俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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78から最善を見る者

 

 

 

その日、島にのさばっていた海賊達は震え上がることになった。

 

 

港に停めていた海賊船は全てが無惨な瓦礫へと成り果て、乗っていた船員も海の底へと沈んでいった。

そして、その上空では巨大な龍が蜷局(とぐろ)を巻いている。

 

恐怖で立ち竦む海賊達が最期に目にしたのは、龍の口から目も眩む様な光が放たれた瞬間であった。

 

 

この海岸の上に生きて立っている者は1人もいない。

あるのは荒れた砂浜と残骸たちだ。

 

まさにこの海に伝わる噂通り、その龍の姿は破壊を体現していると言えるだろう。

 

 

そんな一方的な破壊を行った龍は地上へと近付き、人の形に成る。

 

 

「うぃ~…

なんだぁ? 海賊共はどこだ…ヒックゥ…」

 

酒気を帯びた大男、カイドウの言葉に慌てて追いかけて来ていたギフターズが空から降りてきて答える。

 

 

「あ、あの……海賊共でしたらカイドウ様の一撃で木っ端微塵に…」

 

恐る恐る答えたギフターズの方をギロリとカイドウは見やり、大声を出す。

 

 

なんだとォ…!?

あれぐれぇで死んじまったってのかぁ?

うおぉぉ~~ん!なんて弱ぇんだ!!

せっかくレオヴァの土産にしてやろうってのに…ヒッ…ク

 

泣き上戸になっているカイドウに部下は顔を強張らせながらも、この場をなんとかしようと口を開く。

 

 

「か、カイドウ様の一撃を耐えられるような奴いませんよ!

今回は諦めましょう、他にレオヴァ様への…っ!」

 

部下の諦めましょうと言う言葉を聞くと同時にカイドウの目が一気に吊り上がる。

 

 

「諦める……諦めるだとォ!?

このおれに!!他でもねぇレオヴァへの手土産を妥協しろってのかぁ!? 」

 

ドスンッ!という音と共に荒れ果てた砂浜に地割れが起きる。

部下は全身から冷や汗を流しながら、必死に次の言葉を探した。

 

 

「で、ででですがその……全員死んじまってますし…」

 

蚊の鳴く様な声で発せられた言葉を怒号が(さえぎ)る。

 

 

だからなんだってんだよ~~!!

ここにいねぇならよォ…うぃ~……新しいのを見つけりゃいい話だよなァ…そうだろォ!?!

 

「は、はいッ!!そ、その通りですぅ!」

 

わかったならここら一帯の情報をかき集めろォ!!

今すぐにだァ…!!!

 

カイドウの恐ろしい剣幕に半泣きになっていたギフターズは翼を生やし、空へと飛び立った。

すぐに船にいる仲間達にこの事を報告せねば、と一心不乱に翼を動かす姿がどんどんと砂浜から離れていく。

 

そんな部下を見送るでもなくカイドウは砂浜に腰を下ろし、酒瓶を呷った。

 

 

こいつらが弱いばっかりに!レオヴァの喜ぶ顔が見れねぇなんてあっていい筈がねぇ!!!

こんな簡単に死んじまうなんてよぉ~…弱ぇってのは罪だよなァ!?ウオオ~~~!!

 

怒り上戸からまた泣き上戸に移り変わったカイドウは部下達が情報を持って帰るまで、荒れ地と化した砂浜で息子お手製の酒を飲み続けた。

 

 

 

 

 

暫くが経ち、すっかり酔いが醒めたカイドウは情報を持ち帰ってきたギフターズに上機嫌に声をかける。

 

 

「そうか!この島の隣にある造船所に例の能力者がいるんだな?

ウォロロロロロロ~!よく突き止めたなァ!

 

「へい!ありがとうございます!

準備は出来てますので、いつでも造船所へ出港出来ますぜカイドウ様!」

 

「よォし…死んでなかったなら、さっさと捕まえに行くぞォ!」

 

 

今し方(いま がた)届いた吉報(きっぽう)に意気揚々と船に乗り込むカイドウの姿に部下達は大きな安堵のため息をつき、持ち場へと戻る。

 

飛べるギフターズ達を中心に動きの素早いギフターズ達の血眼の情報収集によりカイドウの機嫌が直り、船内に平和が戻って来たのだ。

 

ウェイターズ含む部下達と真打ちは今晩はギフターズを(いたわ)ってやろうと心に決め、各々の仕事に精を出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

北の海(ノースブルー)にある腕利きが数多くいると噂の造船所に十数人の男達が立ち寄っていた。

 

なんでもこの造船所のある島では百獣のナワバリである、ワノ国から来たと噂の親方が中心となり国や企業などの船造りを請け負っているという。

 

船の造形は勿論、頑丈さも申し分ない素晴らしい出来であり、他にも聞いたことのないような独創的な注文でも完璧に依頼者の希望を叶えると評判な素晴らしい造船所である。

……ただし、ここが百獣のナワバリであるということを除けばだが。

 

 

ここの造船所で船を作りたいと願う海賊は星の数ほど居れど、その望みが叶うことはまず無い。

 

 

しかし、ここに立ち寄った男達はリスクを犯してでも船を手に入れようとしていた。

 

海賊としての新しい旅立ちにおいて、頑丈かつ利便性のある船は必要不可欠。

何より命を預ける船を妥協するわけにはいかなかったのだ。

 

 

「おれ達が船を手に入れられる確率は79%だ。」

 

そして、男達は船長であるブロンドの髪の男のこの言葉を信じ、なんとか造船所に赴き船の注文を取り付けた。

 

あらゆる手を尽くして辿り着いた造船所にて、船のカタログからどれにするかを選び、大まかな造りはそのままに細かな外見や内部の作りを船大工に指示を出した。

 

完全に要望を伝え終え、料金も支払い終わった男達はあとは出来上がるまでの(とき)を待つのみであった。

 

 

だが順調に進んでいたのは昨晩までである。

今朝、造船所の隣の島に一番遭遇を避けたかった人物……百獣のカイドウが現れたというのだ。

 

男達は大いに狼狽えた。

海賊である自分たちがナワバリに入っていると知れれば大変な事になるのは目に見えている。

 

すぐにでも島から逃げ出すべきだと荷物をまとめ始めた男達を他所に、この海賊団の船長であるブロンドの髪の男は微動だにしなかった。

 

彼はいつもの様にカードを見つめ、呟くように話す。

 

 

「……今、行動を起こせば裏目に出る確率86%」

 

そんなこと言わずに早く逃げましょうと、急かす部下の言葉に首を横にふるブロンドの髪の男に周りの部下達は諦めた様にその場に留まるのだった。

 

 

 

 

 

あのやり取りから2時間後、造船所のある島の外れにて。

 

 

黒い頭巾に十字のネックレスを首から下げている男達はガタガタ震え、正気を失いかけていた。

目の前にいる大男と自分たちの絶望的なまでの力の差を本能的に感じ取ってしまったのだろう。

 

恐怖から落ち着きを失い混乱状態に陥っている部下達に、船長であるブロンドの髪の男が声をかける。

 

 

「……落ち着け、お前達。

狼狽えたところで現実は変わりはしない…

ここはおれが行く、お前達は乗ってきた船へ逃げろ。」

 

額に一筋の冷や汗を流しながらも冷静さを保つブロンドの髪の男を見て、正面で仁王立ちしている大男が興味を持った様にこちらを見下ろす。

 

押し潰されてしまうと錯覚する程の威圧感を放つ大男と、狼狽える部下達の間に立つブロンドの髪の男は無理やり自らの手の震えを押さえ込んだ。

そして部下を守るように半歩前へ出る。

 

ブロンドの髪の男が刀に手をかけるのと同時に、大男の棍棒が振るわれた。

 

 

 

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造船所のある島の外れで、俺は致命傷を負った。

この男との戦闘では俺の持つ“ストック”など意味を為さないらしい。

一瞬飛びかけた意識を既の所(すんで ところ)で保ちながら、距離を取ろうと動き血を吐く。

 

 

「受けた傷を余所に移せる能力か…?

おれからすりゃあ闘いに死のリスクがねぇなんて退屈な能力だと思ったが……どうやら受け流せる傷の量には上限があるらしいなァ?

ウォロロロロロ~!

だが、てめぇの能力もそのくたばってたまるかって目も…悪くねぇ!

…ウチに入るってんなら、おれのナワバリで勝手に彷徨(うろつ)いてた事も全部水に流してやる。

見込みのある奴ァ、何人いてもいいからなァ…!!

てめぇもそこの部下共もな……選べ。」

 

 

こちらを見下ろしそう言い放った大男の前に、俺は為す術もなく片膝をついていた。

 

敵わない……まさに人間ではどうしようもない天災と表すのが的確だろう。

 

今朝の占いで引いたカードは “死神” だった。

カード “死神” は強制的な終わり消滅を意味する……まさに今の現状だ。

…だが、絶望ではない。

 

そう、カードにおいて悪いカード(・・・・・)と言うものは存在しない。

どんなカードだろうと、その占い結果を読み間違わずに行動する事が出来れば“道”は開かれるのだから。

 

 

そして、“死神” のカードの“終わり”には意味がある。

この“終わり”は新しい“出発”を迎える為の消滅なのだ。

……今日俺に死相は出ていない。

 

ならば、やるべき事はひとつ。

今までの俺を……俺のやって来たことを終らせる“覚悟”を持つことだ。

 

終らせる事を受け入れるのは難しいことだ。

体力的にも精神的にも強い疲労を伴うだろう。

だが、そんな事を言っている場合ではない。

俺の決断……“選択”には少なくない部下達の“”がかかっている。

最良の選択を選ぶことこそが、俺の責任であり使命…!

 

 

俺はボヤける視界の中、改めて深く膝を折り目の前の男を見上げて声を発した。

 

 

「……百獣の傘下に下りましょう。」

 

男は独特な笑い声を上げ、俺の入団を歓迎している様であった。

 

 

いい判断だ、歓迎するぜ!!

賢い奴はレオヴァが好むからなァ。

海賊歴は浅い様だが、てめぇはなかなか素質がある。

……なんだったか?レオヴァの良く使う言い方で……タナカラボタ…いや違ぇ…そうだ!掘り出し物だ!!ウオロロロロ!!!」

 

 

意識が朦朧としている俺の頭上で愉快そうに話す男の言葉が上手く頭に入って来ない。

どうやら出血が多いらしい。

 

……だが、生き延びられた……のだろう。

 

意識が暗転する寸前に、部下達の悲鳴のような呼び掛けが聞こえた気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カイドウが上機嫌に笑っていると、目の前でブロンドの髪の男が倒れる。

部下と思わしき男達が悲痛な声を上げながら駆け寄って、抱き起こしていた。

 

その光景を見たカイドウはしまった、と言う様な顔をする。

 

せっかく見つけた新しい戦力兼息子への手土産が死にかけているのだ。

これは非常に不味い事態だ。

つい加減が分からず痛め付けてしまったが、死なれては困る。

 

さっさと船に連れ帰って手当てさせるか、と考えたカイドウは部下に囲まれているブロンドの髪の男をガシッと乱雑に掴んだ。

 

部下達はアァ…と情けない声を上げたが、カイドウの耳には届かない。

 

 

「中央の港に船がある、来たい奴は来い。」

 

部下達に目もくれずに、そう言い放つとカイドウは龍の姿になりその場を後にした。

 

どんどん空へ登って行く龍を部下達は唖然と見つめていたが、数秒後ハッとしたように走り出した。

 

 

「「「「「ほ、ホーキンス船長っ…!!」」」」」

 

 

 

 

 

百獣海賊団の船の上空に現れた龍をローは出迎えた。

 

能力者を見に行くと上機嫌で出掛けて行って2時間以上帰って来なかった理由でも聞こうかとローが口を開いた時だった。

 

ローの言葉よりも早く、人に戻ったカイドウが甲板に男をドサリと置いて告げたのだ。

 

 

「ロー、こいつを治しとけ!」

 

「は!? ちょ、カイドウさん誰だよコイツ!!」

 

突拍子もなく死にかけの男を渡されたローの疑問は(もっと)もだろう。

しかし、その混乱混じりの問い掛けにカイドウはニッと豪気な笑みを浮かべる。

 

 

「能力者だ、レオヴァへの土産にちょうど良いだろう!

ウオロロロロ……反応が楽しみだなァ!!

 

「いや、そういう意味で聞いたんじゃ……

…はぁ、カイドウさんもレオヴァさんも急に変なモン拾ってくるからな……」

 

見当違いな答えに呆れつつも、諦めたように謎の男の手当てを始めたローを見るとカイドウは満足げに目を細め、船内へと歩きだす。

 

今回の遠征の目的を全て終え、晴れ晴れとした面持ちのカイドウは船長室に入ると、新しい酒瓶の蓋を開けた。

 

ゆっくりと酒を口に含むとガツンとした辛口の強さと癖のない旨みが広がる感覚に、飲み進める手が早まる。

飲み飽きせず、(ひや)でも常温でも楽しめる酒にカイドウの口角が上がる。

 

なんでもレオヴァが言うには米と水、そして醸造方法にこだわり抜いた一品らしい。

 

 

『並行複発酵と呼ばれる独特の醸造方法を採用している。

味は勿論、父さんの満足いく度数になるように試行錯誤した結果なんだ。

デンプンの糖化とアルコール発酵の2つの工程を同時進行させて作られる複発酵酒にしたのも、飲みやすさと味を追及する上で……』

 

と、まるで呪文の様に次々と言葉を連ねるレオヴァを思い出し、カイドウは思わず笑みを溢す。

今も昔も変わらず純粋に自分を慕い、喜ばせようと全力で突き進む息子を見て悪い気はしない。

 

赤ん坊の頃からずっと慕ってくる愛息子への手土産を予定通り手に入れ、さらにはその手土産の思っていた以上の素質にカイドウの気分は上がるばかりであった。

 

 

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俺は近くに人の気配を感じて、重い目蓋を開いた。

ゆっくりと瞬きをして、視界に映ったのは見慣れぬ天井だ。

 

……あぁ、そうだった…負けたんだ、俺は。

 

言葉に出来ぬ感情を消化しようとして、人の気配を思い出す。

 

(おもむろ)に目線を横にずらすと、目付きの悪い帽子を深く被った男が居る。

その男は此方に気付くと気だるげに声を発した。

 

 

「……目が覚めたか。

お前、自分の現状をどれくらい理解できてる?」

 

帽子の男に抑揚のない声で言われ、俺は今の状況を整理した。

 

まず、百獣の傘下に下った事。

恐らく怪我を手当てされている事、そして腕に能力を使えなくする枷が付けられている事…………部下達が…見当たらないこと…

 

俺は感情を殺して声を出した。

 

 

「…おれは、百獣のカイドウに敗れ傘下に入った。

現状は、海楼石をはめられており、治療も施されている。

……抵抗する意思はない。」

 

あれだけの怪我を負ったにしては痛まない体を不思議に思っていると、帽子を被っている目付きの悪い男の眉間にシワが寄り、雰囲気が重々しいものに変わった。

 

 

「概ね理解出来てるらしいな。

……だが、1つ訂正だ。

百獣のカイドウ…じゃねぇ、“カイドウ様”か“カイドウ総督”だ。

ウチに入った以上、カイドウさんに対する非礼は“死”だ……覚えとけ。」

 

「……忠告、感謝する。」

 

素直に礼を述べると、帽子の男に漂っていた重々しい空気がすっと消え去る。

 

 

「…トラファルガー・ローだ。

お前が完治するまでは、おれが担当医になるから覚えろ。

カルテに名前を書く……名乗れ。」

 

「バジル…ホーキンスだ。」

 

答えた俺の言葉に何を返すでもなく、帽子の男は机に向き直るとペンを握った。

 

俺は沈黙が続く部屋で、一番重要なことを思考していた。

 

部下達はどうなったのだろうか…

殺されてはいない……筈だ。

あの時、俺も部下達にも死相は出ていなかった。

それに百獣のカイドウ…提督はわざわざ有象無象に止めを刺す男には見えなかった。

なにより傘下に下れと言って来た時、部下たちもその中に入っていた。

……だから、殺されていない筈だ…

 

 

俺は思案する。

部下たちの事を聞くことは許されるのか、と。

どこまでが俺に許されているのか……もし仮に部下達もここにいるとすれば、下手な真似をして怒りを買ってしまっては巻き込んでしまう可能性が高い。

慎重に……慎重に動かなくては…

 

どう出るべきか悩んでいると、俺の横たわるベッドと反対側にあるドアが勢い良く開かれた。

俺は突然のことに、体を固くする。

 

 

「キャプテ~~ン!!

カイドウ様が新人くんの様子はどう?って聞いてたよ!」

 

人語を話す真っ白な熊をつい、不躾に見てしまった。

だが、熊は俺の視線に気付く素振りもなく帽子の男に飛び付いている。

…恐らくあの熊は俺の部下と同じミンク族なのだろう。

 

 

「ベポ、病室では静かにしろって言ってるよな!?

…ったく……ほら、新しい奴だったら目も覚めてる。

カイドウさんがやったデカイ傷はほぼ回復してるし心配ねぇって伝え…」

 

抱きついている熊を押し返しながら答える帽子の男の言葉を遮るように、熊は声を上げた。

 

 

「あ、本当だ!

初めまして新人くん!おれベポって言うんだ~。

わからないことあったら、なんでも聞いてね!

そうだ!新人くんは名前何て言うの?」

 

捲し立てるように話す熊に俺は一瞬、呆気に取られる。

 

 

「……ホーキンス…バジル・ホーキンスだ。」

 

「バジル!?美味しそうな名前だね~。

あっ!そうそう!

ホーキンスくんの友だち…じゃないや、部下の人たちも心配してたよ!」

 

「っ……部下達も居るのか…?」

 

「うん、みんなカイドウ様に運ばれたホーキンスくんのこと追いかけて来たみたい。

今は一緒に荷積みしたり、船の掃除してるよ~。

そうだ、キャプテン!

ホーキンスくんの友…部下の人達連れてきてもいい?

ずっと心配してるんだ……具合もよくなったみたいだし面会してもいいでしょ?」

 

熊の提案は俺にとってこの上ないものだった。

部下達の安否や待遇を知る事、これより重要な事項は今の俺にはない。

帽子の男の顔を静かに見つめていると、熊に対して呆れたような声で告げた。

 

 

「……そいつらの仕事が終わったタイミングでなら、面会してもいい。」

 

「やった~!ありがとうキャプテン!

みんな喜ぶよ!」

 

「それよりベポ、早くカイドウさんに伝言を…」

 

「そ、そうだった!

じゃあ、キャプテンあとでね~!」

 

 

走り去って行った熊に内心感謝しながら、ベッドの上で俺はまた重くなり始めた目蓋を閉じた。

どうやら部下の無事を確認し少し気が緩んだらしい。

 

微睡み始めた俺に気付いたのか、帽子の男がベッドについているカーテンを閉めようとしていた。

 

 

「…体力回復にも睡眠は重要だ、寝てろ。

昼飯の時間になったら起こす。」

 

用件だけ伝えると、帽子の男はシャッとカーテンを閉めた。

俺は薄暗くなったベッドの上で、再び眠りについた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

俺たちはホーキンス船長が目覚めた事を知り、抱き合って喜んだ。

 

3日間も眠ったままだった……本当に不安だった。

俺たちを逃がそうと体を張って庇ってくれたホーキンス船長はもう、目覚めないんじゃないかと…

けど、ベポが言うにはもう問題ないらしい。

今日の仕事が終われば面会も許された…!

 

安堵に包まれながら、俺たちは面会時間まで一日中そわそわして過ごした。

 

 

 

 

待ちに待った面会。

3日ぶりに見たホーキンス船長は、思っていたよりも元気そうだった。

確かに少し痩せたようにも見えるが、あの時の腹の傷も綺麗に治っているようだし、食事も取らせてもらえてるみたいだ。

 

ホーキンス船長の無事を泣いて喜ぶ俺たちに、気を利かせてベポがロー様とか言う目付きの悪い人を連れて部屋から出てくれた。

 

俺たちは足手まといになった事、見ていることしか出来なかった事を謝った。

けど、そんな俺たちにホーキンス船長はいつものトーンで返してくれる。

 

 

「…構わない、お前たちが詫びる必要はない。

それよりも……」

 

珍しく言い淀むホーキンス船長に首を傾げつつも、俺たちは言葉を待つ。

少しの沈黙の後、言われた言葉に俺は固まった。

 

 

「……おれは百獣の傘下に下ったわけだが…お前たちはどうする。

望まぬのならば、おれが…何とかしよう。」

 

つまり、ホーキンス船長と共にこのまま百獣の傘下に入るのかどうかって事を聞きたいらしい。

 

俺は間髪をいれずに答えた。

どんな運命だろうとも最期までホーキンス船長と共に行きたい、と。

 

……それは周りの皆も同じだったようだ。

次々に船長に付いていくと答えた。

 

ホーキンス船長は目を少し見開くと、ほんの少し眉を下げて答えた。

 

 

「…もう、船長ではなくなるんだ……ホーキンス船長呼びは止せ。」

 

それはきっと遠回しな、付いてきて良いというホーキンス船長……いや、ホーキンス様なりの答えなんだろう。

 

俺たちは消灯時間だとロー様が来るまでこの3日間のことを話し続け、ホーキンス様はそれを静かに聞いてくれた。

 

これから、いかなる扱いを受けようとも俺は…俺たちはホーキンス様に付いていく。

 

路頭に迷っていた俺たちを救ってくれたのは間違いなくホーキンス様なのだ。

どんな場所だろうと、ホーキンス様の居る場所こそが俺たちの居場所なんだ。

 

冷たく見えるホーキンス様だが、本当は一番に部下の命を思ってくれる真面目な性格だと俺たちは知っているのだから。

 

 

 





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