ボン・クレーの暗躍により、あと一歩の所で麦わら達を逃してしまったことを後悔している暇もなくマゼランは次なる問題を解決すべく動いていた。
この混乱に乗じて現れた百獣海賊団を今度こそ捕らえる、そう意気込んでいたマゼランだったがある男の登場で侵入者達がいる階に到達することすら出来ずにいた。
「ハァ…ハァ……シリュウ、貴様…!!」
そう叫び、睨み付けてくるマゼラン相手にシリュウはニヤリと笑みを浮かべる。
「悪いな、マゼラン。
お前でおれの有用性をアイツに示させてもらうぜ…」
刀を構え直したシリュウにマゼランは最終手段を取ることを決意する。
このままではどちらにせよ監獄は終わりを迎えてしまうだろう、そうマゼランは感じたのだ。
「“
マゼランが力を発動させようとした時だった。
尋常ではない揺れと共に建物がガタガタと崩れて行く。
予想だにしない事態にマゼランとシリュウは目を見開いた。
「何が起きているんだ…!?」
「どうなってやがる!?」
思わず驚きの声が漏れる2人の側の床が弾けるように粉砕された。
「ウオオォォ~~!!打ち落としてやる!!!
どれだけ耐えられるのか見せてみろォ!!!」
「ッ……ははははは!!
この破壊力…想像以上だ、バレット…!!!」
砕け散った床の下から現れた巨大な鎧を纏うバレットは、腕を翼に変えて宙を舞うレオヴァへ拳で怒涛のラッシュを放っている。
レオヴァは下から突き上げる様に無限に繰り出される拳を楽しそうに受け流しながら、バレットの纏う鎧に隙間を作るように槍を蹴り入れている。
そんな2人の猛攻にマゼランとシリュウは言葉を失っていた。
しかし、マゼランとシリュウに目もくれることなくバレットとレオヴァは
あまりに一瞬の出来事にマゼランとシリュウは固まる他なかった。
そして、その2人に出来た一瞬の隙が勝負の決め手となる。
強大な力のぶつかり合いが真横で起こっていたせいで、普段ならば気付ける筈の敵の接近にマゼランは気付く事が出来なかったのだ。
強い衝撃と共にマゼランは思い切り吹き飛ばされ、ぽっかりと空いていた穴に落ちて行く。
未だに音を立てて崩れている穴へシリュウが思わず目線をやっていると、声がかかった。
「おい、こっちはボン・クレーの回収は済んでるんだぞ。
マゼランの無力化にいつまで時間かけてんだ。
まさか。渡した道具を失くしたのか?」
そう言って不機嫌そうな表情で近付いてくるローにシリュウは向き直る。
「……簡単に無力化できるほど楽な相手じゃねェ。
お前らはマゼランを甘く見積り過ぎだぜ…」
シリュウの言葉にドレークが反応を示す。
「確かに、マゼランの毒は強力だ。
この時間まで倒れずに押さえられていた事は十分な功績。
……ローの言葉はあまり気にしなくていいぞ。
それと使わなかったなら、アレは返してくれ。」
ローは何か言いたげな表情になるがドレークはシリュウから、預けていた道具を受け取ると言葉を続ける。
「今の一撃でマゼランに
レオヴァさんの指示通り、この瀕死のボン・クレーを船へ連れて行こう。
一応解毒はしてあるが、絶対安静だ。」
「それもそうだな、レオヴァさんの指示が先か。
……お前も来い。」
ローの言葉にシリュウは読めない表情で口を開く。
「…来いって事は、おれの実力はお眼鏡に適ったってことでいいのか?」
「及第点だ。
最終的に、お前の提案を飲むかはレオヴァさん次第だけどな。」
「そうか。」
ローの言葉に苛立った素振りもなく、シリュウは薄く笑ってみせる。
「ローはあぁ言ってるが、今回の功績は大きいとおれは思う。
それにレオヴァさんの懐は深い!
最初から拒むような真似をする人じゃないからな、気を揉む必要はないさ。」
「あぁ、そりゃありがたい情報だ。」
ドレークのフォローに返事を返すと、シリュウは歩きだしていたローの背に続く。
ドレークはシリュウに対して少し刺のあるローに小さく苦笑いしつつも、ボン・クレーを抱えて2人の後を追った。
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戦闘を開始してから暫く経ち、バレットもレオヴァも勢いが衰えて来ていた。
事実、能力で外装を固めていた筈のバレットはレオヴァの猛攻により鎧を潰されたことで生身の状態にされ、己の武装色のみで応戦している。
同じくレオヴァも雷での超回復を繰り返してはいたが、この技は大量のスタミナを消費するため回数を重ねるごとにスタミナも減り、雷から得られるスタミナだけでは賄えなくなっていた。
2人はこの闘いの決着をつけるべく冷たい監獄の床を蹴り、飛び上がる。
そして、バレットは鍛えぬいた武装色を全身に纏い、レオヴァへ怒涛の攻撃を浴びせながら言葉を放つ。
「この海を……ひとりだからこそ勝ち続ける!
己のみを信じ、ひとりで生き抜く断固たる覚悟にこそ無敵の強さが宿る!世界最強はおれだァ!!
レオヴァ、お前にはおれの“道”を作ってもらうぞ…!!」
「この海をひとりで生きる、か。
だが、こうやって
…この世界でひとりだけで生きてる奴なんていねぇよ、バレット!!」
両者がぶつかり合っている、ほんの一瞬。
何故かバレットに少しの隙が出来る。
その一瞬、どこかバレットの瞳はレオヴァを捉えているにも関わらず、何か別のものを見ているようであった。
しかし、レオヴァがその刹那の隙を見逃すはずもない。
連続で激しい拳を繰り出していたバレットの巨大な拳を流れるような動きでいなして、横へ弾いた。
大きく見開かれたバレットの瞳には獣人化したレオヴァが雷の龍を纏っている姿が映っている。
「
レオヴァのその声と共にバレットを巨大な雷の龍が呑み込む。
バレットが鋭い衝撃に飛びかけた意識を戻そうとすると、雷の龍と共に動き始めていたレオヴァの強靭な足の鋭い爪が鎖骨に食い込んだ。
「ぐぅ…ぅおおおおおッ!!?」
引き剥がそうとバレットが獣人化しているレオヴァの脚を掴むより速く全身を想像を絶する痛みが襲う。
感電などという生易しい表現では済まぬほどの電流がバレットの全身を駆け巡り、筋肉の動きを阻害した。
一方、レオヴァは蓄えてある全ての電流をバレットに注ぎ込む勢いで放電を始めている。
「おれの中の雷が尽きれば終わりだが……お前との楽しい殴り合いに下らねぇ小細工はなしだ!!
ここで、確実に落とす…!!!
加減はいらねェだろ、バレット!!」
「ギ、グ…ゥオォオ~~~!!!」
強い電撃により痙攣して思うように動かない筋肉をバレットは意地だけで、無理やり動かしてみせる。
筋肉の繊維が切れる感覚と肉の焼ける激痛をものともしないバレットに今度はレオヴァが大きく目を見開いた。
動けない筈のバレットがレオヴァの脚を掴む。
ビキッ…と骨から嫌な音が鳴ったがレオヴァが脚の鉤爪の力を緩めることはなかった。
バレットは力の限りレオヴァの脚を拳で締め上げる。
「っ…グッ……このまま脚を千切られるのは…ゥ…困るなァ」
そう呟く間にもレオヴァは急降下していき、バレットを監獄の石畳に叩き付ける。
「ぐゥオォッ…!!」
凄まじい衝撃によってバレットの体の更に奥深くにレオヴァの鉤爪が肉を切り裂きながら沈んでいく。
「ハァ……ぅ、これがおれの残りの
お前ならおれの全てを出しきっても死なねぇだろう!!?」
その瞬間、レオヴァとバレットを中心に凄まじい電気エネルギーの大爆発が起こった。
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空船から戻って来ていたローとドレークは突然の大爆発に驚き、今にも崩れそうな監獄へ向かって走り出した。
至る所に穴が空き空が見えてしまっている監獄の入り口辺り一帯に、途轍もない電撃が渦巻いていることに2人は驚き目を見開いた。
そして離れた場所にレオヴァとバレットがいる事を目視したドレークとローが悲鳴に近い声をあげる。
「な…!?
あんな量の電気をつかったら……レオヴァさん!!!」
「レオヴァさん、なんであんな無茶な技を…!?」
2人は思わずそちらへ走り出したが、近づくことは困難に等しかった。
レオヴァの放電の嵐は爆発地点を中心に、無差別に周りを傷付けているのだ。
この状況にドレークとローは迷った。
きっとレオヴァはドレークやローがこの放電で怪我をしたと知れば、酷く落ち込むだろう。
それにレオヴァからは、手出し無用であり危険なので離れているようにとも言われていた。
しかし、このまま見ているだけなどドレークとローには出来そうにもなかった。
体が電流でズタズタになろうとも構わない。
そう2人が決心したその時、レオヴァの放電が収まったのだ。
道が開かれたと同時に、衝撃でモヤがかかっている戦場へ2人は走り出した。
体内に蓄積させていた全ての
よろつくレオヴァはなんとか地面に折られた脚をつくが、そのまま立っていることが出来ず地面に膝をついてしまう。
どうやらバレットによってレオヴァの脚の骨は砕かれてしまっているようであった。
レオヴァは意識が朦朧としているのか膝をついてしまったまま、一向に立ち上がる素振りも見せない。
何度も浅い呼吸を繰り返し、レオヴァはボンヤリと地面を眺めている。
しかし、レオヴァは
「ハァ…言い、そびれたが…
せ、かい……最強は…おれの父、さんだ……っ」
限界が来たのか膝だけでは体を押さえられず、レオヴァは地面に右手をつく。
片腕で体を支えてはいたがそれでもふらふらと揺れ、レオヴァの意識はついに限界を迎えた。
ゆっくりとレオヴァの体はそのまま重力に引かれるように倒れていく。
「“
ローの声と同時にレオヴァは地面ではなく、獣化しているドレークの背中に倒れ込んだ。
「ロー…!レオヴァさんの容態は!!?」
「おい!ドレーク、動くな!!
レオヴァさんが背に乗ってる事を考慮した動きをしろ!」
「す、すまない……」
ピタッと動きを止めたドレークの背の上でローはレオヴァに“スキャン”を使った。
「……上半身は簡単な処置でなんとかなりそうだが…クソッ…
左足脛骨と腓骨はすぐにでも施術しねぇと元の状態に戻すのが難しいくらい骨が砕けてるし、骨盤にも損傷がある…
時間が経っちまったら最悪レオヴァさんの下半身を“アレ”つかって移植しなきゃならなくなるかもしれねェ…
おれはレオヴァさんをバラすなんて絶ッ対に御免だぞ!!」
動揺を隠せずに叫ぶローにドレークの焦りも加速していく。
「な、なら今すぐ船に!!」
「あぁ、早くしねぇと……
だが揺らさないでくれ、脚の骨もそうだが鎖骨も折れてる…下手に揺らしたら皮膚を突き破って出てくるかもしれねぇ!!」
「…!? そ、そそうなのか!?
わかった……ゆ、揺らさないようにだな…」
強い動揺から普段の冷静さを失いかけている2人の耳に掠れた声が届く。
「……ゥ…落ち…着け……ドレー、ク……ロー…」
「「レオヴァさん…!?」」
手足を動かす気力はないのか、瞼と瞳だけ動かしレオヴァはぼんやりとローの方を見る。
「大、丈夫…だ。
エネルギーである…雷を、ハァ……使いすぎた…だけ……だ。
…バレットも…ふ…ね…連れ、て……ぃ……」
また気を失った様子のレオヴァをローはドレークの背から落ちないように支え直す。
「レオヴァさんッ!
い、息は大丈夫そうだな…だが出血が増えてる……輸血パックは確か…」
ぶつぶつと手当てのことをひとり呟くローを横目にドレークは小さく息を吐く。
レオヴァの落ち着けという言葉で自分を律すると、地面に横たわるバレットを掴んだ。
ローはそれに気付くと複雑そうな表情になる。
「ドレーク……そいつを連れてくつもりか?」
「…レオヴァさんが連れてくと言ったんだ、是非もない。
何よりさっきの闘いはレオヴァさんの勝ち……即ちこの男も今からおれ達の身内だ。」
「……そうだな。」
ドレークの言葉に一瞬ローは何か言いたそうな顔をしたが、短い返事だけ口にすると黙り込む。
ドレークはゆっくりと、大股で船へ向かって歩き始めた。
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『こうやって
この世界でひとりだけで生きてる奴なんていねぇよ、バレット!!』
あの時のレオヴァのこの言葉はバレットの古い記憶を呼び起こした。
まだ青く、一人前とは言いがたかったあの頃。
今とは比べ物にならぬほど弱かった。
けれど、どこか居心地が良かったあの船での記憶だ。
なにが切っ掛けかはもう覚えてはいなかったが、バレットはロジャーの何かしらの言葉にムカつき噛みついていた。
『おれァ、ひとりで生きてるんだ!!
それは今までもこれからも変わらねぇ!!!』
そう叫んだバレットをロジャーは笑う。
『はっはっはっはっ!
バレット!まだまだガキのクセして生意気なこと言うじゃねぇか。』
バレットはガキと言われムッとした顔で睨み付けたが、構わずロジャーは続ける。
『確か、バレットは料理出来ねぇよな?』
『……だからなんだ、そんなことさっきの話とは関係ねぇ。』
『はっはっはっ!
ほら見ろ!ひとりは無理じゃねぇか!』
また笑われ、ぶすっとした表情のバレットの後ろからレイリーが声をかける。
『おいおい、ロジャー。
またバレットをからかってるのか?
そう言うお前だって料理はからっきしだろう!』
そのレイリーの言葉にロジャーはニッと笑いながら答える。
『おう!
料理も…あと医学もおれには出来ねェことばっかりだぜ!!』
『まったく……自慢げに言うことか、ロジャー?』
呆れたような、けれどどこか楽しげな表情で言うレイリーにロジャーは笑いかける。
『そりゃ自慢げにもなるぜ、相棒…!
出来ねぇことがあっても、こうやっておれが生きてられんのはお前らが居てくれるからだ!
だからよ、バレット。
こうやって喧嘩すんのも“相手”がいなきゃ、出来ねぇしなァ!はっはっはっはっは!!』
そう言って豪快に笑うロジャーの言葉にこの時のバレットは何も返さなかった。
何を返すべきか分からなかったのだ。
自分はひとりで……独りで生きて来た…筈だ。
仲間なんていつ裏切ってくるか分からねぇ。
弱い奴らは特にそうだ。
だからずっと独りで闘って、殺して…
己の力だけを信じて生きて来た。
だが、今の自分はどうだ?
……本当に独りなのか?
バレットはそんな葛藤を抱えた。
だが、それでもロジャーの側は居心地が良かった。
挑んでも挑んでも勝てない。
けれど何回でも何百回でもロジャーは変わらぬ強さでバレットの闘いを正面から受けてくれる。
そう、ただの一回もロジャーはバレットを拒まなかったのだ。
周りに呆れられるほど闘いを挑んでも
『いつでも来い、バレット』
と海賊らしい笑みを浮かべ、バレット自身をまっすぐ見てくる。
バレットにはなかった“強さ”をロジャーは持っていた。
それにバレットは少しずつ気付き始めていた。
だが、バレットにとっての安息はすぐに去ってしまう。
…ロジャーは不治の病にかかっていたのだ。
ロジャーの余命が残り僅かだと言う事実はバレットを酷く
早く、もっと早く強くならなければ…!!
その心の焦りは、バレットが仲間意識を持ち始めていたロジャー海賊団の面々との間に大きな亀裂を生み始めた。
心に芽生えていた“仲間を守らねば”という気持ちも、バレットは戦闘中に気を散らさせる邪魔な思考だと考えてしまう様になった。
それからまた迷走を始めたバレットは最終的にロジャー海賊団から抜けたのだ。
そして、独りにならなければ強くなれないと自分に言い聞かすことで心の内にある気持ちを殺し、争いの日々に戻った。
やっと見つけた心許せる、尊敬できる人を失う現実から目を反らすように、バレットは闘い続けた。
早く強くなって越えなければ、ロジャーはこの世から居なくなってしまうのだ。
そうやって血にまみれる生活を送っているバレットを嘲笑うように、世界中にあのニュースが響き渡った。
“海賊王ゴールド・ロジャー、
バレットの目の前は真っ暗になった。
目指すべき目標が……進むべき“道”がなくなったのだ。
そうして、全てを失ったバレットは無差別な破壊を繰り返すだけの存在になった。
目標を失くし怪物となったバレットは最終的に海軍、そして今まで潰した海賊達の手によって投獄されることとなる。
押し込められた暗い牢獄でバレットは黙々と鍛練を続けながら思考し続けた。
どうやったら最強だった男を……あのロジャーを越えられるのかと。
そして辿り着いた答えが、この海の強者全てを殺して海賊王になるという物だった。
それこそが唯一あのロジャーでさえ無し得なかった事であり、彼を越えられる方法だとバレットはまた強く自分に言い聞かせ、無理やり新しく進むべき道を作り出したのだ。
だが、現在の自分はどうだ?
何十年もの間ずっと鍛練を続けたのにも関わらず、あのロジャーと似たような事を言ってのけた若造の重い一撃に沈んだ。
……強い決意だった筈だ。
ロジャーを越える為だけに、ずっとやってきた。
そんな自分が揺らぐわけがない。
進むべき“道”は見えている…筈なのだ。
バレットの意識がゆっくりと覚醒していく。
継続的に機械の音が聞こえ、独特な消毒液の臭いが鼻をかすめる。
ゆっくりと目を開き辺りを見渡すと、隣のベッドに見覚えのある角のある男……レオヴァが横たわっていた。
何故、自分は拘束もされずにレオヴァの隣で治療を受け寝かされているのか理解出来ず、バレットは一瞬固まった。
すると隣のベッドで横になっているレオヴァの目が開き、こちらを見て笑った。
「バレットも起きたのか、おはよう。
さっきは楽しかったなァ…」
機嫌良さげに話し掛けてくるレオヴァからバレットは顔を反らし、天井を見上げる。
そんなバレットの態度を気にした様子もなくレオヴァは言葉を続ける。
「さっきの闘いはおれの勝ち…と言いたいんだが
実はバレットが気を失ったあと、おれもすぐに気を失ったみたいでな。
勝敗を決めあぐねている。
おれはバレットと共に海へ出たかったんだが……これから身内になるかもしれない相手に嘘を吐くのは違うだろう?」
困ったような声色で言うレオヴァにバレットはぶっきらぼうに返した。
「…レオヴァ、貴様の勝ちでいいだろ。
どんなに言い募ろうが、先に倒れたのはおれだ。」
「…!
バレット、本当にそれで良いのか?」
「勝った方の話に乗るって条件だっただろうが
……二言はねぇ、ただし。」
言葉を句切るとバレットはゆっくりと起き上がりレオヴァの方を向いた。
レオヴァもゆっくりと起き上がるとバレットに向き合う。
「ただし…おれは弱ェ奴に雇われてやるつもりはねぇ。
また
そうキッパリと告げると、バレットの予想とは裏腹にレオヴァは満面の笑みを浮かべる。
「もちろんだバレット!
お前は本当に強い、いつでも何度でも相手になるさ!
また
そんなはしゃぐ姿にバレットは面を食らったが、レオヴァは嬉しそうに微笑むと口を開いた。
「これから、よろしく頼むバレット!
お前ほどの男が身内になったら組手も盛り上がる!!」
「おい!
身内になるとは言ってねぇ、雇われてやるって話だっただろう!!」
「父さんと三人で組手するのが楽しみだなァ…」
「おれの話が聞こえてねぇのか!!?」
叫ぶバレットの声が船に響き渡る。
数秒後、その声で病室に現れたドレークとローによって更に騒がしくなるのだが
その喧騒を耳障りだと思わぬ自分にバレットは小さく困惑した。
だが、考える暇もなくドレークによって新たな爆弾が投下される。
「…って、それどころじゃないんだレオヴァさん!!
カイドウさんが…!」
「………何故、今父さんの名が出る…ワノ国で休暇中の筈だろう…?
まさか……酔ってるのか!?」
レオヴァがハッとしたように顔を上げるとローがドレークに変わって答えた。
「…レオヴァさんの想像通りだ。
かなり酔っていてクイーン達が手が付けられなかったらしい。」
「そうか……そうだな、父さんを止めるのは無理だったか…
いや、だが今回はキングも居ただろう?
まさか父さんを1人にしたんじゃないだろうな…?」
レオヴァの問いにドレークが間髪入れずに答える。
「キングが飛び出したカイドウさんを追っていたみたいなんだが……急に現れた赤髪に応戦し、カイドウさんは一人で飛んでいってしまったらしく…
現在はキングとクイーン、ササキ達が交戦中とのことだ。」
「「レオヴァさん、どうする…?」」
今度はドレークとローがレオヴァに問いかけた。
レオヴァは二人の目を見た後、バレットを見る。
「おれとバレットは満身創痍だが…
生憎、おれの中には父さんを迎えに行かないという選択はない。
構わないか、バレット?」
「…おれも満身創痍だと勝手に決めつけるな。
なんの支障もねぇ、お前と契約後の初仕事が少し早まったに過ぎん。」
「そうか…!
なら問題はないな、頼りにさせてもらうぞバレット。」
「……フンッ」
笑いかけてくるレオヴァからバレットは顔をそらす。
ドレークとローはある程度話が分かるバレットに内心ほっとしつつ、レオヴァの言葉を待つ。
「この船は空船だからな、その強みを生かすか…
いつものように潜水艇も出し、空と海で分かれて帰りも問題ないように進めよう。
…まずは進路を変更してくれ。
赤髪海賊団の件はキング達に任せれば問題はないだろう。
一応、おれの方で増援の手配はしておくが。」
レオヴァの言葉に分かっていたというような顔でドレークとローが口を開く。
「レオヴァさんならそう言うと思って、既にローによって進路は変更済みだ。
増援の手配も進めてある。」
「あぁ。
このまま空を進むなら約25分後に到着予定だレオヴァさん。
増援も既に出港済みとの連絡も来てる。」
「…ロー、ドレーク……流石だ、頼りになる!
それなら、おおまかな作戦だけ決めよう。
酔っている父さんは止められないとみて良い……正直、何が起きるかは未知数だ。」
未知数と言う言葉にローとドレークは真面目な顔で頷いた。
レオヴァは次々にあらゆる可能性とその場合の行動について説明をしていく。
バレットはそのレオヴァの横顔を見ながら、次の闘いに備え呼吸を整えた。
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レオヴァ達がインペルダウンを出港してから、暫く後のマリンフォードにて。
海軍本部であるこのマリンフォードは完全な戦場へと変貌を遂げている。
処刑される筈だったエースは麦わらの手により解放され、海賊達の勢いは激しさを増していた。
そんな中、白ひげの放った“最後の船長命令”に白ひげ海賊団の船員達は涙を流しながら船へ向けて走り出した。
白ひげを慕う海賊達にとって、この船長命令は何よりも辛い事であった。
しかし、愛する船長の覚悟や想いが分かるからこそ、海賊達はどんなに辛くとも白ひげの言葉に従って走るのだ。
空のように大きな器を持ち、海のように深い愛を自分達にくれた“オヤジ”の大きな愛に報いるには、ここから“生きて帰る”ことが一番重要なのだ。
だから、この場で足を止める訳には行かなかった。
愛する息子達の為に白ひげは残る全てを出し尽くすことを決めた。
数えきれぬほどの海兵が押し寄せてくるが、白ひげの敵ではなかった。
背中に守るべき愛する息子達がいる彼の気迫は、鍛え上げられた海兵でさえ思わず息を飲むほど凄まじい。
誰もこの怪物の進撃は止められない。
そう思った時だった。
「エースを解放して即退散とは…とんだ腰抜けの集まりじゃのう白ひげ海賊団。
だが船長が船長……それも仕方ねェか…!!
“白ひげ”は所詮…
先の時代の“敗北者”じゃけェ…!!!」
「ハァ……ハァ……“敗北者”…?」
そのサカズキの言葉にエースは小さく呟くと足を止めた。
そして怒りに満ちた表情で振り返るとエースはサカズキを睨み付けた。
「取り消せよ…!!!今の言葉……!!!」
色々な感情が溢れ出しているエースを周りの仲間達が必死に声を上げて止める。
しかし、エースは敬愛する人を貶された怒りで止める仲間達を振り払って一歩前へ出た。
その姿を見るとサカズキは畳み掛けるように言葉をぶつける。
「“王”になれず
どこに間違いがある…!!
オヤジ、オヤジとゴロツキ共に慕われて……家族まがいの茶番劇で海にのさばり」
「…やめろ……!!」
「……何十年もの間海に君臨するも“王”にはなれず…何も得ず!!
実に空虚な人生じゃありゃあせんか?」
「やめろ……!!」
「のるなエース!!戻れ!!!」
怒りで支配されたエースを止めようと仲間達は叫ぶが、彼の足はサカズキの方へ進んで行く。
「オヤジはおれ達に生き場所をくれたんだ!!!
お前にオヤジの偉大さの何がわかる!!!」
「人間は正しくなけりゃあ生きる価値無し!!!
お前ら海賊に生き場所はいらん!!!
白ひげは敗北者として死ぬ!!ゴミ山の大将にゃあ
「白ひげはこの時代を作った大海賊だ!!!」
エースの心は完全に怒りに支配されていた。
“おれを救ってくれた人を馬鹿にすんじゃねェ!!!”
その強い想いが胸を占め、衝動のまま拳を振りかぶった。
「この時代の名が!!!“白ひげ”だァ!!!」
ドゴォン!!
という大きな衝突音が響いた次の瞬間、腕を焼かれたエースが地へ倒れ込む。
火であるエースが焼かれたという事実にどよめく海賊達をサカズキは見下すように口を開いた。
「お前はただの“火”…わしは“火”を焼き尽くす“マグマ”じゃ!!
わしと貴様の能力は完全に上下関係にある!!!」
声高らかに告げたサカズキは、すぐ側でエースを呼ぶルフィに少し目線を移す。
「“海賊王”ゴールド・ロジャー、“革命家”ドラゴン!!
この2人の息子達が義兄弟とは恐れ入ったわい…!
貴様らの血筋はすでに“大罪”だ!!!
誰を取り逃がそうが、貴様ら兄弟だけは絶対に逃がさん!!
……よう、見ちょれ…」
「……おい!!待て!!」
麦わらのルフィへと攻撃の目標を変え、サカズキはマグマ滾る拳を振り下ろすべく力を込めた。
「ルフィ…!!!」
ビブルカードに気を取られ、更には疲労困憊だったルフィにサカズキの一撃を避けることは不可能だった。
目の前に迫るマグマにルフィは目を見開き、たった一人の大切な弟に迫る命の危機にエースは悲痛な叫びと共に痛む体のことも忘れ飛び出した。
そして次の瞬間、その光景に海賊達も海軍達も大きく目を見開いた。
灼熱のマグマから助けられたルフィの瞳は大きく見開かれ、サカズキの攻撃から守ってくれた人を驚愕に染まった表情でただ見ている事しか出来なかった。
一瞬、静まり返ったその場に男の声だけが響いた。
「ウィ~……せっかく潰しに来てやったってのによォ!!
なんでもう壊れちまってんだァ!?ヒック…」
酒気を帯びているその大男はサカズキを殴り飛ばしたことなど無かったかのように
しかし、中身が空になっていたのか真上に上げても朱色の瓢箪からは酒は一滴も流れ出てこない。
大男は何度かその場で瓢箪を振ったかと思うと鬼の形相で怒鳴り出した。
「なんだって、おれの酒がねェんだよォ~!!!
……どれもこれも全部、テメェらのせいだろ!!?ふざけやがってェ!!!」
大男は怒鳴りながら海軍に向かって瓢箪を投げつけた。
その瓢箪はまるで凶器のように飛んでいくと、数人の海兵を亡き者にしてしまった。
突然の事態に誰もが固まる中、ルフィを庇おうと立ち上がっていたエースが驚いた顔のまま言葉を溢した。
「……百獣の…カイドウ……?」
呟き程度の声だったが、カイドウは気付きジロリとエースを見るのだった。
ー後書きー
レオヴァ:バレットとの闘いにギリギリで勝利。
満身創痍だったが雷の補充と“ある薬”の効果でだいぶ回復した。
バレットとカイドウと三人で組手するの楽しみだな!とワクワクしていたがカイドウがワノ国から飛び出すという緊急事態に。
バレット:レオヴァを試す為の闘いで敗れたが、思いの外引きずっていない。
何年経とうとも無意識に“彼”の背を追ってしまっているが、変われるかもしれない未来もある。
シリュウ:レオヴァにある話を持ち掛けた。
マゼランの足止めに成功したこともあり、現在船に同乗中。
カイドウ:激怒酒乱状態。
楽しみにしてた息子との遠征を潰した奴らを潰す、その為だけに遠路はるばるワノ国から飛んで来た。
マリンフォード着いたら赤犬がなんかしてたのが目に入ったので苛立ちのまま殴り飛ばした。
サカズキ:敗北者敗北者と煽っていたらカイドウにぶっ飛ばされた。
センゴク:今回の騒動で間違いなく胃に穴が空く。
ガープ:エースが助かりそうで内心ほっとしている。