俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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父の手土産

 

 

 

 

 

 

鬼ヶ島にて今夜のショータイムの準備をしていたクイーンは目の前の光景に口を大きく開けたまま固まってしまった。

 

 

 

 

 

カイドウが船と部下達を置き去りに一人、龍の姿で早く戻ってくる事は多々ある事だ。

今さら予定よりカイドウが早く帰還してもクイーンは驚きもしない。

 

 

しかし、今日のカイドウの手には二人の子どもが握られているのだ。

 

いかにクイーンが様々な事に慣れていると言えど、驚くなというのは無理な話である。

 

 

 

あのカイドウに限って誘拐などあり得ないとは分かってはいるが、何故ボロボロで瀕死の状態の子どもを連れているのかが全く分からない。

 

 

思考が纏まらず固まったままカイドウを凝視しているクイーンの前に、ドサッと子どもが落とされる。

 

 

 

「あ~、えっと…?……カイドウさん?」

 

 

 

意味が分からないとクイーンが尋ねる。

 

 

「レオヴァに土産だ。

確か、新しく作る“飛び六胞(とびろっぽう)”とかいう幹部の候補が足りねぇと嘆いてただろ?

だからたまには、おれからレオヴァに土産をやるのも悪くねぇと思ってなァ!」

  

 

「…そ、そりゃレオヴァも喜ぶんじゃないっスかね~?

は、はははは……はぁ……」

 

 

 

良いアイディアだろ?とばかりにドヤ顔でボロボロの子どもを連れ帰って来たカイドウに

『いや、土産で死にかけのガキ渡されても微妙じゃないッスか?』

と言う言葉をクイーンはグッと飲み込んだのであった。

 

 

クイーンの乾いた笑いに気づいた素振りもないカイドウは、もうじき帰ってくる自慢の一人息子の喜ぶ顔を思い浮かべて笑う。

 

 

 

「ウォロロロロロ……

おれが気に入ったんだ、レオヴァも気に入るぞ…!!」

 

 

 

サプライズで持って帰って来た手土産を早く見せたいと浮き立っていたカイドウだったが、目の前でぐったりと横たわる血塗れの子どもを見て、死なれンのは困るなァ…とピクリとも動かない子どもを医務室へ運ぶようにクイーンに命を出した。

 

 

「レオヴァへの土産なんだ、死なすなよ…?」

 

 

「トラファルガーのガキも居るんで問題ないッス」

 

 

ひょいと子どもを持ち上げるとクイーンはそのまま医務室へと向かっていき、カイドウは返り血を流すべく大浴場へと向かって行った。

 

 

 

 

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目覚めた二人の子どもは部下達では手に終えないほどに凶暴だった。

 

……姉が一人で暴れまわっていたと言うのが正しいのだが。

 

 

 

しかし彼女は何を言われても、キングやクイーンに倒されても

次起きればまた暴れ回るのだ。

 

唯一、大人しくなったのはカイドウが怒気を纏った時のみだった。

 

 

おかげで鬼ヶ島の屋敷はここ最近修理のためにずっと職人達が寝泊まりする始末である。

 

 

 

姉の傍若無人な振る舞いに、弟は眉を下げる。

 

 

「あ、あねき……またあの黒い奴来ちまうから暴れんのやめろって!」

 

「やめろ…だとォ!?

お姉ちゃんへの口の利き方がなってねぇなぺーたん!!」

 

「んぐ…!」

 

 

馬乗りになってぺちぺちと頭を叩く姉に、困り顔の弟は下敷きになりながら踠くが抜け出せない。

 

ぐったりとした弟を無理やり立たせると姉はビシッと指を差して宣言した。

 

 

 

「今日こそ、“レオヴァ”とか言う奴の部屋を探索するぞぺーたん!」

 

 

「いやダメだろ!!

前に入ろうとしてカイドウさまに怒られたじゃん!」

 

 

「ふん!

べ、別にカイドウさまが怒っても怖くないし……!

わたしはお城をぜんぶ冒険するって決めたんだ、ぺーたんも一緒に行くの~!!」

 

 

必死に嫌だと抵抗する弟を引っ張りながら姉はルンルンと歩みを進めた。

 

 

「うぐ~…離せよあねきぃ~!

おれは絶対怒られるのヤダからなぁ!!」

 

 

 

弟の悲痛な叫びが聞き入れられる事はなかった。

 

 

 

 

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フカボシを送り届けて帰って来たレオヴァとスレイマンを見た部下達から悲鳴があがる。

 

歩くことさえままならずに担がれている傷だらけのスレイマンと破損している服から見える鎖骨から脇腹あたりまで痛々しいアザのあるレオヴァは医務室へと問答無用で運ばれた。

 

 

 

 

そして医務室当番であるローの鬼の形相にレオヴァは眉を下げたまま、余計な事を言っては火に油を注ぐと口を閉じ

スレイマンは苦々しい顔をしたままローに治療されている。

 

 

忙しなく治療に手を動かしながらもローの小言は止まらない。

 

 

「なんで送り届けただけで全身至る所を骨折なんて大怪我をするんだ!?

レオヴァさんが適切な処置を施してるみてぇだから何とかなってるが、最悪の場合は骨が筋肉とくっついて大変な事になるんだぞ!!

しかもレオヴァさんまでデカい怪我してんじゃねぇか!」

 

 

「いや、大した怪我じゃ……」

 

 

思わず少し口を挟んだレオヴァにローは睨み殺さんばかりの目を向ける。

 

 

「おれは誤魔化されねぇからな!

スレイマンを担いで涼しい顔してっから周りの奴らは大丈夫だとかほざいてるが、“スキャン”したら肋骨と鎖骨が粉砕骨折してたぞ……隠し通せると思うなよ…?

おれは医者なんだからな、嘘つくの無駄だからやめろよ!」

 

 

「……“スキャン”の手際が良くなってるな、流石ローだ。

では、おれはそろそろ……」

 

 

「褒めて話を反らせると思うな、そんな手が通じんのはクイーンの馬鹿だけだからな!?

治療が終わるまでは絶対に医務室から出さねぇぞ…

 

……やっと来たかジャック、レオヴァさん捕まえとけ」

 

 

「…ジャック!?」

 

 

「すまねぇレオヴァさん、怪我の手当て終わるまでじっとしててくれ。」

 

 

 

腰を上げたレオヴァの後ろからジャックが肩を掴み座らせる。

 

まさかの連携プレーにレオヴァは観念したように笑うと、自分の治療の番になるまでジャックとの雑談を始めた。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、クイーン様、大変ですよ!

レオヴァ様が遠征で大きな怪我しちまったらしいですぜ…おれもう…心配でッ……」

 

 

「おいおい、おれの聞き違いだよなァ……レオヴァが怪我なんてするはず…」

 

 

「いやだからクイーン様!!レオヴァ様がお怪我をッ……!!」

 

 

「…えぇ まじかよ!?聞き違いじゃねぇの? レオヴァが大怪我ぁ?!」

 

 

 

一方その頃、幼少以降大きな怪我のなかったレオヴァの負傷を聞いたクイーンは止まらぬ冷や汗をかいていた。

 

この、十年ほどレオヴァはカイドウとの組手や計画に必要な傷以外では怪我などしていないのだ。

 

それはもうクイーンは驚き、焦った。

心の中では

『レオヴァが怪我って……マジかぁ~

計算?……いやいや、レオヴァなら計画でそういう事になるなら予め言ってくるしなァ……

や、やべぇ……まじ大丈夫かよ……』と頭を抱えた。

 

 

 

「レオヴァが……おれはどうすりゃ…」

 

 

 

そう重々しく呟くクイーンを見て部下達は心打たれる。

あの普段ハイテンションなクイーンがレオヴァの為にこんなにも心痛めているのか、と。

 

 

 

「クイーン様……そんなにもレオヴァ様を……」

 

「そうだよなぁ…クイーン様はレオヴァ様が赤ん坊の時から知ってんだもんな……そりゃ、お辛いぜ……」

 

「あんなに心配なさってるクイーン様を見ると…心が張り裂けそうだッ……」

 

 

 

 

 

しかし、クイーンはレオヴァの容体は一切心配してなどいなかった。

それはレオヴァに敗けや致命傷など…ましては死ぬなんて絶対に有り得ないという確信があるからだ。

 

 

では何故こんなに焦っているのか。

 

 

 

それは簡単かつ大きな理由……

 

カイドウがブチ切れて暴れるのではないかという懸念だ。

 

 

 

つい二日程前にレオヴァの自室を漁ろうとした拾ってきた子ども二人に対してカイドウはキレたのだ。

 

そして、その怒りにより嵐よりも甚大な被害が出ている。

 

 

 

息子の自室を子どもが荒そうとしただけで、このキレ具合だ。

そんなカイドウが、溺愛する息子に大きな怪我を負わされたと聞けばどうなるだろうか?

 

もちろん、前回の比ではないほどにブチ切れるだろう。

それこそ火を見るより明らかである。

 

 

 

クイーンは今までの長い付き合いから、そのとばっちりが自分に飛んでくると身をもって存分に理解していた。

 

 

 

そんなクイーンの出した答えはこうだった。

 

『……これカイドウさんに言わなきゃ良くね?

レオヴァなら分かってくれるだろうし……ジャックは黙らせりゃいい……うん、そうしよう!』

 

 

無理やり過ぎる答えを導きだしたクイーンは

さっそくレオヴァと口裏を合わせるべく、医務室へと向かうための行動を起こした。

 

 

 

「よォ~し!!

おれは今から医務室で治療中のレオヴァの所に行ってくる……あとの仕事はお前たちでやっとけよ!」

 

 

 

ドドンッという音が見えそうなほどのキメ顔で指示を出したクイーンは、勢い良く出ていこうと扉を振り返り思わず叫んだ。

 

 

 

「うぉお!? カイドウさんッ……!?

いいいいいいつからそこに!?」

 

 

「……おい、クイーン…レオヴァが治療中ってのはどういう事だァ…?」

 

 

 

 

そこには鬼なんて可愛く見えるほどに恐ろしい顔をしたカイドウが仁王立ちしている。

 

周りの部下は次々と泡を吹いて倒れていき……ついに立っているのは全身冷や汗でびっしょりなクイーンと眉間にこれでもかと皺を寄せながら覇気をビリビリと放っている爆発寸前のカイドウだけだ。

 

 

クイーンは今だ(かつ)て、自分が気を失えない事をこれ程までに憎んだことはない。

 

 

出来ることは一つ、ここには居ないレオヴァに心の中で必死にSOSを出すことだけだった。

 

 

 

 

 

鬼ヶ島にカイドウのブチ切れた怒鳴り声が響いた。

 

 

 

 

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とある部屋にて、上機嫌にカイドウはレオヴァの注いだ酒をぐいぐいと飲んでいる。

 

 

 

先程まで

『どこのどいつだァ……!?

 おれが行って殺してやるッ…!!!』

と誰の手にも負えぬほど暴れていた男とは思えない変わりっぷりである。

 

もはや、夢だったのか?と首を傾げるレベルだ。

 

 

しかし、地獄絵図が嘘のように歓談する親子の側に控える二人を見ると、あの光景が現実だったことをまざまざと感じさせる。

 

 

憔悴しきったクイーンは大好物のおしるこを食べる手が全然進んでおらず、キングもマスク越しですら疲れの滲み出る顔が隠せていなかった。

 

 

あの場面に出くわした部下達はきっと口を揃えて言うだろう。

キングとクイーンはあの時確かにヒーローであった、と。

 

 

レオヴァが騒ぎを聞きつけてカイドウを諌めるまでの空白の七分間の攻防たるや、それは凄まじいものであった。

 

普段協力の“きょ”の字もないキングとクイーンが息ピッタリな連携を見せる程には地獄だったのだ。

 

 

レオヴァが現れた時のクイーンの表情は何にも例えられぬほど、哀愁と歓喜に満ち溢れていた。

あのキングでさえレオヴァを呼ぶ声に安堵が滲み出ていたのだ、本当に辛い攻防だったのだろう。

 

 

 

地獄を必死に食い止めるべく戦ったヒーロー二人は、目の前で呑気に晩御飯はレオヴァのどの好物にしようかと腕を組んで考える親バカを見て大きな溜め息をついた。

 

 

 

大騒ぎを引き起こした張本人であるカイドウは、まるで先程のことなどなかったかのように楽しげにレオヴァに声をかけた。

 

 

「そうだ、レオヴァ。

お前に土産を用意してたのをすっかり忘れてたぜ!

なかなか面白ぇのを持って帰って来れたんだ。」

 

 

「土産?

父さんからの物なら喜んで受けとろう!

ふふふ…楽しみだ。」

 

 

「ウォロロロロロ……待っとけ、連れてきてやる。」

 

 

「……“連れてくる”?

土産は物じゃなくて生き物なのか…?」

 

 

 

きょとんとした顔をするレオヴァに意味ありげにカイドウは笑うと、そのまま部屋を出ていってしまった。

 

レオヴァはせっかくの父さんのサプライズだからと、見聞色を使わず楽しみに待つことにした。

 

 

 

 

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カイドウに連れてこられた二人の子どもを見ると、珍しくレオヴァは目を丸くして驚いた。

 

そして、そのレオヴァの顔を見てカイドウは成功だとばかりに喜ぶ。

 

 

 

「ウォロロロロロ……

遠征先の島にいた生きの良いガキ共だ。

実力はまだまだだが、タフさが桁違いでなァ

姉の方は能力者だ。」

 

 

そういって前に押し出されたうるティが騒ぐ。

 

 

「なんだよ!

せっかくぺーたんと遊んでたのに急に捕まえられて…

カイドウさま最悪ッ……!!」

 

 

「バカッ……やめろって、あねき!

カイドウさまに失礼なこと言うなよぉ…」

 

 

 

カイドウをポカポカと殴るうるティをページワンが必死に止める。

 

 

レオヴァはその光景に笑うと、カイドウに声をかけた。

 

 

 

「まさか父さんが新人を連れてきてくれるとは!

次の幹部候補メンバーの中に入れる……と言う考えで良いだろうか?」

 

 

「あぁ…!

ちょうど候補がいねぇと言ってたのを思い出してなァ

殺さずに土産にしたんだが……どうだ?」

 

 

「助かる、本当に困っていたんだ……

父さんが連れて来てくれたんだ、きっと強くなるだろう。

…面白い土産をありがとう父さん、嬉しいよ。」

 

 

「ウォロロロロロ!!

そうか!気に入ったなら良い。

今後はこのガキ共はレオヴァに一任する!」

 

 

 

サプライズが成功し、ご機嫌に指示を出すカイドウと父からの思わぬ手土産に上機嫌なレオヴァ。

 

そして、その指示を聞いて

やっとガキのお守りとおさらばだとキングとクイーンは喜んだ。

 

 

だが、どんどん勝手に進んで行く話にうるティは不満げな表情を隠しもせずに噛みつく。

 

 

 

「わたしは認めないぞ!

カイドウさまは強ぇから言うこと聞くけど

そのへらへらしてる奴の言うことは聞かないからな!!」

 

 

腕を組んでフンッと鼻を鳴らしたうるティの頭に拳骨が降ってくる。

 

 

「んに"ゅ"ッ…!?」

 

 

突然の痛みに変な声を出したうるティは頭を押さえながらカイドウを見上げて固まった。

 

 

「レオヴァはテメェらの上だ。

上下関係ぐれぇそろそろ覚えねェかガキ!」

 

 

 

怖い顔をして見下ろしてくるカイドウに、しゅんとするうるティを庇うようにレオヴァが二人の間に立った。

 

 

「まぁ、父さん。

まだ子どもなんだ……これから少しずつ覚えれば良いさ。」

 

 

「……レオヴァが言うならそれで構わねぇ。

今日からそのガキ共は好きにしろ。

それと怪我の事もある……二ヶ月はレオヴァの遠征は無しだ。」

 

 

「わかったよ、父さん。

心配させてすまなかった……ありがとう。」

 

 

 

親子がそのまま夕御飯の準備の指示を出す後ろで

うるティはじっとレオヴァを観察し、ページワンは心配そうに姉の頭にレオヴァから渡された氷をそっと宛てていた。

 

 

この日から二人は“連れてこられた子ども”から

 “百獣海賊団 海賊見習い”となった。

 

 

 

 


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