俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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“雨の”シリュウ

 

 

 

マリンフォードでの事件以降、百獣海賊団のメンバーとして世界政府に手配された2人の男がいた。

 

その2人の名は

“鬼の跡目”バレットと、“雨の”シリュウ…である。

 

この2人は現在、どの様にして百獣海賊団で生活をしているのだろうか……

 

 

────────────────────────────────────

 

 

 

 

百獣海賊団には“研修制度”というものが存在する。

 

この研修制度というものはレオヴァが作った制度であり、入団後には誰であれ必ず受けなければならない決まりだ。

 

そして、その研修制度には二種類あり。

入団時に船員が受ける“入団研修”と、昇進した者が受ける“昇進研修”に分けられている。

 

中でも少し特殊なのが、昇進研修だ。

この研修では戦闘的な実力ではなく“性格”や“幹部としての仕事の適性”を見極める為の期間なのだ。

 

この時の研修結果により、請け負う事になる部下のタイプや割り振られる仕事の種類などが決定する。

 

 

もちろん、この研修制度はシリュウにも例外なく設けられていた。

 

 

 

 

海賊島“ハチノス”。

そこには百獣海賊団によって大きな地下施設が造られており、地下施設の中には一部、血生臭さ漂う場所がある。

 

そんな呻き声が微かに聞こえる薄暗い地下の牢獄のような場所に、シリュウはいた。

 

手に持つ刀からは先ほど切り裂いた人間の血液が滴り、シリュウの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

見る者が見れば、叫び声を上げて意識を失うような悲惨な光景だ。

 

しかし、そんなシリュウに怯えるどころか、イラついたように声をかける男がいた。

 

 

「おい、てめェ……好き勝手やってんじゃねェよ…」

 

周りに転がる死体を邪魔そうに蹴飛ばしながらシリュウの方へズカズカと足を進めてくる赤いマスクの男の名はフーズ・フー。

彼は百獣海賊団で“飛び六胞”を務める実力者であり、シリュウの研修を請け負っている人物だ。

 

 

「好き勝手もなにも。

ここに居る奴らは全員死刑囚(・・・)だって言ってたのは、てめェだぜ…フーズ・フー。」

 

手慣れた動きで刀についている返り血を払いながら一切悪びれる様子もなく言ってのけたシリュウに、フーズ・フーはマスクの下の眉間に青筋を浮かべた。

 

 

「おれは死刑囚だなんて言ってねェよ…!!

処分が確定済み(・・・・・・・)だと言ったんだ!」

 

「何が違う?

どっちにしろ殺すんだ、変わらねェだろう。」

 

そう言いながらフーズ・フーを振り返るシリュウの頬を、(やいば)が掠めた。

 

僅かな痛みと共に流れる血を拭くこともせず、シリュウは切先を向けてきたフーズ・フーへ目線を向ける。

 

すると、冷たい殺気を纏うフーズ・フーがマスク越しでも分かるほどシリュウを睨み付けていた。

 

 

「……おれはてめェの研修期間中の一切合切(いっさいがっさい)をレオヴァさんから任されてんだ。

好き勝手するなと、おれが言ったら。

てめェの返事は二択、“分かりました”か“はい”…だ。」

 

思わず殺り合いたくなるほどの殺気にシリュウの口元が僅かに緩んだ瞬間。

 

死臭立ち込めるこの場所に3人目の男が現れた。

 

 

「待て、フーズ・フー!シリュウ!!

この場所で暴れたら不味いことぐらい分かるだろう!?」

 

殺気立つ2人を止めに入った男の名はドレーク。

この男もフーズ・フーと同じく百獣海賊団で“飛び六胞”を務める実力者である。

 

 

口煩いドレークの登場にフーズ・フーはシリュウに向けていた刃を鞘へ戻すと、軽い舌打ちと共に地下室の奥へと進んで行ってしまう。

 

一方、シリュウは殺気を収めてしまったフーズ・フーを見て残念そうにしていたが、かけられた大きな声によって意識はドレークの方へと向く。

 

 

…って、これはどうなってる!?

シリュウ、お前まさか……また勝手に斬り倒したのか!?

……なるほど、それでフーズ・フーが…」

 

叫んだと思ったら今度は納得したように頷くドレークの姿に、忙しない奴だ…とシリュウは他人事のように眺めていた。

 

 

「何回も言っているが、殺す前に聞くことがある奴もいるんだ。

許可なく、気分でこの場にいる者達に手を出すな…!」

 

「……そりゃあ、悪かった。」

 

「昨日も同じ言葉を聞いたぞ!?」

 

口だけの謝罪にドレークが頭に血を上らせていると、死体を手に地下室の奥から戻ってきたフーズ・フーが口を開く。

 

 

「やめとけ、ドレーク。

その馬鹿には何度言っても同じだ。」

 

怒りと呆れが混じった声にドレークが同情の眼差しを向ける。

 

フーズ・フーはそのドレークの目に僅かに苛立ちつつも、シリュウに死体を投げ渡す。

 

 

「ったく。

てめェはそれを“農園”に運んどけ。

おれとドレークは尋問だ。」

 

「“農園”…?」

 

無造作に投げ渡された死体を掴みながら軽く首を傾げるシリュウにフーズ・フーは溜め息をつく。

 

 

「初日からもう10回は行っただろうが…!

あのレオヴァさんの植物がある部屋だ!さっさと覚えろ!」

 

フーズ・フーの言葉を聞いて思い出したのか、シリュウはあぁ…と声を上げた。

 

 

「あの趣味の悪い植物まみれの部屋か。」

 

「…あれはレオヴァさんが自分の休みを削って産み出した研究成果だ。

次、ナメたこと言いやがったら……」

 

明らかに先ほどの比ではない殺気を放つフーズ・フーに、流石のシリュウも言葉を飲み込んだ。

同時に隣にいるあの比較的温厚なドレークすら尋常ではない圧を放っている。

それも、シリュウが失言だと瞬時に自覚出来るほどに。

 

 

「……以後、気を付ける。」

 

「当たり前だ。

最初から気を付けとけ、ボケ。

…行くぞ、ドレーク。」

 

「分かった。

……シリュウ、言葉には気を付けるんだな。」

 

また地下室の奥へと消えていったフーズ・フーとドレークを横目に、シリュウは死体達を引き摺りながら“農園”へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

あれからも色々と問題を起こすシリュウの研修を請け負っていたフーズ・フーのストレスは溜まっていた。

 

ドレークやササキはその姿に思わず酒を奢ってしまうほどだ。

 

 

そして今日もフーズ・フーは珍しくハチノスに物資を届けに来ていたササキ相手に愚痴を溢す。

 

 

「……でだ!

あの野郎、なんて言ったと思う?」

 

「ん~…めんどくせェ!とかか?」

 

「いや、違ェ!

“尋問はてめェの仕事だろう?なぜ、おれがやるんだ?”ってぬかしやがったんだ…!

研修だからだと何回も説明してやってるってのに……あの野郎ォ!!」

 

「はぁ!?マジかよ…あり得ねェな、そりゃあ!」

 

「そうだろ!?

おれは間違ったこと言ってねェよなァ…?」

 

「全ッ然、間違ってねェぜ!!」

 

ササキの言葉に少しスッキリした様に肩の力を抜くと、フーズ・フーは酒を呷った。

 

隣に座るササキは今の話に怒り心頭だとばかりに目を吊り上げており、その様子に逆にフーズ・フーは少し冷静さを取り戻す。

 

 

「いや、てかよ。

それレオヴァさんに報告した方がいいんじゃねェか?

せっかくお前がキッチリ管理してンのによ、シリュウの野郎のせいでミスが出たりしたらムカつくだろ。」

 

「あ~……まぁ、確かになァ…」

 

提案に乗り気では無さそうなフーズ・フーの姿にササキは不思議そうな顔をした。

 

 

「なんだよ、フーズ・フー。

今の結構いい案だろ?」

 

「いい案ではある…が……」

 

言い淀むフーズ・フーの内心は複雑である。

 

確かにササキの言う通り報告すれば、色々と好き勝手やっているシリュウを別の場所に移動させる事が出来る可能性は高い。

 

しかし、フーズ・フーの心情としては

『シリュウは監獄関係の仕事が好きだと言っていてな…

そこで、例の地下室の仕事の大半を請け負っているフーズ・フーにシリュウの研修を任せたいんだが……どうだろうか?』

と、自分を頼ってくれたレオヴァに応えたいという思いが強かった。

 

どんなにシリュウと反りが合わなくとも、好き勝手やられてストレスが溜まろうとも。

レオヴァから任された仕事だと思えば、フーズ・フーの堪忍袋の緒が切れることはなかった。

……とは言え、ストレス発散にこうしてササキやらを誘い飲みに来てはいるのだが。

 

 

そんな悩むフーズ・フーを見て、ササキは自分の事のように、隣で唸りながら頭を抱えていた。

 

 

「…ン"ン"~!駄目だ!

レオヴァさんに報告する以外にいい案思いつかねェ!

やっぱ困ったらまずはレオヴァさんだろ!!」

 

「おれが任されたモンだしなァ……

つーか、その何でもレオヴァさんに回すってのもどうよ?

……ただでさえあの人は忙しいってのに。」

 

小さく呟きながら(カラ)になった木製のジョッキをフーズ・フーが持て余していると、そこにササキが酒を注ぐ。

 

 

「そりゃあ、おれだってレオヴァさんから任されりゃ気合い入るぜ?

何が何でもやってやるぜ!って気持ちになんのも分かる。

けど、なんだっけか……えっと~…そうだ、ホーレンソー!

レオヴァさんもいつもホーレンソーって言ってるだろ?」

 

「……報連相、だろうが。」

 

「え"っ?……ンンッ。

そう、ホウレンソウ!

これが大切だ~!ってレオヴァさんが言うんだから間違いねェよ。」

 

「…報告、連絡、相談……か。」

 

ササキとの会話でフーズ・フーはレオヴァの言葉を思い出す。

 

『いいか?

報連相とは、報告・連絡・相談のことだ。

どんな集団や組織においても、この報連相が出来なければ機能しない。

どんな些細な情報でも共有する心構えを持って欲しい。

情報や物事の重要性を個人で判断せず、部下達が気軽に報告・連絡・相談が出来る関係性を築くように努めてくれ。』

と言うのがレオヴァが定期的に開いている、真打ち以上の幹部が参加出来る講習会での言葉だ。

 

 

そんな記憶を思い出したフーズ・フーはササキが注いだ酒を呷り、ポツリと呟いた。

 

 

「……一応、報告だけはしとくか。」

 

呟きを聞いたササキは笑顔で頷くと、どんどん飲めとフーズ・フーの背を少し強く叩くのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

フーズ・フーは目の前でにこやかに微笑むレオヴァに動揺が隠せずにいた。

 

シリュウの件をフーズ・フーが報告してから、まだ1週間も経っていないと言うのにレオヴァがいる事が信じられないのだろう。

 

だが、固まったままでは駄目だとフーズ・フーの脳は再び動き始める。

 

 

「……なんだって、レオヴァさんがハチノスに…?」

 

「ちょうど魚人島関係の仕事が終わって手が空いていたからな。

ローとベポに休暇を取らせて、おれが物資を届けに来た。

……そうだ、フーズ・フー。これを。」

 

レオヴァは懐から煙草を取り出すとフーズ・フーに手渡した。

 

 

「これ…」

 

「もうすぐでストックが切れそうだって言ってただろ?

一応持ってきた物資の中にも10カートンは入れてある……が、吸いすぎるなよ?」

 

相変わらず細かいことも覚えているレオヴァにフーズ・フーは笑う。

 

 

「…助かるぜ、レオヴァさん。

それで、出港の準備が終わるまでの予定は?」

 

「そうだな…暫くかかるらしいからな。

ハチノスの状況を見て回るとする。

……あぁ、それと今日1日シリュウはおれに付かせる。」

 

レオヴァの言葉にフーズ・フーは一瞬、不満げな雰囲気を漂わせる。

 

 

「なんだってシリュウの野郎に。

レオヴァさん、島の案内ならおれが…」

 

「いや、フーズ・フー。

お前はここ最近激務だったとドレークから聞いてる。

今日は半日で終わる予定だろう?…少し休むといい。

それにシリュウに百獣での生活の感想も聞きたいんだ。」

 

有無をいわせぬレオヴァの笑顔に、フーズ・フーは力なく頷いた。

 

 

「……了解だ、レオヴァさん。

おい、シリュウ…てめェレオヴァさんに失礼働くんじゃねェぞ!」

 

凄むフーズ・フーに、シリュウは軽く眉を上げて返す。

 

その態度にまた額の血管を浮き上がらせるフーズ・フーだったがレオヴァの手前、怒りをぐっと飲み込み騒がずに仕事へと戻って行った。

 

僅かに肩を落とすフーズ・フーの背中を見送り、レオヴァはシリュウに声をかける。

 

 

「……では、シリュウ。

ハチノスを回りながら、ウチでの感想を聞かせてくれるか?」

 

「あぁ、構わねェよ。」

 

葉巻をふかしつつ、シリュウは歩き出したレオヴァの隣へと続くのだった。

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

レオヴァがハチノスから帰還して、3日後の昼。

 

フーズ・フーと地下室の管理を交代すべくやって来たドレークは、百獣専用宿舎でベッドに拘束されているシリュウを見て呆気にとられていた。

 

 

「……こ、ここはフーズ・フーが借りている部屋じゃなかったか?」

 

動揺を隠せぬドレークの声に、シリュウは何とも言えない表情をする。

 

 

「…アイツなら、おれが借りてた部屋にいる。」

 

「な、なるほど?

確かにこのサイズのベッドはあっちの部屋には入らないな…

ところで……どうしたんだ、その怪我は…?」

 

困惑しつつも心配を滲ませた声に、バツが悪そうにシリュウは目を反らした。

 

答えないシリュウにドレークが首を傾げていると、開けたままだった扉から声がかかる。

 

 

「レオヴァさんと“組手”したんだとよ。」

 

その声にドレークが振り向くと、入り口で壁にもたれているフーズ・フーがニヤリと笑う。

 

しかし、対照的にドレークは予想していなかった人物の名前に目を見開いた。

 

 

「レオヴァさんと“組手”!?

まさか一対一でか!?」

 

「らしいぜ?

おれが仕事から戻ったらボロボロのそいつをレオヴァさんが運んできて

“少し休ませてやってくれ”っつってベッド用意させてた。

それでまぁ、おれの使ってた部屋が一番デカイから交代してやったんだよ。」

 

「はぁ…なんと言うか……レオヴァさんにしては珍しい行動だな。」

 

いい気味だと笑うフーズ・フーからシリュウに目線を戻すと、ドレークは少し困惑した表情を浮かべながら言葉をかけた。

 

 

「……まぁ、なんだ…お大事に…」

 

「………あぁ。」

 

何とも言えない空気がドレークとシリュウの間に流れる。

 

2人が無言になると、フーズ・フーは思い出したようにドレークに話しかけた。

 

 

「言い忘れるとこだったがそいつの研修はもう終わりだとよ。

レオヴァさんからの伝言だ。」

 

「……もう?少し早い気もするが…」

 

今までのシリュウの好き勝手具合を思い出し、ドレークは眉をしかめる。

 

 

「おれもそう思ってたが、レオヴァさんが怪我が完治したら研修修了してワノ国に戻らせろって言うからな。」

 

「そうだな…レオヴァさんが言うなら……

じゃあ、おれはシリュウを送り出すだけで良いのか?」

 

「そうだ。

やっとそいつの(ツラ)見なくて済んで清々するぜ。」

 

心から良かったと思っているのだろう。

フーズ・フーの雰囲気が心なしか明るい。

 

そんなフーズ・フーの姿にドレークは小さく笑いつつ、引き継ぎの為に部屋の出口へと歩き出す。

 

 

「……シリュウ。

何かあれば、おれの部下達を呼んでくれて構わないからな。」

 

そう言って扉を閉めた気配を感じて、シリュウは瞳を閉じた。

 

全身にズキズキと走る痛みが、嫌でもレオヴァとの組手を鮮明に思い出させる。

 

 

「…フッ……回復薬を使わないのも、おれに解らせる為か…

いい性格してやがるぜ…」

 

 

そう呟き、シリュウはレオヴァのあの表情を思い出す。

 

 

 

 

きっかけはレオヴァとの何気ない会話だった。

 

『この研修ってのは面倒だぜ…』

 

『そう言うな、シリュウ。

適性や性格が分からないと、おれも仕事を振りづらいんだ。』

 

『……海賊だってのに、細かい奴だ。』

 

『ふふ…まぁ、否定はしない。』

 

シリュウの小言を気にした風もなくレオヴァは笑っていた。

 

そう、レオヴァは何を言っても基本的に穏やかであった。

その為何かと会話が増えてしまい、あの失言(・・・・)に繋がったのだ。

 

『……一応、(ごう)()っては郷に従えってことばもあるからな。

研修はいいが…組まされてる奴がなァ……』

 

この時レオヴァの目線が鋭くなった事に気付いて、言葉を止めていれば良かったが、シリュウは気付かずに続けてしまった。

 

おれより弱い野郎(・・・・・・・・)に指示されんのは、いい気分はしねェ。

……アンタや総督なら、どんな研修でも文句はねェんだが。』

 

と、言い終えた瞬間だった。

 

突然、目眩を覚えるほどの威圧感がシリュウを襲った。

 

側を歩いていた無関係の海賊達などは立っていることも儘ならなかったらしく、地面によたよたと倒れ込んでいる。

 

シリュウは無意識に刀に手を置き、冷や汗を全身から流していた。

 

先ほどまで騒がしかった通りに静寂が訪れ、レオヴァの動きに合わせた音だけがその場を支配していた。

 

ゆったりとした動作で振り返るレオヴァに、思わず(つか)を握る力が強まる。

 

『…そうか…なら望み通り、おれが研修をしてやる。

付いてこい、シリュウ。』

 

こちらを見下ろすレオヴァの顔に笑顔はなく、その声も背筋を凍らすような冷たさを纏っていた。

 

先を歩き始めたレオヴァの背中は、こちらに拒否権はないと静かに語っている。

 

手に大量に滲む汗を感じながら、シリュウはレオヴァの二歩後ろを付いて行く他なかった。

 

 

 

そして、ハチノスの人が居ない山林にて“組手”というシリュウは噂でしか聞いた事がなかったモノを体験した。

 

それはあまりにも強烈な洗礼だった、とシリュウは体の痛みと共に思い出す。

 

 

その組手を終えた時。

地面に伏し、息も絶え絶えなシリュウを見下ろしてレオヴァは低い声で言った。

 

『シリュウ、立て。

おれが相手なら、どんな研修も文句はねェ(・・・・・・・・・・・)んだろう?』

 

抑揚のない低い声からレオヴァの本気さを感じ取ったシリュウは腕に力を入れて体を起こそうとするが、まるで鉛のように体は動かない。

 

その様子を見てレオヴァは目を細める。

 

『……立てねェのか?シリュウ。』

 

レオヴァの問いに、シリュウは逡巡しつつも首を縦に振った。

 

するとレオヴァは悠長な足取りで倒れるシリュウの側に行くと、視線を合わせる。

 

『シリュウ、お前はフーズ・フーを自分より弱いと言ったな。』

 

これにシリュウは、正直にまた首を縦に動かした。

実際、今もその考えに変わりはない。

 

本当の事を言っただけだと目で訴えるシリュウに気付いたのか、レオヴァが意地の悪い笑みを浮かべた。

 

『……いや、シリュウ。

お前はフーズ・フーには勝てねェ。』

 

『コボッ…っ……ぉ、れが……負け…る、って…?』

 

断言された事への不満から、無理やり声を出したシリュウの口からは血が溢れる。

 

しかし、レオヴァはそんなシリュウを冷静に見下ろして口を開く。

 

『そうだ、お前じゃあフーズ・フーには勝てない。』

 

眉間に皺を寄せるシリュウに構うことなく、レオヴァは続ける。

 

『フーズ・フーの持つ“覚悟”は本物だ。

おれが立てと言えば、どんな状況でも立ち上がる。

……それに、この組手もフーズ・フーは何年も。

それこそ何百とこなしてるんだぞ?』

 

レオヴァの言葉にシリュウの表情が驚きに染まる。

 

この死ぬか生きるかのギリギリの殺し合いと言ってなんら差し支えない“組手”を何百回も…?

その事実に困惑が隠せないシリュウにレオヴァは笑う。

 

『あり得ないって顔してるなァ…

だが、ウチじゃあ組手は恒例行事。

百獣海賊団で幹部になるってのはそう言うことだ。

ウチの幹部には誰一人として、“弱ェ奴”はいねェ。

百獣海賊団に入るなら、父さんは無論。

身内である同志(仲間)を侮辱する様な真似、二度とするんじゃねェ!!

……分かったか?』

 

冷たかった瞳に宿った、燃えるような怒りにシリュウは言葉を失い、黙って頷いた。

 

フーズ・フーを下に見ていた雰囲気が消えたことで、レオヴァの威圧感が弱まる。

 

そうして、レオヴァは動けないシリュウを百獣専用の宿屋へと運んだのだ。

 

 

 

シリュウは運ばれている途中で意識は途絶えており

次に目を開けると、そこはベッドの上で横にはレオヴァとフーズ・フーがいた。

 

『お、目ェ覚めたみたいだぜ?レオヴァさん。』

 

『……おはよう、シリュウ。』

 

にこりと穏やかな笑顔を向けてくるレオヴァに、先ほどまでの記憶は夢だったのではないかと錯覚しそうになるシリュウだったが、全身の痛みが全てを物語っている。

 

『……あ~…レオヴァさんと組手だったんだろ?

一応、回復薬持ってるが…使うか?』

 

痛みに唸ったシリュウを見かねてフーズ・フーが懐から自分に支給されている薬を取り出した。

その事にシリュウは意外だと驚く。

 

てっきり、笑って馬鹿にしてくると思っていたからだ。

だが、目の前のフーズ・フーに嘲笑の色はなく、逆に少し心配を含んでいるように見えた。

 

シリュウがフーズ・フーについてのイメージを脳内で少し書き換えていると、レオヴァの手が回復薬に伸びていく。

 

そして、そのままフーズ・フーの懐に仕舞い直させると笑顔で口を開いた。

 

『大丈夫だ、フーズ・フー。

シリュウ、お前は強い(・・)んだろう?

なら、きっとすぐに治るさ。』

 

笑顔ではあるが、珍しく言葉に刺々しさを感じさせるレオヴァにフーズ・フーは首を傾げる。

 

しかし、深く突っ込むのは良くないと思い直し、仕事へ戻ろうと席を立つ。

 

続いてレオヴァも席を立つが、少し屈んでシリュウに耳打ちをした。

 

『シリュウ、二度目はねェ。

それと“組手”なら相手をしてやるから情報源を好き勝手殺すのは止せ、何のために“管理”してると思ってる?……お前なら分かるよなァ?』

 

そう素早く言い終えると、いつもの笑顔でレオヴァはフーズ・フーと出口へと向かって行く。

 

『では、シリュウ。

時間はたっぷりあるからなァ…しっかりと休養するように(・・・・・・・・・・・・)。』

 

レオヴァの言葉の裏の意味を理解したシリュウは、トンでもないのを怒らせたか…と額に汗を浮かべた。

 

 

 

 

…という、一連の記憶を思い出して

またシリュウは背に冷や汗をかく。

 

だが、レオヴァの意外な一面は思いの外、シリュウにはしっくり来るものがあった。

 

普段の張り付けている笑みよりも、あの冷徹な表情のレオヴァにシリュウは惹かれたのだ。

 

間違いなく“海賊”だったレオヴァの姿を思い出し、シリュウは口角を上げた。

 

「……やはり、おれの目に狂いはなかったワケだ…!」

 

強い確信を得たシリュウの独り言は歓喜に満ちていた。

 

 

 

 





ー補足ー
《物資搬送について》
“重要”ナワバリへの物資搬送は“空船”で行っているので、普通に海を進む数倍の速さで往き来できる。
ただし、空船を使うには飛び六胞以上の幹部がいなければならないのでササキやドレークが担当していた。
(その他のナワバリへの搬送や軽い貿易は真打ちを中心に、通常の船を使用して行われる)

・よく“重要ナワバリ”の物資搬送の役割を任されている人物

ロー&ベポ:おそらく一番搬送を任されている。
幹部の誰とでも可もなく不可もなくやり取り出来る性格&ナワバリの把握がしっかり出来ている為。

ホーキンス:時間厳守な性格を買われてよく任される。
ナワバリ管理の仕事は殆ど回って来ないので、遠征と搬送が6:4の割合。

ドレーク:任務と搬送が7:3の割合。
物資搬送よりも、ナワバリ管理に出張っている割合が多い。
性格上、一般住民に好かれるのでレオヴァからナワバリ管理において頼りにされている。

ササキ:気性の荒い人間が多い島での人気が高いので、そういうナワバリを中心に管理と遠征を4:6の割合で任されている。
ドレークやフーズ・フーのストレスが溜まっているとレオヴァが判断した時にだけ、搬送の仕事を任されているが本人は気付いてすらいない。

ー後書きー
本誌が地獄絵図の中ご感想やここ好き一覧を頂けていることでメンタルを保てている、もちおでございます…
今回も読んでくださりありがとうございました!

様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!
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