ジャックは任されていたマリンフォード防衛の任務を無事にうるティ達へ引き継ぎ、久々にワノ国へ帰還していた。
そして、数ヶ月振りにカイドウとレオヴァと共に過ごせることを楽しみに鬼ヶ島へと歩みを進めたのたが
目の前にある鬼ヶ島の3分の1が倒壊しているという惨状に言葉を失う他なかった。
只事ではない現状に、ジャックが鬼気迫る剣幕で鬼ヶ島中にいる部下に声をかけ何があったと問いただすと部下達はなんとも言えない表情で同じ言葉を紡いだ。
「「「…カイドウ様とレオヴァ様が組手を催したようで……」」」
「カイドウさんとレオヴァさんの組手で倒壊したってのか!?」
「え、えぇまぁ……原因は二人だけじゃねェですが」
「ほぼカイドウ様ッスね~…」
乾いた笑いを溢す部下達に作業に戻るようにジャックは指示を出すと、二人が居るであろう宴会用の大広間へと足を進めた。
しかし、ジャックは腑に落ちていなかった。
確かにカイドウとレオヴァは組手となると少し周りが見えなくなる時があるが、本拠地である鬼ヶ島が3分の1も倒壊してしまうほど考え無しに暴れる性格ではない。
レオヴァに関しては言わずもがな、百獣1気が利く男と言っても過言ではない。
そんな二人が鬼ヶ島の被害を考慮せず暴れまわるなど考えられない。
と、なると可能性は1つしかないとジャックは踏んだ。
「(カイドウさんもレオヴァさんも酔った状態で組手したのか…?)」
このジャックの想定以外、考えられないのだ。
けれども、レオヴァが酔っぱらうという現象自体年に一回あるかないかである。
結局本人達に話を聞かなければ分からないと言う考えにジャックが辿り着くと同時に、気付けば宴会場の扉が見える位置についていた。
ジャックが色々な事を考えながら宴会場の扉を開くと、そこには予想通り楽しげに酒を酌み交わすカイドウとレオヴァがいた。
それだけならばいつもの光景なのだが、今回はバレットというジャックにとっては“異物”と言える存在までいるではないか。
更に
あまりにも
そのことに気付いたジャックはまずは鬼ヶ島の現状を聞く為に口を開く。
「……キングの兄御、島の惨状は一体どういう……」
困惑が隠せていないジャックにキングは疲れているのか、普段よりもハリのない声で返す。
「……カイドウさんの発案で組手をした。
レオヴァ坊っちゃんとバレット、カイドウさんとおれで“例のチーム戦”をな…」
キングの簡潔すぎる説明だけで全てを察したジャックは鬼ヶ島の状態には即座に納得した。
しかし、目の前の光景には納得がいかない。
何故、バレットがカイドウやレオヴァと
そもそも。
この宴会場の大広間は上段、中段、下段と三段階に分けられている。
下段の間は真打ちや他の部下達が気兼ねなく騒げるように1つ下のフロアを丸々使用しており、その上のフロアに大看板を始め飛び六胞や近衛隊の座る中段の間がある。カイドウやレオヴァが座っている所の正面にあるそこが幹部たちの定位置なのである。
勿論、この中段の間にも並びがあり基本には大看板の3人が一番カイドウとレオヴァと近い位置に座るというような暗黙の了解も存在している。
そして、カイドウやレオヴァが座っている場所こそが“上段の間”と呼ばれる場所だ。
基本的には二人から呼ばれない限りは上がったりしないと言うのも暗黙の了解として存在しており、あのうるティでさえこのルールをしっかりと守っている。
それだけに
……と言っても、気にしているのはキングやジャックなどの部下達だけであり、当人であるカイドウやレオヴァは頻繁に幹部達を手招きしては会話を楽しむという緩さなのだが、それを指摘する者は百獣海賊団には存在しないようである。
そんな背景もありジャックは兄御達ならば文句はないが、新参者がカイドウとレオヴァと共にその場所にいる事が納得出来なかった。
あからさまに本心が顔に出てしまっている、ポーカーフェイスの“ポ”の字の欠片もない弟分にキングは溜め息を吐いたが、内心ではその気持ちに同意を示す。
「(…カイドウさんからすりゃあ、レオヴァ坊っちゃんが連れてきたってだけで印象は良かったんだろうが……組手で完全に気に入っちまってんなァ…)」
ジャックとは違い、感情を
「ウオロロロロロ!!
面白ェ野郎だ!いいから飲め!!」
「ふはははははは!!
バレット、遠慮するな!飲め!!」
「…さっきから飲んでるだろうが……」
「飲んでるだァ…?ウィック…
あんなもん飲んでるに入るか!!そうだろうレオヴァ!?」
「父さんの言う通りだバレット!!
ほら、これなんてお前が好きそうな味だぞ!」
「飲みかけを渡してくんじゃねェ!!……ハァ…」
カイドウとレオヴァの二人から酒瓶を押し付けられているバレットの表情は、酔っ払いに絡まれる酒場の店員のように浮かないものであった。
……が、またその表情がジャックの怒りに油を注ぐ。
とたんに、普段の無愛想な顔に慣れている部下達が見ても卒倒しそうな顔になったジャックに、酒を呷っていたレオヴァが気付く。
「…ジャック!!
帰って来てたのか!一緒に飲むぞ!!」
やっとこちらを見て笑顔を浮かべたレオヴァにジャックの眉間の皺が通常通りに戻る。
「あぁ、勿論だレオヴァさん!」
上段の間の手前でジャックが止まると、カイドウとレオヴァが同時に口を開く。
「「何してるジャック!こっちに来い!!」」
上機嫌な二人の呼び掛けに嬉しげにジャックは上段の間へと上がる。
「ウオロロロ……ン?
キング、お前も何してやがる!こっちに来ねェか!!」
「そうだぞ、キング!全然飲んでねェだろう!?
せっかくお前の好きな酒を持ってきたのになァ…」
完全に出来上がっている親子の言葉に観念したようにキングも上段の間へと足を運んだ。
バレット、キング、ジャックの三人が揃うとカイドウとレオヴァは嬉しそうに豪気な笑みを浮かべる。
「ウィ~…今度はジャックも混ぜて組手をやるかァ!?」
「良いな父さん!
おれと父さん、キングとジャックとバレットでやるのも楽しそうだ!!」
「ウオロロロロ!!そうだろ!!ヒックゥ…
今回はおれとキング、レオヴァとバレットだったからなァ…!」
二人で大いに盛り上がる親子だったが、突然二人の興味がジャックへと移る。
「そう言えばジャック。
マリンフォードはどうだ?」
「あぁ!そういやぁマリンフォードを落としたんだったかァ…?
どうなんだジャック!レオヴァの構想通りにやれてんのかァ?」
二人に声をかけられ、嬉しげな顔を隠しもせずジャックは返事を返す。
「マリンフォードの防衛設備はほぼ完成しました。
あとは中の城と周りの施設の建設を終えればレオヴァさんの言っていた通りの働きが出来る施設になる。」
「ウオロロロロロ~!!
そうか!新しいナワバリの監視と防衛ご苦労だったなジャック!!」
「ジャックに任せて正解だったなァ…!
色々ゴタゴタもあっただろ?」
労ってくるカイドウとレオヴァ相手に照れたようにジャックが頭をかくと、二人の声が重なる。
「よし、ジャック!祝いだ!!」
「久々に時間も取れたしなァ…!」
「「飲め!!ジャック…!」」
出来上がって僅かに顔の赤い2人から大きな酒瓶を押し付けられながら、ジャックの長い夜が始まったのだった。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
あの夜の宴にて。
ダグラス・バレットの研修も本格的に開始することとなった。
しかし、バレットの研修方法はシリュウとは違っている。
何故ならばシリュウは正式に百獣海賊団に入団したのだが、バレットは
世間的にはバレットは百獣海賊団に加入したものとして扱われ、手配書にもそう記入されているが当の本人であるバレットはその態度を曲げるつもりはないらしい。
あくまでも、レオヴァと契約しているだけ。
それがバレットのスタンスだ。
そしてレオヴァはそのバレットの振る舞いを当たり前のように受け入れた。
結果、通常の研修とは違った方法が採用されたのである。
とは言っても研修内容については、大まかな変更はない。
百獣海賊団でのルールや禁止事項。
休暇制度や賃金の支払いシステムに、自室や施設の使い方。
数ある様々な部隊の細かな説明や、おおまかな現在の取引情報など。
百獣海賊団で行動する上で必要な情報の説明を中心に、実際の遠征に同行させながらバレットの適性や性格を見極める。
と言う内容になっている。
ならば何が通常の研修とは違うのか。
それは研修を行う人物が通常とは異なるのである。
入団研修であれば真打ち以上の船員が受け持つのが基本だ。
中でもドレークやスレイマン、ササキが請け負うことが多い。
次に昇進研修だが、これは飛び六胞以上の幹部が受け持つのが基本だ。
中でもキングやフーズ・フー、ローが請け負う場合が多い。
この様に、研修は真打ちから大看板までの誰かが担当することになっているのだ。
そこで本題に戻ろう。
今回はイレギュラーな形とはいえ、大筋は入団研修と昇進研修を合わせたものである。
ならば、バレットの研修を担当するのはキングが適任だと誰もが思っていた。
なんなら本人であるキングも、任されるだろうと裏でスケジュールの確認をしていたほどだ。
…だが、皆の予想が的中することはなかった。
なんと、バレットが研修の担当はレオヴァが良いと指名したのである。
『契約内容のこともある。
別の奴を経由するより、レオヴァが直接おれにここのやり方を説明すりゃいいだろ。』
『『あ"ァ"…?』』
『レオヴァさんは暇じゃねェんだぞ…!!』
『レオヴァ坊っちゃんにわざわざ研修させるってのかァ?』
その場にいたキングとジャックは揃って地を這うような恐ろしい声を上げた。
このままでは収集がつかなくなると冷や汗を流す部下たちの心配とは裏腹に、レオヴァはそのバレットの指名に2つ返事で答えたのだ。
『バレットがその方がやり易いなら構わねェ…!
ちょうど血眼になっている海軍を相手にしに行こうと思っていた所だ。』
『…レオヴァさん!?』
『レオヴァ坊っちゃん…!?』
と言う経緯により、レオヴァが担当する事になったのである。
この研修制度が出来て以降レオヴァが担当するというのは初だった為、約数名の幹部の嫉妬と殺気がバレットを襲ったのだが、流石は“鬼の跡目”である。
痛くも痒くもないのか、表情1つ変えずにレオヴァを研修の担当として連れていってしまうのだった。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
海軍がマリンフォードの
「……と、言う流れで行く。
基本的にはおれとバレット、ジャックが前線にでるから皆は巻き込まれぬよう後方支援を頼む。」
「「「「はいッ!!レオヴァ様!!」」」」
部下達にテキパキと指示を出し全体をまとめる姿を見ると、昨晩の絡み酒の姿が嘘のように思えてくるとバレットは気付かれぬように口元をひくつかせた。
一方、レオヴァはバレットの視線に気付くことなく奇襲の為の手順を部下達に説明し終えていた。
その後ろで一息つける状態になった事を確認したジャックは予め準備していたお茶を机にセットすると、目の前にいるレオヴァの方へ歩き出す。
「レオヴァさん、一息ついてくれ。
そこに椅子と机も用意してあるんで…」
「ジャック、ありがとう。」
ジャックの示す方へ行くと椅子に腰掛け、レオヴァはゆっくりと茶をすすった。
そして一呼吸置くと、ジャックとバレットの方を向き声をかける。
「…あ~……二人とも最終確認をしたいんだが…良いだろうか?」
どこか歯切れの悪いレオヴァの言葉に二人は頷くと、側の席に腰掛けた。
レオヴァは二人が席に着くと、いつもの調子で最終確認を始める。
要点と流れを端的かつ分かりやすく説明するレオヴァからは知的なオーラが溢れており、バレットは思わず小さく声を溢した。
「……昨日とは別人だな…」
「…っ!…」
バレットの小さな呟きにレオヴァの表情が一瞬で申し訳なさそうなものに変わる。
「昨日は本当にすまなかったな…
久々の組手……それも前から楽しみにしていた父さんとバレットとの組手にキングも参加するというからつい…暫く酒は控えるよう努める。」
思い出して恥ずかしくなったのかレオヴァは少し赤くなった顔を隠すように頭を抱えた。
「いや、おれも組手ってのは悪くねェと思ったが…」
「おい!!バレット!!」
怒りの形相でバレットを睨むジャックをレオヴァが慌てて止める。
「止してくれジャック…!
昨日のことは完全におれの失態だ。
それにジャック、お前にも悪い事をしたな…
任務帰りで疲れてただろうに、お前が帰って来たのが嬉しくて思わず長々と引き留めて……」
「ッ…そんなことねェよレオヴァさん!
そ、それに!
おれもカイドウさんとレオヴァさんと飲みたかったんで、呼んで貰えて嬉しかった!!」
「そうか…?
迷惑じゃなかったなら、おれとしても嬉しいんだが」
「勿論だ!!
迷惑だなんて思わねェよ!!…です!」
その言葉でレオヴァの表情が明るくなると、ジャックの顔がほっとしたものに変わる。
そんなやり取りを眺めていたバレットも、もう慣れているのか横槍を入れる素振りはない。
「ンンッ…では、先程の続きを……」
気を取り直したレオヴァがまた最終確認を始める。
バレットはそれに耳を傾けつつ、新しいレオヴァの姿を興味深く思うのであった。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
「撤退…すぐに撤退を!!!」
正義の上着を羽織る男の必死の声で海兵達は残り僅かな軍艦へと走り出した。
ほんの1時間前までは潤沢な物資と世界中からかき集められた兵士達により高い士気を維持出来ていたと言うのに、今では見る影もない。
ただ必死に生き延びようと、最後の頼みである軍艦に向けて海兵達は無我夢中で走り出している。
そんな姿に不満げな表情を溢す男達がいた。
…百獣海賊団のジャックとバレットだ。
バレットは戦いを求めて来たと言うのに腑抜けしか居なかったことに怒りを覚え、ジャックも逃げ惑う海兵の姿に失望した様に顔を歪めた。
2人に共通するのは、レオヴァに実力を示そうという意思だ。
ジャックはレオヴァの役に立ちたいという純粋な思いであり、バレットは契約者としての自分の“格”をレオヴァに示したいと思っていた。
だが、この程度の相手では意味がない。
そう思い2人は不機嫌そうな顔になっている訳である。
「この程度の、戦力とも呼べねェ雑魚共を集めただけでウチに喧嘩売ろうって考えが気に入らねェ!!」
ジャックが怒鳴り、変わった形の刀を振ると目の前の海兵達が紙切れのように吹き飛んでいく。
そんなジャックの近くにいたバレットも不満を溢す。
「一度目のマリンフォード奪還作戦が失敗したことで、今回はもっとマシな戦力があるのかと思えば…
とんだ期待はずれじゃねェか!!」
ガシャンッ!という大きな音と共に纏っていた瓦礫が海兵達を襲う。
苛立ちを隠さぬジャックとバレットという怪物達に、海軍の取れる選択肢は撤退の一択であった。
─── ジャック達が暴れている南側と逆の位置にある、北側の海岸にて。
「部下を逃がす為、おれとサシでの勝負に持ち込もうという気概は素晴らしい。
だが、それはジャックとバレットを甘く見積り過ぎてるんじゃないか?」
穏やかな声で話すレオヴァの目の前には、立っているのでやっとだと言う様な状態の男がいる。
男は肩で息をしながら、
「ゲホッ…はぁ……て、めェだけでも……あの場から、遠ざけられりゃ…今のおれ、なら…ゥ…上出来だ!!」
「……ほう、思っていたよりも戦況を良くみれるタイプなんだなァ…スモーカー。
典型的な直情型かと思ってたんだが……」
意外だと片眉を上げるレオヴァを見て、スモーカーは顔を歪める。
息も絶え絶えな自分とは正反対にレオヴァには掠り傷一つない。
この現状にスモーカーはやるせなさと悔しさに押し潰されそうであったが、集中しなければと自分を奮い立たせた。
そして、能力と手に握った十手を武器に残りの体力を捧げるべく動き出す。
一秒足らずの間に、辺りに大量にある木葉を煙で舞い上がらせると、スモーカーは素早い動きでレオヴァの背後に周り十手を繰り出した。
「ッ……クソっ…!!」
しかし、スモーカーの十手は何にも手応えがない。
全てを察したスモーカーが受け身を取るよりも早く、背中に重い衝撃が走った。
地面に叩き付けられると同時に、背中に感じる重圧にスモーカーがくぐもった声を漏らす。
「あの状況で煙幕として環境を利用する機転、素晴らしいな…!
一瞬で大量の葉を舞い上がらせる為
覇気が使えるおれの前では煙を広げるだけ無駄だと割り切っての戦法だろう?
……やはり殺すのは惜しい、ウチに来る気はないかスモーカー。」
「ガハッ…ッ……人を足蹴にしておいて…っとに、よく喋る野、郎だ…ゴホッ」
こんな状況にも関わらず戦意を折られないスモーカーにレオヴァの口角が上がる。
「スモーカー、やっぱりお前は海兵より海賊のが
……ふふふ、おれも父さんも気は長いほうだ。
お前がウチに入ると言うまで待つのも悪くない。
最近ハチノスに新しい施設も作ったことだしなァ…」
「ッ……ふざ、けんじゃねェ!!ガハッゴホッ…
誰が海賊、なんぞに…!」
鋭い眼光を向けられてもレオヴァは穏やかな微笑みを崩さない。
「スモーカー、価値観ってのは環境や関わる相手で変わるものだ。
……おれと来ればその考え方も違うものになる可能性は0じゃねェさ。」
にこりと微笑んだまま手を伸ばしてくるレオヴァに感じた事のない感覚を覚えたスモーカーだったが身動きが出来ない。
「(こいつ…なんだこの雰囲気は!?)」
冷や汗を流すスモーカーにレオヴァの手が触れる直前に、“それ”は起きた。
凄まじい冷気にスモーカーの息が一瞬止まるが、次の瞬間には押さえつけられていた筈の背が軽くなっており、誰かに支えられている。
訳が分からず混乱するスモーカーだったが、こんな冷気を扱える人間は1人しか知らない。
痛む体を動かして自分を支える人物に目をやると、そこには想像通りの男がいた。
「海軍大将の…
今回の奪還作戦に居るとは聞いてなかったがな…」
スモーカーが男の名を呼ぶよりも先にレオヴァの言葉が放たれる。
「ま、おれも参加するつもりなかったんだけど…嫌な予感がして来てみれば…
……また随分、派手にやってくれちゃってるじゃないの。」
軽い口調とは裏腹に油断ならぬ雰囲気を漂わせているクザンにレオヴァは目を細めた。
そんな二人の間に漂う気配にスモーカーが息を飲むと、クザンが目線はレオヴァに向けたまま柔らかい声色で話し掛けてくる。
「いや~…けど本当。
百雷のレオヴァを1人で引き受けるなんて何考えてんのよ、スモーカー。
お前に何かあったら悲しむ奴らがどんだけ居るのかちゃんと考えて行動しろって言ってんでしょ。」
「ゲホッ、すま、ねぇ。」
珍しく素直に謝るスモーカーにクザンは苦笑いしつつ、動き出した。
「“ア~イスBALL”…!」
クザンから放たれた冷気が瞬きの間にレオヴァを囲っていき、氷の牢を作り出す。
レオヴァを氷が囲ったことを感じるや否やクザンは瀕死のスモーカーを抱えて軍艦へと走り出した。
「ッ…逃げ、るのか…?」
「対岸には“旱害”と“鬼の跡目”もいる。
こんな状況じゃあ、1人でも多く生きて撤退させるのが
……何より百雷のレオヴァってのがヤバい。」
珍しく険しい顔になるクザンを最後にスモーカーのギリギリで保たれていた意識は途絶えた。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
──── 南側の海岸にて。
突如、海兵達を守るように現れた氷の防壁にジャックとバレットは一瞬目を丸くしたが、すぐに誰の仕業かを察する。
二人が目線を移した先には予想通りの男が立っていた。
「青キジィ…!!」
「邪魔しようってのか!?」
予想外の男の登場にバレットは獰猛な笑みを見せ、ジャックは眉間に青筋を浮かべた。
クザン、バレット、ジャックが戦闘態勢に入った瞬間、三人の間に眩しい閃光と共に雷が降り注ぐ。
反射的に後方へ飛び退いた三人が空を見上げると、対岸にいた筈のレオヴァが空を舞っている。
何故ここに居るのかと首を傾げるジャックとは正反対にクザンは額に冷や汗を流す。
「あらら……あれじゃ時間稼ぎにもならねぇワケね。」
この言葉でジャックはクザンがレオヴァと一悶着あった事を察し、怒りの籠った視線を目の前の男に向ける。
やる気満々なジャックと、骨のある男の登場に笑うバレットを視界に入れつつ、レオヴァは海岸に感じる大量の気配に部下の身を案じる。
「ジャック、バレット。
どうやらクザンが応援を呼んだらしい。
海岸にいる皆が心配だ……ここは良いから船と皆を頼めるか?」
「了解だ、レオヴァさん!!」
二つ返事で踵を返したジャックとは違い、バレットは少し不満げに顔を歪めている。
そんなバレットの内心を察したのかレオヴァが眉を下げる。
「…バレット。」
「……やっと相手になりそうな野郎が来たのに譲れってのか。」
グッと口をへの字にするバレットにレオヴァが困った様に笑う。
そのすぐ側では踵を返したはずのジャックが振り返り、血走った目でバレットを睨んでいた。
放っておけば乱闘が始まりそうな空気にクザンが困惑していると、レオヴァがバレットの隣へと降り立つ。
「バレット、お前の言いたい事は分かる。
おれだって楽しめそうな相手を譲れと言われりゃ、いい気分はしねェ。
だが……」
レオヴァが小声で何かを告げるとバレットは一瞬、考える素振りを見せたあと納得した様に踵を返した。
「……その条件ならしょうがねェ、譲ってやる。
約束を
「ありがとう、バレット。
安心してくれ、おれは身内との約束は破らねェ。」
「まだおれは身内じゃねェ!!」
一言怒鳴り、海岸へ向けて進んで行ったバレットを見てレオヴァは笑うと、ジャックへ目線を移す。
「…ジャック、バレットはまだウチに馴染んでねェ。
部下達への指示と誘導はお前に任せるぞ。」
「…はい。」
「そんな顔してやらないでくれ、ジャック。」
「………分かりました。」
顔に不満です!とデカデカと書いてあるにも関わらず、こちらを立てて言葉を返すジャックにレオヴァは優しい表情で笑う。
「頼むぞ、ジャック。」
「任せてくれ…!」
大きな体からは想像もつかない速さで消えていくジャックを見送っていると、背後に冷気を感じて刀を抜いた。
次の瞬間、硬い物同士がぶつかる音が響く。
「やっぱり不意打ちは失敗…っと。」
「…おれに不意打ちが効かねェのは知ってる筈だろう?」
言葉と共に刀でクザンを押し飛ばしたレオヴァは、相手に休ませる間を与えぬようにとすぐに動きを見せる。
「“
レオヴァを中心に何もない場所から数十本の槍が現れ、クザンへと迫って行く。
「ア~イス
レオヴァの仕掛けて来た攻撃に瞬時に反応を見せ、クザンは作り出した三又の槍の様な形状の氷塊で迫り来る槍を全て打ち落として見せた。
「おれに
「…本当に食えない男だな、クザン。」
「いや~、それはお互い様ってヤツよ。」
「……ふふ、確かに。」
そう呟くとレオヴァの周りに雷がバチバチと漂い始める。
突然変わった雰囲気にクザンが更に距離を取ると、レオヴァの口角が上がる。
「最近、父さんに御墨付きを貰えた新しい技があるんだが……受けてみてくれるか?
実はずっと試したくてうずうずしていたんだ。」
明るい声色で世間話のように話すレオヴァの姿は人から離れ、鳥のような形へ変化し、どんどん大きくなっている。
そんな姿にクザンはまた冷や汗を流した。
「それを受けろって?
はは…冗談にしては笑えねぇわ……」
日が落ちた筈の空が眩しく感じてしまう、その姿にクザンは思考をフル回転させたのだった。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
2回目のマリンフォード奪還作戦を未然に防いだ日から2週間が経過していた。
珍しく怪我をして戻って来たレオヴァにジャックや部下達がオロオロしていたのも過去の話になった現在。
現れる軍艦を潰しながらワノ国へ帰国している船の中で、ジャックはレオヴァから研修を受けているバレットを横目で盗み見ていた。
「じゃあ最悪日にちと、やった事を箇条書きで書けば良いのか?」
「そうだ。」
「……だが、それじゃあ管理記録としちゃ使えねェだろ。」
「…まぁ、欲を言えば細かい事も書いてもらえると助かるんだが……
報告書を書くにも得手不得手があるだろ?
一応、報告書以外に口頭での報告も受けてるからな。
その時に書くのが得意なおれやドレーク、ロー達が補足するという方法でやってる。」
「二度手間だろ。
どうせならそこも指導して行きゃあ、もっとスムーズに機能するんじゃねェのか?」
「勿論、指導はしている。
報告書も書くのが苦にならない者を中心に頼んでいるし、真打ち以上の幹部には書き方の講習会も開いている。
だが、幹部ではない者が書く場合がない訳ではないからな…」
レオヴァの説明に軽く相槌を打つとバレットはまた見本の報告書に目を落とした。
「……まぁそんだけ細かくやってんなら、おれがこれ以上口出すのもアレだな。」
「いや、バレットの意見は尤もだ。
現時点で報告書の書き方が素晴らしい者達を集めて、講習会の講師をやってみないかと声をかけてみる事にする。
おれ以外で講習会を開ける者が増えれば、指導もしやすくなるからな。
いい意見をありがとう、バレット。」
「…別に大したこと言ってねェよ。
それより、ここの……」
また質問を始めたバレットの声にレオヴァが耳を傾ける。
……という様なやり取りを、ここ数日ジャックは眺めていた。
ジャックの最初のバレットへのイメージは一匹狼気取りの傍若無人で生意気な男だったが、ここ数週間のバレットの様子を監視している内にイメージは変わっていた。
ジャックの抱いていた誰も寄せ付けなさそうな印象とは違い、バレットは組織慣れしているようであった。
事実、百獣での細かいルールの飲み込みも早く。
よく新入りがやりがちな、昼食など食事時の並ばなければならない場面で順番を守らないという失敗もせず、しっかりとルールに沿っていた。
なんなら、ちゃんと並ぶバレットに周りの部下達が困惑して順番を譲ろうと
『あ…!すみ、すみません。さ、先行きますか?』
と声をかけた時も
『順番は順番だろうが。』
と律儀に断っている。
他にも風呂の順番や当番でやらなければならない仕事などもバレットは文句も言わずに淡々とこなしていた。
今、現在。
レオヴァとの契約相手として百獣海賊団に身を置くバレットは地位も不確かである為に色んな感情を向けられているが、それで喧嘩を起こしている姿もジャックは見た事がない。
そして一番ジャックの印象を変えたのはレオヴァとの研修風景だ。
バレットはレオヴァの研修を真面目に受けていた。
時には質問をし、時には意見をぶつけ、たまにメモを取る。
簡潔に言うのであれば、バレットは真面目だったのだ。
たまにレオヴァに対しての口の利き方にジャックが腹を立てる瞬間もあるが、本人であるレオヴァが気にしていないと言うこともありバレットに突っ掛かるのは控えるようにしている。
実力、研修への姿勢、生活態度。
バレットを監視している内に発見した新たな姿にジャックは複雑な心境であった。
もとよりジャックは実力がある者が入る事は賛成派である。
百獣海賊団の戦力が増えることは、即ちカイドウの力が増えるも同然なのだ。
歓迎しない方が可笑しい、そうジャックは考えていた。
ならば、バレットも歓迎すべき人材である。
と頭では理解していたが、どこがスッキリしないのがジャックの本音であった。
しかし、これだけバレットの真面目な姿勢を見せられれば受け入れざるを得ない。
そう考えるジャックの頭に前の宴の光景がよぎる。
…笑い合うカイドウとレオヴァに楽しげに話し掛けられているバレットの姿だ。
この記憶が浮かぶ度、ジャックの眉間に皺が増える。
だが、ジャックはもう大人である。
この感情がなんなのかは、うっすらとではあるが理解していた。
小さく溜め息を吐き、また横目でレオヴァとバレットを盗み見る。
「ナワバリ管理は担当制じゃねェのか?
決まった奴を派遣した方が円滑に進むだろ。」
「バレットの言う通り、ナワバリの人々としては知った顔の方が安心だろうな。
だが、ナワバリの数が増えてそうも言ってられなくなったんだ。
それに
実は担当制にしないことで、部下達の社交性も伸ばせればという思惑もあってな。」
「なるほどな……確かに一理ある。
ナワバリを担当出来ない奴が減ることには意味があるからなァ。」
「そう言うことだ。」
納得した様に次の話へ移るバレットの声を盗み聞き、ジャックは肩を落とす。
「(…おれにはねェ視点……なによりレオヴァさんが楽しそうじゃねェか……)」
無意識に溜め息を吐く。
バレットの中々に鋭い意見はジャックにはないモノだった。
しかし、それも仕方がない事である。
幼少の頃よりレオヴァから多くの指導を受けたジャックにとって
レオヴァの答えこそが“正解”だと言う認識が抜けずにいるのだ。
そんなレオヴァが作った制度にジャックが疑問を持てないのはある意味道理であった。
けれども、そんな事ジャックには関係ない。
自分は制度や決まりについて意見交換が出来ないが、バレットにはそれが出来る。
それが事実だ。
ジャックはどこまでも自分に厳しい男なのである。
結果、ジャックの思考はこう完結した。
「(出来ねェって言葉は甘えだ…!!
そもそもレオヴァさんの事で妥協していい事なんざ、一つもありゃしねェ!
要は出来るようになりゃいい話だ!!)」
ガタッと少し大きな音を立てて席を立ったジャックは自室にある“学習ノート”を読み直そうと部屋を後にした。
「(負けねェぞ、バレット…!!)」
闘志を燃やすジャックはやる気に満ち溢れているのだった。
突然立ち上がり、部屋から出ていったジャックの背を目で追うレオヴァにバレットは眉をしかめる。
「……気になってんなら、いつもみてェに声でも掛けりゃいいだろ。
ここ最近ずっとアイツの様子を伺うだけで何もしねェ。
見てるこっちがウザったくなる。」
バレットの呆れたような声色に、レオヴァが少し驚いた顔をする。
「…よく気づいたな……
ジャックでさえ、気付いてる素振りはなかったが。」
「なんかある度、アイツの方を気にしてりゃ嫌でも気付く!
……別に研修はワノ国でも出来るだろ。」
バレットなりに気を使っているのかと、レオヴァは微笑むと口を開いた。
「ありがとう、バレット。
だが、ジャックなら大丈夫だ。
昔から色んな困難や問題を自分で乗り越えられるような強い子だからな。」
初めて見る表情と優しい瞳でジャックが出ていった方を眺めるレオヴァに、バレットはそれ以上の催促を止める。
「…そうかよ。
なら今度はこの龍王祭ってのについて教えろ。」
「……あぁ、この祭か…!
これは父さんの……」
再開された研修はこの日も部下が夜ご飯を食べてくれと泣き付くまで行われるのだった。
ー補足ー
[バレットの立場について]
レオヴァとの契約関係という敵か味方かハッキリしない立位置にあると船員達からは認識されているが
カイドウが『構わねェ、レオヴァの好きにさせろ!』と発言した事で表だって文句を言うものは居なくなった。
カイドウ的にはバレットは強いからある程度好きにしても文句はないし、レオヴァが良いならいい。
実は不明瞭なバレットの立場を改善すべく考えていることがあるらしい。
ー後書きー
下記、質問箱にて様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio
既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!
ここまで読んで下さりありがとうございます!