俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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2026/9/2 加筆修正

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幼少期編
転生したら赤ん坊


俺はマフィアの幹部として、ファミリー――そしてボスである父親の為に、今日もいつも通り仕事をこなしていた。

 

怒号と銃声が飛び交っていた抗争は、つい先ほど終わったばかりだ。

辺りには荒れた空気がまだ色濃く残り、硝煙と血の臭いが鼻につく。

俺は腕についた血を軽く拭い、ようやく張り詰めていた肩から力を抜いた。

いつもと変わらない仕事だった。

敵対する者を排除し、損害が出ないよう動き、父親から与えられた役目を果たす。

それが日常だった。

 

そんな俺のもとに、父親から連絡が入った。

この時間に直接連絡を寄越すのは珍しい。

着信を確認し、俺はすぐに電話を取った。

 

短いやり取りを終え、電話を切る。

“大事な用がある”。

その言葉を疑うことなど、この時の俺にはなかった。

俺は早足で指示のあった場所へと向かう。

 

この時まで俺は父親のことを少しは愛していた。

金に執着し、母親に愛想をつかれ、息子を道具の様に扱う最低な男ではあった。

優しい父親だった記憶など、ほとんどない。

それでも。

俺に残された家族は、父親ただ一人だった。

だから俺は、たった一人の家族に必要とされたかった。

どれだけ扱いが酷くても、命令ばかりでも。

俺が役に立ち続けてさえいれば。

なんだかんだ父も、自分を息子として愛してくれているのだと。

少なくとも――そう信じていた。

 

──── その父親に頭を撃ち抜かれるまでは

 

何が起こったのかを理解するより先に、頭へ凄まじい衝撃が走った。

視界が大きく揺れ、身体から力が抜けていく。

足元の感覚さえ遠のき、周囲の音も、急速に闇の向こうへ沈んでいった。

 

最後まで意識に残っていたのは、痛みだったのか。

それとも――目の前の現実を受け入れられない思いだったのか。

今となっては、それすら分からない。

ただ一つ。

自分を撃ったのが、たった一人の家族だった。

その事実だけが、妙に鮮明に残っていた。

 

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騒がしい。

どこか遠くで、男達の声がする。

それから、眩しい。

 

閉じている瞼の向こうからでも分かるほど強い光が差し込んでいた。

 

死んだはずなのに。

そんな奇妙な感覚の中で、俺は眠気を押し殺すようにして、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。

ぼやけていた視界が、時間をかけて輪郭を取り戻していく。

 

最初に目へ飛び込んできたのは、小窓から覗くどこまでも広がる青だった。

 

澄み渡った空。

流れていく白い雲。

その向こうから降り注ぐ、柔らかな日の光。

そして耳を澄ませば、絶え間なく聞こえてくる波の音。

 

───── そこは海の上だった。

 

理解が追い付かなかった。

つい先ほどまで俺は父親のもとへ向かい――そして、撃たれたはずだ。

少なくとも、生きていられる傷ではなかった。

 

なのに今、俺は空を見ている。

潮の匂いまで感じている。

 

 

俺は自分の置かれている状況を確かめようと視線を動かした。

どうやら俺は、サークルベッド…と言うには少し荒い作りの木枠の中に寝かされているらしい。

身体には柔らかな毛布が掛けられている。

木枠は少し傷が目立ち、鼻を近づけなくても木と潮の混じった匂いがした。

 

なぜ、俺は此処にいるのか。

なぜ、生きているのか。

全く理解が追い付かない状況に、頭の中では疑問だけが次々に湧き上がる。

 

だというのに。

混乱する俺の心とは裏腹に、世界はあまりにも穏やかだった。

 

空は澄み渡り、日の光は暖かに降り注いでいる。

風が通るたびに潮の香りが鼻をかすめ、船体を撫でる波の音が一定の調子で耳へ届く。

前の世界では、こんなにも綺麗な海をゆっくり眺めた記憶などほとんどなかった。

まるで映画の様に素晴らしい世界だ。

 

 

……ただ一点。

騒がしい野郎どもの声を除けば。

 

遠くから聞こえる豪快な笑い声や怒鳴り声が、せっかくの美しい景色を台無しにするほど響いている。

その声と、僅かに揺れ続ける足元。

そして周囲に漂う潮の匂い。

やっとのことで、自分が船の上にいることだけは理解できた。

 

だが、そこから先が分からない。

何故、自分が此処にいるのか。

そして、この船が“なんの船”なのか。

 

それ以前に――。

俺は毛布の下にある自分の身体へ意識を向けた。

 

妙に小さい。

手も、足も。

何もかもが記憶にある自分の身体とは違っている。

まさかと思いながら身体を起こそうと腹に力を入れる。

 

だが、身体は俺の意思通りには動かなかった。

このままでは埒が明かないと思った俺は起き上がろうと思うが、どんなに力を込めてもジタバタと足が動くだけに終わった。

 

ならば、と今度は声を出してみる。

頭の中では言葉がはっきり浮かんでいる。

しかし、口から出てきたのは――。

 

「ぁう あ~……(何もできねぇ…)」

 

情けないほど幼い声だった。

喋れない。

起き上がれない。

自分の意思で身体を動かすことすら満足に出来ない。

ついさっきまで銃撃戦の中にいたはずの男が、今では寝返りすら満足に打てない。

どう考えても、この姿は――赤ん坊だった。

 

どういうことだ。

何がどうなれば死んだ直後に赤ん坊になる。

いくら考えても答えが出るはずもなく、ただ木枠の中でもぞもぞと身体を動かしていると――。

突然、頭上から大声が降ってきた。

 

「お、なんだ。 起きてるじゃねぇか!」

「ぁう!?(なんだ!?)」

 

驚いて身体が跳ねる。

もっとも、実際には小さな手足がびくりと動いた程度だったが。

何も出来ずに落ち込んでいると、急にまん丸でゴーグルの様なモノを着けた男が俺を見下ろし、大声を出した。

とにかく大きい。

 

赤ん坊になっているせいで余計そう見えるのかもしれないが、それを差し引いても普通ではない体格だった。

見知らぬ大男に覗き込まれ、反射的に身体を引こうとする。

しかし当然、そんな動きすら満足には出来ない。

 

その時。

もう一人、落ち着いた声が飛んだ。

 

「おい。大声だしてんじゃねぇよ

泣き出したらどうするつもりだ。」

 

「ったく、口うるせぇなぁ キング!

カイドウさんの子なんだぜ?

 そんな簡単に泣かねぇだろ。」

 

――キング?

 

だが、その違和感を整理する暇もなく会話は続いていく。

 

「クイーン…お前はバカか?

赤ん坊なんてちょっとした事で泣き出すもんだろ」

 

今度はクイーン。

耳にした二つの名前が、記憶の中にあるものと不穏なほど一致している。

いや、まさか。

そんなはずはない。

 

「あ"ぁ"!? 誰がバカだと!

 よし、ぶっ殺す。」

 

「やんのかァ…? 相手してやる。」

 

瞬間、部屋の空気が変わった。

ただの口喧嘩だったはずなのに、二人の巨体から肌が粟立つような圧が放たれる。

 

赤ん坊の身体だからなのか、それとも二人が異常なのか。

身体が本能的に危険を訴えている。

 

冗談ではない。

こんな場所で暴れられたら、今の俺には逃げることすら出来ない。

二人が今にもぶつかり合いそうになった――その瞬間だった。

 

「オイ! てめぇら、おれは ここで暴れるなと言わなかったか!!」

 

部屋そのものが震えたのではないかと思うほどの怒声が響く。

 

「!?」

「「か、カイドウさん…!

 すみません…」」

 

さっきまで恐ろしいほどの殺気を放っていた大男二人だったが、今部屋に入ってきた更に大きな男の一声で、その殺気は一瞬にして散っていった。

 

二人揃って大人しくなる。

だが、俺はそれどころではなかった。

 

今、なんと言った。

カイドウ……さん?

……かいどう。

クイーン。

キング。

 

聞こえた名前を一つずつ頭の中で並べる。

そして、ゆっくりと部屋へ入ってきた大男へ目を向けた。

 

巨大な身体。

荒々しく、見る者を圧倒する風貌。

見覚えがある。

いや、あるなんてもんじゃない。

カイドウ…さん?……かいどう…クイーン……キング…?

 

───百獣のカイドウ!!?

 

理解した瞬間、頭の中が真っ白になった。

そのカイドウと呼ばれた大男は、俺が生きていた世界で有名な少年漫画 “ONE PIECE“ に出てくる“百獣のカイドウ“にそっくりであった。

 

しかし、そんな馬鹿な話があるのか。

自分は死んだ。

目覚めたら赤ん坊になっていた。

その上、目の前には漫画の登場人物。

混乱しない方が無理な話だ。

俺は木枠の中で身動きすらまともに取れないまま、ただ目の前の大男達を見上げ続けることしか出来なかった。

 

─────────────────────────────────

 

 

あれから1週間。

何も出来ない赤ん坊の身体で周囲を観察し続け、聞こえてくる会話を拾い、俺なりに分かった事を頭の中でまとめている。

 

まず、ここはONE PIECEの世界であるらしいと言うこと。

どうやら最初に感じた違和感は間違いではなかった。

此処は海賊船であるということ。

昼夜を問わず船のあちこちから聞こえる荒々しい声や、武器を持って歩き回る連中を見ていれば嫌でも分かる。

 

そして。

カイドウやキング、クイーンを冷静になって良く見たら、俺の知っている姿よりも大分若いということ。

 

特にカイドウは、前世で漫画を通して知っていた姿より明らかに若い。

たぶん、カイドウは25~30歳くらいではないだろうか?

正確な年齢までは分からない。

なので俺は、原作開始よりもだいぶ前の世界ではないかと予測している。

 

…まぁ、ここまででも十分すぎるほど信じ難い話ではある。

死んだと思ったら漫画の世界。

しかも赤ん坊。

だが、一週間も過ごしてしまえば嫌でも現実として受け止め始める。

 

問題は、その先だ。

そして、これが一番驚いた。

いや、未だに信じられないのだが……

 

──俺は百獣のカイドウの息子だった。

 

初めてそれを知った時の衝撃は、ONE PIECEの世界だと気付いた時以上だったかもしれない。

 

最初は、

『息子!? 俺はヤマトになったのか!!?』

などと頭の中が大混乱状態であったが、ヤマトは女。

しかし、俺の性別は男であった為、俺=ヤマト説はなくなった。

 

では、自分は一体何者なのか。

原作にそんな人物はいたか。

いくら記憶を探っても思い当たらない。

 

ずっと息子だと言う事実を信じられずにいたのだが、あのクイーンやキングが世話を頼まれているのをみるに、本当に俺はカイドウの息子なのか…と自覚せざるを得なかった。

 

あの二人が赤ん坊の世話をしている光景は、未だに少し現実感がない。

それでも、俺を扱う時の様子を見る限り、誰かの気まぐれで置かれている赤ん坊というわけではない。

少なくとも、俺がカイドウの子として扱われているのは間違いなかった。

 

海賊……しかも、カイドウの息子。

前世の知識があるからこそ、その肩書きの危険さも分かる。

 

百獣のカイドウ。

将来“四皇”と呼ばれる人物。

そんな男の子供として生まれてしまった。

 

最初の数日は、本気で自分の運命を呪っていた。

泣けばうるさいと放り出されるのではないか。

気に入られなければ殺されるのではないか。

そんな想像までした。

何しろ、俺の知識の中にいるカイドウは、どう考えても一般的な意味で優しい父親を想像させる男ではない。

 

だがこの1週間で、俺は少し前向きな気持ちになりつつあった。

その理由はカイドウ……父さんにある。

 

父さんは1日に数回、俺の様子を見に来る。

朝だったり、昼だったり。

正確な時間までは分からないが、本当に何度も顔を出す。

それだけでも衝撃的だった。

 

てっきり放置されるか殺されるとばかり思っていた俺にとって、様子を見に来る、しかも1日に何回もというだけでイメージは変わった。

 

今の俺は何も出来ない。

戦えない。

働けない。

食事一つ取るにも誰かの手を借りなければならない。

父さんに何かを返すどころか、世話をされているだけの存在だ。

 

それでも父さんは来る。

俺が何かを成し遂げたからでも、役に立ったからでもない。

ただ、俺の様子を見に。

そのことが、妙に胸に残った。

 

そして、ただ来るだけではなかった。

父さんは俺が起きていると声をかけてきたり、ゆっくりと、本当にゆっくりと指を俺の方に近付けてくるのだ。

 

初めてそれをされた時は、さすがに身構えた。

今の俺から見れば、父さんの指一本ですら随分と大きい。

そんなものが自分へ近付いてくるのだから、最初こそ なんだ!? とパニックになりかけた俺だったが――。

 

父さんの指先は、俺の小さな手へ軽く、そっと触れた。

本当に、触れただけだった。

押すでも、掴むでもない。

軽く、そっと俺の手に触れるとすぐに離れて行ったため、危害を加えようとしたのではなく、触ってみた…いや、“つっついてみた”だけのようだった。

 

何の意味があるのかは分からない。

父さんなりの確認なのかもしれないし、本当にただ触ってみたかっただけなのかもしれない。

 

だが、次の日も。

その次の日も。

父さんはやって来て、俺が起きていれば声をかけ、時折大きな指でそっと触れていく。

何日もそれを繰り返していたのだが、この前たまたま掴めそうな位置に父さんの指が来た。

 

いつものように、巨大な指がそっと近付いてくる。

俺はその指を眺め――。

ほんの出来心で、その指を握ってみた。

 

赤ん坊の手だ。

当然、大した力など入らない。

父さんの太い指を包み込むことなど出来ない。

ただ指先へ手を添えただけだった。

 

その瞬間。

父さんの動きが止まった。

 

なんと…あのカイドウが目を見開いたあと微笑んだのだ…!

 

俺も驚いた。

この一週間で色々な顔を見たが、その表情は初めてだった。

 

──まぁ、微笑んだと言うには あまりに凶悪さの滲み出る笑いだったが……

あの見た目なのだからそれは致し方無いだろう。

 

けれど、俺には分かった。

あれは間違いなく、俺へ向けられた笑顔だった。

 

ただ指に触れた。

たったそれだけのことで、父さんは笑った。

胸の奥が、不意に暖かくなった。

だが、俺にとってはずっとあった心の隙間が埋まった様な瞬間だった。

 

前の世界で必要とされたかった、愛されたかった俺にとって、カイドウ……父さんの笑顔は望むモノだったのだ。

ほんの些細なやり取りなのかもしれないが、不器用な父さんとのやりとりは、俺に十分に家族愛を教えてくれた。

 

結果、俺はカイドウのことを父さんと呼ぶに至った。

………まだ喋れないから心の中での話だが。

 

毛布の中でパタパタと足を動かしながら、そんな事を考える。

一週間も経てば、多少はこの身体にも慣れてきた。

とはいえ、自由に動けるようになるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

 

その時。

バタンッ、と大きな音が響いた。

 

続いて、床板を踏み鳴らす重い足音が近付いてくる。

一歩ごとに、僅かな振動が身体へ伝わってきた。

この一週間で、すっかり聞き慣れた音だった。

 

この足音は父さんか。

そう考えているうちに、足音がすぐ近くで止まった。

 

頭上へ大きな影が差す。

サークルベッドの様な場所で毛布にくるまれている俺を覗き込んで来たのは、特徴的な髭のある勇ましい顔だった。

 

最初に見た時なら、それだけで警戒していた顔。

だが今では、その顔を見ると妙に安心する。

 

「レオヴァ、昼飯は食ったのか?」

 

低く、響くような父さんの声。

俺は返事をしようと、懸命に口を動かした。

 

「ぅあ~ まっ!」

 

当然、まともな言葉にはならない。

だが父さんには、それでも十分だったらしい。

 

「ウォロロロロ! 減ってはなさそうだなァ!」

 

豪快な笑い声が部屋へ響く。

そう言いながら、父さんは俺の寝ている場所の隣に腰掛けた。

大きな身体が動くたびに存在感がある。

 

俺は少しでも父さんの方を向こうと身体を捻ってみた。

だが、やはり上手く体を動かせなかった。

 

首を傾け。

腕を動かし。

足まで使って必死に身体の向きを変えようとする。

それでも思うようにはいかず、毛布の中でもだもだと動くだけになってしまう。

そんな俺をみて、父さんがまた変わった笑い声をあげる。

 

部屋に響く、豪快な笑い声。

その声を聞くだけで、また胸の奥に暖かいものが広がっていく。

 

父さんとのやり取りを通じて俺、

── レオヴァはこの世界で今度こそ後悔のないように生きると誓ったのである。

 

 

 

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