キングはある島でリスト化された大量の素材を集める仕事を任されていた。
それらの素材は取り扱いが非常に危険なモノから、手に入れる為に巨大なモンスターを倒さなければならないモノまで多岐に渡っている。
中には他の部下では集めるどころか島から生還することも難しいものも数多く存在している。
その為、レオヴァから研修を受けたキングやドレークという危険物への知識を持っており、尚且つ実力の高い者がこの素材調達の仕事を任されることが多いのだ。
このリスト化された素材はレオヴァの作る開発品やクイーンの
そんな重要任務の為に島に滞在していたキングは電伝虫から聞こえる声に耳を傾けていた。
「……といった感じでな。
おれの薬と合わせれば殺さずに生かすことも出来るし、本当に面白いウイルスだ!」
「なるほど。
それは使い方次第で敵対組織を長期的に弱体化することも可能になりそうだ。」
「ほう…敵対組織の弱体化か。
場合によっては治療薬の販売や譲渡をチラつかせれば取り込みにも使えそうだな…」
受話器越しで少し考え込んでいるであろうレオヴァにキングは小さく笑う。
こういうキングのちょっとした発言からも新しい可能性を見いだそうとする姿勢は昔から変わらない。
そんな事を思いながらもキングは本題に話を戻すべく口を開いた。
「レオヴァ坊っちゃん、思考の腰を折るようで悪いが…
合流はどれくらいで出来そうだ?」
声にハッとしたのかキングの手の上にいる電伝虫の表情が変わる。
「すまない、そうだった…合流の話の途中だったな。
予定ではあと3時間もせずに島に到着する見込みだ。
積る話は到着して、キングの顔を見ながらするとしよう。」
明るいレオヴァの声にキングはマスクのしたに浮かべた小さな笑みを崩さずに答える。
「あぁ、レオヴァ坊っちゃん。
その話、楽しみにしてる。」
普段の刺々しさをまったく感じない声に電伝虫の向こう側のレオヴァが微笑む気配を感じつつ、キングは受話器を置いた。
「……レオヴァ坊っちゃんと2人での任務は久方ぶりだな。」
そう呟いた声は珍しくも、ほんの少し弾むような声色であった。
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あの連絡から数時間が経ち、合流を果たしたキングとレオヴァはある生き物を探しに、薄暗い洞窟を進んでいた。
この洞窟は地下深くに位置するようで、地上と比べると20度以上も気温が低くなっている。
氷で出来ていると思われる壁が増え始めたタイミングで、レオヴァは脇に抱えていた上着を羽織り直した。
キングは横にいるレオヴァの吐く息が白くなっているのを横目で捉えると、予め準備していた松明に自ら火を灯し差し出した。
「レオヴァ坊っちゃん、寒いのは好きじゃねぇだろ。
これでも使ってくれ。」
「ありがとうキング、助かる。」
レオヴァは松明を受けとると笑顔でキングに礼を述べた。
「それにしても同じ島でここまで気温に変化があるとはな…
あの生き物、“ギィギネ”の生息地は冷たい場所と言う読みはあながち間違ってはいないかもしれないな。」
そう楽しげに言うレオヴァにキングも口を開く。
「取り付けた追跡装置はここを示してたんだ。
今回もレオヴァ坊っちゃんの想定通りだろ。」
「そうだと良いな。
読み通りなら、この場所に巣もある筈だ。
と、なれば素材も多く手に入れられて助かるんだが…
あと欲を言えば3匹ほど生捕りにして研究所に持ち帰りたいな!
あの特殊な体液は生きている個体からしか採れないんだ。」
「生捕りか、前回の生き物は船で大量の水を吐いて結局駄目になったからな……」
前に生捕りにしたヘンテコ生物を思いだし、キングは遠い目をした。
こんなに笑顔でレオヴァが持ち帰りたがると言うことは、きっと今回もとんでもない生物なのだろうとキングは察する。
そう、キングはカイドウとレオヴァの“ちょっと気に入ったら拾ってしまう”という悪癖を良く理解していた。
そして同時に、その悪癖を止められないと言うことも身に染みて知っていたのだ。
特にレオヴァの拾い癖は役に立つことも多い反面、面倒が起きる事が多いのも事実であった。
だが、キングはそんな2人の悪癖で苦労することがあっても、決してそれを否定しなかった。
カイドウの、その悪癖のお陰で今のキングがいると言っても過言ではなかった事や
レオヴァも、その悪癖からジャック達や武器に薬品など役に立つもの達が数多く存在する事が主な理由だった。
そんな事を思いながら洞窟を進んでいたキングにレオヴァが声をかける。
「キング、あれを見てくれ。」
レオヴァが指を指す方に目線を移し、キングは微かに目を見開く。
「ギィギュルルルル…」
鳴き声なのか、不快な音を出す生き物が壁を這っている。
体の表面はテカテカと光を反射させており、動くとスライムのような音が静かな洞窟に僅に響く。
肌の色や質感は、かの有名なマルメタピオカガエルに似ていながらも
手足はヤモリともカエルとも言えない形をしており、何故か頭や尻尾と思われる部位が長い。
今までレオヴァが見付けた個体も3から4mほどあると聞いていたが、目の前にいるコイツは8mは
そして極めつけは顔である。
目がない……だけならば、まだ良かった。
剥き出しになっている口からは不揃いな牙がびっしりと並んでおり、牙の間から滴っている粘り気のある液体は異臭を放っているではないか。
そんな普段は絶対に見掛けない様な見た目の
横目で見たレオヴァの顔は松明に照らされており、良く見えた。
……それはもう嬉しそうな表情が。
「今まで地上で見た個体の中で一番の大きさだ…!
いや、しかし2倍以上はあるな……もしかしたら近縁種であるだけで別の生き物の可能性もあるか…
それか今まで見てきたギィギネは全て幼体だったのか?
完全に成体になると洞窟から出てこなくなり、結果発見されることがなかったという可能性も十分にありえるな!
それか雄や雌…何かしらの条件で成長限界が変わってくるという可能性もあるのか……いやしかし、今までの個体は雌雄同体のような体の作りだったようにも思える……どう思う、キング?」
目をキラキラさせながら語るレオヴァへ、キングが溜め息混じりに向き直った瞬間だった。
「ギィ~!!ギュルルルゥウ!!!」
耳を塞ぎたくなるような音を目の前のギィギネが発すると、洞窟の至る所からうじゃうじゃと大量の同種が現れた。
目の前にいるギィギネは8mから9mほどあるが集まって来た個体は3mから4mないほどの、レオヴァから聞いていた通りの大きさの個体だ。
しかしいくら半分ほどの大きさとは言え、川から出てきたばかりのカエルやイモリのようにテカテカと光り、足があるにも関わらずうねうね動く約4mほどの生き物が数十匹も集まって来ては、流石のキングも不快感でマスクの下の眉を顰めた。
「「「「ギュルルルルル…ギィギィ!!」」」」
何十匹ものギィギネが鳴き声だかなんだか分からぬ音を発し、ペタペタぐちゃぐちゃと洞窟に音を響かせながら此方に迫ってくる。
反射的に殺そうと刀に手を掛けたキングを、レオヴァの明るい声が遮る。
「見ろ、キング!!
やはりギィギネは群れで生活する生き物だっただろう!
恐らくあの個体が群れのボスで間違いないな。
そうなると、やはり地上に出ていたギィギネは働き蟻のようなもので…今見付けた巨大な個体が女王蟻のように命令を出し指揮をとっているのか?
という事は知能的な面はこの島にいる生き物の中ではかなり高い可能性が……」
「ッ…レオヴァ坊っちゃん!!」
いつもの長考を始めようとしていたレオヴァをキングの声が現実に引き戻す。
「あのデカイのを生捕りにしてェってのは理解してるが、他の気色の悪ィモンスター共は焼いて良いのか!?」
キングが掌から炎を出すと、レオヴァは慌てたようにその炎を消した。
「駄目だ、キング。
ここは天然の氷の洞窟でもあるんだぞ?
下手に温度を上げては予期せぬ陥没が起こる可能性がある!!」
神妙な顔を
「それは建前だよなァ、レオヴァ坊っちゃん……本音は?」
「…………一気に焼き払わずに生態を観察したい。
どれだけの集団行動力があるのか、知能指数も気になる。
あと出来ればボス個体だけでなく、良さそうな通常個体も厳選したいんだ。
あぁ、勿論洞窟の陥没の件も本音だが…」
一瞬気まずそうな顔をした後に、つらつらと言葉を並べたレオヴァに小さく溜め息を吐くと、キングは炎を仕舞い再度刀に手を掛けた。
「……炎は使わないが、厳選するには数が多すぎる。
軽く減らすくらい構わねェだろう、レオヴァ坊っちゃん。」
「あぁ、構わねェ。
ボス個体には傷をつけないでくれれば良い。
ふふふ、ちょうど襲われた時の反応や攻撃方法も調べたいと思っていたんだ。
毒を使う生き物は襲われた時にこそ、本来の力を発揮する場合が多いからな…!」
上機嫌なレオヴァの返事に頷くと、キングは刀を振り下ろした。
一度のキングの動きで近くにいた3匹が声もなく、洞窟の天井から床へぼとりと落ちてくる。
切断された個体が未だにウネウネと小さく動いていることに、またレオヴァの瞳が興味深げに見開かれる様子をキングは見て見ぬ振りをした。
しかし、そんな中でもギィギネ達は恐れる素振りもなく此方に近付いて来てはレオヴァの電流の罠にかかり、動けなくなっている。
その様子にまたレオヴァは饒舌になっていく。
「成る程、知能はあまり高くはないのか?
集団生活をしているなら一定以上の知能はあるものだと仮定していたがハズレたか…
それとも好戦的な生き物というだけで、知能が低い訳ではないのだろうか?
だが罠を学習する素振りがないと言うことは……いや、ボス個体の命令に逆らえない何かがあると言う可能性もあるか?
そうなると危ないという本能よりも、ボス個体の命令を優先させる何かが働いているという仮説を立ててみるのも面白いな!」
生き生きとしたレオヴァの姿に、また始まったかとキングは特に気にする様子もなく一匹、また一匹と数を減らしていく。
刀で斬った時の人間の肉とは違う感覚にキングがそっと目を細めていると、レオヴァの方からギィギネの不快な鳴き声が上がる。
何事かとキングが振り返れば、そこにはレオヴァに触られて必死に逃げようと踠く少し体の小さな個体がいるではないか。
「…………レオヴァ坊っちゃん…まさか、素手で触ってんのか…?」
「そうだが…?」
何か問題でも?と言いたげなレオヴァの顔にキングはマスクの下の口元を若干引き吊らせる。
「……ソレには毒性があると言ってなかったか?」
「問題ない、この程度の毒はおれには効かないからな。
それよりもこの体液、なかなか面白いぞ!
想像よりも粘性が高い……相手の傷口にしっかりと付着するように進化したのだとしたら、かなり効率的な進化の形だな。
牙で傷をつけた部位に毒を確実に付着させる手段……ふむ、これは武器や罠にも応用出来るぞキング!」
「……そう…か。
まぁ……レオヴァ坊っちゃんのお眼鏡に適ったんなら、おれはそれで良いが…」
爽やかに答えると再びギィギネのぬちゃっとした体液に触れ、観察を再開したレオヴァにキングは、そういう問題じゃねェ…と思いながらも遠い目をするだけで文句を飲み込み、言葉を濁すのであった。
あれから10分もしない内に持ち帰る個体の捕獲を済ませたレオヴァとキングだったが、問題が
合計5匹のギィギネ達は運ぶには大きすぎたのだ。
ボス個体は約8mほどあり、通常個体でさえ約4m弱もある。
これを5匹も船まで運ぶのはなかなかに骨が折れる作業だろう。
当初レオヴァが背に乗せて運ぼうという案を出したのだが、これをキングが断固拒否。
結果、2人でどうやって運ぼうかと頭を悩ませているのである。
「……やはりおれの背に乗せて運ぶのが手っ取り早いんじゃないか?」
「駄目だ。
レオヴァ坊っちゃんにそんな事をさせたとあっちゃ、カイドウさんに合わす顔がねェ。」
レオヴァは昔からカイドウの名を出されると弱い。
説得の言葉を続けることなく、レオヴァは新しい案はないかと思考を巡らせるのだった。
なんやかんやあったが結局、5匹のギィギネは拘束の一部を解かれた後キングとレオヴァの二人から殺気を向けられ、逃げる方向をコントロールされた事で無事船へと誘導された。
突然気色の悪い巨大な生き物が船に向かって駆けずって来たことで船員達が野太い悲鳴を上げたのは言うまでもないだろう。
思わず臨戦態勢に入った船員達だったがレオヴァの『捕獲準備を!』と言う声に武器を仕舞い、瞬時に檻の準備を整えた動きは流石と言わざるを得ない。
まさに彼らこそプロの捕獲隊だろう。
入隊していたばかりの部下なら気を失っているか、逃げ出していたに違いないのだから。
そんなこんなでギィギネを捕獲したレオヴァは上機嫌で船へと乗り込み、部下達は引きつった笑みを浮かべながら出港の準備を整えていた。
「それにしても…まさかあんなヤバい見た目の生き物を連れ帰ることになるとはなぁ……」
「おれはうっすら察してたわ…
だってあれの小さいのをレオヴァ様が見つけた時、すっごい笑顔だったからな……10年もここにいりゃ察するなって方が無理な話だぜ。」
「それはそうと……あの一番デカいの8mは余裕であるだろ?
航海中に暴れられたらヤバくねぇか?」
同僚の言葉に荷積みをしていた者達がサッと青ざめる。
「い、いや!レオヴァ様もキング様もいらっしゃるんだぜ!?
あんな…あんなモンスターくらい屁でもねェよ!」
「そそそ、そうだよな!」
「………キング様ならテメェらでどうにかしろって言ってきそうだぜ…助けてはくれねぇんだろうなぁ…」
「「おい!そういう現実味のあること言うなよ!?」」
思わず突っ込みを入れ、騒がしくしていると別の同僚から注意が飛んでくる。
「お前ら遊んでねェでさっさと終わらせるぞ!
キング様にしばかれてェのか!?
それに急がねェとレオヴァ様がまた新しいモンスター拾ってきちまう…」
最後の一言で同僚達が一斉にテキパキと手足を動かし始める。
「これ以上は勘弁だぜ!?
ソッコーで終わらせるぞ野郎共ぉ~!!」
「「「「うおお~!急げ!!」」」」
一致団結した百獣
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百獣海賊団がマリンフォード奪還軍を襲撃したと言う事件が話題に上がってから暫くの時が流れた頃。
一部の海賊達の間でとある噂が流れていた。
それは
“百雷のレオヴァの懸賞金額はハッタリである”
というものである。
懸賞金額がハッタリとは…?
最初にこの噂を聞いたものは皆がこう思うだろう。
そもそも懸賞金額とは世界政府や海軍が決めるものだ。
いち海賊がハッタリなどで金額を誤魔化せるものではない。
しかし、何故かこの噂は一部の者達には強く信じられていた。
そんな謎に信じられている噂の全容はこうだ。
まず、そもそもレオヴァが強いというのが嘘である。
インペルダウンの崩壊はバレットが主犯であり、マリンフォードの陥落も同じくバレットと四皇二人によるものが大きく、レオヴァはそれに乗っかる形で名を上げた。
……というものである。
だが、これだけでは疑問が残るだろう。
いくら上手く乗っかろうとも、それで20億の金額が付くのか?という疑問だ。
噂ではその疑問の答えはこうだった。
自分達がやられた相手の共犯が小物では示しがつかない。
だから政府は“百雷”という二つ名と、20億以上の懸賞金額を百獣の息子につけたのだろう。
なにより強くなくとも、“脅威”という意味では十分すぎる人物だというのは確かなのだから。
…というものだった。
世界政府が
そして更にこの噂の信憑性に拍車をかけることになったのが、レオヴァの貿易の話だ。
“百獣製”、今では知らぬ者の方が少ないほど認知度が高い一部の商品を表す言葉であり
これは百獣との貿易で手に入れられる品として一種のブランドのようなものになっていた。
信頼性や安全性、値段や流通量など様々な要因から色んな国や島がこぞって百獣海賊団と貿易をしたがるようになった事も合わさり、無法者の海賊達でさえ認知しているほどだ。
そんな百獣製の貿易の核を担っているとされるのが、百獣のカイドウの息子である。
というのは、マリンフォードの事件より前から知られている事実だった。
ここで、海賊達はこう思ったのだ。
百雷のレオヴァはやはり本当に“強くない”んじゃないか?…と。
貿易ばかりしていたのは戦えないからだ、と言うのは前々から噂されていた。
それに本当に強いのなら何故、今まで何もなかったのか。
それが海賊達には理解出来なかったのだ。
力があれば貿易などしなくとも、奪えばいい。
それが
百雷のレオヴァが強いのではなく、近くに化け物のように強い奴らがいる事と世界政府の陰謀によって、たまたま懸賞金額が跳ね上がった。
そう考えれば、噂を信じる海賊達にとっては辻褄が合うのだ。
その結果、今流れている噂を信じる者が増えてしまったというのが事の顛末であった。
そうして、
だが、これだけでは終わらなかった。
『百雷のレオヴァを生け捕れば、30億ベリーで交換してやろう!』
などと、政府加盟国である幾つかの国が手を組んでとんでもない事を言い出したのだ。
そんな国々の思惑は単純すぎるものだった。
百雷のレオヴァは貿易が上手く、更にその品々を作る技術に長けているという。
加えて、戦闘能力が高くないという真実味のある噂まであるじゃないか。
……ならば、我々が利用しよう。
金に目が眩んだ国々の“お偉方”はそういう結論に至ってしまっていたのだ。
そして、噂を信じきっている海賊達はその話に我先にと食い付いた。
なにせ30億だ、乗らない手はない。
現在レオヴァがワノ国から出て来ているという情報を手に、海賊達は意気揚々とその男の首を取りに船を進め始めていたのだ。
……しかし、そんな不穏な動きに気付けぬような百獣海賊団ではない。
実は今回、レオヴァがキングと共にワノ国を出ていると情報をわざと流出させていた。
餌を撒く事でレオヴァの捕縛を本気で狙っている者達を見つけ出し、片付けることが目的だったのだ。
そうして、狙い通り不届き者達の所在は突き止めた。
……のだが、如何せん数が多い。
結果、幹部達はそれぞれが手分けして不届き者達を排除する流れとなったのであった。
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レオヴァを狙っている海賊達への襲撃作戦が開始される1時間程前。
船に乗って現場へと向かっている男の表情はとてつもなく険しいものであった。
普段の黒いコートではなく、深い青緑色の軍服に身を包む厳格そうな顔立ちの男こそ百獣海賊団幹部、近衛隊隊長スレイマンである。
「あの様な根も葉もない噂…!
挙げ句にレオヴァ様を捕縛だと?……身の程知らず共がッ!!
絶対的に許さん…レオヴァ様の姿を拝む事さえさせぬぞ…」
唸るような声を出すスレイマンに同意するように部下達は強く頷く。
流石はスレイマン直属の部下と言うべきか。
今、この船の上にいるもので怒りを露にしていない者は一人もいなかった。
前々からスレイマン直属の部下は過激派だのとクイーン達から揶揄されていたが、事実彼らは過激派であった。
全員の瞳には、噂を流した誰かも分からぬ愚か者と不届き者共に対する怒りと憎悪が渦巻いている。
『レオヴァ様に対する不敬、許すまじ。』
と全面に出ている集団は処すべき海賊達の停泊している島へ、そっと船を寄せるのであった。
一方、その頃。
他にも襲撃作戦の開始の合図を待つ男がいた。
島に停泊している海賊達に気付かれぬように潜むその男は濃い隈を目の下にたずさえ、白地に黒の斑模様の帽子を深くかぶっている。
そして何より目を引くのが、上着を羽織っていても見える全身にあるタトゥーだろう。
彼こそがトラファルガー・ロー。
スレイマンと同じく、近衛隊隊長の座を任されている百獣海賊団幹部である。
「……チッ、呑気に酒盛りか。」
討伐対象を監視出来る位置から睨みを利かせているローに部下が慌てたように小さな声を出す。
「キャ、キャプテン。
あんまり殺気立つとばれちまいますよ!」
「…分かってる。
それより、お前ら……しっかり包囲出来てるんだろうな?」
ローの問い掛けに部下は大きく頷く。
「もちろんですよ、キャプテン。
レオヴァ様に不敬を働こうなんて馬鹿は、皆殺しッスよね!」
「フッ…分かってんなら、いい。」
小さく笑ったローに部下もニヤリと笑い返す。
「……あとは開始の合図を待つだけだな。」
ローの呟きは、木の間を吹き抜けた風にかき消された。
ほぼ時を同じくして別の島でも、作戦開始の合図を待つ男がいた。
その男は無駄なく鍛えられた大きな体に軍服を纏い、自身の存在を一切悟らせることなく闇に紛れている。
この男の名はダグラス・バレット。
ここ最近、百獣海賊団に入ったと言われている男であり、短期間で先鋒長という幹部の座に任命された程の実力者だ。
そんなバレットの
だが、このような構造はバレットの勝手知ったる所である。
全てを見ずとも、中の作りを予測出来るのだ。
それだけ“戦争”は身近なものであったし、きっとこれからもそうなのだろうとバレット自身は思っている。
忙しなく動き回る海賊達の様子を冷めた目で見下ろしながら、バレットは補給食をかじった。
「この程度でおれを倒した男を殺れると、本気で思ってやがるのか…?」
これは心からの疑問だった。
バレットにとってレオヴァは“あの男”以外で初めて、一対一の正面からの闘いを制した男だ。
小細工もなにもない。
ただ自分の強さのみを出し切る、純粋な“力”の応酬だった。
油断もなく、慢心もない。
全てを出しきった末の敗北。
40年以上の人生で二度目の、心から認められる“敗北”だ。
そんなレオヴァにこの程度の戦力で挑もうとする奴らがバレットには理解出来なかった。
同時にふつふつと怒りが込み上げてくる。
レオヴァが侮られるという事は、自分が侮られていると言う事と同義だ。
“自分が認めた男”がナメられているという事実は、バレットにとって許せる事ではなかった。
眼前に広がる海賊達の簡易基地を睨むバレットの瞳に映る感情は怒りだ。
その怒りはどこから来るのか。
それは未だ、バレットでさえ完全に解ってはいない感情だった。
作戦開始まで、あと35分。
ー後書きー
次回はスレイマン、ロー、バレットの任務偏になる予定です!
長くなったので前後半に分けました!
今回もここまで読んで下さりありがとうございます!
ご感想やここ好き一覧、誤字報告など本当に感謝です~!
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下記、質問箱にて様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio
ちなみに冒頭のノリが好きな方はツイッターで番外編(三次創作?)的なモノのを書いて下さっている方がいるので…是非。2ちゃんパロもあるよ(*´-`)