俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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誰に何と言われようとも

 

 

 

ビッグ・マムのナワバリ、万国にて。

 

豪華な客間のソファーに腰掛け客人を迎えるレオヴァの様子をドレークは紅茶の準備をしながら横目で伺っていた。

 

 

「…って、感じなんだけど!あり得なくない!?

もうすぐ結婚式なのに…食事の時にしか会ってないの。

なんかもっとこう…デートに誘うとか…!」

 

頬っぺたをこれでもかと膨らませながら愚痴を溢すシャーロット家の36女、プリンにレオヴァは話を合わせる様に頷いた。

 

 

「確かにそれは酷い話だなァ。」

 

「そうよね!?レオヴァなら分かってくれると思ってた!

ウチでは自由に結婚なんて無理だけど……やっぱり少しはお互いのことを知って~、とか思うでしょ?」

 

「生涯の伴侶になるんだからな、プリンの意見は尤もだ。」

 

「そうなの!

なのにデートの誘いの1つもないなんて……信じられないっ!」

 

ぺしぺしと可愛らしく大きな机を叩くプリンに苦笑いしつつ、レオヴァがドレークに目線を向ける。

 

すると、ドレークはすかさず丁寧な動きで紅茶を2人に差し出した。

 

 

「……ありがとう。」

 

「いや、気にするな。」

 

膨れながらもドレークに礼を述べるとプリンはアイスティーを飲み、レオヴァが土産に持ってきていたクッキーに手を伸ばした。

 

 

「…サンジがデートに誘ってこない事が不満なのは分かったが、性格や見た目はどうだ?

おれとしてはサンジは良い男だと思うんだが。」

 

突然の問いにクッキーを食べていたプリンの顔がだんだんと赤く染まる。

 

その反応にレオヴァが予想通りの反応だと小さく笑うと、プリンはもじもじしながら顔を隠すように両手でコップを握った。

 

 

「……べ、べ、別にカッコいいとかは思ってないけど。

私の三つ目見ても変な顔しないし…

変でしょ、って聞いても…き、綺麗な瞳だって言ってくれて……」

 

「…ほう?

ちゃんと目を隠さずに食事会に行ったんだな。」

 

「うん、いつもママは隠せって言うけど…

これもチャームポイントってレオヴァが言ってくれたから。

だから、私もそう思うようにしようと思って!

それに結婚する相手に隠しても、いつかはバレると思うし。」

 

「その通りだ。

何より隠すような事でもない。

おれはプリンのその三つ目、良いと思うぞ。」

 

「ふふ、ありがとう!レオヴァ。」

 

花のように可憐な笑みを浮かべ、プリンはまた机の上にあるお菓子に手を伸ばす。

 

すっかり機嫌が良くなったプリンにレオヴァは笑顔を返しながら、もうすぐ行われる結婚式に向けて思考を巡らすのであった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

時は遡り、サンジが万国に連行されていた頃。

 

打倒百獣同盟ではサンジ奪還メンバーが決定し、出港していた。

 

今回の奪還は素早い行動と隠密が求められる作戦である。

何としてもビッグ・マムとの全面戦争は避けなければならないのだ。

 

 

「よし~!行くぞ!トッタンランド(・・・・・・・)~~!!」

 

「トットランドだ!何度言えば分かるんだ!?」

 

気合いを入れるルフィに思わず突っ込みを入れるシキだが、当の本人は気にした様子はない。

 

振り回される感覚に僅かに懐かしさを覚えながら、シキは浮かせている船を万国に向けて進めた。

 

 

実はルフィが倒したと言うボン・クレーの姿はなかったが、倒れていたであろう場所に万国に行く為のエターナルポースが落ちていたのだ。

 

結果、ルフィ達は迷うことなくビッグ・マムへのナワバリへ向けて空を進む事が出来ていた。

 

 

出発前にキッドとルフィが揉めた事で大幅に出遅れてしまったが、シキの能力のお陰で結婚式に間に合う程の速さで航路を進んでいる。

 

しかし、それを知らぬナミやブルックの顔には焦りが浮かぶ。

 

何故、サンジは相談する事もせず行ってしまったのか。

もしビッグ・マムと戦闘になってしまったら…

心配事は尽きることなく、溢れそうになる。

 

 

「…早くサンジさんのご飯、食べたいですね。」

 

「……うん。」 

 

ブルックの言葉にナミは頷くと、無理やり笑顔を浮かべた。

 

 

「会ったらまずは、勝手に相談しないで行くなって怒らなきゃね!」

 

ぐっと拳を握りゲンコツポーズを取るナミにブルックも髑髏の顔に笑みを作る。

 

 

不安はあるが、会わなければ始まらないと2人は気持ちを切り替えた。

 

大切な仲間を、何があっても助ける。

それは強い想いだった。

 

優しい彼の事だ。

きっと理由があって出ていくしかなかったに違いない。

 

今、苦しんでいるかもしれない。

酷い目にあっているかもしれない。

 

そう思うとナミもブルックも胸が張り裂けそうであったが、同時に絶対に助けると強い意思が漲る。

 

 

彼らは行く、大切な仲間を取り戻す為に。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

時は戻り、現在。

 

結婚式を間近に控え慌ただしい城内の気配を背にレオヴァはじっと電伝虫を見つめていた。

 

ここ暫く人が近くに居ない時は、こうして難しい顔のまま電伝虫を睨んでいるのだが。

その事を唯一知っているドレークは心配そうにレオヴァの背を盗み見ていた。

 

ドレークが本を読んだり手記を書いたりと休んでいる間、レオヴァはずっと電伝虫を気にしているのだ。

 

理由は分かっている。

それは少し前にあったジャックの件だろう。

 

不安なのはドレークも同じだ。

長く苦楽を共にした同志、心配じゃない筈がない。

けれど、ジャックならばと言う信頼があるからこそ慌てずにいられる。

 

しかし、レオヴァはほほ寝ずにずっと連絡を待っているように見えた。

 

なんと声をかけるべきかとドレークが悩んでいると、ずっと沈黙を貫いていた電伝虫が音を立てる。

 

ワンコールで受話器を取ると電伝虫から聞きなれた声がドレークの下まで聞こえて来た。

 

 

「……レオヴァさん。」

 

「っ…ジャック!無事なんだな!?」

 

滅多に出さないような切羽詰まったような声で名前を呼ぶと、電伝虫から申し訳なさそうな返事が返ってくる。

 

 

「…すみません、おれァ……

赤鞘とクイーンの兄御が気に入ってる女に逃げられた挙げ句…」

 

会わせる顔がないと悔しげな声を出すジャックの言葉をレオヴァは遮るように口を開いた。

 

 

「構わねェ、ジャック。

いいんだ、お前が無事ならそれで…!」

 

本当に良かったと安堵の声を漏らすと電伝虫が受話器の向こうにいるジャックの表情を真似る。

 

すまなそうな、でも心配して貰えていた事に嬉しそうな複雑な顔になっている電伝虫を見てレオヴァはやっと心からの笑みを溢した。

 

 

「ジャックなら海に落ちても大丈夫だと頭では理解出来ていたんだが……それでも、やっと声を聞けて安心した。」

 

「……申し訳ねェ…」

 

「いい、気にするな。

怪我の具合は?何か体調に異変はねェな?」

 

「はい、問題ねェです。

吹っ飛ばされちまったが、でけぇ怪我を負うほど強い一撃は食らってねェんで。」

 

「そうか、なら良かった。

今のゾウとの距離関係は分かるか?」

 

いつも通りの調子に戻ったレオヴァの声にジャックも気を持ち直し返事を返す。

 

 

「正確な距離は分からねェですが、ビブルカードはあるんでいつでも向かえます。」

 

しっかりと返答するジャックに次の動きの指示を出すレオヴァを横目で捉え、安心したようにほっと胸を撫で下ろすとドレークは懐に仕舞っていた紙を取り出す。

 

ドレスローザでの騒動でローが手に入れた物を映像電伝虫を通して書き写しておいたのだ。

 

今回のドレークの任務において、これは必要不可欠な物である。

 

内容をしっかり頭に叩き込み、もうすぐ行われる結婚式に備えなければならない。

 

 

『麦わらは必ずサンジを取り戻しに来る。

そうなれば結婚式は大混乱に陥る筈だ……おれ達はその隙を突こう。』

 

そう言っていたレオヴァの言葉を思い出す度、ドレークは少し違和感を覚えていた。

 

確かにレオヴァは先を見据えて作戦を立てるが今まで身内以外の動きに、ここまで左右される作戦があっただろうか。

 

何故かレオヴァは麦わらは必ず仲間の為に動くと確信している。

 

今回の作戦もそうだ。

 

もし、麦わらが四皇を二人同時に相手には出来ないと損切りをして、サンジを捨てて乗り込んで来なければ作戦は成立しない。

 

そうなればアドリブで事を進めなくてはならい。

 

レオヴァがそんな綱渡りな作戦を立てるなど、滅多にない事である。

 

 

何故そこまで、あの麦わらという青年をレオヴァは信じているのだろうか。

 

確か、マリンフォードでの戦いの後。

暫く白ひげ海賊団達共々、面倒を見ていた時期があった事はドレークの記憶にもある。

 

しかし、その少ない日数の中でレオヴァが麦わらと共にいた時間は短かった筈だ。

 

間違いなくエースやマルコの相手をする事が多かったとドレークは記憶していた。

 

 

様々な噂話はあるが実状が良く分からない青年、麦わらのルフィ。

ドレークの中で彼への警戒度が上がって行く。

 

黒ひげのように、レオヴァが警戒するのならば恐らく奴も侮れぬ相手なのだ。

 

今回の作戦も、奴ら一味が来るとなればイレギュラーが起こる可能性があるとレオヴァは言っていた。

 

失敗は出来ない。

カイドウを海賊王にする為に、必ずやり遂げなければならないのだ。

 

 

 

ガチャり、と受話器を置く音が響く。

 

 

「……もうすぐだな、ドリィ。

地図と作戦は頭に入ってるか?」

 

こちらを振り返ったレオヴァに、ドレークは力強く返した。

 

 

「あぁ、レオヴァさん……抜かりなく。」

 

2人は部屋に近付いて来る人の気配に、普段通りを装う。

 

海賊に、裏切りは付きものであろう。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ビッグ・マムのナワバリである万国に到着してから数日。

 

サンジは姉弟達と共に過ごしていた。

 

食事も掃除も全て使用人がやってしまう為、何もやる事がない日々だった。

 

いつもならば大切な仲間達の喜ぶ笑顔と『美味しい』という言葉の為に手間暇惜しむことなく料理をしている筈の時間も、ただ虚しいだけ。

 

 

最初はゼフとバラティエが人質として握られているから逃げられなかったが、ここ数日で逃げられない理由が増えてしまった。

 

サンジは姉を、兄弟達を見捨てられなかったのだ。

 

もし、自分が逃げたら……ルフィ達のもとへ。帰りたい場所へ行ってしまえば彼らはどうなる?

 

そう考えると、行動に移せずにいた。

 

過去、兄弟達には散々な目に合わされた筈だ。

あれだけの事をされたのだ、恨んだって誰もサンジを責めはしないだろう。

 

けれど彼は恨みに囚われ、元家族を嘲笑う真似をしなかった。

 

出来なかったのだ。

そんな事をしては(ゼフ)に顔向けが出来ないと言う思いや、元来の優しすぎる性格のせいで。

 

 

今日もぼんやりとサンジは窓の外を眺める。

どうしようもない現実に縛られるのは久々だと、深い溜め息を吐きながら。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

シャーロット・プリンの人生は嘘で塗り固めて作り上げたものだった。

 

優しくて、少し天然で、笑顔を絶やさない…非の打ち所のない“良い子”。

 

それが彼女の演じる“シャーロット・プリン”だった。

 

母親であるリンリンに言われるがまま男を騙し、都合の良い娘であり続けた。

 

 

『我が子ながら気持ち悪いね。

前髪をのばしな、プリン。』

 

そう言った母親に必死に笑顔を作り、頷いて。

言われるがままに前髪を伸ばす。

 

3つ目の気持ち悪い、私は化け物。

 

 

『怪物よ!!気持ち悪い!!』

 

『見ろ!こいつ3つ目なんだ!!』

 

今まで言われ続けた言葉。

 

化け物、気持ち悪い……もう聞き飽きた。

 

うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!!

 

どうせ、誰も私を愛さない。

誰も私を好きになりはしない。私は醜い化け物なんだ。

 

……でも、それで構わない。

別に寂しくも、虚しくもない。

 

私は“シャーロット・プリン”

四皇であるママの娘、化け物なのは当然。

 

バカな奴らに見下されず、贅沢に生きていければいい。

 

 

そう思い、プリンは人生を歩んで来た。

ある男に出会うまで。

 

 

その日もいつものようにプリンはビッグ・マムから命令を受けたのだ。

 

 

『プリン、お前今度のペロスペローの遠征付いて行きな。』

 

『ペロスペロー兄さんの遠征?』

 

遠征にめったに駆り出されないプリンが首を傾げると、ビッグ・マムは悪どい笑みを浮かべる。

 

 

『遠征って言っても、内容はほぼ百獣との取引さ。

そこで取引にくる百獣の息子に気に入られるんだ、お前なら出来るよねぇ?』

 

ビッグ・マムの言葉で全てを察したプリンは笑顔で頷いた。

 

またどこぞのボンボンに気に入られるだけの簡単な仕事だ。

 

百獣と言えばお菓子だけでなく、砂糖などの材料の取引もしている相手だ。

 

きっと取り入ってもっと安く、多くをウチに卸させる為に私を使おうと言うのだろう。

と、リンリンの意図を察したプリンは言われた通りにペロスペローの遠征に参加した。

 

 

そして百獣のカイドウの息子、レオヴァと出会った。

 

 

『レオヴァ、おれの隣にいるのが自慢の妹…プリンだ!』

 

兄に紹介されると同時にプリンは一歩後ろでか弱げに微笑んでみせる。

 

 

『は、はじめまして!レオヴァさん。

私はプリンって言います、よろしくお願いします!』

 

無垢に、無害に、愛らしく。

見る者が見れば一目で恋に落ちてしまいそうな程、可愛らしく挨拶をしたプリンにレオヴァと呼ばれた男は人好きのする笑み浮かべる。

 

 

『プリン、か…おれはレオヴァ。

こちらこそ、よろしく頼む。』

 

『はい!

貿易について色々教えて貰えたら嬉しいですっ!』

 

『勿論、おれで良ければ。』

 

ニコリと笑うレオヴァに手応えを感じながら、プリンは1度目の出会いを終えた。

 

 

その後も2回、3回と兄達の遠征に付いていく形でレオヴァと親睦を深めていっていたが、問題は5回目の時に起きた。

 

メリエンダの時間が近くなったにも関わらず、カタクリとレオヴァが見当たらなかったのでプリンは島の奥へと探しに行ったのだ。

 

そして、そこで激しい戦闘を繰り広げる2人を目撃してしまう。

 

この時プリンは二人が“組手”という形式で手合わせをしている事を知らなかった。

その結果、二人が揉めているのだと勘違いして、止めようと声をかける為に少し前に出たのが失敗であった。

 

二人の戦闘の激しさで砕けた木々の破片がプリン目掛けて飛んで来たのだ。

 

 

『痛っ……ぅ!』

 

小さなその声にカタクリが我に返ったように振り向き、プリンの存在を確認して慌てたように駆け寄ってくる。

 

 

『プリン!?何故、ここにいる!』

 

『カタクリ兄さん!なんでレオヴァさんと戦闘になってるの!?』

 

『…い…いや、これは組手という…』

 

一瞬気まずそうに目を伏せたカタクリだったが、プリンの前髪付近から僅かに血が流れているのを見つけて、カッと目を見開いた。

 

 

『プリン、まさか怪我をしたのか!?』

 

慌てて膝を突き顔を寄せてくるカタクリにプリンは大丈夫だと笑ってみせるが、兄は真っ青な顔のまま珍しく焦りを表に出している。

 

 

『すぐに手当てをしねェと!

失明でもしたらどうする!?』

 

『大げさよ、カタクリ兄さん。』

 

『大げさな事はねェ!!

……悪かった、おれが周りへの注意を欠いたばかりにお前に怪我を…』

 

見たことがないほど、しゅんっ…としてしまった兄にこの人は優しいな、と思っていると。

すっかり存在を忘れてしまっていた相手、レオヴァがカタクリの背後からひょこりと顔を出した。

 

 

『大丈夫か?

応急処置でよけりゃ、おれが一式持ってきてるが…』

 

心配そうな顔で覗き込んでいるレオヴァをカタクリが振り返る。

 

 

『そうか…!

レオヴァは応急箱ってのを持って来てたか!

プリン、すぐに手当てして貰え。』

 

『あぁ、任せてくれ。』

 

『えっ……で、でも…』

 

待っていろとだけ言って少し離れた場所にある餅で出来た四角い部屋に歩いて行ったレオヴァをプリンは困惑の表情のまま見送った。

 

今、怪我しているのは額にある目のすぐ側だ。

そこを手当てするとなれば、見られてしまう……“普通の人”にはある筈のない眼を。

 

勝手に進んでしまった話をどう違和感なく断ろうかとプリンが焦っていると、箱を手にレオヴァが戻ってきてしまった。

 

 

『あ、えっと…手当ては帰ってからで…』

 

『大丈夫だ、プリン。

おれはこう見えても船医でもあるんだ、安心してくれ。』

 

安心させるように微笑んでくるレオヴァにプリンは苦い顔になる。

 

助けを求めるようにカタクリに目を向けると、兄も安心させるようにプリンの肩にポンッと優しく手を置く。

 

 

『おれも何度も手当てを受けているが、レオヴァの船医としての腕は間違いねェ。

何も心配することはない。』

 

『(カタクリ兄さん、そうじゃなくて!!)』

 

大丈夫だぞ、と安心させようと不器用ながらに頑張る兄に内心で叫んでいるとレオヴァの手が伸びてくる。

 

 

『(あっ……終わった…)』

 

これでレオヴァに嫌われたらママにどう言い訳しよう。

短い間だったけれど、レオヴァは博識で話すの少しだけ楽しかったな…とプリンは諦めたように目を伏せる。

 

すると、レオヴァが息を飲む気配を感じてプリンはぐっと拳を握った。

 

またいつものように『気持ち悪い』『化け物』『騙してたのか』と言葉を投げ付けられるのだ。

 

そう腹を括ると、額に消毒液がたっぷりかけたられたガーゼが当てられる。

 

 

『すまない、あと少しで目に怪我をさせる所だった…!

傷口を綺麗にする為に消毒してるが、染みないか?』

 

『……え…う、うん。染みないけど…』

 

『そうか…良かった。

何かあれば言ってくれ。

掠り傷だな……縫わなくても良さそうだから、ガーゼで抑えておく。

一応、船についたらそっちの船医にみせるようにな。』

 

変わらぬ笑みを向けてくるレオヴァに思考が追い付けずにいると、カタクリも覗き込んで来る。

 

 

『本当に大丈夫か、プリン?』

 

『……うん、だいじょうぶ…』

 

心ここに在らずの返事にカタクリは心配そうに眉を下げる。

 

 

『レオヴァ、本当に大丈夫なのか?』

 

『あぁ、本当に少しかすっただけみたいだ。』

 

『……だが、プリンの様子が…』

 

『それはおれにも分からねェ…

毒がある木はここら辺には生えてない……もしかしたら額からの出血で一時的に放心状態なのかもな。』

 

『プリンはそんなに弱くなかった筈だが……そうか。

戻ったら休ませる。』

 

『それがいい。

これも気付けなかったおれの落ち度だ、滞在日はプリンが回復するまで伸ばしてくれて構わない。

食事や物資もおれが責任持って手配しよう。』

 

『いや、それを言うならおれの落ち度でもある。

物資まで支援してもらう訳にはいかねェ…が、レオヴァの言葉に甘えてプリンが回復するまで滞在はさせてもらう事にする。』

 

テンポ良く会話を進めるカタクリとレオヴァの声をBGMに、プリンは手早く丁寧に手当てされた額に軽く触れると、新品のガーゼが少し目を覆うように付いている。

 

そんなプリンの様子にレオヴァがまた此方を向く。

 

 

『少し目にかかってしまったが、貼り直すか?』

 

『ううん、これで…いい。』

 

『そうか…大切な目に傷がついていなくて良かった。』

 

安心したように呟かれた声にプリンは顔を上げてレオヴァを見る。

 

 

『…コレを見ても驚かないんだ?

それって変わってる、変だよ…レオヴァは。』

 

プリンのわざとトゲを付け足したような言葉にレオヴァではなく、カタクリがハッとしたような顔になる。

 

ようやく傷が大した事がないと判明して冷静さを取り戻し、事の重大さに気が付いたといったような顔であった。

 

妹が怪我をして焦っていた事と、普段から組手後に手当てしてくれるレオヴァの治療の腕を買っていた事でプリンの“隠し事”がすっかり頭から抜けていたのだろう。

 

慌てるカタクリの心情とは裏腹にレオヴァはきょとんと目を丸くして、首を傾げた。

 

 

『何故、驚く必要があるんだ?』

 

質問で返されてプリンも目を丸くする。

 

何故驚く必要があるのか、なんて分かりきってるではないか。

“普通”ない筈の場所に目があったら驚くし、気味悪がるものなのだ。人間は。

 

そんな思いを込めてプリンはムッとした顔で言葉を返す。

 

 

『みんな、こんな場所に目なんかないじゃない!

気持ち悪いって…化け物だって思うのが“普通”でしょ!』

 

猫を被る事を止めて八つ当たりのように叫ぶが、レオヴァは相変わらず毒気のない表情のままだ。

 

 

『ただ目が3つあるだけだろう?

もし気持ち悪いだの化け物だのと言う奴がいるとしたら、それはそいつらが無知なだけだ。愚か者は自分と違う者を卑下して安心したがるからなァ…

プリン、お前の目はおれの角と同じ“個性”だ。

そんな苦しそうな顔をするくらいなら、お前を侮辱するような奴らはぶっ飛ばしちまえばいい。』

 

『えっ……ぶっ飛ば、す…?』

 

プリンの知っている優しくお上品なレオヴァとは思えぬ言葉に唖然としていると、彼はニッと笑った。

 

 

『自分でぶっ飛ばすのが難しけりゃ、カタクリやペロスペローがいるだろ?

兄妹の為なら誰が相手だって、やってくれるさ。』

 

『……おい、レオヴァ。』

 

『なんだ、違うのか。カタクリ?』

 

レオヴァが悪戯に笑うとカタクリは呆れたような顔をしながらも小さく笑い、プリンへ手を差しのべた。

 

 

『プリン、レオヴァの言う通りお前の目は“個性”だ。

……何かあれば、おれに言え。』

 

『カタクリ兄さんっ…』

 

うるうると潤む3つの瞳で見上げるとプリンはしゃがんでいるカタクリの手を取り立ち上がる。

 

そして、同じく横で膝を突いているレオヴァを振り返った。

 

 

『……ありがとう。

でも、この目の事を誰かに話したらぶっ飛ばす(・・・・・)から!』

 

『ふふふ、そりゃ怖ェなァ。言わないと約束しよう。』

 

冗談を交えながらも約束してくれたレオヴァにプリンは子どもっぽい笑みを向ける。

 

すると、レオヴァは面白そうにまた少し笑った。

 

 

『プリン、猫被ってるより今の方が良いな。

三つ目も綺麗だ、隠す必要はねェ。』

 

『っ~!?べ、別に言われるまでもないわよ!

それに猫被りはレオヴァもでしょ!?』

 

『おれのは猫被りじゃねェ。

大人になったら仕事用の顔が必要になるんだ。』

 

『ちょっと、子ども扱いとかありえないんだけど!?』

 

すっかり素で話しているプリンと、それをからかいながらも上手く対応するレオヴァ。

 

賑やかになった場をカタクリは少し後ろから眺め、マフラーの下で小さく笑みを溢した。

 

 

 

 

あの日から、シャーロット・プリンの人生は少しの嘘と大好きな兄妹達に囲まれた人生になった。

 

今さら正直に生きるのは難しいが“大人になったら仕事用の顔”も必要になるのだ。ちょっとの嘘はご愛嬌。

 

まだ少し素直にはなるのは難しいけれど、3つの目だって素敵な個性。

 

『化け物』とか『気持ち悪い』とか言う奴は言えばいい。

そんな奴らは、みんなぶっ飛ばしてバイバイするだけ。

 

私は私を愛してくれる兄妹と人を大切にして生きていくんだ。

 

ママは私の三つ目族の能力ばかり気にしてくるけど、それも別にいい。

 

誰も愛してくれないなんて、悲観していたけれど。

世界は広いのだと、レオヴァも言っていた。

兄や姉は私を愛してくれていた。

 

私は“シャーロット・プリン”。

四皇であるママの娘…でも、化け物なんかじゃない。

 

──────────── 私は私だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー後書き&補足ー
今回も読んでくださりありがとうございます!
更新遅くなって申し訳ない!月1~2回は本編or番外編更新出来るように頑張ります!

・サンジ奪還組
シキ+船を動かす為の船員数十名(奇襲と素早い撤収の為シキとその部下達)
ルフィ、ナミ、ブルック(絶対に行きたいと言うルフィと暴走を止める為のナミ&ブルック)
キッド、ヒート(レオヴァがいるならおれが!と聞かなかったキッドのお目付け役のヒート)

・待機組
キッド&キラーが持っていた情報を元に奇襲をしかける為の準備や物資集めを担当。
本来であればキッドは行かせたくなかったのだが、宣戦布告だけという約束で行かせた(誰も止められなかった為)
キラーがストッパーとして同行するのが安全策ではあったが、そうなると準備が進まないので今回は待機組に。
とある海賊と合流する予定。


・プリンちゃん
本作品では原作よりも早めに三つ目について吹っ切れた。ツンデレ属性強め。
今後、書くかは検討中だがサンジとのやりとりも比較的平和。
レオヴァのお墨付きという事を差し引いても、サンジの優しさに惹かれている節がある。
ローラ姉さんとブリュレ姉さん、カタクリ兄さんが特に好き。

・サンジ
食事会の時にプリンと度々会っているが、その時は気を使って明るく振る舞っている(いつものレディー対応に近い)
需要があれば二人のファーストコンタクトなども書くかもしれないが、プリンへの印象は悪くない。
だが、結婚は……今後の流れによるとしか言いようがない。

・ルフィ
サンジ、今迎えに行くぞ~~!!!

・キッド
レオヴァの野郎、こっちが喧嘩売ってるってのに呑気に結婚式だと!?
敵じゃねェって言いてェのか!?ふざけやがって、一発ぶん殴って宣戦布告だァ!!!

・キラー
頼む…頼むから無茶苦茶するのは止してくれキッド!
宣戦布告だけだぞ!?本番はこれからなんだからな!?

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