すっかり日も落ちた海の上を大きな海賊船がゆったりと風任せに進んでいる。
遠征先へ向かう船の上、ドレークは任務に必要な一通りの作業を終え自室へと戻り、椅子に腰掛けた。
眼前の机の上には1冊の手帳がある。
ドレークはその手帳をまるで大切な物に触れる様に手に取ると、おもむろに引き出しから羽ペンを出し、インクをつけ始める。
外にいる百獣の部下達の賑やかさから切り離されたかのように静かな部屋に、ペン先の擦れる音だけが流れている。
────────────────────────
【 Ⅰ 】
レオヴァさんから新しい提案を受けた。
それは未だ残る不安定さを改善し、俺の精神面を安定させる為の案だ。
どれほどの効果が出るかはわからないが、俺はこの手帳一冊分は文字で埋めようと思う。
なにせレオヴァさんが俺の為に考えてくれた案だ、それだけで試す価値があると言うものだろう。
この手帳に今まで自分の考えた事や感じた事を書き、読むことで客観的に自分を捉えられるようにするのが1つの目的だ。
心が乱れ、良くないことばかり思い浮かぶ時は客観的な視点が必要だとレオヴァさんから教わった。
今回のこれも、過去を
【 Ⅱ 】
先日は経緯を書くだけで終わってしまった。
正直何から書けば良いのか分からない。
こういうもの
1人で悩んでいても駄目だろうとレオヴァさんに連絡して相談した。
色々話したが、結局初めから書くことにした。
自分だけしか読まないのだから、全て正直に書く。
それが重要な筈だ。よくわからないが。
聞くところによるとレオヴァさんも今まで感じた事などをまとめて記していると言う、それがあれば手本になるのだが
という様なことを言ったら、それでは意味がないと諭された。
“ こういう物は他人の真似をして書くものじゃねぇ。
ドリィの思いを書くからこそ、意味があるんだ。
良いか? ドリィの思いだからこそ価値のある作業になる。
他人の真似をして書くのはドリィの心の成長には繋がらねぇ。
特にお前は他人の機微に敏感だからな、手本に引きずられる可能性が高い。わかるか? ”
という事らしい。
俺の思いだからこそ価値のある作業になる。
全くもってレオヴァさんの言葉は他とは重みが違う。
早速だが、手探りながらも
出来るだけ自分が読み返しやすい様に書くつもりだが、仮に上手く書けなくとも読むのは自分だ。
謝罪は必要ないだろう。
【 Ⅲ 】
海兵の男 海兵の父に憧れていた。
いや、父と記すのは本当に不快だが正しく
兎に角、元々“海の戦士ソラ”という物語が好きだったのもあり、悪を倒す正義
だが、それも本当に幼かった頃までだ。
海賊になった父は人が変わり、機嫌が良くないという理由で俺を蹴り飛ばすような男になった。
褒められようと何か俺が上手くやって手柄を上げれば、それも気に食わないらしく手酷く殴られた。
当時は全て俺が悪いと思っていた、愛されない理由が俺にあるのだと。
父はよく言っていた。
“ 何もかも上手くいかねぇのはテメェのせいだ。
迷惑をかけてんだから、役に立て。
いつまでも役立たずなテメェの面倒なんざ御免だからな ”
と、毎日の様に聞かされていた。
だから俺は周りの空気を読む事を覚えた。顔色を伺う癖がついた。
戦闘では適度に損失を減らし、目立ちすぎず父を立てた。
子どもの実力で出来る事は全てやっていたと思う。
結局、全て俺のやっていた事は無意味だったが。
必要とされたい愛されたいと願う事は悪い事だったんだろう、あの場所では
【 Ⅳ 】
気分が悪くなったので、日を跨いだ。
もう10年以上前の事だと言うのに、ここまで気分が悪くなるとは思わなかった。
トラウマ、と言うとあの男 父に負けるようで癪だが、否定は出来ない。肯定するほど引き摺ってはいないが。
あの何もなかった日々から意図せず抜け出せた事は俺の人生において何よりの幸福だろう。
だが、今でこそ俺を置いて逃げた父には感謝に近い思いがあるが、あの当時は絶望といって差し支えない思いだった。
馬鹿なことだが、あの時はまだ父に期待していた。
いや、期待していないと自分の心が保てなかった、が正しいか。
恥ずかしい話だが、俺はまた父が昔のような男に戻ってくれると期待していたんだ。
結果は書くまでもないだろう。誰よりも俺が一番理解している。
俺はひとり敵海賊の下に置き去りにされ、船があった浜辺で泣いた。
悲しさだとか、不安だとか色々な感情が溢れた事を覚えている。
まだ15だった、仕方がないと思いたい。
現実を受け止めきれてなかった俺は、現実逃避を始めた。
レオヴァさんの言葉や行動を思い返し、あの時手をとっていたらと、もしもの妄想を始めたんだ。
今思い出しても馬鹿らしい妄想をするものだと思う。
だが、それだけレオヴァさんの存在は衝撃だった。
実際、その後浜辺まで俺を探しに来てくれたレオヴァさんの行動は“海賊として”あり得ないものだろう。
たかが子ども1人の為に、しかも敵対していた子どもだ。
その子どもに寄り添い、話を聞き、ハンカチを手渡してくれた。
何度思い出しても、この記憶は心を穏やかにしてくれる。
いや、少し違うな。“レオヴァさんとの記憶は”、が正しい。
レオヴァさんは俺の妄想を現実のものにしてくれた。
手を差し伸べてくれた、なんの取り柄もない俺に。
上記は取り消そう。また
俺はこうして百獣に入った。
【 Ⅴ 】
前回から2日ほどあいてしまった。
だがナワバリでの仕事が最優先だ、仕方ない。
今日は百獣に入った後の事を書く。
まず、俺は浜辺から百獣の船に戻った。
そこでカイドウさんと初めて顔を合わせた。
正直に言うなら、怖かった。
レオヴァさんに挨拶に行くと言われた時、震えたのを覚えている。
破壊を体現する様な男だという噂を沢山聞いていたんだ、恐れるなというのは無理だろう。
けれど、初めて会ったカイドウさんは思ってた様な人じゃなかった。
レオヴァさんが部屋に入って来たのを見て嬉しげに笑うカイドウさんは、失礼かもしれないが“優しいお父さん”の様に見えた。
レオヴァさんが優しい人だと言っていた通りだった。
ボサボサの頭と貧相な服の俺を見てもカイドウさんは嫌な顔をしなかった。
“ レオヴァが目を付けたなら、間違いねぇだろう。
そこのガキ、期待してるぜ。”
そう言って笑うカイドウさんを俺は思わず凝視した。
こんなに強そうな人が俺に期待してくれる。
嬉しかった、本当に嬉しかった。
そして、この人は本当にレオヴァさんの“父”なのだと理解できた。
一見、似ていない様に見えるが本質的な所は似ている親子だと思う。
どこか人を惹き付ける様な所や、この人と居ればという安心感とか上手く表せないが、似ている。
カイドウさんとレオヴァさん、この二人の為に生きようと思った、心から。
次に会ったのはキングだった。
ワノ国に着いて、レオヴァさんが俺に部屋をくれると鬼ヶ島を歩いている時だ。
関わっては駄目なタイプの男だと思った、人を物を見る様な目で見ていたから。
だが、レオヴァさんはキングに信頼を置いているようだったし、俺よりも上の地位の人間だ。
失礼のないよう努めたことを覚えている。
“ レオヴァ坊っちゃんにしては随分とつまらねぇのを拾ったな。”
それがキングからの初めての言葉だった。
当初はなんとも思わなかったが、今思い出すと少し腹が立つ。
しかし、キングという男は言葉を選ばない性格だ。
腹を立てるだけ無駄だろう。
それに仕事振りは大看板の地位にいるだけあり、流石と言わざるを得ない。
3人目に会ったのはクイーンだ。
当時、まだ内向きな性格だった俺とクイーンの相性は最悪だった。
いや、訂正しよう。“当時”ではない。
なにせ未だに相性は良いとは言えないからな。
レオヴァさん直々の
それに適度に仕事をサボろうとする姿勢も俺とは合わなかった。
カイドウさんやレオヴァさんから任された事をサボるなど信じられない。
この時、俺は久々に他人に対して怒りと言う感情を持った。
今思えば、それも感情がふさぎがちな俺を変える為の事で、全てレオヴァさんの狙い通りだったのかもしれないが。
クイーンからの初めての言葉は覚えていない。
なにせ、奴はベラベラと良く喋る。
だが
“ 趣味もなんもねぇとかつまらねぇ奴だなァ
そんなんじゃ、そのうちレオヴァにも飽きられるぜ? ”
と言われたのはしっかりと覚えている。
15だった俺の酷く狼狽える姿を楽しんでいたクイーンの顔を思い出すと本当に腹立たしい。
しかし、それのおかげで天体物理学と爬虫類と言う趣味を発見できた事は確かだ。感謝するつもりは一切ないが。
4人目はジャックだった。
当初の思いを本当に嘘偽りなく書くのであれば、俺はジャックが嫌いだった。妬ましく思っていた。
俺よりも幼いながらに手柄を立て、カイドウさんやレオヴァさんから可愛がられていたジャックがどうしようもなく羨ましかった。
今思えば本当に幼稚な嫉妬心だった。
あの時はまだ、俺は酷く卑屈でレオヴァさんからの信頼に気付けていなかったんだ。
だが、今は嫌いではない。
確かに少し羨ましくなる時もあるがジャックはジャックであり、俺は俺だ。
“ 人には人の、ドリィにはドリィの良さがある。
前置きするならば、決して他人と自分を比べる事は悪い事じゃない。
寧ろ、他人の優れている点や真似してはならぬ点を見て学ぶことは有意義だと、おれは思う。
だが、その違いを気にしすぎて自分を追い込むくらいなら、比べる事はやめればいい。
成長する方法は他にも沢山あるんだ、自分が傷付く方法をとる必要はない。
それを“逃げる”と表現する者もいるが、逃げることは悪い事じゃねぇ。
自分を、大切なものを守る為に“逃げる事”を選ぶ勇気を、おれはドリィに持って欲しいんだ。
そして、もしドリィが自分で自分の良さが分からないなら、おれに聞け。
何回でも何個でも答えよう。
おれは本当に数え切れないほどドリィの良い所を知っているからな。”
と言うレオヴァさんからの言葉もあり、俺は妬むのはやめた。
真面目な優しい声でこの言葉をくれたレオヴァさんの表情を今も覚えている。
救いとは、あの瞬間の事だろうと、そう思うほどに俺にとって大切な記憶の1つだ。
それにジャックは真面目だ。
カイドウさんとレオヴァさんの為ならどんな事でもするだろう。
いわば、同志だ。
それに身内を尊重するという意思をレオヴァさんは望んでいる。俺はその考えが好きだ。
長くなった、続きは明日書く。
【 Ⅵ 】
一度読み返してみたが、これであっているのだろうか?
いや、そもそも書き方に正解などないのかもしれないが、気持ちのまとめと言うより、日記や記憶の記録ではないだろうか?
だが、レオヴァさんの言葉で今の俺にピッタリなものがある。
“
一滴ずつのほんの僅かな水でも途切れることなく落ち続けたら岩に穴を開けられる。
少しの力や物事でも絶えず前進の意思を持って続ければ、何かを為せると言う言葉だ。
ドリィはいつも、自分なんかのやり方では駄目だと、自分がやっても意味がないのではないかと悩んでいるが、そんな事はない。
必ず意味はある、ドリィの今までの努力は価値のあるものだ。
おれはそんな努力を続けられるドリィを尊敬しているし、同時に自分も頑張ろうと思わせてくれるドリィに感謝もしている。
いいか、自分を褒めてやる事を忘れるな。
自分を肯定することは大事なことなんだ。
もちろん、天狗になりすぎて身内を下に見るのは良くない事だが。”
という この言葉通り自信を持って、このまま書き進めることにする。
5人目、トラファルガーについて書く。
鋭い目をした子どもで、海軍の軍艦に居たのをレオヴァさんが連れ帰って来た。
孤児にも関わらず食事作法などしっかりしており、更には医学の心得まであるという変わった少年だった。
当時、俺は彼が裕福な家庭だったのだろうと推測したりしていた。
後にわかった事だが、珀鉛病をトラファルガーは患っていた。
死亡率が高く、酷い偏見を持たれていた病気だ。
あの時のトラファルガーは自分は死ぬのだとよく口にし、破壊を好んだ。
少しも同情しなかったと言えば嘘になる。
だが、それはトラファルガーの境遇に同情したワケじゃない。
レオヴァさんの“大丈夫だ”という言葉を信じたくても信じられぬ姿に同情し、共感していただけだ。
今では、そんな姿など想像できぬ程に変わったが。
トラファルガーへの感情は良いもの、だと思う。
本人には言ったことはない、いや言うつもりも微塵もないが、彼のことは弟の様に思っている。
俺に弟などいたことはないが、きっとこの思いは兄弟に向けるものに近い、筈だ。
レオヴァさんが未だにジャックに対して世話を焼くのは、きっと俺がトラファルガーを気にかけるのと同じ思いなんだろう。
6人目はスレイマンだ。
彼は百獣の中でも特に話の分かる人間で、友人の様に俺は思っている。
少し直情的になりやすい所はあるが、決まりを守り部下を導く姿には俺も学ぶ事が多い。
数ヶ月レオヴァさんに会えないと情緒が可笑しくなる
レオヴァさんから俺は素晴らしい実を貰った。
包み隠さず言うのであれば、俺の為にレオヴァさんが探し求めてくれた実を貰った事に少し優越感すらある。
包み隠さなすぎたな。あまり良くないことだ。
だが、本心だ。あの悪魔の実を貰えた時は本当に嬉しかった。
死ぬほど不味かった実を全て胃に収めるほど、嬉しかったんだ。
他にも、刀を貰えた事も余裕を持てるようになった要因だと思う。
この貰った“閻魔”という刀は、あの本気を出したレオヴァさんに傷をつけた名刀だという。
最初は
“ これは弱いものには扱えない刀だ。
使い手の武装色の覇気、ワノ国でいう流桜を吸い放出する特性がある。
事実、普通の刀では怪我すらしない おれの体もこれで斬れた。
その顔、おれが言いたい事が分かったみたいだなドリィ。
そうだ、これはおれを、いや最悪の場合父さんを斬れる刀に
だからだ。だからこそ、お前に託したい。
ドリィ、お前は武装色の覇気が得意だろう。
そして悪魔の実のこともありタフさも申し分ない。
分かるな?おれはお前なら使いこなせると信じている。
そして、ドリィにならこの刀を任せられると思っている。
これは、この刀は絶対に信頼のおける相手にしか任せられないんだ。
いずれ仕舞い、隠し続けることは困難な状況に
この時レオヴァさんは本当に真剣な顔で俺を真っ直ぐ見つめて話していた。
ここまでの信頼に応えないという選択肢は俺にはなかった。
レオヴァさんを、カイドウさんを斬れる刀を放置するなど出来る筈もない。
ならば俺がそれを使いこなし
そう決めた時から今まで、その為の努力は惜しまなかった。
剣と刀の二刀流になった俺を褒めてくれたカイドウさんとレオヴァさんの言葉も鮮明に思い出せる。
同時に、この刀を持っているのを見た小紫の言葉も印象に
【Ⅶ】
レオヴァさんから貰った悪魔の実や刀の事を思い出し、少し気持ちが荒ぶったので一度ペンを置いた。
少し日にちが空いたが、また書いていく。
7人目は
7と8人目はうるティとページワンにする。
二人はとても仲の良い姉弟だと思う。
少しばかり互いに依存し過ぎている様に思うが、価値観はそれぞれだ。何も言うまい。
弟のページワンは勤勉で飲み込みも早く、共に仕事もしやすい。
だが、姉であるうるティは真逆だ。
所構わず暴れる、カイドウさんやレオヴァさんに我が儘を言う、部下を困らせる
書き始めたらキリがない。
正直、最初の印象は最悪だ。
レオヴァさんに毎日の様に噛みつく姿にどれ程イラ立ったか。
ジャックやスレイマンが尋常じゃないほどキレてくれたおかげで、逆に俺は冷静になれたが2人がいなければ爆発していたのは俺だろう。
しかし、うるティもページワンも実力は本物だ。
カイドウさんやレオヴァさんを尊敬しているのも、しっかり伝わってくる。
姉であるうるティは未だに俺に何かと噛みついてくるが、気にしない事にした。
ページワンはなかなか可愛げがあるし、俺はどうやら面倒を見るのは嫌いじゃないらしい。
これは新しい発見だ。
こうやって考えてみると、俺は世話を焼くのが好きらしい。
レオヴァさんが俺は教育係に向いていると言っていたのは、当たっているみたいだ。
流石はレオヴァさん、俺をよく分かってくれている。
9人目はブラックマリアにした。
彼女とは仕事上あまり関わりがない。
関わるのは金色神楽や少し大きめの宴の時ぐらいだろう。
決して嫌いな訳ではないが、苦手意識は否めない。
俺は女体が不得手だった。それを克服する為にブラックマリアが指揮をとる遊郭に世話になったのが理由だ。
クイーンに無理やり連れていかれ散々な目に合わされた時の嫌な記憶が、俺に彼女への苦手意識を持たせたのは間違いない。
ページワンがレオヴァさんに告げ口してくれなければ、克服する為という名目でクイーンに遊ばれ続けただろう。
不幸中の幸いは女体を見て倒れる事はなくなった事だ。
思い出してもクイーンに遊ばれた事が情けなくて、恥ずかしい。
レオヴァさんに知られたのが何より辛かったが
関係ないことを書いてしまった。
兎に角、俺の知るブラックマリアの事を書こう。
彼女は気が利くし、話を聞くのも上手い。
百獣の中でも屈指の優しさがある。
前に例外的になる事もあるのを見たことがあるが、他言は無用だろう。
女性の秘め事に首を突っ込むのは野暮だとレオヴァさんも言っていた。
遊女達からの信頼も厚い所を見るに、仕事も真面目にやっているのだろう。
カイドウさんやレオヴァさんに向ける信仰に近い様な愛情も、見ていて好ましく思う。
彼女もまさしく、俺の同志と呼べる相手だと思っている。
百獣の幹部クラスは皆、同志の様なものだが。
10人目はササキだ。
最初の印象は単純そうな男、だった。
正直今もそう思うが、裏表のない性格は好印象だ。
たまに一緒に飲むが、ササキは場を適度に盛り上げるのが
ただ、人前で酔っ払う事が多いのは心配でもある。
遠征先では気を付けているとは思うが。
だが、最初からササキとは親しかったワケじゃない。
寧ろ、敵対視されていた様に思う。
彼は野心家だったから、上を見ていた。
だから俺を敵対視していたのだと思う。
親しくなった切っ掛けはカイドウさんとレオヴァさんとの組手だった。
その時は確かカイドウさんの手に繋がっているボールを取れればクリア、と言う組手のルールだった。
正直、あれが組手なのかは謎だが誰もそれには突っ込まない、あのキングとクイーンもだ。
この話は置いておくとして、俺とササキは決死の覚悟で組手に挑んだ。
降り注ぐ雷と目の前に渦巻く竜巻、楽しげなカイドウさんとレオヴァさん、既に満身創痍な俺とササキ。
いつ思い出しても組手の時の記憶は冷や汗をかかせてくれる。
本筋に戻そう。あの死線を共に越えて以降、ササキは俺を睨むことはなくなった。
寧ろ、飲みに誘われるようになったし、俺もササキを好ましく思うようになった。
実は、ササキの性格が羨ましい時があった。
裏表なく、思った事は言う。
他の奴らよりカイドウさんと飲みたいと素直に言える性格が、1人で飲むよりレオヴァさんと飲みたいと部屋に押し掛けられる性格が、羨ましかった。
どうしても、俺は周りを見てしまう所がある。
カイドウさんと飲みたいとしても、レオヴァさんと飲みたいとしても、他に人が居れば入れてしまうし、忙しそうなレオヴァさんには我が儘を言うようで言い出せなかった。
別にカイドウさんもレオヴァさんも無理なら無理と言うし、もし二人で飲みたいと言っても我が儘だなんて思う人達じゃないと言うのに
まったく俺のこの性格はなんなんだろうか。
【 Ⅷ 】
酷く気分が落ち込んだので、少し時間を置いた。
11人目はコビーのことを書くとする。
彼への第一印象はレオヴァさんに相応しくない、だ。
尤も、レオヴァさんに相応しい人などカイドウさんぐらいだろうが。
相応しい人と言うのは少し表現が不適切だった。
兎に角、コビーはレオヴァさんとは合わないと思った。
弱くて、なのに綺麗事だけを見ている少年は、はっきり言って不快だった。
一番愚かだった頃の自分を見ているようで、本当に不快だった。
レオヴァさんが人造悪魔の実を授けたのも、最初は理解出来なかった。
だが、暫くレオヴァさんからの
普段の気が弱く、おどおどした態度は変わらなかったが、戦闘になった時の目が、敵だと認識した相手に対しての対応が変わった。
コビーはスポンジの様な感性を持つ少年だったと思う。
吸収が早く、絞れば古い思考を消すことが出来る少年だった。
理想の為に“悪”を切り捨てられるようになったコビーは、俺にとって不快な存在ではなくなった。
レオヴァさんから世話を任されていた事もあって、部下のような、後輩のような存在になった。
比較的、手のかからないコビーへの印象は日に日に良くなった。
師匠と崇められるのは少し、照れくさかったが。
コビーの事で大変だと思ったのは、うるティに驚くほど絡まれているのを助けなければならない事ぐらいだ。
今、思い出しても哀れみさえ感じるほどだ。
これを書いている時点で、彼は別の場所に所属しているが、俺の弟子であり同志であることには変わりない。
最後はフーズ・フーだ。
彼もササキ同様、向上心の強い男だ。
自分の部下以外とは、あまり接点を持ちたがらず、素顔を知っているのはレオヴァさんぐらいじゃないかと思う。
素顔という点においてはキングも同様で、カイドウさんやレオヴァさんぐらいしか知らないだろう。
いや、クイーンは知っているのかもしれないが。
ともあれ、謎が多い男という印象だ。
インペルダウンからレオヴァさんが連れ帰ったが、何故捕まっていたのか、元々何処の組織だったのか俺は知らない。
しかし、六式の様な技を使っていたのを見たことがある。
本音をそのまま書くのであれば、政府関係の人間だった可能性が高いのは気掛かりだ。
だが、信用していない訳ではない。
レオヴァさんと話していた時の笑い方は嘘の様には見えなかったし、何よりレオヴァさんが選んだんだ。
問題ないだろう、と思う。
それに過去は変えられない。俺もそうだ。
レオヴァさんも言っていた。
“ 過去に固執し過ぎるのはあまり良い事じゃねぇだろう。
重要なのは、“今”であり“未来”だ。
過去から学ぶ事や過去を尊ぶことは良いことだが、固執したり過去に
過去は変えられない、なら変えられる今や未来の為に動く事が有益だ。と、おれは考えている。
例えば、元は敵だったとしてもドリィの様に今はおれや父さんを支えてくれる者もいれば、1ヶ月前の奴の様に百獣を裏切り今は亡き者になっている者もいる。
過去を参考にするのは良いが、今は変化し続けている。
あまり過去ばかり見ていては遅れを取る事になりかねないからな。
まぁ長々と話したが、これは“おれの価値観”だ。
ドリィも参考程度に聞いてくれ。”
どうしても諭すような、先生の様な言い方になってしまうと苦笑いしていたレオヴァさんの言葉だ。
俺はレオヴァさんの価値観や知識を話す時の喋り方も説得力があり好きなんだが、レオヴァさんは気にしているらしい。
また本筋からそれた。フーズ・フーの続きを書く。
俺が書きたかったのは、フーズ・フーが政府の人間だったとしても構わないということだ。
元政府の人間となれば怪しいと思わないでもないが、彼が入団してからの貢献を過去に囚われて無視し、敵視し続けることは、“良くない事”だろう。
だから、俺はフーズ・フーを信用している。
彼の百獣への貢献を、レオヴァさんやカイドウさんに対して見せる敬意を信用することにした。
主要な人間関係はこ
【 Ⅸ 】
海軍からの奇襲のせいで前回は中途半端に終わってしまったし、日もあいてしまった。
何を書こうとしていたか少し忘れてしまったが、主要な人間関係はこれで
だが、これ以降何を書けば良いかわからない。
まだ半分以上も手帳のページは残っているというのに
レオヴァさんに相談したが、焦る必要はないらしい。
今までの事が書き終わったなら、これからを書いていけばいいとレオヴァさんは言っていた。
日記のようなものだろうか。
一度読み返してみたが、とても人に見せられる内容じゃなかった。
もとから見せるようには書いていないが、本当に厳重に管理しなくては駄目だ。
クイーンやうるティに見つかった日には酷い事になるだろう。
読み返して、嫌にならない事も書いていこうと思う。
カイドウさんや、レオヴァさんの言葉を記していけば未来の俺が読み返した時に心を穏やかに保てるだろう。
何より二人の言葉は身になるものばかりだ。
カイドウさんとの遠征に行った時の
────────────────────────
静かだった部屋に部下の訪れる気配を感じて、ドレークはペンを置いた。
手早く机の引き出しの奥へと手帳を仕舞い込み、インクに蓋をする。
ちょうど、それが終るとノックする音と共にドアの向こう側から部下の焦った声が響く。
「す、すいやせんドレーク様!
外に海軍の野郎共が!!どういたしやしょう!?」
「落ち着け、すぐに行く。
お前は外にいるウェイターズに交戦の指示を伝えてくれ。」
立ち上がり扉の外にいる部下に声をかけ、ドレークは剣と刀を取る。
「はいっ!了解しやした!」
大声で返事を返した部下の慌ただしく走り去る音に続くようにドレークは扉へと歩みを進めた。
「…続きはまた明日だな……」
呟いた声は扉が閉まる音にかき消された。