俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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英雄であり化け物であり

 

 

 

 

コンポスト王国とウィード公国は1年以上もの間争いを続けていた。

しかし、その戦争の内情は一方的なものであった。

 

 

コンポスト王国は土壌豊かな環境の恵まれた土地を持つ王国であり、外部との取引で武器も戦力である奴隷も豊富であった。

一方、ウィード公国は広い土地を(ゆう)してはいたが土壌は貧しく自国(じこく)でのみの食料の調達が難しい国であり、人口(じんこう)もコンポスト王国を下回っていた。

 

(はた)から見ても2つの国の力関係は明らかなものであったのだ。

 

 

ならば、何故1年以上も戦争を続けられているのか。

それはウィード公国が貿易関係にある“ある国”の手助けがあったからであった。

 

ウィード公国を治める貴族であるグラース公爵とその国の王は友人関係にあり、貿易の食料の他に薬品なども多めにウィード公国へ送っていたのだ。

 

取引内容よりも多い食料と薬品にグラース公爵はいつも驚き、その優しさと自分の無力さに静かに涙を流していた。

 

 

ある時、様子を見に訪れたその国の王であり友人にグラース公爵は深く、深く頭を下げた。

 

『すまない…この様な現状にも関わらずっ……取引を続けてくれること、なんと感謝を表せばよいか…!』

 

その悲痛な感謝の言葉を公爵の友人はしっかりと受け止め、優しく声をかける。

 

『こんな現状だからこそ助け合うんだ、グラース。

友人の危機を見過ごすなど、それでは鳳皇(ほうおう)の名がすたる。

……共にこの窮地を乗り越えよう。』

 

友より差し出された手を、流れる涙も拭かずにグラース公爵は(すが)る思いで強く握った。

 

グラース公爵……否、ウィード公国にとって現在頼れるのはこの国のみであったのだ。

 

他の貿易国や取引相手はウィード公国が劣勢と見るや否や次々に手のひらを返した。

しかし、グラース公爵はそれを恨んではいない。

何故ならば勝敗が見えきった戦争の、それも敗戦するだろう国に手を貸し続ける者などいないのは当然だと理解していたからだ。

 

だからこそこの絶望的状況で手を差し伸べてくれる、かの国に大きな感謝を抱かずにはいられなかった。

 

 

けれど、グラース公爵はもうすぐ戦争は終わるだろうと予感していた。

それも国民の大半が死に、ウィード公国の敗戦と言う形で。

 

 

理由は今朝訪れた騎士長(きしちょう)からの通達であった。

なんと、コンポスト王国が他国に同盟を申し入れたという情報が入って来たのだ。

 

ただでさえ防戦一方の状態だというのに、そこに(ほか)の国まで攻め入られたら守りきれぬのは火を見るより明らかだった。

 

 

降伏は選べない。

何故ならばコンポスト王国に隷属(れいぞく)すると言うことは労働力として、大切な国民が奴隷同然の扱いを受ける事になることをグラース公爵は知っていたからだ。

 

コンポスト王国が豊かなのは()属国(ぞっこく)から安く労働力や食料、資源を手に入れているからなのは周知(しゅうち)の事実。

 

だからこそ、負け(いくさ)とわかっていてもグラース公爵と国民達は戦い続けているのだから。

 

 

最悪の未来を予測し、グラース公爵は悲痛な面持ちで目蓋を下げた。

 

 

「友の助けだけでは……駄目だ。

……得るには何かを犠牲にしなければならぬ、綺麗事では国民を守れない。

神に背こうとも、悪魔に魂を売ろうとも……国を守ることが私の務めだ。」

 

自分に言い聞かせるように呟き、グラース公爵は友へ電伝虫(でんでんむし)を繋げた。

 

ブルルルルルル……プルルルル…

 

静かな部屋に電伝虫の音だけが響く。

 

 

『……おれだ』

 

『友よ、夜遅くにすまぬ……どうか、どうか、助けて欲しいっ……』

 

掠れて弱りきった助けを求める声に公爵の友は答える。

 

『…もちろんだ。

全て、任せてくれ……友を苦しめる者はおれ達が片付けよう。』

 

『ぁ…あぁ……ありがとう、ありがとう……私は必ずこの恩に報いる、全てを差し出す覚悟はできている。』

 

グラース公爵の言葉に電伝虫の向こう側にいる友は気付かれぬように笑い、優しく語りかけた。

 

 

『グラース、差し出す必要などない。

……おれとお前の関係はなんだ?』

 

『わ、私と貴方の…?

……友人だ…貴方は私のただ一人の。』

 

『そうだグラース、お前は“おれの友人”だ。

だから、なにも心配しなくていい…大丈夫だ。

おれは信頼には信頼で答える……2日後には着く、それまで堪えてくれ。』

 

『っ……ありがとう、待っている…友よ。』

 

ガチャりと切れた電伝虫の前でグラース公爵は大きく息を吐き、そして脱力した。

彼を包んでいたのは大きな“安心感”であった。

あの友が大丈夫だと、心配しなくて良いと言ったのだ、もう何も恐れる必要はない。

 

グラース公爵の頭の中で友の声は繰り返される。

“大丈夫” “大丈夫” “心配しなくていい”

何故かはわからないが友の声は酷くグラース公爵を安心させるのだ。

 

ここ最近、ストレスと不安から寝付けなかったグラース公爵は訪れた安心を抱き、ゆっくりと眠りについた。

 

 

 

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あの電伝虫でのやり取りからぴったり2日後、ウィード公国の質素すぎる城の広間でグラース公爵とワノ国の王は再会を果たしていた。

 

すっかり憔悴(しょうすい)し痩せ細ったグラース公爵や国民にワノ国の王は酷く心を痛めている素振りをみせていた。

 

持参した薬品や食料を国民に配り歩き、時には怪我を手当てして回る友の姿にグラース公爵は目元を抑え、そんな公爵の背をワノ国の王は優しくさすっていた。

二人の姿は騎士や兵士達に希望を持たせ、国民の虚ろな瞳に(わず)かな光を灯す。

 

 

しかし、国を回り終わりワノ国の王との話し合いを始めるグラース公爵の瞳には大きな怯えがある。

それはワノ国の王である友の側に立つ鉄仮面を着けた8メートルを超える大男の存在が原因であった。

 

グラース公爵は友であるレオヴァには絶対的な信頼を置いている。

それは彼が話のわかる優しく誠実な青年であり、他の貴族達も認めるほどの教養があるからだ。

 

だが、レオヴァの所属する百獣海賊団の(おさ)、百獣のカイドウとその三人の腹心は違う。

 

破壊の化身や最強生物と言われ恐れられるカイドウ。

そして、その腹心達も畏怖の念を込め“災害”と呼ばれている。

 

そんな災害の一人、旱害(かんがい)のジャックが目の前にいるのだ。

恐れるなと言う方が無理だろう。

 

レオヴァの優しく暖かな瞳とは違い、冷たい瞳で此方を射抜くように見てくるジャックにグラース公爵の背筋に冷や汗がつたう。

 

グラース公爵は体の震えを隠し、レオヴァを真っ直ぐ見つめ言葉を(つむ)ぐ。

 

 

「……是非、このウィード公国を百獣海賊団のナワバリに入れて欲しい。」

 

すっと頭を下げようとするグラース公爵をレオヴァは手で止めた。

 

 

「止してくれ、グラース。

今まで通りの関係でおれは構わないんだ。」

 

レオヴァの優しい言葉に力なく笑いながらグラース公爵は首を横に振った。

 

 

「いや、レオヴァ……国を見て回ったときから気付いているだろう。

この国はもう自国の力だけで立ち上がるのは無理だ…

私という弱い統治者では国民に“安心”は与えられぬ。

……これは私個人の意見ではない…我々の意見なのだ。」

 

国の上に立つ者として、大切な事をグラース公爵は解っている男であった。

そんな男の言葉にレオヴァはゆっくりと頷く。

 

グラース公爵はありがとうと小さく笑い、手の震えを止めるかの様に強く握った。

 

 

「ジャック、国の守りはおれと彼らでやる。

コンポスト王国へ出向き……お前のやり方でこの戦争を終わらせて来てくれ。」

 

「わかった、任せてくれレオヴァさん。」

 

先ほどから一言も発しなかった石像のような巨大な男が、返事をすると同時に立ち上がった。

 

ジャックと言う男のギラついた瞳に、その場にいたグラース公爵とその騎士たちは息を呑んだ。

破壊を(つかさど)る男の腹心は公爵達には目もくれず、城を出ていく。

 

 

暫くの沈黙の(のち)、それを穏やかに見送っていたレオヴァが口を開いた。

 

 

「では……防衛を固めようか、グラース。

うちの部下達は既にある程度配置についているが、損害は少なければ少ないほど良い……共に乗り越える為の作戦会議を始めよう。」

 

そう言って微笑むレオヴァの声は、その場にいる者を酷く安心させる力強さがあった。

 

 

 

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コンポスト王国の国王であるドメスティ・アニマは同盟国との契約もあり、やっとまた広い土地と無賃金で働かせられる労働力が手に入ると笑みを深めていた。

 

この約1年間、地形を利用しなんとか必死に生にしがみつこうと(もが)き続けているウィード公国も、三日後に来る同盟国の援軍さえいれば何の問題もなく片付くだろう。

 

新しい資源のある土地をどう利用してやろうかと考えを巡らすドメスティ国王を、家臣達はこれでもかと褒め称えた。

 

 

 

……のは、4日前の話である。

 

 

 

両足が潰れ立つことも出来ずに地に伏しているドメスティ国王を見る家臣達は言葉が出なかった。

 

昨日まで、コンポスト王国の勝利は揺るぎないものだったのだ。

圧倒的な兵力差に豊かな物資。

負ける事の方が難しいとさえ思える程の絶対的な国力と自信がコンポスト王国の王と貴族達にはあった。

 

だが、戦況はたった一人の大男の登場で一変したのだ。

 

災害と呼ばれるジャックと言う男は易々(やすやす)城郭都市(じょうかくとし)と呼ばれているコンポスト王国の鉄壁であるはずの城壁を破り、正面から攻め入って来たのだ。

 

 

数百の兵士達の剣は届かず、数万の銃弾もジャックに傷を付けることは叶わなかった。

 

誰にも止めることの出来ぬ、まさに災害を体現した男の追撃は何十時間にも及んだ。

 

ある兵士は振り下ろされる刀に気付くことなく真っ二つに切り捨てられ、またある兵士は災害の歩みに蟻の様に呆気なく潰され、ついには誰一人として立ち向かう事はなくなり、兵士達は“恐怖(ジャック)”に背を向け逃げ出し始めた。

 

他国から来た増援部隊も同じである。

圧倒的な暴力(ジャック)”の歩みの前に出れば呆気なく葬られ、逃げ出しても壁に囲まれた都市に逃げ場などない。

 

 

災害を(かん)する男はただひたすらに城へと歩み続ける。

瞳に映るものを全て破壊し、背後に屍の道を作りながら。

 

 

 

そして、半日かけて破壊を尽くしたジャックは城へとたどり着き、重要人物達を見つける事に成功していた。

 

想定外だった事といえば、城に穴を空けるために投げた家屋の瓦礫(がれき)が国王に当たり、目の前で蛆虫(うじむし)同然の姿で()いつくばっている事ぐらいであろう。

 

だが、それも大した問題ではない。

ジャックにとって王だろうと平民だろうと、敵対する者はただ壊すだけなのだから。

 

レオヴァからの命令は

『ジャックのやり方でこの戦争を終わらせて来てくれ』というものである。

 

ジャックは考えた。

圧倒的な恐怖と暴力を刻み、最後に“上に立っている馬鹿(王族や貴族)”を消し去れば終戦になる…と。

この考えに至ったジャックはすぐに行動に移し、そして現在に至る。

 

 

 

聞くに堪えぬ悲鳴を上げる目の前の蛆虫の様な王と、その貴族達にジャックは眉をひそめながら刀を持った腕を振り上げる。

 

簡単に切断出来た肉と骨にジャックは特に目をやる事もなく、次の目標を捕らえた。

 

次々に肉片と()す者達の織り成す阿鼻叫喚(あびきょうかん)を一身に受けながらジャックは思う。

 

「(……キングの兄御が喜びそうな光景だな。)」

 

兄御の趣味は自分には解らねぇ…と思いながら最後に残っていた王子に向き直り、刀を振り血を落とす。

 

 

「ヒュッ…た、たす……て…くださ、ぃ」

 

惨めに震えながら命を乞う青年の言葉など聞こえていないかの様にジャックは刀を振り切った。

 

青年は死に際に『バケモノめ…』と溢していたが、それすらもジャックに届いたのかは分からない。

 

 

ジャックだけになった城には血が滴っている。

 

 

 

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グラース公爵とワノ国の鳳皇様の宣言が国中に伝わった。

 

私達、ウィード公国の国民は抱き合い勝利を心から喜んだ。

 

グラース公爵様の友人であるワノ国の鳳皇様は国を全身全霊で守り抜いて下さり、その部下である旱害のジャック様は憎きコンポスト王国を()って下さったのだ。

 

もうこれで、餓えることも恐怖に震えて眠れぬ夜を過ごすことも……そして何より大切な家族を戦争に連れ去られる事もない。

そう思うだけで私は涙が止まらなかった。

 

 

グラース公爵様の声明によると、私達の国は百獣海賊団のナワバリになるらしいが、あのワノ国の鳳凰レオヴァ様のお父上様がまとめていらっしゃる組織なのだ。

そこまで不安に思う事はなかった。

 

確かに少し前ならば、百獣海賊団と聞けば恐ろしい海賊団だと身を震わせていたかもしれないが、今は違う。

 

レオヴァ様もその海賊団に所属していらっしゃるし、噂に聞いていたジャック様もそんなに恐ろしい方ではなかった。

 

寧ろ、たった一人で私たちの仇である王国を討って下さる程お強いジャック様こそ“英雄”だと私も私の家族も称えている。

 

荒らされた国も、既に百獣海賊団の皆々様の協力で建て直され、以前よりも住みやすい街になりつつある。

 

ワノ国との貿易も以前より増えたり、温泉なる施設が建てられたりと今までの不幸の分、一気に幸せが舞い込んだ気分だ。

 

それに、今後は百獣海賊団の皆様が国を守って下さるらしく、防衛基地も建てられた。

 

初めこそ、どんな人達が来るのかと少し不安もあったが、ウェイターズやギフターズの皆さんも真打ちさん方も話しやすい人ばかりで初めの不安は杞憂だった。

 

町ではギフターズの方が子どもを笑わせてくれたりと、戯れる姿も珍しくない。

前のような平和な……いや、前よりも素敵で平和な日々が始まったのだ。

 

 

 

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グラース公爵に仕えている、騎士団をまとめる役職である騎士長(きしちょう)は百獣海賊団が……鳳皇と呼ばれるレオヴァが恐ろしかった。

 

騎士長はいまだに夢に見る。

あの地獄の様な光景を。

 

 

あの日……戦争が終わった日の事だった。

 

騎士長はグラース公爵と爵位(しゃくい)のある者達、その騎士達を連れコンポスト王国へ(おもむ)いた。

 

理由は単純、勝利宣告の為だ。

 

勝ちを宣言し、戦争を終わらせ……コンポスト王国の土地を百獣に譲渡(じょうと)する。

そんな形式的な儀式の為、国へ足を踏み入れた騎士長は酷く狼狽(うろた)えた。

 

豊かであっただろう国は終戦から1日が経ち、そこかしこに転がっている日光で照らされた死体は腐り始め、腐敗臭が漂っていたのだ。

 

騎士長はせり上がってくる胃液を気合いで押し止め、歩みを進めた。

 

入り口から城までの道は赤黒く、しかし真っ直ぐ開けている。 

だが、その道を歩こうとする者などいない。

 

少し回り道をして城にたどり着き……ついに騎士長は胃液が逆流することを止めることは出来なくなった。

 

ぼたぼた…と汚物が床に広がる音と嗚咽に、屍の中心に立っている大男が不快そうに眉間に皺を寄せ、騎士長を見下ろした。

 

大男の視界に捉えられた瞬間、騎士長は心から恐怖した。

長らく仕えてきた恩人グラース公爵を置き去りにしてでも逃げ出したい程に。

 

緊張と恐怖と不快感がごちゃごちゃになった騎士長が上手く呼吸出来ずにいると、後ろから優しく背をさすられる。

 

 

「落ち着け、ゆっくり息を吐くんだ。

……まず、目の前の光景をどうにかするべきか…。」

 

優しい低音に騎士長の呼吸が落ち着き始めると同時に、レオヴァが宙に手を伸ばした。

 

響く轟音と共に天井(てんじょう)が崩れ落ち、見るに堪えない死体が目前から消える。

 

騎士長は助かったと思いながら、周りの人間が息をつくのを感じていた。

 

だが、まだ目の前にはこの惨状を作り出した張本人である大男がいる。

騎士長はどうしようもなくこの場を立ち去りたかったが、体は動かない。

 

誰一人として身動きが取れぬ空気の中、場違いな程穏やかな低音が騎士長の鼓膜を揺らす。

  

 

「ジャック、怪我はないか?」

 

未だ返り血を残す恐ろしい大男に躊躇(ちゅうちょ)なく近づき、まるで弟や妹を心配するような優しい口調で話しかけるレオヴァを、騎士長は信じられないものを見る様な目で凝視した。

 

 

「問題ないです、レオヴァさん。

任務は無事…完了だ。」

 

「そうか、怪我がないならいい。

良くやった、ジャック。」

 

膝を突き礼を取る大男と、それをさも当たり前のように受け取るレオヴァを見る騎士長は思った。

 

あの大男は恐ろしい、無惨に殺した死体の側で表情1つ変えない所も此方をなんの価値も無いモノの様に見る瞳も、全てが人間としてナニか可笑しいと騎士長に強く感じさせ、厭忌(えんき)させた。  

 

しかし、その大男よりもレオヴァが恐ろしかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

言葉を選ばぬのならば、“バケモノ”と呼ぶに相応しい大男を当然の様に受け入れ、大切に扱う精神が分からない。

 

優しく、他人の為に心を痛められるレオヴァが何故あの大男と“同じ場所”にいられるのか。  

 

騎士長は思う。

誰よりも可笑しいのは……恐ろしいのはレオヴァなのではないかと。

 

何故、血溜まりの上に立つジャック(バケモノ)を恐れない?

何故、まるで可愛い弟を心配するような声で話しかける?

何故、惨たらしく殺された死体を前にして動揺しない?

何故、何故、何故…?

 

答えは騎士長の中で簡単に出た。

それはレオヴァがジャック(バケモノ)を超えるモノである…というものだ。

 

そうでなければ可笑しい。

ジャック(バケモノ)がただの善良な人間を前に膝を付く筈がない。

 

 

騎士長は恐ろしかった。

レオヴァの場を和ませる微笑みも 

酷く安心させるあの低く心地よい声も

周りを魅了してやまないあの人格も

全てが恐ろしく、奇妙に映った。

 

レオヴァに恐怖を抱くことは、同時に騎士長にとって国の人々の事も理解できない存在になることを意味した。

 

皆が口を揃えて、“ジャックとレオヴァ(人とは思えぬモノ)”を称える。

 

『レオヴァ様はお優しく、素晴らしい人格者だ』

『ジャック様こそ英雄なる武人だ』

『聡明なレオヴァ様に任せれば…』

『力持ちなジャック様が手伝って下さった』 

『レオヴァ様は…』『ジャック様が…』

 

 

どんなにレオヴァの“奇妙な点”をグラース公爵や周りの騎士達に伝えても、誰も同意を示してくれなかった。 

それどころか、寧ろ諭されるのだ。

 

「レオヴァ様をそのように言うなど、何を考えている!?」「止してください、騎士長殿。気でも違ったのですか?」「可笑しいのは騎士長では…」「レオヴァ様を狂人扱いなど!」「レオヴァ様こそ…」「レオヴァ様だけが…」「レオヴァ様」「レオヴァ様は」

 

騎士長は頭をかきむしりたい衝動にかられた。

 

ついには、自分が可笑しいのではないか?とすら思えてくる。

自分には味方も理解者もいない……そんな思考が頭を支配する。

 

得体(えたい)の知れない能力で周りが操られて居るのではないかと言う妄想は膨らみ、強い恐怖は騎士長を(むしば)み苦しめた。

 

だが、レオヴァの恐ろしさを感じていても尚、あの声を聞くと安心してしまう自分が何よりも理解できず恐ろしかった。

 

 

『騎士長、最近顔色が優れないようだが…何か悩みがあるのか?

おれで良ければ聞かせてくれないか?』

 

レオヴァのその声は心からコチラを案じていると感じさせるほど心配を滲ませた声だった。

 

 

『騎士長がおれを避けている事は知っている。

…なんだ?ずいぶんと驚いた顔をして。

別に誰にでも好き嫌いや、合う合わないはあるだろう?

……ふふふ、おれ個人としては騎士長とは仲良くしたいがな。』

 

無理強いする気はない、と微笑むレオヴァの声は穏やかなものだった。

本当に穏やかな……それこそ疲れきっている騎士長をほっとさせる様な声色だったのだ。

 

 

普段は物腰柔らかく誰にでも礼を示し、いざと言う時は的確な指示を出し皆をまとめる……上に立つものとして理想の姿だろう。

 

しかし、それがより騎士長を追い詰めた。

 

まるでナニかが化けの皮を被っているようだ、と騎士長は思う。

 

 

けれど、もうじき騎士長はこの悩みとは暫くおさらば出来る。

何故なら、明日には“ジャックとレオヴァ(人とは思えぬモノ)”はワノ国へ帰るのだ。

 

やっと日々背中を這う嫌な空気と、あの嫌悪感とも言える感情から解放される。

騎士長は全身に入れていた力を抜いた。

 

 

「……やっと、心休まる日々に戻れる…のか……。」

 

呟く声は驚くほど弱々しかった。

 

 

 

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レオヴァとジャックだけになった荒城(こうじょう)の中を月が淡く照らしていた。

 

物言わぬ肉片となり地面に転がる王だったモノを確認するように眺めるレオヴァをジャックは見つめている。

 

ジャックには今のレオヴァの瞳には何の感情も宿っていない様に見えた。

レオヴァにとって、これは本当にただ殺すべきだった者の死を確認する為の作業なのだろう。

 

 

 

ジャックは幼い頃からずっとレオヴァの(そば)に居た。

 

包み込む様な暖かい優しさや胸を満たすほどの信頼、時にはジャックを強くするための厳しさ……これら全ては、レオヴァの愛情ゆえのものだ。

 

ジャックは惜しみなく愛と信頼をくれるレオヴァを心から尊敬し親愛の念を抱いていた。

 

だが、冷たく無慈悲なレオヴァの事もジャックは好きだった。

 

百獣海賊団(カイドウ)に逆らう者や邪魔する者に向ける一切慈悲のない圧倒的な暴力も、価値が無いと思った者に対する無関心さも、全てがジャックにとって憧れるほど(この)ましいモノだった。

 

同時に、この非情さはレオヴァからジャックへの情を強く感じさせ、無意識にジャックの中に強い優越感を与えた。

 

 

だからジャックはレオヴァが破壊する姿、壊れたモノや用済みになったモノを視る瞳が好きだ。

感情の込もらぬ表情が好きだ。

 

 

「レオヴァさん」

 

「……なんだ、ジャック?」

 

 

何の感情もなかった顔に優しさが灯る瞬間が好きだ。

 

自分にだからこそ向けられる暖かさはジャックの心を満たすのだ。

 

 

「いや、特に用はねぇんですが……冷えてきたんで」

 

「そうだな、そろそろ戻ろう。

……久々の破壊は楽しめたかジャック?」

 

「あぁ、満足だレオヴァさん。」

 

 

満足だ、という返事に嬉しげに『そうか』と言って笑う姿にジャックはまた心が満たされる感覚を覚えた。

 

 

城の出口へと進みだしたレオヴァの背をいつもの様にジャックは追う。

 

 

いつまでも追い付けない“カイドウとレオヴァ(恩人)”の頼もしい背がジャックは好きなのだ。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー

今回はレオヴァのナワバリを増やしている日常の1コマのお話。

・補足
ウィード公国は統率者はグラース公爵のままだが、法令など一部をレオヴァがテコ入れ。
ナワバリになったが大きな変更などはなく、前よりも貿易内容が増え、定期的に鉱石を百獣に渡すと言う決め事が増えたのみ。
 
コンポスト王国は農業に適した土地だったので更地になり、大農園と化した。
今は他のナワバリから来た人々がそこで農業に励んでいる。

コンポスト王国の先住民について
終戦の日に城の遠くにおり、目撃してない人々はジャックの進撃の後に百獣の部下によって捕虜となる。
その後は農園にて働く者が大半。
一方、城の近くにおり惨劇を見た者は真打ちによって確保され、別の場所へ。
その後は“様々な道”へ進むことに。

貴族や王族は全員死亡確認済み。
ーーーーーーーーーー
・ジャック
恐らく百獣でも数少ないレオヴァの本性をしっかり“理解”できている人物であり、キングやクイーンに次ぐほどの厚い信頼をレオヴァから受けている。
良くも悪くも育ててくれたレオヴァと価値観が似ている。
(仕事人間な所や、カイドウ至上主義な所など)
ーーーーーーーーーー

前回イラストにたくさんのお褒めのお言葉ありがとうございます!
ご感想やコメント、ここすき一覧など励みになります!!感謝です!
誤字報告もありがとうございました~!
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