俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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策を弄すれども変えられぬ未来

 

 

 

「申し訳ありません…若君ッ…!!」

 

 

電伝虫から、今にも自害しそうなほど悲痛な声が響く。

 

優秀な工作部隊の隊員から告げられた“失敗”の二文字にレオヴァは手に持っていた筆を思わず折ってしまった。

 

少しの沈黙が続き、電伝虫越しの部下がこの世の終わりのような顔をしたのと同時にレオヴァの返事が返ってくる。

 

 

「そうか、奴は逃げ仰せたか…」

 

「はい…その日の夜に護衛対象を殺し、例のモノを奪い逃走したようです……

護衛対象は死亡が確認され、二番隊隊長がケジメの為だと偉大なる航路(グランドライン)を逆走して行きました…

白ひげや他の隊長達も制止していたのですが、止めきれず……若君の指示通り、二番隊隊長にあの機械を取り付けることには成功したのですが…

……本当に申し訳ありません!

此度の失態、命を以て償わせて頂きたくッ!!」

 

必死の部下をレオヴァは優しい声で止める。

 

 

「止せ、お前は良くやってくれた。

今回は護衛対象を見張り、いつ動くかわからないマーシャル・D・ティーチを警戒するという途方もない集中力を要する長期任務……全て任務内容通りに行かない事もあるだろう。」

 

「若君っ……で、ですが!

おれは保護対象を見失い…その結果監視対象には逃げられるという失態を……」

 

声が震える部下を諭すようにレオヴァはゆっくりと話す。

 

 

「大丈夫だ。

二番隊の隊長にアレを取り付けられさえしているなら、他はたいした事じゃない。

5年以上も任務の為に身を粉にしてくれたお前を誰が責められる?」

 

「グズッ……あ、あ"りがとう"ございま"す"ッ…」

 

「お前は次の指示があるまで、引き続きそこで上手くやっていて欲しい……頼めるか?」

 

「は"い"!! お任せ"ください"!」

 

「任せたぞ。」

 

電伝虫の受話器をガチャリと置くと同時にレオヴァは深い溜め息をついた。

文机の上には無惨に折れた筆が転がっている。

 

 

「…麦わらといい……まったく考え通りには運ばないな…」

 

ナワバリの政策とは違い、計画通りに行かなかった事にレオヴァは苦々しげに笑う。

 

今回の作戦が上手く行けば麦わらに次ぐ要注意人物である“黒ひげ”の大幅な弱体化が狙えたのだが、それは失敗に終わった。

 

 

レオヴァにとって五体満足でいられると目障りである“黒ひげ”は厄介な悪魔の実を手に入れて海へと飛び出してしまい、四番隊隊長も助かることはなかった。

 

当初のレオヴァの考えでは四番隊隊長を黒ひげに殺害させるところまでは良かった。

しかし、そこで悪魔の実を回収もしくは海へ破棄し、後に能力者ではない黒ひげをエースに追わせる。

 

その後、黒ひげとエースどちらが勝とうがエースを海軍に捕らえさせ戦争を起こす……というのがレオヴァの打てる安全策であったのだ。

 

 

黒ひげは油断できぬ実力があるとレオヴァは仮定している。

 

その理由は白ひげから奪った能力を即座に使って見せたあのシーンである。

 

実力がない者であれば手に入れたばかりの能力をすぐにあそこまで引き出せないだろうとレオヴァは考えた。

 

結果、黒ひげに悪魔の実を食べさせない事が一番確実に処理できる方法だと考え、数年も前から工作部隊の隊員を白ひげの四番隊に入団させていたのである。

……が、現実は上手くはいかなかった。

 

黒ひげは悪魔の実を手に入れてしまったのだ。

 

 

折れた筆をレオヴァは炭に変えると屑籠(くずかご)へと投げた。

ピリピリと張りつめている部屋の空気が、レオヴァの深呼吸と共に元に戻る。

 

先ほどまでの圧ですっかり怯えてしまっている狛デーンの子どもを優しく撫でる。

 

落ち着いた狛デーンを膝から下ろすと、レオヴァは思考を完全に切り替えた。

 

 

もとよりレオヴァはこの失敗を見越して、ウイルスの開発と平行してある機械の開発を進めていたのだ。

それも昨日には完全に完成しており、保管していた能力者を使って作動も開始している。

 

確かに一番理想的な展開にはもって行けなかったが、その後の為の準備はできている。

そう思考を進め、レオヴァは感情を静めた。

 

 

「おれの夢を邪魔する奴は誰だろうと絶対に野放しにはしねぇ。

父さんの上に立とうなんざ、虫酸が走る……そんな存在は消えて然るべきだ。」

 

静かな熱の籠った声は誰に聞かれる事もない。

 

 

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青々とした空の下に大きな船が一隻。

 

その大きな船から飛び出して行ったエースを見送った後、白ひげはあの事を思い出していた。

 

 

オヤジ…!この手配書見てくれよ!!

このレオヴァってヤツ、おれの友だちなんだ!

スゲェ強くてスゲェいいヤツで、キラッキラ光るんだぜ!!

 

そう言って百獣海賊団のNo.2の手配書を持ってきたエースに白ひげやイゾウは思わず何とも言えない顔をしてしまった。

 

しかし、エースはそれに気付かず話を進める。

 

 

『ワノ国もレオヴァみてぇにいい国だった!

自然は綺麗だし、みんなニコニコ笑顔で…』

 

その言葉を聞いたイゾウは驚いた顔をして、口を開いた。

 

 

『自然豊か!? ワノ国がか…?

工場とかばかりじゃなかったか? 水の汚染は!?』

 

『……? おう、ワノ国だ!

確かに工場はあったけど、そんないっぱいって感じじゃなかったぜ?

川もスゲェ綺麗だったし、そこで捕れるシャケがうめぇんだよ!!』

 

信じられないというような顔のままイゾウは続けた。

 

 

『……百獣海賊団が支配している割には平和そうだな…

強制労働や餓えに苦しむ民はいなかったのか?』

 

今度はエースが信じられないというような顔をして口を開く。

 

 

おい、なんだよイゾウ!!

レオヴァは支配とかそんな事しねぇ!!!

まぁ、レオヴァのオヤジには会った事ねぇけど…

でも!レオヴァは海賊で敵になるかもしれねぇ、おれの仲間の病気だって治してくれたしワノ国のヤツらにも鳳皇サマっつって頼りにされてたんだぜ?

おれはワノ国の色んな町を見せてもらったけど餓えてるヤツなんて見たことねぇよ。』

 

ムッとした顔で答えたエースにイゾウはハッとしたように口をつぐんだ。

 

暫く2人の間に沈黙が流れたが、マルコが切り替えるように声を発した。

 

 

『それで、エース。

そのレオヴァってのがいいヤツなのは何となくわかるが、どんなヤツなんだよい?

……おれは結構…興味あるねぃ。』

 

ズイッと近づいて来たマルコの問い掛けにエースの顔に笑みが戻る。

 

 

『お!じゃあ、マルコには教えてやるよ!!』

 

『エースの弟の話並みに詳しく聞きたいねい。』

 

嬉しげに話し始めたエースの言葉にマルコは相づちを打ち、白ひげは静かにそれを聞いていた。

エースの話を聞くことで、今まで集めていた情報との合致が進みワノ国の現状がおおよそ掴めたのだ。

 

 

 

白ひげにとって“兄弟分”という代わりのいない唯一の存在、それが“おでん”という男だった。

 

だが、それはワノ国にて処刑されたと言う。

……そう、処刑された(・・・)のだ。

助けに行く事が出来なかったことは、白ひげの中で“後悔”になっていた。

 

報復に行こうにもワノ国の立地や百獣海賊団の戦力を見れば、おいそれと簡単に手出しは出来ない。

 

自分の怒りや悲しみの感情の為に突き進むには、白ひげには守るべき者が増えすぎたのだ。

 

 

しかし、それでも諦めきれずワノ国の情報は集めていたのだが、如何せん信憑性に欠けるものも多かった。

しかし、エースの話を聞いていく内に自分の中のイメージと現実に差があることを白ひげは感じ始めていた。

 

 

まず、先に手を出したのはおでんだったと言う事。

白ひげはワノ国の将軍が仕掛けたと思っていた為、少し驚きがあったのだが『開国する!』と、言っていたおでんを思い出し納得した。

 

そして、処刑を実行したのは将軍だったオロチであり

おでんを下したのはカイドウではなく、その息子レオヴァであると言う事も驚きであった。

 

おでんは将軍オロチをなんとかする為には、その後ろ楯であるカイドウを倒さなければ開国は出来ないと踏んだのだろう。

その結果、父を深く慕う息子が立ち塞がってしまった。

……それも、国を想う同志になれたかもしれない相手が。

 

ここまで白ひげが集めていた多くの情報とエースの話は噛み合っていた。

 

なによりエースが嘘を言っているようには見えないし、エースが嘘をつくとも思えない。

 

あるとしたら、エースが騙されている可能性(・・・・・・・・・)だ。

 

けれど、それも薄いだろうと考えた。

何故なら今まで集めた情報も多くはエースの言うような話だった。

信憑性のある筋から得た情報も少なくはない。

その情報と一致している……即ち、それは事実に近い内容と言えるだろう。

そう白ひげは考えたのだ。

 

 

ワノ国が豊かであり、発展していると言う話もそうだ。

エースの話は勿論、集めた情報や他の百獣海賊団のナワバリを見る限り、その話の信憑性はとても高かった。

 

なにせ、今では自ら百獣海賊団のナワバリにして欲しいと乞う国まであるのだ。

ワノ国が豊かであり平和なのは、おそらく事実だろう。

 

 

だが、こうなって来ると白ひげはワノ国に攻め入る事をさらに躊躇せざるを得なくなった。

 

兄弟分を失ったこの思いをぶつける相手は、将軍オロチとレオヴァという事になるのだが

オロチはレオヴァによって討たれていると言う。

 

さらにレオヴァはワノ国の王として、民を大切にし善政を敷いていると言うではないか。

更には百獣海賊団のナワバリを豊かにするのもレオヴァの方針だと言う。

 

もし、そんなレオヴァを討てばどうなる?

 

仇討ちにいけば百獣海賊団と全面的に敵対することは白ひげも覚悟はしているが

おでんの故郷や深海の友人がいる島、他の平和になった島々や国も混乱に陥るだろう。

 

白ひげの記憶にあるカイドウは、少なくとも善政を敷くような良識ある人物ではない。

そうなれば、息子であるレオヴァがストッパーの様な役割を果たしているのは明確である。

 

……それにレオヴァは古い友の伴侶を救い、更には荒れていた魚人街を良い方へ変えたという実績があった。

この話は他でもないジンベエからの話である為、嘘偽りはないだろう。

 

 

直接おでんに手を下した訳ではないにしろ、そのきっかけになったレオヴァを完全に恨まないと言うのは無理だった。

 

だが、レオヴァの立場も白ひげには理解出来た。

おでんは未来と信念の為に戦い、当時の幼いレオヴァは父親を守る為に戦ったのだ。

……その全てを考慮した結果白ひげは矛を収めた、収める他なかった。

 

戦争を起こしては失うものが多く、仮にその首を討ち取ったとして

その代償に起こる混乱や、次の戦争の規模を考えれば手を出すと言う選択肢はなかったのだ。

 

だから、あの時白ひげは静かにエースの話を聞くに留めたのだから。

 

 

ケジメをつける為に海へと消えて行った息子を思い、白ひげは息をつく。

 

この胸騒ぎが、どうか当たらないようにと。

…もう、家族を失わなくて済むようにと。

 

 

 

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これはワノ国が豊かになる前の、昔の話である。

 

九里にある城に住む、おでんと言う大名がバカ殿と呼ばれ始めて少し経った頃だった。

 

身分の低い民達の間では暗い話題しかなかったワノ国に、明るい話題が広がっていたのは。

 

 

 

『レオヴァ様という仏のごとき神童がいる。』

 

『かの御仁は若いにも関わらずオロチに反発し、編笠村の餓えを無くした。』

 

『素晴らしい知恵の持ち主で、汚染され荒れた畑すら蘇らせた。』

 

『あのカイドウの息子だと言うのに、偉ぶらず謙虚であり慈悲深い。』

 

 

その少年の話は貧困と餓えで喘ぐ者達の間でどんどん広がっていく。

 

ついには

『おでんはもう駄目だ、縋るのならあの少年に…!』

という思考の民も少しずつながらも、確実に増えていた。

 

 

そして当然その話は九里にも、おでんの耳にも入っていた。

 

少年を持ち上げ自分を貶す内容だったが、おでんは嬉しかった。

何故なら、ワノ国の民が折れずにいられる理由になっていたからだ。

 

自ら命を絶つ者も増えていた中、少年の話題が密かに広がってからはそんな者も減っていた。

 

 

『そのカイドウの息子を支えに生きれるならよし!

おれを恨めるのは、まだ生きる気力がある証拠だ!』

と、おでんは思ったのだ。

 

例えどんなに恨まれても、数年後にオロチとカイドウが出ていくその日まで少しでも多くの民達に生きていてほしい。

それが、おでんの願いだった。

 

おでんは愛する故郷の人々を想う人情深い男だったのだ。

 

 

だが、おでんの侍達…後に赤鞘と呼ばれる男達の思いは違った。

 

何故、我らがおでん様が貶され、あのカイドウの息子が讃えられているのか。

 

そして、赤鞘達は思った。

きっとその少年はカイドウの持つ財に物を言わせ、民を(たぶら)かしているのではないか?と。

 

カイドウに命令され、民を操る少年。

それが赤鞘達のレオヴァへの印象であった。

 

 

そして、そんな日々が続いている中、九里に驚きの話題が入って来たのだ。

 

『あのヒョウ五郎親分が百獣に下った。』

 

これには赤鞘だけでなく、おでんもたいそう驚いた。

 

脅されているのか? やむを得ない事情があるのか?

と心配するおでんと赤鞘達であったが、あのヒョウ五郎が脅されたくらいで門下に下るとは思えなかった。

 

あの陰湿で狡猾なオロチの嫌がらせや脅しを全て突っ返すような男だ。

そう簡単に心が折れる筈がない。

 

 

しかし、おでんが確かめに行くより早くヒョウ五郎がやって来た。

……あの話題の少年、レオヴァを連れて。

 

 

 

ある晴れた日の午前。

城にやって来たヒョウ五郎を赤鞘の傳ジローと錦えもんは笑顔で出迎えた。

 

 

「「ヒョウ五郎親分殿!!」」

 

「おう、てめぇら元気そうじゃねぇか!

今日はおでんに会わせてぇ奴がいてな。

まぁ、いつもみてぇに軽く話したら帰るぜ。

オロチがグダグダうるせぇからなァ。」

 

ヒョウ五郎はニッと男らしい笑みを浮かべて傳ジローと錦えもんの肩を強く叩いた。

 

そしてヒョウ五郎が後ろを振り返ると、侠客の部下達がサッと道を開ける。

2人がそちらに注目していると、開かれた場所から角の生えた端正な顔立ちの少年が前へと進んで来た。

 

ヒョウ五郎は嬉しげに2人の前に少年を促すと口を開いた。

 

 

「レオ坊、コイツらが前に話した錦えもんと傳ジローってんだ。

錦えもんは中々気合いが入ってやがるし、傳ジローは頭がいい!

おでんの自慢の侍共だ。」

 

そんなヒョウ五郎の声を聞きながら2人は困惑していた。

この目の前にいるのは噂の少年レオヴァではないのか?と。

 

 

錦えもんは考えた。

この者をおでん様に会わせて良いのか?

おでん様の御心を傷付ける結果にならないだろうか?

しかし、ヒョウ五郎親分を追い返す訳には……

 

ぐるぐると思考を回すが錦えもんの頭には答えは出なかった。

助けを求める様にすっと横の傳ジローに目線を飛ばす。

 

しかし、傳ジローも考えているようだった。

この者はおでん様に何をしに来たのか?

なぜ、ヒョウ五郎親分という断りづらい人物のツテでやって来た?

何か確実に会わせてはならない予感がする…

 

そう考えていた傳ジローだったが、独断で断るという選択は選べなかった。

 

言葉を選びかねていると、少年が一歩前に出て口を開いた。

 

 

「お初にお目にかかる、錦えもん殿に傳ジロー殿。

おれはレオヴァ、百獣海賊団に所属している。

此度は前もった連絡もなしの訪問で困惑させてしまった事、深く謝罪する。

オロチに悟られると、邪魔をされると思っての行動だったのだが…

それはこちらの我が儘だ。

何かおでん殿に予定があるのなら出直すので、取り次ぎだけでも頼めないだろうか。」

 

深々と頭を下げて頼むその姿に錦えもんも傳ジローも呆気にとられた。

 

あのカイドウの息子がただの侍に頭を下げている。

その事実を飲み込むのに2人は数秒を要した。

 

何故なら、今この国ではカイドウは国を守る存在であり

あの将軍に意見できる唯一の人物なのだ。

 

その息子となればこの国の大名、いやそれより上の地位と言っても過言ではないだろう。

 

そんな人物が丁寧に頭をさげ年貢もギリギリしか納められない大名の予定を優先し、あまつさえまた自ら出向いてくると言うではないか。

 

 

強い衝撃を受けた2人だったが、なんとか言葉を紡いだ。

 

 

「し、暫しお待ちを…」

 

「おでん様に取り次ぎますので、そちらで…」

 

ギクシャクした動きになりながら答えた2人にレオヴァは明るい表情で返した。

 

 

「取り次いでもらえるのか!ありがとう。

急な訪問にも関わらず対応してくれたこと、感謝する。」

 

また頭を下げ、笑顔を向けてくるレオヴァにイメージとのギャップを受けながら傳ジローは城の中へと踵を返した。

 

 

一方、残った錦えもんは困っていた。

 

レオヴァから土産だと言って大量の食料を渡されたからだ。

 

最初こそ、ろくに食事も出来ず惨めだと言いたいのか!!と目を吊り上げた錦えもんだったが、続くレオヴァの言葉と表情に怒りの言葉は口から出る事はなかった。

 

 

「これは編笠村の皆が作ってくれた自慢の野菜なんだ!

やっと川の汚染問題も回復することが出来て、川魚も捕れるようになってな。

最近では編笠村は食料が余り始めていて、それなら他の村の人たちにお裾分けしたいと言う話になったんだ。

おれも編笠村で人生初めての畑仕事をしたんだが、あれは大変だな…

そんな大変な仕事を皆が頑張ってくれた結晶……ぜひ、おでん殿に食べて貰いたく思ってな!」

 

そう話すレオヴァの表情は生き生きしていた。

錦えもんには、悪意も同情もそこから読み取ることは出来なかった。

 

“純粋な善意” それを感じた錦えもんは困る他なかった。

 

食料も財政も厳しい九里には、これは喉から手が出るほど欲しい物だ。

しかし、それを百獣海賊団の人間から受け取ったとなると話が拗れる。

それこそ、“おでんは百獣海賊団にも媚を売り始めた”などと言う根も葉もない噂を流されかねない。

 

なら、断れば良いのか?

しかしそれもそれで問題であった。

 

もしこの手土産を断ったとしよう。

そうなれば、おでんは食料をドブに捨てたやら

仏のごとき少年の善意を突き返したやら好き放題言われかねない。

 

最悪、百獣海賊団に逆らったとしてカイドウが攻め入ってくる可能性もあるのだ。

 

 

錦えもんは目の前で微笑む優しげな少年に、なんと答えれば良いか分からなくなっていった。

 

 

「(だ、駄目だ……こんな重大なこと、拙者ひとりでは決めかねる!!

傳ジロー早く戻って来~い!!)」

 

錦えもんの心の叫びが通じたのか、ゆっくりと門が開く。

 

待ってましたとばかりに勢いよく振り向いた先に居る傳ジローの青ざめた表情に、錦えもんは嫌な予感を感じ取った。

 

 

「おぉ、戻ったか傳ジロー!

それじゃあ、おでんの所まで案内頼むぜ。」

 

待ちくたびれたと門の方へ進むヒョウ五郎に青ざめた顔の傳ジローが掠れた声で言う。

 

 

「……お、おでん様は…カイドウの息子(・・・・・・・)とは絶対にお会いにならないと。

せっかく足を運んで頂き申し訳ないのたが……どうか、お帰り願いたいっ!」

 

ガバッと頭を下げた傳ジローの言葉に錦えもんやヒョウ五郎の部下達は驚いた。

 

そして伺うようにレオヴァを見ると少し悲しげな表情をした後、必死に笑顔を作っているようだった。

 

 

「……そう、か。

傳ジロー殿、顔を上げてくれ。

こういう事(・・・・・)は慣れているんだ…あまり気にしないで欲しい。

土産は置いて行く、おでん殿に急な訪問で申し訳なかったとだけ伝えておいて貰えるだろうか?」

 

「は…はい。伝えておきます。」

 

眉を下げながら笑顔で傳ジローを気遣う少年の姿に周りは心を痛めた。

こういう事…海賊だからと遠忌されることは慣れていると眉を下げて笑う子どもを見て、心痛まぬ冷たい者などその場には居なかったのだ。

 

 

「では、帰ろうか。

ヒョウ爺に皆、手間をかけさせてすまなかったな…

帰りに料理をご馳走するから、それで許してくれ。」

 

相変わらず気丈に振る舞うレオヴァの姿に黙っていたヒョウ五郎がついに爆発した。

 

 

「おでんの野郎、ふざけてんのかァ!!!

なんだってレオ坊が謝らなくちゃならねぇってんだ!?

下まで降りてきて話はしねぇとのたまうなら、まだしも…

自分は降りて来ねぇで、傳ジローに全部丸投げたァいい度胸じゃねぇか!!

退けてめぇら、おれがおでんを引きずり出して来てやらぁ!!!」

 

「ひょ、ヒョウ五郎親分殿…ぐぅ!」

 

「おま、お待ちくだされ!!」

 

「ヒョウ五郎…!? 待て!」

 

レオヴァの静止も虚しく、ヒョウ五郎は傳ジローを突き飛ばすと門を蹴破り城の中へと消えて行った。

部下達も雪崩(なだ)れ込むように進み始めたが、レオヴァが待ったをかける。

 

 

「皆、止さないか!!

来たのはおれの勝手な都合!

それでおでん殿に迷惑をかけたくはない、止まれ!!」

 

10名ほどはヒョウ五郎と共に行ってしまったが、続くように進んでいた残りの侠客の部下達が止まりレオヴァを振り返った。

 

レオヴァ殿をコケにされて黙っていろと言うのか!と息巻く男達にレオヴァは落ち着いた声色で語りかける。

 

 

「今の皆はおれを知ってくれたから、そう言ってくれるだろう。

だが、おれを知らない者からすれば百獣のカイドウの…海賊の息子だ。

信用を得られないのも仕方がない……違うか?

皆も初めてヒョウ爺がおれを連れてきた時は警戒していただろう?

その時の事を思い出し、相手の立場になって一度考えてみてくれ。」

 

その言葉に侠客の部下達は口を閉じた。

暗くなった雰囲気を変えるようにレオヴァは明るい声を出す。

 

 

「だから皆のように、おでん殿にもおれを知ってもらえば良いだけの事だ!

おでん殿を責める真似は止めてくれ。

おれは対話をしに来たんだ、オロチのように権力を押し付けるやり方をしたい訳じゃない……皆にもそれを分かって欲しい。」

 

レオヴァの言葉に感激したように侠客の部下達は強く頷いた。

 

それを見ていた傳ジローは感心した。

あの幼さでここまで周りを見ることが出来るのかと。

そして、ここまでの思いやりを持てるのか…と。

 

レオヴァという少年に興味が湧いた傳ジローだったが、大きな破壊音に城を見上げる。

 

 

「な、なんの音だ…!?

まさか、おでん様っ…!!」

 

「傳ジロー殿、おれはヒョウ爺を止めたい!

城の中を案内してくれないだろうか?」

 

「わ、わかりました!

おれに続いて下さい!!」

 

 

 

あれから一悶着はあったが、なんとかヒョウ五郎を帰らせる事に成功した赤鞘達は胸を撫で下ろした。

もし、あそこでレオヴァが止めに入らなければ最悪城は半壊していただろう。

 

疲れた表情を隠しもせずに赤鞘は畳の上に座り込んだ。

 

 

「いや、レオヴァという少年がいなければ危なかった。」

 

「話が分かる少年で助かりましたね…」

 

「それにしても、おいどんヒョウ五郎があんなに怒ってるの始めてみたど。」

 

「見たところ、ヒョウ五郎親分は百獣に下ったと言うよりはあの少年……レオヴァ殿に惹かれているようだな。」

 

傳ジローの言葉に周りは納得したように頷く。

 

 

「うむ、確かに傳ジローの言う通りだろう。」

 

「しかし、なぜおでん様はお話しになられんのだ?」

 

「それはっ…!

きっと何か大きな理由があるに決まっておろう!!」 

 

「それにしちゅーも、礼儀正しい子どもにゃ…

案外話せば悪くないかもしれんぜよ!」

 

「はぁ…ネコ、確かにそうかもしれないが

その話す本人のおでん様が拒否してるんだぞ?」

 

「にゃ……そがやった…」

 

赤鞘達は疲れと、置いてかれたレオヴァからの手土産を持て余しながら夜を迎えるのだった。

 

 

 

一方おでんは部屋で空を眺めていた。

 

噂には聞いていたが、レオヴァという少年は何処までも真っ直ぐ強い目をしていた。

 

それに仕方がないとは言え、失礼な態度をとった自分にも怒ることはなく、寧ろ逆に頭を下げてくるような人間だった。

 

まだ子どもだと言うのに、人格者の手本のような振る舞いをするレオヴァにおでんは関心と興味を持った。

 

しかし、会話は許されない。

 

飢えた民達の為にどんなにヒョウ五郎を怒らせようとも、レオヴァに失礼を働こうとも話す訳にはいかないのだから。

 

 

あのカイドウとの契約時の会話を思い出す。

 

 

『おれの息子に好きなようにしろとだけ言って編笠村を任せてる。

そこで出来た食料なら分けてやっても構わねぇが……条件がある。』

 

『条件……わかった。

ウチの奴らに飯を食わせられるならなんでも飲もう!!』

 

『なら話が早ぇ…

てめぇは今後一切おれの息子、レオヴァと会話をしねぇと誓え。』

 

おでんは首をかしげた。

そんな簡単な条件で良いのか…と。

そもそも会話する機会もないだろうと怪訝そうな顔をするおでんにカイドウは続ける。

 

 

『おれの息子は昔から“珍しいモン”に目がねぇ。

それにワノ国を気に入っちまってやがる…

もし、レオヴァがワノ国を回ってる時に会ったとしても

大名と話したいと言っても……てめぇは断れ。

この条件が飲めねぇなら、この話はナシだ!!』

 

『わかった!

カイドウ、お前の息子とは話さんと誓おう……これで良いか。』

 

『ウオロロロロ……それで良い!

食料は編笠村の出来によって、レオヴァの采配で届けさせる。

話は終わりだ…出て行け。』

 

と、いうような会話だったとおでんは記憶していた。

 

この時、おでんはカイドウがレオヴァと話すなという条件を出した事を自分なりに勝手に解釈していた。

 

まず、カイドウの息子はワノ国を気に入っていると言う。

だが、カイドウは数年後に出ていくのだ。

 

あの話しぶりから見るに、カイドウは息子を可愛がっているのだろう。

そうなると、まだワノ国を出ていくという話はしていない可能性がある。

 

カイドウの息子が編笠村の発展に全力を注いでいるのが、その証拠だとおでんは考えた。

 

と、なると導き出される答えは1つ。

おでんの口から“ワノ国を出ていく”という事実が漏れないようにするため、ではないだろうか。

 

その思考に至ったおでんは、勝手に納得し九里へと戻った。

 

だが結局、会わないだろうと高を括っていたレオヴァはヒョウ五郎と意気投合し、親しくなっていた為に多くの接点が出来てしまったのだった。

 

 

 

あのヒョウ五郎とレオヴァの突然の訪問から1年。

 

未だにレオヴァは諦めることなく、食料片手にヒョウ五郎と九里を訪れていた。

 

この頃にはおでんはカイドウの言っていたレオヴァの“珍しいモン好き”を十分過ぎるほど分からされていた。

 

“変わった珍しい大名”である自分にレオヴァが興味を寄せるのは必然だったか…と頭を抱えつつ、一方でレオヴァを嫌いにはなれなかった。

 

会話は禁止されていたが見てはいけないとは言われていないと屁理屈をコネて、おでんは自分の侍達と話しているレオヴァをたまに眺めていたのだ。

 

 

傳ジローに水を綺麗にする方法について聞かれれば

 

『水のろ過はある程度なら、機械などなくても出来る。

小石や砂、布などがあればろ過できるんだ。

これは自然の水がろ過される仕組みを真似て作るんだ。

だが川の水はオロチの工場の汚染が酷い……やるなら雨水でやった方がろ過率は高くなる筈だ。

傳ジローさえ良ければ、さっそく一緒に作って試してみよう!』

 

と快く答え、その後2時間ほど傳ジローに水を綺麗にするノウハウを伝授していた。

 

まったくもって賢い子どもだと、おでんが感心していればネコマムシにカイドウの話をふられた時は目を輝かせ子どもらしくはしゃいでいることもあった。

 

 

『父さんは強いだけじゃないぞ!!

凄く優しい人で、おれが海へ落ちて海軍に連れてかれた時もすぐに助けに来てくれた!

それに珍しい生き物を探すのも手伝ってくれるし、本当に優しいんだ!

小さな時は龍になった背にも乗せてくれた事もあったなァ…

あと父さんの笑った顔が一番好きだ、おれも嬉しくなる。

…ネコマムシもきっと仲良く出来るぞ。

なにせ父さんは懐も深い!』

 

と自慢げに話し続けていた。

キラキラと光る瞳はまるで自分の話をトキから聞いているモモの助のように感じ、大人のようなあの少年も1人の子どもなのだと感じさせた。

 

また別の日には錦えもんに将来の目標を聞かれ、ハッキリと答えていたのも印象的であった。

 

 

『いつかは父さんの隣に立てるような、百獣の息子として恥ずかしくない男になりたい。

そして、父さんと百獣の皆が笑顔でいられる世界にしたいんだ。

今のおれではまだまだこの目標には届かないが、いつか必ず父さんのくれた名に恥じぬ男になる!

それがおれの目標だ。』

 

そう語るレオヴァの声は力強く、絶対になってみせると言う強い気概を感じた。

同時に本当に心からカイドウを、父親を尊敬しているのだとおでんは思ったのだ。

 

 

そんなレオヴァを観察するうちに、おでんは少しずつ理解していった。

 

大人のように振る舞うのは、その名に恥じぬ為。

知識に貪欲なのは自らの守るべき身内の為。

努力を欠かさぬ姿勢は少しでも早く父に近づく為。

 

知れば知るほどレオヴァという少年とおでんは話がしてみたかった。

 

多くの人々と話をしてきたが、レオヴァはまた違う価値観を持っているように思えたのだ。

 

しかし、カイドウとの約束があり会話は出来ない。

 

その事を歯痒く思いつつも、おでんは約束を守り続けたのだ。

 

あの、討ち入りの瞬間まで。

 

 

 

討ち入りを決め、山道を走っていたおでんの前にレオヴァは現れた。

まるでここを通る事を知っていたかのように。

 

暗い夜空に目映い光を放ちながら宙を舞う黄金の鳥は、半分人の形になる。

 

おでんの何故わかったという問い掛けに、教える義理はないとキッパリと答えたレオヴァの瞳には怒りの感情が見えた。

 

 

その後、レオヴァやヒョウ五郎と武器を交えていくうちに少しの疑念がおでんの中に湧いた。

 

こちらの動向の把握に、侍達や幹部への指示の速さ。

おでんと赤鞘を分断する手際の良さ。

それらがあまりにも上手すぎる。

まるで全てが分かっているかのようだと、おでんは感じた。

 

……謀られていたのか?

そう、おでんが思い始めた後の事だった。

 

激しい戦闘の途中にヒョウ五郎の警戒が一瞬、緩んだのだ。

 

その隙を見逃すまいと、おでんはヒョウ五郎から重い一撃を受け膝をついていたが、負けられぬという強い想いを糧に刀を振るった。

 

 

“この一撃が当たればヒョウ爺は越えて行ける!”

それほどまでに力を込めた一太刀であった。

 

おでんの頬に返り血がはねる。

 

 

だが、その一太刀はヒョウ五郎に当たることはなかった。

後方で支援に回っていた筈のレオヴァがいち早くおでんの覇気に気付き、ヒョウ五郎を庇ったのだ。

 

おでんは驚きに目を見開いたが、その瞬間体に電撃が走った。

 

どうやらレオヴァは斬られた衝撃のまま体を回転させ、鋭い鉤爪のある脚でおでんを蹴り飛ばしたようであったのだ。

 

 

ヒョウ五郎に斬られた胸の傷を鉤爪で抉られた痛みと、体に走る電気におでんは脳を揺さぶられた。

 

だが、気付けばレオヴァに庇われたヒョウ五郎が鬼気迫る顔でおでんへ刀を向けている。

 

 

この時、おでんの疑念は消えた。

レオヴァという少年はやはり仲間想いな子なのだと。

だからこそ、あのヒョウ五郎がここまで肩入れしているのだろうと。

 

 

その思考に辿り着くと同時にヒョウ五郎の斬撃を受け、おでんの体力は尽きた。

そんな中でもなんとか1人の忍を逃がしてやることに成功し、おでんの意識は完全に途絶えたのだった。

 

 

 

次におでんが目を覚ましたのは牢屋の中だ。

すぐに周りを確認すれば大切な家臣達も捕まっている。

 

駄目だったか…と落ちる心をおでんは震い立たせた。

 

“まだ、おれにはやることがあるだろ!!”

そう強く思い返し刀をトキへ託して、処刑へ挑んだ。

 

 

そして、おでんは想いを自慢の侍達に預け

多くの叱責や憎悪と共に釜の中へと沈んでいったのだ。

 

 

 

かの男は最後まで真っ直ぐ未来を見据えていた。

 

必ず来るであろう“ジョイボーイ”の為。

ワノ国の夜明けの為に。

 

 

これが語られぬ男の想いの一部だ。

 

 

かの男を更に知るには、その男が(つづ)った“航海日誌”を読むことが一番の近道なのだが

それは燃えてしまい、殆どが解読不能な有り様である。

 

 

何より黒焦げた航海日誌を手にした少年は、かの男の想いなど(かえり)みないだろう。

重要なのは少年の“夢”を叶えるための情報だけだったのだから。

 

 

 




ー後書き&補足ー

白ひげ:レオヴァに対しては深い恨みというより複雑な心境
ある情報ではレオヴァは処刑には反対したなどの話もあり、本当に扱いがわからない

イゾウ:エースの話で複雑な心境
返り討ちにあった以上、死は免れないと理性では理解できても心がそれを強く拒んでいる状態

マルコ:おでんの死は悲しい
が、理性的にレオヴァという男を知るべきだと話を聞いた
一度、見極めが必要じゃないか?と思っている


『狂死郎達と河松達の違いや未来組』

狂死郎達:10年以上の時を平和なワノ国でゆっくりと過ごしていた為、だいぶ心に余裕ができ百獣海賊団に対しての恨みがほぼない
更に狂死郎についてはオロチを自らの手で討てたことで、おでんを失った心の傷も少し癒えている。

河松達:悲しみを抱いたまま10年以上を過ごしており、生活も豊かではないので心に余裕はあまりない
百獣海賊団や民への恨みはおそらく強いく、未来からくるモモの助達が心の支え。

未来組:それぞれが過去の心のまま来るので、どうなるかは未知数。

これから番外編の方を更新しつつ、此方は少しずつ更新になります!
理由:原作においついてしまいそうで、書けないシーンが増えた。
(原作から重要な条件など後だしで来たら困る為)
あとは番外編はほぼプロットなしで書いてるので、更新しやすいことと
本編の補完や、更新までの暇潰しになれば嬉しいです!
↓番外編
https://syosetu.org/novel/279322/
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