百獣海賊団が世間を騒がせている今。
革命軍も例外なく、この事件へ強い関心を寄せていた。
マリンフォードの陥落。
それは世界政府への攻撃を容易にさせてしまう、最悪の事態だろう。
だが、革命軍にとってそれは好都合であった。
世界政府が弱まり、彼らの意識が百獣海賊団へ集中すれば革命軍の活動が一気にやり易くなるのだ。
各地での革命も、諜報活動も。
この機を逃す手はないとドラゴンは各地にいる仲間達へ伝令を飛ばした。
だが、追い風になり得るこの状況を利用すると同時に、ドラゴンは警戒もしていた。
何故、百獣海賊団はマリンフォードを手に入れたのか。
その理由が、未だ定かではないと言うのが不気味だった。
百獣海賊団はマリンフォードを手に入れたと言うのに、あれから大きな動きを起こしていないのだ。
現在の目立つ動きといえば、マリンフォードに工事を施しているという事くらいである。
あの海軍が
……それこそ、あの“聖地”と呼ばれる場所にもだ。
けれど、先ほど述べたように、
百獣海賊団に大きな動きはない。
マリンフォードと言う、あらゆる面で重要な拠点を手に入れておきながら何もしないなんて事があり得るのか?
とドラゴンは深読みを続けた。
そして、もしかしたら何かの前準備なのかもしれないという結論にドラゴンは至る。
しかし、有力そうな情報元から得た話はドラゴンの読みとはかけ離れたものばかりであった。
まず1人目。
革命軍に所属し、現在は潜入捜査中の青年“C"の発言をみてみよう。
『今回の事件の内容を聞いた感じなんですが……あれはレオヴァさんの考えというよりも、レオヴァさんのお父さんが暴れ始めちゃって
それにビックリしてレオヴァさんが止めに来た感じに、ぼくには見えましたね……
もし、本当に最初からマリンフォードが狙いならエニエスロビーと……
それこそ半壊させたインペルダウンにも手を回して、三ヶ所同時に手に入れるって方法を取ると思います。
レオヴァさんは心配性と言うか…完璧主義というか……なので中途半端に1ヶ所だけ奪うなんて事しなさそうで……
……あと、レオヴァさんって
他にやることがあってもお父さんの為なら飛んで行くような人なんですよ。
マリンフォードを手に入れる為に来たというより、たまたま手に入りそうだし奪うか!ってレオヴァさんのお父さんが軽い気持ちで判断してそうというか……
あ、あははは……いや~、本当にレオヴァさんのお父さんは規格外ですから……
正直、常識的な思考でどんなに考えても無駄だと思います……はい……』
と、苦笑いを溢しながら証言していた。
2人目は。
革命軍に所属するとある魚人の友人であり、あの事件の現場にいた魚人“J”の発言だ。
『ワシはレオヴァの事じゃ、カイドウさんの助太刀に来ただけじゃと思うとる。
インペルダウンで
カイドウさんが暴れとると聞いて、急いで駆けつけた……と言う風に見えたが……
しかし、結果的にマリンフォードを落としたのには驚いた!
いつもの様にカイドウさんが暴れたら流れで手に入れてしもうた言う所じゃろ。』
と、愉快に笑いながら証言していたと言う。
3人目は。
百獣海賊団に友人が所属していると言う、現在魚人街住みの“H”の発言だ。
『にゅ~……あんまり詳しいことはおれにも分かんねェ……
けど、なんか今回の事件はレオヴァさんの作戦?には思えねェんだ……
力業すぎるって言えばいいのか?
どっちかと言うとカイドウ様っぽいよなぁ~。
……ハッ!もしかしたら、カイドウ様発案の作戦なんじゃねェか!?
にゅ~?そうすると、なんでカイドウ様はマリンフォード欲しがるんだ??
ダメだ、やっぱりおれに分かんねェよ~……ごめんな~!』
と、証言の後に申し分けなさげに謝っていたらしい。
上記の3人の発言以外にも、多くの発言をあらゆる手段で手に入れていたドラゴンだったが
その大半が
“今回はレオヴァらしくない”
“カイドウの暴走じゃないのか?”
“百獣は世界政府に関心はないのでは?”
と言うものばかりであったのだ。
自分の考えとは違う周りの発言を視野に入れつつ百獣海賊団の動向を探りながら、ドラゴンは厚い信頼を置いているサボにも意見を求めた。
サボはドラゴンの問いに少し考える素振りを見せた後、全部個人的な考えだと前置きをして言葉を続けた。
「ドラゴンさんの言う通り。
おれも何か目的があるんじゃないか、と思ってます。
逆に何の目的もなく、本当に暴れてたらたまたま手に入る確率って何パーセントです……?
ただ、やはり百獣海賊団への深い接触はまだ時期尚早かとも思います。
どういう理念を掲げているのか、まだ完全に分かっていない以上危険です。
何より、もしも百獣海賊団とぶつかる事になったら、革命軍は壊滅的な損害を受けることに……」
「やはり、サボもそう考えるか……」
自分と近い考えを述べたサボの言葉にドラゴンは頷く。
「そもそも、なんの意味もなく
「それはおれも引っ掛かっていた。
……何故、カイドウが処刑場に現れ火拳を逃がしたのか。
正直、今ある情報だけではまったく見当もつかない。」
そう言って唸るドラゴンと共にサボは辺りがすっかり暗くなるまで談義を続けるのであった。
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あれから約1ヶ月。
マリンフォードでの一件が冷めやらぬ中、新たな話題が上がっていた。
またも話題の中心に上がっているのは百獣海賊団だ。
今度の内容は
魚人島、白ひげ海賊団のナワバリから百獣海賊団のナワバリへ!
と言うものである。
世間はこの話題について
“百獣海賊団が白ひげ海賊団から奪った”
“魚人島が
“白ひげがいない今、白ひげ海賊団は百獣の傘下に下った”
などの、あらゆる憶測や噂を広げていたが
どれも事実とは程遠いものばかりであった。
しかし、事実とは程遠い噂話ほど広がるのは早く
白ひげ亡き今がチャンスだと押し寄せていた海賊達や人攫い達の足は、百獣海賊団と言う名の前にピタリと止まったのだった。
── 時は少し遡り、魚人島にて。
深海の中にある竜宮城の客間の中央には
ネプチューン王、オトヒメ王妃、フカボシ王子の三人が並んで座しており
その右手側にレオヴァ、反対の左手側にマルコが座っていた。
「……という訳で、雪崩れ込んで来た海賊達は魚人街に派遣されていた百獣海賊団の皆と駆けつけてくれたページワンという青年のおかげで無事なんじゃもん。」
ネプチューンの言葉にマルコは申し訳なさそうに顔を歪めた。
「すまねェ、ネプチューン王。
オヤジが亡くなったとたん、一気にここに攻めいる馬鹿が出ることは予測してたのに……間に合わなかったなんて、不甲斐ねェよい……!」
頭を下げるマルコをネプチューン王達が止める。
「止してくれんか、マルコ。
もともと善意で守ってくれていた事に、頭が上がらないのはこっちなんじゃもん。
それに、今は君らも大変な時期……余計な心配をかけて逆に申し訳ないんじゃもん……」
「えぇ、今まで助けてくれてたあなた方を責める者は1人もいないわ。」
「……ネプチューン王にオトヒメ王妃……」
優しい声と表情の二人にマルコは眉を下げる。
そして、今度はレオヴァに向き直るとまた頭を下げた。
「また、借りが増えちまったねい……!
おれ達に代わり、ここを守ってくれて何と礼を言えばいいのか……」
「気にしないでくれ。
魚人島の皆とは長い付き合いだ。
なによりフカボシ達が……友が困っていれば助けるのは当然、マルコがおれに頭を下げる必要はまったくない……顔を上げてくれないか?」
レオヴァの言葉にマルコは顔を上げる。
目の前にはフカボシを友と呼び、穏やかな佇まいのレオヴァがいた。
魚人島での
白ひげ海賊団の皆で決めたとはいえ、内心では言おうか迷っていた言葉をマルコは口にした。
「……今のおれ達じゃ、オヤジみてぇに魚人島は守れねェよい……
だが、百獣海賊団は違う。」
マルコの言わんとする事を察したネプチューン王が目を見開き、慌てて口を開いた。
「な、何を言い出すんじゃもん!!
ここはずっと白ひげ海賊団のナワバリとして……」
ネプチューン王のその言葉をマルコは断腸の思いで遮る。
「確かに、ずっとここはオヤジのナワバリだった。
……けどネプチューン王、考えてもみてくれよい。
義理を通してくれんのは嬉しい……おれもここは好きだ。
だからこそ、平和なままでいて欲しいんだよい。
……きっと、オヤジもそう思ってる。」
静かな優しい声にネプチューン王達はマルコの想いと強い覚悟を感じ、口を閉じた。
「……レオヴァ、お前の話はネプチューン王からも街のみんなからもたくさん聞いたよい。
あの驚くぐれぇ綺麗になった魚人街を作ったのも、住んでた奴らを救ったのも……レオヴァ、お前だってねい。
あの荒れてた魚人街を立て直すってのはオヤジには出来なかったことだ。
……見た目通り、オヤジは少し不器用だったからねい……」
懐かしむように目を細めると、一度深呼吸をしてマルコは落ち着いた声色で続ける。
「こんだけ魚人島のみんなから信用されてるレオヴァを見込んで……ひとつ、頼まれちゃくれねェか?」
真っ直ぐとレオヴァを見据えてマルコは言い終えた。
レオヴァもその言葉を受けて、同じく真っ直ぐとマルコを見据える。
「……今、この時期に魚人島を百獣海賊団のナワバリにすると宣言すれば世間からどう言われるか、分かっているのか?」
「……そうだねい。
けど、海賊ってのは元々世間からの風当たりは強いもんだよい。
なにより残った仲間達が構わねェって言ってるんだ。」
ニッと笑って見せるマルコにレオヴァは眉を下げる。
「……世間の風当たりもそうだが、同時に白ひげ海賊団に手を出してくる輩も増えるんじゃないのか?」
「それも覚悟の上だよい。
まぁ、手を出してくる馬鹿共には、簡単にやられる程おれ達は甘くねェって逆に教えてやるさ!
それに最近じゃあ、
マルコの海賊らしい言葉に、やっとレオヴァは笑みを浮かべて見せた。
「そうか……そうだな。
今の発言は取り消そう。
余計な世話というやつだったな。」
「そんなことないよい。
……色々あったが、
「…
マルコも分かるだろう?」
困った様に笑うレオヴァに、マルコも笑いかける。
「はははっ!確かに!
おれらは感謝されることなんて滅多にないからねい。」
「そうだろ?
だからもう本当に気にしないでくれ。
父さんもマルコがくれた秘蔵の酒で満足だと言っていたしな。」
「そりゃあ、良かった!
……なら、言葉に甘えさせてもらうとするよい。」
そうして、レオヴァとマルコが会話を続けた末。
ネプチューン王達の同意を得て、ナワバリを白ひげ海賊団から百獣海賊団へと譲渡した。
……というのが事実であった。
この事実は魚人島にて公表されていたが、真実は綺麗に流れることはなく。
ネジ曲がった話が世間へと広まって行ってしまったのだ。
こうした経緯でまた百獣海賊団は世間を騒がせていたのだが、渦中のカイドウがこの世間の噂話の内容を知るのはもう少し先になることだろう。
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── 時は戻り、現在。
白ひげ海賊団は一刻も早く落し前を黒ひげこと、ティーチにつけさせる為に立て直しを図っていた。
新たな船長、ポートガス・D・エースと事実上の副船長マルコ。
この2人を中心に少しずつだが、白ひげ海賊団は前のような活気を取り戻しつつあった。
未だに彼らが“白ひげ海賊団”を名乗るのは亡き白ひげの誇りを受け継ぐという強い意思があるからだ。
現に、新しい海賊船も昔と同じように“鯨”を模したものを造らせている。
他にもエースが船長になるまでに軽い騒動があるにはあったが、それはもう済んだ話である。
今いる白ひげ海賊団の中に不満がある者は一人もいない。
それはエースの人柄もあるが……
一番は、期待に応えようと努力する彼の姿が皆の心を掴んでいると言うのが大きいだろう。
そんなエースを眺めるマルコも心を掴まれた内の一人だ。
元よりエースが船長ということに反対する気はなかったが、心配はしていた。
ただでさえ、折れかけていた所からやっと立ち上がったばかりだと言うのに
“船長”という大役まで背負ったら、今度こそ本当に潰れてしまうのではないか?
そうマルコは懸念していたのだ。
しかし、フタを開けて見ればエースは潰れる所か益々勢いを増していった。
その守る者が多いほどに強くなる姿に、マルコは“懐かしい男の影”を見て小さく笑う。
まだまだガキだと思っていたエースの良い意味で想定外な強さは頼もしくもあり、同時に可愛い弟分の早すぎる成長に少し寂しくもあった。
などと建造中の船を眺めながら軽い感傷に浸っていたマルコに向かってエースが駆け寄ってくる。
「マルコ~~!!ここにいたのか!」
ブンブンと元気な笑顔で手を振る姿に
やっぱりまだガキだねい、と笑いつつマルコも軽く手を上げて返す。
「なんだよい、エース。
そんな嬉しそうな顔して。」
「へへ、実はルフィから“返事”が来たんだ!!」
そう言って紙を見せてきたエースにマルコはまた弟の話かと苦笑いを溢す。
どういう関係なのかはマルコ達も知らないが
現在、ルフィはアマゾン・リリーに匿われている。
そして白ひげ海賊団もエドワード・ニューゲートの墓のある島に身を潜めている為、盗聴の恐れのある電伝虫ではなく手紙にてやり取りをしているのだ。
マルコはエースから見せられた手紙を見て思わず和む。
そこには相変わらず、お世辞にも上手とは言えないミミズのような文字達がいた。
「修行始めた、エースより強くなる。朝飯肉だった!……か。
はははは!相変わらずお前の弟は元気そうだねい!」
「おう!
ま、ルフィがおれに勝つなんてあり得ねェけどな!」
嬉しそうに笑うエースにマルコも微笑む。
「なら、午後からまたやるとするかねい?」
「いいのか!?
よし、今度こそおれが勝つぜマルコ!!」
「言うねい、エース。
けど、まだおれに勝つには早いよい!」
不敵に笑うマルコにエースもニッと笑い返す。
残された者達が前を向くことで、白ひげ海賊団の日常は戻りつつあった。
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──ワノ国、鬼ヶ島にて。
「ま、まだ献ポポするのれす!?
お二人が倒れてしまったら……私悲しいれす……」
あわあわと可愛らしく慌てるマンシェリーにレオヴァは落ち着かせるように優しい声を出す。
「大丈夫だ、マンシェリー姫。
おれも父さんもこの程度で倒れるほど柔じゃない。
……それに皆の傷を治してやりたいんだ……
これはマンシェリー姫にしか頼めない……どうか、続けてくれないだろうか?」
眉を下げながら悲しげな瞳で見つめてくるレオヴァに、マンシェリーは言葉を詰まらせた。
そして、覚悟を決めたように顔を上げてレオヴァとカイドウに向き直る。
「分かりました!私に任せてほしいれす!!」
「ありがとう、マンシェリー姫。
……疲れたら休憩してくれて良いからな?」
「大丈夫れすよ!
いっぱい献ポポしてるカイドウ様とレオヴァ様がまだ頑張ってるんです、私ももっと頑張るれす!!」
そう言ってマンシェリーは献ポポを開始する。
そんな様子を退屈そうにひじ掛けに肘を突きながら、カイドウはぼうっと芝居じみた息子の表情を物珍しげに眺めるのだった。
あれから1時間近く献ポポを続けてヘトヘトになったマンシェリーを送り届け、部屋に戻ってきたレオヴァにカイドウは酒の瓶を手渡した。
レオヴァは受けとるとそのままカイドウの隣の座椅子に腰掛け、酒を呷る姿を見て微笑む。
「この酒は、度数は弱ェが味がいい……!」
「父さんが喜んでくれたなら、造った甲斐がある。」
嬉しそうに笑うとレオヴァも手渡された酒を呷る。
「……そういや、その献ポポってのでまた“あの薬”を作んのかァ?」
思い出したと言うように口を開いたカイドウにレオヴァは頷く。
「あぁ。前にあの薬……“回復薬”を使いすぎたから補給を、と思って父さんに協力してもらったんだ。
本来ならおれだけで済ます予定だったんだが、それだと減った分は取り戻せてもプラスにならなそうで……父さんの手を煩わせる結果に……」
苦肉の策だったと言わんばかりに顔をしかめるレオヴァにカイドウは思わず笑った。
「ウオロロロロ……!
そんな苦虫を噛み潰したような顔するんじゃねェよ、レオヴァ!
どうせ今日は夜まで時間はあったんだ、お前と昼から飲めんなら多少の退屈を我慢してやるくらい訳はねェ。」
「っ……父さん!
おれも昼から父さんと二人で飲めるなんて久々で……思わずマンシェリー姫を急かしてしまった。」
すっかり眉間の皺を消して無邪気な笑顔を向けてくるレオヴァに満足げな笑みをカイドウも浮かべる。
「……話は戻るが、その回復薬ってのは量産出来ねェとクイーンは言ってたが……どうなんだ?」
「クイーンの言う通り、量産は難しい。
父さんが相手だから白状するが……実はこの薬、本来は回復薬として作ってたワケじゃないんだ。」
衝撃の事実に珍しくカイドウが目を丸くする横で、レオヴァは事の
トンタッタ族を迎え入れてすぐ、クイーンとレオヴァの合同研究が始まったのだ。
その内容は“回復薬”の生成ではなく、“強化薬”の生成であった。
元々マンシェリーの能力は回復だというのに素直に回復薬を作るのではなく、強化薬を作ろうと意気込む辺りがクイーンとレオヴァの一筋縄ではいかない性格を
それはさておき。
その後、クイーンとレオヴァは献ポポを使い色々なものを生成していった。
その生成した薬の中には2人の構想に近い効果を発揮したモノもあったのだが、副作用を見たレオヴァによってストップが入ったりなど、研究は難航していた。
そんなある日、レオヴァが持って帰って来た植物と虫により研究の方向が一気に変わる事となる。
そのレオヴァが持ち帰って来た植物と虫の名は
“
長寿ツユクサは原住民達にあらゆる“怪我”に使える薬として使われており、レオヴァはその万能性に目をつけたのだ。
続けてその後、レオヴァはその植物を研究していく上でミツハリムシという存在も知ることになる。
この虫は長寿ツユクサを餌としており、体にある袋に蜜を溜め込む習性があるという事を早々にレオヴァは発見していた。
さらにその蜜は、ミツハリムシが一度体内に取り込むことで性質が変化しているという事実も突き止めたのだ。
そうして、これは使えると考えたレオヴァにより植物と虫は研究室へと持ち帰られたのだった。
この判断によって、クイーンとレオヴァの研究方針が変更となる。
……のだが、実は根本の原因はクイーンにあった。
急遽任務で研究室を空ける事になったレオヴァから頼まれていた長寿ツユクサの手入れをすっかり忘れてしまい、半数以上を枯らせてしまったのだ。
この事態はクイーンを今までに無いほど焦らせた。
カイドウが酔って暴れている時よりも顔を真っ青にさせたクイーンは必死に思考をフル回転させる。
……この頃には彼の頭の中からは、素直にレオヴァに謝るという選択肢はポロリと転げ落ちていた。
結果、無自覚に混乱していたクイーンは手元にあった献ポポをミツハリムシと長寿ツユクサを飼育しているゲージに入れてしまうという暴挙に出る。
数秒経っても萎れたままの長寿ツユクサにクイーンは右往左往しつつまた追加で幾つも献ポポを使い、仕事の為に一旦研究所を後にしたのだった。
その後、丸一日置いて研究室へ戻ってきたクイーンの顔には諦めが滲んでいた。
『……はぁ……終わった……貴重な材料だったし、レオヴァ怒るよなァ……』
クイーンとは思えぬほど小さな声で溜め息と共に吐き出された言葉に応えるものはいない。
しかし、目の端でゲージを捉えたクイーンは思わず盛大に2度見した。
昨日まで半数が枯れていたはずのゲージの中には綺麗な白い花で満たされており、心なしかミツハリムシのサイズも大きくなっていたからだ。
『……あれ……これって……ワンチャン、お咎めなしじゃね?』
やったぜ!!と思いっきりガッツポーズを決めるクイーンの背後から声が掛かる。
『お咎めって、クイーン……なにかしたのか?父さんに隠し事は駄目だぞ?』
突然聞こえたレオヴァの声にクイーンは目にも留まらぬ速さで振り返る。
『うおぉ!?!レ、レオヴァ!?
え、いつから!?てか、帰ってくんの明後日じゃねェの!?』
慌てに慌てるクイーンの姿にレオヴァは不思議そうな顔で首をかしげた。
『予定では明後日だったが、合同研究だと言うのにクイーンに任せっきりも悪いと思ってな。
おれだけ先に飛んで帰って来たんだ。
今回はジャックもいたからな、帰りを任せても問題ないだろう?』
挙動不審なクイーンの横をすり抜け、レオヴァはゲージを眺めながら言う。
『長寿ツユクサは手入れが難しいのに、一本も枯れてないな……』
小さく呟かれたレオヴァの言葉にビクッと大きくクイーンの肩は揺れ、一筋の冷や汗が背を伝う。
此方を振り向いたレオヴァに思わずクイーンは構えた。
……が、レオヴァの発した言葉はクイーンの予想とは全く違うものであった。
『正直、半分くらいは枯れてもしょうがないと思って予備の種を増やしておいたんだが……
これの手入れは色々と面倒だっただろう?
手間取らせてすまなかったな……ありがとう、クイーン。』
一切、疑うことなく向けられた感謝の言葉と微笑みにクイーンは耐える事が出来ずにその場に崩れ落ちた。
『クイーン……!?
ど、どうしたんだ……?』
突然の事に驚きながらもレオヴァは膝をつくクイーンの側へ行き、心配そうに背をさする。
その行動は更にクイーンの中に僅かにしかない小さな良心を締め付けた。
『っ……悪い!!レオヴァ!!
ワザとじゃなかったんだ……!!』
『ク、クイーン……?
待ってくれ、本当にどうした……?』
『実は……』
顔を両手で覆いながら真実を告白し出したクイーンの声を静かにレオヴァは聞いた。
話し終えても静かなレオヴァを、クイーンは恐る恐る指のすき間からゴーグル越しに盗み見る。
……が、バッチリとレオヴァと視線がぶつかってしまい、気まずさからクイーンは目を反らした。
『……なるほど。
一度は枯らせてしまったが、献ポポで復活させた……と。』
『お、おう……そうなんだよ。
おれも本当に復活するとは思わなかったんだけど~……てか、やっぱ怒ってる~…よな?』
伺うように覗き込んでくる動作は微笑ましいものなのだが、やっているのがあのクイーンと言うだけで微笑ましさは帳消し……いや、むしろマイナスである。
そんな、明らかに焦っているクイーンの動きと声にレオヴァは苦笑いを溢した。
『怒るもなにも……
忙しいクイーンに無理を言って頼んだのはおれなんだ。
礼を言うことはあっても、責めるような真似はしねェよ。』
想定とは違い、簡単に許されたクイーンは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻すとレオヴァへ向けてガバッと両腕を開いた。
『っ~!
レオヴァ~~!!流石はカイドウさんの息子!!器が桁違いだぜェ!!』
調子のいい言葉と共に、切羽詰まっていた状況から解放されたままのテンションでレオヴァにハグをしようと巨大なボールのような体で突っ込んで行く。
しかし、レオヴァはそれを綺麗な動作で
一方、見事に空振り虚無を抱き締めているクイーンはコンマ数秒の硬直の後、言葉を発した。
『……うん。流石カイドウさんの息子、切り替えが早ェわ。
冷静すぎてビックリだぜ……』
スンッ……と元のテンションに戻ったクイーンが呟くのもお構い無しにレオヴァはゲージに手を入れ、ミツハリムシを一匹取り出す。
そのままミツハリムシの溜めている蜜をフラスコへ移すとなにやら作業を開始してしまった。
『……どうしたんだよ、レオヴァ。
急~に研究者モードじゃねぇか。』
横から覗き込んでくるクイーンにレオヴァは手を止めずに応える。
『実はさっきからミツハリムシの蜜の色が少し違うのが気になってたんだがクイーンの話を聞いてもしかして、と思ってな。
……ほら、これを見てくれクイーン。』
指差された分析機の画面を見てクイーンは驚きの声をあげた。
『っんだコレェ!?
え……マジ?これマジで……?』
あり得ない数値になっていることにクイーンが大口を開けていると、レオヴァはニッと笑う。
『あぁ……“マジ”だ。
そうだな、クイーンの言葉を借りるなら……“ファインプレーだぜ、ブラザー”って所か?』
『ムハハハハハ!!
こりゃあ、もう強化薬じゃなくて回復薬に路線変更するしかねェなァ!!!』
軽くお互いの拳をぶつけ合い、二人は笑い合うとそのまま実験を開始した。
そして、数ヶ月の研究の後に解ったことなのだが
長寿ツユクサが枯れた状態で献ポポを使い復活させると、一定以下の割合で突然変異のような事象を起こすことが判明した。
その変異した長寿ツユクサは子孫を残せなくなるのだが、代わりに蜜が大きく変化する。
更にその蜜をミツハリムシが回収することで更なる変化が起こる。
そうして変化を遂げた“特別な蜜”をミツハリムシの女王の針から取った毒と9対1の割合で調合し、専用に開発した機械で圧縮することで“回復薬”が完成したのだ。
しかし、この回復薬の材料は安定供給することは難しく大量の献ポポも必要とする為、大量生産が出来ないというのが現実であった。
記憶を探りつつ、話の大筋を説明し終えたレオヴァはカイドウの答えを待った。
「……相変わらず、クイーンとの研究は楽しそうだな。」
カイドウの言葉は待っていた答えとは別のものだったが、レオヴァは笑顔で頷く。
「クイーンとの研究は発見も多くて楽しいんだ。
何より、一人では気付けないことも教えてくれるしな。」
「…………そうか、研究ってのはそんな楽しいモンか。」
少し複雑そうな表情をしたカイドウは酒を呷ると、立ち上がった。
「……レオヴァ、少し付き合え。」
突拍子もないカイドウの行動に驚くことなく、レオヴァは立ち上がる。
そして、既に歩き出しているカイドウの下へ早足で駆け付けると、隣に並び顔を見上げた。
「組手か、父さん?」
レオヴァの問いに不機嫌そうだったカイドウの口角が僅かに上がる。
「良く解ったな。
……ローからの許可はおりてんだ。
久々に思いっきりやろうじゃねェか!
研究ばかりじゃ
「確かに……
父さん、実は新しく考えてる技があるんだが……」
「新しい技か!
いいじゃねェか、どんなモンか見せてみろ。」
カイドウの言葉に満面の笑みでレオヴァは頷いた。
その姿にカイドウは機嫌を直すと、一刻も早く組手の為の場所へと向かうべく足早に歩き出すのだった。
ー後書きー
・世界政府への関心について
カイドウ:海軍が邪魔。
過去の事もあり世界政府は好きじゃない。
…が、息子が出来てから執着は少し薄れた。
現在、世界政府に向けて大きな動きは起こしていない。
レオヴァ:カイドウから昔話を聞いて以降、世界政府は嫌い。
ある事を目的に少し世界政府に対して仕掛けてはいるが、カイドウが本格的に動かない限り何もするつもりはない。
キング:昔の事&カイドウとレオヴァが毛嫌いしていることもあり、世界政府を目障りに思ってはいる。
2人が動けば喜んで潰しに行く位には嫌い。
クイーン:天竜人の態度は気に入らないが、かと言って何かしてやろう!と考えている素振りはない。
カイドウとレオヴァが潰すと言えば潰すし、ほっとくならほっとくというスタンス。
ジャック:カイドウさんとレオヴァさんが嫌っている=敵!
という思考なので合間見えれば潰す!という単純思考。
基本的にはキング&クイーンと同じく、カイドウとレオヴァが動かないなら何もするつもりはない。(目の前に居たら潰すが)
ー追記ー
ご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio
既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!