時は満ち、少年は夢へと漕ぎ出す
大勢の町人たちに見送られ、一人の少年がこの大海原へ漕ぎ出した。
青々とした空には何羽かのカモメが優雅に舞っている。
さんさんと降り注ぐ太陽の光を浴びながら少年はのんびりとした様子で呟いた。
「や~
今日は船出日よりだな~」
小舟に樽を1つ乗せ、広い海をゆったりと少年は進んでいた。
しかし、そんな平和な航海の途中。
目の前の波が突如逆巻いたかと思うと、そこには数十メートルはあるだろう海王類が現れた。
海の真ん中で海王類と出会うなど普通の者であれば死を覚悟する場面だが、少年はニッと不敵に笑ってみせる。
「出たか、近海の
…けど、相手が悪かったな。
10年鍛えたおれの技を見ろ!!
ゴムゴムのぉ……」
しかし、少年の声など聞こえないとばかりに近海の主と呼ばれた海王類は大口を開けて小舟へと飛び掛かった。
万事休すか…そう誰もが思うだろう光景だった。
「 グゥアガァ~!!!」
「
近海の
そして、最後にそこに立っていたのは少年だった。
大きな音を立てながら沈んでいく海王類に少年は勝ち気な笑みを浮かべながら告げる。
「思い知ったか魚め!!
……んん!よし、まずは仲間集めだ。
10人は欲しいなァ!!あ、あと海賊旗!!」
本当に楽しげに呟いた少年は服に付いた水しぶきを軽く手で払うと真っ直ぐ海の奥を見据え、今度は逞しさを感じる表情で口を開いた。
「よっしゃ、いくぞ!!
海賊王に おれはなる!!!」
かくして、少年の大冒険は幕を開けた。
まだ見ぬ彼の仲間達を巻き込まんと、小さな船は海をゆく。
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とある島でローは部下達と共にレオヴァとベポの帰りをのんびりと待っていた。
だがなぜ、レオヴァとベポがいないのか。
それにはローが呆れ顔になってしまう様な理由があった。
数日前、ベポは大好きなキャプテンとレオヴァ様の為に新鮮な魚を手に入れようと作戦を立てていた。
何を隠そうローの好物は焼き魚であり、レオヴァの好物は海鮮系の料理なのだ。
魚が手に入ればいつも仕事で忙しい2人の笑顔がみられる!
そう考えたベポは備え付けの小舟でこの広い海へと、美味しい魚を求めて旅立った……のが全ての始まりであった。
ベポが乗り込んだ小舟は、普段であれば親船にロープをくくりつけて離れない状態で使用する釣り専用の小舟だ。
しかし、そんな小舟でベポは意気揚々とロープを付けずに釣りに行ってしまったのだ。
…もちろん、結果は言わずもがなである。
ベポは小舟と共に沖に流されてしまい行方不明となった。
そこで慌てたのがローとレオヴァだった。
この
小舟で沖に出てしまうなんて、脱水状態や渦潮などの危険にさらされるに違いない。
そう考えたローとレオヴァは焦った。
『ベポの奴…!!
あれだけ1人で釣りに行くなと言い聞かせてあったのに、何やってんだ…』
『……すまない、ロー
しっかりとベポを見ていなかったおれの落ち度だ。
今頃不安で泣いてるに違いねぇ……心配だ…』
『レオヴァさんのせいじゃねぇよ。
本当にベポは世話がやける……おれは部下達に指示を出すからあとは任せていいか、レオヴァさん?』
『勿論だ。
おれなら空から探せるしな……ベポを連れて帰って来るから待っていてくれ。』
『頼む、レオヴァさん。
……っとに、ベポの奴帰って来たら暫くおやつ抜きだな。』
と言うやり取りを終え、レオヴァが飛び立って行ってから5日が経っていた。
しかし、飛び立ってから数時間後にはベポが見つかったとの連絡は来ていたのだ。
とある海賊が休息地として利用している島でレオヴァはベポを見つけ、すぐに電伝虫を取り出し
『…こちら、トラファルガー』
『ロー、おれだ。』
『レオヴァさん…!
ってことは、ベポが見つかったのか?』
『あぁ、見つけた。』
『そうか!
まったく…ベポの奴、手間掛けさせやがって…』
安堵の混じった悪態を聞き、レオヴァもベポが無事に見つかった安心感から小さく笑った。
『ふふ…まぁ、そう怒ってやるな。
アクシデントもたまには悪くない。』
『……レオヴァさん、あんまりベポを甘やかすなよ…』
『ローほどベポを甘やかしてはいないぞ?」』
『っ…別におれも甘やかしてねぇよ!
とにかく、島で待ってるからベポと早く合流…』
電伝虫から聞こえるローの言葉を遮るようにレオヴァは口を開いた。
『すまない、ロー。
その事だが、合流は数日待ってくれ。
……興味深いものを見つけたんだ。』
『興味深い…?
……はぁ、わかったよレオヴァさん。
5日くらいは滞在する手筈を整えとく。』
『ありがとう、ロー。
それまでには合流出来るよう努める。
面白いものがあれば土産に持って帰るよ。』
『もう、ヘンテコな置物やタペストリーは要らねぇよレオヴァさん。』
『ヘンテコとは心外だ!あれはジャヤの歴史ある……っと、ベポを回収するのが先だな。
また連絡する、そっちは任せるぞ。』
『フッ……あぁ、待ってるよレオヴァさん。』
と、いうやり取りを2人はしていたのだった。
そして、ローはまたレオヴァが珍しいモノか生き物でも見つけたのだろうと気長に待つべく船を停泊させる指示を出し、現在に至る。
すると突然頭上に大きな影が落ちて来る。
その影の形にハッとしたように上を見上げると、ローの顔に笑みが溢れた。
「レオヴァさん…!」
そのよく見慣れた姿の巨鳥は脚に掴んでいた中型の船を海に下ろすと、人の姿に戻りローの乗っている船の甲板へと着地した。
「お帰りレオヴァさん。
そろそろだと思って紅茶の準備出来て……って何かあったのか?」
「ただいま、ロー…紅茶まで準備してくれてたのか
……お前は本当に偉いな…仕事は出来るし人の話もしっかりと聞ける。
それに機転も利くし周りをよく見て気立ても良い……本当に大きく立派に育ったなァ、ロー。」
「なっ……なんだよレオヴァさん、急に!!」
疲れきった顔をしていたのを心配し、声をかけたローだったのだが
レオヴァはローを見るとゲッソリとした表情から一変し、優しい表情で帽子の上からローの頭をこれでもかと撫でた。
そして、ローは褒められた嬉しさ半分、突然なんだと驚き半分に声を上げた。
しかし、耳を赤く染めながらも驚くローを気にせずにレオヴァはローの頭を
「…気分転換に父さんから貰った藍色の着物に着替えてくる。
シャワーと着替えが終わったらベポと三人でお茶にしよう。
……こんなに疲れたのは…久しぶりだ……」
「ちょ…レオヴァさん!
答えになってねぇ…!!」
ローの叫びに疲れを滲ませた微笑だけを返し、レオヴァはお気に入りの着物に着替えるべくその場を後にする。
わけもわからず目を白黒させていたローの背中に、レオヴァが運んできた中型船から降りたベポがガバッと抱きついた。
「キャプテ~ン!!会いたかった~!!!
もう、本当に失礼な奴にあって大変だったんだよぉ…」
ぐりぐりと頬っぺたを押し付けて騒ぐベポを引き剥がすことはせずに、眉間にシワを寄せたローが口を開いた。
「ベポ…お前その前におれに言うことがあるよなァ?」
「あ……きゃ、キャプテンごめんよ…
おれ、キャプテンとレオヴァさまを喜ばせたくて……」
「それはわかってる。
いつも言ってるが、1人で勝手に海には出るな!
ベポが心配かけるからレオヴァさんスゲェ疲れてるじゃねぇか!
クイーンのバカのおしるこ語りを数時間聞かされてもレオヴァさんはあんな疲れきった顔しねぇのに…」
ローの言葉にしゅんとしていたベポが違うと慌てたように首を降る。
「違うよキャプテン!
レオヴァさまが疲れてるのはおれのせいじゃなくて…!
あ、でもいっぱい心配かけたのは本当だよね……それはあとでちゃんと謝るよ
でも、疲れてるのは“麦わら帽子の奴”のせいなんだ!」
ローから離れて身振り手振りで必死に訴えるベポを見て、ローは首を傾げる。
「麦わら帽子の…?聞いたことねぇが…
こんな場所でレオヴァさんが疲れるような奴がいたのか?
……いや、だがレオヴァさんに傷なんかあったか…?」
手を顎に当てて考えるローにベポはブンブンと首を横に振る。
「レオヴァさまに敵う人なんてカイドウさましかいないよ!?
そうじゃなくて!スッゴい失礼な奴なんだよ~!!
けど、エースくんの弟だからレオヴァさまも手は出すなって言うし……」
「エース…火拳か。
アイツそう言えば、よく仕事で疲れてるレオヴァさんに延々と弟の話聞かせてたな…
確か何か“約束”もしてたな……チッ、レオヴァさんに面倒事押し付けてたら容赦しねぇ」
一気に人相が悪くなったローの言葉に同意するように頷くと、ベポは話し足りないと言うように言葉を発した。
「もう本当に人の話を聞かないやつだったんだ!
それでレオヴァさんも振り回されて…」
「……それだけ聞くと、まんま火拳だな…
ベポ、レオヴァさんが戻ってくるまでに おれが居なかった時の話をしてくれ。」
「わかったよ、キャプテン!
実はおれも話したくてうずうずしてたんだ!」
船の中の部屋へとローに連れられながら、ベポはずっと話したかった数日間の出来事を語りだしたのだった。
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ベポは休暇遠征に来ていた。
大好きなキャプテンに大好きなレオヴァ様、この二人と一緒に遊びに行けることにベポは心から喜んだ。
…そう、本当に飛び跳ねるほど喜んだのだ。
その結果、はしゃぎすぎで二人とはぐれる未来など知るよしもなく。
案の定、はぐれてしまい孤島の様な場所でベポは一人しょぼくれていた。
「うっ…うぅ…ぐすっ……キャプテン~…レオヴァさまぁ~
お、おれこれからひとりぼっちで…どうしたらいいの…
もう、昔みたいに ひとりぼっちは嫌だよぉ……」
悲壮感漂う白クマは砂浜で小石を投げながら、瞳にたくさんの涙をためて途方にくれていた。
ひとつ、またひとつと小石を投げていると、海から漂着していた樽に当たる。
その小石がコツン…という音を立てたかと思うと、その樽が突然破裂したのだ。
「えぇ…!?」
予想だにしなかった展開に
思わずベポが驚きの声を上げると、それに続くように中から現れた少年が叫んだ。
「 あーー!!
よく寝たーーっ!!!
いやぁ、なんとか助かったみたいだなァ
目ェ回って死ぬかと思った!!
にっしっしっしっ!!
……ん?なんだ、クマか!ちょうど腹減ってたんだ!」
「お…おれは食いものじゃないぞ!!!」
「うおぉ!?クマが喋ったぁ!?」
ヨダレをたらしながら此方を見てきた少年にベポが怒ると、少年は驚いたのか後ろにひっくり返った。
「アルビダとかいう怖いおばさんやっつけたのに…
た、食べようとしてくる人もいるし…
うわ~ん!キャプテン、レオヴァさま助けて~!!」
わたわたとその場で足踏みしているクマを見て、砂まみれになったまま少年は可笑しそうに腹を抱えて笑った。
「あっはっはっはっ!
喋るクマなんて初めてみた!おもしれぇ…!!
なぁ!お前、ここで何してんだ?」
立ち上がった少年を訝しむように見ながら、ベポは答える。
「お、おれはキャプテンとレオヴァさまとはぐれちゃって…」
「迷子かー!
おっちょこちょいだな、クマなのに喋るし本当におもしれぇ奴!」
「樽から出てきた人に言われたくねぇよ!!!
何があったら樽に入ることになるのさ…」
考えられないというようにベポが首を振ると、少年はなんでもないように答えた。
「渦巻にのまれちまってよ~!
あ、そうだ。
おれはルフィ、お前小舟とか持ってるか?」
「え、あ…おれはベポ!
小舟は持ってるよ、おれそれで釣りしてたら流されちゃったから…」
「はっはっはっ!まぬけだなー!」
「いや、渦巻にのまれちゃった人に言われたくないけど…」
ムッとした顔で言うベポを気にする風もなく、ルフィと名乗った少年はビシッと海に指を指しながら口を開いた。
「小舟ありそうな島までおれを連れてってくれ!」
「めちゃくちゃ偉そうな頼み方だな…!?
おれはここでキャプテンとレオヴァさまのお迎え待つから嫌だよ!」
「おれは小舟が欲しいんだ!!」
「ワガママか!!」
船を出す出さないでわいわいと騒いでいた二人だったが、突然ルフィが森の方を見て静かになったことにベポは首をかしげた。
「…そこにいるお前、誰だ?」
ルフィが呼び掛けると森の中から変わった服を来た長身の男が姿を表した。
その男の姿をみるとベポは満面の笑みで走り出す。
「あっ…!
レオヴァさまぁ~!!
おれ、おれっ…ずっとひとりで寂しかった~!!」
2mはあるベポよりも大きいその男は抱き付いてきたベポを優しい表情で見やると、口を開いた。
「ベポ、流されたと聞いて本当に心配したんだぞ!
釣りに出る時はローと一緒にって約束だっただろ?
誰にも言わずに1人で釣りにでるな…おれ達がどれだけ心配したか分かるか?」
「ごめんなさい…
おれ久しぶりにキャプテンとレオヴァさまと一緒で嬉しくて…」
「ん、ちゃんと反省したならいい。
ベポ…無事でよかった。」
「れ、レオヴァさまっ!
うっぐす…ごめんなさい、もう一人で海には出ないよぉ…!」
優しく諭す様な声色で声をかけていた青年は、暫くベポの背とんとんと叩いていたが、ハッとしたようにルフィの方を向いた。
「……そこにいる少年は…
さっきベポと話していただろう?」
少しの警戒心を滲ませた青年の言葉に、ベポではなくルフィが答える。
「おれはルフィ!
今、クマに船乗せてくれって頼んでんだ。」
ニッと笑顔で答えたルフィを見てベポは苦々しい表情をして青年を仰ぎ見る。
青年はほんの一瞬瞳にある感情を灯らせたが、それを隠すように明るい表情で返事を返した。
「ッ……ほう…ルフィか。
挨拶が遅れてすまない、おれはレオヴァという。
ところで、自分の船はどうしたんだ?」
「船壊れちまったんだ。
ちょっと進んだところでこ~んなデッカい渦巻によ!」
両手を広げて渦巻きの大きさを表しているルフィを見てレオヴァと名乗った青年は笑顔を作る。
「そりゃあ災難だったなァ。
次の島までなら、おれの乗ってきた船に乗せてもいいが…」
レオヴァが言い終わるより早く、ルフィは満面の笑みで答えた。
「良いのか…!?
ツノ
「…ツノ
それはおれの事…なのか?」
「おう!
ツノがあるからツノ男だ!」
「……本当にエースから聞いてた通りの男だな…」
「え…!?エース!?
ツノ男はエースのこと知ってんのか!?」
少し呆れ顔をしていたレオヴァから出た“エース”と言う名前にルフィは大きく目を見開いた。
エースとはルフィにとって2人いる大切な兄の内のひとりである。
「エースとは数年前に知り合った。
豪気で気の良い奴だったが……嫌と言うほど“弟”の話を聞かされてな…
その弟は麦わら帽子を被った少年で名前はルフィだった……その反応を見るに、お前がエースの弟なんだろう?」
「エースがおれの話を?
にしし!そっか!
ツノ男はエースの友だちか!!」
「友だち…か……まぁ、そうだな。
似たようなものだ…今はな。
エースの頼みで、弟に会ったら“一度だけ”助けると約束した。
おれは
ここの対岸におれの乗ってきた船がある…付いてきてくれ。」
「そうなのか!!
困ってたんだ、ありがとうー!!」
「えぇ!?
レオヴァさま本当に連れてくの!?」
「あぁ、エースとの約束だからな。」
喜ぶルフィと驚くベポの声に笑いながら、レオヴァは2人を先導するべく歩きだしたのだった。
あれからレオヴァに付いていき、食事をご馳走になったルフィは変わった作りの中型船の中で満足げに寝そべっていた。
「は~~!美味かったぁ~!!
なぁ、ツノ男!お前おれと行こう!
コックまだいねぇんだ、おれの海賊団は!」
笑顔で勧誘してくるルフィの言葉にレオヴァは呆れた様に返す。
「コックどころか、船も旗もないだろう…」
「にしししし…!まぁな!
けど、すぐに旗も船も手に入れる。
絶対楽しいからツノ男も行こう!!」
「その自信どっから来てるんだよ!!
あとレオヴァさまをツノ男って呼ぶな~!」
「ふふ、その自信…流石は“麦わらのルフィ”か…」
怒るベポに笑うレオヴァ。
その目の前でお腹をパンパンに脹らませて寝転がっているルフィというなんとも言えない光景が、そこに広がっていた。
レオヴァからの提案で次の島まで共に行くことになったルフィは船へと乗り込み
そして、船の中で美味しい食べ物を口いっぱいに頬張りながらレオヴァとエースの話で大いに盛り上がった事で、すっかりルフィは打ち解けていたのだった。
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海軍基地のある小さな島につき、ルフィは嬉しさを全身で表していた。
「ついたぞ~!海軍基地の島!!
ツノ男とクマありがとう!」
無邪気に笑うルフィに答える様にレオヴァは笑みを返すと口を開いた。
「どういたしまして。
だが、おれとベポは海軍と仲が悪くてな…この島には長居できない。」
「そうなのか?
ん~…じゃあ、おれはツノ男が言ってたヤツ見に行ってくる!
どこだ~!!」
「……待て!
その前に小舟を調達するのが先だろう!」
制止の声よりも早く走り去って行ったルフィをレオヴァは言葉に表せぬ様な顔で見送ることしか出来ずにいた。
「……れ、レオヴァさま…大丈夫?
甘いの食べる?」
「…あぁ、ベポ……悪いな、少し素が出た。
あの、人の話を聞かない姿勢は本当にエースそっくりだなァ…」
ニコリと笑顔に戻ったレオヴァの顔を見て一息つくとベポは船に残っていた作業を終らせに戻って行き、その傍ら レオヴァは変装の為の着替えも終えていたこともあり、そのまま島巡りを開始したのだった。
その後、島がモーガンという海軍大佐により苦しんでいると聞かされ、薬などを高くない金額や物々交換などでやり取りしていたレオヴァとベポだったのだが。
なんと、レオヴァ達がやり取りしていた数時間の間にルフィがそのモーガン大佐を倒したと町人から聞かされ、ベポは大いに驚いた。
レオヴァはオオカミのせいで怪我をした少女の治療をしたこともあり、その母親に昼食をご馳走になる運びとなったのだが
そこにはルフィと見知らぬ腹巻きをした男がいた。
食堂では怪我をしていたロロノアの手当てをレオヴァが買ってでたりと、なんだかんだありつつもベポは船でローと連絡をしていた為、結局三人でご馳走になったのだ。
「はァ食った…!!!
流石に9日も食わないと極限だったぜ!!」
「じゃあ、ゾロはどうせ1ヶ月は無理だったんだな!」
「うるせぇ!
それよか何でおめェはおれより食が進んでんだよ」
「んぐもぐ…これうめぇなぁ!
ツノ男も食えよ!!」
「無視かてめえ!?」
「麦わら、口に物をいれたまま喋ると飛ぶだろう。
……ん、確かに美味い。
おれまで馳走になってすまないな。」
「いや、お前はルフィの母親か!!
おれを無視してまったりしやがって…」
ゾロと呼ばれた腹巻きの男のツッコミを気にせず食べ進めるルフィと、少女の母親に軽く
まったく違うタイプの三人組はありえない量の食事を平らげていた。
しかし、そんな平和だった食堂に海軍が現れたことで、和やかな昼食は幕を閉じたのだ。
三人はガヤガヤと海軍と揉める町人を見て席を立ち、町からでて港へとのんびり歩いて行った。
「ツノ男、本当にこの小舟貰っていいのか!?」
港で歓喜の声をあげたルフィにレオヴァは疲れたような表情で頷く。
「あぁ、構わない。
何よりお前に船の調達を任せては何週間かかるかわかったもんじゃないからな…」
「アンタ……ルフィのこと良くわかってそうだな…」
「ロロノア、ひとつ予言しよう。
お前は今後いろいろと苦労することになるぞ…」
「…嫌な予言だな
けど、本当にそうなりそうなのがなァ……」
「イヤッフ~~!!
ゾロ!新しい船だぞ~!!」
レオヴァとゾロの会話を聞かずにはしゃぐルフィは本当に嬉しそうであった。
そんな姿にゾロは呆れつつも、顔には隠せない笑みを浮かべ小舟に乗り込む。
「では、おれは人を待たせているから行くが…」
レオヴァの言葉にゾロが目を見開く。
「なんだよ、お前もルフィの仲間じゃねぇのか?」
「 そうだぞ、ツノ男!
一緒に行くって言っただろ!!」
「 おれは一度も行くなんざ言ってねぇ…!!
……はぁ、本当に話を聞かない奴だ…」
頭を抱えたレオヴァをゾロは同情の眼差しでみつめた。
「ルフィは本当に話が通じねぇからな…
んじゃ、まぁ…色々と世話んなった!
…と、そういえばアンタの名前聞いてなかったな」
「確かに…すっかり名乗るのを忘れていた。
おれはレオヴァだ、また会えるのを楽しみにしてるぞロロノア。
じゃあ、おれは先に行かせてもらう。」
「あっ…!ツノ男本当に一緒に行かねぇのか!?
それに何だその羽!おもしれぇ~!!
まぁ、また会えるだろうしいいか!船ありがとう!!」
「ちょ、待てよ!!
その名前にその羽っ…!」
腕を翼に変えて飛び立って言ったレオヴァをルフィとゾロはそれぞれの反応で見送った。
レオヴァの姿が見えなくなるとルフィは手を振るのをやめ、出向の準備をしようと一歩前にでた。
だが、そんな呑気なルフィの腕をゾロが掴む。
「おいルフィ!!」
「なんだ、ゾロ?」
「なんだ?…じゃねぇよ!!
お前、ツノ男が
「…?ツノ男はツノ男だぞ?
確かにクマにレオヴァって呼ばれてたけどよ」
「おまっ……知らねぇのか!?
レオヴァっていや、あの百獣海賊団幹部だぞ…
しかも最強生物の息子だって話も有名じゃねぇか!」
必死の形相で詰め寄ってきたゾロの言葉に、ルフィはきょとんとした顔で答える。
「ツノ男って有名なのか~!」
「馬鹿野郎!
有名もなにも百獣の名を知らねぇ奴なんかいねぇぞ!?
特に、レオヴァと言えば最近急に懸賞金があがって話題にもなってたしな…
ナワバリになった島を豊かにするって話も良く聞いた。」
「そうなのか!
やっぱりツノ男はいい奴なんだな!」
「おれが言いたいのは、そうじゃねぇよ!!」
自分の頭をむしゃくしゃした様にかきながらゾロは叫んだ。
けれど悲しいかな、ルフィにはその必死さは伝わる事はなく、2人は急に現れた大勢の人に見送られながら旅を再開するのだった。
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時は戻り、現在。
レオヴァは下がりに下がった気分を上げようと最愛の父から渡された着物を取りに部屋に来ていた。
頭からシャワーを浴び、気の利く部下によって湯がためられた浴槽に体を沈めた。
「……本当に危なかった…うっかり殺してしまう所だった…」
そう小さく呟き、レオヴァは天井を見上げ目蓋を閉じた。
船に戻るまでの数日間、レオヴァはここ数年で一番と言ってよいほど感情を圧し殺していた。
それは麦わらのルフィとの遭遇が原因であり、始まりだった。
出逢う前まではレオヴァにとって麦わらのルフィとは、時が来たら消さなければならない存在であって
そこにレオヴァ自身の感情は伴っていなかった。
ただ、夢の前に立ち塞がる存在ならば消す。
それだけで深い意味などなかったのだ。
しかし、ルフィとの出会いはレオヴァの感情に変化を与えた。
『おれはルフィ!海賊王になる男だ』
このたった一言がレオヴァの感情を激しく揺さぶったのだ。
それは、おでんがカイドウの首を取るべく剣を握ったという情報を手に入れた時以来の激しい感情の高ぶりだった。
しかし、麦わらのルフィの存在は今後“ワンピースを手に入れる上で必要になる可能性”が高く
エースとも、出会ったら“一度だけ”助けるという約束を結んでいた為、レオヴァは爆発しかけた感情に蓋をし友好的な顔を作ることに努めた。
その結果、レオヴァは数年ぶりに強い精神的な負担を感じ、気分転換を試みるに至ったわけだ。
レオヴァは腹が立った時やイラつきを覚えた時、必ず自分で自分の機嫌を取るように努めて来た。
それは負の感情で大切な者たちに理不尽に当たるわけにはいかないと言う想いと、同時にカイドウの息子として毅然とした態度を崩さぬ為である。
そして今回もその例にもれず、ローの顔を見て自分を落ち着かせ、最愛の父から貰った着物を着ることで自分自身の機嫌を取っていたのだった。
暖かい湯によって気分を切り替えたレオヴァは浴槽から立ち上がり、バスタオルを手にしみじみとつぶやく。
「ワンピース……おれ達はいったい“何”をそうよんでいるのか…」
この世の全てと称された“それ”に対してレオヴァは色々と予想を立てていた。
空白の歴史に関するポーネグリフや古代兵器と呼ばれるナニカ、世界地図など
あらゆる可能性を思考した。
世界を揺るがす秘宝が、ただの金銀財宝なわけがないのだ。
しかし、それの正体は皆目見当もつかなかった。
だが、それで良いとレオヴァは思考を止めた。
ワンピースの全容を次に“知る”のは、
レオヴァはいつもの精神状態を取り戻すと着物を羽織り、ローとベポの下へと歩みを進めた。
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一方、ベポから一通り話を聞き終わったローは目付きだけで人を殺せそうな顔をしていた。
ベポを食べようとし、更には恩人であるレオヴァにまで散々失礼な態度を取った麦わら帽子の少年の話は見事にローの怒りに触れた。
これでもかと眉間に皺を寄せていたローだったが部屋に入ってきたレオヴァの姿を見て、表に出していた不快感をしまう。
「レオヴァさん、大変だったらしいな。
ベポから話は聞いた……甘いもんでも食うか?」
ベポが既に空にしてしまった皿の上に新しくクッキーを置きながらローはレオヴァを振り返った。
「ありがとう、ロー。
甘いものはストレスに効くとアイツも言っていたからな…」
ローが淹れた紅茶のある席に座ると、レオヴァはベポの口についていたクッキーのくずを拭った。
「んむ、ありがとうレオヴァさま!
そうだ!髪の毛乾かすの、おれがやるよ!」
「いいのか?
それじゃあ、ベポよろしく頼む。」
レオヴァは笑顔で席を立ち上がったベポに髪を任せて、紅茶をひとくち飲む。
「……美味い、疲れがとれるな…」
「茶葉の他にも色々ハーブを混ぜてみたんだ
気に入ったなら、レオヴァさん用として作る。」
「ハーブか……ハーブティーと紅茶の良いとこ取りになるのか…?
面白い発想だな、ロー。
今度、作る所を見せてくれるか?」
「いいぜ、休暇中はやることないしな。」
少し嬉しそうにしているローにレオヴァは笑いかけると、後ろで髪を乾かしてくれているベポに話し掛ける。
「ベポは何がしたいとかあるか?
もう暫くは休暇が続くからな……なにかあるなら言ってくれ。」
レオヴァの問い掛けにベポは目を輝かせた。
「ほんと!?
じゃあ、おれまたバラティエ行きたいよ!」
「あぁ…あのとんでもねぇ爺さんがやってるレストランか」
ベポの言葉に思い出したようにローは呟く。
その横でレオヴァは一瞬固まっていた。
今、この時期にバラティエに行くのは“あれ”と遭遇する可能性が高い。
出来れば暫く麦わら帽子は見たくない…そうレオヴァは思っていた。
だが、ワクワクした表情でこちらを見つめるベポのお願いを断ることなどレオヴァには出来なかった。
「……よし、なら久しぶりにゼフに会いに行こうか。
義足の具合も聞きたかったしな。」
「やった~!!
コックのおじいさん怖いけど、凄く美味しいんだよね!
キャプテンは何食べる?」
「何食うかはあっち着いてから決めればいいだろ。
レオヴァさん、まだ髪乾かないならストーブ持ってくるか?」
「いや、今日は寒くないからストーブはいい。
…少し伸びたし切るか、乾かすのも手間だからな。」
「え!?切るの!?
きっと、またスレイマンがうるさいよ」
「……少しなら問題ないだろう」
いつかのスレイマンを思い出し、なんとも言えない顔をするローとベポを見てレオヴァは苦笑いをした。
2人と1匹の休暇はまだ始まったばかりである。