俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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悩みと企み

 

 

レオヴァは鳳皇城(ほうおうじょう)にある研究室にて溜め息をついた。

 

今、力を入れている研究が幾度も実験を繰り返していると言うのにあと一歩成功に届かないのだ。

 

 

(……根本から見直すべきだってのか?

この世界のモンを使えば不可能な筈はねぇのになァ……)

 

 

こんなにレオヴァが普段の穏やかさからは想像もつかぬ程、険しい顔をするのにはある悩みが関係していた。

 

 

父であるカイドウの望みを叶える為に戦力増強を考えたレオヴァだったのだが、ワノ国の侍を使うにはまだ年月が必要であった。

だからこそ、外から目ぼしい人材を見つけては引き入れて来たわけなのだが……。

それだけでは駄目だとレオヴァは理解していた。

 

幹部以外の部下たちも屈強でなければ、根本的な戦力増強にならないのだ。

いくら幹部が部下の数百倍の力があろうとも、人数を確保出来なければナワバリや遠征に多く割くことが出来ない。

 

だからこそ原作では“スマイル”が使われたのだろうとレオヴァは予測してはいるのだが…。

 

 

しかし、真面目に良く働いてくれる“可愛い部下たち”をロシアンルーレットさながらの危ない賭けで消費したくない。と言うのがレオヴァの本音である。

 

一部の忠誠のない者たちがどうなろうとレオヴァは少しも気には止めないのだが、百獣海賊団…延いてはカイドウを心から慕い、忠誠を誓った部下に関してレオヴァはこの世界の基準では例外的過ぎるほど、本当に大切に扱っている。

 

スマイルの様に即座に力を手に入れられるモノは魅力的ではあるが、如何(いかん)せんデメリットが頂けなかった。

 

 

泳げなくなるだけならばレオヴァもここまで試行錯誤して悩まなかっただろう。

だが、表にでる感情を固定してしまう……そんな可愛い部下たちの感情を殺すも同義な副作用をレオヴァは受け入れることなど出来なかった。

 

 

その為、忙しい日々の中

寝る間も惜しんでスマイルの代替案の為に、外から連れてきた海兵や敵海賊達を被験者として実験を重ねているのだ。

 

 

 

台の上で理性を失くし吠える海兵へ電撃を手早く流すと、死体になったソレを腹を空かせて口からキチキチと音を鳴らす巨大な百足(ムカデ)のケージへと投げ入れた。

 

 

「……はぁ…独学じゃあこの程度もままならねぇのか……

これさえ上手く行きゃジャック達の負担も減らしてやれるってのになァ……」

 

苦々しく呟くと、少しずつ刺々しくなっていくレオヴァの雰囲気にガラス越しに並べられている珍しい生き物達がざわざわと怯えるように蠢きだした。

 

やはり、最近やっと居場所を特定し関係を結び始める事が出来た“彼”がいなければ成功までいけないのか……とレオヴァが気落ちしていると研究室に無遠慮に入って来る音が響く。

 

 

この場所までのルートを知るのはたった三人…カイドウ、クイーン、キングのみである。

…まぁ、その中の一人であるカイドウが複雑なルートをちゃんと覚えているかは定かではないが。

 

 

レオヴァが失意と疲れから、ゆっくりと気だるげに顔を上げると、そこには気配通りクイーンが立っていた。

 

 

「よぉ、レオヴァ~!!

……って、おいおい…外じゃ見せられねぇ様なツラになってんじゃねぇか!」

 

「あぁ……クイーン、悪ィ…

失敗が立て続けに起こってなァ……少し気が立ってンだ」

 

「おおぅ……こりゃ重症だな…

睡眠時間減らしすぎなんじゃねぇのォ?

……行き詰まってんなら、このクイーン様の天才的な頭脳を貸してやってもイイんだぜェ?」

 

 

おどけたようなクイーンの態度や言葉にレオヴァの表情がふっと緩む。

 

 

「ふふ、そうだなァ……クイーンに相談するのが一番か…」

 

「そうそう!

こういう研究ってのは色んな角度から見るのが重要なんだぜ~?

一人で唸ってるより、おれのエキサイティングでナイスな意見を聞くのが一番ってわけよ!!」

 

 

身振り手振りで騒がしい程に主張してくるクイーンを見て、レオヴァの表情もいつの間にやら穏やかなモノに戻っていく。

 

 

「じゃあ、クイーンの意見を聞かせてくれ。

実は……宿主と寄生虫に互いに対する耐性を獲得させ、進化的軍拡競争(しんかてきぐんかくきょうそう)を起こすことで宿主と寄生虫両方が進化を続ける……と言う現象に近いモノを再現したいんだ。

 

今まで、それによって多様な種類へと分化する例があった事が多数の研究者によって証明されているだろう?

 

それと似た現象を利用して人に様々な生き物の特徴を与える事が出来るのではないかと、おれは仮説を立てて進めているんだ。

 

今のところは目ぼしい虫や爬虫類のサンプルを軸に実験を繰り返しているんだが……成功に近い個体でも体に新しく脚が生えたり、鱗が出るだけだったりとあまり芳しくない……

 

と、言うわけなんだがクイーンの視点からはどう考える?

やはり根本のロジカルから見直すべきだろうか…」

 

 

「oh…クレイジー……メチャ生命の理を無視した代物を作ろうとしてんじゃねぇか…

相変わらず発想がぶっ飛びすぎだろォ……」

 

「…それを言ったら、おれたち能力者がいる時点で自然の理なんざ役に立ってねぇだろ?」

 

「あ、それ言っちゃう感じか~……。」

 

 

予想以上に複雑な研究を進めていたレオヴァに思わずクイーンの口からは本音がもれる。

 

なにか凄く難しい事で悩んでいるのだろうとはクイーンも予想していた。

何故なら、色んな島に行く度に博識な学者たちや研究者達から手解きを受け、気に入れば連れ帰り共に学ぶ…

貪欲なまでに知識をあらゆる方面から吸収しながら独学を進める、あのレオヴァが溜め息をつくほどの内容だ。

難しい事であると予想するのは容易い。

 

しかし、だ。

まさかの生命の起源やら、進化の深みやら……あまりにも複雑かつ壮大な悩みにクイーンはつい本音を溢してしまったのだ。

 

もし、この話を聞いたのがカイドウであったならば、この複雑すぎる悩みを聞いて

『……………まぁ、レオヴァの考えなら問題ねぇだろ

 好きに実験してみりゃ良い。』

と、きっと丸投げしていたに違いない。

 

 

日頃キングからは

『騒いで踊るしか脳のねぇデカいボール』

などと散々な言われようなムードメーカーであり茶目な大男。

 

だがしかし、クイーンはやはり百獣海賊団の中でも指折りの天才であった。

なぜならば、ぶっ飛びすぎだろォ…と溢しながらもレオヴァの言いたいことを瞬時に頭でまとめ、理解することができるのだから。

 

 

「アー………要するに……動物系(ゾオンけい)の悪魔の実の再現に近いモンを作りてぇって事でイイんだよなァ?」

 

「平たく言えばそうなるな。

今のところ継承しやすいのが虫や爬虫類なんだが…

どうしても上手くいかねェ……

何より副作用が酷い。

今後、見込みのある部下に使って行くモノだからこそ、あまり副作用の酷くねぇモノを作りたいんだが。」

 

「ん~……リスクを抑えるなら、同時に効果を抑える他ねぇかもなァ

例えば出現する能力を生き物そのものにするんじゃなくて、一部のみ使用できるようにするとかな!

…ピンポイントでも能力があるとないじゃ戦闘力も変わってくると思わねェか?」

 

「ほう……なるほど、生き物の一部の能力だけ付与する形にすればやり易さも変わるか…?」

 

「そそ!そんな感じだな~

良い例を上げるなら、レオヴァのペットの蛇の毒のみ継承させるとかだな……あとは~」

 

 

お茶目な大男から研究者モードに入ったクイーンの話にレオヴァは真剣に聞き入った。

 

二人は熱い議論を交わしながら、次の研究の方針を固めて行くのだった。

 

 

 

 

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「なッ…これは……!!」

 

 

ドレークはレオヴァから渡された箱を部屋で開け、驚愕のあまり固まってしまっていた。

 

この箱を手渡されたのは、つい数時間ほど前の事だ。

 

 

 

いつも通り遠征から戻りキングに報告書を渡し、カイドウに挨拶を終え、一刻も早くレオヴァの担当へ戻ろうと鳳皇城(ほうおうじょう)御用部屋(ごようべや)……いわゆる執務室へ向かった。

 

声をかけると、担当の近衛隊員(このえたいいん)がスッと(ふすま)を開いた。

 

襖の向こうには書類の山に囲まれたレオヴァが、近衛隊員の尊敬の眼差しを一身に受けながら、テキパキと書類を片付けている。

 

 

『…レオヴァさん、手伝いに来たんだが』

 

 

控えめに声をかけると、レオヴァは書類から目を離しドレークに柔らかい笑みを向ける。

 

 

『おかえり…ドレーク、今回の遠征でも大事ない様でなによりだ。

それにしても遠征終わりぐらい、ゆっくり休んだらどうだ。

おれへの近衛業務は明日からだろう?』

 

 

自分の事は棚に上げて休むことを進めるレオヴァにドレークは眉を下げる。

 

 

『レオヴァさんが休む時に、おれも休む。

……手伝わせてほしい。』

 

レオヴァの座っている場所の正面に並ぶ文机(ふみづくえ)に腰かけると、ドレークは一つの書類の山を目の前に移動させた。

 

淡々と書類仕事を始めたドレークを見てレオヴァは礼を述べる。

 

 

『ありがとうドレーク、助かる。

……終わったら一緒に茶でも飲もうか。』

 

『レオヴァさんを手伝えるのは、おれにとっても嬉しい事なんだ……気にしないでくれ。

茶の淹れ方も習った……いつもレオヴァさんに淹れて貰ってばかりだったから…』

 

『茶まで淹れられる様になったのか…!

ふふふ…本当にドレークは勉強熱心だな。

…楽しみだ、手早く終わらせてドレークの淹れてくれる茶で一服しよう。』

 

『フッ……レオヴァさんに喜んで貰えるような茶を淹れるよ。』

 

 

互いの目を見て二人は穏やかに笑い会うと、どちらからともなく作業へと戻った。

 

 

その後二人は書類仕事を近衛隊員(このえたいいん)が驚く勢いで終わらせ、ゆっくりと茶を啜りながらドライフルーツとナッツの盛り合わせを堪能した。

 

そして、そろそろ自室に戻ろうかと腰を上げたドレークにレオヴァは思い出したと言う様に声をあげる。

 

 

『そうだ、ドレークに渡したい物があったんだが』

 

『おれに?』

 

 

レオヴァは頷き立ち上がると、銀とダイヤ鉱石で細やかな飾りの施された木箱を持ち出してきた。

ドレークはなんだろうか?とまじまじと綺麗な木箱を見つめる。

 

 

『今までの情報収集の褒美と真打ちへの昇進祝いだ。

お前の仕事振りには感謝している…いつもありがとう。

ドレークに似合うモノを選んだんだ、受け取ってくれ。』

 

 

突然の褒美の嬉しさから硬直したドレークの手の上にレオヴァはそっと綺麗な木箱を置いた。

 

はっと意識を取り戻したドレークは慌てたように声を上げた。

 

 

『そんなっ……レオヴァさん…本当に良いのか!』

 

『あぁ。むしろ受け取って貰えない方が悲しいんだが…』

 

『ッ…この喜びをなんて言葉で表せばいいのか……!

………あぁ…駄目だ、上手く出てこない!

ありがとうレオヴァさん、わざわざおれの為に…これ以上の嬉しさはない!』

 

『ふふふっ…まだ中身も見ていないのにか?』

 

『レオヴァさんが、おれの働きを認めてくれて……褒美を考えてくれた事が何より嬉しいんだ!』

 

 

珍しく昔の様に無邪気にはしゃぐドレークにレオヴァも嬉しそうな顔をする。

暫くの間、歓喜のあまりテンションが上がったドレークはレオヴァに気持ちを伝えようと、スレイマンがカイドウの使いで現れるまで喋りつづけた。

 

 

スレイマンの登場で冷静になったドレークは自分のはしゃぎ様に恥ずかしくなりながらも、優しく声をかけてくれるレオヴァと少し会話を交わしてから自室へと戻った。

 

 

そして、その後自室にてワクワクする気持ちを抑えられずに、浮き足立ったまま木箱を開けて冒頭の状態となったのだ。

 

木箱の中には“悪魔の実”とメッセージカードにレオヴァの文字で

『親愛なるドリィへ

爬虫類マニアなお前が喜んでくれそうな物を選んだ。

きっとお前なら上手く使いこなせるだろう。

頼りにしている。

これからも、よろしく頼む。

        レオヴァより 』

 

という言葉が書かれている。

 

 

さらっと渡された、あまりにも凄すぎる褒美にドレークは絶句する。

箱の中で怪しくも圧倒的な存在感を放つコレは、間違いなく“悪魔の実”である。

少なくとも仕事終わりに、ポンと軽く渡して良い物ではない。

 

 

だがドレークが絶句するのには驚きだけではなく、理由があった。

 

実はドレークには少し前から、ほんの小さな悩みがあったのだ。

それは自分は“レオヴァから悪魔の実を貰えていない”と言う嫉妬心からくる悩みだった。

 

ジャック、ロー、スレイマンの三人が貰えて自分は貰えていないと言う事実。

何より自分より後に入団したスレイマンがレオヴァから悪魔の実を授かったことが、ドレークの焦りに火をつけた。

 

自分は役に立てていないのだろうか?

レオヴァにとって、もう必要なくなってしまったのでは?

…何故自分はこんなに貪欲なのだろうか?

身内の喜ぶべき褒美を喜べないなんて…なんと醜いのか……

 

レオヴァは部下を蔑ろにするような人ではないと理解しているドレークだったが、少しの嫉妬心からどんどん思考は沈んでいく。

 

それをなんとか、ドレークは定期的にレオヴァが設けた“面談”を依り代に心の平穏を保っていたワケだが。

 

そんな中、まるでドレークの全てを理解しているとでも言うような絶妙なタイミングでのレオヴァからの褒美。

 

 

『やはりレオヴァさんは、おれをちゃんと見てくれているんだ!!』

 

と、心中に渦巻く歓喜にドレークが言葉を失うのも仕方のない事であった。

 

 

今までの褒美の嬉しさとは桁違いの感情に震える手でドレークはメッセージカードを持ち上げた。

 

思い遣りの滲み出る丁寧なレオヴァの字を見てドレークの目元が更に緩む。

失くさぬ様にと部屋にある鍵付きの箱の中にしっかりと保管すると、悪魔の実の前に戻った。

 

手に取った悪魔の実は想像よりも軽い。

 

ドレークはゴクリと息をのみ、一気に禍々しい実へ食らいついた。

 

想像を絶する不味さに顔を歪めながらもレオヴァからの褒美だという想いから、実の全てを体の中に収めた。

 

この日、X・ドレークは

リュウリュウの実 モデル“アロサウルス”の力を手に入れたのだった。

 

 

だがこの時、幸福感に満ちたドレークはまだ知らなかったのだ。

悪魔の実をレオヴァに手ずから渡された者が例外なく課された試練

……レオヴァとカイドウとの“組み手”と言う名の地獄が待っている事を。

 

 

『死ぬ気で殺り合えば能力の使い方も自ずと身に付き、更に死にかければ強くなる…と、おれは父さんから教わった。

一度に複数の目的をこなせる……これぞ、まさに一石二鳥。…そうだろう?

ふふふ……流石は父さんの教えだ、利にかなっている。』

 

という、カイドウ仕込みの謎理論かつ脳筋論理をレオヴァが持っていると言う事実をドレークは知らないのである。

 

ドレークが医務室でローの世話になる未来は、確実に近付いて来ていたのであった。

 

 

 

 

 




ー後書きー
前回もまたもや誤字祭り……報告本当にたすかります!!

感想も頂けて嬉しさの極み…!いつもありがとうございます!
読み返してはニヤニヤさせて頂いております~!

今月、ワンピの一番くじでカイドウさん欲しさに散財しましたので来月激務で更新頻度が下がるかもです……m(__)m
次の一番くじはキングとクイーンが来るので残業祭りに入って参ります!!
百獣海賊団万歳!!


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