俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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圧倒的感想の物量……!!文字数の暴力…!!
たくさんの感想本当にありがとうございますっ…!

前回もしっかり誤字ってしまっておりました
報告してくださる方はきっと聖人なんだろうなぁ……
誤字脱字報告、感謝です!
※今回の話しにでる小半刻とは昔の時間の単位の事で、だいたい30分のことです(本来は季節により上下するらしいです)


2026/9/2 加筆修正





任命式

 

朝から、ワノ国の空気はどこか浮き立っていた。

 

通りを歩く人々も普段より声が大きい。

仕事へ向かう途中で立ち話を始める者や、今日だけは早く店を閉めるのだと笑う者までいて、町全体が夕刻を待ち切れずにいるようだった。

 

理由は誰もが知っている。

今日は、レオヴァが百獣海賊団の“総督補佐官”へ正式に任命される日なのだ。

 

カイドウを補佐する役職である以上、実質的には百獣海賊団でも最上位に数えられる立場になる。

まして任命するのは総督であり父でもあるカイドウ本人で、その場にはレオヴァも姿を現すという。

 

花の都で暮らす一人の男も、数日前から今日を楽しみにしていた。

普段なら仕事を休むなど考えもしないが、今回ばかりは別だ。親方へ何度も頭を下げ、仕事を前倒しで片付け、ようやく一日だけの休みをもぎ取った。

 

これで早いうちから都の城前へ行き、少しでも前の方を確保出来る。

そう考えていたのだが、朝から通りへ出た時点で甘かったと悟った。

 

見慣れたはずの大通りが、人、人、人で埋め尽くされている。

都の住人だけではない。見慣れない旅装の者や、地方の訛りで話す者、子どもを肩車して歩く家族連れまでいる。どうやら自分と同じことを考えた人間が、ワノ国中から集まって来ているらしい。

 

「なんだよ、みんな考えること同じじゃねぇか」

思わず苦笑しながらも、不思議と嫌な気はしなかった。

それだけ多くの者が、今日という日を祝おうとしている。

夕方から始まる任命式まで、まだ随分と時間があるというのに、男の胸は既に落ち着かなかった。

 

 

──────────────

 

 

同じ頃。

花の都から遠く離れた、とある小さな村でも、朝から尋常ではない騒ぎが起きていた。

 

もっとも、こちらは祝賀の準備で浮かれているわけではない。

村の中央に設けられた広場へ、見たこともないほど大量の物資が運び込まれていたからだ。

 

俵に詰められた米や穀物。

瑞々しい野菜に果物、干し肉や保存の利く食料。

さらに、村人が普段目にすることすら少ない薬や、手触りの良い織物までが、いくつもの荷車から降ろされて山のように積まれている。

 

豊かな土地の者ならともかく、この村は毎年の上納金を納めるだけでも精一杯だった。

食料は日々の腹を満たす分すら足りず、薬など重い病人や怪我人が出ても簡単には手を出せない。

着物も継ぎ接ぎを重ねながら使い続けるのが当たり前で、目の前に並ぶ品々は彼らにとってほとんど別世界のものだった。

 

だからこそ、誰もすぐには手を伸ばせなかった。

嬉しいより先に、困惑と警戒が立つ。

 

何かの間違いではないか。

後から法外な金を請求されるのではないか。

あるいは新たな上納を課すための見せ餌ではないのか。

村人たちは積み上げられた物資と、それを運んできた男たちを交互に見ながら、ひそひそと声を交わしていた。

 

やがて、人垣の中から一人の老人が恐る恐る前へ出る。

この村で古くから暮らし、皆から相談を持ち掛けられることも多い男だった。

 

「こ、これは……いったい…なんだってこんな辺鄙な村に。

上納金もギリギリでございますゆえ、このような高価なもの…買えませぬ」

老人の声は戸惑いで震えている。

それを聞いた、物資を運んできた編笠村の男は一瞬きょとんとした後、腹の底から愉快そうに笑った。

 

「買う……?

わはっはっは…!! 違うぞ?

これは、いと素晴らしき御方、レオヴァ様のお優しさである!!」

「……はぁ……れおう"ぁ…様?」

聞き慣れないわけではない名前だった。

最近のワノ国で暮らしていれば、一度も耳にしたことがない者の方が珍しい。

 

カイドウの息子。

編笠村を立て直した少年。

鈴後の一件で明王と共に戦った者。

九里へ食料を送り続けている人物。

そうした噂はこの辺鄙な村にも届いている。

 

だが、噂の中の人物と、目の前に積まれた大量の食料がすぐには繋がらなかった。

編笠村の男は、そんな村人たちの反応を予想していたのだろう。

胸を張ると、まるで自分のことを話すように誇らしげな声を上げた。

 

「そうだ!

本日は、レオヴァ様が百獣海賊団・総督補佐官という名誉あるお立場に立たれる素晴らしき日!

もちろん総出でお祝いしようと皆が意気込んでいた!

しかし…!

お優しいレオヴァ様は御身の祝いの資金をお使いになられず

それどころか我々民の為に祝いの資金を使うと仰られたんだ!!!」

村人たちのざわめきが、一段大きくなった。

祝いの日なのに、自分のためには金を使わない。

それどころか、自分とは何の縁もない辺境の村へ食料や薬を配る。

あまりにも、自分たちの知る“偉い人間”の振る舞いとかけ離れていた。

 

「……偉い奴ってのは祝い事はハデにやるんじゃないのか?」

「あぁ、オロチがまさにそうだろ」

「え、いや……どういうことだ?」

「なぜレオヴァ様って人のお祝いでワシらに食料が…」

「薬まであるぞ! おれの息子の傷を手当てできる!」

「……怪しいだろ、なんでおれら町人なんかに…」

喜びたい。

だが、怖い。

 

その二つの感情が入り混じり、誰も素直に受け取って良いのか判断出来ずにいる。

編笠村の男は、そんな彼らを責めなかった。

むしろ、自分にも覚えがあると言いたげに少し表情を和らげる。

 

「お前たちの動揺はおれにも分かる…だが、聞いたことぐらい有るだろう?

レオヴァ様が編笠村、鈴後…そして九里をお救いになった話を!!

おれはその編笠村から来た!

あの話は全て事実、おれがこうして生きてるのもレオヴァ様が手を差しのべて下さったおかげなんだ!」

編笠村。

その名に、何人かの村人が反応した。

 

噂では知っている。

圧政と貧困に苦しみ、潰れかけていた村。

そこへレオヴァが入り、工場や農地を立て直し、今では以前とは比べ物にならないほど豊かな土地になったという。

 

「……編笠村の村人か」

「聞いたことあるわ…!

オロチの圧政に潰れかけてた編笠村を助けたって……」

「鈴後に現れた蛮族たちを明王と退けたんだよな!?」

「知ってるぞ!

そのあと村の復興も手伝ったって話を絵巻物で読んだんだ……!」

 

噂の中だけにいた人物が、目の前の男を通じて急に現実味を帯びてくる。

村人たちの視線が、再び積まれた食料へ向かった。

先ほどまで疑念ばかりだった瞳に、僅かな期待が混じる。

 

「じゃ、じゃあ…ほんとにこの食料や薬…貰えるのか?」

その問いに、編笠村の男が答えるより早く、一人の若者が人垣から声を上げた。

 

「なぁ、待ってくれ編笠村の人!

これを受け取ったら、おれたちはレオヴァ様って人になにか要求されるんじゃないのか…?

……それにおれたちだけ、なんて怪しすぎる!!」

その場の空気が僅かに張り詰める。

あまりにも率直な言葉だった。

すぐに周囲の者たちが慌てて若者を止める。

 

「お、おい!よせよ!

あんま失礼なこと言っちゃいけねぇ!」

「そうだ!…それにうちのガキは昨日も飯を食ってねぇんだ

……なにを要求されたって構わねぇ!

このままじゃ、どちらにせよ飢え死んじまう!」

「おれの息子の怪我には薬がいるんだよ!

どんな理由でおれらの村が選ばれたんであれ、今はこの施しを頂こう…!」

 

今度は村人同士で言い合いになりかけた。

疑う者がいるのも当然だ。

だが、今日明日の食料すら危うい者にとっては、裏に何があるかよりも、まず目の前の家族を生かす方が大切だった。

編笠村の男は困ったように頭を掻くと、双方を落ち着かせるよう両手を広げた。

 

「あんたら落ち着いてくれよ!

このレオヴァ様からの食料たちはワノ国中に配られてんだ

あんたらだけ特別ってわけじゃねぇさ」

その一言で、今度こそ村人たちの声が止まった。

 

「え…ワノ国中!?」

「け、けどそんなの凄い金がかかるだろ!?」

「そんな大金、どうやって?」

一つの村を救うだけでも大変な量なのに、これを国中へ。

 

到底、祝いの予算だけで賄えるとは思えない。

編笠村の男は、待ってましたと言わんばかりに大きく頷いた。

 

「レオヴァ様はお祝いの資金だけじゃ皆に配れねぇと

ご自分のお金を使ってまで、ご準備して下さったんだ!!」

「自分の金を……」

「金持ちは金使わねぇって話は嘘か!?」

「わざわざ下人なんかの為に…」

 

村人たちの間へ、今度は驚愕に近いざわめきが広がる。

高い地位にある者が自らの財を使う。

それも、自分たちのような名もない民のために。

彼らの常識では、容易に理解出来ることではなかった。

 

「驚く気持ちもわかる…!

けどよ、レオヴァ様って御方はそういう方なのさ

いつだって民を想ってくださる…」

編笠村の男は、今度は声を張り上げなかった。

しみじみと。自分自身が何度もそれを目にしてきた者のように語る。

 

そこには、誰かに言わされているような不自然さはなかった。

そもそも、レオヴァの噂は以前から国中へ流れている。

少なくとも、村人たちがこれまで耳にした範囲では、民を虐げた、奪った、理由もなく罰したという類の話は一つもなかった。

 

最初に問い掛けた老人が、ゆっくりと前へ進んだ。

積まれた米俵を見て。

薬を見て。

そして最後に、編笠村の男を見る。

深く腰を折った。

 

「……ありがたい!!

その食料たち、ぜひ頂戴したい!」

「おいおい!爺さんよしてくれ!

おれはレオヴァ様に頼まれて運びに来ただけだ

それに貰ってくれりゃ、おれも嬉しいんだ

なによりレオヴァ様がお喜びになる…!

……っと!忘れてた!」

編笠村の男は慌てて老人の肩へ手を添え、頭を上げさせると、その途中で何かを思い出したらしい。

着物の上から自分の胸元や腰回りを探り、懐へ手を突っ込む。

取り出したのは、小さく綺麗な貝だった。

 

海辺の村でもないこの土地では見慣れない代物で、村人たちが一斉に首を傾げる。

 

「編笠村のお人……それは、なんだい?」

「これは音貝ってんだ」

「とーん…だいある……?」

「レオヴァ様から頂いたモンでな!

なんと……これに入れた音を好きな時に流せるんだよ!」

「貝に音を…? そんなモンがあるのかい?!」

 

これまでとは別の意味で驚きの声が上がる。

編笠村の男自身も、初めて見せられた時のことを思い出したのか楽しそうに笑った。

 

「おおう!おれも初めてみた時は驚いたさ!

……で、この音貝にレオヴァ様からのお言葉が入ってるから聞いて欲しいんだ!」

「レオヴァ様からのお言葉……?」

「……なにを言われるんだ?」

「どんなお声なのかねぇ…?」

食料を前にしていた時とは違う緊張が、村人たちの間へ広がった。

 

噂の人物。カイドウの息子。

今日から百獣海賊団の総督補佐官になるという人物の声が、この小さな貝から流れるという。

編笠村の男は周囲が静かになるのを待ち、貝を掌へ載せた。

 

「まぁまぁ、いいから聞いてくれよ

 …よし、流すぞ~!」

 

小さな音がして。

次の瞬間、貝から人の声が流れ出した。

『……え~と……よし、レオヴァ様!どうぞ!』

 

先ほどまで目の前で話していた編笠村の男の声だ。

続いて。

今まで誰も聞いたことのない声が響く。

 

『…はじめまして、おれはレオヴァと言う

本日より百獣海賊団の総督補佐官という役職につかせてもらう者だ。

祝いの日と言ってくれる皆の優しさと、共に歩んでくれる民に報いるべく…なにか出来ないかと考た結果、食料など物資を配ることに決めた。

今回配る食料はおれが遠征で手に入れた物と編笠村、鈴後、九里で栽培された物だ。

おれの自慢の民たちの作る野菜や果物は絶品だ

 ぜひ堪能してほしい』

村人の何人かが、思わず顔を見合わせた。

若い。想像していたより、ずっと。

地位の高い人物だと聞いていたから、もっと低く威圧的な声を想像していた者もいた。

確かに言葉遣いには落ち着きがあり、迷いなく話している。

それでも、声には隠しようのない若さがあった。

 

だが、録音はそのまま続く。

 

『へへ…!レオヴァ様、絶品なんて褒めすぎですよ!』

『ふふふ…本当のことだろう?

お前たちが汗を流し頑張ってくれているからこそ素晴らしい食べ物たちが出来るんだ、いつもありがとう』

一人の農夫が、僅かに眉を上げた。

地位のある人間が、いち農民へ礼を言った。

それも、働くのが当然だと言うのではなく、その働きのおかげだと。

 

『そんな!もったいねぇお言葉っ……!

おれもっと、もっと頑張りますよ!』

『まったく、働きすぎだぞ?

ちゃんと休んでくれ、体を疎かにするな』

『そりゃレオヴァ様もですよ!!

働き詰めで……心配ですよ』

音貝を囲む村人たちの表情が、少しずつ変わっていく。

先ほどまで物資の裏に何かあるのではないかと疑っていた者たちも、今は黙って声へ耳を傾けている。

 

『おれは良いんだ、上に立つ者が皆の為に奔走するのは義務だ。

……いけない、話がずれた』

その言葉で。

老人がゆっくりと目を瞬いた。

上に立つ者が、民のために動くのは義務。

少なくとも、今まで自分たちが知る支配者から、そんな言葉を聞いた覚えはない。

 

『レオヴァ様っ……と、そうでした!

では、続きをお願いいたしやす!』

『あぁ、……今日くらいは満足いくまで腹を満たしてほしい。

薬や着物も好きなように使ってくれ

これからおれはワノ国中の民が飢えずにすむ様に努力するつもりだ

信じられない者が大半だろう、信じてくれとは言わない。…口でならなんとでも言えるからな。

 だからこそ、おれは行動で示す。見ていて欲しい。』

そこで音が途切れた。

誰も、すぐには口を開かなかった。

編笠村の男は少し照れ臭そうに鼻の下を擦った。

 

「以上だ!……間におれとレオヴァ様の会話が入っちまってるが、それは気にしないでくれ!へへへ…

とにかく、そういうワケだから物資は好きに使ってくれよ!」

しかし、村人たちはその軽い言葉へすぐに反応出来なかった。

 

想像していたより遥かに若い声だった。

それなのに、話す言葉には上に立つ者としての迷いのなさがあり、その一方で、一方的に信じろとも従えとも言わない。

信じられないなら、それでいい。

行動を見て判断してほしい。

 

そんなことを、権力を持つ側から言われた経験が彼らにはなかった。

やがて、誰かが小さく呟いた。

 

「これが…レオヴァ様」

それをきっかけに、堪えていたものが解けるように声が広がる。

 

「編笠村のお兄さんはただの農家なんだよね……?

なんで、レオヴァ様はこんなに平等に、優しく接してくださるんだい?」

「オロチはおれらを人とも思ってねぇのに

…共に歩む民か…おれらも、レオヴァ様には民だと思ってもらえんのかな…」

「……ずいぶんと若ぇ声だぁ…ワシの孫くらいか?」

「とっても優しい話し方をする人なのねぇ~…」

「おれたちが飢えずにすむように努力……努力なんて言葉を偉い人がおれらに使うなんてよ……」

 

最初にあった疑念が、完全に消えたわけではない。

だが少なくとも、この人物がどんな人間なのか、見てみたい。

言った通り、本当に行動するのか知りたい。

そんな興味が、村人たちの中には確かに生まれていた。

編笠村の男は、彼らの表情を見回して嬉しそうに笑った。

 

「レオヴァ様のお優しさが少しでも伝わっておれは嬉しいぜ!

…はっ…いけねぇ!

おれはレオヴァ様の任命式を見てぇからそろそろ行かせてもらう!」

 

その言葉に、村人たちが一斉に反応する。

 

「ちょ、ちょっと待って編笠村のお兄さん!」

「そうだよ!レオヴァ様の任命式っていったいどこで…!」

「おれらもお会いしてぇよ……」

男は一瞬言い淀んだ。

 

「あー……任命式は都で開かれるんだよ…」

途端に先ほどまで明るくなり始めていた村人たちの肩が、目に見えて落ちた。

 

「……都じゃあ…無理だねぇ……」

「残念だ……」

この村から花の都までは遠い。

今日の夕刻から行われる式に、今から間に合う距離ではない。

まして、病人や子どもを抱える者が簡単に村を空けられるはずもなかった。

 

「ま、まぁみんな!行けなくてもそれぞれでレオヴァ様をお祝いしようぜ!」

「そうね……死ぬまでにお会いしてみたいわねぇ」

沈みかけた空気を見て、編笠村の男は慌てて何かを思い出したように手を打った。

 

「今日夕方か夜に空を見上げりゃレオヴァ様を見れるかもしれねぇさ!」

村人たちが揃って首を傾げる。

 

「そ、空……?」

「あぁ!レオヴァ様は特別なお力を持ってらっしゃるんだ!

そのお力で、見たこともねぇような神々しい雷のお鳥様のお姿になられるんだが…

今日の式の後、ワノ国の空を飛ぶって話を聞いたんだよ

だからきっと空を見上げてりゃレオヴァ様を見れる!」

 

「雷のお鳥様……?」

「レオヴァ様はそんなお力まであるってのか!?」

「そりゃ一度は見てみたいな~!」

先ほどまで都へ行けないと落ち込んでいた者たちの顔に、再び明るさが戻っていく。

中でも子どもたちは分かりやすかった。

 

「ママ!夜おきてていい?」

「良いわよ。 一緒にお星さま見ながら待ちましょう!」

母親が笑いながら答えると、子どもは今から夜になるのが待ち切れないとばかりに空を見上げた。

本当に見えるかは分からない。

この村の上を通るとも限らない。

 

それでも、少し前までレオヴァという人物の名を知っているだけだった村人たちが、今では同じ空を見上げ、その姿を待とうとしている。

 

食料を前に疑っていた者も。

薬を抱えていた者も。

声の若さに驚いていた老人も。

それぞれ違う思いを抱きながら、夕暮れから夜へ変わる空を楽しみにし始めていた。

 

「それじゃあ!」

 

編笠村の男は大きく手を振ると、任命式へ間に合わせるため急ぎ足で村を出ていく。

村人たちは、その背中を笑顔で見送った。

残された広場には、改めて大量の食料や薬、織物が並んでいる。

今度はもう、誰も遠巻きに眺めているだけではなかった。

 

子どものために米を受け取る母親。

怪我をした息子へ使う薬を大切そうに抱える父親。

久しぶりに新しい布を手へ取り、頬を緩める老人。

 

これだけあれば、今日一日どころではない。

暫くの間は、明日の食事があるかどうかを恐れずに済む。

そんな当たり前の安心が、今の彼らにとっては何より大きかった。

 

そして村人たちは時折、まだ明るい空へ目を向けた。

 

今夜。

そこを黄金の鳥が飛ぶのかもしれない。

先ほど音貝から聞こえた、あの若い声の主が。

村の広場には久しぶりに明るい声が満ち、食料や薬を受け取った人々の顔は、朝までとは見違えるほどの喜びに彩られていた。

 

 

──────────────

 

 

 

任命式を数時間後に控えた城内では、表向きの簡素さとは裏腹に、朝から人の出入りが絶えなかった。

 

城前の広場では百獣海賊団の者たちが隊列の最終確認を行い、門の周辺では警備の配置が何度も見直されている。

花の都へ集まる人の数は予想を遥かに上回っているらしく、廊下を行き交う部下たちの足取りにも、いつもとは違う慌ただしさがあった。

 

その騒がしさから少し離れた一室で、レオヴァは任命式までの時間を過ごしていた。

 

式そのものは短い。

豪華な舞台もなければ、華美な衣装へ着替える予定もない。

城前へ出て、カイドウから正式に総督補佐官へ任命され、その後に集まった者たちへ言葉を述べる。それだけだ。

 

だからこそ、本人には妙な緊張もなかった。

むしろ気になるのは、父から正式に言葉を貰えるということの方だった。

 

そんなレオヴァのもとへ、廊下の向こうから聞き慣れた重い足音が近付いてくる。

襖が開くより先に、甘い小豆の匂いが漂ってきた。

 

「よォ~!レオヴァ~~!

ついに、任命式だなァ…!

カイドウさんもスゲェ張り切ってるぜ!!」

現れたクイーンは、両腕で大きな鍋を抱えていた。

中にはたっぷりとおしるこが入っているらしく、歩くたびに粘り気のある液面が揺れ、湯気と共に濃い甘味の匂いが部屋へ広がっていく。

 

今日はカイドウの機嫌が朝から良い。

その恩恵を受け、珍しく余裕のある時間を確保出来たクイーンは、見るからに上機嫌だった。

 

レオヴァの正面へ腰を下ろすなり、早速大きな匙で鍋の中身を掬い始める。

 

レオヴァもまた、今日という日を楽しみにしていた。

役職そのものに価値を感じていないわけではない。

総督補佐官という立場を得れば、今まで以上に百獣海賊団全体へ関われる範囲は広がる。

 

それでも何より嬉しいのは、その地位を父であるカイドウ本人から与えられることだった。

 

「任命式で直接父さんから言葉を貰えるのが楽しみだ…!

………またあんこを飲んでるのか」

匙を口へ運びかけていたクイーンの動きが止まる。

 

「あんこって……

これは お・し・る・こ…!!!

ただの小豆とは、ぜんっぜん違ぇからァ!!!」

予想以上に強い反応だった。

レオヴァは一瞬だけ目を瞬いた後、素直に謝る。

 

「そ、そうか。悪かったな

……が、その量は多すぎないか?」

クイーンの抱えている鍋は、一人で食べる量として考えれば明らかに異常だった。

だが本人は、むしろ何を言っているのか分からないとでも言いたげな顔をする。

 

「わかってくれりゃ良いぜ!

あと、これは少ない方の鍋だからな?

あと4つ分作らせてる!

ああ~!早く来ねぇかな~おしるこ~~!」

レオヴァは、思わず口を開きかけた。

もう既に鍋一つ抱えているじゃないか。

 

だが、その言葉は飲み込んだ。

クイーンがおしるこのことになると妙に面倒になることは、付き合いの中で嫌というほど知っている。

わざわざ藪をつついて余計な説明を聞かされる必要もない。

レオヴァは何も言わず、鍋から視線を外した。

すると、今度は逆に疑問が浮かぶ。

 

「……で、クイーンは何をしてるんだ?

おれに何か用でもあったのか?」

まさか、わざわざおしるこを食べる姿を見せに来たわけではないだろう。

クイーンも本来の目的を思い出したらしく、匙を持ったまま大きく頷いた。

 

「ん、そうそう!

レオヴァの任命式だってのに派手にやらねぇのもったいなくね?って話しに来たんだよ…!

大々的にいこうぜ!?

これって、言っちまえばレオヴァのお披露目会みたいなところもあるだろ?

こんなに質素な式じゃ馬鹿な華族や士族どもにナメられちまうぜ……」

それが、クイーンがここへ来た本題だった。

 

今回の任命式には、驚くほど金が掛かっていない。

城前の広場へ百獣海賊団の部下たちを整列させ、その前へカイドウとレオヴァが現れ、任命を宣言する。

 

基本的には、それだけ。

花の都で権力者が大衆の前へ姿を見せる時の常識から考えれば、異様なほど簡素だった。

通常なら、豪華に組まれた舞台へ絢爛な布を垂らし、花魁や芸者を並べ、衣服も道具も惜しみなく金を掛けて揃える。

何を語るか以前に、自分がどれだけの富と権力を持つ者なのかを目で分からせる。

それもまた、ワノ国で身分を示す方法の一つだった。

 

ところが、レオヴァの式にはそれがない。

舞台すら作らない。

見目の良い女を侍らせもしない。

大量の飾り付けもない。

本当に、ただ大衆の前で任命するだけ。

 

クイーンには、それが気に入らなかった。

せっかくレオヴァが正式に大きな地位へ就くのだ。

どうせなら花の都の連中が一生忘れられないほど派手にやればいい。

馬鹿な貴族どもが口を開けて見上げるほど、金も力も見せつければいい。

 

そう思っていたからこそ、式の準備をキングが任された時も不満だった。

最初は自分が仕切ると主張して揉めたものの、最終的にはカイドウの指示で渋々引き下がった。

 

それでもキングなら最低限、百獣海賊団の面子を潰すようなものにはしないだろう。

そう考えていた。

ところが、蓋を開けてみればこの有り様だ。

簡素というより、クイーンの感覚ではもはやみすぼらしい。

その内容を知った時など、楽しみに待っていたおしるこすら放り出してキングのもとへ文句を言いに行ったほどだった。

だが、返ってきた答えは。

 

――レオヴァ坊っちゃんの意思だ。

 

それだけ。

納得出来なかった。

 

だから結局、出来上がったばかりのおしるこの鍋を抱え、その本人へ直接問いに来たのだった。

レオヴァは、クイーンの言葉を最後まで聞いてから静かに頷いた。

 

「クイーンの言う通り、これはお披露目の意味もある

……第一印象は人間関係を築く上で大切だからな」

「だったらもっと派手にいこうぜ…!

この式じゃ第一印象で見くびられちまうだろ?」

 

クイーンとしては、そこが理解出来ない。

第一印象が大切だと本人も分かっているのなら、なおさら金を掛けるべきではないのか。

しかしレオヴァは、否定するどころか同意した。

 

「そうだな。

見栄や金を気にするような華族や士族はおれを下に見る様になるだろうな

だが、民を思う者や町人たちからの考えは違ってくる筈だ

……その為に、全ての村や町に贈り物を届けさせてるわけだしな」

クイーンの動きが止まった。

匙からおしるこが一滴、鍋へ落ちる。

 

最初は意味を飲み込めなかったようだが、頭の中で「質素な任命式」と「国中へ配られている物資」が繋がった途端、その顔へ理解が広がっていった。

 

「あー…え、そういう事かよ!?

なんだよレオヴァ、最初から言っといてくれりゃ

おれもゆっくり おしるこ食ってたのによ~!」

金がないから質素なのではない。

権力を見せつけるために使える金を、あえて民へ回した。

しかも、今日という祝いの日に合わせて。

 

花の都へ来られない者へまで食料や薬を送り、レオヴァという人物の名前と一緒に届ける。

そのうえで、本人は大衆の前へ簡素な姿で現れる。

 

金や装飾の量を人間の価値として見る者には、頼りない若造に映るかもしれない。

 

だが、日々の食料にも困る民からすれば話は逆だ。

 

自分の祝いに金を使わず、その分を国中の民へ配った。

そう知った上で質素な式を見れば、それ自体が別の意味を持つ。

クイーンはようやく納得した。

レオヴァは少し申し訳なさそうに笑う。

 

「ふふ、すまないな。

その話をしている時、クイーンは遠征に行っていたから言いそびれたんだ」

「っとによォ~

てかキングもそれならそう言えよ!!

あの野郎、絶対わざと言わなかっただろ!?」

先ほどまで式への不満だったものが、今度はキングへの不満へ移ったらしい。

クイーンが露骨に眉を寄せ、レオヴァは苦笑した。

 

「おれが人前でこういう話はしないでくれと頼んだからな

あまり喧嘩はよしてくれ」

「どうだかな~……あいつマジで性格悪ぃからなァ

ま、レオヴァの考えはわかったし良いわ!

でも言われてみりゃ確かに"馬鹿"を見つけるのにも使えそうだし

……レオヴァもなかなか性格悪ぃな~?」

質素だからと見下す者。

民へ金を使うことを無駄だと笑う者。

そういう人間は、レオヴァが今後誰と関係を築くべきかを判断する上で、分かりやすい材料になる。

だが、そこまで口にされるとレオヴァは僅かに目を細めた。

 

「人聞きの悪い言い方は止してくれ。

……ただおれは民の為に資金を使いたかっただけ、そうだろクイーン?」

一拍。

クイーンの口元が大きく吊り上がる。

「ムハハハハハハ~!!

そうだな!"レオヴァ様は民想い"だからなァ……!」

「ふふ…そういう事だ。」

二人の間へ、どこか含みのある笑いが交わされる。

資金はかかるが、その少しの手間で自分への印象を変え、同時に人間を見極める材料にもなるのであれば、利用しない理由もなかった。

 

そこで襖が開き、部下が新しい鍋を抱えて入ってきた。

甘い匂いがさらに濃くなる。

待ち望んでいたおしるこが追加されたことで、クイーンの顔はたちまち本日一番と言っていいほど明るくなった。

 

対するレオヴァは、最初の鍋がまだ半分近く残っていることを確認し、新たに運び込まれた大鍋へ何とも言えない視線を向ける。

 

まだ、あと三つ来るのか。

そう考えたものの、やはり口には出さなかった。

 

任命式までの残り時間。

レオヴァは甘い匂いに満ちた部屋で、上機嫌におしるこを食べ続けるクイーンと、取り留めのない雑談を続けて過ごした。

 

──────────────

 

 

一日の終わりが近付き、花の都の空が茜色から深い藍へと移り変わり始めた頃、城の前は朝とは比べ物にならないほど多くの人々で埋め尽くされていた。

 

城前の広場だけでは到底収まり切らず、そこへ続く大通りにも幾重もの人垣が伸びている。

最前列には百獣海賊団の者たちが整然と並び、その後ろでは少しでもカイドウやレオヴァの姿を見ようと、爪先立ちになったり、前の者の肩越しに城の方角を覗き込んだりする姿があちらこちらで見られた。

 

少しでも良い場所を確保しようと昼前から待ち続けていた者もいれば、地方から何時間も掛けて花の都まで足を運んだ者もいる。

噂を聞きつけ、仕事を早々に切り上げて駆け付けた者までおり、ここへ来た事情はそれぞれ違っていても、広場全体を包む任命式への期待と好奇心、そして祝いの日を迎えた高揚感だけは共通していた。

 

「はは!やっとだ!

そろそろ任命式ってのが始まる時間だぜ!」

「楽しみだなぁ!」

待ち切れないとばかりの声が、人混みのあちらこちらから聞こえてくる。

少し離れた場所では、友人同士らしい男たちが肩を並べ、周囲の熱気につられるように興奮した声で話していた。

 

「おれ実はレオヴァ様見たことあるんだ

鈴後に行った時なんだけどよ!」

「本当かよ!? 羨ましいぜ!

ま、おれも今日見れるけどな

あ~!はやく始まらねぇかな!」

また別の場所では、レオヴァではなくカイドウの噂で盛り上がっている者たちもいる。

 

「明王様って龍になるらしいが本当かよ?」

「さぁ? あの処刑の時に龍になって飛んでったって話は聞いたぜ?

けどトンでもなく強いってのはきっと本当だ!

おれは遠目で見たことあるがあん時は腰抜かしたからな……」

「ええ…?そんなにかよ…」

一方、到着するのが遅かった者たちは遥か後方へ追いやられ、人垣の向こうを何とか見通そうと不満げに首を伸ばしていた。

 

「あ~!くそ!

前に陣取りたかったのによ……!

これじゃレオヴァ様にお会いできねぇよ…」

「落ち着けって!

……けど、確かにこの距離じゃお会いできねぇよな」

「カイドウ様にもおれァお会いしてぇのによぉ!」

「しょうがねぇよ……

今日は目出度い日なんだ問題起こすのは止そうぜ」

「……そうだな…」

もっとも、ここへ集まった全員が二人を慕い、心から任命を祝おうとしているわけでもない。

中には、単純に面白そうな見世物があると聞いて立ち寄った者や、噂ばかりが先行するカイドウとレオヴァを一度自分の目で確かめてみようという程度の者もいた。

 

「面白そうだし見てくか!」

「いいな!

おれもカイドウって奴がどんな奴か見たかったんだよ

強いっての本当かわかんねぇもんなぁ」

「ははは!たしかに!

レオヴァってのもガキだろ?

ちょっと見て、そしたらかわいい花魁にでも会いに行くか~!」

「そうしよう!」

レオヴァを心から慕う者、カイドウを明王として崇める者、噂だけを知って興味を持った者、そして二人についてほとんど何も知らない者まで、実に様々な立場の人間が一つの広場へ集まっていた。

 

だからこそ、今日の任命式には単なる百獣海賊団内の祝い以上の意味がある。

レオヴァという人物を、これまで直接知らなかった者たちへ広く見せる初めての場でもあった。

 

やがて、広場の前方から腹の底へ響くような大きな音が届いた。

ざわめいていた人々の視線が一斉に城前へ集まる。

整列していた百獣海賊団の者たちが規則正しく足を運びながら隊列を変え、その中央へ一本の道を作った。そこを通って姿を現したのは、見た目からして対照的な二人の大男だった。

 

一人は全身を黒く包み、背に巨大な翼を持つキング。

そして、その隣には奇妙な形のサングラスを掛けたクイーンが悠々と歩いてくる。

クイーンは広場を埋め尽くす群衆を満足そうに見渡すと、この瞬間を楽しんでいることを隠そうともせず、大きく息を吸い込んだ。

 

「よォ~!お前らァ~~!

お待ちかねの任命式の時間だ!」

その一声を合図に、長く待ち続けていた群衆の熱気が一気に爆発した。

 

「「「「うおおぉーー!!」」」」

「やっとレオヴァ様に……!」

「待ってたぜーー!」

「明王様ぁ~!!」

数え切れないほどの歓声が城壁へぶつかり、幾重にも反響して戻ってくる。

これほどの人数が同時に声を上げれば、足元の地面まで僅かに震えているのではないかと錯覚するほどだった。

 

クイーンは両手を広げながらその歓声を浴び、いかにも楽しげに笑っている。

対するキングは、この騒々しさそのものを煩わしく思っているのか、マスクの下で僅かに眉を寄せながらも黙って持ち場に立っていた。

 

その時、響き続ける歓声へ応えるように上空の雲が不自然な動きを見せ始めた。

 

最初は風に流されているだけだと思った者もいただろう。

だが、次第に空一面へ広がっていた雲は一つの流れへ引き込まれるように大きく渦を巻き、その中心を眩い閃光が走った。

 

一瞬遅れて、腹へ響くような雷鳴が轟く。

突然の光と音に驚いた群衆が一斉に空を仰ぐと、稲光が夜を迎えつつあった空を真昼のように白く染め、その直後には、先ほどまで広がっていた雲が何かに押し退けられるように大きく割れていった。

 

開けた夜空に姿を現したのは、二つの巨大な影だった。

 

一つは長大な身体を空へ這わせる巨大な龍。

古い絵巻物や神話の中でしか目にしたことのないような猛々しい姿で、雲の消えた空を悠然と進んでいる。

 

その隣を寄り添うように羽ばたいているのは、一羽の黄金の巨鳥だった。

大きく広げられた翼が動くたびに金色の羽が光を反射し、先ほどの雷の残光を纏っているかのような輝きが夜空へ散っていく。

 

広場から、いつの間にか声が消えていた。

つい先ほどまであれほど大きな歓声を上げていた人々が、今では呼吸さえ忘れたように空を見上げている。

 

カイドウが龍へ姿を変えるという噂を知っていた者も、レオヴァが黄金の鳥になるという話を耳にしたことのある者もいた。

それでも、実際に目の前へ現れた二体の巨大さと威容は、噂話から想像していたものとはまるで違った。

 

やがて龍がゆっくりと高度を落とし、その隣を黄金の巨鳥が翼を広げたまま滑るように降下してくる。

地上へ近付くほど、その身体がどれほど巨大なのかが嫌でも分かった。

 

巻き起こされた強い風が広場を駆け抜け、人々の髪や着物を大きく煽る。砂埃まで舞い上がり、思わず腕で顔を庇う者もいた。

二体が城前へ降り立つと、黄金の巨鳥の身体から一際強い光が放たれた。

あまりの眩しさに何人もの者が反射的に目を閉じ、光が弱まるのを待って恐る恐る瞼を開く。

 

そこに、先ほどまでの巨鳥の姿はなかった。

代わりに立っていたのは、長い黒髪と白い角を持つ凛々しい少年。

その隣では巨大な龍もまた人の姿へ戻り、髭を蓄えた逞しい大男が堂々と立っていた。

 

カイドウとレオヴァ。

二人の間には、体格にも年齢にも大きな隔たりがある。

それにもかかわらず、並んで立つ姿には不思議なほど似通ったものがあった。

 

確かな自信を宿した瞳と黒い髪、そして頭部から伸びる猛々しい角。

何も説明されなくとも、二人が親子なのだと自然に理解出来るほどだった。

 

群衆は未だ、目の前の光景へ圧倒されたまま声を取り戻せずにいる。

その静寂を最初に破ったのは、カイドウの力強い声だった。

 

「ウォロロロロロロ~!

おめぇらよくぞ集まった!!

今日は他でもねぇ…おれの自慢の息子、レオヴァを総督補佐官に任命するめでてぇ日だ!

他にも言いてぇこともあるが、時間もねぇ…早速任命式開始だ!!

今、この瞬間からァ…!!

レオヴァをこの百獣海賊団の総督補佐官に任命する!!!

異議のある奴ァ前へ出ろォ!」

 

最後の一喝が城壁を越え、花の都へ響き渡る。

その迫力にほんの一瞬だけ誰も動けずにいたものの、次の瞬間には沈黙していた群衆が堰を切ったように沸き上がった。

 

「「「レオヴァ様万歳~~!!!」」」

「おめでとうございますレオヴァ様ぁ!!」

「レオヴァ様にしか勤まらぬ素晴らしき役職よ!」

「カイドウ様!異議などあろう筈がございませぬ!!」

「キャ~!レオヴァ様~!」

「ハハハハ~!こりゃ目出度い……!」

「うおぉお~!やったぜ!レオヴァ様ァ……!」

「流石はカイドウ様!わかっていらっしゃる!

 レオヴァ様にこそ相応しい地位だ……!」

祝福と歓声が入り混じり、広場は先ほどを上回る熱気に包まれた。

 

異議を唱えて前へ出る者など一人もいない。

むしろ、異議があるという発想そのものを笑い飛ばすような勢いで、誰もがレオヴァの任命を喜んでいる。

 

その様子を見渡したカイドウは、いかにも満足そうに大きく口角を上げた。

父親として、自慢の息子が民衆からここまで祝福されている光景は壮観だ。

何より、息子の努力の結果が目に見える形で現れているのは気分がいい。

その感情は豪快な笑みから隠しようもなかった。

 

「ウオロロロロロ!!異議はねぇようだなァ…!

よし、レオヴァ!

お前からも何か言ってやれ」

カイドウに促されたレオヴァが一歩前へ出ると、それだけで先ほどまで騒ぎ続けていた人々が徐々に声を落としていった。

広場の前方から波が引くように静けさが広がり、やがて数え切れないほどの視線が、カイドウの隣に立つ一人の少年へ集中する。

 

レオヴァは、そんな群衆をゆっくりと見渡した。

今日初めて顔を見る者も多いだろう。

ここには自分を支持する者だけが集まっているわけではない。

だからこそ、その全員へ届くように、レオヴァは落ち着いた声で言葉を紡いだ。

 

「皆、ありがとう

おれは この総督補佐官という役職に恥じぬ働きをすると誓う…!

そして、これからも皆と歩んで行きたい

……付いてきてくれるだろうか?」

その問い掛けが終わると、ようやく静まったばかりの広場へ先ほど以上の熱気が戻ってきた。

 

「「「「もちろんです!レオヴァ様!!」」」」

「何処までも付いて行きまする…!!」

「レオ坊!死ぬまで付いてくに決まってんだろう!」

「ずっと…!貴方に付いていきます!」

「この身すべてをレオヴァ様の為に!!」

「う、うぅ……レオヴァさ"ま"~!生涯を"か"けてっ……つ"いていきます"!!」

中には、感極まって涙を流しながら声を張り上げる者までいた。

レオヴァは一つ一つの声を聞き取ろうとするようにゆっくりと視線を巡らせ、最後に穏やかな微笑みを浮かべた。

 

しかし、彼が伝えたい言葉はまだ残っている。

歓声が再び落ち着くのを待ってから、レオヴァはもう一度口を開いた。

 

「 今日初めておれを見た者、初めて知った者も多いだろう。

だからこそ、その皆の心にある疑問や不満を消すと誓おう!

…これからのおれの行動を見ていて欲しい!

そうすれば今感じているモノの答えが出るはずだ

 以上だ、話を聞いてくれて感謝する…ありがとう 」

 

その言葉は、とりわけ今日初めてレオヴァを目にした者たちへ強く響いた。

所詮は子どもだと侮っていた者もいる。

カイドウの息子という肩書きだけで高い地位へ就いたのだろうと考えていた者もいれば、編笠村や鈴後で語られている逸話など、人気によって尾ひれの付いた噂に過ぎないと思っていた者もいた。

 

しかし、実際に目の前へ現れたレオヴァは、数え切れないほどの視線を浴びても臆することなく、堂々と自分の言葉を口にしている。

しかも、自分を知らない者へ無条件に信用しろとは言わなかった。

今は疑っていて構わない。

これからの行動を見て、その上で判断してほしい。

そう受け取れる言葉だった。

 

そして、その言葉を裏付けるように、今日の朝からワノ国中の町や村へ、本人の祝いへ使われるはずだった食料や薬が届けられている。

まだ総督補佐官へ任命されたばかりだというのに、既に言葉と行動が一つに繋がり始めていた。

 

人々がその余韻を噛み締めている中、カイドウとレオヴァは長くその場へ留まることなく、再び空へ上がる準備を始めた。

カイドウの身体は巨大な龍へと変わり、レオヴァもまた黄金の巨鳥へ姿を変える。

二つの巨体が地上を離れた瞬間、広場からは再び大きな歓声が巻き起こった。

 

龍と巨鳥は互いの姿が見えるほど近い距離を保ちながら夜空へ昇り、そのまま花の都の上空を離れると、任命式を見ることの出来なかった町や村へ姿を見せるようにワノ国の空を飛んでいった。

 

 

その夜は、各地で大勢の人々が空を見上げていた。

朝に物資を受け取った辺境の村でも、昼間からその時を楽しみにしていた母親と子どもが星を眺めながら黄金の鳥が現れるのを待っている。

編笠村でも、鈴後でも、九里でも、そして名も知られていない小さな村々でも同じだった。

やがて遠くの空で雲を照らす雷が走り、その中を黄金の翼が横切ると、人々は指を差しながら次々と歓声を上げた。

 

任命式そのものは、決して長いものではなかった。

豪華な舞台もなければ、目を奪うような煌びやかな装飾も用意されていない。

それでも、その日を境にレオヴァという名を初めて強く意識した者は少なくなかった。

 

花の都で実際にその姿を見た者が家族や知人へ語り、物資を受け取った村人たちが別の土地へ話を伝え、夜空を飛ぶ黄金の巨鳥を目撃した者がさらに別の人間へその光景を語っていく。

 

そうした話は人から人へ、町から村へと渡り、一晩のうちにも驚くほどの速さで広がっていった。

 

結果として、豪華な舞台一つすら用意されなかった質素な任命式は、莫大な金を掛けた催しよりも遥かに広い範囲へ、レオヴァという存在を強く印象付けることになった。

 

 

──────────────

 

 

――任命式から数ヶ月。

 

花の都の城内、その一室で、黒炭オロチは落ち着きなく歩き回っていた。

 

卓上には政務に使う書状や報告書が広げられているが、どれにもまともに目を通してはいない。

少し歩いては足を止め、また数歩進んでは爪を噛む。その癖を何度繰り返したのか、指先には既に赤い血が滲んでいたが、それでもオロチは止められなかった。

 

数ヶ月前。

レオヴァが百獣海賊団の総督補佐官へ任命された時、オロチはむしろその式典が失敗することを期待していた。

 

豪華な舞台はない。

花魁や芸者を並べる予定もなく、権力者の催しでは当然のように使われる金銀の装飾や豪奢な道具も用意されていなかった。

 

花の都に暮らす華族や士族の多くは、財力と権威を目に見える形で示すことを重んじる。

そんな者たちの前へ、飾り気のない姿で現れればどうなるか。

 

所詮は海賊の子ども、金の使い方も知らない田舎者。

そう見下されるに違いない。

オロチはそう考えていた。

 

さらに、式典へ使える時間についても意図的に制限を掛けた。

レオヴァが城前の広場を借りたいと申し出てきた時の会話を、オロチは今でもはっきり覚えている。

 

『城の前を何時間も占領されるのは困る!』

表向きは、城の出入りや政務へ支障が出るため。

そういう理由にしていた。

レオヴァは特に反論することなく、静かに問い返してきた。

 

『そうか

では、オロチ殿…どれくらいなら良いだろうか?』

ここで厳しい条件を出せば、さすがに諦めるだろう。

そう考えたオロチは、わざと短い時間を提示した。

 

『そうだなぁ…小半時だけなら譲歩しよう!

どうだ? まさかこれ以上とは言うまいなぁ?

(ふんっ……小半時なんぞで何ができる……!

ワノ国のやつらの前での式など取り止めろ!)』

小半時程度では、大規模な催しなど出来るはずがない。

舞台を使った演出も、芸を披露させる時間も、長い演説も難しい。

そのためだけに大勢を集めるくらいなら、いっそ中止にするのではないか。

オロチはそう踏んでいた。

だが、レオヴァは僅かに考えただけで、あっさりと了承した。

 

『……了解した。

オロチ殿の心の広さには痛み入るばかりだ

では、小半時の時間…門前を貸してもらうということで』

予想していなかった返答に、オロチは思わず聞き返した。

 

『あ、え? や、やるのか?

小半時だぞ…!? その為だけに!?』

『あぁ、おれの管理している村の皆が楽しみにしていてな

いや、本当にオロチ殿から許可が出てありがたい限りだ』

『許可などっ…!』

反射的に言葉を返しかけたところで、レオヴァが僅かに首を傾げる。

 

『ん? 小半刻ならば良いとオロチ殿は仰ってくれただろう?

……そうだ、オロチ殿も参加なさるか?』

自分から許可した以上、今さら撤回すれば嫌がらせだったと認めるようなものだ。

オロチは内心で歯噛みしながら、無理に笑みを作った。

 

『(こやつめっ……)

いや、ワシは忙しいからな。

残念だが行けそうにもない』

『それもそうか

忙しいオロチ殿のことを考えるべきだった

…申し訳ない……

では、そろそろ失礼させてもらう』

『あ、あぁ!ではな!

 くるしゅうないぞ』

あの時は、まだ勝ったつもりでいた。

 

時間は削った。

予算も少ない。

派手な舞台もない。

これならレオヴァが大衆の前へ出ても、華族や士族から侮られるだけだろう。

 

ところが、実際の任命式はオロチの予想をことごとく裏切った。

レオヴァは金で豪華さを作る代わりに、自らの能力そのものを演出へ使った。

 

夜空を覆っていた雲が雷と共に開き、そこへ龍となったカイドウと黄金の巨鳥へ姿を変えたレオヴァが並んで現れる。

それだけで、花の都に集まった者たちの目を奪うには十分だった。

 

いくら金銀を積み上げたところで、神話の中にしか存在しないような龍と黄金の鳥が空から降りてくる光景には敵わない。

しかも、小半時という短ささえ、結果的にはレオヴァに有利に働いた。

 

長々とした余興も挟まず、強烈な登場からカイドウによる任命、レオヴァ本人の言葉までが途切れることなく続いたことで、民衆には式全体が一つの鮮烈な印象として残った。

そして、何よりもオロチの計算を狂わせたのは、任命式と同じ日にワノ国中へ大量の食料や薬、織物が配られていたことだった。

 

自分を祝うために用意されていた資金を民へ回し、それでも足りない分には自らの金を使ったという。

花の都まで来られない者のためには音貝へ言葉を吹き込み、式が終わった後には、自ら黄金の巨鳥となってカイドウと共にワノ国の空を飛んだ。

その結果、本来なら「金を掛けられない質素な式」として笑われるはずだったものが、全く逆の意味を持ってしまった。

 

自分のために金を浪費せず、民のために使ったからこそ飾り付けがない。

いつの間にか、そう受け取られていた。

オロチが仕掛けたはずの制限は、結果としてレオヴァの評判を押し上げる一因にしかならなかった。

言ってしまえば、任命式は大成功だったのだ。

 

そして数ヶ月が経った今。

オロチが焦っている原因は、それだけではない。

 

そもそも彼は、以前からレオヴァという存在を好ましく思っていなかった。

名目上では、編笠村も鈴後も九里も、あくまでワノ国の土地だ。

将軍であるオロチが治める領地の一部を、カイドウとの取り決めによってレオヴァへ管理させている。

少なくとも、形の上ではそうなっている。

 

だが実態を見れば、とてもその程度の関係とは思えない。

編笠村の者たちはレオヴァを慕い、鈴後の民も彼を恩人として扱い、九里に至っては住民たち自身がレオヴァの民であることを望んでいる。

何か問題が起きれば、彼らが頼るのは将軍ではなくレオヴァだ。

 

さらに厄介なのは、レオヴァが管理した土地を次々と豊かにしていることだった。

それこそが、オロチには何より面白くない。

ワノ国の人間など、全員が苦しめばいい。飢えればいい。

 

貧しさの中で希望を失い、自分がかつて受けた苦しみを同じように味わえばいい。

自分を虐げたこの国の者たちに、幸せなど必要ない。

 

そのはずなのに、レオヴァの手へ渡った土地では全く逆のことが起きていた。

編笠村では仕事が増え、農地が整備され、以前とは比較にならないほど安定した生活を送る者が増えた。

鈴後では復興が進み、荒れた土地へ少しずつ人と物が戻っている。

そして九里も、かつて飢餓に苦しみ、先行きの見えなかった土地だったとは思えないほど急速に立て直されていた。

 

近頃では、その三つの土地について「花の都と比べても遜色ないほど豊かだ」という噂まで流れている。

中には、花の都より暮らしやすいと口にする者すらいるらしい。

 

そんな報告を耳にするたび、オロチの腹の底には苛立ちが募った。

自分を虐げてきたワノ国の民が、何故幸せそうに笑っている。

到底、許せるものではなかった。

 

更に、レオヴァの影響力は三つの土地だけに留まっていない。

任命式を境に名前は国中へ広がり、物資を受け取った村々でも好意的に語られるようになった。

それまで直接レオヴァと関わりのなかった者まで、編笠村や鈴後、九里の話を聞き、自分たちの土地も同じようになればと期待し始めている。

 

中でもオロチが警戒しているのは、レオヴァへ強い忠誠を向ける者たちの存在だった。

単なる人気ではない。

レオヴァのためなら命を惜しまないと公言する者までおり、花のヒョウ五郎を始めとした侠客たちも、今では完全に彼の側へ付いている。

 

そして最近では、オロチ自身の家臣にまで変化が見え始めていた。

そもそも、将軍の周囲にいる全員が忠誠心だけで仕えているわけではない。

金。

役職。

権力。

そうしたものを求め、オロチへ媚びを売っていた者も多い。

 

その連中が、近頃ではレオヴァの前でもやけに愛想良く振る舞うようになった。

自分よりもレオヴァへ取り入った方が、今後より良い立場を得られるのではないか――そんな思惑が透けて見える度に、オロチの中では将軍の座そのものを脅かされているような焦燥が膨らんでいった。

 

自分はこの地位を得るために、どれだけのものを費やしてきたと思っている。

ようやく手に入れた。

自分を虐げた者たちを見下ろし、好きなように支配出来る地位を。

それが今、まだ十代の少年によって少しずつ足元から削られている。

 

そう思うと、血の滲んだ指先を口元から離すことすら出来なかった。

そんなオロチを長く見ていたせみ丸が、とうとう呆れ混じりに声を掛ける。

 

「落ち着きなすって…オロチ様」

「落ち着いていられるか!!

あ、あのカイドウの息子っ…!

おれを……殺すつもりに決まってる!!」

勢いよく振り返ったオロチの顔には、怒りだけではなく明確な怯えが浮かんでいた。

せみ丸はその姿を見ながら、静かに現実を突き付ける。

 

「……じゃあ、どうするってんです

カイドウの息子であるレオヴァに手を出せば、ただじゃあ済まないでしょう

…それに民衆や手強い侠客共も黙っちゃいない、今レオヴァの支持率はあの頃のおでんなんて比じゃねぇでしょうな」

オロチの顔がさらに険しくなる。

そんなことは、自分でも分かっている。

 

レオヴァへ正面から手を出せば、まずカイドウが黙っていない。

キングやクイーンを始めとした百獣海賊団も敵へ回る。

それだけでも恐ろしいというのに、今ではヒョウ五郎たち侠客や、各地の民衆までレオヴァを支持している。

おでんを始末した時とは状況が全く違う。

 

「ワシとて、それはわかっておる!!

だから悩んでるんだ……あぁ……どうすれば…

…そうだ、婆さんの能力でなんとかアイツの評価をさげれば……!」

思い付いたように顔を上げたオロチの視線が、部屋の一角へ向いた。

そこには黒炭ひぐらしがいる。

マネマネの実。

一度顔へ触れた人間の姿へ自在に化けることが出来る能力。

かつて光月家を陥れる際にも、その力は大いに役立った。

ならばレオヴァの姿を奪い、彼本人を装って民衆の前で何か問題を起こせば、今の評判を落とすことも出来るのではないか。

しかし、ひぐらしはオロチの考えを聞くなり、露骨に顔をしかめた。

 

「バカ言うんじゃないよ…!!

わしの能力はバレちまってんだよ?

あの小童、顔に触れるどころか近付くことすらさせないよ!」

オロチが言葉を詰まらせる。

思い返してみれば、確かにそうだった。

レオヴァは必要があれば自分たちと会話もするし、表面上は礼儀正しく接する。

露骨に警戒しているような態度も取らない。

 

だが、その距離感が絶妙なのだ。

いつの間にか一定以上近付けなくなっており、ひぐらしが自然に顔へ触れるような機会など一度も出来ていない。

せみ丸も、それには思い当たる節があったらしい。

 

「ううむ……確かに

言われて見れば、レオヴァという男…ワシらと一定の距離を保つのが上手ぇ

しかもそれを自然とやってのけちまってる」

「そうじゃ!あやつの警戒心は異常じゃ!!

わしの力じゃ顔を奪うのは至難の技、下手なことをしてバレでもしたら…………」

ひぐらしは、その先を口にしなかった。

だが、全員が同じことを想像した。

能力について知られている状態で、わざとレオヴァの顔へ手を伸ばしたと気付かれれば、ただでは済まない。

レオヴァ本人がどう動くかも分からないうえ、その話がカイドウへ伝われば尚更だ。

 

「っ……な、ならどうする!?

このままではレオヴァはこの国を、ワノ国を良くしちまう!!!

そんな事は絶対にあっちゃならない!そうだろう!?」

オロチの怒声が室内へ響いた。

せみ丸もひぐらしも、すぐには答えられない。

 

力で排除するのは危険すぎる。

評判を落とそうにも、ひぐらしの能力は警戒されている。

単純な悪評を流すだけでは、既に実際の恩恵を受けている編笠村、鈴後、九里の民が信じるとは思えない。

 

何より、レオヴァは今も新たな政策を進め続けている。

一つ対策を考えている間に、また一つ実績が増えていく。

二人が黙り込んだことで、オロチの焦燥はいっそう強まった。

 

「なにか……絶対になにか方法があるはずだ…!

相手はたかだか十代のガキだぞ!?」

十代の子ども。

そう口にすることで、どうにか自分へ言い聞かせようとしているようだった。

相手は子どもなのだから、必ずどこかに隙がある。

そうでなければ困る。

そうでなければ、自分が長い年月を掛けて掴み取った将軍という地位が、ただの少年に脅かされているという事実を認めなければならなくなる。

 

だが、オロチがどれほど悩もうと、外で進んでいる変化まで止まってはくれない。

程なくして廊下の向こうから慌ただしい足音が響き、一人の家臣が新たな報告を携えて部屋へ向かってきた。

それは、レオヴァがまた新しい政策へ着手したことを知らせるものだった。

任命式以来、膨らみ続けていたオロチの焦りへ、さらに追い打ちを掛ける報告が届くのは、このすぐ後のことである。

 

 




感想でおでん様生存ifの話しがあって確かに面白そう!と思いました!
他にもカン十郎の話しだったり、民衆目線の感想も……!
ONE PIECEの世界観から考えた考察兼感想だったり……もう博識者の方です?としか言い様のないほど濃い感想もありました!
ナチスドイツとか歴史の話を織り込んで感想くださる方々頭良すぎません?読むの楽しすぎてお昼休みが一瞬で溶けました!

本当に貴重なお時間使ってまで感想くださりありがとうございます!
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