花の都にある自分の屋敷の美しい縁側で、町の活気溢れる音を背景音楽にレオヴァからの仕事を淡々とこなしていたヒョウ五郎に部下の声がかかる。
「親分、お客がお目見えでさぁ。」
部下は部屋の前で
「客……?
今日は人が来る予定はねぇと思うが……通せ。」
開かれた襖の向こうに無愛想に立っている青年を見て、ヒョウ五郎は珍しい訪問者に眉を上げた。
少年から青年へと立派に成長した小生意気で、けれど努力家な彼に中へ入れと声をかける。
「おうおう、ずいぶんと珍しいじゃねぇかロー!
お前さんがわざわざ おれに会いに来るなんざ……何かあったのか?」
自分の前に座ったローに心配半分好奇心半分で問う。
少しの間を空けて答えられた言葉にヒョウ五郎は驚きに眉を上げた。
「……良い彫師を紹介してくれ。」
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あれからローは休みの日にヒョウ五郎から紹介された彫師の下へと通い続けた。
ローのデザイン案を見て微笑ましげに笑うヒョウ五郎の顔を思い出すと腹が立つが、紹介された彫師の腕は確かだった為、ローは口をつぐんだ。
そう、ローは相手を立てる事が出来る男なのである。
手や鎖骨から腹まで、そして背中にも…と範囲が広かった為に半年以上かかったが
全身が終わり、ついに手も肌の感覚が戻った。
彫り終わってからも長らく手入れなど、大変ではあったが……完成したものを見れば、その大変さも吹っ飛んだ。
ローは思わず頬を緩ませる。
今までレオヴァに
『……怪我をしたのか?』
『また包帯が増えているが……大丈夫なのか?』
『…まぁ、ローが言いたくないのならば詮索はしないが……何かあれば言うんだぞ。』
などと有らぬ誤解をさせてしまっていたのだ。
やっと事情を説明出来るという安堵と、レオヴァの反応がローは少し楽しみであった。
そもそも、何故ローがタトゥーを入れようと思ったのか……それはレオヴァの背にある百獣の印について聞いた事がきっかけだった。
『レオヴァさんはなんで背中に入れたんだ?』
何気ない会話にポツリと溢したローの言葉にレオヴァは少し驚いたあと、ふっと微笑み…答えた。
『実はこう言ったモノには柄は勿論だが、入れる場所にも意味があるんだ…
おれで言うなら背中だな……そこは自分にとっての称号、座右の銘だったり大切なものを彫る者が多い。
だから、おれは背に百獣を刻んだ。
……おれの全てだからな。』
決意と優しさの灯った瞳で笑うレオヴァの言葉はローに新たな価値観を与えた。
誓い、意思や覚悟。
それを体に刻む。
ローはレオヴァに彫物について色々と教えて欲しいと頼み、知識を得た。
そして、自分でデザインや場所を考え……今日やっと念願叶い完成したのだ。
最後に彫った手はまだ少し違和感が残っているが、ほぼ問題ない。
今頃、仕事の虫になり、晩御飯を食べて下さいと部下たちに懇願されているであろうレオヴァの下へと向かった。
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「れ、レオヴァ様……そろそろお夕食をお食べになられては…」
おずおずと言う様に切り出した
「……そうだな、もう少ししたら頂こう。
お前たちはそろそろ退勤時間だ、戻ってくれ。」
「そ、そんな!
レオヴァ様が実務をしていらっしゃるのに帰るなど!」
「いや、皆が遅くまで付き合う必要はない。
勤務時間以外の時間は好きなように休んで欲しいとおれは思っているんだが……」
「「「ならば、レオヴァ様のお側に仕える事こそ我々の好きな事にございまする!!」」」
ピッタリと揃って声を上げた部下にレオヴァは困ったように眉を下げた。
しかし、一番困り顔をしたいのは部下たちである。
このまま自分達が帰ればレオヴァが延々と飲まず食わずで働き続けることは今までの経験上明らかだ。
現に、レオヴァは“もう少ししたら”と言う言葉を使い既に三時間も夕食を食べずに仕事を続けているのだから…。
なんとかレオヴァを休ませようとする部下と、
しかし、彼の登場で戦況は一気に部下達に追い風となる。
「レオヴァさま~! お腹空いたよぉ~…
一緒にご飯食べよ~!」
白くもふもふした彼を見た部下達は勝ちを確信した。
彼……ベポさえいればテコでも動かないレオヴァを休ませられる!!
部下たちは、ベポを部屋へ向かわせたであろうキングの素晴らしい采配に深く感謝した。
最初こそ、“もう少ししたら”とベポに先に食べるように言うレオヴァだったが
「お、おれ……頑張って川でレオヴァさまの好きなお魚釣って…それ料理してもらったから……一緒に食べたくて……
……………けど…レオヴァさまが忙しいなら我慢する…」
この世の終わりを告げられたと言っても信じそうなほど落ち込んだベポに、先ほどまで動かなかったのが嘘の様にレオヴァは立ち上がった。
「ベポ…すまない。
おれが頑固だった……一緒に夕飯にしよう。」
2m以上ある大きな体を小さく丸めているベポは、そのレオヴァの言葉に目を輝かせた。
「ほ、本当!?
レオヴァさま一緒に食べてくれるの…?
お仕事……いいの?」
「あぁ、仕事は夕飯のあとにしよう。
……どんな魚を釣ったんだ?」
「やった~~!!レオヴァさま、ガルちゅ~!
えへへ、レオヴァさまの好きな…なんとかマグロ! 二匹も釣れてね~
あとね、あとね!他にも……」
勢いよく飛び上がったベポはレオヴァに抱き付くと、たくさん釣った魚の話を始めた。
レオヴァはそれを『凄いな』やら『偉いぞ』と相づちを打ちながら聞いている。
部下たちはチャンスだと言わんばかりに料理人達に連絡をとり、すぐさま夕飯を運ばせるのであった。
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ベポと言う、対レオヴァ休憩最終兵器により
無事夕飯を終え、安堵した部下たちはやっと各々の部屋へと帰って行った。
部下たちがいなくなった
「ロー…?
どうした、今日は休みだったと思うが……何かあったのか?」
一瞬心配そうな顔をしたレオヴァだったが、ローの手を見て目を丸くした。
「……そうか、ここ最近の包帯はソレの為だったのか」
今までのローの行動から一瞬で答えに辿り着き微笑むレオヴァに、ローも笑い返す。
「レオヴァさんに一番に見せたかったんだ。」
ローは文机の側に腰を下ろした。
レオヴァはローの手に彫られたトライバルを見て嬉しそうに笑う。
「竜に…鳥か。
ふふふ……これはまた思いきったなァ。」
「カイドウさんとレオヴァさんだ。
……まだ他にもある。」
喜ぶレオヴァの顔に上機嫌になったローは身体にある他の彫物も見せた。
思っていた数倍は多い彫物にまた少しレオヴァは驚いた顔をした。
「ローも背に百獣を彫ったのか。」
「レオヴァさんと同じにしたんだ。
……おれも百獣が全てだから。」
真っ直ぐな強い目でレオヴァに告げ、微笑んだローの頭に優しく懐かしい感触があった。
ぽんぽん、と軽く触れると離れて行った手に気恥ずかしげに帽子を深くかぶったローをレオヴァは優しい瞳で見つめた。
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ページワンは久々に姉の居ない静かな日々を過ごしていた。
姉こと、うるティは船の前で
あまりにも我が儘かつ、傍若無人な振る舞いに恐ろしい殺気を放つジャックにページワンは冷や汗を流した。
しかし、レオヴァが
『ふはははっ……父さんとの遠征に行く権利を見事 “奪い取った” んだ。
そんなに怖い顔をしてやるな、ジャック。
海賊らしくて良いじゃねぇか……ふふふ…』
と、可笑しそうにジャックを宥めた為、なんとか事なきを得た。
『えへへ……カイドウ様と遠征ナリ~!!
バンバンぶっ潰してやるぅ!!
あ、レオヴァ様にはヘンテコなお土産持ってくるナリよ!
……あ!カイドウ様待って~~!!…なり!』
弟の気苦労など知らずに上機嫌にカイドウに付いていく姉にページワンは遠い目をする他なかった。
日々、姉の撒く火の粉を消す……そんな生活であったが、たまの心休まる一時にページワンは羽を伸ばしていた。
だが、そんなページワンの下にレオヴァからの呼び出しがあった。
「……姉貴いねぇのに呼び出し?
しかも……レオヴァ様か……
ど、どうしよう……これ怒られんのか…?」
ページワンは震えた。
そう、今までのカイドウ……正確にはキングやクイーンからの呼び出しでは悪い知らせ、または説教ばかりだった。
内容は毎回 “テメェの姉だろ、なんとか
あまりにも理不尽な内容だ。
部屋に戻る度に毎度頭を抱えて唸るページワンの苦労は凄いに違いない。
しかし、一応警告で済ませていると言う時点でキングとクイーンには
きっと二人はレオヴァからの
『うるティの奔放さを失わせるような指導は行うな。
あれもうるティの個性……可愛らしいものだろう。
…………そうだなァ、確かに問題を起こしがちではあるからな…叱るのは構わねぇが。』
との言葉がなければ、トラウマレベルの拷…いや、指導をしていただろう。
クイーンに関しては一度、声を出せなくするウイルスを作り、うるティで試そうとしてレオヴァを怒らせた前科持ちである。
そんな記憶しかないページワンは焦り散らした。
姉が居ない今、呼び出される……即ち自分が何か重大なミスをしたのでは…?
わたわたしながらもレオヴァを待たせてはならないと、ページワンは鳳皇城へと急いだ。
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ページワンは目の前の現実が上手く呑み込めていなかった。
まるで機械のような、ぎこちない動作でレオヴァから包みを受け取る。
「……ア、アリガトウゴザイマス…。
が、がんばり……マス……」
「ふふっ…あぁ、お前なら使いこなせる。」
緊張と動揺からカタコトになっているページワンに、思わずと言う様にレオヴァは笑う。
「急に呼び出して悪かったな。
午後の編笠村の管理も頼んだぞ。」
「は、ハイ!」
ページワンのぎくしゃくとした動きをレオヴァは優しい顔で見送ったのだった。
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編笠村の座敷までの廊下を歩きながら、やっとページワンの頭は先程の出来事に理解が追い付き始めた。
レオヴァからの褒美……包みの中には悪魔の実………期待しているとの言葉……。
少しずつ頭を整理し座敷に入り、襖を閉めると同時にページワンは叫んだ。
「~~~~っ しゃあッ!!!
やったぜ!!!レオヴァ様からついに!おれも!!!」
ぴょんぴょんとページワンは部屋を跳ね回った。
「へへへっ……やべぇ…マジで嬉しい……。」
包みの前に膝を突いてニヤニヤと呟く。
そっと包みを開くと中から禍々しい実が現れる。
ページワンは大切そうに持ち上げて実を観察した。
「一口かじって残りは飾るか?
……いやけど、部屋だと姉貴に壊されっかなァ…」
ウンウンと頭を悩ませていたページワンだったが、とにかく一口食う!と決め、齧りついた。
「…ング!?………う"うぇ!! ま、不味ィ……」
これでもかと顔を歪ませながら、なんとか一口呑み込んで呟く。
「……これでおれも…姉貴やレオヴァ様と同じ能力者か…!
へへへ……絶対使いこなしてやるぜ!!」
嬉しげに笑って気合いを入れるページワンはこの後の地獄をまだ知らないのである。
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容赦のない電撃と槍の雨にページワンは二週間前の浮かれきっていた自分を殴りたい気分になっていた。
「ウォロロロロ……まぁまぁ良いんじゃねぇかァ?」
「いや…武装色が甘い分、もう少し見聞色を強めるべきじゃないだろうか?」
息も絶え絶えに喋る間もないページワンの数十メートル先で電撃を放ち槍を創り続けるレオヴァと、その槍を弾丸のような速度で投げてくるカイドウは本当にほのぼのした雰囲気で話し合っている。
「(……いやいやいや…談笑してるけど隙がなさすぎんだよ!?)」
叫びたいが声を出す体力も温存したいページワンは内心で理不尽を叫んでいた。
そんなページワンがカイドウの手の動きに合わせて槍を避ける。
……しかし、狙っていたのかそのタイミングでレオヴァの電撃がページワンの眼前へ迫っていた。
「~ッ!? ヤベッ……!」
物凄い破壊音と共に煙が舞い上がった。
レオヴァはにっこりと笑う。
「……流石だ、先を読むのが上手いなァ……ロー。」
舞い上がった煙が晴れたそこには2メートルほどの槍が刺さり、床が無残に砕け散っているだけであった。
ページワンは数メートル後ろのローの隣で目を白黒させながら礼を述べている。
「前に出過ぎだ……こっちの動きは全部読まれてる前提で動くって話だっただろ
……無駄に消耗すりゃ終わりだ」
「わ、悪い……つい、イケそうだったから…
…次は気ィ付ける」
ギロりと睨んでくるローに申し訳なさそうにページワンは俯いた。
そう、現在進行形でページワンとローは “組手”……と呼ばれているが組手とは程遠い形式でカイドウ、レオヴァから指南を受けているのだ。
毎度、形式の違う “組手” だが、今回の勝利条件はカイドウ達の30メートル前にある旗を抜く事…だった。
ルールとしてカイドウとレオヴァは旗の半径15メートル以内には入れないなど、不利なものが多数ある。
当初、ページワンは何故ローが虚ろな瞳で説明を受けているのか解らず首を傾げたが、今ではローの気持ちが痛いほど良く解る。
二人は本当に手加減して……いや、寧ろ遊び相手になってくれてるぐらいの感覚なのだろうが、ページワンとローにとっては命懸けである。
事実、たった一時間で
ローがなんとか動けているのは、これが数十回目の“組手”だからだろう。
肩で息をする二人は前方数十メートル先で談笑している親子を見てなんとも言えない顔をする。
「父さん、そろそろ……」
「そうだなァ。晩飯もある、終わらせるか。
……ページワン、ロー…最後を耐えきったら褒美だ!」
「二人とも、ちゃんと避けるんだぞ?
悪いが父さんのは当たったら死ぬからな。」
ニッと楽しげに口角を上げたカイドウと、いつも通り微笑むレオヴァの言葉は二人に今日一番の緊張を走らせるに十分な威力であった。
「……ページワン!」
「わかってる!」
二人は顔を見合わせ頷くと、叫んだ。
「「 旗は無視だ!! 」」
勝ちなんて端から眼中にない!というような二人の叫びが終わると同時に槍が降り注いで来る。
いっそ、芸術的なまでの槍の雨にページワンとローは顔をひきつらせたのだった。
ーー 後書き ーー
今作のローのタトゥーは原作とは違う感じになっております~!
柄が気になる方は図をご覧下さい。
いや、自分でイメージあるんで!
と言う方はスルーして頂ければと( ・ω・)ノ
↓ローのタトゥーイメージ図
【挿絵表示】
感想と誤字報告いつもありがとうございます!!
とんでもない暑さ……皆様も熱中症などお気をつけ下さいませ…
パピコうめぇ……!!