俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

70 / 116
浅い川も深く渡れ

 

 

「せっかく遠征から帰って来たのにカイドウ様もレオヴァ様もいないなんて最悪ッ!!

私だってぺーたんと一緒にレオヴァ様のお休み遠征行きたかったぁ~!!!」

 

 

鬼ヶ島にある部屋で地団駄を踏みながら叫ぶうるティを見て側に居た部下達はいそいそと距離を取った。

その横でソファーに腰かけているフーズ・フーは顔をしかめる。

 

 

「っとに、カイドウさんとレオヴァさんがいねぇくらいでいちいち騒ぐな。」

 

「ア"ァ"~?

お前だってレオヴァ様の護衛したくて自分の仕事めちゃくちゃ詰め詰めにしてたじゃねぇか!!」

 

「うるせぇクソガキ!!

いや…そもそも、それ誰から聞きやがった!?

 

「はぁ~あ~

ぺーたんもクソドレークの所いっちゃったし…

ひまひまひまぁ~!

 

「うだうだ騒いでねぇで質問に答えろ…!!」

 

 

フーズ・フーの地を這うような低い声など、どこ吹く風でうるティはツイストポテトをつまんだ。

 

机の上に山盛りに盛られたツイストポテトをモグモグと頬張るうるティを暫く問いただしていたフーズ・フーだったが、答える気がないと見ると舌打ちをし、立ち上がった。

 

 

「なんだい、フーズ・フー。

せっかく久々に会えたのに、もう行っちまうのかい?」

 

「あぁ、このガキがいちゃあ煩くて休まるもんも休まらねぇ」

 

 

煙管(キセル)をふかしながら首をかしげたブラックマリアの言葉にフーズ・フーは短く返し、部屋を後にした。

 

ブラックマリアはそれを目線で見送ると、いまだにふて腐れているうるティの方にすっと近寄って悪戯な笑みを浮かべる。

そのまま優しい手付きでうるティを側まで引き寄せると、楽しげな声で話しかけた。

 

 

「うふふふ♡

うるちゃん、二人だけになったし……“女子会”しない?」

 

「…! する!

じゃあ、お菓子とジュース持ってくるナリ!」

 

「実はね、うるちゃん来るっていうから準備しておいたの♡」

 

「ほんと!?」

 

「えぇ…ほら、こんなにいっぱい持って来ちゃったわ、」

 

「ん~!ブラックマリア好き!」

 

抱き付いてきたうるティに優しい笑顔を向けながらブラックマリアは机の上に準備していた、たくさんのお菓子たちを広げた。

 

 

「それでね、うるちゃん。

前の話の続きなんだけど…」

 

「浴衣の話~?」

 

「そう!

うるちゃん絶対似合うから着てみない?

きっとカイドウ様もレオヴァ様も褒めてくれるわ」

 

「あれ動きにくいし…

レオヴァ様がなんであんな動けるのかわかんない!」

 

「う~ん…確かにそうね、慣れないと少し動きにくいかもしれないわね……

けど、龍王祭の時なら少し動きにくくても良いんじゃないかしら?

一緒に可愛い浴衣きて屋台まわりましょう!

ぺーたんにも着せて…ね?」

 

ブラックマリアの提案にうるティの表情も肯定的なものに変わり、ウキウキしたような雰囲気を発している。

 

 

「ぺーたんにも浴衣……めっちゃ良い!!

それなら、ブラックマリアと私とぺーたん…あとカイドウ様とレオヴァ様も浴衣着てみんなで屋台まわりたい!」

 

「うるちゃん、それ凄く素敵♡

カイドウ様とレオヴァ様の浴衣……選び甲斐があるわ!

うるちゃんとぺーたんはお揃いの柄にするとして…

カイドウ様は紫紺(しこん)色かしら?

レオヴァ様は清藍(せいらん)色…?」

 

楽しそうな顔で試行錯誤しているブラックマリアに、うるティは良い案が浮かんだとばかりに声をかけた。

 

 

「ベースは白…!

カイドウ様とレオヴァ様の浴衣は白がいい!」

 

「……白色?」

 

「うん!

それで大きめの刺繍して、帯もスッゴく派手なやつにしたい!」

 

「カイドウ様もレオヴァ様もあまり白着ないから……新鮮でとっても素敵なアイデアだわ♡

小物も少し派手な色にするのもいいわね!」

 

「でしょ~!!

あと、カイドウ様とレオヴァ様はお揃いで髪に飾り付けして…」

 

うるティとブラックマリアの話はどんどん盛り上がっていく。

 

和気あいあいとした2人の女子会は、このまま夜遅くまで続くのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ところ変わり、東の海(イーストブルー)にて。

 

レオヴァ達は想定よりもバラティエ到着が大幅に遅れていた。

 

 

予期せぬ風邪のような病気で部下達の体調が悪くなってしまったのだ。

 

最初に病気になった部下は周りに迷惑はかけられないと、無理をして調達など仕事をこなしていた。

そして、その真面目さが災いし一緒に作業していた他の部下達に移り、ねずみ算式に船内に病気が流行してしまったのだ。

 

だが、船にはレオヴァとローという医者がいる。

部下達の病状は悪化することはなく、1日多く島に停泊した後には全員がピンピンした様子で仕事に戻れていた。

 

その後、使ってしまった食料などの調達やレオヴァの部下達への気遣いなどもあり追加で2日ほど滞在した結果、予定より3日ほど出発が遅れてしまったのだ。

 

 

甲板でわいわい話しながら掃除をしている部下達は通り掛かったレオヴァを見ると顔に笑顔を浮かべ、明るい声で挨拶をした。

 

 

「レオヴァ様、おはようごぜぇやす!」

 

「「「おはようごせぇやすッ!!」」」

 

「皆、おはよう。

…こんな早朝から船内の掃除をしてくれているのか?」

 

「えぇ、そりゃレオヴァ様が乗ってる船ッスから!」

 

「そうそう!

それに、おれらのせいで出港も遅れちまいましたし…」

 

「おれら迷惑かけちまった分、しっかり働きますぜレオヴァ様!」

 

「ピッカピカにしますんで、レオヴァ様はゆったりしててくだせぇや」

 

 

レオヴァは次々に口を開く部下達の言葉ひとつひとつに相づちを打ち終えると、微笑みながら口を開く。

 

 

「出港の件は気にする必要はない。

おれにとって皆が元気でいてくれることが何よりだからな。

それに今回は休暇だ、これと言って急ぐ用もない。

皆が船内を綺麗にしてくれたおかげで気持ちの良い朝だ、ありがとう。」

 

レオヴァのお礼の言葉に部下達は照れたような、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

 

「へへへ…レオヴァ様のお言葉に勝る褒美はねぇなァ…」

 

「よっしゃ、おれァ張り切って雑巾掛けしやすぜ!」

 

「ホコリっつーホコリ、全滅させやすんで!」

 

「うおぉ~!やるぜぇ!!モップもう1つよこせ~!」

 

更にやる気をみせた部下達を見てレオヴァは目を細めて笑う。

 

 

「ふふふ…やる気十分だな。

綺麗にしてくれるのはありがたいが、皆もしっかり休憩をとるんだぞ?

朝食もしっかり食べるように。」

 

「「「「へい!わかりやしたレオヴァ様ァ!」」」」

 

 

揃って元気な返事をした部下にまた優しく微笑むとレオヴァは当初の目的であった珈琲を取りに行くべく、食堂へと歩き始めるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

海に浮かんでいる風変わりなレストラン。

 

そこの調理室でメカニカルな義足を着けた老人と呼べる年齢の男が、大量の魚や甲殻類などの食材を品定めしている。

 

彼こそ、このバラティエというレストランにてオーナー兼料理長を担う男…ゼフである。

 

 

彼は数日前から、ある男を待っていた。

 

その男はバラティエの内装や船を設計した人物であり、ゼフの義足の製作者でもある。

 

 

そんなゼフにとって馴染み深い存在である男は突然連絡をしてきたかと思えば

 

『久しぶりだな、ゼフ。

実は今、東の海(イーストブルー)にいてな…

5日後に義足の様子見ついでにレストランに寄らせてもらう予定なんだが

ベポがそこで食事をするのを楽しみにしているんだ、席を空けておいて貰えないだろうか?』

 

などと、此方が断るなど微塵も思っていないような声色で聞いて来た。

 

最近は全然連絡も寄越さず、いざ来たと思えばまた急な訪問の知らせだ。

相変わらず自由な振る舞いの男に、ゼフは口をへの字に曲げながら答えた。

 

『2年以上も顔を見せに来ねぇで、久々に連絡よこしたかと思えば…

チビナスもお前がいつ来るのかとうるせぇからな…まぁ、来るなら勝手に来い。

……席は気が向いたら空けといてやる。』

 

素っ気ない返事を返したにも関わらず、電伝虫の向こう側で微笑む男の気配を感じながらゼフは受話器に耳を傾けた。

 

『ふふ、サンジか……また腕を上げてるんだろうなァ…久々に顔を見せに行かせてもらう。

では、ゼフとサンジの天下一品のコースを食べられるのを楽しみにしている。』

 

『フンッ……口の減らねぇ若造が。』

 

と、言うようなやり取りをしていた。

 

 

そして、このやり取りの後また連絡がきたかとおもえば、今度は少し遅れる事になると言うではないか。

 

もうすぐ来るだろうとシチューの下拵えを済ませてしまっていたゼフは、さっさと来ねぇか!!と電伝虫に向かって怒鳴ったのだった。

 

 

結局予定日を大幅に遅れ明日到着すると言うので、ゼフは待ちくたびれたという表情を隠しもせずに新鮮な海鮮を仕入れ、そのどれを男に振る舞うかの厳選を行っていた。

 

前回に続き魚介のグリルと刺身を中心にコースを考えながらゼフは待ち人であるレオヴァの事を思い出していた。

 

 

計算高いようでいて、けれど何処か人情的な不思議な青年。

それがレオヴァへの印象だった。

 

 

百獣のレオヴァと言えば海賊でありながらも数多(あまた)の交易の実績を持っているとの話をゼフは良く聞いていた。

それに話してみれば、なかなかどうして若いなりに話が出来る奴ではないか。

 

こいつなら少しは信用できるかもしれん、そうゼフは思い義足とレストランの建設についての取引を始めた。

 

そして取引を終えてわかったのだが、レオヴァはすこぶる変わった男だった。

 

ゼフの経験上、人間というものは地位が高くなれば高くなるほど他人に頭を下げず、認めることをしなくなる。

そう思っていたし、そういう人間を多く見てきた。

 

 

今まで出会ってきたどの相手より、遥かに高い地位にレオヴァはいた。

彼は地位も力も金もあり、なにより“あのカイドウの息子”という強い肩書も持っていた。

 

だが、それにも関わらず彼は

『ありがとう』やら『すまない』、『おれには出来ない料理だ!』などと他人を尊重する言動ばかりとるのだ。

 

 

正直、初めの頃ゼフにはレオヴァが心底理解できなかった。

自分とは全く違う思考回路の人間だ、そう思わずにはいられなかった。

けれど、不思議と彼とのやり取りは嫌ではない。

 

それはきっとレオヴァの言葉が上っ面だけではない、そう思えたからだろう。

 

レオヴァは理性的でありながらも、どこか暖かい印象をゼフに与えたのだ。

 

それになにより、取引に対する真摯さをゼフは気に入った。

 

この世界では悲しいかな、騙そうとする輩が多いのが事実。

騙される方が悪い、そんな世の中においてレオヴァは公平かつ、こちらが満足がいくまで要望や取引金額のすり合わせを行ったのだ。

 

裏があるのではないかと疑いたくなるほどに、レオヴァは丁寧かつ真摯な対応を徹底してくる。

 

こちらが何故そんなに真摯な対応なのかと問えば、心底不思議そうな顔でレオヴァは答えた。

 

 

「おれは対価を貰いゼフの思い描くレストランを造る、そういう取引だろう?

百獣の名の下に請け負った取引においては

俺は絶対に半端な真似はしない、やるなら完璧を求める。

ゼフもおれも、双方が納得のいく取引にならなきゃ意味がない。

互いに満足できなきゃ、それは取引が成立した(・・・・)とは言えないだろう?

……そう、おれは思っているんだが…ゼフは違うのか?」

 

 

なんでもない事のように、まるでそれが当たり前だと言わんばかりに “互いに納得できる取引をしたい” と言ったレオヴァの言葉にゼフは心打たれた。

 

確かにそうだ。

互いに納得できる取引、それが“理想”だろう。

 

しかし、現実はどうだ?

誰もが自分の利益を優先し、他人を蹴落とし這い上がろうとする。

だが、それはごく普通(・・)のことである。

そうしなければ地位や金が手に入らない。

此処はそういう世界(・・・・・・)なのだ。

 

しかし、レオヴァは本当にゼフの満足いくモノを造った。

それも、指定した期日内と希望した金額でだ。

 

便利すぎるくらいな義足と、チビナスと思い描いた夢のレストランは完成したのだ。

それも全てが理想通りに。

 

これは、この厳しい世界ではなかなか無いことである。

 

けれど、レオヴァはそれを当たり前のように振る舞う。

彼は本当にお互いに満足出来る取引でなければならない、そう思っているのだろうとゼフは感じた。

 

 

『変わった坊主だ、もっと金を取っていきゃあ良いってのに』

 

『建てるための建材費と運搬費、人件費や手数料に見合う対価は貰った、これ以上は貰いすぎになる。』

 

『……馬鹿真面目か、てめぇは。

金は貰いすぎたって困らねぇだろう。』

 

『いや、そんなに金に執着するつもりはない。

それより取引に満足してくれたなら、次もまたおれに声をかけてくれ。

その方がおれとしては嬉しい。』

 

『物好き小僧め……』

 

『サンジとの喧嘩で暴れて店が壊れたらいつでも連絡をしてくれていいからな』

 

優しい笑顔で冗談交じりに告げたレオヴァにつられるように、ゼフも小さく笑う。

本当に変わり者だ、そう溢したゼフの表情は心なしか穏やかであった。

 

 

 

昔の事を思い出しながら下準備を始めたゼフは、店が終わってもまだ厨房にいるサンジに声をかけた。

 

 

「おいチビナス!

明日、あの席(・・・)空けとけ。」

 

ゼフの声に厨房の奥から顔を覗かせ、サンジは答えた。

 

「わかってるよ、クソジジイ!

今日、それ言うの3回目だぞ。」

 

「うるせぇってんだ、チビナス。

わかったなら、仕込みに戻れ!!」

 

「チッ……はいはい」

 

夜の厨房には包丁と鍋の音だけが鳴り続けている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

海上に浮かぶレストランは今日も繁盛しており、裕福そうな夫婦や恋人など多くの人で溢れている。

 

そんな穏やかな時間が流れているレストランの扉が勢い良く開いた。

 

 

「やっとついたね!キャプテン、レオヴァさま!

おれお腹空いたよ~!」 

 

なんと、入り口から2メートルを超える白くまが喋りながら入店してきたのだ。

 

突然の意外な訪問者に席で料理を楽しんでいた人々は驚きに目を見開く。

 

 

「「「「く、熊が喋ってる!?」」」」

 

「へ?

しゃ、喋ってスミマセン…?」

 

「「「「あ、いや……」」」」

 

揃った叫び声にクマが謝ると、客たちはまた声を揃えてどもってしまった。

 

なんとも言えない空気が流れる中、クマの影から出てきた男にまた周りは目を見開いた。

 

 

「おい、ベポ!なんでもかんでもすぐに謝るな。

周りなんざほっとけ。」

 

「あいあい、キャプテン!

急に大きな声出されたからつい……えへへ。」

 

ほのぼのと会話する1人と1匹を見て、ざわざわと客が騒ぎ始める。

 

 

「お、おいおいおい…!?

あれって、死の外科医……トラファルガー・ローじゃないのか!?」

 

「う、うそ……なんでこんな所にっ…」

 

「ヤバイだろ!?

死の外科医と言やぁ、あの百獣の幹部……」

 

「おい、ウェイター!!

か、会計…早く会計を!」

 

ガヤガヤと騒がしい人々の声にローと呼ばれた男は眉を顰める。

 

 

「うるせぇな、食事に来ただけだ。

いちいち騒ぐな……黙れねぇなら、口を縫い合わせてやろうか?」

 

向けられた鋭い視線に客たちは息を呑んだ。

誰ひとり声を発せられない状況の中、入り口から場違いなほど穏やかな声が響いた。

 

 

「ベポ、前かけを忘れてるぞ…!

また風呂に入るのは嫌なんだろう?」

 

「あ、レオヴァさま!

ありがとう~!おれすっかり忘れちゃってたよ。」

 

後から入ってきた角のある青年は子どもの世話をするかのように白くまに前かけを着けてやっている。

青年はそれをつけ終わると白くまをわしゃわしゃと撫で、優しく微笑んだ。

 

客たちはボケッとそれを見ていたが、青年の顔を見て思わず叫んだ。

 

 

「「「「ひゃ、百獣のレオヴァ…!!?」」」」

 

百獣の名を背負う海賊の登場に客たちの間に大きな恐怖と動揺が走った。

 

しかし、その周りの反応とは正反対に中央付近の席に座っていた老夫婦の夫が嬉しげな笑みを浮かべて席を立った。

 

 

「おぉ~!これはレオヴァ様!

まさか、この東の海(イーストブルー)でお会いできるとは…

あなた様の下さった薬のおかげで、妻はこの通り元気に!」

 

「バルクか、1年ぶりぐらいだったか…?

奥方が元気になったようでなによりだ。」

 

レオヴァがバルクと呼ばれた老人の妻に軽く会釈すると、妻も車椅子に座った状態で深々と頭を下げた。

 

そのやり取りを見守ると、バルクは嬉しそうにまた口を開く。

 

 

「この世の何よりも大切な妻の病気を治して頂き、なんとお礼を言えば良いのか…!

凡才なワシでは報いる手段が浮かびません……

是非ともなんでも申し付けてくだされ!

このワシに出来ることなら何でも致しましょうぞ!」

 

「止してくれ、バルク…

良き友であるバルクの愛する人を救えたのなら、おれはそれだけで十分だ。

……そうだな…だが、どうしてもと言うなら

バルクと奥方で美味しい茶菓子を準備して、おれの茶会に付き合ってくれるか?」

 

微笑みながら放たれたその言葉に、感激に涙ぐむバルクへレオヴァはハンカチを差し出す。

 

 

「あ、ありがとうございますっ…

ぜひ…是非とも妻と共にそのお茶会に参加させていただきますぞ!

とっておきの茶菓子も…!

……あぁ、せっかくレストランに来ていたところをお邪魔してしまい申し訳ない。

つい、レオヴァ様にお会いできて年甲斐もなくはしゃいでしまいました。

…では、ごゆっくり…」

 

「ありがとう、バルク。

また茶会の時にでも、ゆっくりと話そう。」

 

「はい、レオヴァ様!

その時を妻共々、心待ちにさせて頂きます!」

 

気品を感じさせる素振りで深くお辞儀をすると席へ戻ったバルクを見計らって、奥からウェイターの様な男がこちらへ歩いてくる。

 

 

「いらっしゃいませ、お客様。

ご予約ありがとうございます……が、クソ遅刻です。」

 

咥えタバコでレオヴァの前に行った男に周りはまた冷や汗を流したが、周りの心配とは裏腹にレオヴァは笑った。

 

 

「久し振りだな、サンジ。

予定を遅れたのはすまなかった、色々あってな…」

 

「久し振りだな、じゃねぇよレオヴァ!

クソジジイが全然顔出しに来ねぇってうるさくてしょうがねぇ」

 

サンジと呼ばれた男は文句を言いつつも、楽しげな顔をしていた。  

 

 

「ま、いつもの席空けてあるから座っとけ。」

 

「空けておいてくれたのか、ありがとう。

……で、サンジがウェイターのような真似をしていると言うことは…」

 

「ご名答。

またウェイターは逃げちまって、相変わらずの人手不足だぜ。」

 

「ふふふっ…いつも通りでなによりだ。」

 

「ったく、ウチにとっちゃ笑い事じゃねぇよ。

…あぁ、そうだ!レオヴァがウェイターやってくれてもいいぜ?」

 

片眉を上げて冗談交じりにいうサンジにレオヴァは笑い、隣にいるローは不機嫌さを全面に出す。

 

 

「おい、レオヴァさんがウェイターだと……」

 

刀に手を置いたローを見てサンジは詰まらなそうに煙を吐いた。

 

 

「相変わらず、冗談の通じねぇ野郎だな…

レオヴァ、ここはクソジジイの店だ。暴れさせるなよ。」

 

「ローは優しい子だ、ところ構わず暴れたりしない。

…が、あまり煽るのは止してくれ。」

 

「……レオヴァさん、そいつは放っておいて席に行こう」

 

眉を下げたレオヴァはサンジに軽く手を振ると、先に席に向かって歩きだしたローの後に続いた。

 

 

レオヴァ達のやり取りをみて滝のような冷や汗を流していた客達だったが、緊張が解れたのかレストランには穏やかな空気が戻りつつあった。

 

 

「…一時はどうなるかとおもったが、百獣のレオヴァの噂は本当かもしれないな」

 

「確かにそうね。

乱闘騒ぎにならなくて良かったわ…」

 

 

「あの老夫婦って、すげぇ大富豪だろ!?

そんな人に様付けで呼ばれるって……いったい…」

 

「馬鹿!レオヴァといや、あの百獣の息子だぞ。

様付けで呼ばれるだろ!

……でも、思ってたより…怖い雰囲気じゃねぇな」 

 

「あぁ、おれも思った!

海賊っつーか……どこぞの王族みてぇな雰囲気だな」

 

 

小声でちらちらとレオヴァ達を伺いながら話す客達を気にせずにレオヴァとベポは料理を待っていた。

 

ローは周りの反応にうざったさを覚えたが、のんびりとした雰囲気のレオヴァとベポにすっかり毒気を抜かれたのか深く椅子に腰かけると二人の会話に耳を傾けた。

 

 

すっかり平常に戻ったレストランの窓際の席でレオヴァ達は運ばれてきた料理を楽しんでいた。

 

そんな和やかにテーブルを囲む3人の元に長いコック帽の老人がカツカツと近寄ってくる。

 

 

「おれに挨拶するより先に飯か、小僧。」

 

人相の悪い老人を瞳に捉えると、レオヴァは笑みを浮かべ上品な所作でナフキンを手に取り軽く口を拭くと、老人の方に向き直った。

 

 

「久しいな、会えて嬉しいよゼフ。

挨拶を先にしようかとも思ったんだが、この相変わらずの盛況具合だろう?

後にした方が良いかと思ってな。」

 

「相変わらず良く回る口だぜ。

これくらいで参るほどウチのボケナスどもはヤワじゃねぇ。

……で、どうだ。」

 

ゼフと呼ばれた老人は椅子にドカッと座ると編まれた長い髭を右手で撫でながらレオヴァを鋭い目で見上げ、返答を待った。

 

 

「もちろん、変わらず最高に美味い。」

 

「フッ…あたりめぇだ、小僧。

デザートはチビナスがやる。

まぁ、ゆっくりしていけ。」

 

「サンジが…?そりゃあ楽しみだ。

…ところでメンテナンスなんだが、夜まで待った方が良いか?」

 

「なんだ、今回は急ぎじゃねぇのか?

ゆっくりしてるなんて、いつも(せわ)しねぇ小僧にしちゃあ珍しいじゃねぇか。」

 

「実は休暇中なんだ。

急ぎの用もない、昼でも構わないなら昼にメンテナンスするが…」

 

レオヴァの提案に少し考える素振りを見せたゼフだが、首を横に振った。

 

 

「小僧の連れまで待たせることになりそうだからなァ…

もう少しすりゃ客足も落ち着くだろう。

夕方前には時間を取る。」

 

「そうか? なら、それで頼む。

早いなら早いに越したこともないからな。」

 

その言葉を聞き終えるとゼフは立ち上がり厨房へと戻って行く。

そして、レオヴァ達はそのままデザートを待つのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの楽しい昼食から数時間が経過した現在。

レオヴァは天井に大きな穴が空いた部屋でゼフと向き合っていた。

 

 

「…………まぁ、なんだ…そう言う訳だ。

小僧、メンテナンスの他にレストランの修理の依頼も頼まれちゃくれねぇか。」

 

「……そう…だな。

すぐに連絡して、3日以内には到着するように手配しよう。」

 

「…休暇中に悪いな、仕事の話なんざ……」

 

「いや、気にしないでくれ。」

 

「「………」」

 

どちらともなく口を閉じ、沈黙が訪れる。

 

ゼフは息子のように可愛がっていたサンジの旅立ちに色々な想いが心に渦巻き、熱くなった目頭をどうにか誤魔化しており 

レオヴァは数時間の間で見るも無残な姿になったバラティエと、ゼフの想いを察して口を閉じていた。

 

 

なんでも、レオヴァが時間を潰すために離れていた数時間の間にこのレストランに、海賊艦隊を指揮している首領(ドン)・クリークとその部下達が来襲したと言う。

更には世界一の剣士と名高い“鷹の目のミホーク”まで現れる始末。

 

あわや大惨事だったのだが、たまたま居合わせた“麦わら帽子の少年”と仲間達によって見事危機を脱出。 

その後、ゼフの息子同然のサンジもその少年と共に海へと旅立って行ったと言うではないか。

 

その話をコック達やゼフから聞かされたレオヴァは大層驚いた顔をしてみせた。

 

そして、詳しい話を聞きつつ義足のメンテナンスを終え、レストラン修理の為の手配を進めていた。

 

 

 

「メンテナンスも修理の連絡もついたから、そろそろおれは帰らせてもらう。

……では、また。」

 

軽く会釈をして歩みを進めてたレオヴァの背に声がかかる。

 

 

「…この広い海でもし…もしチビナスに“敵”として会ったら……」

 

出口へと進んでいたレオヴァは言い淀むゼフの方を振り返った。

 

 

「言いたいことはわかる。

血の繋がりがなくとも、ゼフとサンジは“家族”だからな…

“家族”がどれ程大切か、それはおれも痛いほどに理解出来る。

……善処しよう。

だが、ゼフも海賊だったんだ……わかるだろう?」

 

すっと目を細めたレオヴァの言外に匂わせた意味を察したゼフは口を開く。

 

 

「……あぁ、わかってる。

小僧、お前の口から善処って言葉が出ただけで十分だ。

チビナス…あの馬鹿もお前の旗にゃ手を出さんだろう。」

 

「そう願ってる。

別におれも好き好んで知った親子を引き離したりはしない…おれの“誇り”に手を出さない限りは。

では、ロー達を待たせてるのでな…」

 

「引き留めて悪かったな。

修理代、上乗せしとくぜ。」

 

「気を遣わないでくれ、提示金額以上は突き返すように部下に頼んでおくからな?」

 

「フッ……おれに突き返せるもんなら、突き返してみな。」

 

「……まったく…」

 

一瞬、呆れた様な表情をしたあと小さく笑い、今度こそレオヴァはバラティエから出港する為に船へ向かった。

 

ゼフはそのレオヴァの後ろ姿を見送ると、すっかり風通しの良くなった部屋のベッドに横になるとまるで祈るように瞼を下ろした。

 

 

「海賊王になると意気込む小僧と、父を海賊王にすると意気込む小僧…か

どっちも心底本気で叶うと思ってる青二才……ぶつからねぇ事を祈るしかねぇとはなァ」

 

ゼフはどんな困難でもぶち破って行けると周りに思わせる嵐のような希望溢れる眩しい少年と、あらゆる事を巧く進め仏にも鬼にもなる青年を思い浮かべる。

 

片や、無計画だが周りを引き込み、皆から支えられつつ全てを良い方へと運べる天性の素質を持つ少年。

 

片や、計画的かつ理性的でありながら非情ではなく、皆をまとめ上げ導く素質を持つ青年。

 

そんな正反対の2人がぶつかる未来がないよう、ゼフは願った。

くそ生意気なチビナスが、あの麦わらの小僧達と笑顔で海を進めるようにと。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ロー達を乗せた船はバラティエを出発し、ワノ国へ向けて空を飛んでいた。

 

普段よりも数倍大きな鳥の姿で船を掴みながらレオヴァは翼を羽ばたかせる。

夜の星空をキラキラと照らしながら進む巨鳥の表情は明るい。

 

それは1時間ほど前にカイドウから戻って来いとの連絡があったからだ。

 

レオヴァはその連絡に、満面の笑みを浮かべ即答した。

 

 

『もちろんだ父さん!すぐに帰る!』

 

『そうか!

見せてぇもんがある、待ってるぜレオヴァ!!』

 

その後少しの談笑を挟み、受話器を置いたレオヴァの行動は素早かった。

即座に部下達に指示を出し帆を畳ませ船の揺れを軽減する装置を作動させると、いつも通りの大きな鳥の姿になり船を掴んで大空へと羽ばたいたのだ。

 

カイドウとの会話で上機嫌になったレオヴァは普段の2倍近いスピードで空を進む。

 

やっと東の海(イーストブルー)から離れられる事への安堵と愛する父からのサプライズの為、レオヴァは寝ずに翼を動かし続けるのだった。

 

 

 




ー後書きー
いつもご感想やここ好き一覧、誤字報告感謝です!
前回アンケートに投票してくださった皆様もありがとうございます。

番外編の章を作ろうと思っていたのですが、1話ずつ別々に出来なかったので諦めて新しく番外編専用を作ることにしました!

番外編では今回の うる&ブラマリのような本編にあまり関係ない、ゆる~い話を上げる予定です。
またちゃんと番外編専用を作ったら後書きなどでお知らせしますので、見てやるぜ!と言ってくださる方はもう少々お待ちくださいませ~!

『補足』
女子会という単語を使うようになったきっかけはレオヴァが2人に休暇を取らせる時に言った
「たまにはブラックマリアとうるティで女子会でもするのも良いんじゃないか?」
という一言。

レオヴァ:嫌な予感がしたので食事後すぐにレストランから離れる。
案の定、戻って来たらレストランがボロボロになっていたので笑顔が引き吊る。
浅い川も深く渡れ精神が役に立ち、麦わら帽子との再会を回避。

ロー:東の海でのレオヴァの変装の服を選ぶのが楽しかった。
が、変装しても角や顔でバレバレだよな…と思いつつ黙っている。
一応、ローも和服じゃない服を着ている。

ベポ:レストランの料理美味しい!!!
ゼフとの約束の時間までレオヴァとローと釣りが出来たのが楽しかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。