伝説になったツインターボの『オールカマー』の裏側で動いていた人達 若しくは チームカノープスの活動日記 作:雅媛
マチカネタンホイザは良家のお嬢様である。
メジロ家に比べればウマ娘界隈では有名ではないが、財界では有名な細川家の令嬢である彼女は、幼いころからケガや病気が多かった。
体が強いわけではないのは確かだが、特別弱いわけではない。
あえて言うなら、間が悪い。
そんなウマ娘だった。
タンホイザは自分が普通だと思っている。
それを口に出すと、皆微妙な顔をする。
確かに自分は良家のお嬢様である。
確かに自分はウマ娘としての才能に恵まれているかもしれない。
確かに自分は成績もよい優等生だ。
皆はそんな自分を見て、普通ではない、優秀な子だと思うのだろう。
しかし、タンホイザは思う。
だからなんだというのだ。
人間の女性と同じ外見から想像もつかない身体能力。
ウマ娘のウマ娘たるその力の根源は精神力にあるとタンホイザは思っていた。
経済的にも能力的にも確かに自分は恵まれているが、ことこの精神力に置いて、タンホイザは自分が普通であること、いや、普通というにもおこがましいほど劣っていると気づいていた。
走りたいという欲求。
負けたくないという闘争心。
諦めたくないという克己心。
そういったものがタンホイザには欠けていた。
「普通」というのはなんてことない。
彼女の願いであった。
血統的、能力的に優れたタンホイザには、幾多のチームから誘いがあった。
そんな中、彼女が選んだのはチーム・カノープスだった。
新興チームであるカノープスは、歴史ある古参のチームや、最近勢いがあるチームと比べて、いまいちパッとしない冴えないチームだったのは確かだ。
しかし、
「少しだけ特別を目指してみませんか?」
南坂トレーナーが自分の目を見てそう誘ったとき、タンホイザは加入を決めた。
普通には足りない自分に気づいてくれている。
普通には足りない自分が普通になれるよう手伝ってくれる。
もしかしたら、普通からさらに、少しだけ特別にすらなれるかもしれない。
南坂トレーナーの言葉と笑顔は、そんなことを思わせるものだった。
トレセン学園に来て初めて、心が弾む気がした。
カノープスはおかしなチームだった。
できるだけチームみんな、一緒にいるように言われた。
ウマ娘というのは闘争心が強い一方、一般的に群れたがるところもあり、チームともなるとそれなりに一緒の時間を過ごす。
とはいえ、オフには一人になりたがるウマ娘も多い。
優しいけど自信がなくて気が弱いナイスネイチャ
気が強くて決まり事に五月蠅く衝突が多いイクノディクタス
一本気すぎて周りが見えないツインターボ
そして自分
こんな個性的過ぎるメンバーを一緒にさせたら喧嘩ばかりだろう、と最初は思っていた。
だが、面白いもので、長くいると案外みんなウマが合った。
予想外に負けず嫌いで何かのたびに闘志を燃やすナイスネイチャ
案外お茶目でツインターボの思い付きに必ず付き合うイクノディクタス
他人の不調や心配にすぐに気づき自分なりに気遣うツインターボ
付き合っているうちに予想外の面が次々と出てくる。
お互いがお互いの足りないところを補い、成長していくのを感じる。
カノープスは本当に仲の良いチームだった。
だからこそ、ターボがトレーナーに縋りついているとき、みんなが何を考えているのかよくわかった。
次のオールカマー、ターボはきっと絶対だ。
並みいる強豪を相手にしてもあきらめなかったイクノが、初めて走る前から負けを認めている。負けず嫌いな彼女が負けを認めてなお、ターボのためにトレーナーにお願いしている。
ターボの絶対さを一番感じているのはきっとイクノなのだろう。
ネイチャはここで止めるべきとわかっているにもかかわらず、トレーナーにお願いをしている。そしてそれを後悔しているのもわかる。
優しい彼女は思い詰めそうである。
トレーナーが無茶苦茶やることを考えているのもよくわかった。
優しくて温厚で気が弱い印象を抱かせる彼だが、実際は破滅的に独創的で非常識である。
ただ、イクノやネイチャのハードスケジュールの体調管理とトレーニングプランができるほど優秀な人間だ。
そんなできるけど常識がない彼が考える手なんて、成功はするが普通なわけがない。
自分ができることは共犯になることだろうか。
いや、それはチームメンバーとして、何よりも友達としてもちろんだがそれだけではない。
できるだけばれないようにするために準備を手伝うのはもちろん、場合によってはおじい様にお願いしてどうにかもみ消してもらうことも考えた方がいいだろう。
流されるだけとは違う、自分ができることを自分で考え、自分でやる。
いつもと少しだけ違う自分だけの企み、そんなことをしていると、なんだかとても楽しくなってくる。
そんな自分がいるのに気づいたタンホイザは静かにほほ笑んだ。