俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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酒は飲んでも呑まれるな

 

 

 

部下たちは現れたクイーンとキングの姿に困惑していた。

 

普段のハイテンションさは身を潜め、側にいるキングに噛みつくことすらしないクイーンなんて見たことがなかったからだ。

それに部下たちから見ても2人の姿は心なしかげっそりしている様に見える。

 

 

下手に動けば機嫌の悪そうな2人が爆発するのではないか…と、部下たちは表情を強ばらせた。

だが、そんな部下たちの警戒を余所にキングはその場から飛び立ち、クイーンは普段とは違うハリのない声で指示を出す。

 

 

「ア~~…大工共に幹部訓練所の修理の申請しとけ。」

 

「え、あ…はい!了解しやしたクイーン様ぁ!」

 

部下の返事を聞くとそのまま歩き去っていくクイーンの背中を、部下たちはあり得ないモノを見るような目で送ったのだった。

 

 

 

「お、おい……なんでキング様とクイーン様が訓練所から一緒に出て来んだよ…!?」

 

「おれが知るか!!

下手に首突っ込むとキング様に……こ、この話はやめよう!」

 

「気になるだろうがよぉ~!

クイーン様もいつものテンションじゃねぇし…具合が悪かったりしたらどうすんだよ!?

おれもクイーン様のいちファンなんだ!

絡繰魂公演(カラクリライブ)が見れねぇなんて堪えられねぇよ…」

 

「まぁ、クイーン様の公演(ライブ)見れねぇのが辛いのは死ぬほど分かるけどなぁ……」

 

「いやいや!病気とかだったらレオヴァ様もロー様もいるんだから、それこそ心配する必要ねぇだろ?」

 

「ばか野郎!!病気ぐれぇでクイーン様が参っちまうワケねぇんだ!

クイーン様は我らが大看板なんだぜ!?

あれは具合悪いとかじゃねぇ……きっと何かスゲェ問題があって疲れてらっしゃるんだ!」

 

「それこそあり得ねぇだろ!

クイーン様とキング様が困っちまう様な問題なんざあるわけ…………か、カイドウ様か?」

 

「げっ! カイドウ様がご乱心とかヤベェだろ!?

ん?けど今はレオヴァ様いらっしゃるから問題ねぇんじゃ…?」

 

「いやだから、お前らやめろって……詮索すんのは止せよぉ…

てか、早く大工達の所に修理の話を……」

 

 

過ぎ去ったクイーンを見送った部下たちは、そのまま通りかかったババヌキに噂話を怒られるまで談義を続けるのであった。

 

 

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「ア"ァ"~~!マ~ジで疲れたァ!!

カイドウさんはまだしも…レオヴァまでよォ。

くそぉ、明日ウイルス研究付き合わせてやるからなァ…」

 

自室に戻ったと同時にベットにダイブしていたクイーンは愚痴を溢した。

 

もうすぐ来るであろうお汁粉を想いつつ、バキバキになっている体をふかふかな特大のベッドに横たわらせたままメンテナンス用の器具に手を伸ばす。

しかし、結局届かずに宙をさ迷う手に盛大に舌打ちをして、のそりと起き上がった。

体を起こし、器具を手にしたクイーンは思い出した様に葉巻に手を伸ばす。

腕をメンテナンスする前に、おもむろに葉巻を咥えると火をつける。

 

口から煙を吐きながらドライバーを握り、ギギッ…と軋む手から解体していく。

ちょっとやそっとではビクともしない筈の自慢のアームをいとも簡単に軋ませる2人を思いだし、クイーンは疲れきった顔をした。

 

 

クイーンがこれ程までに疲れ果てている理由の発端は、先日の夜まで遡る。

そう、あの夜に突如始まった“組手(・・)”が全ての原因なのだ。

 

だが、今までであれば“組手”とはカイドウとレオヴァが2人(・・)で行うのが基本だった。

 

たまにレオヴァの意向で見込みのある部下が“組手”に参加させられる事はあるのだが、基本的にはレオヴァとカイドウの親子同士のコミュニケーションであったのだ。

カイドウもレオヴァも他者にこの時間を邪魔される事を極度に嫌っている(ふし)もあり、部下を育てる以外のことでは“組手”は2人で時間を合わせては夜な夜な(おこな)うのが習慣だった。

 

だからこそクイーン…そしておそらくキングも予想していなかったのだ。

まさか自分達があの地獄に巻き込まれる事になるなど、考えたことすらなかった。

 

確かに時々カイドウは

『お前らも交ざるかァ?』と、酔った呂律の回らぬ声で聞いてくることもあったが

その度に

『父さん、二人まで捕まえたら報告に来る部下達が困るだろう?

それにおれは父さんと2人で手合わせしたいんだ。』

と言い、レオヴァはそれをやんわりと止めていたのだ。

 

 

しかし、今回は違った。

ほどよく酔っ払って機嫌の良いカイドウが言った

『よォ~し…キング、クイーン!!

ウィ~…組手だァ、付き合え!

おれとォ…レオヴァ、んでキングとクイーンで

闘技場でやってた“ちーむ戦”とやらをやろうじゃねぇか!!!』

という言葉をレオヴァは止めなかったのだ。

 

それどころか、カイドウと同じく上機嫌だったレオヴァはにこにこと笑いながら大きく頷いていた。

 

『ふははは…!!

父さん、そりゃあいい!

面白そうだ、共闘なんて久し振りだなァ…

ほら……キング、クイーンなに呆けてる、行くぞ?

あぁ、そうだ!幹部訓練所なら思う存分出来る、どうだろうか父さん。』

 

『ウォロロロロ!!流石はレオヴァだぜぇ…ヒック…ゥ

いいじゃねぇか!そこに行くぞォ…!!

キングにクイーン、遅れるんじゃねぇぞォ!?』

 

そう言ってバルコニーから飛び立って行ったフラフラな竜と、それを支える様に飛ぶ黄金の鳥をキングとクイーンはポカンと眺めるハメになった。

 

一瞬、理解が追い付かず棒立ちになっていたクイーンだったが、大きな溜め息とともに二人を追うように飛び立って行った真っ黒なプテラノドンを見て我に返り、2人を追ったのだった。

 

そして、幹部訓練所についてからはまさしくあの時(・・・)の地獄絵図の再来であった。

 

久々に親子で晩酌を楽しんだこともありテンションが高いカイドウとレオヴァにより、あれよあれよと“組手”のルールを決められて地獄が幕を開けた。

 

酔っているせいで容赦のないカイドウの猛攻と、なんとか終わらせようと動くキングとクイーンの動きを先読みして組手を長引かせるレオヴァ。

 

2人の親子はそれはもう楽しげに笑っていたが、それに比例するようにキングとクイーンは疲弊しきっていた。

カイドウ1人でさえ手が付けられないと言うのに、普段であれば気遣ってくれるレオヴァまで楽しげに攻撃を仕掛けてきており、本当に助けなど期待できぬ状態だったのだ。

 

あの時以来、数年振りに2人は嫌々ながらも協力した。

カイドウとレオヴァをぶっ飛ばすという心意気で、遠慮なく攻撃を仕掛けこの地獄の8時間を生き延びたのだ。

 

『カイドウさんだから、レオヴァだからって遠慮してたらマジにヤべぇ…!!』

とクイーンは開始早々に察していた。

 

 

『おいおいおいおい…!?

レオヴァまでノリノリじゃねぇかよ!!!

気を抜いたら一発アウトだぞ!?

ア"~!くそっ!キングてめぇわかってんだろうなァ!?』

 

『うるせぇ、ボール野郎ッ…!ンな事ァ言われなくてもだ。

無駄口叩いてる暇あるなら、その汁粉(しるこ)で緩みきっただらしねぇ体を動かせ!』

 

『誰の体が緩んでるだとォ~!先にてめぇからしばくぞ!?

…って、うおぉ!?!っ危ねぇ!!!

ちょっ、レオヴァそれおれに当たったらホントにヤベェからなァ!?

……おい、笑ってんじゃねぇぞキングゥ!!』

 

 

(いが)み合いながらも2人は酔っぱらいを倒すべく、全力を尽くした。

だが、誰も全力で挑んだクイーンを責められないだろう。

なにせ化け物レベルの親子が協力して襲ってくるのだ、地獄絵図だろうことは想像に容易い。

 

と、そんなことを思い出していたクイーンだったがある可能性に思い当たる。

 

それはレオヴァが実は“酔っていた”という可能性だ。

クイーンはこれは間違いないだろうと、確信を抱いていた。

 

何故なら、あのレオヴァ(・・・・・・)だ。

いくら信用し気を許しているとはいえ、キングとクイーンに無茶振りする事は常時であれば まずあり得ない。

さらにあの晩、レオヴァは5ヶ月振りのカイドウとの水入らずの晩酌で浮ついているように見えた。

それはカイドウも同様であり、普段よりも早く出来上がってしまう程だったのだ。

レオヴァの酒のペースも早く、酔っていたと考えるのが妥当だろう。

 

百獣海賊団で……いや、この世でレオヴァの酔っている姿を見たことがある者は少ない。

その理由はレオヴァがある程度酒に強いと言うのもあるが、なによりも本人が酔うまで酒を飲まない様に気を付けている事が大きいだろう。

 

そして、もう一つの理由としてレオヴァの酔った状態は非常に分かりづらい、というのもある。

 

レオヴァは完全に酔うと口調が素に戻る特徴があるのだが、カイドウや気を許した幹部たちと飲む時は素の話し方でいる時が大半なのである。

顔に出ないレオヴァが酔っているのか、そうでないのかの判断は非常に難しい。

的確に判断出来るのはカイドウを除けば、ジャックやドレークくらいであろう。

 

 

酒が強い部類に入るとはいえ、カイドウと同じペースで飲んでいたレオヴァが酔ってしまうのは必然と言えば必然である。

 

なにせ、あのカイドウですら酔っ払ってしまうのだ。

自分の半分はある酒瓶をいくつもいくつも空にし、上機嫌で酌を進めていたレオヴァを思い出し、クイーンは呟く。

 

 

「……今日、午後にでもレオヴァにちょっかいかけに行くかァ…?」

 

今頃、酔いが覚めて頭を抱えているであろうレオヴァを想像し、クイーンはニヤリと笑った。

今回の件をジャックにバラしてやろうという悪巧みを抱えながら。

 

 

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幹部訓練所前から真っ直ぐに部屋へ戻ったキングはドサリと音を立てながらソファーに腰掛けた。

伸びをするように軽く黒い翼を広げればボキボキと嫌な音がすることに小さな溜め息をつく。

 

 

「…カイドウさんは変わらねぇな。

いや、それはレオヴァ坊っちゃんもか……手が付けられねぇ…」

 

酷く疲れの滲み出た(おのれ)の声にキングはマスクの下の眉間に皺を寄せた。

 

 

確かに、あの親子は一度スイッチが入ると周りの声が聞こえなくなる所もそっくりだと前々からキングは思っていたが、まさかこんな形で再び思い知らされるとは思ってもいなかった。

 

だが、疲労感はあれど嫌と言うわけではない。

何せキングは数十年前のあの日、カイドウの強さに惹かれて付いていく事を決めたのだ。

唯一自分の上に立つ事を認めた男の強さを感じられるのは、なかなか悪いものでもないとキングは感じていた。

 

それに最初こそ、カイドウの息子だからと渋々面倒を見ていたのだが、自我を見せ始めた幼少のレオヴァはキングの御眼鏡(おめがね)に適った。

その後もどんどんと成長し、父親譲りのタフさとカリスマを存分に発揮するレオヴァをキングは認めており、信用も置いていた。

 

 

だからこそだろう。

まさか組手に巻き込まれるなど思いもせずに、8時間ほど前までキングがレオヴァと言葉を交わしていられたのは。

 

 

 

『何故、せっかく情報の入らないワノ国に外の情報を与える?

それは面倒な厄介事を招く種にならねぇのか、レオヴァ坊っちゃん。』

 

『ん…そりゃあキング。

人間ってのはどんなに良い暮らしをしていても、いずれは慣れて不満を持ち始める強欲な生き物だからだ。

(ゆえ)に共通の危機感や敵を持たせ、この平和は“当たり前にあるモノ”じゃなく“維持しなければ()くなるモノ”だと自覚させ続けなきゃならねぇ。

そして、危機感を覚えている間は“平和”を維持しているのが誰なのか…ってのも強く意識するようになるだろう?』

 

『ほう……成る程、レオヴァ坊っちゃんらしい方針理由だ。』

 

 

このレオヴァの考えにキングは感嘆した。

力で従わせ、恐怖で支配するやり方で不自由なく生きてきたキングにとってレオヴァの意見は新鮮で面白いものだった。

 

途中、クイーンからの横やりが入った時の意見もそうだ。

 

 

『けどよォ、レオヴァ。

なにもホントの事をワノ国の奴らに教えてやる必要なくねぇか?

別に敵を作りてぇなら、情報の入らねぇ国なんだしいくらでも好きに作れるだろ。

なんでわざわざ手間かけてまでよォ~……』

 

 

レオヴァとの会話に勝手に割って入ってきた風船野郎にキングは舌打ちをしたが、一理ある疑問ではあった。

()で起こっている真実を手間をかけてまで教えてやる必要などあるのか?

レオヴァやカイドウの言葉であれば嘘だろうと盲目的な民衆は全てを疑うことなく信じ込むだろう。

なのに、わざわざレオヴァの時間を取ってまで真実を厳選(・・)し、民に伝わるよう瓦版の文字起こしまでやる必要があるのだろうか。

 

そんな疑問にレオヴァは少し不思議そうな顔で答えた。

 

 

『嘘より真実の方が使い勝手が良いから…以外に特に大きな理由なんざねぇんだが…』

 

『ンンッ~?

…いや、全ッ然意味わかんねぇよレオヴァ!!

お前のそういう理由の中身を無意識に省略しちまうの、スッゲェ悪い癖だぜ!?』

 

おいおいおい!と身を乗り出すクイーンにレオヴァは眉を下げる。

 

 

『悪ィ、クイーン。

おれはついキングやクイーン相手だと気が利かなくなっちまう…気を付ける。

……おれの言いたかった使い勝手が良いってのは、リスクが少ないって意味だ。

一度嘘をつけば、その後はそれを隠す為にずっと嘘の上塗りをしなけりゃならねぇ。

そして、塗り固めた嘘ってのはちょっとした矛盾や、他人の思わぬ発言などで簡単にボロがでる。

暴かれた嘘ほど面倒な事はねぇだろう?

一度、嘘つきのレッテルを貼られれば後に何を言ったって説得力は皆無だ。

信頼ってのは築くのにも維持するのにも本当に長い時間や努力が必要だが、崩れるのはほんの一瞬……崩れた信頼はもう二度と“同じ”には戻らねぇ。

……と、おれは考えてるわけで、それと比べれば真実を使う労力もリスクも小さいもんだろう。

勿論、おれも全て包み隠さず教える必要はねぇと思ってる。

使える情報をピンポイントで流す。

それが今のところ一番有用だと思う……クイーンやキングが反対なら新しい案を考えるが…』

 

『ほぉ~~…相変わらずっつーかなんつーか……こりゃ信者もできるよなァ?』

 

『いや、それを聞いておれに反対する意思はねぇよレオヴァ坊っちゃん……いつも通りに良い案だ。』

 

『良かった、キングからの太鼓判があると自信が持てる……が、クイーンのそれは褒めてねぇだろう…』

 

『ムハハハハハ~♪

こりゃ褒めてんだぜレオヴァ~!!』

 

ニヤニヤとレオヴァの背を叩いているクイーンにキングから制止の声が飛び、軽いひと悶着はあったがこの時まではいつも通りの宴だったのだ。

……この時までは。

 

 

この数十分後、カイドウの突然の提案にレオヴァが満面の笑みで賛成するなどキングですら予想できなかった。 

 

幹部訓練所にて、珍しく浮かれきり普段とは違うカイドウ似の獰猛な笑みを浮かべるレオヴァと、ベロベロに酔っぱらい上機嫌に笑い声をあげる話の通じないカイドウの2人を全力でぶっ飛ばしにいく事になるなど、誰であろうと予想できるはずもないのだが。

 

 

20分ほど前までボロボロのキングとクイーンを尻目に、愉しかったと陽気に笑いあっていた規格外な親子を思い出しまた小さく溜め息をつくが、ふとマスクの下の口角が緩やかに上がる。

 

 

「……フッ…酔いが覚めたレオヴァ坊っちゃんの反応が見物(みもの)だな…」

 

 

きっと眉をこれでもかと下げて詫びにくるだろうレオヴァを想像し、ひっそりとキングは笑みを溢した。

 

 

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昨晩から今朝方まで幹部訓練所で“組手”に興じていたレオヴァは部屋に戻り、睡眠をとっていた。

 

4時間ほど寝ていたレオヴァだったが、ふと目が覚めて寝台の横にある水を飲むと、そのまま風呂へ入ってゆく。

 

部屋にある風呂場でアロマの香りに包まれながらシャワーを浴びると、部下の心遣いで花びらがたゆたう浴槽に体を沈めて、レオヴァは小さく呟くと手で顔を覆った。

 

 

「……おれは、何をしてるんだ…」

 

大浴場とまではいかぬとも、広く美しい浴室に立ち上る湯気に浮かぶレオヴァのシルエットは、項垂れると言う言葉がピッタリと当てはまるだろう。

 

すっかり酔いが覚め、睡眠によって思考力が完全に戻ったレオヴァは昨晩の自分の行動を思い出し赤面した。

 

 

そう、昨晩のレオヴァは非常に浮かれていたのだ。

なにせ、久し振りの愛する父との晩酌に、更には組手の約束までしていたのだ。

 

カイドウを中心に世界が回っていると言ってなんら過言ではないレオヴァにとって、カイドウとの晩酌も組手も楽しみでしょうがなかった。

あけすけに言うのであれば、そう。

“はしゃいでいた” のだ。

 

 

近年、レオヴァが始めた酒造業にて作り上げた力作を飲んで

『こりゃいい!

そこらの酒とは全然違うじゃねぇか、流石はおれの息子だぜェ…!!

味も喉越しも申し分ねぇなァ……おれ好みだ。

ウォロロロロ…レオヴァ、お前もどんどん飲めェ!』

と、豪気な笑顔でべた褒めするカイドウの姿で完全にレオヴァのストッパーは外れた。

 

普段であれば己の限界値を把握しているレオヴァは、カイドウのペースに合わせれば酒に飲まれてしまうと理解している為、父の酌をしたりツマミを食べたりとほどほどに酒を嗜むのだが、昨晩はそのストッパーはすっかり外れていたのだ。

 

 

酒造業を始めてから、その裏で何年もかけてカイドウの好みにのみ合わせた酒をレオヴァは密かに作っていた。

その集大成というべき酒を褒められた事や暫く晩酌の時間が取れなかった事も相まって、レオヴァは有頂天になっていた。

 

上がりに上がった気分は、カイドウの“レオヴァもどんどん飲めェ!”という言葉におおいに加勢したのだ。

 

 

結果、レオヴァは嬉しさと楽しさから言葉通り浴びるほど飲むカイドウのペースに合わせてしまい、数年振りに酔っぱらうという事態に至ったわけだ。

 

だが、それだけならばレオヴァも頭を抱えることはなかっただろう。

『少しハメを外しすぎたな…』と軽い自戒のみで済んでいたに違いない。

 

 

けれど、レオヴァは酔っても記憶がしっかりと残るタイプの人間であった。

その為、昨晩のやつれきって少し痩せたようにすら見えるクイーンの顔を、滅多に見ることのないキングの疲れ果てた暗い瞳をよく覚えていた。

 

あの時はカイドウが楽しそうだった事と、久々に手加減せずとも潰れない相手を得られた事に喜び、容赦なく“組手”を仕掛けたレオヴァだったが、酔いが覚めた今は申し訳ない気持ちが胸の大半を()めていた。

 

一方で、カイドウと2人で協力して戦うことが楽しかったのも嘘偽りない事実であり、その記憶を思い出すと口角が自然と上がってしまうのだが、それは表に出しては2人に申し訳が立たないだろうと、レオヴァは緩む口に力を入れた。

 

無論、隠していたとしてもキングとクイーンには楽しんでいた事など全てバレているのだが、恥ずかしさと罪悪感でいっぱいになっているレオヴァはその事実を失念している。

 

 

花びらが浮かぶ温かな湯をパシャリと顔にかけながら、午後にでもキングとクイーンに迷惑をかけたことを謝罪に行こう、とレオヴァは思案するのであった。

 

 

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レオヴァとの晩酌と組手を満喫してから3日が経ち、カイドウは遠征の為に港へと来ていた。

 

暫く振りの晩酌では(ひさ)しく見ていなかった酔った息子の姿を見ることができ、組手では珍しく派手に暴れる息子も見れた。

 

真面目すぎるレオヴァがありのままに振る舞う姿もカイドウは気に入っている。

キングとクイーンはだいぶ疲れている様ではあったが、これくらいで参るほど柔ではないと知っているカイドウは全て笑って済ませた。

もとより、2人は長年の付き合いでカイドウの性格は理解している為、何か言ってくることもないのだが。

 

後日、はしゃぎすぎたと眉を下げていた生真面目な愛息子(まなむすこ)

俺の息子なのだからそれくらい気にするな、好きに振る舞え。

と声をかけたのもカイドウの記憶には新しい。

 

 

そんな事を思い出しながら、未だに機嫌の良いカイドウはレオヴァお手製の酒を片手に船へと乗り込む。

 

今回の遠征はナワバリ付近を彷徨(うろつ)く馬鹿共を蹴散らすという、まったくもって退屈な内容なのだが、それも面子(メンツ)を保つ為には必要な作業だ。

 

馬鹿共をのさばらせてしまっては、際限なく新しい馬鹿が増える。

それをカイドウはよく知っていた。

 

だが、そんな退屈な遠征にカイドウは少しのサプライズを思い付いていた。

 

部下の話によると、のさばる馬鹿共の中に“能力者”がいるというのだ。

カイドウはそれを息子への手土産にしてやろうと考えた。

 

理由は晩酌でのレオヴァの言葉である。

 

超人(パラミシア)系は本当に興味深い…!

スレイマン以外の能力者も色々と調べたいんだが……うちは動物(ゾオン)系は多いが超人(パラミシア)系は少ないからなァ…

覚醒前後の比較や、覚醒後に影響を及ぼす範囲や対象も調べたいな。

他にもローに頼んで中身の入れ替えをしたら覚醒後の力を発揮できるのかも実験してみたいが、被験体がなァ……スレイマンには手酷い真似はしたくねぇ…』

と、クイーンと長々と話していたのだ。

 

正直カイドウからすれば、その実験や検証は何が楽しいのかさっぱりである。

しかし

『…知識欲と言えばいいのか…

実験が楽しいというより、“知りたい”んだ。

超人(パラミシア)系の覚醒を知れば動物(ゾオン)系の覚醒の新しい可能性も探れるかもしれないだろう?

特におれの食べた悪魔の実もそうだが、幻獣種は少し変わった“技”が使える場合が多い。

だから、覚醒において新しい何か(・・)を見付けられるかもしれない……という仮説を立てていて、それで超人(パラミシア)系の覚醒にヒントを得られないかと…』

と目を輝かせて語るレオヴァの姿を見て、納得した。

 

レオヴァの思考回路はなかなかに理解しがたかったが、生き生きした表情で語るレオヴァの姿はカイドウを納得させるには十分であった。

 

カイドウはいつも通り

『レオヴァが楽しそうなら、それで構わねぇか。』

という結論に至ったのだ。

 

結果、今回の遠征で能力者が超人(パラミシア)系ならば手土産にしよう、という考えを思いつき退屈な遠征にひとつの目標を掲げた。

 

 

船長室にて、思い(ふけ)るカイドウを乗せた海賊船が動き出す。

 

面白い土産を手渡せばレオヴァはいつもの様に微笑みながら、大袈裟なほどに喜ぶだろうとカイドウは息子の姿を脳裏に浮かべ、ひとり笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 




ー補足ー

・幹部訓練所
飛び六胞や近衛隊隊長、大看板(おもにジャック)が組手をする為の施設。
定期的にカイドウとレオヴァの親子同士のコミュニケーションと言う名の組手にも使われており、頻繁に修繕工事をやっている。

・訓練所(一般訓練所とも言われている)
一般部下とウェイターズから真打ちまでの部下が訓練する時に使える施設。
ジャックやドレーク、スレイマンなどは部下を鍛えるためにこの施設にも来る。
ササキもたまに来るが鍛えるより、頑張ってる部下の様子を見に来る意味合いが大きい。頑張ってる部下には酒を奢っている。

・レオヴァの酒事情
ある程度は強いが酔わないわけではない。
基本的にカイドウやキング、クイーン以外の前では酔うほど飲まない。(普段から仕事詰めなので取引相手や国同士の会合以外ではあまり飲まない)
過去、ジャックの前で酔って構い倒してしまって以降は特に気を付ける様になった。
(弟の様なジャックに情けない所を見せなくない為)
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