俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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ー前書きー

今回登場するキャラの前説明
イネット(オリキャラ)
クイーンの助手兼部下であり、元々は政府で研究していたベガパンクのチームの助手の1人。
百獣に生捕りにされたが、クイーンに目をかけてもらい生き残った。



“疫災”による遊戯

比較的大きな島にある、裕福な街ラントン・ラヴールシティ。

 

人口20万人を軽く超える巨大な街はもはや1つの国と言ってもなんら差し支えないだろう。

 

 

そんな大きな街ラントン・ラヴールシティが豊かになった切っ掛けは4年前から始めた百獣海賊との貿易だ。

 

実はこのラントン・ラヴールシティには様々な毒草とあるウイルスを持つ厄介な猿が多く生息していた。

その猿達は様々な疫病を人間に運び、毒草はあらゆる人の命を奪っていく。

 

だが、そんな不利益どころの話ではないその2つを百獣海賊団は買い取ろうと申し出たのだ。

 

勿論、ラントン・ラヴールシティの代表を務めるブライアンは二つ返事で答えを出した。

 

 

邪魔でしかないモノを引き渡すだけで金も物資も手に入るのだ、悩む時間も惜しかった。

その頃のラントン・ラヴールシティは貧しく日々毒草の花粉や猿の持つウイルスによって倒れる人々が後を絶たなかった為、薬品不足が深刻な死活問題にまで発展していたのだ。

 

このままでは自分がもし(やまい)に感染したら助からないと考えたブライアンは前例がないほどの素早さで取り引きへの同意書を準備し、街の有力者達の賛同を得てみせた。

 

結果、その日のうちに百獣海賊団との貿易が開始する事となる。

 

 

取引成立後、すぐに百獣海賊団の人間達は街のあらゆる毒草を摘み取り余分なモノは除草剤によって駆逐することで毒草の被害を無くし、一番厄介であった猿…T(ティー)・モンキーを全て捕獲して、新しく建てた建物で飼育するという形で疫病の蔓延を食い止めて見せた。

 

そして、貿易の交渉を務める百獣海賊団総督補佐官であるレオヴァは大量の物資と膨大な金塊をラントン・ラヴールシティに手渡した。

 

 

『契約通り、この島特有の植物と数十匹の動物はウチが貰い受けた。

これで取り引きは終了……なんだが、1つ提案がある。

残りのあの珍しい猿達は飼育施設に入れることは出来たが、施設自体の管理や生態の監視及び飼育も大変だろう?

もし、あの大きな猿が不手際で脱走した場合一般市民では太刀打ちも難しい…

そこで、だ。

この街に百獣海賊団の研究施設(・・・・・・・・・・)を建てさせて欲しい。

勿論、土地を使わせてもらうんだ。報酬は払わせてもらうし、そちらが約束を(たが)えない限りあの猿達の管理も責任を持って請け負うと約束しよう。』

 

優雅に腰掛け、どうだろうか?と笑顔を向けてくるレオヴァにブライアンはまたも深く考えずに“YES”という答えを返した。

 

それにレオヴァはニッコリと笑うとブライアンの握手に応じてみせる。

 

 

『……あぁ、ブライアン。

お前のような人物(・・・・・・・・)と取り引きできること、嬉しく思うぞ。』

 

そう言って嗤うレオヴァは男であるブライアンでも見惚れるほどに美しかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの取り引きから数年。

ブライアンは今の状況に絶望していた。

 

街は荒れ果て、至るところにバケモノ共(・・・・・)が闊歩している。

 

そして、助けに来てくれたと思っていた百獣海賊団はブライアンを助けなかった。

……否、ラントン・ラヴールシティの人々全員を助けなかった。

 

それどころか島全体が黄金の障壁に阻まれており、海へ逃げ出すことも叶わない。

 

 

「こ、こんな筈じゃなかったんだぁ!!」

 

そうこんな筈ではなかったのだ、ブライアンは叫びながら頭を掻きむしる。

爪には頭皮と血がこびりつき、指には引き千切れた毛が纏わりついている。

 

 

だが、全てはブライアンとラントン・ラヴールシティの有力者達の欲深さが招いた結果だった。

 

 

あの取り引き以降ラントン・ラヴールシティは百獣海賊団のナワバリにはならず、貿易相手として関係を続けていた。

 

最初こそ、有力者達は病が消えてゆき豊かになる街を見て百獣海賊団に一定の感謝を示していた。

 

しかし、本当にそれは最初だけであった。

街が豊かになるにつれ、有力者達はさらに上を夢見るようになっていった。

毒草と邪魔な生き物を捨てるだけで大量の財が手に入ったことで、苦労をして金を得ることが馬鹿馬鹿しく思えてしまったのだ。

 

百獣海賊団は施設での実験を許すだけで、金と物資を提供してくる。

……良いカモではないか。

 

やはり所詮、海賊は海賊。

ろくに学もない人間なのだ。

我々の頭があれば奴らを有効活用出来るに違いない。

そして、更なる利益を出すのだ。

 

もっと多くの富を、最高の娯楽を。

贅沢を追い求める有力者達の欲求は壊れた蛇口から流れ続ける水のように際限なく溢れ続けた。

 

 

最初こそ納められた金塊を少しちょろまかし、残りを街の為に使う。

その程度の小さな事だったが、彼らは止まらなかった。

 

食料3、医療品5、その他2の割合で物資を受け取っていたのだが、その中でも高額であろう医療品に目をつけたのだ。

 

何年も経ち病人が大幅に減ったことで、百獣海賊との話し合いを経て全てを使わずに薬品などは保管し、万が一に備えようという話になっていたのだが

ブライアンと有力者達は街の人々と、百獣海賊団を欺くことにしたのだ。

 

 

なんと、保管する筈の薬品を高値で戦争中の島々にこっそり売り捌いていったのだ。

 

戦争で苦しむ島々の足下を見て、どんどん薬の値段を上げていく。

百獣製(ひゃくじゅうせい)の薬は素晴らしいと有名な事もあり、かなりの高額でふっかけても面白いほど売れていくではないか。

 

すっかりブライアンと有力者達はこの転売に味を占めてしまった。

 

土地を提供しているだけで手に入る物資と金。

加えて、その物資の中の薬品を売りさばくことで更に莫大な金が舞い込んでくる。

 

まさに笑いが止まらないとはこのことだった。

 

それだけでなく、悪い事をしている自覚もどんどん薄れていく。

 

百獣製の薬を高額で売り捌いているとはいえ、これらは自分たちが貰ったものだ。

それをどうしようとも、こちらの勝手であり文句は言われないだろうと考え

島で決定した今後のもしもの為に薬を貯めておこうと言う取り決めも、これだけ金があれば薬品の貯蓄などなくてもどうとでもなると高を括っていた。

 

 

だが、ブライアンと有力者達は失念していたのだ。

レオヴァと交わした貿易においての決め事を。

びっしりと文字が敷き詰められていた契約書の内容(・・・・・・)を。

 

 

“百獣製のモノを商品として扱う場合は許可が必要であり、百獣の指定する金額以上での売買を禁ずる。

これは品質と価格をある程度一定にすることで百獣製への信頼を崩さぬ為であり、百獣製の製品を買う人々への気遣いでもある。”

 

“この取り引きにおいて金塊は土地への使用料などを含む支払い金であるが、物資は百獣からの“善意”である為余った場合はラントン・ラヴールシティの“人々”には返還の義務があるものとする。

しかし、例外として将来の為に保管したいと言う切な願いがある場合は百獣は深い心でそれを認め、書類の提出をラントン・ラヴールシティの人々に義務付けることで無償提供を(おこな)うものとする。”

 

“万が一、この契約書にある規約を破った場合

百獣海賊団への宣戦布告と見なし、相応の対価をラントン・ラヴールシティの人々全員(・・・・)に支払わせるものとする。”

 

等々、契約書に()されている重要な事柄をブライアン達はしっかりと把握していなかった。

 

レオヴァからの

『確かに契約書の文章量は多いが、必ず目を通しておいてくれ。

良い取り引きの為、お互いに契約を(たが)えないようにしよう。』

という忠告を守らなかったのが、最初の過ちだろう。

 

 

そして、自分の欲望に忠実に行動し続けた結果が今の現状である。

 

街には目を覆いたくなるようなバケモノ達のオンパレードだ。

 

ブライアンはほんの数週間前に起こった疫病の蔓延が、こんな結果になるとは思ってもいなかった。

まさか人間があんなバケモノに変わる(・・・・・・・・)なんて想像もしていなかったのだ。

 

 

だが、まさかあの百獣海賊団がこの疫病を蔓延させたなんてブライアンは微塵も思いもしなかった。

 

故に、疑いもせず必死に百獣海賊団に助けを求めたのだから。

 

 

騒がしい音と共にブライアンの豪邸の完全に閉ざしていた筈の扉がほんの少し開く。

 

その隙間から何匹ものおぞましい呻き声が響き、虫が這っている異臭を放つ腕が必死に部屋に入ろうと踠いている。

 

恐怖から震えが止まらないブライアンはこの絶望の中、百獣海賊団を裏切ったことを心底後悔した。

 

 

凄い物音と共に何匹ものバケモノが雪崩れ込んでくる光景がブライアンの最期の記憶だった。

 

 

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ラントン・ラヴールシティの代表者であったブライアンの死をモニターで見ていたクイーンが声をあげる。

 

 

「おいおい…!?

なんの抵抗もなしに噛まれて感染しちまうのかよ!?

あ~…もっと無様に逃げ惑うショーを楽しみにしてたのによォ

結局、さんざん部屋に(こも)って最期がアレ!

せっかくレオヴァに許可もらって“あのウイルス”使ったってのに拍子抜けだよなァ?」

 

つまんねぇ~!と叫ぶクイーンに部屋の扉の側に立っていたスレイマンは顔をしかめ、反対にイネットというクイーンの助手は笑みを浮かべる。

 

 

「クイーン様の仰る通り!

あの死に様では興を削がれますねぇ。」

 

「……おれには何が面白いのか理解できん。

レオヴァ様が普段コレの使用を禁じている事には納得だが。」

 

「っとに、イネットと違ってお前やドレークは遊び心がねぇ!!

百獣海賊団をナメた野郎には死ぬよりも最ッ高に辛い思いをさせなきゃあなァ?

……それにブイアンだかブロインだかしらねぇが、このクソ野郎。ウチのNo.2っつっても過言じゃねぇレオヴァを軽視しやがってたんだぞ…」

 

スレイマンとイネットの方を振り返ったクイーンの顔からは先ほどの笑顔は消え、眉間に血管が浮き上がっていた。

 

 

「ただ殺すなんて生ぬりぃ罰じゃ、腹の虫がおさまらねぇだろうがよォ…!」

 

数秒前とは打って変わって低い声で告げるクイーンの迫力にイネットは息を飲み言葉を失い、隣のスレイマンは少し納得した様に頷く。

 

 

「確かに、レオヴァ様を軽視したのならば“死”という罰では軽すぎる…という事は理解できる。」

 

「…だろ?

マァ~ジでムカつくぜ…

このクソ野郎も有力者だとかほざいてたクソ野郎共もなァ!!」

 

殺気を放っていたクイーンだったが、切り替えるように新しい葉巻を手にする。

 

じっくりと葉巻の先を炙り、煙を吸い込むとリング状の煙を口から吐き出す。

 

 

「ふぅ~~……まぁ、だが?

これでラントン・ラヴールシティの富豪気取りのクソ野郎共はめでたく全員がおれ様のウイルスに感染した。

テメェの島にあったウイルスを売っぱらったってのに、それが強化されて戻ってきたってのが皮肉で笑えるぜェ。

んで、これから1ヶ月はあのクソ野郎共はウイルスが体内で暴れてる状態でも意識は保ったままなワケだから本当の地獄はこれからだぜ!

体内から溶けていく激痛と恐怖…!!

自分の見た目が醜いバケモノになる嫌悪感…!!

そして親しかった者を食べたいという衝動!!!」

 

楽しげなクイーンの声が部屋に高らかに響く。

 

 

「バケモノになって初めに襲うのは誰だろうなァ!?

親友か? 婚約者か? それとも自分の子どもか!?

意識があっても衝動は止められねェ!!

…せいぜい、百獣に逆らったことを後悔しながらバケモノになって処分されりゃあいい。」

 

今にも身振り手振りで踊り出しそうだったクイーンだったが、ハッとした様にイネットを振り返る。

 

 

「ヤベェ!

ウイルスでテンションをブチ上げてる場合じゃなかったぜ!!

レオヴァに報告しねぇと次のゲーム(・・・・・)に進めねぇんだった!

イネット、電伝虫(でんでんむし)寄越せ!」

 

次のゲームとはなんなのか、という疑問を抱えながらもイネットは電伝虫をクイーンに手渡した。

オリジナルカスタムを施してある電伝虫を受け取るとクイーンはさっそくソレを、机の上の映像電伝虫(でんでんむし)に接続した。

 

プルル…プルプルプル…と少し長めの呼び出しの後にガチャリと受話器を取った音が部屋に響くと同時に、映像電伝虫が映し出すスクリーンにレオヴァが現れる。

 

 

「こちら、レオヴァ。

映像連絡をするなら事前に言ってくれクイーン……」

 

困った顔のレオヴァにクイーンは気にした様子もなく笑い、オリジナルカスタムの自慢を始める。

 

 

「ムハハハハ~!

スゲェ高画質だろ、レオヴァ~!

おれ様の特別カスタム電伝虫のおかげなんだぜ?」

 

「……言われて見れば、本当にクイーンの姿の映りが良いな。」

 

まじまじと見ているのかスクリーンにいるレオヴァが少し手前に近付いてくる。

その様子に満足そうにクイーンは口角をあげると、本題に移る。

 

 

「契約違反のクソ野郎共への制裁はほぼ終わったぜ。

あとは完全に感染が進み、バケモノになった所を駆除するだけだ。」

 

「思ったより早かったな…

“あのウイルス”、実験時よりも感染速度が早かったのか?」

 

興味津々というような顔をするレオヴァにクイーンは嬉々として口を開いた。

 

 

「それがよォ、レオヴァ!

“あのウイルス”やっぱ最高クラスの出来だったぜ!?

感染速度も感染後の症状も丸っきり想定通りに出来上がってる…!

早かったのは予定より多めのウイルスをバラ撒いたからだな。

いや~!なかなか禁止ランク(・・・・・)のウイルスをぶっ放せる機会ねぇからスゲェ楽しいぜ。

帰ったら録画したヤツ見せるから、おしるこ飲みながら鑑賞会だなァ~!」

 

「なるほど…!!

この目で録画を見て、ウイルスの実践での出来を確認出来るのが楽しみだなァ…!」

 

クイーンとレオヴァは大いに盛り上がった。

このウイルスの研究はクイーンが主導し、レオヴァがサポートを務めていたのだ。

クイーンの成功の喜びは、レオヴァにとっても同じである。

 

2人は暫くスレイマンやイネットの思考の及ばぬレベルの会話を繰り広げていた。

 

 

「…って、話しすぎたぜ!

レオヴァはこのあとカイドウさんと用事あるんだよな。」

 

「あぁ、父さんに例の研究の成果報告をな。」

 

「んじゃあ、報告も終わったし

そろそろお開きにするかァ~。」

 

「そうだな……つもる話もあるが、それはクイーンが帰って来たらじっくりと聞くとしよう!」

 

「あ~~!

実験結果を見たレオヴァの見解が楽しみすぎるぜ!!

終り次第、ソッコーで戻るから予定空けとけよ~?」

 

「勿論だ、それじゃあ…」

 

 

映像電伝虫での通話を切ろうとしていたクイーンが突然ワザとらしく身振り手振りを付け加えながら声を上げる。

 

 

お~~とっと!

一番大事な要件を聞き忘れるとこだったぜレオヴァ~!

本当はウイルス実験が成功したってめでたい時にこんなこと言いたくはなかったんだがァ……おれの部下にも裏切り者がいてよォ。」

 

クイーンの裏切り者という言葉にスレイマンとレオヴァは眉をひそめ、イネットは信じられないという様な顔で驚いている。

 

 

「裏切り者…か。

それは前にクイーンが怪しいと言っていた奴か?」

 

「そう、ソイツだよ!

本当に…せっかく拾ってやったってのに裏切るなんてムカつく野郎がいたもんだぜ!!

なぁ!ブラザー イネット、お前もそう思うだろ!?

 

突然話を振られ、一瞬固まったがイネットは慌てて口を開く。

 

 

「クイーン様を、百獣海賊団を裏切るなんて馬鹿は考えられません…!!

そんな者には罰を与えるべきです!!」

 

厳しい表情で叫んだイネットの言葉にクイーンは頷き、スクリーンに映るレオヴァが話し出す。

 

 

「あぁ、イネット……お前の言う通りだ。

クイーンからの恩を仇で返しウチを裏切った奴を、おれは身内とは思えねぇ。」

 

「レオヴァ様の仰る通りかと…!!」

 

強く同意するイネットをスクリーンに映るレオヴァが見つめる。

 

 

「なら、お前は罰を受ける覚悟があるんだな…イネット?」

 

「………は、はい…?」

 

完全に固まったイネットに畳み掛けるようにレオヴァが口を開く。

 

 

「おれはお前がクイーンの研究内容を勝手に外部に持ち出していた事も、研究室にある生物兵器を何匹か連れ出していた事も全て把握してるぞ?

許可なく勝手な真似をしていたようだが……これは裏切りじゃねぇのか、イネット。」

 

「っ……それは…その……ち、違うのです、レオヴァ様!」

 

裏返った声をあげるイネットにレオヴァは優しい声で問い掛けた。

 

 

「違う…?

違うってことは、何か弁明があるのか?」

 

「は、はい!!

ワタシは、う、裏切るつもりなど…なく!」

 

どもるイネットの言葉にレオヴァが被せる。

 

 

「…裏切ってないと言い切れるんだな?

もし、それが欺瞞であればお前への慈悲はないぞ…イネット。」

 

スクリーン越しにこちらを見据えるレオヴァの瞳にイネットは隠し通せないことを悟った。

しかし、レオヴァならまだ慈悲を受けられる可能性があると見たイネットはその場に跪き、深く頭を下げた。

 

 

「レオヴァ様、申し訳ありませんッ…!!!

ワタシ…このイネットが愚かだったのです!!」

 

全身全霊でレオヴァに謝罪を始めたイネットにスレイマンもクイーンも不快感を露にしている。

 

 

「イネット…なぜ、おれに謝る?

おれよりもクイーンの方が怒り心頭なのは一目瞭然だろう?」

 

目の前で殺気を放つクイーンとは違い、穏やかに聞いてくるレオヴァの姿にイネットは確信した。

 

やはり読み通りクイーンよりもレオヴァに縋ることが賢明であったと。

 

罰を受けなくて済む抜け道への確信を手に入れたイネットは下げている頭を更に石畳に打ち付ける勢いで深々と下げながら悲痛な声を作り、同情を買うような姿で叫んだ。

 

 

それはワタシも痛いほど理解しております!

ですが、まずはやはり百獣海賊団においてNo.2である総督補佐官を務めるレオヴァ様に謝罪をと!!

全てはワタシが欲望を抑えられぬ未熟者だったが故の(あやま)ち……本当に申し訳ありません!!」

 

 

「成る程……つまりそれは、クイーンよりおれが上だと思うからイネットは今おれに許しを乞うているワケか。」

 

レオヴァらしくない歯に(きぬ)着せぬ物言いにイネットは一瞬困惑したが、真意ではあるため遠慮気味に小さく頷いた。

この場で変に取り繕っては逆効果だろうと踏んでの行動であった。

 

 

「い、言い方は少々アレですが……

レオヴァ様にお許しを頂くことが最優先かと思い…」

 

言い淀むイネットの言葉に被せるようにレオヴァは口を開く。

 

 

「ほう、最優先…か。

ならイネットはおれへの謝罪を何より優先すべきだと思ったと言うことか?」

 

穏やかな声で問いかけられイネットは少し落ち着いてきた心で、先ほどよりもスラスラと答える。

 

 

「はいッ…!

レオヴァ様はカイドウ様のお隣に立つ素晴らしき御仁!

そのレオヴァ様に自分の過ちを深く謝罪することこそ重要だと思い…」

 

「止せ、イネット……もういい。」

 

熱弁するイネットの声をレオヴァの冷たい声が止めた。

 

イネットは映像電伝虫によって映し出されているレオヴァの表情を見て思わず固まる。

 

そんな口を閉じられずに震え始めたイネットに構わずレオヴァは背筋が凍るような低い声で話し出す。

 

 

「お前が最優先ですべきことはクイーンへの謝罪(・・・・・・・・)だった。

クイーンは殺す予定だったお前を拾い、良くしていた……にも関わらずお前はおれに頭を下げた。

それもお前が勝手な主観で決め付けた“地位”を理由にだ。」

 

「……っ…」

 

スクリーンに映るレオヴァは言葉を紡げずにいるイネットを射殺さんばかりに睨み付けてきている。

 

 

「クイーンは父さんが選んだウチの大看板…!!

おれが生まれるよりも前から父さんを支え、さらにおれにとっては科学の教えを()いてくれた師も同然の存在!

それをお前は勝手にクイーンをおれの下だと決めつけたんだぞ……こんなに腹が立ったのは久方ぶりだ!!

そもそも、おれとクイーンの間に上下関係なんざあるわけねぇだろう!?」

 

映像に映されているレオヴァの周りには、まるで怒りを表すかの様にバチバチと電流が火花を散らしている。

 

完全に助かる道を絶たれたと絶望するイネットを他所(よそ)にクイーンが心なしか上機嫌にレオヴァへ声をかける。

 

 

ムハハハ~!おいおい~レオヴァ、お前がキレてどうすんだよ!

まぁ、だが?

その様子ならコイツを“ゲーム”に使っても文句ねぇよな?」

 

ウキウキした様子のクイーンの姿にレオヴァは落ち着きを取り戻した声で返す。

 

 

「はぁ……すまない、冷静さを欠いた…

ンンッ…そうだな、クイーンの提案通りソレは好きにすれば良い。

…もとよりクイーンの部下だしな。

おれから何か言うつもりはねぇ……が、生きて連れて帰って来られたら手を出さねぇ自信はないな。」

 

「お~~?

なんだよ、“身内に甘々なレオヴァサマ”とは思えねぇ発言だなァ?」

 

クイーンのからかった様な声にレオヴァは眉を下げながら答える。

 

 

「おれにとって身内ってのは百獣に忠誠を誓い、共に父さんを支え同志を“尊重”し合える人間だ。

テメェの私利私欲だけを考え……挙げ句にウチの自慢の大看板を軽く見るような奴は必要ねぇ。」

 

最後の言葉を鋭く言い放ったレオヴァにクイーンはそれでこそ“レオヴァ”だと満足げに笑う。

 

 

「それじゃあレオヴァ、忙しいってのに時間とらせて悪かったなァ!

おれはこれからQUEENプレゼンツの最高のゲームをおっ始めるとするぜェ~!!」

 

「ふふふ…クイーンが楽しそうなら何よりだ。」

 

「帰ったらおれ様の解説つきで録画見せてやるから楽しみにしとけよ、レオヴァ~!」

 

「クイーンの解説つきか!

なら、その娯楽を楽しみに仕事に戻るとするか。」

 

「おうよ!!

まっ、根詰めすぎて実験室爆発させねぇようにな?」

 

「う……そ、それは気を付ける。

では。」

 

 

プツンッと電伝虫の映像が消える。

 

固まっていたイネットの方を凶悪な笑みを浮かべたクイーンが向き直る。

心底逃げ出したいと言うのに、まるで氷のようにイネットの体は動かない。

 

 

「ムハハハハハハハ~~!

そんな顔すんなよブラザー!!

おれ様特製の昇天しちまうほど楽し~いゲームだぜ?

…言っとくが、これはお前にとっちゃ最後のチャンスだ。

このゲームをクリアできりゃあ、殺さないでやるよ。

やっぱり、ゲームっつーからにはチャンスがねぇと盛り上がらねぇだろ?

なァ、イネット……やるよなァ!」

 

「ぁ……わた、ワタシは…」

 

「あぁ、悪い。

もとから拒否権はねぇし、答えは聞いてねぇんだ。

楽しませてくれよ、ブラザー イネットォ!!

 

クイーンのその言葉を最後にイネットの視界はブラックアウトした。

 

 

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薄暗く悪臭の漂う部屋でイネットは目を覚ました。

意識が覚醒すると同時に飛び起き、辺りを見渡す。

 

おそらくこの建物の作りから見るに、ここはラントン・ラヴールシティだろう。

 

次に自分の体を確認する。

腕も脚も、しっかりと付いており動きに違和感はない。

 

少しホッと息を吐いた、その時だった。

イネットの腕にあるブレスレットが光ったのだ。

 

驚いて腕を突き出すような動きをしたイネットを笑う声が響く。

 

 

「ムハハハハハ~!

ブラザー、そりゃあビビりすぎだろ!?

まだゲームは始まってもいないんだぜ?」

 

ブレスレットから響く声は間違いなくクイーンだ。

イネットは震える声でブレスレットに話しかけた。

 

 

「く、クイーン様……ゲームとは一体…

本当にクリアしたら殺さないで下さるんですか!?」

 

「まぁまぁ、そう急ぐなよブラザー イネットォ。

もちろんクリアすりゃ、約束は守るぜ?

結果が分かりきった一方的なゲームなんて面白くねぇだろ。」

 

クイーンの約束を守るという言葉は一切信用できないとイネットは思ったが、今はそれに縋るしかないと小さく頷いた。

 

やはりクイーンは何かしらの方法でイネットを監視しているらしく、頷いたイネットの後にすぐ音声が入ってくる。

 

 

「よォ~し、納得したならルール説明と行こうか。

まずはコレをしねぇとな!」

 

クイーンの掛け声と共に、イネットのブレスレットをはめている腕に針が突き刺さる。

 

 

「いっ…!?

なな、なに、なにを!?」

 

イネットは酷く狼狽えた。

この針の感覚は間違いなく、何か良くないモノを入れられたに違いない。

しかも、それを起動したのがクイーンとなれば最低最悪な代物(しろもの)なのは確定だ。

 

絶望感を漂わせるイネットを励ますようにクイーンは声をかける。

 

 

「今打ち込んだのは、この街にバラ撒いたのと“ほぼ同じ”ウイルスだ。

少し違うのは、すぐに感染が始まらねぇって所とかだな。

今から始まるゲームをクリアすりゃあ、それの治療薬をくれてやるよ!!」

 

「ち…治療薬そんなモノは……あっ!」

 

思い出したように声を出したイネットにノリノリなクイーンの言葉が続く。

 

 

「思い出したみてぇだな。

そう、レオヴァが作った治療薬(・・・・・・・・・・・)だ!!

いや~、まさかあんなあっさり治療薬作っちまうなんてホントにレオヴァの規格外さにはビックリだぜ。」

 

明るい声で話すクイーンを遮るようにイネットが口を開く。

 

 

「そ、そんな話はいい!

はやくゲームを…!!

ウイルスが進行したらゲームどころではありませんよ!!?

 

必死の形相でブレスレットに叫ぶイネットの姿に笑いながらクイーンが答える。

 

 

「ムハハハハ!

普段のゴマすってるテメェより、今の方が好きだぜブラザー!!

ご希望通り、ゲームを進めるとするか。

まず、そのウイルスは約20時間でステージ3まで進む。

治療薬が効くのはステージ4までだから、そこそこ時間には余裕がある作りになってる。

あぁ、でも感染者に噛まれたりすると進行は少し速まるから気を付けろよ……ってそれは知ってるか!

ゲームの内容事態は簡単だ。

今、お前がいるその最上階から地下の保管室まで辿り着けたらゲームクリア!!

そこに治療薬も置いてある。

使える武器はその部屋に置いてあるモンだけだ。

それじゃあ、頑張っておれを楽しませてくれよブラザーイネット!!」

 

クイーンが言いたいことを言い終えるとブレスレットの光が消え、部屋に静寂が戻ってくる。

 

ふざけた奴だと怒りに唇を咬みながら、イネットは視界に映るアタッシュケースに近付いた。

 

この部屋で目につくのはこのアタッシュケースぐらいだ。

きっとこの中に武器が入っているに違いない。

そう読んだイネットは苛立ちのまま乱暴にアタッシュケースを開いた。

 

 

「ぐあぁぁあ!!?」

 

開くと同時に謎の液体がイネットに噴射される。

その液体に触れてしまった肩や腕は皮膚がグジュグジュと溶けている。

 

なんとか足でアタッシュケースを蹴飛ばすことで、液体の噴射から逃れたイネットは痛みと悔しさに思わず叫んだ。

 

 

「ア"ァ"~~!!クソッ…!!

ふざけるな、なんでワタシがこんな!!!」

 

痛みに震える腕を庇いながらアタッシュケースを睨むと、蹴った先でもまだ液体を噴射しているようである。

 

無駄に頑丈な作りだと苛立っていると、あることに気がついた。

 

その液体は壁に向けて噴射されているのだが、壁の一部に溶けている場所があるではないか。

 

イネットはそれに気付くとアタッシュケースに駆け寄り、体に液体が掛からないように位置をずらしていく。

そのまま溶けていた壁の方に液体をかけていると、溶けて崩れた隙間に隠されていた引出しが露になった。

 

もしや?と今度は警戒しながら引出しを開けると、中には2丁の銃と予備の弾と思われるものが入っていた。

 

そっと手に取ってみたが、これには何も罠はないようである。

1丁の銃を右手に持ち、もう1丁の銃と弾丸は腰のポーチにしまう。

 

戦闘が得意ではないイネットにとってはあまりにも心もとない武器だが、ないよりはマシだと自分に言い聞かせ扉の方に歩いて行く。

 

するとブレスレットの青いボタンが光り出した。

ビクッと体を揺らし、身構えるイネットの耳に機械的な音声が届く。

 

 

「武器の入手を確認、青いボタンを押せ。

青いボタンを押せ、青いボタンを押せ……青いボタンを」

 

繰り返される機械的な音声にイネットは不信感を抱きながらも、青いボタンを押した。

 

するとブレスレットの上に映像が映し出される。

なにかの地図のようだ。

 

注意深く観察するとどうやらこれはこの建物の地図であるらしく、赤い点はイネット自身だと推測できた。

 

地下室への最短ルートを確認したイネットは、今度こそ扉を開き部屋から目標に向けて進み始めたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから16時間ほどの間バケモノに成り果てた人間や動物達、数多の罠を血反吐を吐きながらくぐり抜けたイネットは目的地の扉を開く。

 

すると待ってましたと言わんばかりに目の前の巨大なスクリーンの電源がつき、ご機嫌なクイーンの姿が映し出された。

 

 

「おぉ~~~!!

やるじゃねぇか、ブラザーイネット!

ま~さかクリアしちまうなんてよォ!?」

 

 

「ゼェ……ッ…くす"、薬を"……ワタシはクリ、アしたんだ…」

 

「もっちろ~ん!

おれ様はゲームのルールは守るぜェ?

ほら、お前の前にある薬()クリア報酬だ。

本当だったら…」

 

「こ、これで……助"…か"る!」

 

クイーンの言葉が終るのを待たずにイネットは縋る思いで注射器を二の腕に刺した。

 

 

「ぃ……ぐあッ!…ううぅううう!!?」

 

治療薬を打った筈の体が焼けるように熱くなっていく。

イネットが激痛に立っていられずに床へ崩れ去った姿を見てスピーカーからはクイーンの爆笑が響く。

 

 

「おいおいおい……ブラザーイネットォ…!

人の話は最後まで聞くもんだぜ?

治療薬はお前が今使ったウイルスの置いてあったケースの一段下に入ってんのになァ?

つってもこりゃあ、そのウイルス使っちまったら治療薬あっても手遅れかァ!?

ムァ~ハハハハハハハ~!!!」

 

「ゥググ…だ、騙……し…ぃがあぁあ!!

いだぃやけるゥウウグア!!!」

 

「騙すなんて人聞き悪いぜェ~!

おれはちゃんとお前の前にある薬“も”って言っただろ!?

ウイルスはおれ様からの大盤振る舞い……いわばスペシャルプレゼントってだけの話だ!

……って、あ~…もうこりゃ聞こえてねぇか。」

 

人とは思えぬ咆哮のような叫び声を上げるイネットを見ながらクイーンは笑みを浮かべる。

 

 

「おれ様の役に立てる最期の実験だせ、ブラザー イネット!!

最高にCOOLなバケモノになってくれよォ?」

 

想像を絶する痛みに悶えるイネットに、楽しげなクイーンの声を聞き取る余裕はなかった。

 

 

部屋は細胞が壊れ、また再生することで激しい痛みにのたうち回るイネットの声にならぬ絶叫と異臭で満たされている。

 

 

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ワノ国、鬼ヶ島にて。

 

 

クイーンから今からワノ国に戻ると言う連絡を受けたレオヴァは机の上の電伝虫を手に取った。

 

暫く呼び出しの音が流れていたが、スッと電伝虫の表情が切り替わる。

 

 

「……よぉ、レオヴァ。

お前から連絡が来たってことは、あの件(・・・)を受ける気になったってことで良いのか?」

 

受話器の向こうで不敵に笑う相手にレオヴァは笑顔で答える。

 

 

「そうだ、ドフラミンゴ。

お前からの提案を受けることにした。」

 

「フッフッフッフッ…!

相変わらず話が早くて嬉しいぜ、レオヴァ!

それじゃあ、日時決めと行こうか。」

 

 

この日、ドフラミンゴとレオヴァの取引に新しい契約が加わることとなる。

 

それはドフラミンゴにとっては大きな財を生む契約であり、レオヴァにとっては未来への対策の1つであった。

 

互いに契約の書面にはない思いを抱えながら、ドフラミンゴとレオヴァは結束を強めるかのように会話を弾ませた。

 

 

 




ー後書き&補足ー

イネット:下書きではバケモノと戦ったり必死に逃げるシーンがあったのだが、あまりにも長くなってしまったので強制全カットされた可愛そうな人
兵器開発の腕は良かったが、欲を欠きすぎた結果酷い目にあった

クイーン:自信作のウイルスを使って遊べて大満足
大量の犠牲者が出たがそんな事は気にしない
おれ様の役に立てて良かったなァ…!精神 

スレイマン:実験の為に人々が逃げ出さぬ様、黄金の檻を作る要員としてクイーンに連れてこられた
かなり残忍かつ悪趣味なショーを見せられてゲッソリしたが、百獣を裏切った相手なので同情心はない

レオヴァ:クイーンをナメられてブチギレ
家族や身内を馬鹿にするやつに慈悲はない
今度のドフラミンゴとの食事会で出るロブスターが楽しみ

ドフラミンゴ:前にレオヴァに持ちかけた話が通ってご機嫌
海鮮好きなレオヴァに今度の食事会で美味いロブスターを食べさせると約束したので調達に力を入れている
レオヴァが持ってくると言っていたワインが楽しみ


T・モンキー:ある種類の元祖とも言えるウイルスと共存関係にあり、その影響で怪力を手に入れたが性格は凶暴になった
この島にしか生息していないという珍しさと、ウイルスの特殊さでレオヴァに目をつけられた
現在は十数匹のみ飼育されている

今回の“あるウイルス“:T-モンキーから摘出したウイルスを改造したもの
本来は人間が感染すると体が変形していって死ぬのだが、改造によって死ぬまでの期間を伸ばすことに成功
更に他のウイルスと掛け合わせると、適合した者は死なずに済むという研究結果もあるとか…
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