俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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2026/9/2 加筆修正




蝸牛と失敗作

 

─────レオヴァは十五歳になった。

 

十四歳のうちに必ず成すべき事として挙げていた“古代文字の習得”も、予定通りに達成した。

魚人島のポーネグリフを実際に読み、内容まで理解できることも確認済みだ。

今のところ、立てていた計画に大きな狂いはない。

 

そして現在。

レオヴァが時間を割いているのは――カタツムリの飼育だった。

……正しくは、電伝虫だが。

 

目の前では大小さまざまな電伝虫が、のんびりと身体を動かしている。

この世界に生息するカタツムリ達は、本当に便利な能力を持っていた。

 

通話。

映像の伝達。

盗聴。

盗聴の妨害。

種類によって性質も用途も大きく異なる。

今後の百獣海賊団やワノ国での運用を考えれば、外から買い続けるよりも、自分達で安定して確保できる状態を作っておいた方がいい。

そのためレオヴァは、飼育だけでなく繁殖も含めた実験を進めていた。

 

ワノ国に生息している親分タニシとスマートタニシ。

そして、一般的な電伝虫。

 

それぞれ飼育場所を分け、日々の生態や繁殖の様子を記録している。

始める前は多少苦労することも想定していたが、実際にはどの種類も驚くほど扱いやすかった。

人間の姿を見ても逃げるどころか、自分から近寄ってくる個体までいる。

通信に必要な機械を取り付ける際にも大人しくしており、飼育そのものは予想以上に順調だった。

 

中でも大きな成果となったのが、“白電伝虫”の飼育と繁殖に成功したことだ。

白電伝虫は、盗聴を妨害する念波を発することができる。

政府。

あるいは他の敵対組織。

そうした連中に会話を盗み聞かれる危険を減らせるのなら、今後レオヴァが進めようとしている計画も幾分動かしやすくなる。

 

 

それだけではない。

稀少な電伝虫だけに、販売すればそれなりの金にもなる。

 

 

もっとも、市場へ大量に流せば当然価値は下がる。

販売するにしても、数はこちらで調整することが大前提だ。

 

レオヴァは手元の紙へ飼育状況を書き込みながら、今度はワノ国国内での運用へ考えを移した。

国内へ広めたいのは、通常の電伝虫ではない。

親分タニシと、スマートタニシ――通称スマシだ。

 

この二種類を選んだ理由は、通常の電伝虫に比べて念波が“弱い”ことにあった。

スマシから送られた情報は、一度親分タニシを経由し、そこから他のスマシへ届けられる。

つまり、大元となる親分タニシが機能しなくなれば、その範囲内にあるスマシも一斉に使えなくなる。

 

一見すると不便な性質だ。

だが、レオヴァにとっては逆だった。

連絡網を管理しやすい。

必要になれば、親分タニシ側を止めるだけで特定地域の通信を遮断できる。通信が途切れたところで、“親分タニシの異常”として片付けることも可能だ。

 

何より重要なのは、ワノ国の外まで念波が届かないことだった。

外部との連絡を断つだけなら、そもそも民衆へ連絡手段そのものを持たせなければいい。

実際、そう提案する者もいた。

しかし、それでは不便すぎる。

 

些細な報告のためだけに人間を走らせることになり、緊急時には移動に掛かる時間がそのまま損失になる。

国内だけで完結する連絡手段なら、むしろ積極的に普及させた方が都合が良かった。

 

わざわざ直接出向くほどでもない内容も手軽に伝えられる。

何か問題が起きれば、即座に上へ報告できる。

大きな組織ほど、“報告・連絡・相談”が重要になるのだ。

 

それに、連絡手段を一切与えない状態を続ければ、いずれ不満を持つ者が出る。

自分達で別の通信手段を用意し始める可能性もある。

独自の方法を編み出されたり、こちらの把握していない電伝虫を隠れて所有されたりすれば、それを探し出して排除するだけでも余計な時間と手間が掛かる。

 

だったら、最初からこちらで用意した便利なものを広めてしまえばいい。

民衆が自ら好んでスマシを使うようになれば、通信網を整えられるうえに、その大元はこちらで管理できる。

その方が何倍も楽だろう。

 

この案については、既に父も気に入り、承諾してくれた。

あとはスマシの数がもう少し安定してから、まず編笠村で試験的に運用する。

問題がなければ、そこから徐々に広げていけばいい。

 

レオヴァはそんな今後の方針を考えながら、観察した内容を紙へ書き加えていった。

その時、部屋の扉が開く。

入ってきた部下が、レオヴァのもとまで歩み寄って頭を下げた。

 

「レオヴァ様、失礼しやす!

例の件の準備が終わりやしたのでその報告に。」

レオヴァは筆を置き、顔を上げる。

 

「そうか、ご苦労

では向かうとしよう。」

少し前から準備を進めていた、戦力強化のための取引。

ようやく、その準備が整ったらしい。

レオヴァは記録をまとめると席を立ち、部下と共に部屋を後にした。

 

─────────────────────────────────

 

 

今日は、レオヴァ様がある取引をなさる日だ。

しかも相手は、政府関係者らしい。

 

その話を聞かされた時から、護衛として同行した男達には普段とは違う緊張があった。

取引の席となった部屋には、嫌になるほど静かな時間が流れている。

聞こえるのは、時計の針が一定の間隔で時を刻む音。

そして時折、レオヴァが紅茶を口へ運び、静かにカップを置く音だけだった。

 

護衛の男は部屋の一角に立ち、いつでも動けるよう周囲へ注意を向けていた。

政府関係者との取引など、何が起きるか分からない。

何よりレオヴァに何かあってはならない。

誰も無駄口を叩かずに待っていると、やがて静寂を破るように扉が開いた。

 

姿を現したのは二人の男。

その後ろには、取り巻きらしい者達が十数人続いている。

男達は部屋へ入ってきてもまともな挨拶一つせず、当然のように席へ着くなり取引の話を始めた。

 

護衛の男の眉がぴくりと動く。

何だ、こいつらは。

誰が相手だと思っている。

一言怒鳴りつけてやりたいところだったが、正面に座るレオヴァ本人は特に気分を害した様子もなく、淡々と話を進めている。

ならば自分が勝手に口を挟むわけにはいかない。

 

男は腹の中で悪態をつきながら、どうにか口を閉ざした。

取引そのものは驚くほど順調に進んだ。

条件を確認し。

金額を確認し。

こちらが用意した金を見た相手の男達が、露骨に下卑た笑みを浮かべる。

 

その表情も気に食わない。

だが、レオヴァが何も言わない以上、護衛達も黙っているしかなかった。

やがて男達は、取引する品を実際に見せると言い出した。

案内に従って部屋を出ると、一行は停泊していた島の奥へと進んでいった。

 

しばらく歩いた先で、護衛達は足を止める。

そこにあったものを見て、一瞬理解が追いつかなかったのだ。

 

かろうじて人間の形をしている。

だが、あまりにも大きすぎる。

それも一体ではない。

何体もの巨体が、厳重に拘束された状態で並べられていた。

 

「……なんだ、ありゃ」

思わず誰かが漏らした声にも、誰も反応できない。

人間なのか。

いや、本当に人間と呼んでいいのか。

拘束された巨体の口からは、言葉とも唸り声ともつかない音が漏れていた。

数十メートルはあるその身体を目の前にすれば、普段から荒事に慣れている百獣海賊団の男達でさえ、足元が僅かに強張る。

 

そんな中。

レオヴァだけは特に取り乱すことなく、取引相手の男達と何かを確認していた。

護衛の男は巨体とレオヴァを交互に見ながら、緊張で乾いた唾を飲み込む。

これが今回の“品”なのか。

その時だった。

取引相手の一人が、突然拘束へ手を掛けた。

何をするつもりなのかと思った直後。

巨体を縛っていた拘束が外れる。

 

「うおぉ!?!」

「な、なんだぁ!?」

解放された巨体が身を起こした。

その様子を見ながら、男が愉快そうに笑う。

 

「ヒヒヒヒ!!おら、失敗作共!

こいつらを殺っちまうんだよ!!」

ようやく状況を理解した。

最初から、まともに取引を終えるつもりなどなかったのだ。

 

「くそぉ!てめぇ……!」

護衛達が一斉に身構える。

だが、怒りに任せて相手へ飛び掛かるより先に、解放された化け物が腕を振り上げた。

近くで見れば、なおさら馬鹿げた大きさだった。

数十メートルもの巨体。

そこから振り下ろされる拳は、護衛の男一人など簡単に押し潰せるほど大きい。

 

まずい。

逃げるより先に身体が動いた。

レオヴァ様を守らなければ。

男は迫る拳へ向かおうと地面を蹴った。

 

「………ほう。 ガタイに見合うだけの力はあるようだ。」

轟音が響く。

化け物の拳が、途中で止まっていた。

 

それを受け止めているのは――レオヴァだった。

巨大な拳と比べれば、十五歳になったレオヴァの身体など人形サイズだ。

 

それでも、振り下ろされた一撃は、一寸も進まない。

レオヴァが繰り出した蹴りが、真正面からその拳を受け止めていた。

まるで大した重さでもないかのように。

 

「ジュキッ…!?」

攻撃した本人である化け物まで、意味の分からない声を上げる。

取引相手の男も目を剥いた。

 

「なにっ…!

失敗作とは言え巨人とほぼ同等のパワーだぞ!?」

レオヴァは巨大な拳をはじき返すと、相手を振り返った。

 

「お前はおれの部下に手を出したんだ。

…覚悟はできてるんだろうな? 」

先ほどまで取引をしていた時と同じ、落ち着いた声だった。

だが、護衛の男にはその静けさの方が恐ろしく感じられた。

相手の男も一瞬たじろいだものの、まだこちらには切り札があると思ったらしい。

 

「ちょ、調子にのるな!たかだか一匹相手取れたところで…

おれには まだ9匹残ってる!!

てめぇらボサッとしてねぇで他の失敗作共の拘束を解けぇ!」

その命令に、取り巻き達の顔が引き攣った。

先ほど一体が動いただけで、周囲へ伝わった圧力は十分すぎるほどだった。

残り九体まで解き放つ。

その意味が分からないほど、取り巻き達も馬鹿ではないらしい。

 

「え、いや……そりゃこっちも危ねぇんじゃ……」

「うるせえ!!!早くしろ!」

怒鳴りつけられ、男達は怯えながら拘束へ手を掛け始める。

 

「へ、へいっ!」

一体。

また一体。

巨大な身体を縛っていた拘束が外されていく。

護衛達の間にも緊張が走った。

十体。

あの一体だけでも、自分達ではどうなるか分からない。

それが全部解き放たれるが、レオヴァは慌てることなく、小さく息を吐いた。

 

「…はぁ………皆、下がってろ。」

「「「 はい レオヴァ様ッ! 」」」

 

命令が飛んだ瞬間、護衛達は迷わなかった。

ここから先は、自分達が割って入る場面ではない。

護衛達はレオヴァの命令通り、その場を離れて浜辺まで後退した。

振り返れば、取引相手の男達が次々と拘束を外し、ついに十体すべての化け物が自由になっている。

数十メートルもの巨体が並び立つ光景は、それだけで圧迫感があった。

地面へ足を下ろす度に鈍い振動が伝わり、意味を成さない奇妙な声があちこちから響く。

 

そんな中、拘束を解いた取り巻き達は慌てて距離を取ろうとしていたが次の瞬間。

巨体の一つが足を振り下ろす。

 

「――っ!」

間に合わない。

取り巻きの男達が逃げるより早く、巨大な足が地面へ落ちる。

鈍い音が響いた。

そして、そこにいた男達はぐちゃりと潰れた。

 

先ほどまで人間だったものが、見る影もなく地面へ広がっている。

「ひっ……!」

引き攣った声が漏れた。

 

「ば、バケモンじゃねぇか…」

十体をけしかけるよう命じた本人ですら、顔色を失っている。

敵味方の区別すらついていないのか。

それとも、ただ目についたものへ手を出しているだけなのか。

どちらにせよ、あの巨体の中へレオヴァ一人を残したままでいいはずがない。

 

「おい、やっぱりレオヴァ様に加勢しに……」

 

護衛の男が一歩踏み出したところで、仲間達に腕を掴まれた。

 

「バカ野郎! 俺たちじゃあ どう考えても足手まといだろう!?」

「む…無理だ……」

分かっている。

分かってはいるのだ。

自分達が飛び込んだところで、先ほどレオヴァが守ってくれた時と同じように、かえって邪魔になる可能性の方が高い。

それでも、黙って見ているだけというのは性に合わなかった。

 

男が振り払ってでも向かおうと力を込めた、その時。

空気が変わった。

肌へ突き刺さるような、鋭い圧。

何か目には見えないものが周囲へ満ちていくような感覚に、護衛達は一斉に息を呑んだ。

その中心にいるのはレオヴァだった。

 

十体もの巨体に囲まれているというのに、退く様子はない。

むしろ、彼らを見上げながら静かに口を開く。

 

「少し躾けてから連れて帰るとしよう。

 ……“爆雷砲“ 」

次の瞬間。

視界が真っ白に染まった。

何が起きたのか理解するより先に、凄まじい光が辺り一帯を呑み込む。

反射的に目を閉じた護衛の男は、遅れて耳へ届いた轟音に身体を強張らせた。

空気そのものが震え、足元まで衝撃が伝わってくる。

 

恐る恐る目を開く。

そこで見た光景に、また言葉を失った。

先ほどまで立っていた十体の化け物が、揃って地面へ倒れている。

あれほど巨大だった身体が、一斉に動きを止めていた。

 

「……は?」

誰かが間の抜けた声を漏らした。

一方のレオヴァは、倒れた巨体を見渡しながら困ったように腕を組んでいる。

 

「これだけ大きいなら堪えられると思ったんだがな

 ……少し加減を間違えたか…?」

その口調は、十体の化け物を一撃で倒した直後とは思えないほど平然としていた。

先ほどまで周囲を圧していた刺々しい気配も、今ではすっかり消えている。

護衛達が揃って口を開けたまま固まっていると、レオヴァは一人で倒れた化け物達のもとへ歩いていった。

まだ意識が残っている個体もいるらしい。

レオヴァが近付くと、何体かが僅かに身体を動かした。

 

「お前たち、おれには勝てないとわかったか?」

「ジュキ…キ……!」

「は…ハチャ~……」

「なぎ、ギッ!」

言葉になっているのかどうかは分からない。

だが、返事らしき声を漏らしながら、動ける者達は必死に頷いていた。

先ほどまであれほど暴れていた化け物が、今ではレオヴァの問い掛けに大人しく従っている。

 

「うむ、なら良い。

他の者は気絶してしまっている様だが……まぁ力の差は理解しただろう。」

その様子を確認すると、レオヴァは満足そうに頷いた。

そして、浜辺にいる部下達へ振り返る。

 

「よし!では皆、帰りの準備をしてくれ。

彼らが動ける様になったらワノ国へ戻るぞ。」

「承知しやした…!」

護衛の男は反射的に返事をしたものの、どうしても一つ気になることがあった。

倒れている十体を見てから、恐る恐るレオヴァへ尋ねる。

 

「…あの、ところでレオヴァ様……お聞きしてぇことが…」

「ん? どうしたんだ?」

「その……ソイツらなんなんですかい?」

レオヴァは改めて巨体へ目を向けた。

 

「あぁ、彼らはある施設で研究されていた“古代巨人族“の復活……の失敗作らしいぞ」

「は、はぁ……古代巨人族ですか…」

聞いても、まるで理解が追いつかない。

ただ、普通の巨人族とも違う何かだということだけは分かった。

そんな部下の様子に、レオヴァは深く考える必要はないとでも言うように続ける。

 

「まぁ、あまり難しく考えることはない。

…そうだな、これから仲間になる新人とでも思ってくれ」

「えぇ…! 仲間ぁ!?」

思わず声が裏返った。

周囲の仲間達も一斉に巨体を見上げる。

つい先ほど、取引相手の取り巻きを躊躇なく踏み潰した連中だ。

それが新人。

同じ百獣海賊団の仲間になる。

 

「レオヴァ様……そいつら おれ等のこと食っちまうんじゃ…」

不安げな声が上がる。

それにはレオヴァも少しだけ沈黙した。

 

「そこら辺もしっかり おれが教育するつもりだから問題はないだろう

 ……………たぶんな……」

最後の一言が妙に小さい。

 

「「「 すげぇ不安なんですが!!? 」」」

浜辺に、部下達の声が揃って響き渡った。

 

─────────────────────────────────

 

 

ワノ国へ戻った後。

港には、普段とは明らかに異なる光景が広がっていた。

カイドウ、キング、クイーンの三人は並んで立ち、レオヴァが連れ帰ってきた巨大な生き物達を見上げている。

百獣海賊団には大柄な者も珍しくない。

 

だが、それを考慮しても目の前の十体は規格外だった。

「おいおいおい……クソでけぇじゃねぇかよ…」

クイーンが首を大きく反らしながら声を上げる。

その隣でキングは、巨体そのものより別の点を確認するように目を向けた。

 

「……知性はあるのか?」

カイドウは腕を組み、面白そうに眺めている。

 

「戦力を増やす取り引きだと聞いちゃいたが…

こりゃ予想外なモンを持って帰って来やがったなァ!」

三人の反応を受け、レオヴァが簡潔に説明する。

 

「“古代巨人族“ 復活の研究途中で出来たのが彼らだと言っていた

……研究は失敗で終わったようだが。」

その話を聞いたクイーンは、露骨に呆れた顔をした。

 

「えぇ……古代巨人族の復活とか……アホかよ…

てか、レオヴァの珍しいモン好きもここまで来るとちょっと引くぜ」

「…おい、クイーン 別に趣味の為に取引してきたワケじゃねぇぞ……」

 

即座に否定したものの、クイーンはにやりと口元を歪めた。

レオヴァの珍しい生物や未知のものに対する興味を知らないわけではない。

「ほ~? じゃあ微塵も

珍しいから知らない種族の研究結果だから、

とか“私的“な理由はねぇ~わけだ?」

「…………ない…」

返事までに、僅かな間があった。

当然クイーンは見逃さない。

 

「ほんの少しも考えてねぇと?」

「……ぐぅ…そりゃ少しは考えはしたが……!

基本的には戦力強化のためだ!」

押し切られたレオヴァが認めると、クイーンは待ってましたとばかりに笑い出した。

 

「ムハハハ~!!ほらやっぱ趣味じゃねぇか!

ほんと“イイ趣味“してるぜェ~…!」

「…完全に趣味というワケではない!」

少なくとも、それだけが理由ではない。

レオヴァとしては強く主張しておきたいところだった。

そんな二人のやり取りには深入りせず、キングは実用面の確認を続ける。

 

「……で、レオヴァ坊っちゃん

確かにそこらの雑魚よりは使えるだろうが、命令は聞くのか?」

「あぁ、来る前に軽く躾けてあるから簡単な命令なら何も問題ない。

 ……お前たち、“あいさつ“!」

レオヴァの声が飛ぶ。

すると、港に並んでいた巨体が反応した。

動く速度も、膝をつくタイミングもそれぞれ違う。

それでも十体は次々と身体を屈め、レオヴァ達の前で膝をつくと、大きな頭を下げた。

地面が重みに耐えるように僅かに震える。

 

「……ほう?」

キングが興味深そうに眺めた。

クイーンは別のところが気になったらしい。

 

「いや、躾ってペットかよ!?」

一方、カイドウはむしろ気に入ったように笑う。

 

「なかなか面白ェじゃねぇか…!」

「まぁ、こんな感じで簡単な命令ならしっかり聞く」

レオヴァも巨人達の様子を見ながら答えた。

今のところ、島で教えた内容は問題なく残っているようだ。

カイドウ達も、珍しいものでも見物するように十体を眺めていたが、やがてカイドウがふと疑問を口にした。

 

「 何処までが簡単な命令に入るんだ?」

「そうだな……壊す、運ぶ、待て、進め…とか

1つの内容で完結できる命令ならおおよそ実行できる…とは思うが」

複雑な判断を要求する仕事には向かない。

いくつもの手順を覚えさせ、状況に応じて臨機応変に動かすのも難しいだろう。

キングも同じ結論に達したらしい。

 

「……要するにコイツらを使うならある程度条件が揃わねぇと駄目なワケか」

「キングの言う通りだ。

だから敵を残滅する仕事や港で荷物を運ぶ仕事を中心にやらせようと思ってる。

そうすれば今、荷積みと荷卸しをやってる人員を欲しがってるクイーンにまわせるだろ?」

 

戦闘なら、敵を倒す。

港なら、荷物を運ぶ。

やるべきことを一つに絞れば、この巨体と腕力を十分に活かせる。

しかも港の重労働を任せられれば、今までそこへ割いていた人間を別の場所へ回すことができる。

クイーンの顔が一気に明るくなった。

 

「人手が欲しかったんだよ!

さすがレオヴァ そりゃナイスな考えだぜ~!」

カイドウも満足そうに頷く。

 

「相変わらずイイ案だレオヴァ

それなら、手の空いた奴らはクイーンに任せる!」

「ムハハハ~! やれる事が増えるぜェ~ 」

早くも浮いた人員を何へ使うか考えているのか、クイーンは上機嫌だった。

だがキングは、もう一つ確認しておくべき点を見つけた。

 

「まぁ、その案には賛成だが……コイツらはレオヴァ坊っちゃん以外の命令は聞くのか?」

レオヴァだけに従うのであれば、運用できる場面は大きく限られる。

その疑問にも、レオヴァはすぐに答えた。

 

「それも実験済みだ。

一度顔を覚えさせればおれ以外の命令もちゃんと聞く」

「そうか、愚問だったか」

「いや、キングの疑問も尤もだ」

実際に使い始めてから認識の違いが判明する方が問題だ。

特に、目の前にいる十体は一つ間違えれば味方にも被害を出しかねない。

確認できることは、事前に確認しておく方がいい。

一通り話を聞き終えたカイドウは、愉快そうに笑った。

 

「ウォロロロロロ!

なら さっそく今日からコイツらを使ってみるか!

 レオヴァ、この港の指揮は任せるぞ。」

「あぁ、父さん任せてくれ。

 お前ら、しっかり働くんだぞ?」

レオヴァが十体を見上げて声を掛ける。

すると、理解していることを示すように、それぞれが大声を上げた。

 

「ジュキキキ~!」

「ハチャッ ハチャ…!」

「ゴキキキィ…!!」

「ジャキーーッ……!」

港中に奇妙な雄叫びが響き渡る。

その迫力に、近くにいた部下達まで思わず視線を向けた。

クイーンだけは露骨に顔を引き攣らせる。

 

「……オゥ…やっぱコイツらキモいぜェ……」

キングは何も言わず、腕を組んだまま十体を見上げていた。

その隣では、カイドウがただ愉快そうに笑っている。

三人の反応を背にしながら、レオヴァは早速、港での仕事を割り振り始めた。

巨体をどう動かすか。

周囲の部下達をどこへ配置するか。

新しく加わった十体を実際の戦力として使える形にするため、レオヴァは化け物達と部下達へ一つずつ指示を出していった。

 

─────────────────────────────────

 

 

三日前。

ジャックは海戦で大怪我を負った。

本人に残っている記憶は途切れ途切れだったが、あとから聞いた話では失血死する寸前まで追い込まれていたらしい。

幸い、その日は珍しくレオヴァも海戦へ参加していた。

意識を失いかけていたジャックを見つけたレオヴァがすぐに運び出したことで、どうにか一命を取り留めた。

 

だが、目を覚ました後、待っていたのは今まで見たこともないほど怒ったレオヴァだった。

一時間近く説教された。

無茶をするな。

自分の力量を考えろ。

生きて帰ることまで含めて仕事だ。

大体そんな内容を、普段より遥かに強い口調で延々と言われ、さすがのジャックも反省した。

 

 

傷そのものは既にかなり癒えている。

ベッドから起き上がれる。

歩くこともできる。

身体を軽く動かした程度では痛みもほとんどない。

もう完治したと言ってもいいだろう。

……問題は。

 

本当に完治したと判断された、その後だった。

ジャックはベッドの上で一人、重い溜息を吐いた。

レオヴァに怒られたことよりも、今は別の意味で恐ろしいものが待っている。

見舞い――と呼んでいいのか分からないが。

怪我をして間もない頃、キングとクイーンが揃って病室へやって来た。

二人とも、見舞いに来た人間の顔ではなかった。

思い出しただけで、背中に嫌な汗が浮かぶ。

 

─────────────────────────────────

『よぉ、ズッコケジャック 死にかけたらしいなァ~?

……おれが鍛えてやってんのに足引っ張ってんじゃねぇぞ……挙げ句レオヴァに手間までかけさせやがって!

完治するまでは指導は無しってレオヴァが言うから

まぁ、今は休んどけ……完治したらもうヘマしねぇ様に叩き直してやるぜェ!!』

クイーンは笑っていた。

笑ってはいた。

だが、目がまったく笑っていなかった。

『…ぅ……返す言葉もねぇ…クイーンの兄御…』 

言い返せるはずもない。

実際に負けた。

死にかけた。

そしてレオヴァに助けられた。

どれも事実だった。

─────────────────────────────────

 

キングは、さらに分かりやすかった。

病室へ入ってきた時点で、空気が重かった。

『ズッコケジャック…! テメェ負けたらしいなァ!

しかもレオヴァ坊っちゃんに尻拭いまでさせやがってェ……

これからは生ぬりぃ殺り方はしねぇ…傷が癒えたら躾しなおしてやる。わかったな!?』

『…す、すまねぇ……キングの兄御』

謝る以外に出来ることなどなかった。

─────────────────────────────────

 

改めて思い返し。

ジャックは両手で頭を抱えた。

…………駄目だ。

どう考えても、完治と同時に殺られる未来しか浮かばない。

今ここで「もう治った」と口にした瞬間、どこからともなく二人が現れて訓練場へ引きずって行くのではないか。

そんな馬鹿げた想像まで頭を過ぎる。

 

その時、不意に声を掛けられる。

 

「ジャック…?

どうした、何処か痛むのか?」

「れ、レオヴァさん…いや、なんでもねぇです」

慌てて顔を上げる。

いつの間に入ってきたのか、レオヴァが病室の入口に立っていた。

 

「何でもない奴の顔じゃないぞ…」

言われて初めて、自分が相当酷い顔をしていたらしいと気付く。

ジャックは誤魔化すように視線を逸らした。

 

「……身体はもう問題ねぇんで」

「…まぁ、なら良いんだが」

レオヴァはまだ少し気にしている様子だったが、無理に聞き出そうとはしなかった。

 

ジャックとしては助かった。

さすがに「完治したら兄御達に殺されそうで怖い」とレオヴァへ相談するのは情けなさすぎる。

話題を変えるように、ジャックは尋ねた。

 

「それよりも おれに何かご用で?」

「ん?用って程でもない。

ただジャックの怪我の様子を見にきたんだ

ちゃんと治ってるみてぇで安心した。」

その言葉に、ジャックは思わず姿勢を正した。

わざわざ様子を見に来てくれた。

しかも、自分が元気になったことを見て安心したと言っている。

 

「レオヴァさん……ありがとうごぜぇます!」

勢いよく礼を言うと、レオヴァは軽く笑って返したあと、部屋の外に置いてあったワゴンを引き寄せる。

 

ジャックの目が自然とそちらへ向く。

ワゴンの上には、大きなドームカバーが載っている。

レオヴァがそれを持ち上げると、途端に香ばしい匂いが広がった。

皿に並んでいたのは、ゾウ肉を使った料理だった。

 

「やっぱりスタミナをつけないとな

…肉料理が良いと思って作ってもらったのを持って来たんだが、食べられるか?」

「食えます!!」

返事は即答だった。

久しぶりのゾウ肉。

しかもレオヴァがわざわざ用意してくれたものだ。

断るなどあり得ないだろう。

 

「ん、じゃあ一緒に食べるか。」

レオヴァが椅子を引き寄せ、ジャックの近くへ腰を下ろした。

食事が始まると、ジャックは待ってましたとばかりに肉へかぶりついた。

噛む度に肉汁が溢れる。

病人用の食事ばかり続いていたせいもあり、余計に美味く感じた。

 

ジャックが夢中で食べ進める一方、レオヴァはいつも通り落ち着いた様子で食事をしている。

こちらがガツガツ食べても、行儀が悪いと咎めることもない。

時折ジャックの食べっぷりを見ているくらいだった。

やがて皿の上の料理は綺麗になくなった。

 

腹も満たされ。

身体にも力が戻った気がする。

満足したジャックは、少し迷った末に口を開いた。

傷が治った今。

いつまでもここで寝ているつもりはなかった。

 

「……もう少し休んでても大丈夫だぞ?」

仕事へ戻りたいと伝えると、レオヴァはそう答えた。

まだ無理をさせるつもりはないらしい。

だがジャックは首を横へ振った。

 

「十分休ませてもらったんで、問題ねぇです。

それよりもいっぱい戦闘にでて早く弱ェ自分をどうにかしてぇんだ…!

……駄目か? レオヴァさん……」

三日前の敗北は、今も悔しかった。

自分が弱かったから負けた。

もっと強ければ、あそこまで追い詰められることもなかった。

守るべきレオヴァに助けてもらう、なんてこともなかった。

 

何よりこのままでは、いつまで経っても役に立てない。

ジャックは真っ直ぐレオヴァを見た。

 

少しの間、レオヴァは黙って考えていた。

本当に傷が治っているか、再び戦場へ出して問題がないか。

そんなことを確かめているようにも見えた。

 

「………わかった

ちょうど残滅任務を父さんから任されてるからジャックも付いて来い。」

「レオヴァさん…!」

思わず声が大きくなる。

断られることも覚悟していた。

それだけに、嬉しかった。

 

今度こそ。

今度こそ失敗しない。

 

「次は絶対に足手まといにはならねぇ!

 役に立ってみせるから見ててくれ!!」

力を込めて宣言するジャックに、レオヴァは少し困ったような、それでも悪くは思っていないような顔をした。

 

「ジャックの歳でそれだけやれれば十分なんだが……

…まぁ向上心は大切だからな。

 期待してるぞジャック! 」

期待している。

その一言が、何より嬉しかった。

今回の海戦では大した功績も残せず、むしろレオヴァに助けられた。

それでも、まだ自分に期待してくれている。

 

だったら、次こそ応えたい。

カイドウの役に立つ。

レオヴァの役に立つ。

キングやクイーンにも、これ以上余計な手間を掛けさせない。

強くなる。

もっと。

今よりずっと。

ジャックはベッドから立ち上がると、気合いを入れ直した。

そして今度こそ自分の力を証明するため、レオヴァと共に病室を後にした。

 

 





ちなみにジャックはだいたい7歳です
……7歳とは? と混乱する今日この頃。


前回も誤字報告ありがとうございます!!
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