俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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誤字報告ありがとうございます!
誤字……気を付けて参ります…_(._.)_

ご感想を頂ける機会も増え、最近さらにモチベーションが上がってきております。
本当にありがとうございます…!!


2026/9/2 加筆修正




レオヴァの考えと絵巻物語

 

───── 編笠武器工場にて。

 

今日も武器工場には、金属を打つ甲高い音が絶え間なく響いていた。

熱気の籠もった作業場では、職人達がそれぞれの持ち場につき、炉の火と向き合いながら武器作りに精を出している。

 

その様子を確かめるため、今日もレオヴァは自ら工場へ足を運んでいた。

職人達の手元を覗き込み、時折立ち止まっては何やら話を聞いている。

その少し後ろには、数人の付き人が控えていた。

 

その中の一人である男は、職人達と話すレオヴァの背を見ながら、密かに胸を張っていた。

百獣海賊団の中でも、レオヴァは相当な“変わり者”だと聞く。

武器工場を任された海賊が、わざわざ頻繁に現場まで足を運び、職人の話に耳を傾ける。

働く者達に十分な賃金を払い、休ませ、それどころか村の生活にまで手を入れる。

 

確かに、他ではあまり聞かない話だった。

だが、そんな“変わっている”レオヴァの下で働きたいと望む者は多い。

 

もちろん、男もその一人だった。

今日一日、レオヴァの付き人を務める。

ただそれだけの役目を得るために、他の者より多く仕事をこなし、努力を続けてきた。

 

そして、ようやく今日レオヴァの付き人という大役を掴んだのだ。

我ながらよくやった。

そんなことを考え、一人満足していた――その時だった。

 

突然、背後から強烈な風が吹き抜けた。

「うおっ……!?」

衣服が激しくはためき、土埃が舞い上がる。

それだけではない。

背中へ何かを突きつけられたような、焼けつくほど強烈な圧を感じた。

男は反射的にその場から飛び退き、首が取れそうな勢いで振り返る。

 

「うおぉ!? き、キング様!?」

空から舞い降りてきたのは、全身を黒で覆い、背に炎を纏った大男だった。

 

キング。

以前、この工場で反抗した者達を一瞬で制圧した男でもある。

突然現れたその姿に、付き人の男は動揺を隠せない。

だがキングは、男達には一瞥もくれなかった。

 

そのまま真っ直ぐ、職人達と話しているレオヴァのもとへ歩いていく。

作業をしていた職人達もキングの存在に気付いたらしい。

槌を振るう手が僅かに鈍る。

 

今の工場が以前とは全く違う場所になったとはいえ、キングが反抗者を制圧した時の記憶まで消えたわけではない。

近付いてくる黒い巨体を前に、何人かの顔には僅かな緊張が浮かんでいた。

 

「…レオヴァ坊っちゃん」

呼ばれたレオヴァが振り返る。

職人達とは対照的に、その表情に警戒の色はない。

 

「おぉ、キングか。わざわざ 村まで…どうしたんだ?」

「カイドウさんが宴をやる。

……おれは迎えに来た 」

「宴…? 報告は受けていないが、何かあったのか?」

突然の話に、レオヴァが不思議そうに首を傾げる。

キングは僅かに間を置いて答えた。

 

「……レオヴァ坊っちゃんが編笠村付近の正式な元締めになったことの祝いだ」

「…もう5ヶ月以上前のことだぞ?

宴をやりたいだけの気もするが

 ふふ……まぁ、父さんらしいか 」

五か月も経ってから開く就任祝い。

理由としては少々苦しい気もする。

それでも、父が宴を開こうとしている様子を想像したのか、レオヴァは小さく笑った。

 

「そういうワケだ。

レオヴァ坊っちゃん、すぐに行くぞ。

カイドウさんを待たせるワケにはいかねェ。」

「ん、確かにその通りだ。父さんを待たせるのは悪いな…

 皆、すまないが、急ぎの用が出来た。

色々と話を聞きたかったが、また明日にでも顔を出させてもらいたい……構わないだろうか?」

レオヴァはキングから職人達へ向き直った。

まだ確認したかったことが残っていたらしい。

急に切り上げることを気にする様子に、職人達は一斉に首を横へ振った。

 

「えぇ…!もちろんですよレオヴァ様!」

「ははは!カイドウ様との宴たぁ

…良かったですねレオヴァ様!」

「レオヴァ様の就任祝いとありゃ

 ぜひ其方を優先して頂きてぇ!!」

あちこちから快い声が上がる。

中には笑いながら、レオヴァを諭すように話す者までいた。

 

「そうそう…! レオヴァ様はちと働きすぎですぜ?

しっかり休んで頂かねぇと、おれたちも休むのに気が引けちまうってもんです!」

「はっはっは!そりゃ違いねぇや…!

レオヴァ様もカイドウ様に会いたがってたじゃねぇですか。

おれらは気にせず宴楽しんで来てくださいよ!!」

職人達の言葉を聞き、レオヴァは少し表情を緩めた。

 

「皆、ありがとう。 それじゃあ、久々の父さんたちとの宴を楽しませてもらうとしよう。

皆も熱心なのは感心するが、決して休憩を忘れぬように!

 では……行くぞ、キング。」

「「「レオヴァ様~!いってらっしゃい!!」」」

大勢の声に送り出されながら、レオヴァはキングの背へ乗る。

大きな翼が広げられた。

次の瞬間には風が巻き起こり、キングの身体が一気に地面から離れていく。

職人達が空を見上げる中、二人の姿はみるみる小さくなっていった。

付き人の男も、その姿を見送っていた。

すると飛び立つ間際、レオヴァがこちらへ顔を向けた。

 

『おれは行く、ここは任せた。

……頼りにしているぞ。』

任せた。

頼りにしている。

その言葉が、男の胸に強く残った。

姿が完全に見えなくなると、男は改めて工場へ向き直る。

レオヴァが戻ってきた時、恥ずかしい仕事を見せるわけにはいかない。

先ほどまで以上に気合いを入れ、男は職人達と共に武器工場の運営へ戻っていった。

 

─────────────────────────────────

 

 

───── 豪華な部屋へ続く廊下にて。

 

キングに連れられて戻ったレオヴァは、長い廊下を並んで歩いていた。

 

宴の準備が進んでいるのか、奥の方からは人の行き交う気配や、僅かに料理の匂いが漂ってくる。

その途中。

隣を歩いていたキングが、不意に口を開いた。

 

「…レオヴァ坊っちゃん。ずいぶんと上手くあいつらを使えてるみたいでなによりだ。」

「使えるってのは聞こえが悪いが……

キングに褒められるのは悪くないな 」

レオヴァは少し笑いながら、隣の大男を見上げた。

黒尽くめの装いに顔まで隠れているため表情までは分からないが、工場へ降り立った時に周囲へ放っていた刺々しい雰囲気は、今はすっかり薄れていた。

やがて二人は、煌びやかな装飾の施された襖の前へ辿り着き、静かに襖が開かれた。

 

その先に広がる部屋には、大皿に盛られた料理や酒が既に所狭しと並べられている。

そして中央には、カイドウが座っていた。

レオヴァの姿を確認するなり、その顔が明るくなる。

 

「思ってたよりも早ぇ到着だな、レオヴァ…!」

「あぁ、父さんを待たせる様な真似はしたくないからな

キングに急いで貰った。」

「そうか!! にしても久々じゃねぇか……!

たく、全然顔を見せに来やがらねぇで!!!」

 

久々。

そう言われ、レオヴァは記憶を辿る。

「……3日前に一緒に飯を食べたと思うのだが…?」

「3日“も“前の話だろう!!! 」

 

三日“も”。

レオヴァは一瞬だけ言葉に詰まった。

言われてみればそうだ。父から任された仕事だからとそちらに根を詰めすぎていたかもしれない。

 

「……すまない…

父さんから任された仕事だと思うと、つい村の発展作業に熱が入って…」

「……なら仕方がねェか!」

先ほどまでの不満げな様子はどこへ行ったのか。

理由を聞いた途端、カイドウは上機嫌に笑い始めた。

少し離れた場所では、その様子を見ていたクイーンが小声で呟く。

 

「…カイドウさんチョロすぎじゃねぇか?」

「……うるせぇぞ、クイーン…聞こえたらどうする」

キングが声を潜めて制する。

しかし、クイーンはまだ納得していないらしい。

 

「いや、まぁレオヴァのアレも素で言ってんのもなかなかだが……」

「…黙っとけ、おれに振るんじゃねぇよ…」

楽しそうに話す親子。

それを少し離れて眺める、全身真っ黒な大男と丸々とした大男。

なかなか奇妙な光景ではある。

もっとも、この場でそれを指摘する者はいなかった。

 

─────────────────────────────────

 

 

宴が始まってしばらく。

料理を口にしながら、カイドウはレオヴァが任されていた編笠村の話を切り出した。

 

「そういえば、 確か…武器の生産量も増えたと聞いたぞ。

やるじゃねぇか、レオヴァ!」

「ありがとう父さん…!」

成果を褒められ、レオヴァの表情が自然と和らぐ。

そこへクイーンが食事の手を止めることなく口を挟んだ。

 

「にしても、ずいぶん温いやり方らしいが

なんか理由あるんだよな~?」

「ただ、優しくしてるワケじゃねぇ。

クイーンの言う様に理由はある。」

工員達へ賃金を払い、休憩を与える。

村の環境まで改善する。

従来のワノ国における百獣海賊団のやり方と比べれば、確かに“温い”と見えるだろう。

 

だが、レオヴァにとっては単なる善意で行っていることではなかった。

カイドウが酒を傾けながら笑う。

 

「ウォロロロ…やっぱり理由があったか…!

よし、話してみろ。」

促され、レオヴァは自分の考えを順番に整理しながら話し始めた。

 

「まず、オロチの推し進めていたやり方じゃ ワノ国の奴らは不満ばかり溜め、そのうち内乱が起こる可能が高くなる。」

キングがすぐに答える。

 

「それは おれも考えていた。

だからこそ恐怖を植え付け 飢餓に喘がせ、反乱する意思を削ぎとるやり方を選んだ。」

その方法自体を、レオヴァも否定するつもりはなかった。

短期間で抵抗する力を奪い、国を押さえ込む。

目的だけを考えれば効率は良い。

問題は、その状態を長く続けた場合だ。

 

「キングのその方法は素早く制圧するという意味では効率的で良いんだが…

…生気を失わせすぎるのは作業効率の低下に繋がるし、最悪死人が大量にでて人手不足になりかねない。

ワノ国の技術者がいなくなれば武器の製造…

そして何より重要な海楼石の加工技術が廃れる可能が出てくる。」

「廃れる…?」

カイドウが僅かに眉を上げる。

 

「あぁ、技術を持ってる者が次の世代にその技術を教えなければ加工できる者がいなくなる。

劣悪な環境だと継がせようという意思を持つ者や継ぎたいと思う者が減るが

逆に良い環境を作れば自ら継ぎたいと意思の高い者が増え、継がせる者も進んで教えるようになる。」

ワノ国の武器製造技術。

特に海楼石を加工する技術は、百獣海賊団にとって価値が高い。

 

今ある技術者を酷使して使い潰してしまえば、目先の生産量は確保できても、その技術そのものが後世へ残らなくなる可能性がある。

キングは短く考えたあと、頷いた。

 

「……合理的だ。」

その横で、クイーンは露骨に面倒そうな顔をする。

 

「確かにそうだが……あ"ぁ"~めんどくせぇ~~」

「それに長期的に見れば善政を敷き支持を集めれば国の発展もしやすくなる。

例えば────」

そこから先は、レオヴァによる説明――というより、ほとんどプレゼンテーションだった。

 

工場の生産効率。

技術者の育成。

農業や漁業による食料確保。

生活に余裕を作ることで生まれる労働意欲。

そして、それらが長い目で見て国全体へ与える影響。

 

一つ説明すれば、そこから次の話へ繋がっていく。

カイドウは時折酒を飲みながら聞き、キングは必要に応じて質問を挟む。

クイーンも最初こそ面倒そうにしていたが、話自体は理解しているらしく、時折口を挟んでいた。

 

そうして話が続く間に、カイドウの手元から空になった酒瓶が一本、また一本と増えていく。

気付けば、その周囲には酒瓶の山が出来上がっていた。

ようやく一区切りついた頃、クイーンが長く息を吐いた。

 

「ア~~…要するにレオヴァはこの国を発展させてぇってことか」

「ん?まぁ、発展はさせて行きたいが…」

どうにも、それだけではない。

レオヴァの返答からそれを察したカイドウが、すぐに続きを促す。

 

「なんだ?他にやりてぇことがあるなら言え

遠慮はしねぇ約束だろう!!」

以前、悪魔の実の件で交わした約束。

欲しいものや、やりたいことがあれば、まず自分へ伝えろ。

その言葉を思い出し、レオヴァは躊躇わず口を開いた。

 

「……今後、この国の後ろ楯としてじゃなく

 父さんをこの国の支配者にしたい」

クイーンが目を丸くする。

 

「えぇ!? カイドウさんを?

 …カイドウさんが国の運営かぁ……」

その姿を具体的に想像したのか、何とも言えない声だった。

キングはすぐに別の形を示す。

 

「…細かいことは、おれかレオヴァ坊っちゃんでやればいい。

カイドウさんが直接支配することには賛成だ。」

カイドウ自身も、その案を笑い飛ばすことはなかった。

 

「ウォロロロロロ!

おれも後ろ楯で終わるつもりはねぇ…!

…だが、今はオロチが。“将軍“が必要だ。

そもそも、侍共は外から来た奴を簡単に担ぐような奴ァ少ねぇぞ」

それは当然、レオヴァも分かっていた。

外から来た海賊が、今日から自分がこの国の支配者だと宣言したところで、ワノ国の民が簡単に受け入れるとは思えない。

だからこそ、今すぐ動くつもりはなかった。

 

「もちろん、それは解ってる。

だから“長期的に見た“方針を取ってる。

オロチにはこれからも好きにやってもらおう。

おれは民衆の支持を集める。

おれへの支持が高くなることはウチの海賊団への支持が上がることと同義だ。」

キングが静かに頷く。

 

「……なるほど…悪くない案だ。」

一方、カイドウは僅かに顔をしかめていた。

 

「わかりづれぇな…」

どうやら、まだ完全には伝わっていないらしい。

レオヴァとキングは顔を見合わせると、今度はより分かりやすく説明を始めた。

その傍らで、クイーンはおしるこを啜りながら適当に相槌を打っている。

 

そして――数十分後。

ようやく話を理解したカイドウが、豪快に笑った。

「ウォロロロロロロ…!!

レオヴァ!その作戦、採用だ!!!

 国の事は任せるぞ。」

正式に任され、レオヴァは迷うことなく頷いた。

 

「任せてくれ。

父さんの望む“暴力の世界“で役に立てるような国にしてみせる…!」

カイドウの望む世界を実現する。

そのために、この国をどう育て、どう使える形へ変えていくのか。

レオヴァにとって、これから試すべきことは山ほどあった。

その横では、長時間の説明に付き合わされた二人が揃って疲れた様子を見せている。

 

「……長かったぜぇ」

「………てめぇは理解出来てんだろうな?」

「…そんなのレオヴァの説明が始まって10分あたりで出来てたわ……」

ならお前も説明に加わればよかっただろう。

そんな空気を漂わせるキングに、クイーンは悪びれる様子もない。

 

そんな二人の様子に気付くこともなく。

カイドウとレオヴァは、そのままこれからのワノ国について話し続けていた。

 

─────────────────────────────────

 

 

──レオヴァ元締め就任、一年経過後の編笠村にて。

 

夜も更けた頃。

とある民家の寝室から、まだ眠る気配のない子ども達の声が聞こえていた。

部屋には柔らかな灯りがともり、布団へ入った兄妹が、母親の持つ一巻の絵巻を期待に満ちた目で見つめている。

 

「かあさん! また “えまき“ よんでよ~!」

「せっしゃも!一緒にききた~い!」

「あなた達は本当にこの絵巻が好きね」

母親が困ったように笑う。

しかし、何度も読んでいるはずの子ども達に飽きた様子はない。

 

「うん!だって “かいどうさま“も“れおう"ぁさま“も

すごいもん!いっぱい ききたい!」

「せっしゃ“きんぐさま“も好き!

強くて黒くてカッコいいでござる!!」

「うふふふ……じゃあこの絵巻読んだら寝るのよ?」

「「は~い!」」

元気の良い返事を聞き、母親は絵巻をゆっくりと広げた。

そこには鮮やかな色で描かれた、勇ましい者達の姿。

幾度となく読んで聞かせた物語を、母親は穏やかな声で語り始めた。

 

─────────────────────────────────

 

───雪が積もる町の外れにて

       “影“を奪われたと騒ぐ男あり。

深く雪の積もる鈴後。

白く染まった町の外れで、一人の男が取り乱した様子で人々へ訴えていた。

 

その男が言うには。

尖った耳。

大きな口。

その口には、刺のように鋭い歯。

そして長剣を携えた巨大な男に襲われ、“影”を奪われたという。

 

町人達は初め、その話を馬鹿げたものだと笑った。

人から影を奪うなど、そんなことが出来るはずがない。

だが、誰かが提灯を掲げ、男の足元を照らした。

そこで人々の笑いは止まる。

 

本当に、影がない。

灯りは確かに男を照らしている。

それなのに、雪の上へ落ちるはずの影だけが何処にも見当たらない。

町人達は一転して慌てふためいた。

 

只事ではない。

そう考えた者達は雪をかき分けながら、都の役人へ助けを求めようと走り出した。

 

だが――その時だった。

町外れから、地響きのような音が近付いてくる。

振り返った町人達の視界を埋めたのは、先ほど男が話していた“影を奪う巨漢”。

 

そして、その背後から押し寄せる数百を優に超える蛮族達だった。

あまりの数に、町の空気が一瞬で凍りつく。

役人達も武器を手に応戦した。

 

だが、敵わない。

一人、また一人と押し返されるうちに、役人達は勝てないことを悟った。

すると彼らは、町人達を残したまま踵を返し、その場からすたこらと逃げ去ってしまったのだ。

 

残された人々へ、蛮族達が雪崩れ込む。

家々は壊され。

人々は痛めつけられ。

食料も、金も、持ち出せるものは全て奪われた。

 

そして十分に町を荒らした蛮族達は、奇妙な嗤い声を上げながら去っていった。

後に残されたのは、酷く荒れ果てた町。

傷だらけで動けない者。

崩れた建物の材木に押し潰され、身動き一つ取れない者。

助けを呼ぶ声すら、徐々に弱くなっていった。

 

もう助からない。

皆が、そう思い始めた――その時である。

 

雪の向こうから、複数の人影が現れた。

その先頭に立っていたのは、一対の白き角を持つ少年だった。

まだ若い。

しかし、その足取りに迷いはない。

 

少年は町の惨状を目にすると、すぐさま連れていた部下達へ救助を命じ、自らも倒れている者のもとへ駆け寄った。

材木の下敷きになった者を助け。

怪我で動けぬ者へ手を貸し。

次々と救出されていく町人達は、少年へ感謝を口にした。

そして、その名を尋ねる。

 

「拙者、レオヴァと申す者。

……この町の状況をみて感謝など受け取れまい…

…都の役人は何処へ?」

問われた町人は、悔しそうに俯いた。

 

「……役人は…逃げて行ってしまい申した…何処へいったのか…皆目、見当もつきませぬ……」

レオヴァの表情が険しくなる。

 

「……なんと…? 逃げたと?

町を守るべき役人が護るべき者達を置いて逃げたと申すか!

なんと、なんと…不甲斐ない…!」

──レオヴァ様は町の惨状に心を痛め、義を通さぬ役人に怒りを露にされた。

 

その時。

遠く離れた山の奥から、黒々とした煙が立ち昇り始めた。

煙は夜空へ伸び、そこに輝いていた星々を次々と覆い隠していく。

町人達はそれを見るなり震えた。

 

先ほどの蛮族達だ。

きっと、また何かをしている。

どうすることも出来ないと泣き崩れる者達。

恐怖に声を上げる女や子ども達。

 

その前へ、レオヴァ様は静かに膝をついた。

そして、怯える者達を安心させるような優しい声で告げた。

必ず、蛮族達を討つ。

そう約束なされたのである。

 

レオヴァ様は一度、いと強き御仁――カイドウ様を呼びに戻ると仰り、その場を二人の部下へ託した。

黒い衣に身を包み、大きな翼を携えた男。

キング様。

そして。

珍妙な眼鏡をかけた丸みの強い大男。

クイーン様。

 

二人はレオヴァ様の命令を受けると、力強く返事をした。

その声を聞き届けたレオヴァ様の身体が、きらきらと星のような煌めきに包まれる。

次の瞬間。

その両腕は、目映い黄金の翼へと変わった。

町人達が息を呑む中、レオヴァ様は夜空へ舞い上がり、瞬く間に遠ざかっていった。

人々は空を走る黄金の光を、ただ呆然と見送った。

 

――その直後。

轟音が町へ響き渡った。

振り返れば、先ほど去ったはずの蛮族達が再び押し寄せてくる。

それも、今度は先ほどを遥かに上回る数だった。

 

町を呑み込まんばかりの大軍。

だが、レオヴァ様から町を任された二人は退かない。

迫り来る蛮族達へ向かい、真正面から飛び込んでいった。

 

キング様は炎を背負い、空を舞う巨大な鳥獣へと姿を変えた。

上空から敵陣へ襲いかかり、凄まじい速度で次々と敵を打ち倒していく。

その動きはあまりにも速く、町人達の目では追うことすら難しいほどだった。

 

一方。

クイーン様は、大樹すら超えるほど巨大な偶蹄獣へ姿を変えた。

大きく口を開く。

そこから放たれたのは、人々が見たこともない摩訶不思議な光線だった。

眩い光が闇を切り裂き、密集していた蛮族達をまとめて薙ぎ払う。

 

強い。

これなら勝てる。

町人達の中に、僅かな希望が生まれた。

だが。

蛮族達はいくら倒しても、いくら切り伏せても、次から次へと姿を現した。

百。

二百。

それどころではない。

押し寄せる敵は途切れず、数百、数千と増えていく。

 

そしてついに。

その軍勢の奥から、“影を奪う”不気味な巨漢が姿を現した。

その力は、他の蛮族とは比べものにならなかった。

終わりの見えない大軍。

そして恐ろしいほど強き巨漢。

次第に、キング様とクイーン様は押され始める。

 

戦いを見つめていた町人達から、再び希望が失われていった。

このままでは。

今度こそ、本当に。

誰からともなく手を合わせる。

 

仏に。

神に。

何でもいい。

どうか助けてくれと、必死に祈りを捧げた。

 

その時だった。

 

深い闇に覆われていた大空が、突然明るくなる。

町人達が顔を上げた。

そこには――。

月よりも明るい輝きを放つ、神々しき巨鳥。

その隣には、さらに巨大な、つぎはなだ色の勇ましき龍。

二体の巨大な存在が夜空を駆け、蛮族達へ向かって一直線に進んでくる。

 

あまりにも神々しい姿に、町人達は言葉を失った。

やがて二体は戦場の上空へ辿り着き、光に包まれながら人の形へと変わっていく。

 

現れたのは――。

カイドウ様と、レオヴァ様だった。

 

人々の間から、大きなどよめきが起こった。

カイドウ様は、蛮族達によって荒らされたワノ国の姿を見ると激しくお怒りになられた。

そして、手にした金棒を大きく振りかぶる。

影を奪う巨漢が迎え撃とうと構えた。

 

だが。

その一撃を止めることなど出来なかった。

 

カイドウ様の金棒が振り抜かれた瞬間、凄まじい轟音が響き渡る。

巨漢の巨大な身体が宙へ浮かび、そのまま遥か彼方まで吹き飛ばされた。

 

たった一撃。

それだけだった。

いと強き御仁――カイドウ様の参戦によって、押されていた戦況は一変した。

蛮族達が次々と蹴散らされていく。

 

一方。

レオヴァ様は町人達のいる場所へ降り立つと、キング様とクイーン様へ命を下した。

カイドウ様を援護せよ、と。

 

お二人はすぐに応じ、凄まじい勢いで前線へ消えていった。

だが、町人達の恐怖はまだ消えない。

夜は暗く。

戦いの音は絶えず。

遠くでは怒号と轟音が響き続けている。

そんな人々へ、レオヴァ様は優しく微笑まれた。

 

次の瞬間。

目映い光が町人達を包み込む。

不思議と暖かなその輝きに覆われている間も、レオヴァ様は前線から漏れてきた蛮族達を次々と打ち倒していった。

町人達を守りながら。

一歩も、その場を離れずに。

熾烈な戦いは、一晩中続いた。

 

そして、夜が明ける頃。

ついに。

 

─── 見事…! 百獣海賊団の勝利で終わったのだ!!!

 

蛮族達は退けられた。

だが、戦いの痕跡は町の至る所に残った。

 

壊れた家。

焼けた建物。

踏み荒らされた道。

そして、多くの死者。

鈴後の小さな町は、地図から消える。

…………筈であった。

 

しかし。

レオヴァ様と編笠村の職人達は、荒れ果てた村を見捨てなかった。

壊れた家々を修復し。

必要な物を届け。

少しずつ、以前の暮らしを取り戻していった。

 

復興の日々。

レオヴァ様は御多忙な身でありながら、何度も自ら大量の食料を携えて村へ足を運ばれた。

 

困っている者はいないか。

足りないものはないか。

町人達の様子を確かめて下さったのである。

その慈悲深き姿に、人々は心から感謝した。

 

こうして――。

恐ろしい蛮族達を退け。

ワノ国へ再び平和をもたらして下さった、いと強きカイドウ様を。

人々は尊敬と畏敬の念を込めて、こう呼ぶようになった。

─────【明王】と。

 

─────────────────────────────────

 

「……めでたし めでたし…

…あら?……ふたりとも寝てしまっていたのね…」

母親は絵巻から顔を上げ、小さく笑った。

先ほどまであれほど楽しそうに聞いていた兄妹は、いつの間にか並んで眠っていた。

穏やかな寝息を立てる二人を見つめ、母親は愛おしそうに微笑む。

絵巻を静かに閉じると、部屋の灯りを消した。

やがて母親も子ども達のそばへ横になり、静かな夜の中で眠りについた。

 

─────────────────────────────────

 

 

「いや、この絵巻可笑しくねぇか……!?

“珍妙な眼鏡をかけた丸みの強い大男“って誰だよ!?!」

クイーンの大声が部屋中へ響いた。

手にしているのは、先ほどまで読み上げられていたものと同じ絵巻。

そこには、鈴後で起こった戦いが随分と勇ましく――そして一部妙な表現を交えて描かれている。

キングは絵巻へ目を落としたまま、鼻で笑った。

 

「ハッ! まんまテメェのことじゃねぇかクイーン…!!」

「何処がだ!!!

イケメンでモテまくりのクイーン様に対してェ!!」

絵巻に書かれた自分の紹介が余程気に入らないらしい。

クイーンは何度見返しても納得出来ず、紙面を指差しながら抗議している。

そんな二人を眺め、カイドウは豪快に笑った。

 

「ウォロロロロロロ!!

ずいぶん面白ぇモンが出回ってるらしい!!!」

カイドウ本人については、“いと強き御仁”だの“勇ましき龍”だのと随分格好良く描かれている。

何より自慢の息子が主人公のように描かれているのだ、悪い気はしない。

クイーンはすぐさまレオヴァへ助けを求めるように身を乗り出した。

 

 

「レオヴァ…!

このおれの表現どうにかなんねぇのォ!?」

「それは、おれに言われても困る…

……まさか絵巻物語にされるとは思わなかった」

レオヴァ自身も、手元の絵巻を見ながら何とも言えない表情をしていた。

確かに、鈴後での一件は意図して聖人君子のように振舞った部分もある。

 

だが、それがまさか子ども向けの絵巻にまでなるとは考えていなかった。

カイドウが酒を飲みながら尋ねる。

 

「なんだ?それが狙いであの時ゲッコー海賊団を鈴後に誘導したワケじゃねぇのか?」

「いや、鈴後に誘導したのは戦闘の被害を減らす為と

鈴後にある小さい村を取り込み、最終的に父さんをワノ国の護り神の様に魅せる為であって…

…絵巻物語にするためにわざわざモリアの部下を買収したわけじゃないんだ父さん……」

 

目的は、あくまで鈴後にいる住民達へ“カイドウが自分達を守った”という事実を見せることだった。

 

そのために敵を誘導し。

被害が広がり過ぎない場所を選び、戦いの後には復興にも手を入れた。

絵巻そのものは、完全に想定外である。

キングは改めて絵巻へ視線を落とし、口元を僅かに歪めた。

 

「まぁ、結果的にはこれは子どもの娯楽の1つとしてなかなか売れているようだし問題はねぇだろう。

……それにクイーンの件も完璧なイイ物語だ…フッ……」

「おい!!アホキングてめぇ!!!

今、嗤ったよなァ…!?

くそぉ……カイドウさんとかこんなにカッコ良く書かれてんのに

このおれが“珍妙な眼鏡をかけた丸みの強い大男“!?」

 

キングの僅かな笑いを、クイーンは聞き逃さなかった。

食って掛かるクイーンとは対照的に、カイドウはさほど気にしていない。

 

「所詮はガキ共向けに書かれた話だろ。

気にするこたァねぇよ 」

「うぐぅ……カイドウさんがそういうなら……

……いやけどやっぱり気になるぜェ…」

納得したいのかしたくないのか分からない声を漏らしながら、クイーンは再び絵巻へ目を落とした。

そんな様子を横目に、レオヴァは今回の一件が生んだ別の成果について考えていた。

 

「…兎に角、父さんを“明王“と呼ぶ者も増えてきたのはありがたい誤算だ。

絵巻物語になったなら子ども達にも自然に浸透させられるだろうしな。

今後も、編笠村を中心に商人たちと取り引きを重ね

“良い暮らし“が出来る民を増やして行くつもりだ。」

 

一年前にカイドウへ話した方針。

民衆の支持を集める。

そして、その支持を百獣海賊団――最終的にはカイドウへ繋げる。

絵巻が広まれば、文字や噂だけよりも遥かに自然な形で子ども達へ浸透していくだろう。

 

思い描いていた形とは少し違うが、結果としては悪くない。

カイドウも満足そうに頷いた。

 

「レオヴァの考え通りに事は進んでるみてぇだな。

 …引き続き国内は任せるぞ。」

「あぁ…!

父さんに良い報告が続けられるよう試行錯誤を進めるつもりだ。」

 

ワノ国の中はレオヴァに任せる。

その方針が改めて確認されたところで、今度は外の話へ移る。

クイーンがカイドウへ向き直った。

 

「他のナワバリに手を出して来てるカス共はおれに任せてくれ!カイドウさん……!」

その横から、キングが即座に口を挟む。

 

「クイーン……てめぇは時間がかかり過ぎんだよ…!

カイドウさん、任せてくれ。

アンタの掲げる旗がある島に手を出しやがったんだ

 ……おれが地獄をみせてやる。」

クイーンが自分の話を取られたような顔をする。

だが、カイドウは二人を止めるどころか、愉快そうに笑った。

 

「外のことは引き続き、キングとクイーンに任せる!

 ウォロロロ! 好きに暴れてこい!!!」

その許可を聞いた途端、クイーンの機嫌も一気に直る。

 

「ムハハハハ~~!!暴れてくるぜカイドウさん!」

キングも静かながら、隠す気のない殺気を滲ませた。

 

「もちろんだカイドウさん。」

ワノ国の内側は、レオヴァ。

外から百獣海賊団のナワバリへ手を出す者達は、キングとクイーン。

それぞれが役割を担いながら。

カイドウの掲げる旗の下で、百獣海賊団は少しずつ勢力を広げていった。

 

 




アンケート内容をメッセージにてご意見をいただいたモノを集計し、結果は次の投稿の後書きにて報告させて頂ければと思います!

思っていたよりもたくさんのご意見を頂き、嬉しさと驚きでいっぱいです。
ご協力くださりありがとうございます…!
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