俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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ONE PIECEの世界の住人の単純さにニッコリな今日。

前回も感想、誤字報告感謝です……!!


2026/9/2 加筆修正





行動で示した男

 

編笠村、鈴後、九里。

かつてそれぞれに異なる問題を抱えていた三つの土地は、今では訪れた商人たちが「ここだけ別の国のようだ」と口を揃えるほど、大きく姿を変えていた。

 

朝になれば農地へ向かう者たちの声が聞こえ、工場からは鉄を打つ規則正しい音が響く。

整えられた畑では農民たちが額に健康的な汗を浮かべながら野菜や果物を育て、収穫の時期になれば荷車いっぱいの作物が村の中を行き交った。

 

工場で働く者たちの意欲は高く、技術を磨こうとする職人たちの手によって、日々多くの武器が作られている。

 

さらに村の一角では、守護隊の者たちが訓練に励む姿が見られた。

武器を扱う稽古や体力作りだけではない。

訓練を終えれば子どもたちを集めて読み書きや計算を教え、困り事があれば相談へ乗り、村の中を巡回しながら異変がないか確かめることも、彼らの仕事の一つだった。

 

そんな穏やかな日常が、今では三つの土地すべてに根付いている。

 

だが、わずか四ヶ月ほど前までは、この豊かさそのものが新たな問題を生んでいた。

暮らしが安定し、食料や金、人が集まるようになれば、それを狙う者も現れる。

特に問題となったのが、夜になると村へ忍び込んでくる山賊や盗人だった。

 

ワノ国では日が沈めば辺りは急速に暗くなり、月の出ていない夜ともなれば、灯りのない道では数歩先を見ることさえ難しい。

家々から漏れる僅かな光だけを頼りに歩かなければならず、その暗さは悪事を働く者にとって格好の隠れ蓑になっていた。

 

見張りを増やしてみたこともある。

夜道を一人で歩かないよう決まりを作ったこともあった。

家々で松明を用意したこともある。

だが、どれも根本的な解決にはならなかった。

 

人手には限りがあり、松明も一晩中燃やしておけるわけではない。

女や子どもたちは日が落ちる前に急いで家へ戻り、暗くなれば出来るだけ外へ出ないという生活を続けていた。

 

そんなある日。

村の様子を確認するため訪れていたレオヴァへ、一人の幼い子どもが泣きながら駆け寄った。

 

『レオヴァさま……よるね、こわい人くるのっ!』

震える声で訴える子どもを見て、レオヴァはすぐに足を止めた。

泣いているからと適当に宥めるのではなく、その場へ腰を落として視線の高さを合わせると、夜になると何が起きるのか、いつ頃から怖い思いをしているのかを一つずつ聞いていった。

 

周囲にいた大人たちも事情を説明する。

盗みに入られた家。

帰宅途中で襲われた者。

夜道を歩けなくなった女や子どもたち。

それまで村人たちなりに対策を試してきたものの、決定的な方法が見つからなかったことまで話し終えると、レオヴァの表情はすっかり真剣なものへ変わっていた。

 

 

『そうか、そんな事になっていたとは…

だが大丈夫だ、直ぐにおれが何とかしよう

 …今まで怖いのによく頑張ったな、偉いぞ。』

そう言って、レオヴァは子どもの頭を優しく撫でた。

大きな手が髪をゆっくりと撫でるたび、先ほどまで泣き続けていた子どもの表情から少しずつ不安が消えていく。

やがて涙を拭い、安心したように笑った子どもを見て、周囲の大人たちも自然と表情を緩めていた。

 

そしてレオヴァは、その場で口にした言葉通り、ほとんど間を置かずに対策へ動いた。

数日もしないうちに、村へ見慣れない柱が次々と立てられ始めた。

 

道沿いへ一定の間隔で設置されていくそれを見て、村人たちは初め何のための物なのか分からず、工事の様子を遠巻きに眺めていた。

レオヴァは、それを“街灯”と呼んだ。

意味を知ったのは、最初の夜だった。

 

日が沈み、いつもなら道の輪郭さえ闇へ溶け込む頃。

道沿いに立てられた街灯が、一斉に明るい光を放った。

松明のように炎が揺れることもなく、風が吹いても消えない。

一定の高さから白く安定した光が広がり、道の端から端までを照らしている。

今までなら自分の足元を確かめるだけでも慎重にならなければならなかった道を、数十歩先まで見通すことが出来た。

 

初めてその光景を見た夜、村中から驚きの声が上がった。

家から出てきた子どもたちは街灯の下へ集まり、不思議そうに何度も上を見上げている。

夜に外へ出ることを避けていた女たちも、恐る恐る道を歩いてみて、昼間とまではいかずとも周囲の人影がはっきり確認出来ることに喜んだ。

 

特にありがたかったのは、暗闇へ紛れて何者かが近付いてくる恐怖が大きく減ったことだった。

人がいればすぐ分かる。

道の隅へ隠れようとしても、以前ほど簡単ではない。

たったそれだけのことで、夜道の意味そのものが変わった。

 

しかも、この不思議な灯りには油も薪も必要ないのだという。

村人が聞いた話では、街灯を動かすための力は“電気タンク”という物へ蓄えられ、レオヴァと、その近衛に選ばれたカヅチが定期的に補充しているらしい。

 

カヅチはレオヴァから直々に不思議な力を授けられ、電気を扱うことが出来る。

その話を聞いた時、多くの村人は驚きながらも、妙に納得したものだった。

 

雷を従え、黄金の鳥へ姿を変えるレオヴァ。

その近衛として選ばれた者が電気を操るというのだから、村人たちにとっては、人知を越えた主から力を授けられたようにさえ感じられた。

何より、ワノ国の人間の中で誰より早くレオヴァの側近として認められたというだけで、カヅチを見る目にも自然と敬意が混じる。

 

だが、レオヴァが用意した対策は街灯だけではなかった。

夜道を明るくして犯罪を起こしにくくするだけでは、完全に悪人を排除することは出来ない。

 

そこで新たに作られたのが、“守護隊”という仕事だった。

守護隊へ選ばれた者たちは、山賊や盗人から村を守るため日々訓練を受けた。

単に村の入口へ立っているだけではなく、夜になれば数人ずつで巡回し、不審な者が入り込んでいないか確かめる。

問題が起きればすぐ駆け付け、昼間には武術や体力作りの稽古を重ねていた。

 

さらに、守護隊の仕事は治安維持だけではない。

訓練を受けた者の中には読み書きや計算が出来る者もおり、そうした者が子どもたちへ勉強を教える時間も設けられた。

 

村の中で何か困っている者がいれば手を貸す。

老人の荷物を運び、壊れた道があれば修繕を手伝い、迷子になった子どもがいれば家まで送り届ける。

 

そうして日々、村人たちの暮らしへ関わるうちに、最初は聞き慣れなかった“守護隊”という名前も、自然と村へ馴染んでいった。

街灯が夜の闇を照らし、その道を守護隊が巡回する。

二つが揃ってから、夜の犯罪は目に見えて減った。

 

女たちも夕食の買い物で少し遅くなる程度なら、それほど怯えなくなった。

夜道を歩くことそのものが恐怖だった頃を思えば、大きな変化だった。

 

そして守護隊は、いつしか職人と並び、村の若者たちが憧れる仕事の一つになっていた。

自分の家族や友人を守れる。レオヴァの作った仕組みの中で、村の役に立つことが出来る。

 

そう考えて志願する者が後を絶たなかった。

その夜も、一人の村人が仕事を終え、街灯に照らされた道をゆっくりと歩いていた。

昔なら、手に持った小さな灯りを頼りに周囲を警戒しながら急いで帰った道だ。

だが、今は少し離れたところまで見通せる。

巡回中の守護隊とすれ違えば、互いに軽く挨拶を交わす余裕すらあった。

 

家々からは夕餉の匂いが漂い、遠くでは子どもの笑い声が聞こえている。

これが当たり前になりつつあることが、何より嬉しかった。

 

男は歩きながら街灯の光を一度見上げると、今日も変わらず、この暮らしを与えてくれたレオヴァへ心の中で感謝を捧げた。

 

──────────────

 

 

同じワノ国でも、レオヴァがもたらした変化は編笠村、鈴後、九里だけに留まってはいなかった。

 

任命式からしばらく経った頃。

ある工場の近くにある村でも、人々の暮らしは大きく変わり始めていた。

 

その村で暮らす一人の女は、時折、数ヶ月前までの景色を思い出すことがある。

当時、工場周辺の自然は酷く荒れていた。

木々は葉を落とし、地面には草すらまともに生えない場所が増えていた。

鼻を刺すような異臭が漂う日もあり、川や井戸の水は濁り、飲めば腹を壊すどころか高熱を出して寝込む者までいた。

近隣に棲んでいた生き物も汚染の影響を受けていた。

獲った魚を食べれば体調を崩す。

野山で捕まえた獣も、肉の色や匂いがおかしく、食料として使うことが出来ない。

 

畑も同じだった。

汚れた水では作物が満足に育たず、どうにか実を付けた野菜や果物でさえ安全とは言えない。

飢えに耐えられず口へした者が、その後三日三晩寝込んだことも珍しくなかった。

さらに村を追い詰めたのが、原因の分からない病だった。

 

高熱。

激しい腹痛。

身体から力が抜け、何日も起き上がれなくなる者。

一人が倒れれば家族へ広がり、やがて近所でも同じ症状を訴える者が出る。

原因も治し方も分からない。

そんな状況では、不安が迷信へ変わるのも早かった。

 

病に罹った者を「モノノ怪と契約したのだ」と責め、近付くことすら嫌がる者まで現れた。

具合が悪いだけでも辛いのに、今度は人として扱われなくなる。

病人を抱えた家族も、周囲から避けられる。

 

誰もが疲れ切っていた。

水も駄目。

食べ物も満足に手に入らない。

病気になっても薬すらない。

そんな暮らしがいつまで続くのか分からなかった。

 

 

しかし、今では同じ場所だとは思えないほど状況が変わっている。

工場周辺には少しずつ緑が戻り始め、濁っていた水も以前とは比べ物にならないほど澄んでいる。

川では再び魚の姿が見られるようになり、捕ったものを調べても以前のような汚染は確認されなくなった。

肉や魚を食べても、もう身体を壊さない。

それだけでも村人たちにとっては奇跡のようだったが、最も大きかったのは、長く村を苦しめていた病が姿を消したことだった。

 

ある日、レオヴァのもとで働く船医たちが村へやって来た。

彼らが持っていたのは、これまで誰も知らなかった薬。

この土地で流行していた病へ効く特効薬だという。

 

村人たちは最初、金額を聞くことすら怖かった。

これほどの薬なら、到底自分たちに払える額ではないだろう。

そう思っていた。

 

ところが、薬は無償で配られたのだ。

その事実を聞いた時のことを、女は今でも忘れられない。

薬を受け取った村人たちは、その場で泣いた。

 

治るかもしれない。

家族を失わずに済むかもしれない。

絶望しかなかった者たちが互いに抱き合い、声を上げて喜んだ。

そして実際に、薬を飲んだ者たちの症状は少しずつ改善していった。

あれほど村中へ広がっていた病人の呻き声も、時間と共に聞こえなくなっていった。

 

では、いつから全てが変わったのか。

村人たちは皆、その答えを知っている。

ワノ国にある工場の管理権が、レオヴァの手へ渡ってからだ。

 

工場管理の統括となったレオヴァは、就任するとほとんど間を置かず、それまでの方針を大きく変えた。

最初に調べさせたのは工場の生産量だけではない。

そこで働く者たちがどのような環境で仕事をしているのか。

工場から出る物によって、周辺の村で何が起きているのか。

水。

土。

食料。

病人の数。

そうしたものまで調べさせた。

 

その結果、ほぼ全ての工場周辺で似たような病が広がっていることが分かると、レオヴァは船医たちと共に特効薬の開発を進めた。

 

だが、病人へ薬を渡すだけでは終わらなかった。

治しても、同じ環境で暮らしていればまた病気になる。

再発を防がなければ意味がない。

 

そう言って、今度はワノ国の水そのものへ手を付けた。

それは、レオヴァが“上下水道”と呼んだ仕組みだった。

 

それまで生活へ使う水も、工場から流れ出す汚れた水も、完全に分けられているわけではなかった。

そこで綺麗な水を村へ送る道と、使い終えた汚水を流す道を分け、さらに汚れた水を“ろ過”してから処理するための施設まで造られた。

 

工事が始まった当初は、村人の多くが何をしているのか分からなかった。

地面を掘り、管を通して大きな施設を建てる。

 

見慣れない作業ばかりだった。

だが、完成して初めて水を使った日の驚きは大きかった。

 

濁っていない。臭いもない。

口へ含んでも、以前のような嫌な味がしない。

飲んだ翌日に腹を壊すこともない。

 

安全な水が、当たり前のように手に入る。

その環境が整ってから、村を苦しめていた病は目に見えて減り、やがて新たな感染者をほとんど見なくなった。

 

もちろん、水を使うための対価は必要になった。

ひと月に一度、“水賃”と呼ばれる金を納める。

 

その話を最初に聞いた時、村人たちは皆身構えた。

これほど安全な水を使わせてもらえるのだ。

一体どれほど高い金を要求されるのか。

また生活を圧迫するほどの負担が増えるのではないか。

ところが、提示された金額を見て、今度は違う意味で言葉を失った。

 

驚くほど軽い。

しかも、その金さえ用意出来ない者には、レオヴァ側から提示される仕事を一日こなせば、それを支払いの代わりにして良いという。

 

綺麗な水を使う対価を求める。

そう聞いて震えていた村人たちは、あまりに想像と違う条件に呆気に取られた。

 

本当に、これだけで良いのか。

誰もが疑った。

その時、レオヴァ本人から説明を受ける機会があった。

 

『水は生きていく上で絶対に必要なものだ。

その水に高価な対価を求めたら皆の生活はどうなる?

…本当であれば無償化したい。だが、ろ過施設で働く者にも賃金が必要なんだ。

完全な無償化は無理だ……しかし、これからより良くしていく為の資金だと思ってほしい』

 

村人たちは、その言葉を聞いてすぐに首を振った。

無償でなければ嫌だなどと、誰が言えるだろう。

 

施設で働いている者たちにも家族がいる。

その者たちが生活するためには賃金が必要で、壊れた設備を直したり、今後さらに良いものへ変えたりするためにも金は要る。

そんなことは、自分たちにだって分かる。

 

それよりも毎日安全な水が飲め、病に怯えずに済む。

そのために必要な金だというのなら、喜んで払いたい。

村人たちが口々にそう訴えると、レオヴァは少し意外そうに目を見開いた。

そして、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

 

『ありがとう

 必ずや皆の期待に応えよう』

あの日に聞いた声を、女は今でもよく覚えている。

 

けれど、村の全てが良くなったわけではない。

彼女たちの暮らす土地は今も、オロチ直属の大名によって管理されている。

そのため、村へ課される上納金をレオヴァが勝手に減らすことは出来ない。

村全体の方針を自由に決める権限もない。

工場の管理権は持っていても、その土地の大名ではないからだ。

 

それでもレオヴァは“工場を管理するため”という名目を使い、出来る範囲を少しずつ広げながら村人たちを助けていた。

工場が原因で病人が出れば、生産にも影響する。

働く者が飢えれば、工場は動かない。

周辺の水が汚れていれば、長期的な管理に問題が出る。

そうした理由を積み重ねながら、生活環境へ手を入れている。

 

裏でオロチや大名たちとの間に、何の争いもないはずがない。

村人たちは政治に詳しいわけではなかったが、それくらいは分かっていた。

 

レオヴァが何かを始めようとするたび、大名側から文句が出る。

工事が一時的に止まりかけることもあった。

必要な許可がなかなか下りないこともある。

それでもレオヴァは投げ出さず、その度に別の方法を探していた。

 

だからこそ、村人たちの側にも一つの思いが強くなっていった。

自分たちも、何か役に立ちたい。

一方的に助けられているだけではいられない。

 

任命式の日。

レオヴァは、これからワノ国の民が飢えずに済むよう努力すると言った。

口だけなら何とでも言えるから、行動で示すとも。

そして実際に、その言葉を守ろうとしている。

工場の管理権という限られた立場しかない中で、病を治し、水を綺麗にし、働く者の環境まで変えてくれた。

 

そんな相手が自分たちのために身を粉にして働いているのに、何もせず見ているだけなど出来なかった。

ある時、村人たちはレオヴァへ、何か自分たちにも出来ることはないかと懇願した。

何でも良い。

荷物を運べと言うなら運ぶ。

働けと言うなら働く。

必要なら、もっと工場の仕事を覚える。

そう訴えた彼らに対し、レオヴァは困ったように、それでいて嬉しそうに微笑んだ。

 

『ありがとう。

皆のその気持ちだけで十分だ

工場管理統括として出来ることは少ないが…

……出来る限りのことはしていく』

そして、自分に出来ることが少ないせいで、皆の苦労を十分に減らしてやれず申し訳ないとまで言った。

その言葉を聞いた村人たちは、慌てて否定した。

 

少なくなどない。

謝る必要など、どこにもない。

以前の自分たちがどんな生活をしていたかを思えば、レオヴァがどれほど多くのものを変えてくれたのかは明らかだった。

 

確かに今でも、オロチから課せられる上納金は重い。

大名やその家臣たちからの扱いも、以前とほとんど変わらず酷いままだ。

それでも、あの頃はそんな扱いを受けながら、水も食料もなく、病気になれば治す術すらなかった。

 

今は違う。

口へしても身体を壊さない綺麗な水がある。

飢えずに済むだけの食べ物も少しずつ手に入るようになった。

そして何より、自分たちをただの労働力や納税のための道具ではなく、“人”として扱ってくれる者がいる。

その存在が、村人たちにとってどれほど大きな救いになっているか。

レオヴァ本人は、きっと完全には分かっていないのだろう。

 

困っているから助ける。

必要だから環境を整える。

本人にとっては、それだけなのかもしれない。

けれど、明日も同じ苦しみが続くのだと諦めていた者たちにとって、自分たちの味方でいてくれる者がいるという事実だけでも、未来の見え方は大きく変わった。

 

その夜。

女は清潔な水で身体を洗い、腹を空かせる心配もなく布団へ入った。

目を閉じれば、村を訪れた時に見せてくれたレオヴァの顔が思い浮かぶ。

上に立つ者らしい落ち着きを持ちながら、それでもまだ年相応の幼さが僅かに残る、優しい微笑み。

 

自分たちは、あの人に救われている。

そう思いながら。

女は今日も変わらぬ感謝を胸に、静かに眠りへ落ちていった。

 

──────────────

 

 

林を抜けた先、海へ突き出した崖の近くで、何人もの男たちが息を切らしながら必死に逃げていた。

足元の土は乾き、踏み込むたびに細かな砂が舞う。

背後からは一定の間隔で草木を踏み分ける音が近付き、その度に男たちは肩越しに振り返った。

 

追っているのは一人だった。

深く浪人笠を被り、表情のほとんどを隠した男。

 

だが、その歩みには焦りがない。

逃げる者たちがどれだけ距離を取ろうとしても、気付けばまたすぐ後ろまで迫っている。

そして一人、また一人と追い付かれるたび、鈍い斬撃音と共に仲間が倒れていった。

追われる側には、何故こうなっているのか理解出来ない。

 

言われた通りに仕事はしたはずだった。

指定された村へ向かい、夜を狙って襲撃を繰り返した。

金や食料を奪い、その一部も約束通り渡している。

簡単な仕事をこなせば、もっと大きな組織へ雇ってもらえる。

そう聞かされていたからこそ、危険を承知で引き受けたのだ。

 

それなのに。

今、自分たちを追っているのは、その仕事を持ち掛けてきた側の人間だった。

とうとう逃げ道が途切れた。

 

前には切り立った崖。

その先には、暗い海が広がっている。

横へ逃げようとしても林は遠く、背後では浪人笠の男がゆっくりと歩みを止めた。

生き残った者たちは完全に追い詰められ、互いの顔を見合わせながら後退する。

 

「ま、まってくれ……!!

おれたちゃ言われた通りッ……ちゃんと仕事はしたぞ!?」

一人が震える声で叫ぶ。

 

「そ、そうだ……!しっかり村を襲って!

奪ったもんの半分だって、しっかり渡したよなぁ!?」

別の男も必死に続けた。

 

「話がちがう!簡単な盗みをすりゃ、おいら達を雇ってくれるって!」

誰もが、何とか話せば助かると思っていた。

約束を守ったのだから、自分たちを殺す理由はない。

少なくとも、そう信じたかった。

 

だが浪人笠の男は、彼らの訴えを聞いても足を止めず、腰の刀へ手を掛けると、静かに鞘から抜く。

月明りを受けた刃が一瞬だけ鈍く光った。

 

「ま、待てって!」

一人が両手を上げて後ずさる。

その声が最後まで続くことはなかった。

浪人笠の男が地面を蹴った次の瞬間には距離が消え、横薙ぎに振るわれた刀が首元を正確に通り抜けていた。

身体から力を失った男が崩れ落ちるより早く、次の標的へ刃が向かう。

慌てて逃げようと背を向けた者も。

命乞いを続けようとした者も。

一人として逃がさなかった。

 

最後の一人が地面へ倒れた後、崖に残ったのは潮風と荒い波音だけだった。

浪人笠の男は刀に付いた血を軽く払い、倒れた者たちの首を一つずつ確認していく。

 

仕事は終わった。

生き残りはいない。

それを確かめると、男は遺体を崖の端まで引きずり、順番に海へ投げ捨てていった。

重い身体が水面へ落ちるたび、大きな水音が響く。

やがて最後の一人まで海へ消えると、浪人笠の男は血の付いた刀を見下ろしながら、満足そうに息を吐いた。

 

「馬鹿な奴らめ…

…あぁ、だが主の役に立ったのだ!

奴らのような塵共には余りあるほどの名誉よ!」

その声には、死者への哀れみなど欠片もない。

むしろ、自分たちが利用された末に処分されたことさえ、主の役に立てたのだから名誉だと本気で考えているようだった。

男は柄を握る手へ僅かに力を込める。

頭へ浮かぶのは、自分を拾い上げ、居場所を与えた主の姿だった。

 

「斬るべきものは斬った…

……主の下へと急ぐか……おれがお守りしなければ…そう、おれが…」

呟きながら刀を鞘へ収める。

そして崖へ背を向けると、何事もなかったかのように林の中へ姿を消した。

あとに残ったのは、潮風に混じる血の匂いだけだった。

 

──────────────

 

 

その頃。

レオヴァのいる部屋では、先ほどの襲撃について別の話が交わされていた。

クイーンは大きな身体をくつろがせ、いつものようにおしるこの器を片手へ持っている。

匙で中身を掬いながらも、意識はしっかりレオヴァへ向いていた。

 

「で、レオヴァ本当にあの野郎に任せて良かったのかよ?

絶対に話を洩らさないようにするならキングのマヌケ

…まぁ、どうしてもっつーならおれ様が殺っても良かったしよォ」

言葉の最後で首を傾げながら、おしるこを一口啜る。

 

クイーンにとっては、今回の人選がどうにも腑に落ちなかった。

秘密を守ることだけを考えるなら、キングへ任せるのが最も確実だ。

自分でも構わない。

必要なら、その場にいた者を全員始末する程度のことは難しくない。

 

わざわざカヅチへ任せる理由が分からなかった。

その隣にいたジャックも、同じように思っていたらしい。

クイーンの言葉へ頷くようにしながら、少し不満そうに口を開く。

 

「……おれだって、できる…です!

兄御たちが いそがしいなら言ってくれりゃ……」

秘密を守りながら相手を倒せばいいだけなら自分にも出来る。

それなのに今回も、自分以外の者へ仕事が回った。

以前よりレオヴァから直接任される仕事が増えてきたとはいえ、やはり役に立てる機会があれば欲しいらしい。

 

二人から向けられる視線には、不安と同時に、どこか人選への不満も混じっていた。

だがレオヴァは、責められているとは感じていないようだった。

机の上に置かれた書類から目を上げると、落ち着いた声音で答える。

 

「いや、洩れた時のリスクを考えているからこそ

彼に…カヅチに任せたんだ。」

ジャックが分からないというように首を傾げる。

クイーンも匙を口元へ運ぶ手を止め、話の続きを促すように顎をしゃくった。

レオヴァは二人の反応を見ながら、順を追って説明していく。

 

「キングやクイーン、ジャックに任せた場合

もし仮に話が洩れたら誤魔化すのも手間だろう?」

百獣海賊団の大看板や、レオヴァと近しいジャックが直接関わっていたと知られれば、その行動はそのまま百獣海賊団全体の意思として受け取られやすい。

まして今回のように、意図的に山賊や盗人を使って村を襲わせていたと広まれば、今まで積み重ねてきた評判にも影響が出る。

クイーンはそこまでは理解したものの、それでも納得し切れない様子だった。

 

「けどそりゃ、あの野郎も同じだろ?

近衛とかいうレオヴァの側近なんだぜ?」

カヅチもレオヴァの人間であることに変わりはない。

むしろ近衛として知られている以上、何か起こせば同じようにレオヴァへ疑いが向くのではないか。

その指摘に、レオヴァは静かに頷いた。

 

「あぁ、近衛としてカヅチは有名だ

誰よりも早くおれに見込まれ、誰よりも忠義に厚いと皆が噂している

…忠義に厚い部下がおれの意志を"勘違い"して迷走してしまう、それならば皆に言い様があるだろう。

なにより忠義に厚いのは事実、だから拾ったんだ」

その説明を聞いたクイーンの口元が、次第に大きく吊り上がっていく。

なるほど。

もし今回の件が表へ出ても、カヅチの暴走として処理出来る。

レオヴァを慕うあまり勝手に先走った。

村を守ろうとした忠義心が行き過ぎた。

そう説明すれば、完全に疑いを消せなくとも、少なくともレオヴァ本人の指示だったと断定されにくくなる。

 

しかもカヅチがレオヴァへ異常なほど忠実なのは事実なのだから、作り話としても不自然ではない。

そこまで理解すると、クイーンは堪え切れず声を上げて笑った。

 

「ほんっと!よくやるぜレオヴァ~!

けど今回はずいぶんとリスク高ェやり方だよなァ」

山賊や盗人を使って、あえて村の治安を悪化させる。

一歩間違えれば、村人に大きな被害が出る可能性もあった。

そこはクイーンの言う通りだった。

レオヴァも否定せず、僅かに表情を引き締める。

 

「リスクは高かった……だが成果は上々だろ?

 守護隊は早く作っておきたかったしな」

村人たちが自ら治安の問題を強く意識し、守るための仕組みを必要とする。

その状況で守護隊を作れば、外から無理に押し付けるよりも遥かに受け入れられやすい。

実際、守護隊は既に村の中へ自然に根付き始めていた。

 

その話を聞いていたジャックが、少し考えながら口を挟む。

「レオヴァさん……しゅごたい、作らなくても

おれたちを村に向かわせてくれれば…けいび、できる!」

ジャックにとっては、それが一番単純な解決方法だった。

山賊や盗人が来るなら、自分たちが倒せばいい。

百獣海賊団の者を何人か村へ置くだけでも、並の賊なら近付けなくなる。

しかしクイーンは、呆れたように大きく息を吐いた。

 

「このズッコケジャックがよォ!!

レオヴァが本当に村の治安のためだけに面倒なことするワケねぇだろ~?」

「……?」

ジャックはますます分からないという顔になる。

その様子を見て、レオヴァは苦笑しながら説明を引き取った。

 

「クイーンの言う通りだ、もちろん村の治安は大切なのは言うまでもない…が、それだけじゃない。

ワノ国の人間でウチの為に戦ってくれ、かつ強い者は多い方が良いだろう?」

守護隊は、村を守るためだけの組織ではない。

そこへ志願した者たちは日常的に訓練を受け、武器の扱いを学び、集団で動くことにも慣れていく。

しかも彼らの多くは、レオヴァへの恩義や尊敬を抱いている。

治安維持のために育てた人間が、そのまま将来的な戦力にもなる。

ジャックは少し考えた後、それでも疑問を口にした。

 

「……?

けど、しゅごたい関係なくレオヴァさんの為なら

死ぬ気でたたかうような奴ばっかだ

……九里のやつらがそうだった…です!」

九里で起きたことを、ジャックはよく覚えていた。

レオヴァから命令されたわけでもないのに、町人たちは自ら光月へ牙を剥いた。

それほどまでにレオヴァを慕っている者が既にいるなら、わざわざ守護隊として鍛えなくとも、必要になれば戦うのではないか。

レオヴァは、その考え自体を否定しなかった。

 

「確かにそうだが、強い者が欲しいんだ

強くて百獣海賊団を良く思っている集団…

今後には欠かせなくなってくる。国家的な権力を作りたいからな」

ただ慕っているだけでは足りない。

いざという時に武器を持てること。

命令を理解し、集団として動けること。

一定以上の戦闘力を持ち、それでいて百獣海賊団へ敬意を抱いていること。

 

そういう人間が国の各地に増えていけば、単なる民衆の支持とは別の意味を持つ。

ジャックは聞き慣れない言葉に眉を寄せた。

 

「こっかてきな?…けんりょく……」

意味を理解しようとしているのは分かったが、すぐに答えへ辿り着くのは難しそうだった。

クイーンはそんなジャックを横目で見て、面倒そうに笑う。

 

「あ~ダメダメ……ジャックにはわかんねぇって!

ま、その話は今じゃなくていいだろ~」

「それもそうか…

この話はもう暫く先の話だからな」

レオヴァも深く説明する必要はないと判断したらしく、そこで話を切り上げた。

 

当然、ジャックは納得していない。

自分だけ分からないまま終わらされたことが気に入らないらしく、二人を交互に見ながら露骨に不満そうな顔をしていた。

それでもクイーンは気にする様子もなく、再びおしるこへ匙を入れる。

レオヴァも机の書類へ視線を戻してしまったため、結局ジャックの疑問はそのまま残された。

 

一方、クイーンは内心では別のことも考えていた。

守護隊が育ち、ワノ国の人間が百獣海賊団へ好意を持ち、少しずつ力を備えていく。

この流れがどこへ向かうのか。

おそらくレオヴァ自身も、かなり先まで見据えて動いているのだろう。

そしてクイーンは、カイドウが考えている“とある案”についても既に知っていた。

それをレオヴァへ伝えた時、どんな顔をするのか。

驚くのか。

すぐに理解して別の案を出してくるのか。

そんなことを想像すると、これから先がますます楽しみになってくる。

クイーンは上機嫌に笑いながら、残っていたおしるこをまた一口啜った。

 

──────────────

 

 

ここ最近のカイドウは、目に見えて機嫌が良かった。

邪魔だった光月家を排除し、レオヴァを正式に総督補佐官へ任命した。

 

それだけではない。

ワノ国に存在する工場の管理権も、ほぼ全てレオヴァの手へ渡っている。

 

振り返ってみれば、この数ヶ月は驚くほど順調だった。

おでんが自ら反逆へ動くよう仕向け、その結果として光月を排除する。

民衆の反感は光月へ向き、逆にレオヴァと百獣海賊団への支持は強くなった。

 

さらに、工場の管理権を得たレオヴァは、その立場を使って村々の生活環境へ干渉し始めている。

結果だけを見れば、当初思い描いていた以上だった。

 

しかも、その流れの多くを事前に読んでいたのはレオヴァだ。

何をすれば誰がどう動くのか。

どこまでならオロチが許し、どの辺りから抵抗するのか。

民衆が何を望み、何を与えれば自分たちへ心を傾けるのか。

そういったものを一つずつ読みながら、レオヴァは着実に自分の足場を広げている。

 

カイドウにとって、それが愉快で仕方なかった。

自分の息子に敵う奴がいるのか。

そんなことを考えてみても、答えは最初から決まっている。

いるはずがない。

 

上機嫌のカイドウは、大きな器へ注がれた酒を豪快に呷った。

普段と同じ酒のはずなのに、今日は妙に美味く感じる。

喉を通る強い酒精さえ心地良く、空になった器を傾けながら、向かいに立つキングへ続きを促した。

 

「……と言うワケで3つの村全ての守護隊が完成形に近い出来になった様で… 

侍は部下として質がイイらしい、ヘタなウチの部下共じゃ歯が立たねぇ強さだ

…カイドウさんの言ってた戦力増強もレオヴァ坊っちゃんは恙無く進めてる」

キングの報告を聞き、カイドウはますます愉快そうに口角を上げた。

「ウォロロロロロロ~~!!

ワノ国連中の掌握がそのまま戦力を増やすのに使えるっつってたレオヴァの言葉通りか…!

 確かに侍の強さは目を見張るモンがあった

強さ・技術・性格…全てが理想形だとレオヴァが言ってたのも頷ける」

ワノ国の侍が強いことは、カイドウ自身もよく知っている。

武装色を使える者も多く、刀を扱う技術も高い。

 

しかも、己が認めた相手には忠義を尽くし、命を惜しまない者までいる。

単純な戦闘力だけではない。

性質そのものが、兵として扱うには都合が良い。

 

以前レオヴァが、ワノ国の人間は強さだけでなく考え方まで含めて使いやすいと言っていたが、守護隊の成長を見る限り、その判断は正しかったらしい。

キングも頷きながら報告を続ける。

 

「レオヴァ坊っちゃんは相手の内側に入るのが巧いようで…

任命式後すぐに動き出したのは今回の為の布石だった様に思う

……オロチの耳障りな声が減ったのもレオヴァ坊っちゃんの根回しの結果だろう」

その言葉を聞いて、カイドウは少し考えた。

確かに以前は、オロチから頻繁に文句が届いていた。

レオヴァが村へ何か手を入れるたびに、自分の権限へ踏み込んでいるだの、大名の立場を脅かしているだのと騒いでいた。

ところが最近は、その声が目に見えて減っている。

 

「言われてみりゃ……前まで煩くレオヴァのことに口を出してきたってのに、最近じゃ大人しくなったな」

「えぇ、侍共の睨みに怯えてんのかと

なにせ今カイドウさんが敵になっちまうと縋るもんが無いのがオロチの現状だ」

キングの見立ては、おそらく間違っていない。

オロチは将軍という地位に座っているが、その立場を支えている大きな柱は百獣海賊団の存在だ。

その百獣海賊団と関係を悪化させれば、自分を守る後ろ盾がなくなるも同然。

 

さらに今では、民衆の支持もレオヴァへ傾いている。

侠客や侍たちまでレオヴァへ付いている以上、オロチが以前のように好き勝手出来る状況ではない。

そう考えると。

カイドウには、もう一つの考えが浮かんだ。

 

「……そろそろ殺っちまっても良い頃合いじゃねぇのか」

軽い口調だったが、冗談ではない。

使い道がなくなったのなら、わざわざ生かしておく必要もない。

将軍という肩書きだけなら、他に誰かを置けば済む。

だがキングは、すぐには賛同しなかった。

 

「おれもカイドウさんの意見にゃ賛成だが……

レオヴァ坊っちゃんはもう少しあの馬鹿を野放しにしときたいと」

カイドウは一瞬だけ眉を上げたが、それ以上深く問うことはしなかった。

 

レオヴァがまだ使えると判断しているなら、それでいい。

今までにも、不要に見えた人間や制度を利用し、別の目的へ繋げてきた。

ならば今回も、何か先を見ているのだろう。

 

「そうか、なら構わねぇ!

レオヴァの役に立つうちは生かしておいてやれ…!」

豪快に笑うカイドウへ、キングは一度頷いた。

ただし、こちらには別の懸念があった。

 

「はい。……ただオロチの側近のババァは殺すべきかと」

「ババァだぁ?

……あぁ、レオヴァがおれたちに注意しろと言ってた奴か 」

カイドウの頭に、皺だらけの老婆の姿が浮かぶ。

以前レオヴァから、能力について詳しく説明された女。

黒炭ひぐらし。

 

確か、触れた相手の姿へ変わることが出来る能力者だった。

キングは低い声で続ける。

 

「マネマネの実の危険性を考慮すると……消すのが得策かと」

「……あんな弱ェババァがか」

戦闘力だけで見れば、カイドウにとって脅威になるような相手ではない。

一撃で終わる。

だからこそ、そこまで警戒する必要があるのかという気持ちもあった。

だがキングは首を横へ振る。

 

「万が一があるだろ、カイドウさん」

姿を変えられるということは、力とは別の方向から危険を生む。

本人へ勝てなくても、別人の姿を利用すれば話は変わる。

ましてレオヴァがわざわざ注意を促していた相手だ。

そう考えると、確かに放置する理由もない。

 

「お前もレオヴァも心配性だなァ。

まぁだが、構わねぇ…キングが言うなら消すのが一番だろ」

キングは静かに頷いた。

それでひぐらしの処遇は決まった。

カイドウにとっては、さほど重要な話ではない。

むしろ今一番気になっているのは、その後に控えている予定の方だった。

 

「………で、今度の遠征は問題ねぇだろうな?」

その言葉へ、キングは迷いなく答える。

 

「えぇ、問題なく。

レオヴァ坊っちゃんの仕事も暫くなんとかなる様に割り振った。

一番懸念していたワノ国連中のレオヴァ坊っちゃんがいない間の管理は、守護隊と近衛が請け負う手はずになってる。

カイドウさんとレオヴァ坊っちゃんが遠征に行く間はおれとクイーンがワノ国に残って下手な真似はさせねぇよう動く」

 

今回の遠征準備に時間が掛かった理由は、そこだった。

今のレオヴァは、以前のように気軽にワノ国を離れられる立場ではない。

工場。

村々。

守護隊。

各地の整備。

レオヴァ本人の判断を必要とする仕事が増え過ぎている。

 

それらを抱えたまま長期間外へ出れば、何か問題が起きた時に対応出来ない。

だからこそキングたちは仕事を整理し、本人が不在でも回るよう少しずつ割り振ってきた。

 

守護隊には各村の治安維持を任せる。

近衛には現地の連絡や管理を担当させる。

重要な判断が必要になれば、ワノ国に残るキングとクイーンが対応する。

オロチやその周辺が、レオヴァ不在を好機と見て余計なことをしないよう監視も続ける。

 

そこまで整えて、ようやくレオヴァをワノ国から連れ出せる。

カイドウは長く待たされた予定がようやく実現することに、満足そうな息を漏らした。

 

「だいぶ時間がかかったが…やっとか!」

ここしばらく、親子でゆっくり外へ出る機会はほとんどなかった。

レオヴァはワノ国で次から次へと仕事を抱え、自分も各地への対応や海賊団全体の指揮で動くことが多かった。

 

もちろん、同じ島にいる以上顔を合わせることはある。

酒を飲みながら話す夜もあれば、一緒に食事をすることもある。

だが、昔のように二人揃って外海へ出る機会となれば話は別だった。

 

久しぶりだ。

そう思うだけで、自然と気分が上がる。

カイドウは残っていた酒を一息に飲み干すと、空になった酒瓶を後ろへ放り投げた。

瓶が床へ転がり、重い音を立てる。

そのまま勢いよく立ち上がると、待ち切れないとばかりにキングへ命じた。

 

「キング……今すぐレオヴァを呼べ

 出港するぞォ!!」

「了解した」

キングが動き出すのを確認するより早く、カイドウは自ら船のある方角へ歩き始めた。

足取りはいつもより明らかに軽い。

久しぶりに、レオヴァと一緒に海へ出られる。

ワノ国へ来てから随分忙しくなった息子と、再び肩を並べて外海を進むことが出来る。

船へ向かうカイドウの顔には、隠す気もないほど楽しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

 




[補足]
守護隊→レオヴァに選ばれた者だけで構成された部隊
犯罪の取り締まり、子どもの教育、細かい雑務をこなす。
武装色の覇気を扱えるのが最低条件の部隊でもある。


黒炭カヅチ→近衛に昇進、レオヴァから雷の悪魔の実を食べさせられる
ワノ国で唯一レオヴァから特別な力を与えられたと喜び更に盲目的な忠誠を誓う。
(汚れ仕事や雑務を担っている)
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