俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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2026/9/2 加筆修正




勘違いとプレゼント

 

レオヴァは、自ら作り上げたウイルスの実験を行うため、クイーンが任されている島の殲滅任務に同行していた。

今回の実験で何が起きても対処できるよう、参加する人員は意図的に調整してある。

クイーン以外は、百獣海賊団へ入ったばかりの比較的弱い部下達で固められ、基本的にクイーン自身は戦闘へ加わらず、指示と監視に徹する手筈となっていた。

 

本来の戦力を考えれば、島を落とすまで三日ほど掛かると予想していた。

 

しかし――。

結果として、島の殲滅に要した時間は僅か一日半だった。

予定の半分ほどで任務は終わった。

それだけを見れば、実験は十分な成果を上げたようにも思える。

だが、レオヴァが下した評価は違った。

 

実験結果は――“失敗”。

 

ウイルスによる強化そのものには成功していた。

感染した部下達は普段よりも明らかに力も強くなっていた。

多少の攻撃では簡単に倒れず、本来ならとっくに動けなくなっているような状態でも戦闘を続けることができた。

その結果が、一日半という異様なまでの任務短縮に繋がったのだろう。

 

問題は、その代償だった。

潜在能力を無理矢理引き出された部下達は、二十八時間近くもの間、自らの限界を越えて戦い続けた。

最後まで理性を取り戻すことはない。

こちらから命令を出したところで、それを理解して従える状態ではなかった。

 

そして、ウイルスの効果が切れた後。

感染した部下のほとんどが死亡した。

辛うじて生き残った者達にも、目が見えなくなった者や、音が聞こえなくなった者がいる。

戦力を強化するために作ったはずのものが、結果として使用した者を戦えない状態にしてしまった。

 

これでは意味がない。

何より問題なのは、理性を失ってしまうことだ。

 

単純にウイルスの量を減らせば、副作用そのものは軽減できるかもしれない。

だが、敵と味方の区別がつかず、命令にも従えないのであれば、強化用として実戦に投入することはできなかった。

 

戦闘の終わった島には、夥しい数の屍が残されている。

敵だった者も。

実験へ参加した百獣海賊団の者も。

静まり返った島を眺めながら、レオヴァは大きく息を吐いた。

一年かけて研究した結果が、これか。

 

「すまないクイーン……無駄に時間を取らせた…」

隣にいたクイーンが、思い切り目を見開いた。

 

「えぇ!?

なんでそんなに落ち込んでんだよ?!」

返ってきた反応が予想外で、レオヴァは僅かに眉を寄せる。

  

「失敗だからな…」

  「成功じゃねぇか…!」

   「「……え?」」

声が重なった。

レオヴァは“成功”という言葉に首を傾げ、クイーンもまた“失敗”という評価が理解できないらしく、同じように首を傾げている。

互いに相手の言っている意味が分からない。

先に口を開いたのはクイーンだった。

 

「いやいやいやいや!成功だろ…!?

強化出来てんじゃねぇか!」

「いや、失敗だろう…!

強化は出来たが生きてる奴いないんだぞ!?」

強化した部下のほとんどが死んでいる。

レオヴァにとっては、それだけで強化用として失敗と判断するには十分だった。

だが、クイーンは本気で何が問題なのか分からないらしい。

 

「え? 別に良いだろ 死んでも 」

「一回の戦闘で毎回大勢の部下が死ぬ様なモン使えるか…!!」

思わず声を荒らげるレオヴァに対し、クイーンは納得できない様子で眉を上げた。

 

「えぇ~~……どっちにしろ今死んだ奴らなんて何回か戦闘にでりゃ、生き残れるかも怪しい奴らだぜ?」

「いや、それはわかってる。

だから強化出来るウイルスを作りたかったんだ。

……まぁ…仕方がない。このウイルスは破棄する。」

今回参加した者達の実力が低いことは、レオヴァも承知している。

だからこそ、彼らでも戦えるようにするためのものを作りたかったのだ。

 

それが出来ない以上、このまま研究を続けても目的とは違うものになる。

仕方がない。

そう結論を出したところで、クイーンが慌てて身を乗り出した。

 

「待て待て…!? え、それ捨てんの!?

なら、おれにくれ!!」

「全然構わないが……使うのか?」

レオヴァにとっては失敗作だ。

破棄する予定だったものをクイーンが欲しいというのなら、断る理由もない。

 

「使う!いい案浮かんだぜ…!」

途端にクイーンの機嫌が良くなる。

その顔を見れば、既に頭の中では何かしら構想が出来上がっているらしい。

 

「確かにクイーンならもっと凄い物が造れそうだな。」

「おう! それ使って面白いモン造るぜぇ~~!!

  ムハハハハハ~~!!」

高笑いを響かせながら、クイーンは早速ウイルスを持って船室へ戻ってしまった。

あれほど嬉しそうに持っていかれると、失敗作として捨てようとしていた自分の方が間違っていたような気さえしてくる。

 

レオヴァは遠ざかっていく背中を見送り、苦笑を漏らした。

ふと周囲を見れば、残った部下達が何とも言えない引き攣った顔をしている。

実験の末路を間近で見た直後なのだから、それも無理はないだろう。

これ以上ここに留まる理由もない。

レオヴァは待機していた部下達へ出港の指示を出し、殲滅を終えた島を後にした。

 

─────────────────────────────────

 

 

ナワバリへ戻って間もなく、キングがレオヴァを呼びに現れた。

普段なら部下を使って呼びに来させてもよさそうなものだが、今日はわざわざキング本人が迎えに来ている。

理由を尋ねても、カイドウが呼んでいるということしか分からなかった。

 

何か急ぎの用でもあるのだろうか。

レオヴァはクイーンへ後のことを任せると、すぐにキングの背へ飛び乗った。

そのままカイドウの待つ場所まで運ばれ、到着すると一番に父へ声を掛ける。

 

「父さん、今帰った。」

「おぉ!! レオヴァ!

 実験はどうだった?」

カイドウは戻ってきた息子を見るなり、真っ先に実験の結果を尋ねた。

その言葉に、レオヴァの表情が僅かに沈む。

 

「…失敗だ。強化は成功して想定よりも早く終わったが……90%以上が副作用で死んだ……」

一年かけて研究した結果だけに、落胆は隠しきれない。

だが、カイドウはレオヴァを責めることも、失敗を笑うこともしなかった。

 

「そうか。 だが、そう落ち込むこともねぇ。

一年でそこまでウイルスを扱えるヤツはいねぇとクイーンも言ってたからなァ…!」

その言葉に、レオヴァは顔を上げた。

クイーンがそんなことを父へ話していたとは知らなかった。

失敗という結果自体は変わらない。

それでも、一年間やってきたことまで無駄だったわけではないのだと思えば、少し気持ちは軽くなる。

 

「ありがとう父さん。

ウイルスはクイーンが何か考えがある様だったから渡した。

きっと使える物を作ってくれると思う!」

「そりゃ良い…!! 出来たらそこらの海軍にでも使わせるか!」

随分と楽しそうな提案だった。

先ほどまで実験結果に落ち込んでいたレオヴァも、それには興味を惹かれる。

 

「それは ぜひ、おれも見学させてもらいたいな…!

……そういえば急用だとキングから聞いたんだが。」

実験の話に気を取られかけたが、そもそも今日はカイドウに呼ばれてここへ来たのだ。

レオヴァが本題へ戻すと、カイドウも思い出したように大きく頷いた。

 

「あぁ…!! そうだ!お前が欲しがってたモンがちょうど手に入った!

おい、キング 持ってこい!」

「カイドウさん。

そう言うと思って もう、此処に持ってきてある。」

すぐにキングが動いた。

いつ用意したのか、その手には小さな宝箱がある。

 

丁寧な装飾が施された箱を、キングは流れるような動作でカイドウへ差し出した。

 

「持ってきてあったのか!

相変わらず気のきくヤツだ…! ウォロロロロ!」

満足そうに笑いながら箱を受け取ったカイドウに、キングは軽く頭を下げた。

そのまま入口付近まで下がり、静かに待機する。

残されたレオヴァは、父の手にある宝箱へ目を向けた。

自分が欲しがっていたもの。

一体なんだろうか。

カイドウはそんな息子の反応を楽しむように笑い、ゆっくりと口を開いた。

 

「ウォロロロロロ……!

これは…お前の欲しがってた

 ─── “悪魔の実“ だ!!!」

「……!?」

思いもしなかった言葉に、レオヴァの目が大きく見開かれた。

 

悪魔の実。

確かに、ずっと探していた。

海賊団の戦力を増やす方法を考える中で情報も集めていたし、自分自身が能力者になることにも興味はあった。

 

「悪魔の実…! 

いや、だが… おれは父さんにその話をした覚えがないが!?」

驚くレオヴァとは対照的に、カイドウは仕掛けていたものが上手くいったとでもいうように愉快そうだった。

代わりに答えたのは、少し離れた場所にいたキングだった。

 

「……レオヴァ坊っちゃんが手間をかけたら悪ぃとカイドウさんに言おうとしねぇから、おれからカイドウさんに話した。」

「ったく、欲しいなら言え…!

お前は息子のクセに全然ワガママも言いやがらねぇ…」

カイドウの声には、先ほどまでとは違う不満が滲んでいた。

レオヴァは思わず言葉に詰まる。

 

「う……だが父さんも色々と忙しいだろうし、手間取らせんのは……」

父が忙しいのは事実だ。

悪魔の実は貴重で、欲しいと言ったところですぐ手に入るようなものでもない。

だから自分で探せばいいと思っていた。

しかし、その答えを聞いたカイドウの表情が変わった。

 

「手間取らせる…? 

レオヴァ! おれを誰だと思ってやがる!

息子のワガママの 1つや 2つ叶えられねぇとでも言いてェのか!?」

声が一段低くなる。

 

「そんなことは思ってない!!

…寧ろ父さんは絶対に叶えようとしてくれるから、手間になるかと……」

だからこそ言わなかった。

そう説明するレオヴァに、カイドウはますます不満そうに眉を寄せた。

 

「手間だなんておれが一回でも言ったのかァ……?

おれの事を優先するのは構わねぇが、こればっかりは頂けねぇ!

 遠慮なんざするんじゃねェ!!!」

その場の空気が張り詰める。

少し離れた場所にいる部下達が、目に見えて身体を強張らせた。

キングも黙ったまま二人を見ている。

 

「すまない父さん…ありがとう

これからは何かあれば一番に父さんに言う。」

その瞬間、カイドウの表情が変わった。

 

「! わかりゃ良い!! ウォロロロ…!

これからは“おれ“に“一番“に伝えろ!!」

先ほどまで部屋を圧していた険しい空気が、一気に和らぐ。

 

「あぁ、わかった…!」

レオヴァが頷けば、カイドウも満足そうに笑う。

周囲で成り行きを見守っていた部下達は、気付かれないよう小さく安堵の息を漏らしていた。

一瞬とはいえ、部屋の温度まで下がったと錯覚するほど機嫌を悪くしたカイドウを前にしていたのだ。

何事もなく収まったことに安心するのも無理はない。

 

そんな周囲の様子には気付かず、レオヴァは改めてカイドウの持つ宝箱へ目を向けた。

 

「ところで父さん。

その悪魔の実はなんの実なんだ?」

「わからねぇ……!!

図鑑にも載ってねぇモンだったからな」

「そうなのか。

いや、何の実かわかる方が珍しいのか?」

悪魔の実は、食べる前から能力が判明しているものばかりではない。

図鑑に載っていないのであれば、実際に口にするまで何が起こるかは分からないということだ。

だが、カイドウは細かいことを気にしていないらしい。

 

「まぁ良いじゃねぇか!!

食うも食わねぇも好きにすりゃいい…!

レオヴァが目を掛けてる…ジャックだったか?

そいつに食わせてぇなら…まぁ、それでもいいが」

その提案には、レオヴァはすぐに首を横へ振った。

 

「それは嫌だ。

父さんがおれの為に手に入れてくれたんだ、他のヤツにやるつもりはねぇ! おれが食う…!!」

 

能力が何かということよりも、そちらの方が重要だった。

父が、自分のために手に入れてくれた。

それを他の誰かへ渡すという選択肢は、レオヴァにはなかった。

即答した息子に、カイドウが僅かに目を細める。

 

「……良いのか? なんの能力かもわからねぇモンだぞ」

「構わない! どんな能力だろうと使い方と鍛え方次第だ。」

 

迷いはなかった。

どんな力であろうと、手に入れたなら使えるようにすればいい。

その答えを聞いたカイドウの顔に、満足そうな笑みが広がった。

 

「ウォロロロロロ…!!

やっぱりお前はおれの息子だ!!

 よし、食え!!!」

「あぁ…!!」

カイドウが宝箱から悪魔の実を取り出し、レオヴァへ放る。

受け取った実は、見慣れた果物とは明らかに違う奇妙な形をしていた。

表面には独特の模様が浮かび、いかにも悪魔の実らしい見た目をしている。

レオヴァはしばらく手の中の実を眺めたあと、腰に差していたナイフを抜いた。

そのまま一口分だけ切り取り、口へ運ぶ。

シャク、と歯が果肉へ沈んだ。

そして次の瞬間。

 

「ウ"ッ!!」

レオヴァの顔が盛大に歪んだ。

 

……不味い。

いや、その程度の表現では収まりきらない味だ。

 

聞いてはいた。

悪魔の実が、とにかく不味い食べ物だということは。

 

だが、知識として知っているのと、実際に味わうとでは話が違う。

噛む度に何とも言えない味が口いっぱいに広がり、反射的に吐き出したくなる。

それでも何とか飲み込むと、レオヴァは近くにいた部下へ水を頼んだ。

そんな様子を見ていたキングが、僅かに首を傾げる。

 

「…レオヴァ坊っちゃん、わざわざ悪魔の実を切って食べんのか…」

「…………ここまでマズイとは……」

口の中に残る強烈な味に顔をしかめながら、レオヴァは受け取った水を一気に飲み干した。

どうにか味が薄れてきたところで、カイドウが楽しそうに身を乗り出した。

 

「で、どうだ レオヴァ!

力を使えるか試してみろ!!」

「わかった。

……ん、こう…か?」

能力を使うと言われても、具体的にどうすればいいのかは分からない。

とりあえず身体の内側に生まれた違和感へ意識を集中させ、それを外へ引き出すような感覚で力を込めてみる。

その瞬間だった。

バチバチッ、と激しい音が室内へ響く。

同時に眩い光が何度も明滅し、部屋の中を一瞬ごとに白く染め上げた。

 

「レオヴァ様ぁ~~!?」

「痛っ!? まぶしい!!」

「おぉ……!! 」

突然の出来事に、周囲の部下達が慌てて声を上げる。

何が起きているのか、当のレオヴァにも分からない。

身体の内側から何かが一気に膨れ上がるような感覚がしたかと思えば、視界の高さが急激に変わり、手足の感覚まで普段とはまるで違うものへ変化していく。

やがて、室内を埋め尽くしていた光と音が徐々に弱まっていった。

眩しさに目を細めていた部下達が、恐る恐る顔を上げる。

 

そして、一斉に言葉を失った。

先ほどまでレオヴァが立っていた場所に、人の姿はない。

そこにいたのは――全身を金で創り上げたかのような、淡い光を放つ巨鳥だった。

大きく広がる翼。

鋭い鉤爪。

全身を覆う黄金色の姿は、室内にいるだけでも異様な存在感を放っている。

その神々しさすら感じさせる姿に、周囲の部下達は目を奪われていた。

静まり返った中、最初に響いたのはカイドウの笑い声だった。

 

「動物系か…!!」

その声に、見入っていた者達もはっと我に返る。

レオヴァ自身も、変わってしまった身体を確かめるように首を動かした。

手は翼に変わり、視界の位置も違う。

身体そのものが、完全に人間ではなくなっている。

 

「そうみたいだ。

 父さんと同じなのは嬉しいな…!」

自分の能力がカイドウと同じ動物系だったことに、レオヴァは素直に喜んだ。

 

「ウォロロロ…!!

 なかなか悪くねぇな。」

カイドウも満足そうに巨鳥となった息子を眺めている。

レオヴァもその反応に気を良くしたものの、すぐに別の問題へ気付いた。

 

「……ところで父さん」

「どうした…?」

「…戻り方が、わからないんだが…」

一瞬、部屋が静まり返った。

 

「……なんだと…?」

「えぇ~~!? じゃあレオヴァ様ずっとそのまま!?!」

部下達がざわめき始める。

 

「うるせぇぞテメェら……!!

レオヴァ坊っちゃん…感覚でわからねぇか…?」

キングに問われ、レオヴァは改めて自分の身体へ意識を向ける。

先ほど獣化した時と同じように力を動かせば戻れるのだろうか。

しかし、そもそもどうやって変身したのかすら感覚的なもので、今度は逆に何をすればいいのかが分からない。

 

「おれの時は戻れねぇことなんざ無かったがなァ……」

カイドウの言葉に、レオヴァはますます困った。

 

「…か、感覚…?

 ………わからねぇ」

どうやら、悪魔の実を食べて早々、思わぬところで躓いてしまったらしい。

 

その後、騒ぎを聞きつけたクイーンも合流した。

扉を開けた先に、見たこともない黄金の巨鳥がいる。

さすがのクイーンも、目が飛び出そうなほど驚いた。

何事かと問い詰めるクイーンへ、カイドウが事の顛末を説明する。

すると珍しくキングとクイーンが揃って真剣になり、二人がかりで変身を解くための指導が始まった。

あれこれ試し、何度も感覚を掴もうとした末。

 

ようやくレオヴァの身体が再び光に包まれた。

大きかった翼が縮み、鉤爪が人の手足へ戻っていく。

そして最後には、どうにか元の人型へ戻ることができた。

─────────────────────────────────

 

 

「……クイーン…助かった……

 キングもすまない、世話をかける…」

人型へ戻ったレオヴァは、どっと疲れたように肩を落としていた。

悪魔の実を食べた直後から獣化し、そのまま戻れなくなるとは思ってもいなかった。

 

「…問題ない。とにかく戻れた様でなによりだ」

キングはそう言いながら、いつも通り落ち着いた様子を取り戻している。

一方のクイーンは、まだ先ほどの光景がおかしいらしい。

 

「いやマジでビビったぜ……

…扉開けたら見たことねぇ様なキラッキラの鳥がいるんだからよォ

それにしても自力で獣化できたのに元には戻れねぇなんてなぁ

 ムハハハハハ~~ 」

「ぅ……すまない……本当に、返す言葉もない…」

 

改めて言われると、さすがに恥ずかしい。

レオヴァが小さく項垂れると、すぐさまキングの声が飛んだ。

 

「…おい、クイーンてめぇ……!

口のきき方がなってねェんだよ!!

レオヴァ坊っちゃんはついさっき能力を初めて使ったんだ、すぐに使いこなせるワケねぇだろ!!」

「あ"~~? んなこたぁ分かってんだよキング…!!

そもそもテメェは…」

あっという間に二人の空気が険悪になる。

つい先ほどまで協力してレオヴァを人型へ戻していたというのに、終わればこれだ。

しかし、言い合いが本格化する前にカイドウの声が割って入った。

 

「ったく、よさねぇか…!

まだレオヴァに伝えられてねぇこともあるってのに」

「すまねぇカイドウさん …クイーンのマヌケが」

「悪ぃカイドウさん…! …キングのくそ野郎が」

謝罪しながらも、小声で互いを罵倒している。

だが、カイドウはそんな二人を気にすることなく、先ほどの騒動ですっかり肩を落としているレオヴァへ向き直った。

 

「レオヴァ、お前の指揮力と知識を活かせる新しい仕事をやろうと思ってんだが…」

その言葉に、レオヴァがぱっと顔を上げる。

 

「…! 新しい仕事!」

「あぁ。 “ワノ国の工場“を1つ任せる。

確かモノづくりにも興味があったよな?

 ウォロロロ…! 悪くねぇ仕事だろう!!」

一瞬。

レオヴァの思考が止まった。

 

「!? ……わの…くに……?」

聞き間違いではない。

確かに今、ワノ国と言った。

つい先ほどまで、自分があと数年先だと思い込んでいた国の名が、何の前触れもなく父の口から出てきた。

カイドウは、そんなレオヴァの反応を別の意味に受け取ったらしい。

 

「あぁ、数年前にナワバリになった国だ。

…………この仕事は気に入らねぇか…?」

数年前。

その言葉に、さらに頭の中が混乱する。

だが、今ここで考え込むわけにもいかない。

 

「いや…! モノづくりは好きだ!

ぜひ、おれにやらせて欲しい!!」

「そうだろう!!

レオヴァ、お前なら気に入る仕事だと思ったぜ!

さっそく今からワノ国に向かうぞ。

  キング…!」

「あぁ、カイドウさん

既に船の準備はできてる 」

呼ばれる前から準備を済ませていたらしい。

相変わらず仕事が早い。

 

「よし!! レオヴァ、準備の時間は必要か?」

「いや、身1つで充分だ。」

突然決まった話ではあるが、特別持っていかなければならないものも思い浮かばない。

「ならすぐに行くぞ

ワノ国には お前の好きな珍しい文化もある…!」

その一言に、混乱していた頭とは別に興味が反応した。

 

「! 楽しみだ!!」

「本当に珍しいモン好きだよな…レオヴァは…」

クイーンが呆れ半分に笑う。

すると、キングが続けた。

 

「レオヴァ坊っちゃんが気に入りそうな海鮮系の料理もある。」

「海鮮か! 他には?」

途端にレオヴァの食いつきが良くなる。

だが、そこでカイドウがキングを制した。

 

「おい、キング あまり話すな

レオヴァの驚く顔が見れねぇだろう!!」

「確かに…! すまねぇがレオヴァ坊っちゃん、これ以上は着くまで秘密にさせてもらう。」

「ん、分かった。 着くまで楽しみにしてるよ」

 

何があるのか気にはなるが、先に全部聞いてしまっては楽しみも減る。

そう納得し、カイドウ達と共に船へ乗り込んだ。

こうして、レオヴァは初めてワノ国へ向かうことになったのだった。

 

─────────────────────────────────

 

 

出港してから数十分。

自分の船室へ戻ったレオヴァは、先ほどから必死に記憶を辿っていた。

 

……まさか、父さんが既にワノ国と取引しているとは思わなかった。

しかも、数年前からナワバリになっているという。

レオヴァの記憶では、ジャックが二十八歳だった原作のワノ国編から二十年前に、百獣海賊団がワノ国へ関わり始めたはずだった。

今のジャックは五歳ほど。

だから、そこから単純に逆算し、あと数年は先だと思い込んでいた。

だが、それでは辻褄が合わない。

まさか、この世界は原作とは違う歴史を辿っているのか。

そんな可能性まで考え始め、レオヴァは記憶の奥を探るように目を閉じた。

ワノ国。

カイドウ。

オロチ。

おでん。

断片的な情報を一つずつ拾い上げていく。

そして、しばらくして。

ようやく一つ、思い出した。

 

……違う。

ジャックが八歳になる頃に始まるのは、ワノ国との取引そのものではない。

“おでん”との戦いだ。

そこまで思い出した途端、曖昧だった記憶が少しずつ繋がっていく。

 

確か原作では、おでんはオロチとの間で何らかの契約を交わし、その後四~五年ほど裸踊りを続けていたはずだ。

つまり、その期間よりも前から既にカイドウとオロチの関係は始まっている。

ならば、今の時点で百獣海賊団がワノ国と取引していてもおかしくはない。

 

どうやら、原作と全く違う歴史になってしまったわけではなさそうだ。

そのことには安心した。

 

だが――。

……なぜ裸踊りをしたんだったか。

そこが思い出せない。

民のためだったような気もする。

いや、家族のためだったか。

考えれば考えるほど、細かな部分が曖昧になっていく。

大筋はまだ覚えている。

それでも、かつてなら当然のように思い出せたはずの情報が、確実に抜け落ち始めている。

その事実に、レオヴァは少し沈んだ。

 

これから先も、原作知識だけを頼りに動くことはできないのかもしれない。

だが、今さら失われた記憶を嘆いていても仕方がない。

船は既にワノ国へ向けて進んでいる。

ならば今考えるべきなのは、曖昧な過去ではなく、これから自分が何をするべきかだ。

レオヴァは気持ちを切り替えると、改めて今後のことを考え始めた。

 

 




前回に引き続き、ご感想等ありがとうございます…!
大事に読ませて頂いております。
今後とも趣味で書いてる話が一時でも皆さまの暇潰しになれれば嬉しいです。
今回もお読み頂き感謝です!!
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