大乱戦の
前触れもなく現れたカイドウは大将サカズキを殴り飛ばし、その後も怒りの形相で恐ろしい程の威圧感を放ち続けている。
そんな中エースが思わずカイドウの名を溢すと、カイドウは鋭い目付きで睨みを利かせた。
「…なんだァ?
おれとやろうってのかガキ!?今、虫の居所が悪ィんだ!!容赦しねェぞォ!!」
「ちょ、待ってくれ!
レオヴァの親父に何かするつもりはねェ!!」
「……レオヴァだとォ…?」
今にも襲い掛かって来そうだったカイドウの動きがピタリと止まり、エースを観察するように目を細めた。
「テメェ、そのレオヴァってのが誰だか分かってんのかァ?
おれの息子の名前を軽々しく呼びやがってェ…!」
「あ、いや…おれ前に世話になってんだ。
ワノ国で色んなことも教えて貰ったし、大海賊になったら会いに行くって約束もしてる…!
レオヴァは
エースの言葉にカイドウは僅かに目を見開くと、少し考えた素振りの後に口を開いた。
「……名前を言ってみろ。」
「エース……ポートガス・D・エースだ!」
ハッキリとエースが名前を告げると同時にカイドウの顔が険しくなる。
「エース…だとォ!?」
叫ぶカイドウにエースは訳が分からず困った表情を浮かべる。
「どうりで見たことがある
この処刑騒動とあの馬鹿のせいで半年も前から準備してたレオヴァとの遠征がパァだぞ!!どう償うつもりだァ!!?」
ドスンと大きな音を立てて一歩前に出たカイドウに、少し離れた場所にいたジンベエが駆け足で現れ、慌てた様子で叫ぶように声を上げた。
「ま、まってくれレオヴァの親父さん!!
この処刑は海軍が決めたこと…!
エースさんに非はない筈じゃ!!」
「…お前、ジンベエか。
確かに処刑を決めたのは海軍…
……くそったれがァ、じゃあ結局海軍の野郎とあの馬鹿のせいじゃねェか!!
おれがどれだけ今回の遠征の為に準備を費やしたのかテメェらにわかるかァ!!?
レオヴァの好きな“
今回の遠征を逃したら来年まで捕れねェってのに…!!」
エースに向けていた鬼の形相を海軍へ向け始めた姿に周りの海賊達はホッとしたように胸を撫で下ろし、海兵達は意味の分からぬ怒りに困惑しながらも顔を真っ青にしている。
しかし、当人達にしか分からぬ内容で怒り狂っていたカイドウへ、突然いくつものマグマの塊が熱を発しながら飛んでくる。
多くの海賊達がそのマグマに驚き目を見開くことしか出来ない中、カイドウはそれを全て金棒で打ち落とすと不快そうに先ほど殴り飛ばしたサカズキに視線だけ移した。
「ハァ……ハァ……とんだ邪魔が入ったのう…
じゃが、その兄弟だけは逃がさん!!」
そう言ってルフィの方へ飛んでくるサカズキにエースは身構えたが、カイドウの金棒がその行く手を阻んだ。
またしてもなす術なく殴り飛ばされるサカズキを視界に捉えエースは驚き、思わずカイドウを見上げた。
サカズキへ向けていた目を今度は驚いた顔のエースに向けるとカイドウはムッとした顔のまま口を開いた。
「……お前がレオヴァと親しいってんなら、その証拠を見せてみろ。」
「証拠…?」
「レオヴァから聞いた話でも、レオヴァから貰ったモンでも何でもいいから証拠を見せろってんだよォ!!
……一時の嘘でおれのレオヴァの名を使ったってんなら、まずはテメェから潰す。」
目を見開いてキョトンとするエースにカイドウは苛立ったように語気を荒らげたかと思うと、静かな怒りの籠った声で言葉を締めた。
だが、エースはそんなカイドウに怯むことなく真っ直ぐ見つめ返す。
「…ガキの頃にアンタが作らせた龍の刺繍の入った着物が小さくなって着れないから巾着袋にしたんだって言って…いつも懐に入れてた。
で、巾着袋の中身は初めて任務を成功させた時にアンタから貰ったって言う金貨の中から一番大きい1枚と菓子が入ってた!」
自信満々に告げられた言葉は戦場とは思えぬほど静まりかえっていた広場に思いの外響く。
そんな中カイドウはカイドウであまりに詳しい内容に少し驚いたのか眉間に入っていた皺が減っており、逆に興味深いと言うようにエースの方へ少し体を向け始めていた。
「……その金貨ってのはどんな柄だった?」
「確か……表が龍で裏に羽みてぇなのが彫ってあった。
大きさはおれの手ぐらいデカかったぜ。」
エースは自分の手を開いてカイドウに見せるように向けた。
すると、険しかったカイドウの表情が一変する。
「ウオロロロロロロ!!確かにその金貨はおれがやったモンだ!
レオヴァの奴、あんな昔にやった金貨を使わずにまだ持ってやがるのか!
で…そりゃいつの話だ、最近か?
まさかまだ持ってるんじゃねェだろうなァ?」
カイドウは笑みを隠す様子もなくエースに尋ねた。
「ん~……2年くらい前だったか?
でも、レオヴァはアンタから貰った物はどんな物より価値があるからとかなんとか言って大切にしてるみてェだったし…」
この言葉にカイドウは満更でもなさげに相づちを打つと、エースに向けていた威圧を消して言葉を紡いだ。
「…なんだってレオヴァがテメェに目を掛けてるかは知らねェが、逃がしてやる。
おれァ元から海軍と、
それに、これだけ大々的に処刑すると意気込んで結局逃げられたとありゃあ……
ウオロロロロ…海軍共をいい笑いもんに出来るじゃねェか!!」
上機嫌にそう言うとカイドウは巨大な龍の姿に変わっていく。
カイドウが獣型へ変身したことで静かだった広場にどよめきが走ったが、そんなことを気にする
「分かったらさっさと消えろ小僧。
おれァ暴れる…!!弱ェてめぇに足下でチョロチョロされちゃあ目障りだ。」
弱いと言う言葉に一瞬ムッとしたエースだったが、横にいたジンベエが割り込むように口を開く。
「恩にきる、レオヴァの親父さんッ…!この借りは必ず!!
行こう、エースさん!その腕も治療せんといかん!!
レオヴァの親父さんは不器用でああいう言い方しとるが逃げろと言うてくれとる!!
それにルフィ君も限界が近い……!」
「そうだな、ジンベエ……
レオヴァの親父、ありがとう。」
頭を下げるとエースはルフィに目線で合図を送り、走り出した。
去り際に此方を見ていた白ひげを視界に入れながら。
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「
カイドウが放った灼熱の一撃により何百もの海兵が吹き飛ばされ、広場に破壊の跡を残していく。
この事態に強い焦りを海軍は抱えていたが、他にも同じ思いを抱えている男達がいた。
その者達こそ、黒ひげ海賊団であった。
彼らは5人という海賊団と言うには少ない人数であったが、実力は確かだ。
しかし、そんな5人でさえ暴れまわるカイドウを前には二の足を踏まざるを得なかった。
世界最強の男白ひげと最強生物カイドウ。
今、2人が立っているこの戦場こそ間違いなく世界一危険な場所だろう。
「(どうなってやがる……レオヴァの次はカイドウだと…!?)」
苦虫を噛み潰したような顔で広場を睨む黒ひげことティーチだったが、覚悟を決めたように
「行くぞ、お前ら…!
この作戦まで諦めちまったら、完全におれ達の道は閉ざされる!!」
そう声を上げたティーチにバージェスが驚いたような顔で口を開く。
「本当に行く気かよティーチ船長…!!
確かに白ひげは死にかけだが、もう一人の四皇はどうすんだ!?」
「ホホホ……落ち着きなさいバージェス。
船長が行くと言うことは何か策があるからでしょう。」
声を荒げるバージェスをラフィットは上品な声で止め、ティーチを見た。
「策ってほど立派なモンじゃねェが……現れたのがカイドウだったのは不幸中の幸いだ!
アイツは
まぁ、逃げたきゃ逃げりゃあいい強制はしねェさ…だが、おれは行く!
これがどう転ぶかは賭けだが、やってみなきゃ始まらねェだろう!?」
そう言って不敵に笑い広間に向けて歩きだしたティーチに、
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逃げる海賊を追おうとする海軍だったが、2人の怪物にそれを阻まれていた。
しかし、更にはそれだけでは
逃げる海賊達は後方から感じる激しい戦闘の気配に、足は止めずに何度も後ろを振り返っていた。
そこには身命を
だがそんな中、白ひげの怒りと驚きに満ちた声が海賊達の耳に届く。
「……ティーチ…!!」
突如現れた黒ひげことティーチは4人の部下を引き連れながら、大袈裟に両腕を開いてみせる。
「ゼハハハハ!!久しいな!!
…死に目に会えそうでよかったぜオヤジィ!!!」
鋭い眼光で此方を見る白ひげに怯む素振りもなく、ティーチは笑っている。
黒ひげ海賊団の登場に広場全体が注目する中、センゴクは苦虫を噛み潰したような顔で拳を握り締めた。
「黒ひげ、貴様なにをしに来た!?」
「なにをだって?
ゼハハハハ……七武海としての仕事をしに来てやったってのに、ずいぶんな言い種じゃねェかよ!!」
「ふざけるな…!!!
かけた召集に音沙汰もなく、今さら現れて七武海としての仕事をしに来ただと!?」
センゴクが叫び終わるとほぼ同時に、マリンフォードが大きく揺れティーチを潰す程の衝撃が襲い掛かった。
「ッ……!!
容赦ねェな…!!いや、あるわけねェか!!」
ティーチは瓦礫から這い出ながら、この衝撃波を放った白ひげを見た。
「…ハァ……てめぇだけは息子とは呼べねェな!!ティーチ!!
おれの船のたったひとつの鉄のルールを破り……お前は仲間を殺した。」
ティーチへ向けて一歩前にでた白ひげにマルコ達が声をあげる。
「「「オヤジッ…!!」」」
「手ェ出すんじゃねェぞマルコ!!
4番隊隊長サッチの無念!!このバカの命を取っておれがケリをつける!!!」
死にかけているとは思えぬほどの威圧感を放ちながら前へ出た白ひげから距離をとるようにティーチは飛び退くと、大声で言葉を投げかけた。
「待てよ、オヤジ!!
そしてマルコにイゾウ!!」
マルコとイゾウは名前を呼ばれるとは思っていなかったのか、驚きと不快感の混ざりあった表情でティーチを見た。
ティーチは此方に目線が向いたことにニヤッと笑うと、言葉を続ける。
「おれァ、確かに鉄のルールを破りサッチを殺した!
そのおれが憎いのは分かる。
……けどよォ、“おでん”を殺したカイドウも憎いハズだろ!?」
おでんと言う名に白ひげ達は目を見開くと、その反応を待ってたとばかりにティーチは言葉を続ける。
「おでんはワノ国で殺された…!!
だが、オヤジは仇討ちに行かなった。
それは何でだった?
……ワノ国の入国が難しく、カイドウの持つ戦力が多すぎたからだろ!?
だが、今は違う!!!
ワノ国から出てきてカイドウ一人でこの場所にいる!!
殺るなら今じゃねェのかよ!マルコォ!イゾウォ!!」
マルコはティーチを鋭い瞳で睨み、イゾウはティーチの言葉に思わずカイドウを見た。
ずっと心の奥底にあったイゾウの想いがゆっくりと首をもたげてくる。
あの方を……おでん様を死に追いやった男、恨む気持ちがない筈がない。
その想いがふつふつと沸き上がってくるイゾウは無意識に広間の方へ足を向けていた。
「オヤジィ……サッチの仇は取ろうとすんのに、おでんの仇は取らねェ気かよ!?」
「ティーチ、てめぇにそんな事を言われる筋合いは…」
白ひげが怒りに満ちた瞳で言葉を紡いでいると
次の瞬間ティーチが無数の風の刃で斬られ、体から鮮血が溢れだした。
「ぐぉッ…!痛ェ……!!なんだってんだッ!?」
ドサリと倒れ混み呻くティーチを、人の形に戻ったカイドウが鬼の形相で視界に捉えている。
「レオヴァとの遠征が延期になった
挙げ句、
叫んだカイドウはそのまま黒ひげに向かって前進するが、その行く手を白ひげが塞ぐ。
「なんのつもりだ白ひげのジジイ…!!」
怒鳴りつけるカイドウを見据え、白ひげは小さく息を吐いた。
「ずっと考えてた、おれァ
……何年も前にオロチとかいう野郎に処刑されたって話を聞いた…その場にお前もいた事もな。」
それは大きな声ではなかったが、強く想いのこもった声だった。
マルコ、そしてイゾウも息を飲んで白ひげとカイドウを見守る。
「おでん……あの侍か。
アイツはおれの息子を斬りつけやがったからなァ…覚えてるぞ。
確かに処刑場にいたが……ジジイ、テメェはおれの息子を殺そうとした野郎がすぐそこに居るってのに黙ってろってのかァ…?冗談じゃねェぞ!!」
怒りの声と共に
すると2人を中心に爆風のような強い風が巻き起こり、辺りにいた人々が木の葉のように薙ぎ倒されていく。
カイドウの重い一撃を受け止め、そのまま力任せに白ひげは弾き返した。
押し返されたカイドウは特に体勢を崩すことなく、少し後ろへ着地すると苛立ったように金棒を地面に突き立てる。
だが、
今のカイドウの答えを聞いた瞬間、白ひげは腹を決めたのだ。
白ひげは
おでんは自分の生き様を貫き、相対したレオヴァは自分の守るべき者の為に敵を討った……それだけのことだ。
けれども、そう言い聞かせたところで人の気持ちというものは完全に割りきれるものではない。
先ほどのティーチの言葉で、確かに仕舞った筈のおでんへの想いが顔を出したのは事実だった。
だから、白ひげは前へ進むカイドウを阻み声をかけたのだから。
そして、カイドウの答えはまさに“今の自分”である。
それをカイドウはしたに過ぎなかった。
なにより、そんな言葉があの暴れん坊小僧だったカイドウの口から出たことが白ひげを驚かせたのだ。
怒りや恨み言がまったくないと言えば嘘になる。
だが、白ひげは“納得”を得た。
一方、黙り込んでカイドウと対峙する白ひげを見たティーチは気付かれぬように笑った。
そして数ヶ月前に百獣海賊団の貨物船を襲って手に入れた武器を仲間達と共に構える。
それはほんの一瞬の油断で引き起こされ、数秒の間に行われた集中射撃。
その音が止むと、まるで時が止まったかのような静寂が訪れる。
白ひげの体から止めどなく流れる血が地面に垂れると同時に白ひげ海賊団の悲鳴のような叫びが、その静けさを破った。
「「「「オ、オヤジッ…!!?」」」」
その場で立ったまま、おびただしい量の血を流す白ひげの姿を見てティーチは引き吊った笑みを浮かべた。
「ッ…ゼハハハハ!!
野郎共、例の準備を……」
ティーチが仲間を振り返る。
その時何百発もの弾丸を浴びせられ、死んだ筈の白ひげの口がゆっくりと開いた。
「……お前じゃねェんだ…ハァ…ッ…」
「…!?
まだ生きてんのか!?
この弾は特別な火薬と毒薬で出来てんだぞ!?」
予想外の展開に腰を抜かしたティーチを白ひげは見下ろす。
既に生き絶えていても可笑しくないほどの怪我を負いながらも、白ひげは言葉を紡ぐことを止めなかった。
「ハァ…ロジャーが待ってる男は……少なくともティーチ、お前じゃねェ……ハァ…」
「あ!?」
「ロジャーの意思を継ぐ者達がいるように…
“血縁”を絶てども
…そうやって遠い昔から脈々と受け継がれて来た…!!
そして未来……いつの日かその数百年分の“歴史”を全て背負って、この世界に戦いを挑む者が現れる…!!
センゴク、お前達“世界政府”は…いつか来る……その世界中を巻き込む程の“巨大な戦い”を恐れている!!!」
白ひげの言葉にセンゴクの顔が確かに歪む。
「興味はねェが…あの宝を誰かが見つけた時……世界はひっくり返るのさ…!!
誰かが見つけ出す。その日は必ず来る。
“
「「「!!?」」」
この宣言はマリンフォードに居た人間だけでなく、中継を見ていた全ての人々に大きな衝撃を与えた。
もっとも海賊王に近いと言われていた大海賊から告げられた言葉はどんな人間の言葉よりも真実味を帯び、人々の耳へ届いたのだ。
「(……許せ息子達…とんでもねェバカを残しちまった……おれはここまでだ。
…お前達には全てを貰った。
感謝している…さらばだ息子達…!!)」
ゆっくりと白ひげの瞼が閉じられた。
死してなお、その体屈することなく。
敵を薙ぎ倒す姿は、まさに“
この戦闘によって受けた刀傷、実に二百六十と七
受けた銃弾、ニ百と五十二発……受けた砲弾四十と六発。
さりとて、その誇り高き後ろ姿には
…あるいはその人生に
一切の“逃げ傷”なし!!!
「「「オヤジィ……!!…っ…うぅ…!!」」」
「し、死んでやがるのか……」
壮大なその死に
かつてこの海で“海賊王”と渡り合った男。
白ひげ海賊団船長“大海賊”エドワード・ニューゲート、通称“白ひげ”。
マリンフォード湾岸にて勃発した白ひげの海賊艦隊VS海軍本部、王下七武海連合軍による頂上決戦にて…死亡。
悲しみに溺れる白ひげ海賊団達だったが“最後の船長命令”を守るために再び動き出す。
一方、呆けていたティーチもやっと事態を飲み込み声を発した。
「ハァ……ハァ…ゼハハハハ……さァ始めるぞ!!」
その掛け声と共にティーチの仲間達が真っ黒い巨大な布を白ひげに覆い被せる。
その意味の分からぬ行動に周りの人間が眉を潜めた。
「あいつらまだ何かする気だ!!」
「ティーチの野郎、死んだオヤジに何を…!!!」
「これ以上、何かオヤジにやろうってのか!?」
白ひげ海賊団の人間は怒りに血走った目でティーチを見るが、地形が変形し真っ二つに裂かれた向こう岸での事に手出しが出来ずにいた。
悔しさや怒りに震える白ひげ海賊団、そして警戒と困惑に満ちている海軍にティーチは不敵に笑って見せ、黒い布に手をかけた。
「ゼハハハハ…見せてやるよ最高のショーを!!」
そう言って黒い布の中にティーチが入ろうとした時だった。
空から大量の槍が白ひげの亡骸付近に次々と降り注いだのだ。
「なんだ!?なにが起こってる!?」
「ティーチ船長、大丈夫か!?」
「不味いですね…!一旦下がってください船長!!」
黒ひげ海賊団は槍の雨から逃れる為に後ろへ飛び退いた。
「なんだありゃ!?」
「おい、オヤジの遺体が危ねェんじゃ!?」
「陣形を維持したまま、一時退避せよ!」
黒ひげ海賊団だけでなく、海賊達も海軍も突然降り注いだ槍に動揺し慌て始める。
広場の人間達が混乱を極める中、カイドウだけは槍を見て笑った。
槍は数百本もの数降り注ぐと、ピタリと止まる。
そんな唖然とする広場で誰かが言葉をこぼした。
「…白ひげの遺体にだけ……槍が当たってないぞ……」
その言葉にハッとした顔でティーチが遺体を見る。
そして、近付こうと動いた時だった。
何かが風を切る音に周りの人間が気付いたその瞬間、ティーチとその仲間達が吹き飛び瓦礫の山へと打ち付けられていた。
そして、ティーチがいた場所には着物を着た凛々しい青年が立っている。
次々に起こる出来事に周りの人間がついて行けずに固まっていると、瓦礫を払いのけ起き上がったティーチが声を荒げた。
「てめェ……レオヴァ!!」
レオヴァと呼ばれた青年は周りの槍を消滅させると、普段の微笑みが消えた険しい表情で口を開いた。
「この白ひげの遺体、お前には指一本触れさせねェ。」
低い声で告げたレオヴァの顔には覚悟があった。
海軍と海賊達は流れに付いて行けずにポカンとするが、レオヴァに気付いたエースが叫ぶ。
「…レオヴァ!!」
その叫びにレオヴァは振り返ると少し眉を上げた。
「エース、
「あぁ、レオヴァの親父が助けてくれたんだ!」
「……父さんが…?」
珍しく驚いた顔になったレオヴァは少し先にいるカイドウへ顔を向けた。
カイドウは自分を驚きの目で見ているレオヴァに大きな足音を立てながら歩み寄ると、心なしか弾む声色で告げた。
「あのジンベエが庇うってことァ見所もあるんだろ…その小僧は見逃してやることにした!!」
「…なるほど……父さんが
レオヴァの最後の言葉は誰にも聞き取れぬほど小さかったが、すぐに普段の顔に戻るとカイドウを見上げる。
一瞬、難しい顔をしていたレオヴァにカイドウが小首を傾げ、理由を尋ねようとした時だった。
「なんだってテメェがオヤジの肩を持つ!!?
インペルダウンの一件といい、カイドウのこのタイミングでの襲撃といい……まさかオヤジと組んでやがったのか!!」
血を吐きながら叫んだ黒ひげをレオヴァは冷たい目で見下ろした。
「白ひげとは手を組んでなどいない。
……だが、敵であろうとも敬意を払うべき相手とそうでない相手がいる。
そして白ひげは敬意を払うべき相手…と言うだけだ。
黒ひげ、お前とは違ってな。
それにしても父さんの言葉を遮るとは……」
殺気立つレオヴァの後ろで、カイドウは立ったまま勇ましく生涯を終えた白ひげを真っ直ぐに見ていた。
そして、徐に口を開く。
「…レオヴァ、おれァ白ひげのジジィには
珍しく静かな声で告げられレオヴァは驚いた顔でカイドウを見たが、すぐにいつもの笑みを浮かべると言葉を返した。
「勿論だ、父さんが言うなら立派な物を用意しよう…!」
その言葉に満足げな顔になるとカイドウは金棒を握り直した。
「そうと決まりゃあ、レオヴァ!
まずはあの馬鹿と海軍を潰し、ここを更地にしちまおうじゃねェか…!!
手始めに一発、デカイのを見舞うぞ!!!」
「“アレ”をやるのか…!
父さんとの海賊業は久々だな!!」
ご機嫌に金棒を地面に突き刺すとカイドウは再び巨大な龍の姿となり、レオヴァも巨大な鳥の姿へと変貌を遂げる。
明らかに異様な威圧感を放ち始めたカイドウとレオヴァに広場にいた人間は慌て出すが、時既に遅し。
「行くぞレオヴァ、合わせろよォ!?」
「任せてくれ、父さん…!!」
巨大な龍と巨大な鳥はその巨体に見合わぬ速さで
「「
カイドウとレオヴァの声が重なった。
その瞬間広場にカイドウが巻き起こした大竜巻きが無数に現れ、レオヴァの造り出した槍を何万とその中に
じわりじわりと進行する大竜巻はその風力で海兵を呑み込み、何万本もの槍は海兵達の体を貫いていく。
だが、それだけでは終わらなかった。
鼓膜を破るようなけたたましい音が響くと、その竜巻に無数の雷が降り注いのだ。
その雷は電流となると
何万本もの槍の間を駆け巡りながら無数にある大竜巻の間を飛び交い、竜巻に呑み込まれていなかった海兵達も丸焦げにしていった。
そしてカイドウとレオヴァが人の形に戻り地に立つ頃には殆どの海兵が黒く焼け焦げ、空からは槍の刺さった海兵がボタボタと降り注いだ。
たった一回の技だ。
そのたった一回のニ人の技で広間は屍の海と化したのだ。
生き残っていた海兵達は言葉を失ってしまい。白ひげの作り出した亀裂のおかげで運良く対岸にいた海賊達も同様に言葉を失っている。
まさに圧倒的であり、理不尽な“力”であった。
逃げ惑っていた海兵達が肩で息をしている音が妙にクリアに聞こえる中、いつの間にか出来ていた瓦礫のドーム状の何かが破裂し、その穴から四人の男が現れた。
「おい、レオヴァ…!
てめェが中継を止めろと言うから船から降りたってのに、結局自分で電伝虫を壊してんじゃねェか!!」
「おい、バレット…レオヴァさんへの口の利き方を改めろ!」
「小僧…口の利き方を改めるのは貴様だ!
おれァ部下になった覚えはねェ…!!」
「バレット、ロー……落ち着け!」
「……今の技、おれたちも食らってたらタダじゃあ済まなかっただろ…
バレットのドームがなきゃあ、危なかったぜ。」
現れた男達を見て、海兵達は思わず声を上げた。
「あ…あれは!?」
「百獣海賊団幹部のX・ドレークにトラファルガー・ロー!?」
「待て…何故シリュウ看守長が!?」
「そ……そんな…馬鹿な!?
ダグラス・バレットがなぜ百獣といる!?」
ざわつく海軍を無視してズカズカとバレットは歩き出し不満げな顔で口を開こうとしたが、それよりも先にレオヴァは言葉を発した。
「悪かったバレット、父さんとの合わせ技は久々でついな…」
「つい、じゃねェ…!!
だったらおれも最初から暴れさせろ!!!」
怒鳴るバレットの威圧をレオヴァが笑顔で受け流しているとカイドウが眉間に皺を寄せる。
「レオヴァ、コイツはなんだ?」
「そうだ、紹介が遅れてすまない父さん…
あそこにいるシリュウはウチに入りたいらしい。
バレットとは契約したんだ……まぁ、新しい身内だ!」
「だから身内じゃねェと散々…!!」
レオヴァの言葉に噛み付くバレットにカイドウは笑う。
「ウオロロロロロ…!なかなか強そうな奴じゃねェか!!
こりゃ組手も盛り上がる…!!」
「……親子揃ってか…!」
レオヴァと同じような事を言うカイドウにバレットはゲッソリした表情で呟いた。
だが、新たな大物の登場に動揺が隠せない海兵達の後ろからセンゴクが声を上げた。
「シリュウ…!貴様!!
マゼランはどうした!?インペルダウンはどうなった!?
何故貴様が百獣と共にいる!?」
叫ぶセンゴクを目線だけでチラッと見ると、シリュウは葉巻の煙をゆっくりと吐く。
「インペルダウンの状態はてめェらで後で確認しな…
落ち目の奴らに監獄で拘束され続ける余生なんてのは御免だ……おれにチャンスをくれると言った、てめェらと違って話の分かるレオヴァに付いていくことにした。
…以後、よろしく。」
そう言い捨てたシリュウをセンゴクは鋭い目付きで睨み付ける。
「う、嘘だろ……シリュウ看守長は裏切ったのか!?」
「いや、それよりあのバレットをどうやってまた捕まえるんだ!?」
「百獣のカイドウと幹部達を今から相手にするなんて…無理だろう…」
どんどん士気が下がっていく海兵達に、突如サカズキの声が届く。
「ハァ…ハァ…貴様ら…何故海賊に背を向けようとしちょる?」
ボロボロになりながらも睨みを利かせるサカズキに海兵達は思わず息を飲んだ。
「サッ…サカズキ大将……その…」
「無理ですよサカズキ大将…!あんなっ…勝てるわけない!!」
「立て直す為にも撤退を……」
「帰らせてくださいっ……おれを待つ家族のもとへ!!」
恐怖や絶望が入り交じった震える声で口々に海兵達はサカズキに訴える。
だが、サカズキはそんな海兵達をゴミを見るような瞳で見下ろすとマグマを滾らせた。
「海賊に背を向けるような……正しくもない兵は海軍にはいらんッ…!!!」
サカズキが腕を振ると、必死に訴えていた海兵達は溶岩の餌食となった。
狂気的とも言えるその惨状を見ていた海兵達に一気に緊張が走る。
多くの海兵が注目する中、サカズキはカイドウやレオヴァ達へ向けて歩き出すと鬼気迫る剣幕で叫んだ。
「海賊という“悪”を許すな!!!」
その叫びはまるで呪文の様に辺りの兵士達を動かした。
血走った目で百獣海賊団へ突撃を開始した海兵の目には怯えが浮かんでいるが、止まることは出来ない。
正面には百獣海賊団という地獄が構え、かといって後方に下がれば待つのは焼死という絶望だけだ。
海兵達はただ前進する肉壁と化した。
まさにこの世の終わりの様な顔で突撃を始めた海兵達横目に、レオヴァはローに耳打ちをする。
「……分かった。
じゃあ、おれはアイツを回収したら先に船に戻る。」
そう言って消えたローの気配を追いつつ、レオヴァはカイドウに目をやった。
するとカイドウは楽しげな顔で口を開いた。
「ウオロロロロロ……バレットにシリュウだったか…?
ちょうど良いじゃねェか。
このマリンフォードで実力を見せてみろ!!」
「……フンッ、言われずともレオヴァとの契約がある。」
「ここで実力を示せば、そこそこの地位も期待していいのか?」
バレットは勝手に飛び出して行ったが、シリュウはカイドウに質問を投げ掛けた。
質問にカイドウは豪気な笑みを浮かべ言葉を続ける。
「ウチは実力主義だ!!
てめェが強けりゃすぐに幹部にしてやってもいい…!」
「そりゃ、俄然やる気がでるってもんだ。」
ニヤリと口角を上げ、刀をシリュウが抜いた時だった。
カイドウを中心に広範囲を凄まじい衝撃波が襲った。
足場が砕ける音と巻き起こる突風に海兵達は目を見開き、歓声を上げる。
「センゴク元帥だ…!!」
「凄い…!直撃したぞ!?
百獣海賊団の奴らもただじゃ済まない!」
「そうだ!元帥や大将もいる!!
このまま行けば負けるはずないんだ!」
海兵達の下がっていた士気がまた戻ろうとした時だった。
辺りを包んでいた砂埃が風により一瞬で散ったかと思うと、そこには巨大な鳥がカイドウ達を守るように翼を大きく広げていた。
「百獣の息子…!
まさかこれ程とは……甘く見ていたか!!」
大仏の様な姿で顔を歪めるセンゴクとは対照的に、レオヴァの翼の内側にいたシリュウは少し驚きの混じった声を出す。
「……レオヴァを選んだおれの目に間違いはなかった訳だ。
まさかセンゴクの奴の一撃を防ぎきるとはなァ……」
「今の一撃…!
おれたちには砂埃ひとつかからなかった…!!」
流石だと感激したような顔で巨大な鳥になっているレオヴァを見上げるドレークの斜め前では、カイドウが口をへの字に曲げる。
「おいレオヴァ…!
ったく、わざわざお前が受ける事ァねェだろう!!」
「すまない、父さん。
不意の一撃が
また人の形に戻ったレオヴァの顔をじっと見るとカイドウは少し目を細めた。
「……レオヴァもあのバレットとか言う奴も疲れが見えるが、やれるのか?」
「勿論だ、その為に来た。」
「そうか…!
レオヴァ、それでこそおれの息子だ!!」
間髪入れずに答えたレオヴァに満足げに笑うとカイドウは金棒を担ぐ。
「行くぞ、レオヴァ…!!久々に楽しもうじゃねェか!!!」
前進を始めたカイドウに、レオヴァも楽しげな笑みを浮かべながら続くのだった。
ー後書きー
白ひげ:戦死、最期まで強く勇ましい漢だった。
カイドウ:突然現れて好き勝手し出した黒ひげにイラつき殴ろうとしたら、レオヴァが先に蹴り飛ばしたのでニッコリ。『流石はおれの息子だぜ…!』
レオヴァ:“ある回復薬”によって復活したが、完全復活ではない。
着いた瞬間黒ひげが“アレ”をやろうとしていたので、いの一番に船から飛び降りて蹴り飛ばした。
今回の遠征はやむを得ず延期にしたが本当はめちゃくちゃ遠征楽しみにしてた。
ロー:レオヴァから最重要任務を頼まれた。
黒ひげ:カイドウとレオヴァの地雷の上でタップダンス
その後2人の合わせ技が直撃し気絶中、何とか直撃を免れ意識を保っているラフィットが黒ひげを担ぎ逃走を試みている。
センゴク:あらゆる意味で大ピンチ。
【中継について】
レオヴァの指示で止めるべく4人は動いていたが、結局レオヴァの降らせた槍で壊れていたので骨折り損である。
【エースについて】
カイドウ:レオヴァの友人だと言うので見逃してやることにした。
今のところエース本人には、さして興味はない。
レオヴァ:父さんが見逃してやると言うので逃がすことにした。
元々エース本人には恨みはないので生死に興味はない。
ただ、将来的に麦わら側の人間になる可能性が高いので警戒はしていた。
結果:カイドウとレオヴァの小さなすれ違いによりエース生存。
ルフィは力尽きてジンベエに担がれている。
ー追記ー
ご質問等を下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio
既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!