俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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計画された覚醒

 

 

 

 

フカボシはレオヴァと別れの握手を交わしていた。

 

 

「レオヴァ……本当に世話になった、ありがとう!

外の世界や国の運営の難しさを沢山知ることが出来た。

わたしはレオヴァのくれた経験を生かして、この魚人島をワノ国の様な良い国にして見せる!」

 

 

 

決意に満ちた顔のフカボシを真っ直ぐに見つめながら、レオヴァは強く頷いた。

 

 

 

「フカボシならきっと素晴らしい国に出来る。

何かあれば言ってくれ。

フカボシの為ならば、友としていつでも手を貸そう。」

 

 

「レオヴァ……君には本当にッ!

…わたしもレオヴァに呼ばれればいつでも友として駆けつけると誓う!

お互いに民のためにこれからも励もう。」

 

 

「あぁ、お互いに皆の為……良き王に成れるよう努力を続けよう。

フカボシという友を得られておれは幸せだ。

また、土産話でも持って会いに来る。」

 

 

「っ……勿論だ!

わたしもレオヴァと出逢えて良かった。

いつでもレオヴァ達ならば歓迎する、土産話楽しみにしているよ」

 

 

 

名残惜しげなフカボシへ、ふっと人好きのする笑顔を見せるとレオヴァは船へ向かって歩きだした。

 

 

見送りに来ていたネプチューンや、魚人街の者たちが大きく手を振りながら送り出す。

 

 

どんどん小さくなって行く船から、レオヴァとスレイマンは軽く手を振り返し、帰路へとつく。

 

 

 

 

 

 

 

深海を進む船の中で久々にレオヴァに会えて興奮気味なスレイマンを見て船員たちは苦笑いを禁じ得なかった。

 

 

 

「いつもの比じゃないくれぇスレイマンさん、レオヴァ様にべったりだな」

 

「船の中くらいレオヴァ様をそっとしておいて差し上げれば良いのになぁ?」

 

「バァカ!スレイマンさんは四ヶ月振りなんだぞ!」

 

「いやいや……四ヶ月だけじゃねぇか…

おれらなんて半年くれぇお会い出来ねぇ時もあんのに……」

 

「スレイマンさんは前、二ヶ月レオヴァ様と別の任務だっただけでアレだったんだぞ……

この四ヶ月よく持った方だって」

 

「まぁ、レオヴァ様が嫌な顔してねぇなら何でも良いだろ」

 

「……スレイマンさん居ると、おれらが直接レオヴァ様から仕事頂ける機会が減るじゃねぇかよ…」

 

「…しょうがねぇよ、あの人が優秀すぎるンだもんよォ」

 

 

 

真っ暗な海を進む船でやることのない男達は肩を落としたのだった。

 

 

 

 

 

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あれから数日が経ち、ワノ国へ帰るべく進んでいた船は補給の為にある島へと停泊していた。

 

 

食料の調達の為に“何度か訪れた”この島で、スレイマンは数人の部下を連れ買い物をしていた。

 

 

一通りの買い物を終え、船へ向かおうと準備をしていた時だ。

スレイマンは二人の部下がいつまでも戻らないことに違和感を覚えた。

 

 

それは小さな違和感だったが、スレイマンは嫌な予兆を感じ取る。

 

周りにいる数人の部下に先に戻るように指示を出し、二人の部下が向かった市場へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市場の入り口付近まで来たスレイマンは眉間に皺を寄せた。

 

 

 

なんと、売場の奥にある浜辺付近で海兵の様な服を着た若者達が部下を縛り上げていたのだ。

 

 

 

10人ほどで二人の海賊を連れて行こうとしている若い海兵達の下へ、音もなく迫るとスレイマンは黄金で彼らの身動きを封じてしまった。

 

一瞬の出来事に目を白黒させながらも、身動きが取れない状態で口に入り込んでくる金を何とかするべく踠いていた海兵たちだったが、結局どうすることも出来ずに意識を失いぐったりとしてしまっている。

 

 

突然の事に周りの売場の市民たちもどよめき、距離を取り始めた。

 

 

 

捕まっていた二人の部下はスレイマンを見ると表情が明るくなる。

 

 

「スレイマンさんっ!た、助かったァ…」

 

「す、すみません!

買い物してたら急に殴られて……」

 

 

縛られたまま頭を下げる二人にスレイマンはため息をつくが、すぐに縄をほどいてやると二人を立たせた。

 

 

 

「全く、油断が過ぎるぞ。

レオヴァ様に迷惑を掛ける事にならなかったから良いものを…

今後は細心の注意をはらって行動しろ、いいな?」

 

 

「「はい、スレイマンさん! 気を付けます!」」

 

 

言い聞かせるような言葉に二人はしっかりと返事をした。

スレイマンはその返答に頷きで返すと船に戻ろうと踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てェ…! おれの生徒に……なにしやがった!!」

 

 

 

背後からの怒声と強者の気配にスレイマンは瞬時に戦闘態勢へと切り替わる。

 

相手の力量を即座に見極めたスレイマンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 

 

「お前たち、先に船へ戻りレオヴァ様に報告を

……あの男はおれでは手に負えん。」

 

 

そう呟くスレイマンの顔を一筋の汗が滑り落ちた。

 

 

 

 

目の前に突如現れた紫髪を短く切り揃えた屈強な初老の男は鋭い眼光をスレイマンに向けながらも、黄金に覆われた若い海兵たちの下へと走り寄る。

 

 

若い海兵たちが息が出来ずにいる事を知るや否や

その初老の男は誰の目にも留まらぬ早さでスレイマンを地面へと殴り付けた。

 

 

「ぐぁ…!?」

 

 

 

地面へ叩き付けられたスレイマンへ怒涛の追い討ちを仕掛ける初老の男の近くへ、騒ぎを聞き付けたであろう若い海兵たちがわらわらと集まってきている。

 

 

スレイマンは飛びかける意識の中、なんとかレオヴァがこの男と戦う前に少しでも削がなければと思考を巡らせ、まずは男を自分から引き剥がすべく行動を起こす。

その行動とは未だに黄金を纏ったままの海兵達から、側へ近付いている別の海兵へと、その黄金を伸ばす事だった。

 

 

初老の男は思惑通り、その気配を即座に察知すると若い海兵を庇うようにスレイマンから離れて行く。

 

 

そして、その一瞬をスレイマンは見逃さなかった。

 

男の眼球へ尖らせた(きん)を全力で投げたのだ。

 

 

若い海兵を襲う黄金に気を取られていた男は、自分の眼球に向かって飛んでくる金属への反応が少し遅れる。

 

 

次の瞬間、海兵たちの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スレイマンは生死の淵を彷徨うほどの傷を負っている。

 

 

そう、あの時投げた金属は男から視力を奪う事が出来なかった。

 

初老の男は間一髪の所で金属を避けたのだ。

結果、男の眉間を軽く抉るだけで終わってしまった。

 

 

 

その男は周りの海兵達から“ゼファー先生”と呼ばれているようだった。

 

スレイマンはすぐに少ない情報から初老の男の正体が“黒腕のゼファー”であると気付く。

 

 

 

 

元海軍大将だ。

勝てる相手ではないと判断力の高いスレイマンは分かっている。

 

 

だが、今彼は逃げるという選択肢など持ち合わせていない。

 

黒腕のゼファーをほぼ無傷の状態でレオヴァと対峙させるなど、スレイマンの忠誠心が許さないのだ。

 

 

 

時には剣となり、時には盾となる。

レオヴァの役に立つことこそがスレイマンの誇りであり全てだ。

なにせ、その想いだけを抱えてこの最悪な状況下でも彼は踏ん張り続けているのだから。

 

 

 

 

 

「…お前をここで捕らえ、二度と出られん様にしてやるぞ!

そして…おれの生徒は誰一人死なせはしねぇ!

覚悟は良いなァ…!ディアス海戦のA級戦犯“首はね スレイマン”!!

 

 

 

「ハァ…もう、()うの昔に…その下らぬ名は捨てた…ッ…

おれは、百獣海賊団のスレイマンだ……!!」

 

 

 

 

大切な生徒への想いをのせた大きな拳にゼファーは覇気を込めた。

一方、スレイマンは揺るぎなき忠誠を極限まで研ぎ澄ました様な鋭い覇気をサーベルへ纏わせる。

 

 

 

二人の男の覚悟がぶつかり合う音が響いた。

 

 

 

 

 

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ゼファーは黄金の呪縛から解き放たれた可愛い生徒たちの下へと駆け付けた。

 

周りにいた生徒たちも倒れている仲間の下へ行き、手を貸している。

 

 

少し息が上がっていたゼファーは軽く深呼吸をして息を整えると生徒達へ声をかけた。

 

 

 

「よし、お前たち。無事だなァ!?」

 

 

「「「 はいッ!ゼファー先生! 」」」

 

 

 

生徒たちの揃った返事に安心したように笑うとテキパキと指示を出し始める。

 

 

そのゼファーの指示を受け皆が動きだす。

ある者は散った瓦礫を浜辺へと移動させ、ある者はスレイマンを拘束するべく海楼石の錠を持って来ていた。

 

 

 

 

 

しかし、スレイマンに海楼石を巻き付けようとしていた三人の海兵の卵たちが一瞬のうちに崩れ落ちる。

 

 

何があったのか分からずに固まってしまった生徒たちにゼファーが叫ぶ。

 

 

 

「お前たちッ……退避だ…!

今すぐ建物の下へ身を隠せェ!!」

 

 

 

必死の叫びに数人は反応し建物や岩影へと退避したが、間に合わなかった生徒たちは次々と赤黒い塊へと変貌していった。

 

 

ゼファーも数発の雷が直撃したが、そんな事など関係ないとばかりに怒りに染まった顔で天を睨み付けた。

 

 

「よくもッ……おれの生徒をォ!

赦さん、赦さんぞ!!」

 

 

地面を強く蹴りあげ、宙へ飛んだゼファーを複数の光る槍が襲った。

 

 

体勢を崩し地上へと落ちていくゼファーを見て生き残った生徒達の口から悲鳴が漏れる。

 

 

天を睨み付けたまま落下するゼファーの目に、同じく怒りに染まった青年の瞳が映った。

 

 

 

「それは、おれの台詞だ……

ウチの大切な部下に手を出したんだ…覚悟は出来てるんだろうなァ……」

 

 

恐ろしく怒気を含んだ声に身を隠していた者達は震え上がった。

まさしく、そこには修羅の形相と言える青年が居た。

 

 

 

 

 

黒腕のゼファーと百獣海賊団のレオヴァの衝突は

その島に人が住めない状態になる程、激しいものであった。

 

 

 

 

 

 

戦闘が始まったばかりの時はゼファーがレオヴァを圧す形となっていたが、時間が進むにつれ少しずつレオヴァが優勢となっていった。

 

 

何故かレオヴァは雷に当たるとまるで回復するかのように疲れが消えているのだ。

 

老いで体力が減りつつあったゼファーが、空が有る限り雷を落とし回復し続けるレオヴァと長期戦をやるのは圧倒的に不利だ。

 

 

 

しかし、そんなことはゼファーも途中で気が付いていた。

 

彼の長年実践で培ってきた勘は、長期戦に持ち込まれては危ないと告げていたのだ。

だが、どんなに早く決着をつけようとしてもレオヴァはそれをさせなかった。

 

 

怒りに染まった雰囲気からは信じられないほど、レオヴァは冷静かつ着実に距離を取りじわじわとゼファーの体力を削って行く。

 

 

中距離から飛んでくる無数の電撃を避けながら近付けば神出鬼没の雷に打たれ、かと言って間合いを取りすぎれば尽きぬ槍やトマホークの的になる。

 

近距離戦になんとか持ち込もうにも空へと飛ばれては、生徒を気にしながら戦うゼファーに下手な動きは出来なかった。

 

 

なにより、レオヴァという男は相手の独擅場へは決して降りてこないと言うのに、自分の独擅場へと引きずり込むことはやけに上手い。

 

 

しかし、だからと言ってゼファーはただやられている訳ではない。

距離を取るのが上手いレオヴァの少しの隙を見逃さずに致命傷になり得るような数発を見舞ってはいた。

 

けれども動物(ゾオン)系のタフさと雷鳥(サンダーバード)の能力による超回復を超える一撃は与えられていなかったのだ。

 

 

それらの結果がレオヴァの優勢を作り上げていた。

 

 

 

 

 

 

もう、この戦況は変わらないのでは?

 

そう思い始め震える生徒達だったが、突然聞こえた声に目を丸くする。

 

 

 

 

「動かないで!

お前が動けば……首はねスレイマンをここで処刑するわ!!」

 

 

 

その声にゼファーもレオヴァも動きを止めた。

 

 

ゼファーの猛攻により身体を動かすことの出来ないスレイマンの首に、女海兵が剣を押し付けている。

 

スレイマンも意識を取り戻しているようで、血反吐混じりに声を出す。

 

 

「…レ"オヴァ様"の……あ"、足を"引っ張る"のなら……お"れ"は死に"ま"す」

 

 

剣へ首を押し当て自害しようとするスレイマンの頭を女海兵が阻む。

 

 

 

スレイマンを盾に取られレオヴァはピタリと動きを止めた。

 

 

「スレイマン、自害は赦さん……そのまま動くな。

 

……わかった…おれが動かなければいいんだな?」

 

 

 

そう言って止まったレオヴァにゼファーの強烈な一撃が入った。

 

肋骨の砕ける音にスレイマンは目を見開く。

 

 

 

「レオ"ヴァ様っ……あ"ぁ"…駄目だ……頼む"、お"れ、な"んてッ…どう"でも良い!!」

 

 

 

スレイマンは動かない筈の腕を必死にレオヴァに伸ばした。

しかし、その腕も女海兵の剣で貫かれてレオヴァへは届かない。

 

 

揺れる瞳にはスレイマンへ静かに微笑みかけるレオヴァに止めを刺そうと襲いかかる憎い男が映った。

 

 

 

 

 

 

レオヴァは自分の為に勝てた筈の戦いで(やぶ)れようとしている。

 

 

 

スレイマンの頭の中に最悪の光景が浮かぶ。

 

血に染まり動かないレオヴァとそれを運ぶ目の前の憎い男と自分を取り押さえる煩わしい女。

 

 

その時、スレイマンの中は今までにない程の怒りと憎しみで溢れかえった。

 

彼が傷つく事などあってはならない。

彼が負けることなどあってはならない。

彼が見下ろされるなどあってはならない。

彼が自分の世界から消えることなどあってはならない。

 

そうだ、今この状況すべてあってはならない……赦されざる事なのだ。

 

 

 

 

 

急にスレイマンから漂い始めた異様な空気をゼファーは感じ取った。

それ故、レオヴァへ向けていた注意が一瞬緩む。

 

 

その一瞬の隙をレオヴァが見逃す筈もなかった。

スレイマンを押さえ付けていた女海兵の身体が槍で貫かれ、後方へと倒れ込んで行く。

 

 

 

「ぜ、ゼファー…せ、んせぃ……ごめ…なさ……」

 

 

「アインッ…!!?

ううおぉおおおおぉぉぉ!!!」

 

 

 

けたたましい叫び声と共にゼファーは再びレオヴァへと距離を詰めようとした。

 

 

 

だが、ゼファーの足は動かない。

 

気付くとレオヴァがいつの間にか手に握っていた不思議な戦斧で左手を切り落とされている。

 

 

ゼファーは激痛と困惑の入り交じった呻き声を上げながら、自身の脚を見て全てを理解した。

 

 

 

地面から腰にかけて黄金が纏わり付いている。

 

無理やり黄金を破壊してでも進もうとするゼファーの周りの地面がぐずぐずと沈んでいく。

 

抜け出そうと身を捩ったゼファーの右腕も宙を舞う。

 

 

 

どんどんと黄金へ沈んで行くゼファーが最期に見たのはボロボロになりながらも立ち上がっていたスレイマンの自分を睨み付ける憎悪に染まった表情だった。

 

 

 

 

 

 

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レオヴァ様は一瞬の隙を突き、俺を人質にしていた女海兵を葬った。

 

 

その瞬間、俺が感じたのは喜びだった。

 

 

本来であれば無能な自分を恥じなければならないと言うのに、レオヴァ様があのとき、目の前の男を殺す事よりも俺を優先してくれた事に歓喜してしまったのだ。

 

 

あの瞬間、レオヴァ様が男を殺していれば女海兵は間違いなく俺へ剣を振り下ろしていただろう……それを分かっていたレオヴァ様は俺の命を優先して下さった…

 

 

どうしようもない俺の心にレオヴァ様への想いが溢れる。

そして、それと同時に男への憎悪も倍増した。

 

 

レオヴァ様へ突撃していくあの不届き者を許して良い筈がない!!

 

 

 

気付くと俺は立ち上がって能力を使っていた。

 

初めての感覚だった…

自分ではない周りの物を金に変える感覚。

 

 

 

俺は全神経を集中させ、男を葬る為に“覚醒した力”を使った。

 

 

そして、男の身動きを止めるとレオヴァ様はその隙を逃すことなく、男の腕を切り落とす。

 

 

……見惚れるほどの手際だった。

 

流石はレオヴァ様…と、上がる口角をそのままに

どんどん地面を金へと変えていく。

 

窒息死……それが今、サーベルを握る力の残っていない自分の出来る処刑方法だ。

 

完全に金へと溺れて行く男をじっと睨み付けた。

 

 

 

しかし、処刑を終えた俺の身体は限界だったようで力が全く入らずに視界に映る地面が近付いて行った。

 

だが、傾いていく身体が支えられる。

 

 

「レオ、ヴァ…さま……」

 

 

なんとか声を絞り出した俺の背をレオヴァ様は労るようにトントンと優しくたたいた。

 

 

「……お前の予想以上の負傷具合に少々冷静さをかいた…

スレイマン、お前が無事で良かった、本当に……

…それに能力の覚醒も出来たんだ、上々だ。」

 

 

「…レオヴァ…様への、想いと……奴ら、への……憎し…みが」

 

 

言いたい言葉が紡げず俺は眉をしかめたがレオヴァ様は察してくれたのか、頷いているのが肩から伝わる振動でわかった。

 

 

「そうか……感情の爆発でも覚醒する場合があるんだな…

それにしても…今日は疲れた……帰ろうか、スレイマン」

 

 

「は……い…」

 

 

 

 

レオヴァ様は倒壊した売場の日除けとして使われていたシートの上に俺を優しく寝かせると巨鳥の姿となってシートごと俺を運んでくれた。

 

 

 

俺はそれから二日ほど意識を失っていたと、目覚めた時にベットの横で看病してくれていたレオヴァ様から聞いたのだった。

 

 

その後、足手まといとなった事を謝る俺を優しく言い(すく)めて呟いた。

 

 

 

「……あれは“必要”な経験だった。

おれに取っても、スレイマンにとってもな…

 

ふふふ、これから覚醒した能力を更に伸ばして行こう。

楽しみだなァ……スレイマン。」

 

 

 

ベットから起き上がれぬ俺を見下ろしながら愉しげに笑うレオヴァ様を見て

やはり俺では考えの及ばない様な未来を見据えているのだと確信しながら、俺は強く頷く。

 

 

 

 

船室の窓から差す光に照らされるレオヴァ様の微笑みは天使のようだったが、瞳に映る色は悪魔のように愉しげに揺らいでいた。

 

 

 

 

 

 

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レオヴァはこの海域周辺に海軍の演習艦が通ると言う話を聞いた。

しかも、その演習艦にはあの黒腕のゼファーが乗っているという事も。

 

 

 

直ぐに、その話の真偽を確かめたレオヴァはその島へ何度か補給と言う名目の下立ち寄っていた。

 

しかし、一回目二回目三回目と補給で二日ほど滞在したにも関わらず目的の演習艦は通らなかった。

 

 

しかし、四回目……ついに演習艦がこの島へ立ち寄っていたのだ。

 

 

空からそれを確認して船へ戻ったレオヴァは上機嫌で部下に声をかけた。

 

 

「すまない、スレイマンと共にこのリストの買い出しに行ってきてくれ。」

 

 

「了解です、レオヴァ様!」

 

 

 

久しぶりに直接命令を受けた部下は満面の笑みで返事をすると元気よく外で作業しているスレイマンの下へと飛び出して行った。

 

 

それを見送るとレオヴァは部屋にある机の引出しに入っていたウイルスと特効薬を手に取り、すっと懐にしまった。

 

 

 

「そろそろ、おれも経験を積むべきか……弱者ばかり相手にしてもしょうがねぇ。

スレイマンにも早く覚醒してもらう必要もある、ちょうど良いタイミングだ。

 

……“死にかければ強くなる”……ふふ、父さんの言葉は本当に為になるなァ…

 

 

 

愉しげに呟いたレオヴァの言葉は誰に拾われることもなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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後書き兼補足

【スレイマン】
今までの戦闘などで溜まっていた経験値と今回の感情の爆発で能力が覚醒した。
治療後のレオヴァの反応を見て、今回の戦闘が想定内の事だったと気付く。
先を見通す力に流石はレオヴァ様!!と忠誠をさらに高める盲信っぷりである。
(自分が死にかけたことはまったく気にしていない、寧ろ助けて貰った事しか頭に無い)

【レオヴァ】
今までスレイマンの能力を覚醒させるために側に置いていた。
しかし、実力は伴っているのに覚醒しないスレイマンに頭を悩ませていたが
尊敬する父の『死にかければ強くなる』と言う言葉を思い出し、強引な手段に走った。
(そうやってカイドウから育てられた為、レオヴァは効率的だと思っているが、かなりの脳筋的荒療治方法である。)
そして無事覚醒したスレイマンを見て、流石は父さんだなァとニッコリしている。


【レオヴァが懐に入れたウイルス】
万が一、ゼファーが優勢になったら使って殺すつもりだった。
割ると煙が出て吸うと脳に異常が現れ、10分もせずに死に至る代物。
無論、使えば島も滅びるがスレイマンと部下たち、そして自分さえ生きれれば言いという考えだった。

【戦いのその後】
ゼファーは黄金によって窒息死。
周りの部下はレオヴァによって全員炭になっており、生存者はいない。
この戦闘を隠蔽する為に島の住人も皆殺しとなった。
(尚、その皆殺し作業中は部下達は他の島へ退避している)

現在、演習艦は行方不明扱いであり、島はレオヴァによって沈められた。

【ゴルゴル覚醒について】 
原作では操作範囲の超拡大&その操作している黄金に何かあれば分かる能力だが、今作品では能力者が違うので、覚醒の方向も変化。
(今作品で覚醒内容を変えた理由は、ゴルゴルの実を資金源にしたいから&能力者が原作とは違うから)


前回もご感想やコメントありがとうございました!!
いや~、スタンピードの小説読んだのですが……バレットめっっちゃ良いキャラだなぁとしみじみ思いました!
……バレットの小説も書きたいですね…

後書きまでお読みくださりありがとうございます!

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