俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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侠客と大名

日も沈み町が夜に覆われた頃。

二人の男が質素ではあるが綺麗に整えられた部屋に座している。

 

 

 

1人は大柄で、薄青色の炎のごとき髪を持つ男

 ───“花のヒョウ五郎”

 

 

もう1人は真っ黒な髪につり上がった眉が特徴的な男

 ───“大名 霜月康イエ”

 

 

 

二人は部屋で酒を片手に向き合っていた。

 

 

 

 

「……で、呼び出したって事は"例の件"か」

 

康イエが盃を口に運びながら問いかけた。

 

 

その問いかけに大きくゆっくりと相づちを打ち、答える

「おうよ。信頼の置ける奴らを数名送った。」

 

 

「そうか……それにしても随分早い。」

 

 

ヒョウ五郎は煙管(きせる)をふかすと一段声色を落とした

「おれも興味があった。

……編笠村の元締になった(わっぱ)にな。」

 

 

「やはりか。今じゃ何処の村も編笠村の"レオヴァ"の話を知ってるみてぇだ…」

 

 

 

「年端もいかねぇ(わっぱ)が元締めってだけで噂になんのに…

更には善政ひいて民から愛されてるとあっちゃなァ……気にならねぇ方が可笑しいってモンだ。」

 

 

「あぁ、その通りだな。子どもが仕切るだけでも信じらないってぇのに……

良い評判しかねぇと、ちょいと怪しく感じちまう。」

 

 

康イエの言葉が終わると同時にヒョウ五郎は自分の隣に置いてあった箱を投げ渡す。

 

 

「おれもそう考えた、怪しいってな。

……だが、まぁ結果は"ソレ"だ。」

 

 

康イエは受け取った箱を開くと中には報告書の様な紙の束が入っている。

 

一枚いちまい慎重に目を通す康イエを尻目にヒョウ五郎は静かに酒を煽った。

 

 

 

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最後の一枚を読み終わり、康イエは動揺を隠せなかった。

 

 

「お、おい、ヒョウ五郎!

これは……これは本当なのか…?」

 

康イエはバッとヒョウ五郎に詰め寄る。

 

 

「本当だ……諜報に長けた奴もいた。

10人送って10人がその評価だ。

……信じざるをえねぇだろう!」

 

 

ヒョウ五郎も最初、その報告を受けた時信じられずにいた。

だが、送ったどの部下に聞いても返って来る答えは"編笠村を讃える"ものばかりであった。

 

嘘をつくような奴らではない。脅されてヒョウ五郎を裏切る様な部下でもない。

 

 

だからこそ、その報告を彼は信じたのである。

 

 

 

「こんな……年端もいかぬ若者が……本当に…

いや、いや、だが……」

 

 

「信じられねぇのはわかるがな…

だが、こりゃ悪い事じゃねぇ。

もしかしたら…その"レオヴァ"っつう(わっぱ)は……

……御天道様(おてんとうさま)が堕ちたこの国の新しい()になるかもしれねぇぞ。」

 

 

ヒョウ五郎の言葉に康イエは目を見開く。

 

「この若者が!?

違う。この国を照らすべき者は……"光月おでん"であろう!」

 

 

声を荒げた康イエから酒瓶に目を移し、深く溜め息を吐く。

 

「…まったく。らしくねぇな康イエ…

……確かに、おれも おでんに期待していた。

確かにあいつはこの国を統べる事ができるデケェ男だ。」

 

 

「なら、何故その若者のことを…その様に申すのだ!」

 

 

 

「…………いつだ?

いつ、おでんは立ち上がるんだ?」

 

 

「そ、それは……わからないが…

だが絶対におでんは立ち上がり、将軍の座につくはずだ!

あいつは、アイツはそう言う男だ…!」

 

 

 

「だろうな。奴はきっと立ち上がるだろうよ。

けどな……そりゃ何時になる?

今この時だってオロチの野郎に苦しめられてる町人たちゃ山ほどいる……!!

“いつか立ち上がる”じゃ、今生きてる奴らの苦しみはどうなるってんだ…!!」

 

 

康イエは言葉を失った。

そうだ、わかっている。自分の領地の民たちがどれほど辛いか。

だが、信じていたかった……おでんが将軍になる事が彼の今の心の拠り所だったのだ。

 

 

ヒョウ五郎の言葉は"白舞の大名(はくまい だいみょう)"には痛いほど刺さった。

しかし、"霜月康イエ"にとっては光月おでんの存在は大きかった。

 

 

きっとヒョウ五郎もそうだろう。

どうしようもない様なことを仕出(しで)かす男ではあったが、決して志に背くことをする男ではない……そう言う男が光月おでんだと

ずっと思っていた。今もそうであると願っていた。

 

 

ならなぜ、ヒョウ五郎はレオヴァを"ワノ国の(ひか)り"になるかもしれないと言ったのか。

 

 

…そう、ヒョウ五郎は誰よりも民を思っていた。

 

彼は弱きを助け強きに屈せぬ漢である。

 

 

組の者たちを、町の人々を思うが故に。

裸踊りをつづけ各里々を見回る"だけ"のおでんに不満を抱えずにはいられなかった。

 

何か理由があるとはわかっていても、それを話してくれない事にも不満が溜まる。

 

何故、おれに言わねぇんだ……!!

…おれじゃ力不足だってのか……

 

おでんに対する不満と

頼られない事、人々を助けられない自分自身にも不満を感じていた。

 

 

……矢先に"編笠村と鈴後"の噂を聞いたのだ。

 

 

その噂は嘘のような、夢の様な内容であった。

 

二つの村では人々は仕事にも食べ物にも困らず幸せに暮らしていると。

 

 

そして調べた結果、それは嘘ではない様であった。

 

 

不満を溜めていたヒョウ五郎にとっては渡りに船。

 

しかし、懸念があった。

そのレオヴァと言う少年は"百獣の息子"だったのだ。

 

 

悩みに悩んでいるところに、康イエからの頼み。

 

 

どうするかは康イエの話を聞いてからでも遅くはないとヒョウ五郎は考え今日(こんにち)に至る。

 

 

 

 

 

 

 

「康イエ……そろそろ身の振り方を考え直す時が来たんじゃねぇかと おれァ思ってる。」

 

 

「ヒョウ五郎…だが、な……

…こんな子どもに賭けるつもりか……?」

 

 

「まだ完全に決めたワケじゃねぇが、まずは会って話をする。

……少なくとも奴は工場と町の問題を解決した。

このワノ国でいま一番民の事を考えてんのはコイツだ……会う価値はある。」

 

 

「あぁ……この報告書通りならば…そうだろう。」

 

 

「ったく、腹決めろってんだ。

康イエ、おめぇは大名だ!民の事を考えなきゃならねぇ……!

報告書を疑うなら、おれと確かめに行く気概ぐれぇ見せな!」

 

 

ヒョウ五郎の言葉に康イエは力なく頷き、2人の男の"編笠村"行きが決まった。

 

 

 

 

 

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農作業中の者や、漁帰りの者、チャンバラごっこをして遊ぶ子ども達。

皆、一様に笑顔であった。

 

 

農作業をしている母と息子たち。

4人は談笑しながらみずみずしいキュウリを収穫している。

 

漁帰りの年長者と若者は自慢げに村娘たちに収穫を見せていた。

 

チャンバラごっこをする子ども達は健康的な年相応の笑顔を周りに振りまいている。

 

 

 

 

求めていた理想が其処にはあった。

 

 

編笠村に足を踏み入れてから、ヒョウ五郎も康イエも驚きに言葉を出せずにいた。

 

 

そんな時、小さな女の子が康イエに近づいて来た。

 

「おじさん、はじめて みる わるいひと……?」

 

 

「え、あぁ。商人のヤスってんだ。

レオヴァって人に会いてぇんだが。」

 

 

康イエは変装していた。

大名である康イエが、このご時世に表立って他の里に行くのは不味いからである。

 

 

対して、ヒョウ五郎はそのままであった。

 

その為、彼を見てざわざわし始める町人たちが多くいたのだが……彼はどこ吹く風だ。

 

 

 

 

 

「むぅ~ おじさんたち わるいひとだ

 れおう"ぁさま は わたしが まもる!」

 

子どもは枝を構えながら答える

 

 

すると其処へ母親らしき人影が走り寄る。

 

 

「あぁもう、この子ったら!」

 

母親は女の子を抱き抱えるとヒョウ五郎に向かい頭を下げた。

 

「すみません!

花のヒョウ五郎さま、商人のおひと!」

 

 

 

慌てた様に康イエが返す。

 

「おっと、奥さん!そんな、謝らんでください。」

 

「はっは!元気なのは良いことだぜ。」

 

 

頭を下げる母親を康イエが宥め、ヒョウ五郎は元気な女の子につい頬が緩む。

 

 

 

 

ひと悶着あったが、ヒョウ五郎と康イエはレオヴァの居場所を聞くことが出来た。

 

なんでもレオヴァは仕事終わりの職人たちと話をしに行くらしい。

 

職人とはいえ、身分はただの町人。

わざわざ元締めであり、この国の後ろ楯でもある"カイドウ"の子息が足を運ぶとは…と、二人はまた驚くのである。

 

 

 

武器工場へ向かう二人はその途中の自然にも驚いた。

 

澄んだ水の流れる川、青々とした葉、鮮やかな花。

 

まるで昔のような……いや、昔よりも整備され整えられた美しい自然。

 

工場の近くであるにも関わらずしっかりと根付く自然には舌を巻かざるを得なかった。

 

 

 

「なんとも……」

 

「……なんだって工場の近くでこんなに綺麗な景色がみられるってんだ…」

 

 

康イエは自然の美しさに言葉を詰まらせ

ヒョウ五郎は自然が保たれていることに驚きを露にする。

 

 

「……これも、レオヴァって若者に会えば謎が解けるかね…」

 

「どちらにせよ、会わなきゃ始まらねぇさ。」

 

 

二人は暫し止めていた足をまた、工場へ向け動かしたのだった。

 

 

 

 

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工場内の食堂は賑わっていた。

 

 

ガヤガヤと1つのテーブルを囲むように職人たちの人集りが出来ている。

 

 

 

 

「レオヴァ様!おれの考えた新しい武器のことなんだが……」

 

「おれの嫁さんがついに三人目の子どもを授かってよぉ!」

 

「最近、腰が悪くてのぅ……レオヴァ様が前にして下さった"低周波治療"をお願いしたいんじゃが…」

 

「昨日うちのガキが足首を怪我しちまって……レオヴァ様の前に田中家のばぁさんにやってた不思議な力で治りを早くしてもらえねぇですかね……痛そうで見てらんねぇんス…」

 

「工場で使ってる工具で古いのが増えて来たんで新しい工具をお願いしたいです!」

 

 

 

次から次へと投げ掛けられる提案や頼み事を

中心にいるその若者は嫌な顔をするどころか

一つ一つ丁寧に答え、対応している。

 

 

 

「おぉ!その発想の武器は今までなかった。

 ぜひ、試作品を作ってくれ。」

 

「三人目か、めでたいな。

祝いにお前の嫁の好物をいくつか送ろう。」

 

「じぃさんは良くやってくれている。

この後にでも時間を作るから腰の痛みは心配しなくていい。」

 

「子どもが怪我を…? それは大変だったな…

怪我の度合いによっては電気療法だけでなく、治療もおれが請け負おう。」

 

「そうか。確認でき次第、新しい工具を手配しよう。

お前はいつも細かい所に気付き教えてくれる、感謝しているぞ。ありがとう。」

 

 

その若者は微笑みながらどんどん要望を解決している。

 

 

 

工場の入り口で会った職人に案内を受け、その場に遭遇したヒョウ五郎と康イエは目を丸くしていた。

 

 

 

 

「おいおい、あの歳でアレか……?

(わっぱ)のくせに随分大人びた態度と話し方じゃねぇか…」

 

 

ヒョウ五郎の小さな呟きに案内していた職人が食ってかかる 。

 

「なんだァ…? いくらヒョウ五郎親分さんだってレオヴァ様のこたぁ悪く言うのは許せねぇ!」

 

 

今にも掴みかかりそうな職人に康イエが慌てて謝る 。

 

「おっとと、兄さん悪いね!親分も悪気はないんだ。

ただ、裏の人だから言い方が良くなくてね……

……あの坊っちゃんは若いのにすげぇって言う意味さ!」

 

 

康イエのフォローに職人は爆発しかけた怒りを収める。

 

「なんだぁ!ヒョウ五郎親分!誤解しちまって悪ぃな~…

そう、レオヴァ様はスゲェのさ!おれらも最初はまだ若いあの人に不安を持ってたんだが……レオヴァ様はその不安を態度と行動で消し去って下さったんだ!」

 

熱く語り始めた職人の下へ食堂で話をしていた別の職人が近寄って来た。

 

 

「おい、与助! レオヴァ様からのお酒お前も貰うだろう!」

 

「え、レオヴァ様からの!?

おうおう! 貰うに決まってるってんだ!

…じゃ、ヒョウ五郎親分に商人さん、案内したからおれはこれで。」

 

 

二人は本当に嬉しそうにレオヴァの方へと走って行ってしまった。

 

 

 

残された二人は顔を見合わせた。

 

「……どうする康イエ。

声をかけるにもあんなに楽しそうにしてる職人たちを退かすのも忍びねぇ」

 

「…そうだな…これは終わるまで待つしかなかろう。」

 

 

 

二人は職人たちの笑い声や談笑が終わるまで近くのテーブルで待つことにしたのだった。

 

 

 

 

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あれから数十分。

やっと人がまばらになって来ていた。

 

康イエもヒョウ五郎も待つ時間は苦ではなかった。

 

それは食堂の設備の良さもあるかも知れないが

何よりも活気に溢れる彼らを眺めていると昔を思い出すからだ。

 

今のように苦しみ笑うことが出来ない人々や、日々死と向かい合わせに働かされる人々。

 

その現実を忘れさせる様な光景だった。

 

だから二人は数十分という(とき)が苦ではなかった。

 

いや、そもそもあっという間過ぎて待ちくたびれるという気持ちにならなかったのかも知れない。

 

 

 

 

二人が夢うつつの様な心持ちでいると、中心にいた若者が周りに声をかけながらも

此方へと歩み寄って来ていた。

 

 

 

 

「お初お目にかかる。

随分と待たせてしまい申し訳ない。

 おれに用と聞いたんだが……?」

 

若者は軽く挨拶をすると会釈し、此方を真っ直ぐに見つめてくる。

 

 

 

ヒョウ五郎と康イエは若者の平凡と言い難い雰囲気に喉を鳴らしたが、すぐに会談の場を取り付けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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