあった、それでも諦めきれずにいた
しかし生まれて高々数十年の力も無ければ能力の扱いも上手く行かない下っ端な妖怪には無理な夢だった
そのまま漠然と夢を描き生き、生まれて丁度百年が経った頃に出会いが訪れた---
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その日私は道に倒れていた、獲物にと狩った獣を別の妖怪に横取りされてしまったのだ
当然抗議したし取り返そうともした、しかし力も無く体も幼く痩せた妖怪が何かを出来る筈もなくただ一方的に嬲られ少し離れた脇道に投げ捨てられてしまった
何処か他の場所に行こうにも嬲られた痛みや空腹で体が満足に動かなかった
「なんか…眠いな、お腹も空いたし…
私…ここで死んじゃうのかな…?
嫌だな…夢、叶えたかったなぁ…!」
抱えていた夢を何度も笑われた悔しさや叶えられない悲しさを感じ涙を流しながら襲い来る眠気に抗えず瞼を閉じた
このまま私はきっと眠るように死んじゃうのだと思っていたその時---
「何か倒れてると思えば…
妖怪のガキじゃねえか、大丈夫かお前さん」
---そう声を掛けてくる誰かがいた
「だれ…?」
「俺か、俺はあちこちを歩き回るただの根無し草の妖怪だよ
それで…どうしたこんな所で倒れて?」
なぜかその声に安らぎを覚えた私は目を開けその人を見ながら声に応えた
「お腹…空いた、もう…動けない」
「なるほどな…少し待ってろ」
そう言ってその人は背負っていた風呂敷からおにぎりを一つ出すと私に差し出してきた
実に数日ぶりのご飯に脇目も振らず、ただ一心不乱に齧り付いた
それは何の具も入ってない味気ないただご飯を握っただけの冷えて硬いおにぎりだった
それでも美味しかった、まるで体に染み渡るように感じた
「うっ…うぅ…!」
食べ物を食べて安心したのと、久々に感じた優しさにおにぎりを食べながら泣いてしまった
そんな私を見て妖怪だと名乗った彼はそっと優しく頭を撫でてくれた
そのまま私は彼が持っていたおにぎりを全て食べきるとまだ少し力が入らない脚で立ち頭を下げた
「ありがとうございます…!
おかげで死んじゃわ無くて済みました…!」
「別に良いって事よ、それじゃまたな」
そう言って彼は私に背を向け歩き出した彼に恩返しをしたいと思った私は彼の後を付いて行く事にした
後を付いて来る私を見て彼はしばらくは放っていた、しかし少しして諦めたような表情を浮かべた彼は手を差し述べてきた
元より行く当ても無い旅をしていた身、頼りになる仲間が出来たと嬉しくなりながらその手を取り繋ぎながら彼と一緒に各地を旅して回った---
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それからと言うもの私達の旅は楽しい物になった
『わたしの…わたしの夢は!
『妖怪と人間が共生する世界を作りたい』
…です!』
『へぇ、大層な夢じゃねぇか…俺は良いと思うぜ』
---初めて私の夢を笑わずに聞いてくれたり…
『相手をよく見ろ、落ち着けば避けられる!』
『はいお師匠さま!』
---夜幻さんに弟子入りして鍛えて貰ったり…
『物の怪だー!
物の怪が出たぞ、出会え出会えーぃ!』
『おいチビ、お前弟子なら囮になってこい!』
『弟子とか関係無いし、嫌に決まってるじゃないですか!
お師匠さまの馬鹿ー!』
---妖怪だとばれて追いかけ回されたり…
『そういやお前名無しだったよな…俺が付けてやるよ』
『え、良いんですか?』
『あぁ、そうだな…紫ってのはどうだ?』
『紫…良い名です!』
---名前を付けてもらったり…
『紫、俺はお前を娘のように思ってる
だから…寂しかったら甘えてこい』
『はい、お師匠さま…いえ、父様!』
---憧れだった家族が出来たりした…
そして父様との旅を始めて数百年が経った頃、私はとある決心をした---
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とある日の夕暮れ、その日の旅を終えていつものように焚き火を囲みながら私は父様に切り出した
「父様…あの夢、本気で追いかけてみようと思う
父様と旅をして多くのことを知ったし父様に鍛えて貰って出会った頃より強くなれた
今ならきっと…叶えられると思うから」
「そうか…それが紫の決心なら止めはしない、好きにやってみろ」
「うん…ありがとう父様」
---やはり父様は受け入れてくれた、優しく微笑み頭を撫でながら頑張れと応援してくれた
そして一晩が経ち朝日に照らされる中私達は道から離れた林の中で向かい合い立っていた
「それじゃあ…ここでお別れね父様」
「あぁ、気負わず無理しない程度にやれよ
上手くいかなかった時にはいつでも帰ってこい」
「うん、行ってきます…!」
そうして私は自分の夢を叶えるため、妖怪と人間が共生する理想郷を創るために父様の元から旅立った
それから時に笑われ時に泣き、時に父様に泣きつき時に心挫けそうになりながら何百年という月日を掛けて私は幻想郷を作った…
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紫がふと目が覚めると視界に見知った天井と自身の師であり養父である夜幻の顔が見えた
「おはよう紫、よく眠れたか?」
そう問いかけられ紫はまだ少し眠い瞳を擦りつつ体を起こすと微笑み---
「えぇ、とても良い夢を見れたわ…ありがとう父様」
厳しくも優しい、大好きな父にそう答えたのだった
新たに出すとしたらこの中の誰?
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八雲紫の義兄
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八雲紫の義妹(毒舌双子)
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八雲夜幻のかつての部下