俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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最高傑作同士の邂逅

 

 

とある貿易での事だった。

 

レオヴァは通常通り賃金と品物の交換を終え、ナワバリの異常がないかを視察していた。

 

すると、馴染みの町長が声をかけてきたのだ。

いつもの様に軽く世間話をしていたレオヴァだったが、ある話題に食い付いた。

 

 

『変わった自然現象の起こる島で採れる…光る砂糖?

それは見たことも聞いたこともないな……』

 

『えぇ、その島でしか取れない特産品でしてなぁ。

レオヴァ様は珍しい物がお好きだと聞きまして、その島の友人に譲って貰ったんですよ。

これがその特産品です……ささ、どうぞ!』

 

『…ほう、その島でしか取れぬ特産品か。

これは随分と綺麗だな……ありがとう。』

 

『いえいえ!

レオヴァ様には数えきれぬ程お世話になってますからねぇ。

気に入って頂けたなら、わしも嬉しいですよ。』

 

 

レオヴァはキラキラと光る不思議な砂糖の入ったビンを懐にしまい、礼を述べると町長と別れた。

…勿論、別れ際にその島の場所を聞くのを忘れずに。

 

 

面白い特産品に島特有の自然現象……レオヴァの興味を引くには充分すぎる内容だった。

 

レオヴァはすぐに、この砂糖の可能性を模索する。

 

 

「(スイーツへの使用……トッピングやコーティングに使えば見た目を良く出来そうだ。

いや、寧ろ金平糖のような形で素材その物の良さを際立たせるのも有りか…?

 

まずは試作品をワノ国内で販売……好感触であれば他の国への貿易に加える事も視野に入れるか。

……金平糖などにすればワノ国の菓子としても商談の時に良い効果も期待できる可能性もあるしな……

 

最近手を出し始めたカクテルにも使えるかもしれない

……光る酒か…父さんの反応が気になるな…

あまり甘過ぎる酒は父さんの口には合わないだろうが、辛口の焼酎の合間にアクセントとして飲むのは有りだな……よし、まずはカクテルに使えるかの実験を…

 

……いや、先にこの特産品を作っている島に商談を取り付けるか。

試作品を作るにしても量は必要だからな。)」

 

 

思案を巡らせながら船へと戻ってきたレオヴァは、すぐに行動に移した。

 

 

「ロー、少し寄りたい場所が出来た。

出港準備は問題ないか?」

 

珍しく早く出港しようとするレオヴァにローは少し首を傾げたが、また何か思い付いたのだろうと察し、読んでいた医学書を机に置くと答えた。

 

「…お帰り、レオヴァさん。

今すぐにでも船は出せるが…何処へ?」

 

「ただいま、ロー。

……光る砂糖の商談を取りに行く。」

 

「…光る砂糖?」

 

 

またレオヴァさんの珍しい物好きか、とローは笑った。

 

 

 

 

 

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あれから、あっさりと光る砂糖の貿易を取り付け、更にはナワバリにするという成果を残したレオヴァは3度目の視察へ向けて準備をしていた。

 

 

ナワバリには常駐(じょうちゅう)している百獣の部下がいる。

その為、基本的に何か有れば連絡が来る手筈になっており、問題があったら幹部やレオヴァが向かうのが流れだったのだが。

 

ここ数年では、定期的に重要度の高いナワバリに赴き、現地の改善や、そこで働く部下達の意見などを聞くのはレオヴァの仕事になりつつあった。

……逆に重要度の低いナワバリは幹部がたまに見回りに行くのみだが。

 

治安維持や流行り病の防止、食料などの確保……その他諸々。

ナワバリをしっかり維持することは大切だというレオヴァの方針によって、最近では “ナワバリ検定” と言う資格が出来たほどだ。

 

この“ナワバリ検定”は基本的には取りたい者のみの受講であるが、ナワバリに常駐する船員を纏める立場の“真打ち以上”の地位の有るものは受講が必須である。

 

内容としては、ナワバリでの人々の扱いや緊急時の対応を中心に干魃(かんばつ)や洪水の対応、原因不明な病が流行った場合の応急措置など

様々なナワバリ統治に役立つ知識である。

 

ちなみに、ナワバリ検定は初級・中級・上級の3つのランクがあり、そのランクに応じて給金が増える仕組みがある。

その為、多くのギフターズが中級以上を狙って受講する傾向にあり、最近ではレオヴァが授業を受け持った日は講義室に人が入りきらなくなるのも名物の様になってしまっている。

 

 

して、ナワバリ巡回と言う名の視察の準備をしているレオヴァの側には、ハイテンションな一匹が出発を今か今かと待ちかねていた。

 

 

「レオヴァ様との遠征久しぶりだ~!

一緒にいっぱい食べ歩きしたいなぁ。」

 

荷積みをするでもなく、レオヴァの周りをピョンピョン跳ねているベポに鋭い声がかかる。

 

 

「おい、ベポ!

レオヴァさんにやらせてんじゃねぇ。

食べ物の事ばかり考えてねぇで荷積みやれ!」

 

「ご、ごめんよ…キャプテン。

おれつい、楽しみで……レオヴァ様!それおれが持つよ!」

 

 

怒られたベポはレオヴァが運んでいた荷物を受けとると手早く荷積みを始めた。

最初からやれよ…と呆れているローにレオヴァは笑いつつ、航路の確認作業を始める。

 

 

 

しかし、今回の遠征で起こる大きな問題を、平和に遠征準備を進めるレオヴァは知る由もなかったのだ。

 

 

 

 

 

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レオヴァは目の前の船と、その船に乗っていた男を見て思考をフル回転させていた。

 

 

小豆色の短髪に、鋭い目付き。

顔半分を隠すマフラーと体に刻まれたピンクのタトゥーが印象的な大男は、間違いなくシャーロット・カタクリだろう。

 

一切、隙を感じさせぬその佇まいは、一筋縄では行かぬ気配をひしひしと感じさせた。

 

 

「(……ビッグ・マムとの抗争は避けたいが…

相手に引く様な動きはない……ナワバリに仕掛けて来たと言う事は“そういう事”なのか?

ここで交戦するのはウチにとって不利益だ。

ナワバリも荒れるし、特産品の生産にも関わる。

尚且つ、住民を守りながらなどと言う甘い戦闘で追い返せる様な相手ではないだろう……どうするべきか……)」

 

警戒態勢は崩さぬまま、思考を巡らせるレオヴァ。

 

 

一方、カタクリも顔には出さぬが焦っていた。

 

目の前には百獣のカイドウの息子。

しかも、親の七光りであり大した実力はないとの噂を耳にしていたと言うのに、実際は違った。

 

隙のない動きに、部下には手出しさせないと言う威圧感。

聞いていた噂とは180度違うその姿にカタクリは警戒心を強める。

 

 

「(……ペロス兄やダイフクの噂話は当てにならねぇな…

百獣との抗争は避けるべきだ……だが、ママが所望する例の砂糖を持ち帰れないのはマズい…!

おれだけならまだしも…妹達に被害が出ちまう。

なら、やはり此処で倒し……狙いの物を奪って帰るか……いや、そもそもなぜ此処に百獣海賊団がいる?

なにか見落としてるのか……ブリュレも回収しなきゃならねぇってのに…!)」

 

 

 

両者睨み合い一歩も譲らぬ姿に部下達は息を呑む。

 

緊張感がピークに達した海岸で、部下達が自身の武器を手に取ったと同時に、レオヴァとカタクリの声が響く。

 

 

「待て、お前達……船へ戻れ、おれがやる。」

 

「あの男の相手はおれがする。

……皆、一先ずナワバリ拠点に戻っていてくれ。」

 

 

ビッグ・マム海賊団の船員たちは、普段よりも重々しいカタクリの命令に素直に頷くと後ろを警戒しながら下がっていった。

 

百獣海賊団の船員たちも、普段とは雰囲気の違うレオヴァの言葉に素直に従い、拠点へ向かうべく少しずつ下がって行く。

 

 

 

「(相手の動きを見るべきか……いや、手の内を知っているのなら先制を許す必要はねぇ。

()れずとも、ウチのナワバリからは撤退させる…!)」

 

「(また雰囲気が変わった……これは後手に回れば圧しきられるか…。

討ち取るまで行かなくとも、撤退させ……その隙に砂糖を手に入れ万国(トットランド)へ戻る……!)」

 

 

奇しくも、二人の選択は “先手必勝” であった。

 

同時に地面を蹴ったレオヴァとカタクリの衝突は、付近の浜辺の木々を吹き飛ばす程の衝撃を起こした。

 

 

 

 

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ブリュレは久しぶりに賑やかな町を堪能していた。

 

この島には兄であるカタクリと共に、ビッグ・マムの求める光る砂糖を仕入れに来たのだが、優しい兄はたまには羽を伸ばせと休憩時間をくれたのだ。

 

街中からは甘くて良い香りが漂っている。

至る所にあるスイーツ工房にブリュレの頬は緩みっぱなしだ。

 

先ほど買った可愛らしい見た目の砂糖菓子をパクりと食べながら町を歩く。

 

暫く歩くと視界の先に目当ての店を見つけてブリュレは喜んだ。

 

 

「…やっとドーナツ売ってるお店を見つけたわ!」

 

 

大好きな自慢の兄の大好物をたくさん買うべく、ブリュレは財布を片手に小走りに店に入った。

 

今頃、部下に指示を出しつつ光る砂糖の取引を、取り付けに行っているであろう兄へのお土産だ。

とびきり美味しい物を買ってあげようと、ブリュレは色とりどりのドーナツをじっくりと見つめる。

 

 

どれも美味しそうだと悩んでいると、お店の扉が開き元気な声が聞こえた。  

 

 

「おばあさ~ん!

ドーナツ買いに来たよ~!」

 

大きな声にブリュレが思わず振り向くと、そこには真っ白なクマが二足歩行で立っていた。

 

「(クマ!?……ペコムズと同じミンク族かしら?)」

 

そんな事を思いつつも、ドーナツ選びの方が重要だとブリュレはまた吟味を始めた。

 

いっそ全ての種類を買って帰ろうかと思い始めたブリュレの下へ、店のおばあさんと話していたクマが声をかけてきた。

 

 

 「ここのドーナツ全部美味しいからオススメだよ! 

キャプテンもレオヴァさまも美味しいって言ってるし!」

 

「あらあら~…ベポちゃんは嬉しいこと言ってくれるねぇ。」

 

「えへへ…おばあさんのドーナツ本当に美味しいから。」

 

 

ほのぼのした雰囲気の一人と一匹にブリュレもつい、絆され結局本当に全種類のドーナツを購入したのだった。

 

 

「(まぁ…お兄ちゃんならこれくらいペロッと平らげちゃうわよね。)」

 

大量のドーナツを抱え、帰路についたブリュレだったが、まだ隣にいるベポに思わず突っ込む。

 

 

「いや、アンタいつまでついて来んのよ!!」

 

「うわぁ!

急におっきな声出さないでよ~

びっくりするでしょ!」

 

「びっくりしてんのは私の方よ!

なんでついて来るの……。」

 

「おれも帰り道こっちなんだ~」

 

「……一緒に帰る必要ないじゃない。」

 

「え……だって、せっかく友だちになったから」

 

「いつアンタと私が友達になったのよ!?」

 

「さ、さっき一緒にドーナツ食べた時……」

 

「あ、あれは…あのおばさんが紅茶を出してくれたから」

 

 

友達なんかじゃない。

そう言おうとしたブリュレだったが、ベポの顔を見て思わず口をつぐんだ。

 

ブリュレより少し小さなクマはつぶらな瞳をうるうると濡らし、ブリュレを悲壮感溢れる表情で見つめていたのだ。

 

幼さの残るクマの哀愁漂う姿を見て、ブリュレは溜め息をつく。

数多くの弟や妹の面倒を見てきたブリュレはこの顔に弱かったのだ。

 

 

「まぁ……途中までなら一緒に来てもいいわ…。」

 

「……本当に!? ありがとう~!

ブリュレさんは優しいね!おれブリュレさん好きだなぁ」

 

「べ、べ別に優しくはないわよ…!

いいから早く歩かないと置いてくからね!」

 

「は~い!

あ、そうだ。おれ面白い乗り物あるんだけど!」

 

 

良くわからぬ歌を口ずさみながら、乗り物の場所を教えるとテクテク歩くベポをしり目にブリュレは帰路をゆったり進んだ。

ドーナツを見て嬉しそうな顔をするであろう、兄を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

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カタクリは困惑していた。

 

短期決戦で決着をつけるつもりだったのに一向に倒れぬ相手に。

そして、それを少しでも楽しいと感じてしまっている自分自身に。

 

 

「……血を流したのなんざ…いつぶりだ?

まさか此処までやるとはな……」

 

 

額から流れる血を拭って目を細めるカタクリに、同じく額から血を流すレオヴァが答える。

 

 

「こっちの台詞だ……まさか父さんとの組み手以外で…。

このまま続けるなら…そちらも相応の被害を覚悟して貰うぞ…」

 

 

おもむろに腰から見慣れぬ武器を取り出したレオヴァに答える様に、カタクリは変形させた体の中から槍を取り出した。

 

 

 

「……その言葉…そのまま返そう……!!」

 

 

「悪いが、やられてやるつもりはないぞ。」

 

 

 

武器同士がぶつかる音が辺りに響く。

 

カタクリは戦闘に全神経を注いでいた。

だが、それは恐らくレオヴァも同じであろう。

 

拮抗する二人の実力は、お互いを消耗させ続けた。

 

 

気の緩みの許されぬ攻防を続けていた二人だったが、少し動きがあった。

 

レオヴァの仕掛けた策にカタクリがハマったのだ。

未来が見えようとも避けられぬ必至の一手であった。

 

 

「…ぐっ……!!」

 

 

顔を歪めたカタクリだったが、彼の戦闘センスはレオヴァの想定を上回っていた。

 

レオヴァの仕込んだ槍の攻撃の方向を腕を貫かせることで変え、致命傷を避けたのだ。

 

 

「……っ…!? 」

 

 

今度はレオヴァが顔を歪める番であった。

仕掛けた槍にカタクリを追い込む為に、前に出過ぎていたレオヴァをカタクリは渾身の力で蹴り飛ばしたのだ。

 

崖に思い切り叩き付けられたであろうレオヴァをしっかり視界に収めながら、カタクリは腕に刺さった槍を引き抜く。

 

 

「ぐぅ…ハァッ……フー……同じものが見えてる相手は…初めてだ。」

 

 

マフラーの下で口角を上げたカタクリは息を整えながら崖の方を向き、構える。

 

砂埃が静まったそこには、思った以上にダメージの入っていないレオヴァが立っていた。

 

 

「…ハァ…ッ……その見聞色…まったくもって厄介だ。」

 

「お前も同じだろう。

……ウチの傘下にくだるなら………フッ…そうか。」

 

「断る。

カタクリがウチに来るなら歓迎だがな」

 

「答えは…言わずとも、だろう。」

 

「あぁ……だろうな。」

 

 

言い終わると同時に雷が襲う。

だが、時速72万Kmで落ちる雷を危なげもなくカタクリは避けた。 

 

 

「…“無双ドーナツ”…!!

 

「……ドーナツ…?」

 

 

レオヴァの呟きを、かき消す速度の拳が繰り出される。

しかし、レオヴァはそれを舞うような動作で避けていく。

 

 

武具載天(ぶぐたいてん)”…!!

 

「ずいぶん便利な能力だ…“餅吟着”!!

 

 

レオヴァが雨のように降らせる数多の槍を、カタクリは数十のモチを作り出し受けきった。

 

カタクリとレオヴァは、互いに互いの技を防ぎきってしまう。

泥試合になる予感を感じ始めたレオヴァがバチバチと光を纏った。

 

少し驚いた様に目を見開いたカタクリだったが、レオヴァから距離を取る。

 

 

 

「……なんでもありか…お前のその能力は。」

 

永劫快気(えいごうかいき)

……おれから言わせればカタクリのその能力もだが…?」

 

 

爆音と共にレオヴァに降り注いだ雷にカタクリは眉を寄せ、呟いた。

雷に打たれたレオヴァの息切れはすっかり回復しており、少しの余裕さえ感じる。

 

長期戦は圧倒的に不利だ。

そう即座に感じ取ったカタクリはズレ始めていたマフラーを軽く直す。

  

 

「…これ以上、時間はかけねぇ。」

 

「おれは長期戦に持っていかせてもらう。

……つもりだったんだが……ふふ、父さんの気持ちが良くわかる。

カタクリ、おれがお前を倒したら…」

 

「……あぁ、構わねぇ。

が、その逆も考えておくんだな。」 

 

「おれは百獣の名を背負ってる…敗北はない。」

 

「それは、おれも同じだ……将星に敗北は許されねぇ。」

 

 

二人の纏う雰囲気が荒々しくなっていく。

大地がひび割れ、空は重々しい雷雲に覆われている。

 

カタクリとレオヴァはほぼ同時に行動に移した。

 

 

「フッ……行くぞ、レオヴァ…これで決めるッ!

“斬・切・餅”!!!

 

 

「ふははは!…カタクリ、受けて立とう…!

……迅雷壊裂(じんらいかいれつ)!!!」

 

 

レオヴァの武装色を纏った禍々しい戦斧と、カタクリの武装色を纏った刺々しい腕が振り下ろされようとしていた。

 

二人はお互いのことだけを見据えていた。

 

だからこそ、気付かなかったのだ……猛スピードで二人に近付く人影に。

 

 

二人の強者のぶつかり合い……その狭間に予想だにしなかったものが現れた。

 

 

 

ギャ~~!!!

このアホ白くまぁ!!呪ってやるぅ!!」

 

うわあぁ~~!!ごめんよ~!!

と、止まらないんだ~!!」

 

 

スクーターの様な乗り物に乗って現れたベポとブリュレに、カタクリとレオヴァは目を見開いた。

 

 

なッ…!? ブリュレ!?

 

ベポ!? なぜ此処に!?

 

 

この瞬間、二人は敵であるお互いの事が思考から消え去った。

今、頭にあるのは目の前の大切な者をどうすれば助けられるか、という考えのみである。

 

ベポとブリュレを乗せた乗り物は故障しているのか、止まる気配はない。

このままではカタクリとレオヴァの戦闘の巻き添えになってしまう。

 

 

焦ったカタクリだが、この攻撃は全身の遠心力を利用した物だ。

おいそれと簡単に止められるものではない。

仮に少し位置をずらせたとしても、その衝撃は大切な妹を傷つけてしまうだろう。

 

いや、だが直接当たるよりは……そう思いなんとか振り下ろす位置を変えようと踏ん張りを利かせた。

 

 

一方、レオヴァも焦っていた。

カタクリとレオヴァの軌道線上に突っ込んでくる未来が見えたのだ……このままでは確実にベポは死ぬ。

 

父に懐いている可愛い部下を手にかける事になる可能性を感じると同時にレオヴァは動いた。

 

カタクリへ向けていた戦斧へ全身の電気を流し、無理やり回転させ、スピードを上げた。

そして、そのままカタクリの腕に向かって振り上げたのだ。

 

 

ドゴォ…!!

 

 

あり得ない爆音と共にカタクリとレオヴァは吹っ飛んだ。

 

 

レオヴァは気が逸れて隙を見せたカタクリの首よりも、ベポの命を選んだ。

 

あの一瞬でレオヴァは振り下ろされるカタクリの腕をピンポイントで戦斧で弾き、その衝撃波を分散させる為、自分も流れのまま吹き飛ばされたのだ。

 

だが、それはカタクリとて同じであった。

 

明らかに自分への注意がそれ、ブリュレと謎の熊に意識が向かったレオヴァよりも、妹の無事を選んだのだ。

 

レオヴァが目にも留まらぬ速さで戦斧を回転させた時はカタクリも身構えそうになったが、敵であるレオヴァの熊を案ずる気配を信じて、身構えずにそのまま振り下ろした。

 

カタクリの読み通りレオヴァはブリュレと謎の熊に危害を加える可能性の高かった腕を上手く弾いて見せたのだ。

 

 

スクーターの様な乗り物はそのまま、もと二人が居た場所に激突したが、幸いそこは砂浜だ。

大きな怪我はなかったが、二人は叫んだ。

 

 

「お、お兄ちゃんっ!!」

 

「レオヴァさまぁ!!」

 

 

ブリュレとベポは互いに反対の方へと走り出した。

 

 

「お兄ちゃん…あ、頭から血が!!

う、腕も……早く手当てしなくちゃ!」

 

「……ブリュレ、怪我は…」

 

「怪我はしなかったけど……それより、お兄ちゃんの怪我が!」

 

 

ポロポロと涙を溢しながら心配するブリュレを、カタクリは慰める。

 

 

「これくらい問題ねぇ………泣くな、ブリュレ。」

 

「ひっぐ……うぅ、だって……お兄ちゃん…!

わた、私のせいで……」

 

「別にブリュレのせいじゃねぇ……おれの鍛練不足だ。」

 

「ふえぇ~!! そんなことないもん!!

おに、お兄ちゃんは…ぐすっ……世界一だもん……」

 

 

泣き出したブリュレの頭をぎこちなくカタクリは撫でた。

 

 

 

一方、ベポはレオヴァの見たことがない姿に泣きながら飛び付いた。

 

 

「うわぁ~ん!!

れ、レオヴァさまぁ……死なないでぇ~!!

嫌だよぉ……レオヴァさま…グスッ…きゃ、キャプテン…レオヴァさまを治して~…うぅ…ぐす……」

 

「……ベポ、勝手に殺さないでくれ。」

 

「レオヴァさまっ!!

ごめんなさい……おれのせいでっ…」

 

「いや、ベポのせいじゃない……カタクリが強かったからなァ……ふふ、もっと鍛えないとだな。

怪我はないか、ベポ?」

 

「…っ……うん!グスッ…怪我してないよ!

レオヴァさま…早くキャプテンに見てもらおうよ…

血もいっぱいでてるし……し、死んじゃうよ!」

 

 

泣きながらも、ハンカチで必死にレオヴァの血を止めようとするベポの頭をレオヴァが優しく撫でる。

 

 

「……すまない、ベポを不安にさせるつもりはなかったんだが…

つい、はしゃぎ過ぎたな。」

 

「う…グスッ……おれレオヴァさまが楽しいのは嬉しいけど……怪我するのは嫌だよ…」

 

 

抱き付いて鼻をすするベポの背を、レオヴァは優しくなでた。

 

 

 

 

 

 

なんとか、カタクリはブリュレを泣き止ませ

レオヴァはベポを落ち着かせる事ができた。

 

が、此処で問題が生じた。

 

 

なんと、ブリュレとベポは友人になったとか。

さらには此処は百獣海賊団のナワバリであると言う情報まで入って来たのだ。

 

 

カタクリは今回は引くしかないと言う結論を出していた。

 

何故なら、此処がナワバリでなければ軽い小競り合いで済む話だ。

しかし、此処は紛れもなく百獣海賊団のナワバリなのだ。

 

ナワバリに手を出したとあっては、ビッグ・マム海賊団と百獣海賊団の抗争にまで発展しかねない。

 

なんなら、ビッグ・マム海賊団の方から手を出してきたと難癖を付けられ、他のビッグ・マムのナワバリを荒らされかねない。

 

引くにしても、どうやって抗争にさせずにこの場を去るか。

カタクリはあらゆる方法を模索した。

 

 

 

同時に、レオヴァもどう終わらせるかを悩んでいた。

 

本音を言えばカタクリともう少し殺り合いたい気持ちはあるが、ベポがいる以上危険なことは出来ない。

 

なにより、レオヴァもカタクリもすっかり臨戦態勢が崩れてしまっているのだ、仕切り直しも難しいだろう。

 

そして、レオヴァの懸念していたビッグ・マム海賊団による宣戦布告でないこともカタクリの反応を見れば一目瞭然であった。

 

明らかに穏便に、尚且つ自分の海賊団に不利にならぬよう考えを巡らせているカタクリ相手に、喧嘩腰で行く必要も感じられなかった。

 

しかし、かと言ってナワバリに、ほいほいと招くわけにはいかない。

レオヴァはカタクリを気に入ったとは言え、彼は敵である。

身内にならぬ限りは油断は出来ない。

 

 

 

だが、完全に冷戦状態になったレオヴァとカタクリの下にモコモコな天使が舞い降りた。

 

 

「レオヴァさま……えっとね…ブリュレちゃんが砂糖買いたいって言ってて…」

 

おずおずと申し出たベポの言葉にレオヴァは興味を示した。

 

 

「砂糖?

それは、この島特有の光る砂糖のことか?」

 

「うん!ブリュレちゃんはそれの取引しに来たんだって。」

 

 

ベポの言葉でレオヴァは大方理解した。

 

 

「(なるほど……要するにカタクリ達はスイーツの材料になる砂糖の取引をしに来たのであって

この島を占領しにきた訳ではないのか……たしかに、占領するつもりなら町は荒らされてる筈だしな……)」

 

 

ふむ……と考え込むレオヴァだったが、(おもむろ)に口を開いた。

 

 

「…カタクリ、おれはビッグ・マム海賊団と揉めるつもりはない。」

 

「それはおれも同意だ。

ママの命令も無しに、わざわざ面倒な相手と敵対するのは非効率的だ。」

 

「話が分かるようで助かる。

そこで、だ。

このまま手ぶらで戻ることになれば、そちらも困るだろう?

……貿易という形でやり取りする気はないか。」

 

「…………貿易か。」

 

「こちらからは、光る砂糖は勿論。

あらゆる砂糖菓子も提供できる。

……ワノ国独自の和三盆という菓子は万国(トットランド)にはないんじゃないか?」

 

 

聞き慣れぬ菓子の名前にカタクリの眉が動く。

 

 

「わさんぼん…?

確かに、万国(トットランド)でも聞かねぇ菓子だが…どういう…」

 

 

「盆の上で砂糖を三度も研ぐという、ワノ国で工夫された独自の精糖工程によって選別された高級砂糖のみを使って作られた菓子だ。

……きめ細かな砂糖を使っているから極上の口溶けを楽しめる。

味はすっきりとした甘さが売りでな…渋めの茶と合わせるとまさに逸品だ。」

 

 

レオヴァの細かい説明にカタクリは興味をそそられ、ブリュレはゴクリと息を飲んだ。

 

畳み掛ける様にレオヴァは提案する。

 

 

「船にワノ国から持ってきた菓子がある。

今話した和三盆以外にも、紙ふうせんや羊羮もあるんだが……一度試食してみるか?」

 

「え? し、試食?」

 

 

レオヴァの話にキョトンとするブリュレ。

カタクリは少し考える素振りを見せたが、レオヴァの目を見て答えた。

 

 

「……おれとしては悪くない取引だと思うが、ママの判断を仰いでからじゃねぇと決められねぇ。

百獣との取引となるとな……。」

 

 

「勿論だ、寧ろその方が助かる。

後から、やはり取引は解消だと言われても困るからな。

……まぁ、まずはワノ国の菓子を食べてみてくれ。

美味ければビッグ・マムの説得にも使えるだろう?」

 

 

 

数十分前までの殺伐さは消え去り、テンポ良く取引の内容をカタクリとレオヴァは話し始めたのだった。

 

 

 

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あれから、レオヴァのワノ国菓子や特産品スイーツのプレゼンテーションを終え、ビッグ・マムと話し合いを始めたカタクリだったが思いの外あっさり取引をすることを許された。

 

余程、レオヴァの紹介した様々な菓子が魅力的に映ったのだろう。

 

事実、ブリュレもカタクリもレオヴァの持ってきた菓子と緑茶の美味さには舌を巻いたのだから。

 

菓子一つ一つに饒舌に感想を述べるカタクリを見て、思わずレオヴァが笑ってしまうアクシデントはあったが、概ね問題なく取引が開始された。

 

 

一方、レオヴァもカタクリがビッグ・マムと話し合っている間にカイドウに許可を…と、電伝虫を繋げた。

 

 

『ウォロロロロロ……あのババァか!

構わねぇ、売れるだけ売り付けてやれ!

……だが、レオヴァは直接ババァとは話すな、そのカタクリとかいうリンリンのガキとだけ話せ。

…またあの話を掘り返されちゃたまらねぇからなァ……』

 

と、謎の一言を残しはしたものの、カイドウは比較的取引には前向きであり、此方もあっさりと許可が降りた。

 

レオヴァはカイドウの言いつけ通りカタクリと取引内容を固めて行き、無事に両者同意の下で複数の菓子と光る砂糖の取引が成立したのだった。

 

 

しかし途中、ブリュレとベポの謎の自慢合戦が始まり、それが喧嘩にまで発展していた。

 

 

『ふん!

カタクリお兄ちゃんなんて、無敗の男よ!!

それもただの無敗の男じゃない……〝超人〟なのよ!!

いつも気高く冷静で強く……全てが完璧!

それが私のカタクリお兄ちゃんなんだから!!!』

 

『むぅ!

レオヴァさまだって、カイドウさまに並ぶくらい強くて!

しかも、優しくて料理も上手でカッコいいんだよ!!

いつだって凄いこといっぱい考えてて頭も良いんだ!

何でも出来るスッゴくすごい人!

それが おれとキャプテンのレオヴァさまだもん!!!』

 

 

船の前で大声で言い合うベポとブリュレを、レオヴァとカタクリが止めに入るのは同時だった。

 

 

『…よせ、ブリュレ……』

 

『ベポ……止してくれ…』

 

しかし、頭を抱える二人はお構い無しに暫く言い合いは続いたのだった。

 

 

 

その後、大量の砂糖を船に積み込んだカタクリとブリュレは契約通り素早く島を後にした。

 

ワノ国の菓子は後日、別の島への配送が決まっており、レオヴァはその手筈を整えるべくワノ国にいるブラックマリアに伝言を頼んだ。

 

 

船へ戻ろうと、ベポと歩くレオヴァはまだ知らなかった。

ナワバリ拠点から戻ってきたローに怪我が見付かり、小言攻めに合う未来を。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カイドウはレオヴァの作った風変わりな菓子を物珍しげに眺めていた。

 

丸々な形の青や黄色のその菓子は、薄くキラキラと光っている。

 

カイドウ用に作られたのであろう、それは通常の何十倍も大きいサイズだった為に、一層キラキラと美しく見えた。

 

 

人差し指と親指で軽く摘まんで、眼前までもってくるが、やはり薄く光るそれは綺麗だ。

 

 

「また変わったモンを作ったなァ……」

 

しみじみと呟くカイドウの隣で、レオヴァはにこにこと楽しげにカイドウの反応を見ていた。

 

 

「ボンボンと言う種類の菓子なんだ。

周りは上質な砂糖で、中身は酒が入っていてワイン、ブランデー、リキュール、純米酒など色々な酒を試してみた。

……父さんの口に合えばいいんだが。」

 

 

そう言うレオヴァの頭を軽くポンと撫でるとカイドウは摘まんでいたボンボンを口に入れ、笑った。

 

 

「……悪くねぇ。

辛口の焼酎の合間に食うのも良いな…!

ほら、レオヴァも食え。」

 

 

カイドウがレオヴァには少し大きく感じる青色のボンボンを口に放り込む。

 

 

「ん……父さんが喜んでくれたなら良かった。

他にも最近開発した、そば焼酎もあるんだ!」

 

 

喜んで貰えて嬉しげに微笑むレオヴァは、次から次へと変わり種を用意し、カイドウも見たことのない酒やツマミを楽しんでいる。

 

 

そして、そんな互いに酒を酌み交わしつつ、談笑を続ける親子の側ではクイーンがボンボンを一気に4つも頬張っていた。

 

 

「おぉ…これ結構イケるぜ!!」

 

光るボンボンをぱくぱくと平らげていくクイーンにキングは眉をしかめる。

 

 

「……ボールがボールを食いやがって…共食いじゃねぇか。」

 

 

ボソリと呟かれた言葉に、側にいたササキ、ドレーク、ローは思わず吹き出した。

 

 

「はははははっ!!

今回ばかりはキングの言う通りだ!」

 

可笑しくてしょうがないと言う様に腹を抱えてササキは笑う。

その横ではドレークが下を向いて小刻みに肩を揺らした。

ローは誤魔化すようにずっとグラスに口を付けて離さない。

 

クイーンは額をぴくぴくさせながら叫んだ。

 

 

「おい、ササキ!!

てめぇには言われたくねぇんだよ!!

てか、ドレーク!おめぇも笑ってんじゃねぇー!!

……キング、てめぇは一旦表でろや…」

 

空になったおしるこの鍋をひっくり返すクイーンを見て、カイドウと話していたレオヴァが笑い、カイドウも笑った。

 

 

「ウォロロロロロ…あっちも盛り上がってるみてぇだなァ…!!」

 

「ふははは! 仲が良くてなによりだ!」

 

 

クイーン達の喧騒を肴に、また親子二人は酒を呷った。

 

 

 

 

 

 




ー後書きー
感想いつもありがとうございます!
なんかテンション上がってスラスラ書けてしまった……皆さんがくれるガソリンが凄い…
アンケートも回答下さった方ありがとうございます~!
レオヴァに入れたいと言って頂けたコメントもあって嬉しみ!!
そして、圧倒的カイドウぱぱ……流石は父さん!!っていうレオヴァの声が聞こえるぜ…

『以下簡単な補足』
(ナワバリ検定)
・カイドウ→検定なし
・キング→検定なし ・クイーン→検定なし
・レオヴァ→上級  ・ジャック→上級
・ドレーク→上級  ・ロー→上級
・ベポ→初級  ・スレイマン→上級
・うるティ→初級 ・ページワン→中級
・ブラックマリア→初級 ・ササキ→中級
・フーズ・フー→上級
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