編笠村付近の海岸の海は、朝日をキラキラと反射させ、美しい自然の景色を醸し出している。
穏やかな小鳥の鳴き声と村の子ども達の笑い声が響き、平和を象徴するかの様な景色だ。
しかし、この光景に相応しくない異物が混ざり込んでしまっていた。
砂浜に漂着したとみられる大きな海賊船。
そして、近くには無数の倒れている男達。
そんな不穏なこの光景を目撃した守護隊の対応は驚くほど迅速であった。
まず、この砂浜付近に村人が来ないように封鎖し、村人達の安全を確保。
更には同時進行で倒れている男達を拘束し終えると、村に散らばる守護隊員の出動要請をかけた。
その後、スマシにて近衛隊に連絡し指示を仰いだ。
これは定期的に行われている “非常時訓練” の成果と言って差し支えないだろう。
やるべき事を終えた守護隊達は警戒を崩す事なく、もうじきレオヴァの指示でこの場所へ来るであろう人物を待った。
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“海岸に賊が打ち上げられておりまする!”
と、驚きの連絡が入り急いで現場に向かったドレークだったが、そこにいる青年を見て思わず目を見開いた。
「っだぁ~~!
もう、だから!おれはワノ国の奴を送ってやっただけだって!
お前らと殺り合うつもりはねぇんだ、武器をしまえよ!」
拘束を自力で解いたのであろう青年が炎の壁を作りながら、守護隊と睨みあっている。
「ならば、おぬしが先にこの炎をなんとかせぬか!!」
「
「話し合いはレオヴァ様の使者がお越しになってからだ……大人しくそこに直らんか、小僧!」
武器を納めるどころか、隙なく構える侍達に青年はイラついた様に叫んだ。
「くそっ……お前らと下らねぇ言い合いしてる場合じゃねぇんだ!
こっちは仲間が病気で死にかけてる…。
お前らが退かねぇなら……おれは力尽くでも医者の所へ行くぞ!」
青年の纏う炎が一層激しさを増した時だった。
身構えた守護隊達の後ろから、聞き馴れた声が響く。
「待て…!! そこまでだ!
これ以上は村へ被害が出かねん、両者武器を
響いた制止の声に
一方、注目を浴びながらドレークはどうするべきか悩んでいた。
目の前の男は間違いなく、ポートガス・D・エースだ。
レオヴァが何度かその名を口にした事をドレークはしっかりと記憶している。
「(確か火拳はレオヴァさんが何かと気にしていた海賊だ…
おれは、どう出るべきだ?
…捕虜として拘束し、レオヴァさんに渡す……いや、敵対は愚策か。
友好的に出ればレオヴァさんも後にやりやすいだろう。
それに、こちらが好意的に出たにも関わらず暴れる様であれば大義名分はこちらのモノだ……守護隊と揉めたようだが、なんとかするしかあるまい。)」
瞬時にあらゆる可能性を考慮し、ドレークは思考をまとめた。
目の前ではメラメラと灼熱の炎が燃え盛っている。
守護隊を下がらせ前にでたドレークを、エースはじっと目を離す事なく見ていた。
両者からは警戒心を崩さぬ張り詰めた空気が漂っていたが、苦し気な呻き声にハッとしたようにエースが後ろへ振り向いた。
「ガハッ……ぅ、エース…船長ぉ」
「ガンリュウ…!?
くっ……待ってろ、すぐに医者を!
おい、そこの眼帯退いてくれ。
このままじゃ仲間が死んじまう……この通りだ!!」
「え、エースせんちょ…!?」
「船……長…おれらの、為にっ……よ、よしてくれ!グゥ…」
「ハァ…ぐ……エ"ースさ"ん"っ……」
頭を下げたエースを見て、縛られている船員達が口々に船長を呼ぶが、その声に力はない。
エースは海賊船の船長というプライドを全て捨て、ほかの海賊団の人間に頭を下げたのだ。
仲間の命より優先するべきものなどない。
その想いを胸に、エースは今出来る精一杯を尽くした。
そんな彼の真摯な態度に守護隊も口をつぐむ。
静寂が包んだその場にドレークの声は良く通った。
「……わかった、お前の言葉を信じよう。
そこに居る奴らを治療できるように医者を呼ぶ。
しかし、その代わり…この国では大人しくしてもらうぞ。」
ドレークの言葉にエースが顔を上げる。
「っ…本当か!?…ありがとう!!
おれの仲間を……みんなを頼むっ!」
もう一度頭を下げるエースにドレークは言う。
「止めろ。
いち海賊団の船長がそんな風に頭を下げるな。
……だが、一応上には報告はさせてもらう。」
「構わねぇ!
みんなの病気が治るなら……」
レオヴァに報告すべく、少し離れたドレークを見つめるエースに守護隊達が近寄って行く。
一瞬、警戒したように構えたエースだったが、守護隊の雰囲気を見て少し力を抜いた。
「ドレーク様が助けると仰ったなら、おれらも手伝う。
……鎖を外すからそ奴らを横に寝かしてやれ。」
「おい、一応毛布を持って来たぞ。
寝かす前に敷いてやるってのはどうだ?」
「ドレーク様が医者をお呼びになるまでに必要な物が有れば言え。
ワシらで用意できる物は融通してやるぞ、小僧。」
エースは先程の険しさが和らいだ守護隊達に礼を述べると水や毛布片手に倒れている仲間達を介護してゆくのだった。
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静寂が支配している病室で、濃い隈のある青年の冷たい言葉がエースを貫いた。
「こいつら全員、小腸がほぼ機能してねぇ。
このまま行けば1ヶ月もしない内に必要な栄養が摂れなくなって餓死だ。
……薬で治せるような簡単な病状じゃねぇ。」
その言葉にエースは目の前の青年の肩をガッと掴み叫んだ。
「う…嘘だろ……
どうすりゃいい…どうすりゃみんなを救える!?」
普段は強い光を灯しているエースの瞳は不安で揺れていた。
やっと手に入れた大切で、かけがえのない仲間達。
エースにとって、仲間が心の支えであり居場所だったのだ。
それが目の前のどうしようもない現実に奪われようとしている。
エースは唇を血が滲むほど噛み締めた。
もう二度とあの時の様な事が起こるのは絶対に嫌だった。
……あの“
けれど、自分にはどうすることも出来ない“病”が仲間を蝕んでいっている。
ベットの上で脂汗を滲ませながら苦し気に息を吐く仲間の姿に、エースは自分の無力さを叩き付けられていた。
「……1つだけ、治せるかもしれねぇ方法がある」
目の前の青年の言葉にエースは勢い良く顔を上げた。
「ほ、本当か!!?」
縋る様な顔で迫るエースに、青年は淡々と告げる。
「あぁ……だが、その手術はワノ国の国民と百獣の船員にしか使わない。
…他の海賊団に機密を漏らす事になるから、おれの一存で手術は行えねぇしな。」
エースは青年の言わんとする事を理解した。
要するに“身内でもない相手を情報漏洩のリスクを犯してまで救う気はない”…と言う事だろう。
自分の夢……仲間の命…………
エースにとって、答えを出すことは簡単であった。
“仲間”
“大切な仲間達より優先するべきモンなんざねぇ!!”
それがエースの導き出した答えだった。
傘下に下る。
その言葉を紡ごうとエースは口を開いた。
「おれは…!」
「おい、トラファルガー!
これはすぐにレオヴァさんを呼ぶべき案件だろう!?
なにを火拳と話し込んでいるんだ!
感染症の対策も取らなければならないのではないのか?
………指示にないだろう…余計な真似は止せ 」
「チッ、うるせぇな……ドレーク。
…いちいち叫ばなくても聞こえてるし、わかってる。
感染源は押さえてるし、接触した守護隊共の検査も終えてる。
…………もう少しだってのに邪魔しやがって… 」
だが、エースの決意はドレークの怒鳴り声によってかき消された。
話をしようにもドレークとローはバタバタと慌ただしくエースを置き去りに作業を始めてしまっている。
「あ……お、おい…!
おれの話を……」
その呼び掛けは虚しく宙を舞ってゆく。
エースは忙しそうな二人に声を掛けるのは諦め、ただひたすらビニールカーテンの奥で眠る仲間達を憂う事しか出来なかった。
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仲間達を助ける為なら全てを投げ打つ。
一週間前に、その覚悟を決めたエースは思ってもいなかった展開に目を丸くし叫んだ。
「え………本当におれの仲間は治ったのか!?」
「あぁ、問題なく皆の治療は終わった。
ただ、あと2週間はゆっくり療養させて様子をみる必要はあるが、峠は越えた…もう心配の必要はない。」
「~っ!! ありがとう!!!
アンタ……本ッ当に良いヤツだな!!」
驚きと安堵から、エースは正面に立つ角のある青年の肩を力強く掴み何度も礼を述べた。
しかし、その姿に後ろから地を這うような低い声が掛かる。
「……おい、いつまでレオヴァさんにベタベタしてんだ。
手を切り落とされたくなきゃ離れろ。」
「火拳、貴様レオヴァさんに無礼を働くな!
事前にこの国の王だと伝えただろう!!」
「あ!……これは失礼。
えー……ほうおうさま、ありがとう!…ございます!!」
鋭い目付きで睨み刀に手をかけるローと、怒気を含ませるドレークの言葉に怖じけることもなく、エースは姿勢を正すとレオヴァに再度礼を述べた。
気にするなと微笑みながら、ローとドレークを宥めるレオヴァにエースは更に好印象を抱いていた。
あれから、感染症の治療を終えた仲間達の療養中の間
エースはありとあらゆる雑務を手伝っていた。
何十何百回と断られたが、諦めずに何か手伝わせてくれと詰めよったエースにレオヴァが折れ、村や町の手伝いを任される様になったのがきっかけだ。
『頼む! おれにも何かさせてくれ!!』
『いや、何回言わせるんだ。
エース……お前はおれの部下を助けてくれた。
だから、おれはお前の仲間を治した……それで貸し借りは無しだ。』
『それじゃあ、おれの気持ちが収まらねぇんだ。
治療もだけどよ…仲間の飯代に包帯とかもスゴい金かかってるじゃねぇか……
なのに何もしねぇってのは、性に合わねぇっつーか…
だから、頼む! 体力には自信あるし……なんでも任せてくれよ!』
毎日鳳皇城に現れては頼み込むエースに、ついにレオヴァは根負けしたのだった。
そんなこんなで、今日もエースはドレークと町や村に赴き困り事を解決する作業を進めていた。
猛獣退治に荷物運び、竹林の開拓……大きな問題なく仕事をこなして行った。
………まぁ、竹林の開拓で炎が燃え広がりかけたアクシデントがあったのはここだけの秘密であるが…。
ドレークから落とされた拳骨で出来たコブをさすりながら、エースはレオヴァの下へと向かっていた。
理由はレオヴァとワノ国で最後の食事を共にする為だ。
エースは穏やかで平和な町を歩きながら思いを巡らせた。
仲間が倒れ不安でしょうがなかった時、レオヴァは自分にたくさんの思い遣り溢れる言葉をかけてくれた。
それに忙しいにも関わらずローと共に長時間の手術も、嫌な顔をするどころか
『エースは部下を助けてくれたんだ。
ならば、おれもお前の仲間を必ず助けよう』
と、頼もしい言葉で安心させてくれた。
手術を終えた後も療養中の仲間達に声をかけたり、みんなの好物を用意したり……レオヴァは本当に優しく接してくれたのだ。
エースの中のレオヴァとの記憶は、どれも暖かく楽しいものだった。
恩人であり、友人。
そんなレオヴァとの別れが明日なのだ。
エースには夢がある、目指すべきものがあるのだ。
ワノ国は心地よい。
皆が優しく、お互いを尊重し合える人々ばかりだ。
だが、止まるわけにはいかない。
仲間達とこの広く険しい海を渡っていき、夢を実現させるその時まで……
エースはレオヴァが待っている部屋の襖を勢い良く開いた。
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初めこそ
『どこにそんなに大量の食べ物が入っていくんだ!?』
と驚愕していた近衛隊や料理人たちだったが、最近ではすっかり順応し
『まぁ、エースだからなぁ』
との反応で済ませる程度だ。
だが、ほのぼのとした穏やかな空気の中、急にエースがポツりと呟くように爆弾の様な発言を溢した。
「実を言うと……おれァワノ国には、カイドウの首を取るつもりで来たんだけどよ…。」
「…………ほう、父さんの首を。
…そうか……だが、それはおれを殺してからの話だなァ…エース。」
スッと表情が消え、押し潰されるのではと錯覚する程の威圧感を漂わせ始めたレオヴァを見て、エースは慌てて両手をブンブンと振りながら弁解した。
「あ…いやいや!レオヴァちょっと待ってくれ!
もう、レオヴァの親父さんの首は狙ってねぇよ!
暫く滞在して分かったけどよ、噂と違ってカイドウって優しいって言われてスゲェ慕われてるっぽいし…
なによりレオヴァはおれの仲間を助けてくれた恩人だ。
そのレオヴァの大切な人に戦争しかける真似はしねぇよ。」
その言葉で威圧感は消え、いつもの笑顔が戻ったレオヴァに ほっとエースは息を吐く。
……普段笑顔で優しい相手ほど怒らせると怖い。
そんな事を思いながらエースは机の上のご馳走を胃の中へと運んだ。
「……だが、エースは名を上げたいんだろう?
おれとしてはウチに危害を加えるつもりがないなら、エースにはおれの部下を助けて貰った恩がある……手を出すつもりもないが…」
「ング…モグモグ…んん、それは大丈夫だ!
おれは白ひげの首を取って名を上げることにした。」
「白ひげか…厳しい戦いになるだろうが…武運を祈ってるぞ、エース。」
微笑むレオヴァの言葉にエースは意外そうな顔をする。
「………無理だって笑わねぇのか?」
「人の目標や夢は笑うものじゃないだろう。
それに不可能だと決めつけて他人の可能性を否定する様な事は、おれはあまり好まない。」
「はははははっ!
おれ、やっぱりレオヴァ好きだな。
一緒に海賊やろうぜ!?」
「ありがとう、エース。
だが、何回も言った通り おれはずっと昔から百獣海賊団に骨を
「え~……絶対楽しいのによ~!」
引き下がらないエースに、レオヴァは困った様に眉を下げた。
その後も何度誘っても首を縦に振らぬレオヴァにエースはガックリと肩を落としながら、骨付き肉にかぶり付く。
どうやらレオヴァの百獣への想いを聞いた事があるエースは渋々諦めたようだった。
また暫くワノ国の話やエースの弟の話をしていた二人だったが ふいにエースが口をつぐみ、その場に沈黙が流れた。
突然止まったエースにレオヴァは首を傾げ、刺身を掴んでいた箸を下げた。
「…エース?
どうした、何か苦手な物でも入っていたのか?」
少し下を向いていたエースを覗き込み、心配そうに尋ねたレオヴァに答えるように、エースは突然パッと顔を上げた。
その顔は緊張しているのか強ばっている。
「……なぁ、レオヴァ。」
「…なんだ、急に真剣な顔をして。」
エースの変化にレオヴァが怪訝そうな顔をする。
何を言うのかと身構えるレオヴァの耳に届いたのは、拍子抜けする内容だった。
「おれの夢は前に話したよな?
…おれさ……“大海賊”になったら……
……またワノ国に、レオヴァに会いに来る!!」
「…………あ、あぁ。全然それは構わないが?」
レオヴァの沈黙に不安そうな顔で『来たら駄目なのか…?』とわたわたするエースだったが、困惑したような顔で答えたレオヴァの言葉に、にっと白い歯を見せて笑った。
「よっしゃあ!
すぐに大海賊になってまた来るからな!
その時はまたいっぱい冒険の話もして……あ、あとレオヴァに珍しいモンも土産で持って来るから楽しみにしててくれよ?」
「いや、まぁ…土産は嬉しいが……それだけか?」
「へ? それだけって?」
「はぁ…エース……ならさっきの沈黙はなんだったんだ…」
「あ……へへ…悪い悪い。
レオヴァは友達だけどワノ国の王様だろ?
立場とかあるしよ……来んなって言われるんじゃねぇかな…とか考えてたんだ。
まっ!考えてもしょうがねぇから来るって言っちまったけど、来るなって言われなくて良かったぜ!」
満面の笑みで告げたエースに、レオヴァは呆れた様に言う。
「なにか困った事でもあるのかと心配した おれの気持ちを返してくれ…
まぁ、そもそもエースは来るなと言っても来るだろう。
それに何者だろうとエースはエースだ……大海賊になってもならなくても、好きに遊びに来れば良い。」
レオヴァの言葉にエースは嬉しそうに益々笑みを深めた。
「ははははは!
なぁ、レオヴァ……やっぱりおれと来いよ!!」
「……はぁ…おれの夢は話しただろう。
エースとは行かない、諦めろ。」
「ちぇ~……絶ッ対楽しいのに」
拗ねたように口を尖らせたエースを見て、レオヴァは何度目か分からぬ溜め息を吐きつつも笑っていた。
ワノ国出発前の晩餐をエースは心から楽しんだ。
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ポートガス・D・エース率いるスペード海賊団がワノ国を出港した日の深夜。
昼間のエース達に向けていた暖かな笑顔の面影など微塵も感じられぬ程に冷たい表情のレオヴァが
目の前にはボロボロな女が惨めに這いつくばりながらレオヴァへ腕を伸ばしている。
「ア……グア"ァ"…レオヴァさまッ……なぜ…
わ"…たし、を……許し"て"下さる"と"…………ッぉごお!?」
最後まで言い終える前に女の伸ばしていた手にサーベルが深く突き刺さった。
女は血反吐を吐きながら、サーベルを握っているドレークを睨んだ。
だが、そんな女にとって神に等しい存在であるレオヴァから無慈悲な現実を突き付けられる。
「任務遂行の為にターゲット諸とも死ぬ事すら
「レオヴァさん、おれも百獣の為なら命なんて幾らでも捨てられる。
……ソレがレオヴァさんから言葉を貰えるなんて贅沢が過ぎる、もう処分させてくれ。」
死にかけている惨めな女に張り合うように言うドレークにレオヴァは少し驚いた顔をしてから、眉間に皺を寄せた。
「ドリィ、お前は使い捨てのソレとは違う。
おれにとって家族同然のお前が死ぬことは絶対に許さん。
例えどれ程惨めでも…這いつくばってでも生きろ。
……いいな、ドリィ。」
「っ……わかった…!
すまない……二度と言わないよ、レオヴァさん。」
「約束だぞ…ドリィ、自分を軽視する真似だけはしないでくれ。」
「あぁ、絶対に。
おれが死ぬのはカイドウさんかレオヴァさんに殺される時だけにする。」
「ふふふ……それだと、ドリィは不老不死になる事になりそうだなァ?」
「……レオヴァさん、あまり喜ばせないでくれ。」
「おれしか居ないんだ、取り繕う事もねぇだろう?」
「レオヴァさんの前だからこそ、取り繕いたいんだ!」
「ふはははは…!
ドリィ……お前は本当に…ふふ…。」
「わ、笑うことないだろう、レオヴァさん……
…………そうだ、まだ生きてたんだった。
レオヴァさん、そろそろ処分して良いか?」
「……あぁ、ついドレークが驚かせる様な事を言うから存在を忘れていた。
ドレークのペットの餌として有効活用するとしようか」
レオヴァの言葉に頷くとドレークは惨めな女の脚を掴んで持ち上げ、檻の中へと放り込んだ。
投げ込まれた衝撃で固い床に打ち付けられながら、女は信じられぬ現実に声にならぬ叫び声を上げる。
その叫び声に不快そうに眉をひそめるレオヴァを見て、女は震えながら絶望に涙を流す。
この女は元々は世界平和の為、スパイとして百獣に潜入していた。
だが、それは直ぐにバレてしまい……キングという男にこの世の地獄の様な拷問を繰り返されていたのだ。
そんな己の人生に絶望し、救いを求め続けた女……トゥレ・チェリーの前に渇望していた救いの手を差し伸べたのがレオヴァだった。
あれ以来、女はレオヴァに全てを捧げると誓った。
そして、レオヴァも自分を許し、信頼してくれていると信じきっていたのだ。
女は思っていた。
レオヴァ様は、一度は敵だった自分を地獄から救い出し優しく介抱し、なんども私の能力が必要だと求めて下さったのだから……きっと誰よりも私は特別で…信頼を頂けている!!
しかし、現実は違った。
惨めな女は使い捨ての道具の様に扱われ、敵視してきたドレークが自分の望む扱いを目の前で受けている。
女は泣き喚き、ドレークへ言葉にすらなっていない呪詛を吐きつづけた。
私がレオヴァ様の“特別”なのだ
私がレオヴァ様の信頼を受けるべき人間なのだ
私が、私こそがァ……!!!
女は必死にレオヴァの方へ手を伸ばした。
あの
「レオヴァ、さま……私こそが貴方様の…とく…」
バクンッ!
巨大な蜥蜴の口を閉じる音に女の声は押し潰され、そこには卑しくもレオヴァへと伸ばされていた腕のみが残されていた。
「ふふふ……ドレーク、この子は相変わらず食べるのが下手なんだな。」
「そうなんだ、アルビノというモルフの性質上目が悪いみたいで…上手く口の中に入れられないんだ…
……ほら、残ってるぞ。」
檻の中へ入り、残った腕を蜥蜴の口へ投げ入れてやるドレークを見終えるとレオヴァが思い出した様に呟いた。
「……処分してしまったから、キングの趣味用の人材を用意してやらないとだなァ…
外のナワバリで捕らえた海賊を土産にするか……」
鬼ヶ島の飼育室にはレオヴァの独り言と、ドレークが檻の中で水を出して血を洗い流す音だけが聞こえていた。
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俺は何事もなくワノ国からポートガス・D・エースを出港させられた事に、ほっと息をついた。
計画に使った女も処分でき、一安心だ。
これで今回のエースの件の詳細を知るのは俺とドレーク、ローのみとなった。
しかし、本当に編笠村を一番に取り込んだのは正解だった…。
父さんが工場を任せると言ってくれたあの時、俺はすぐに編笠村が良いと頼んだ。
その理由は3つある。
1つ目は不法入国が可能な滝が近くにあること。
2つ目は“優秀な刀鍛冶”がいること。
そして、3つ目がポートガス・D・エース及びお玉の件だ。
この3つの理由から、俺は真っ先に編笠村を取り込む方針を選んだ。
……どの村よりも厚い忠誠心を得る為に。
結果、編笠村は“一番にレオヴァに救われた村”としてワノ国内でも一目置かれる存在になっているし、俺もなにかと村に顔を出せるように気を遣っている。
思っていた通り飛徹の刀はどれも素晴らしい名刀で、ウチには刀を使う部下が多く、飛徹率いる刀鍛冶達は絶対に手放せぬ人材だ。
その甲斐もあり、編笠村の村人達は忠義心溢れるワノ国の中でも屈指の心酔具合だ。
予め処分する予定だった女を手懐け、感染源としてスペード海賊団に拾わせられたのも大きい。
狙い通り半数以上が病気にかかり重症……その結果エースとの関係も良好なものに出来た。
先を読んだローが傘下に下させようとしていたと聞いた時は少し焦ったが、阻止したドレークの英断にはつい頬が緩む……ドリィも本当に自慢の部下だなァ…。
…兎に角、彼を傘下に入れることは絶対にあってはならないのだ。
エースは実力も伸びしろも申し分ないほど才気溢れる人材だが、性格に難がある。
俺はわざわざ爆弾を抱えるつもりはないし、何よりエースには重大な役割があるのだ。
それは……白ひげの死である。
白ひげは俺の手に負えぬ程強く、多くの者の心を掴む王者の風格も持つ男だ。
……だがそれも、エースさえ居れば解決できる。
この海の王者は“
何人も覇王などいらない。
海賊王という称号こそが、唯一無二である父さんに釣り合う称号だろう。
どんな汚い手段だろうが構わないんだ。
俺は“
勝ち続けた者こそが、正しい……それが現実なのだから。
信頼するキング、クイーン、ジャック……そして大切な可愛い部下と共に、俺が誰よりも敬愛する“
朝日が昇り始め光を反射させる綺麗な海を横目に、俺は思考の海から浮かび上がり、目的地へと向かった。
ー後書きー
今回も読んで下さりありがとうございました!
感想、ここ好き一覧、誤字報告感謝です!!!
レオヴァの新規絵です!
(最初のイメージ図にプラスしようと思って書いた物なので、レオヴァの見た目は変わりません)
特に見ても見なくても支障はありません( ・ω・)ノ
↓
【挿絵表示】
いつも感想読み返してニヤニヤさせて頂いております!
アンケートもご協力ありがとうございました!