ビッグ・マムのナワバリで行われる結婚式、そこで予想だにしない出来事が巻き起こっていた。
暴れまわる侵入者と逃げ出す来賓。
迎え撃つシャーロット家の猛者達と百獣海賊団からの客人2名。
まだ騒動が起きてから数分しか経っていないと言うのに、広場はもはや収集がつかぬ荒れ具合である。
ビッグ・マムに襲い掛かる金獅子のシキと麦わら。
大量に現れた賊を捻り潰すシャーロット家の息子と娘達。
そんな大荒れの結婚式場でのらりくらりと進む一人の人影があった。
その人影が目当ての者に近付きハンマーを握った時、離れた場所に居たカタクリの顔が青ざめる。
「っ……不味い!」
普段焦ったような声を出さないシャーロット家の最高傑作の声に長男が反応し、その目線の先を追って同じように顔を青くした。
「まさかッ!?止せ!!それはママの…!」
ひょろりとした人影はペロスペローのほぼ悲鳴と化した制止を無視し、天へ掲げたハンマーを写真立て目掛け振り下ろす。
騒がしい筈のこの場所にドカッ!と鈍い音が響いた。
「ブルック!?」
続いてその場にルフィの心配そうな声が響き、ビッグ・マムは写真立てを手にしている青年を見て僅かに目を丸くした。
「お前…」
「すまない、余計な真似だったかもしれないが…
カタクリのあんなにも焦った顔は初めて見たから咄嗟にな。」
ブルックを蹴り飛ばした
眩しいほどに黄金の光を纏う翼に少し目を細めながらもビッグ・マムは写真立てをすぐに自分の手の中へ引き寄せると、愛おしげにそれを優しく大きな掌で包み込む。
そして、ギロリと恐ろしい瞳でルフィ達を見下ろす。
「お前だなぁ…シキ!!
おれのマザーを狙ったんだ!死ぬ覚悟は出来てるんだろうねェ!?」
耳をつんざくほど大きなビッグ・マムの怒りに染まった叫びが結婚式場に響き渡る。
隣に立っていたペロスペローも憎々しげに二人を睨み付けていた。
先ほどよりも濃度の増した殺気にシキは笑顔を張り付けたままだが、背には一筋冷や汗が流れる。
ビッグ・マムを戦闘不能にする作戦は失敗だ。
あわよくば首を取って四皇の座を奪うつもりであったシキだが、ここで動揺はしない。
成功すれば一番確実な方法ではあったが、この女が一筋縄では行かぬ事は遠い昔から
それに全てが計画通りに行くわけではないと、麦わらとの戦いでも学んでいた。
襲いかかってくるビッグ・マムの攻撃を避けてふわりと浮き上がるとシキは深呼吸をする。
「うおぉ~~!!ビッグ・マムゥ~~!!」
何度もはね除けられたと言うのに、無謀にも正面から突撃して行く麦わら帽子の男を見て無意識にシキの顔から笑みが溢れる。
「ジハハハハ…!
目的は遂行したんだ。このままズラかるつもりだったが、もう少し暴れてからでも良いか!!」
自分らしくない行動だと思いながらも、久々に感じる高揚感のままシキは能力を発動する。
結婚式場が無惨な形になっていく中、睨み上げてくるビッグ・マムに不敵にシキは笑って見せた。
「何十年も隠居してたお前がおれに勝てると思ってるのかい!?」
「老いたなァ、リンリン!
昔のお前ならもっとおれも気を張ってたぜ!?」
「マンママンマ~~!!
今さら出てきて昔話なんて、それこそ老いたのはお前さ。
…昔のよしみだろうが加減はしないよ!!」
元ロックス海賊団の二人が激しくぶつかり合う。
その余波で吹き飛ばされて行くルフィだったが、シキの落とした瓦礫にぶつかる直前に新郎服の姿のサンジにキャッチされ難を逃れた。
「ありがとう、サンジ!」
「無茶しすぎだ、ルフィ!」
数時間前の二人の間にあった亀裂を感じさせないほど、今の二人からは強い絆を感じる。
しかし、そんな二人を引き剥がすようにペロスペローとイチジが立ちはだかる。
「麦わらァ!よくもおれの可愛い妹の結婚を台無しにしたな!?
挙げ句にママの宝物にまで手を出そうとしやがって!」
妹の結婚式を無茶苦茶にされた挙げ句、母が昔から大切にしている物を狙われたのだ。
次から次へと怒りに油を注がれたペロスペローに普段の笑みはなく、麦わらを睨む瞳には煮えたぎるような怒りが感じられる。
一方、その隣に立つイチジはサングラスで表情は窺えないがそっと手をサンジの方へ伸ばすと口を開いた。
「…戻れ、サンジ。
麦わらと行っても未来などない。
あるのは破滅の道だけだ、後悔する事になるぞ。」
イチジの言葉にサンジは腹を括ったような顔で返す。
「いや、おれはルフィと…仲間達と行きたいって気持ちに従う。
もし残る事を選んだらきっと一生
それに…ここで“夢”を諦めたらジジイに合わせる顔もねェ。」
つき物が落ちたかのようにスッキリした表情で言いきったサンジの言葉にイチジは僅かに眉間に皺を寄せる。
「レイジュの気持ちも無下にするのか。」
「!?」
イチジから出るとは思わなかった意外な言葉にサンジが目を見開いていると、ペロスペローがルフィに攻撃を仕掛ける。
一瞬固まっていたサンジだったが、すぐにルフィに加勢すべくイチジから目を反らした。
残念そうに聞こえるイチジの溜め息を聞こえぬ振りをして。
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混沌を極める結婚式場から来賓達を庇い、逃がしきったドレークはビッグ・マム海賊団の部下と己の部下に指示を出すと戦場に戻ると告げてその場を離れた。
そして、レオヴァとの計画にあったポーネグリフの写しを手に入れる為に動いた。
ローが手に入れていた例の地図。
それのお陰で迷うことなく宝物庫へ辿り着くと、すっかり守りの薄くなったそこをあっさり突破し、手にしていた機械を赤い石にかざして行く。
全ての面のスキャンを終えたドレークは更に写真を数枚撮り懐に仕舞った。
この結婚式での
忙しい時期にわざわざレオヴァとドレークが出向いたのは“これ”を手に入れる為だったのだ。
そうでもなければ武器も何も持てない結婚式にリスクを背負い、時間を割いてまで来る理由はない。
ドレークはレオヴァから任された大役を見事こなして見せたのだ。
『ポーネグリフが手に入ればすぐにでも世界を変えられる、父さんにはその“力”がある。
多少のリスクを負ってでもおれはこの結婚式にでるぞ、ドリィ。
これ以上の好機はねェ…!』
結婚式の招待状を手に笑ってみせるレオヴァの言葉を思い出す。
あの時のレオヴァの熱の入り方は普段とは比べ物にならぬものだった。
そして、その作戦に自分が選ばれた事にドレークは凄まじいプレッシャーと同時に嬉しさを感じていた。
失敗は出来ない。
レオヴァさんが他の誰でもない、おれを信じて任せてくれたのだから。
懐にある写しを早く渡さなければと、ドレークは進む速度を上げる。
監視電伝虫を掻い潜り、まばらにしかいない警備を出し抜いて結婚式場へと急ぐ。
近付くにつれて轟音がここまで響いてくる。
激しい戦闘が繰り広げられているのは見なくとも肌で感じられる。
武器を持たないレオヴァは大丈夫だろうか?
彼の実力を信じているドレークだが、万が一と言う事もある。
もはや結婚式場の面影を残していない広場へと駆け上がると、右手奥にビッグ・マムが見えた。
しかし、レオヴァの姿がない。
予想していなかった事に混乱したドレークだったが、すぐに平常心に戻ると見聞色で気配を探る。
ざわざわと大量に気配があるせいで分かり難かったが、彼が親しんだ気配を間違うことはない。
広場の更に奥にいる。
そう確信すると、敵味方の入り交じる広場に足を踏み入れた。
その瞬間、地面から唸るような音が一帯に響く。
踏ん張らなければ尻もちを付いてしまいそうな揺れの中、ビッグ・マムの正面の地面が空へと浮き上がっていた。
「シキィ!!
お前、この期に及んで逃げるつもりかい!?」
怒り狂ったようにヒステリックな声を上げるビッグ・マムの頭上で獅子のような男が愉快そうに笑う。
「ジハハハハハハ!!
時間切れだぜ、リンリン!」
ビッグ・マムが振り下ろした巨大な剣をふわりと躱し小脇に麦わら帽子の男を抱えてシキは更に上空へと浮かんで行く。
それに続くように数秒前まで地面だった巨大な瓦礫達も重力を無視して好き勝手に宙を漂っていた。
ビッグ・マム以外、その場にいる全員がシキの規格外さに目を見開く。
その刹那、シキに向かって何かが飛んで来た。
間一髪、なんとかそれとの衝突を避けたシキだったが飛んできたものを見て驚いた顔になる。
小脇に抱えられているルフィもシキ同様驚きに目を見開いたが、落ちて行きそうになる
「ゴホッ……クソッ…!」
悪態を吐きながらルフィに掴みあげられた男はなんとか浮かんでいる瓦礫の上に着地して、自分が飛んできた方を睨む。
ぼたぼたとキッドから流れる血を見て、満身創痍のルフィは力を振り絞り声を上げる。
「ギザ男、お前…腕どうしたんだよ!?」
作戦が始まって別れる直前までそこにあった筈の左腕がない。
まるで千切られたかの様にグロテスクな断面にキッドは羽織っているものを破き、巻き付ける。
そして、その上から鉄屑を張り付けるように能力を駆使し止血すると荒い息遣いのまま唸った。
「ハァ、うるせぇぞ、麦わらァ…」
いつもの様な覇気がない声にルフィが言葉を返すより早く、危険を察知したシキが周りの瓦礫を操り人工的な竜巻を作り出す。
「さっさとズラかるぞ!」
シキの声を聞いていたのかタイミングよく空船が近くまで飛んできている。
その空船から降ってきたキラーはキッドの怪我を見て動揺を隠せずにいたが、すぐに駆け寄ると自分の肩を貸すように支えた。
「キッド!?立てるか?」
相棒の声にキッドは当たり前だと歯をくいしばり姿勢を整える。
だがその瞬間、目の前で壁の役割を果たしていた竜巻が消え去った。
馬鹿な、と小さく言葉を溢し顔を強ばらせるシキの目に移ったのは半獣姿のレオヴァだった。
結婚式の為に整えた衣服こそ乱れてはいるが、大きな怪我は見当たらない。
そんなレオヴァの手にはキッドから奪ったであろう左腕が握られている。
そんな彼をギロリと睨み付けるキッドにレオヴァは諭すような声で話し掛ける。
「隻腕でおれに敵うと思ってるのか、キッド?
もうガキじゃねェんだ、我が儘ばかり言うのは止せ。いつも言って聞かせてただろう、周りを見てもっと冷静に物事を判断しろと。
……父さんが待ってる、うちに帰るぞ。」
「っ…また“父さん”かァ、ファザコン野郎。
テメェだろ、
ふらつきながらも再び闘う意思をみせるキッドを隣で支えているキラーが慌てて押し止める。
それでも噛みつくような言動は止めないキッドの姿にレオヴァが溜め息を吐こうとした時だった。
「お前はカイドウのジジイの為だなんだと言ってるが
やってることはおれと変わらねェ!!テメェ自身の満足の為だ!!周りを見てねェのはおれじゃねェ!!
自分の思考をおれやカイドウのジジイに押し付けてるのはテメェの方じゃねェのか!?
ガキの我が儘はどっちだよ、レオヴァ!!」
ピクリとレオヴァの眉間が動く。
キッドの言葉で遮られていた溜め息を、口から深呼吸のように吐き出し、ゆっくりと瞬きをした。
目蓋の下にあるレオヴァの瞳は僅かに淀んでいた。
「本当にその口の悪さにはうんざりだ。
…おれを分かったように語るンじゃねェよ、キッド。」
怒気が漏れ始めたレオヴァの姿を見てキッドの口角が僅かに上がる。
そうだ、これこそがレオヴァ。
上っ面の姿なんてくそ食らえ。
お上品に振る舞う姿も、作ったように笑う顔も…本当に大嫌いだった。
遠い昔に憧れたのは海賊らしく強く、そして
「ハハハハッ!!口汚ェのも短気なのもお前の方だろ、レオヴァ!?」
「おれを煽ってどうしたいのか知らねェがケジメだ、キッド。
父さんが言うんだ……うちに連れ帰りはするが腕は治さねェ。
おれはお前を甘やかし過ぎたみたいだからなァ…」
「誰が戻るっつったよ!?腕なんざくれてやる!
それはおれの弱さだ、ここで捨てていく。」
心底可笑しそうに笑うキッドの目の前でレオヴァは手に持っていた炭になった左腕をバキリと握り潰した。
ボロボロと遥か下にある地面に破片が落ちていくと、背にある翼を一層強く羽ばたかせレオヴァが眼前から消える。
それを分かっていたかのようにキッドはキラーを突飛ばし、ぐるりと半回転すると背後から迫っていたレオヴァの強烈な足蹴に対して受け身を取る。
宙を舞っている瓦礫を突き破り、更に飛ばされていくキッドをいつの間にかルフィを船に投げ入れて来たシキが新しい瓦礫を浮かせ受け止めた。
「もう時間だ、いつまで百雷とやりあってるつもりだ!!
ここにはリンリンもいるんだ、お前の因縁に最後まで付き合ってやるつもりはないぞ!?」
「うるせェ…まだ、だ!!」
レオヴァへ向かって突っ込んでいこうとする直前にシキはキッドの身体に付いている金属に触れる。
そして、思いっきり上空へ吹き飛ばした。
身体に巻き付いている金属を浮かされたキッドは一瞬、目を丸くしたがすぐに怒ったようにシキを睨み付けた。
けれど、シキはそんなルーキーの視線を無視してキラーの位置を確認する。
キラーは指示されなくともキッドが上空に飛ばされると同時に船へ向かって瓦礫を伝い退避を始めていた。
なかなか悪くない判断力だとシキは内心で感心すると、振り上げていた瓦礫や持ってきていた巨大な岩を結婚式場の真上に設置する。
そして、能力を解除した。
浮遊の力を失った膨大な質量を伴った無機物の雨が降り注ぐ。
逃がしてなるものか、とキッドに向けて飛ぼうとしていたレオヴァの耳に部下達の狼狽える声が届いた。
その瞬間、レオヴァの濁っていた瞳に理性が戻る。
消えていく船を後目にレオヴァは瓦礫の間を縫って急降下する。
部下達がそのレオヴァの姿を見て安堵の声を漏らすと同時に視界が一瞬光に包まれ、次の瞬間頭上に巨大な鳥が翼を広げていた。
獣化したレオヴァはその巨大な身体で包むように部下達の壁になる。
次々と降り注ぐ岩や瓦礫から部下を庇いきるとレオヴァは人の姿に戻り、空を見上げた。
そこにはキッド達の姿はなく、遠くに大きな船の背中が見えるだけだった。
バチバチと僅かに雷を纏ったまま空を見上げていたレオヴァにドレークが駆けよって声をかける。
「レオヴァさん!」
心配するような声色に反応したのか、体に纏っていた雷がパッと消え、レオヴァが振り返った。
後ろでは可愛い部下達とついでに助けた者達が礼を述べている。
キッド達に意識を向け過ぎて声が耳に入っていなかった事に気付いたレオヴァは自分の短気さに内心で苛立ちながらも、笑顔を作ると礼を言ってくる者達に気にするなと努めて優しく返した。
そして仮初の冷静さを張り付けたレオヴァはドレークに目線を移す。
言葉に出さずに例の件は?と問えばドレークは力強く頷き返してくる。
一番の目標を無事に終えた事を確認したレオヴァは大きく息を吸って、吐いた。
そうだ、今回重要なのはキッドとキラーを連れ帰る事ではない。
父を海賊王にする為のピースを手に入れることが最重要であったのだ。
今一度頭の中で優先度を再確認して、レオヴァはドレークに笑いかける。
「来賓の避難は無事終えたんだな。」
「問題なく。
避難後も対応出来るように部下達には言い付けて来たので。」
「そうか、良かった。
皆も大丈夫か?重傷者がいればすぐに手当てを。」
ドレークから部下達に向き直るとレオヴァは指示を出す。
後方ではビッグ・マムとジェルマの話し合う声が聞こえてくるが、さてどうでるか。
「既に追っ手は出してある。」
「もうお前達だけの問題じゃないよ!
ケジメも付けさせずにおれの国から出られると思ったら大間違いさ!!
シキの奴も麦わらもおれが!」
追っ手を出してあるから任せろと言うイチジと自分達でケジメを付けさせると騒ぐビッグ・マム。
双方、意地や外聞があるからか自分が捕らえるから手を出すなと言い合っている声が聞こえてくる。
そんな声をBGMにレオヴァは持ってきた治療道具を手に部下達の手当てを始めていた。
目的は果たした。
あとはこの件がバレないように
麦わら達を追いたい気持ちを押し止め、レオヴァは笑みを張り付けた。
ここで始末してしまっていいのか分からないもどかしさが苛立ちを生む。
この世界で“麦わら”がどれほどの鍵を握っているのか。
“ゴムゴムの実”とは何なのか。ジョイボーイとは?
奴の下に集まった麦わらの一味の重要度は?
まだ答えを出すには情報が足りなすぎる現状に、レオヴァは頭を抱えたい気持ちをぐっと堪えた。
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何故ビッグ・マムからの追っ手が来ないのかと首を傾げていたシキは気配を感じてバッと後ろを振り返った。
ルフィやキッド達も気付いたのか、同じ様に後ろを振り返っている。
警戒した雰囲気の中、姿を現した人物を見てサンジが声を上げた。
「レイジュ…」
「あれ、サンジの姉ちゃんじゃねぇか!」
ルフィがいつもの気の抜けるような笑顔でサンジの方を向く。
緊張感が走るその場で最初に口を開いたのはレイジュだった。
「サンジ、戻って来て。
…このままじゃ、あなたはビッグ・マムと百獣の両方から追われる事になる。
絶対に無事じゃいられないわ。」
「おれは…戻らねェ。」
サンジの言葉にルフィの後で固唾を飲んで聞いていたナミ達がほっとしたように肩の力を抜く。
「やっぱり、おれの居場所はここなんだ。
おれは麦わらの一味のコックでありたい。それにオールブルーの夢も諦めたくねェ。」
真っ直ぐにサンジはレイジュを見つめた。
ジェルマに連れ戻された時とは違う、強い瞳が決意の強さを物語っている。
「……どうしても、麦わらの一味に戻るのね。
サンジ、あなたが選ぼうとしてる道は危険な道だと分かってる?
ずっと追われ続けて、いつかきっと殺されてしまうわ。」
泣きそうなレイジュの顔にサンジが少したじろぐと、ルフィが口を開く。
「大丈夫だ、おれが守る!!
それにサンジは強ぇんだぞ?」
知らなかったのか?と毒気を抜かれるほど敵意を感じない表情と声で問いかけてくる麦わらをレイジュはじっと観察する。
まだ若く威圧感も感じない青年だ。
けれど、大丈夫だと思わせる何かがある。
それに彼の雰囲気や存在感はとても暖かく感じた。
きっとサンジは彼の。
麦わらのルフィのこの暖かさと全て何とかしてくれそうだと思わせる器に惚れ込んだのだろう。
今回の件や今まで聞いた噂だけで、彼が無謀な男だと分かる。
それでもそんな無謀さがあるからこそ、彼はとてつもない危険を冒してまでサンジを迎えに来たのだろう。
ずっとサンジを放っていた自分より、彼の方がずっと弟を大切にしてくれているではないか。
レイジュは麦わらに向けていた視線をサンジに戻す。
「ねぇ、サンジ。
……海賊やってて楽しい?」
突然の問いにサンジは目を丸くしたが、すぐに口を開いた。
「あぁ!想像してた以上にな。」
笑ったサンジを見てレイジュはうっすらと目に涙を浮かべた。
昔母に向けて笑っていた幼いサンジの、あの屈託のない笑顔がそこにあったから。
「なら、いいの。
ごめんね…サンジ。
私、あなたを守ろうと頑張ったけど余計なお世話だったみたい。
だって、こんなに素敵な仲間がいるんだもの。」
微笑んだレイジュにサンジは小さくはにかんだ。
本当に大切で優しくて最高の仲間だ。
それを家族だったレイジュに認められて嬉しさと少しの気恥ずかしさがあった。
「行きなさい、サンジ。
イチジ達には逃げられたと言っておくわ。
ビッグ・マムが欲しいのは私たちの化学力、あなたの恩人の命には興味はない筈よ。
イチジもバラティエを人質のように言っていたけれど、あれはハッタリなの。最初から手を出す気なんてなかったわ。」
「え……どういう事だよ!?」
驚く弟にレイジュは続ける。
「前にブレスレットの話はしたでしょ?
実はね、私が偽物にすり替えたってのも嘘なの。
始めからイチジはそんなもの付けさせる必要ないって言ってたわ。
でも、兄弟で話し合って万が一の為に脅しておこうって事になってたの。騙していてごめんなさい。」
「……」
想像もしていなかった内容に言葉が出ないサンジにレイジュは微笑みかける。
「これでこの国を出られない理由、なくなったでしょ?
幸い、ビッグ・マムは金獅子のシキとその麦わら帽子の子しか眼中にないみたいだから本当にあなたの恩人の事は頭にない筈よ。」
言い終えるとレイジュは握っていた黒い缶のような物をサンジに投げ渡した。
「っと…なんだ、これ?」
反射的に受け取ってしまったものを怪訝そうに見やったあと、こちらに視線を戻して来た弟にレイジュはサプライズだと目を細める。
「レイドスーツよ♡
これから色々あるだろうし、役に立ててちょうだい。」
「レイドスーツ!?いらねェよ、そんなの!
おれは変身なんてゴメンだぜ。」
突っ返そうとするサンジにキラキラ瞳を輝かせたルフィがガバッと覆い被さる。
「すげェ~!変身するのか、サンジ~!?」
「いや、しねぇ!!絶対使わねェ!!」
わいわいと騒がしい二人を見てレイジュはまた微笑んだ。
「じゃあね、サンジ……元気でね。」
踵を返そうとするレイジュを慌ててサンジが止める。
「待てよ!
おれ達を逃がして…レイジュは大丈夫なのかよ?」
辛い目に会わせたにも関わらず、こちらを心配するサンジにレイジュは母の面影を見てまた瞳が潤むが、悟らせぬようにギュッと唇を噛んだ。
そして、淡々とした表情を作り振り返る。
「大切なものを良く見て、サンジ。
そんな素敵な奴らもう一生出会えないわよ。
……私は大丈夫だから、早くここから逃げなさい。」
「…レイジュ。」
言葉を詰まらせるサンジから目線を移すとレイジュは真面目な顔でルフィに声をかける。
「サンジを、私の弟をよろしくね。」
言葉を返そうとルフィが口を開く前にレイジュは飛んで行ってしまった。
その場に数秒沈黙が流れるが、シキが部下にもっとスピードを上げるようにと指示を出す声を皮切りに皆動き始めた。
麦わらの一味が次に目指すのは、侍達の故郷。
そこに
ー後書きー
・マザーの写真の件
原作ではベッジからの情報だったが、今作品ではシキからルフィ達へ伝わった。
写真ぶっ壊し作戦もシキが考案。
ベッジも知り得た情報なのだから、ロックス時代同じ海賊団だったシキが知ってても可笑しくないのでは?と考察した結果である。
・ジンベエ
魚人島が百獣のナワバリになったのでビッグ・マムとは関係がない。なので今回のホールケーキアイランド編に不参加。麦わらの一味加入フラグが折れつつあるが果たして…?
・キッド
原作では赤髪との小競り合いで腕を失ったが今作品では百獣にいた過去や船出タイミングがズレた為、赤髪との小競り合いはなく腕は無事だった……が、レオヴァによって原作と同じように腕を失う。
今後、原作で赤髪との小競り合いに大きな意味があったと過去編出てきたら作者は詰む。タスケテ…
・レオヴァ
来賓達からの好感度を上げて更なる百獣国際連盟の株上げを目論んでいた。
写真の件で計らずもシャーロット家からの信頼を稼ぎつつ、裏ではちゃっかり部下にポーネグリフの写しを奪わせている。
キッドの腕を獣人化して脚でもぎ取ったり、口悪い素が出たりと今回は少し“らしく”ない様子が見られた。
おそらく麦わらの件などで焦っていると思われる。
・ドレーク
責任重大な任務を無事果たす。
戻って来た時のレオヴァの様子が可笑しかったので心配している。
『補足情報』
・レオヴァ
ワノ国の過去編らへんまでしか知らない為、“ニカ”という単語は知っているがルフィ=ニカなのは知らない。
ただゴムゴムの実に裏があるという情報は得ている様子だが…?
・バラティエとゼフ
原作を読み返していたらレイジュがビッグ・マムはゼフやバラティエに興味はないという台詞があったので採用。
今作品ではジェルマが本気でバラティエに害を成す気がないのでサンジの憂いは断たれた形に。
・ホールケーキ城
原作とは違い玉手箱による大爆発を回避(そもそも玉手箱が送られてきてない為)
だが、シキの能力とビッグ・マムの大暴れにより城は全壊。
側にある街にまで被害は広がっている。
しかし、ドレークの避難指示や百獣の部下の助力により市民は避難済み。
全然更新出来ず申し訳ない~!!
今回も読んで下さった方々には頭が上がりませんぜ…感謝!!
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百獣視点多め!麦わらの話は簡易説明で!
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麦わら視点もある程度欲しい。麦3:百獣7
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ガッツリ麦わら視点後に百獣視点で良いよ
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もちお、貴様に任せる!!
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お、アンケートボタンだけ押したろ!