『作戦開始だ、誰一人逃がすんじゃねェぞ!!?』
怒りに満ちたクイーンの声がそれぞれ別の島で待機していたスレイマン、ロー、バレットの三人の電伝虫から響いた。
スレイマンは黄金で基地を呑み込んだ。
ローは“ROOM”を発動させ、逃げ場を奪う。
バレットは島を監獄へと変え、見た目も変容させていく。
それぞれの島に、悲鳴がこだました。
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男達は
浜辺にさえ辿り着けば船がある。
そうすれば逃げられる、そんな希望を持ってなりふり構わずに走っていたのだ。
しかし、現実は男達に牙を向いた。
「なっ……なんだよこれは!!?」
「どうなってる!?……この
「そんな…ウソだ、ウソだ!!
これじゃあ、まるでッ……」
檻じゃないか!
そう、男が言葉にすることはなかった。
ぼとり。
地面に男の首が1つ転がっていく。
二人の男はそれを視界に捉えると、ガチガチと震えながら後ろを振り返った。
僅に足音を立てながら震える二人に近付いて来た男は半身にべったりと反り血を付けている。
手に握るサーベルからはポタポタと鮮血がしたたり、その姿はまさに二つ名通りであった。
「く、“首はね”スレイ…マン……」
震える声で呟いた男はその場から動かない。
……いや、動けなかった。
下半身が黄金で固定されてしまっているのだ。
逃げるべき道は黄金の壁に阻まれ、動かさなければならない足は黄金で固められている。
もう、逃げ場などなかった。
スレイマンがサーベルを男の首の上へ
「黄金に囲まれて死ねるんだ。
貴様らのような貪欲な人間になら、本望だろう?」
冷たい声だった。
恐怖に震える男が思わずスレイマンの顔を見上げてしまう程に。
そして見上げた男が最期に見たのは、冷たい声とは正反対の
怒りと憎悪に燃えたぎるスレイマンの瞳だった。
ぼとり。
またひとつ、地面に転がる首が増えた。
たった一人になった男は、恐怖で滲む瞳でスレイマンを見た。
ゆっくりとスレイマンが、振り返る。
表情はない。まるで亡霊のように。
しかし、瞳に全ての感情を宿していた。
男は全てを悟った。
もう、助からない。
自分は触れてはならぬタブーに触れたのだと。
サーベルが男の首へと振り下ろされた。
ぼとり。
この島で生きていた不届き者の最後のひとりの首が、地面を転がっていく。
スレイマンは祈るようにサーベルを胸の前へと掲げる。
「あの方の尊き光は、何人たりとも犯してはならぬのだ。」
その姿は忠義高き騎士そのものであり、まるで絵画のようであった。
……その人物が血塗られてさえいなければ。
島を覆っていた黄金が解かれていく。
「…不敬な輩は全て、このスレイマンが首をはねて見せましょう。」
月明かりに照らされるスレイマンの口元には、かすかに笑みがあった。
きっと彼は“尊き光”が微笑んでくれる未来を想像したのだろう。
『良くやった、スレイマン。
やはりお前に任せて正解だった……これからも頼むぞ。』
こう言って微笑みを向けてくれるに違いない。
スレイマンはここにはいない彼に想いを馳せるのだ。
国に裏切られ、存在を誰にも必要とされなくなったあの時。
手を差し伸べてくれた人の為。
あの人の為ならば、スレイマンに不可能などない。
あの人と我らが総督。
そして出会えた同志達が笑っていられるのならば。
他を斬り捨てることに、なにを躊躇する必要があるのか。
懐から出した布で、スレイマンはサーベルについている血を拭った。
そのまま血を吸い重くなった布を捨て去ると、遠くから部下達が走ってくる音が聞こえてくる。
「「「スレイマン様っ!」」」
部下達が揃って名を呼ぶ。
そっと振り返れば、きっちりと列を成した部下がこちらを見ていた。
「お前達……港は首尾良くいったのか?」
「「「はい!抜かりなく!」」」
ぴったり揃った返事にスレイマンが満足そうに笑う。
「よし、では……おれが首をはねに行こうか。」
「全員並べてあります。」
「そうか、気が利くな。」
その言葉に部下は嬉しげに一礼すると、歩き出したスレイマンの後ろに続いて行く。
「レオヴァ様に不敬を働いたのだ……逃すことなく全員裁かなくてはならん。」
早足で進むスレイマンの言葉に後ろに続く部下達は尤もだと、強く頷き返すのだった。
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とある諸島にて。
比較的小さな無人島は、あり得ない姿へ変貌を遂げていた。
生い茂っていた筈の木々は全てが一定の長さに切断され、無理やり島全体を見通せるように変えられている。
隠れる場所など何処にもない。
そう言わんばかりの島の状態はかなり異常だろう。
しかし、そんなものが可愛く思えてしまう光景が砂浜に広がっていた。
山のように、バラバラになった人間だったモノが積まれているのだ。
だが、それだけではない。
それらは
まるで人形のように積まれている四肢はわさわさと蠢いており、胴体は下手くそな美術作品のように継ぎ合わされて1つの塊になっている。
その山積みされた部位たちには謎の虫が皮膚の中を這い回っているのが見てとれる。
そして、極め付けは
全ての生首が、離れた胴体を謎の虫に食い破られる感覚に声にならない声を口から溢れさせている。
常人がこの場に立てば正気を保てずに気を失うだろう光景を前にしても、
それもその筈。
この普通では考えられない光景を作り出した人物こそ、今砂浜の上に平然と佇むトラファルガー・ローなのだ。
ローが立っている月明かりがぼんやりと照す砂浜では、穏やかな波の音と生首達の嗚咽と悲鳴が入り交じっている。
無表情だったローは微かに口元を三日月形に歪めながら言葉を発した。
「……そんなに楽になりたいのか?」
ローの問い掛けに生首達は一斉に口を開く。
もう勘弁してくれ。
どうか楽にしてほしい。
おれ達が悪かった。
そして、最期には生首達は口を揃えて同じ単語を繰り返す。
『許してくれ』『許してください』と、何度も何度もだ。
ローは目を細めて、笑う。
「……分かった。
もう、楽にしてやるよ。」
生首達は一斉に安堵の表情を浮かべる。
彼だけが、生首達を元の姿に戻せる。
この終わりの見えない地獄を終わらせられる人物なのだ。
「ベポ、楽にしてやれ。」
そうローが言うと、真っ白なクマが一ヶ所に纏められた生首の胴体達へ大量の液体を撒いた。
同時に砂浜は絶叫に包まれる。
鼓膜が破れるのではないか、と思うほどの阿鼻叫喚っぷりに真っ白なクマことベポは両手で耳を塞ぐ。
「うぅ……キャプテン~…耳痛いよ~!」
小走りでこちらに寄ってきたベポにローは呆れたような声で返す。
「…数時間はうるせェだろうから先に潜水艇に戻っててもいい。」
「ありがとう、キャプテン~!
先戻ってるね……んん、やっぱり凄く、うるさいね…」
生首達を忌々しげに一瞥すると、ベポは潜水艇へと戻って行く。
その姿を見送ると、ローはまた絶叫し続ける生首達を見下ろした。
「あと数時間もすれば薬品で活性化した虫に全身食われて楽になれる。
何せ、痛覚の繋がった胴体が無くなるんだからな。
……まぁ、首だけでも生かせる器具もあるから安心しろよ。」
嗤うローの表情は薄暗い感情が溢れていたが、ふっと表情が消える。
「本当に楽になりたきゃ、レオヴァさんを連れてこいなんて馬鹿な事を言い出した奴らの名前をさっさと吐け。」
生首達は必死に知らない、分からないと叫ぶ。
すると、ローはゴミを見るような目で生首を見下ろした。
「知らない、か。
それは散々聞いた。
おれは
知ってるか知らないかは関係ねェ。
……思い出せる名前がねェなら、そのまま全身を食われる感覚を楽しめ。
生首だけになったら、最期はクイーンの実験室行きだ…良かったな。」
無情に言い捨てると、ローは部下が用意した椅子に腰かけた。
そして医学書を片手に持つと、咽び泣く頭部達を視界から外す。
「……レオヴァさん、今回はどんな生き物捕まえてんだろうな…」
脳裏にレオヴァを思い描いた。
きっと今回も珍しい生き物相手に目を輝かせているだろう姿を想像して、口元を緩める。
ローはレオヴァの楽しげな表情が好きだ。
珍しい生き物を見つけた時。
変わった文化に触れた時。
ローやジャック、ドレーク達に冗談を言ったり少し意地悪な事を言う時。
研究で新しい可能性を見つけた時。
普段のキリッとした表情から一変し、レオヴァは本当に楽しそうに笑うのだ。
そんな暖かなレオヴァが、ローは好きだ。
だから、許せなかった。
レオヴァを見下されることも、侮られることも。
…
全てが許せることではなかったのだ。
ローにとって、カイドウとレオヴァは“絶対”だ。
どちらが欠けてもならない。
2人がいる場所こそがローの居場所であり、安息の地だ。
それを
簡単に死なせるなんてもっての他だ、とローは考える男だった。
だから、普段ならば使用を禁止されている“虫”を使ったのだ。
レオヴァお手製の、とびっきりの苦痛を与えるべく。
そして最期に首だけになったまま生き長らえる馬鹿共はレオヴァの目に触れさせることなく、クイーンに渡そうと考えていた。
きっとあの男なら、想像を絶する苦しみと絶望を与えるだろう。
……裏切った“あの助手”が受けたような苦痛と絶望を。
ローは左腕を月明かりにかざす。
少し穏やかさを取り戻しつつ、ローは雷を司る巨鳥のタトゥーを見て微笑んだ。
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所変わり、ある大きな無人島。
そこにあった基地は跡形もなく消え去り、地形が大きく変形している。
いくつものクレーターが点在している有り様は、まるで巨大なモンスターが暴れた後のようだ。
そんな無人島にいる男達は青ざめた顔で上空を見上げていた。
ゴゴゴゴ…と巨大な何かが引き摺られているような音の方へ目線を向ければ、見たこともないような化け物が存在していた。
巨人とも違う、まるで山のような大きさの化け物はゆっくりと。
しかし、確実に島の反対側から男達のいる場所へと辺りを引き潰しながら移動している。
もはや、あんな怪物は人智の及ぶところではない。
勝てるわけがないと、男達は絶望するしかなかった。
銃も剣も、大砲さえ効かない。
それどころか武器も全てを呑み込んで、あの化け物は前進してくるのだ。
大地の磨り減る音が、どんどんと男達へ近付いてくる。
逃げ場はない。
この島にあった筈の海への道は消えたのだ。
あの化け物の能力によって、全て。
巨大な化け物が眼前に迫る。
大きく振り上げられた拳が、男達の最期の記憶だった。
残滅を終えたバレットは纏っていたものを瓦礫へと帰す。
バラバラと崩れていく光景を背に、一人だけ生かしてやっている男を閉じ込めた檻を見る。
檻の中にいる男は恐怖から呼吸のリズムがめちゃくちゃになっており、瞳は見開かれ体は小刻みに震えていた。
バレットは苛立ちを募らせる。
何故こんな小物にレオヴァを見下されなきゃならないのか。
もし、ここに居たのがレオヴァならこんな無様は晒していない。
寧ろバレットの“鎧”をあの時のように全て剥がし、心踊るようなぶつかり合いを楽しめていた。
レオヴァなら…レオヴァは……
苛立ちからぐるぐると回る思考を、バレットは無理やり止めた。
「……違う、なんでまたレオヴァが出てくるんだ!!」
瓦礫の山をバレットが殴ると、そこには
自分の思考に何かと顔を出すレオヴァを心の中から追い出しつつ、男の入った檻を持ち上げる。
怯えた情けない声を出す男を無視してバレットは帰りの船へと戻っていく。
化け物が消えた島に、恐ろしいほどの静寂が訪れた。
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ここは、とある世界政府加盟国。
裕福な貴族達が住む都市部はあらゆる贅を尽くされた作りになっている。
きっと誰もが羨む都市と言っても過言ではないと、この国の貴族達は下品な笑みを浮かべるだろう。
そして今日、貴族達は王宮に集められていた。
なんでも素晴らしい報告があると言うのだ。
豪華なシャンデリアに照らされる大きなホールに、国中の貴族達が一堂に会していた。
すると、音楽隊のいかにもな音と共にホールの上に続く階段の扉が開かれた。
召使いにより両開きの扉が開くと、より一層贅沢な服に身を包んだ男女が降りてくる。
この男女こそが、この国の王とその妃であり
名をアンシベル国王と、ペルデンテ王妃と言う。
国王は重そうな腹を抱えながら、のそのそとホコリ一つない階段を美しい王妃と共に降りてくる。
そして国王はホールに降り立つと、口を開いた。
「よく集まってくれた。
皆が知っての通り、今日はめでたい日だ!!」
瞑れた蛙のような顔の男が声をあげ終えると、媚びたような顔の貴族達が一斉に歓声を上げる。
その様子に満足したように国王は頷くと、召使いが用意した椅子に腰掛けた。
「では、早速だが
このパーティーを開催した理由を話そうか…!」
「おぉ!早速でございますか!!」
「いやはや、非常に気になりますなぁ!」
「アンシベル国王陛下から、直接聞けるとは!
我々は果報者ですな!!」
食い付きのいい反応に国王の笑みが深まっていく。
そのまま静かに手をかざし、貴族達が口を閉じると国王は自慢げに語りだした。
「今回、我が国は……“百雷”を手に入れた!!」
“百雷”という単語に貴族達がざわめき始める。
だが、それを国王はまた手の動きだけで静めると言葉を続けた。
「少し前に、取引をしていた者達から“百雷”を捕らえたと言う連絡が来た。
明後日には、我が国に奴が手に入ることになるのだ!
もう、我が国の発展は約束されたものとなった。
奴を利用すれば多くの国を属国にすることも、新しい兵器や薬を開発させることも出来る!!」
鼻息荒く語る国王に貴族達はそれぞれの反応を示していく。
ある貴族は国王と同じように欲にまみれた笑みを浮かべ、またある貴族は顔を真っ青にさせて俯いた。
けれど、国王に貴族達の顔色など見えていない。
今あるのは素晴らしい事を成し遂げた自分への称賛と、これから手に入るだろう全てへの喜びだけだ。
「私は!これから全てを手に入れるぞ!!
もう世界政府の顔色を伺う必要もなくな…」
国王の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
変わりに貴族達の耳へ届いたのは王宮の天井を突き破って降ってきた巨大な火球が国王を包んだ音だった。
一瞬の静寂。
そして、弾けるように貴族達の悲鳴や困惑に満ちた声がホールを満たした。
全員がなりふり構わずに出口へと走り出す。
前にいる人間を押し倒し、倒れた者を踏みつけ我先にと唯一の扉を目指していく。
誰よりも速く扉へ辿り着いた貴族の男が、消えた。
ただ、下半身のみを残して消えたのだ。
砕け散った扉の破片と共に、下半身だけになった貴族の男が倒れる。
その男の近くにいた女が悲鳴を上げ、狂ったように顔を拭い始める。
必死に、男だった破片が触れてしまった顔を。何度も何度も。
いつまでも泣き叫びながら顔を拭う女へ、壊れた扉の前にいた大男が棍棒を投げつけた。
ぐちゃり。
またホールに静けさが訪れる。
大男は唯一の出口であり、入り口を手で押し広げながらホールへと踏み入った。
長くうねる真っ黒な髪からのぞく白い角。
怒りが刻まれたかのような眉間のシワに、鋭い眼光。
この場にいる誰もが知っていた。その大男の名を。
「……ひゃ……百獣のカイ、ドウ……」
大男、カイドウはゆっくりと先ほど投げた棍棒の方へ歩いて行き、長年手に馴染んだそれを取る。
下敷きになった女が露になり、またフロア全体が恐怖と混乱の叫びで溢れかえる。
「うるせェぞ!!さっきから耳障りだ!!」
カイドウの怒鳴り声がホールに響くと、そのまま貴族達は気を失ってバタバタと倒れていく。
「おい、クイーン!!」
カイドウが叫ぶように呼ぶと、後ろからまん丸とした大男が顔を出す。
「カイドウさん、気を失わせちまったのかよ!?
意識がある状態で絶望させてやろうと思ってたのによォ…」
残念がるクイーンにカイドウは不機嫌さを隠す様子もなく、腰に下げていた瓢箪を手に取り酒を煽る。
「こいつらは捕まえてハチノス送りだ!!
拷問は任せるが……簡単に殺してやるなよォ!?」
「あ~!そういう感じッスかァ?
んじゃ、まぁ…キングのアホとおれでやるんで任せてもらえりゃあ。」
合点がいったと頷くクイーンを横目で見ると、カイドウは先ほど火球で開けた穴の方へと歩いていく。
「ここは任せるぞォ……おれァ、この国を消す。
レオヴァがもう、
金輪際、誰だろうがおれの息子を馬鹿にしやがる奴らは皆殺しだァ!!!」
そのまま天井の巨大な穴から飛び去っていったカイドウをクイーンは見送ると、ホールの外で控えていた部下に指示を出す。
「おい、ダイフゴー!!聞いてたよなァ!?
ここにいる馬鹿共を全員生捕りにしとけ!
おれは見つけるべきモンを見つけてくる。」
「へい!QUEEN様ァ!!お任せを!
テメェら、ちゃっちゃとこのグズ共を縛り上げるぞ~!!」
「「「「おお~!」」」」
ドスドスと足音を立てながら王宮の奥へと消えたクイーンへ軽く会釈し、ダイフゴーは貴族達を拘束するべく動き出す。
「ふざけやがって、このクソ貴族共…!
テメェらみてぇなのがレオヴァ様の御名前を軽々しく口にしてんじゃねェってんだよ!」
苛立つダイフゴーの言葉に同意するように頷きながら、部下達は慣れた手つきで次々と拘束していくのだった。
その日、この国の空に一匹の巨大な青い龍が現れた。
巨大な龍は中央都市の真ん中に位置する城の上で
龍の口からは夜空に浮かぶ太陽のように輝かしい光が溢れ出す。
誰もがその光景に唖然と立ち尽くしていた。
「“
青い龍の口から幾つもの巨大な火球が空へと放たれ、都市の色んな場所へと降下を始める。
まるで太陽が降り注いでいるような、幻想的な光景が広がった。
そして、数秒後に都市は火の海と化した。
燃え盛る町並みの上を青い龍が舞う。
口から火の光線を放ち、時には尾で建物を破壊していった。
死を目前にした人々は都市の中心にある城を忌々しげに見つめている。
そこには空に浮かぶ船があった。
きっと王族や貴族はあれで逃げているに違いない。
自分たちがゴミのように焼け死んでいくのに、奴らは助かるんだ。
そう、全ての平民が思い。怨念を貴族達に向けた。
ついぞ、平民の中にその船が地獄行きだと知る者はおらず。ただ等しく死を迎えるのであった。
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バレット達がそれぞれの島の制圧を終え、カイドウが国を滅ぼしている頃。
レオヴァは海賊島ハチノスへ向かう船の中に居た。
珍しいギィギネという生き物も捕まえ、上機嫌なレオヴァは鼻歌でも歌い出しそうな勢いで紅茶を淹れている。
部屋には甘酸っぱい香りが漂っており、椅子に腰掛けていたキングが片眉を上げる。
「珍しいな、レオヴァ坊っちゃん。
ずいぶん甘ったるい香りだ。」
紅茶を淹れ終えたレオヴァは振り返り、マスクを外しているキングの瞳を見て楽しげに笑う。
「ふふ、最近新しくブレンドした紅茶なんだ。
一杯どうだ?
匂いは少しキングには甘すぎるかもしれないが、砂糖さえ入れなければ味にそんなに甘味はない。」
「ほう。
前々からジャックから聞いて少し興味があった、一杯もらえるか?」
「もちろんだ。
そうだ、キング。
今度ジャックの淹れたものも飲んでみるといい。」
「……ジャックが淹れられるのか?」
少し驚いた顔をするキングにレオヴァは紅茶をカップに注ぎながら答える。
「あぁ、おれが教えたからな。
ジャック専用のティーセットも作った。
まだ完璧ではないが、ジャックにしては美味いものを淹れてくれるぞ。」
その光景を思い出したのか微笑ましげに笑うレオヴァにキングも小さく笑う。
「あのズッコケジャックが紅茶…?
レオヴァ坊っちゃんのこととなると必死なのは昔からだが、紅茶とはなァ。
まったく似合わねぇ……くくく」
笑いを噛み殺すキングの前にティーカップを置き、レオヴァは正面の椅子に腰掛ける。
「ふふふ、確かに似合わねェな。
だが、ポットを睨み付けながら頑張るジャックはなかなか…」
同じく笑いを噛み殺しているレオヴァを見て、愉快そうにキングは目を細める。
「ふぅ…少し笑いすぎたか。
で、レオヴァ坊っちゃん。
これはこのまま飲んでいいのか?」
「そうだな、ミルクもあるが……キングならストレートで飲む方が良いかもしれねェな。」
「そうか。」
ティーカップを持ち上げ、ぐいっと飲んだキングが少し固まる。
その顔を見てレオヴァは思わずと言うように吹き出した。
「ふはははは!!なんだ、キング!
そんな顔に出るほど口に合わなかったか?」
「……その反応、分かってて飲ませただろう…レオヴァ坊っちゃん。」
渋い顔をするキングとは正反対にレオヴァは笑う。
「ふふ、いや…すまねぇ。
これはキングには甘すぎたなァ……ふふふ。」
「ったく……“また”か。
カイドウさんのあの言葉が嬉しくてはしゃぐのは分かるが、おれを巻き込むな。」
呆れたような声色だが、キングの表情は明るかった。
「つい、な。
父さんの件もそうだが、久方ぶりにキングと二人だけでの遠征だっただろう。
昔を思い出して久々に“悪戯”をな?」
「フッ…確かに“二人だけ”ってのは数年振りだ、懐かしいな。
……で、この紅茶はなんて言うんだ?」
「これか?
これは“ピエロ”だ」
「ピエロ…?
また随分なネーミングセンスだなァ、レオヴァ坊っちゃん?」
からかう様に笑うキングに、今度はレオヴァがムッとしたような顔で反論する。
「違うぞ、キング。
今回はちゃんとした理由がだな…」
「…へぇ?
なら聞かせてくれるか、その
試すような視線を向けて笑うキングに、レオヴァは自信たっぷりに答える。
「これはフルーツと花びらを何種類も使ったから茶葉が鮮やかなんだ。
それだけでなく最初のひと口と後味の変化も面白い!
……というわけで“ピエロ”と言う名に決めた、どうだ?」
珍しくどや顔を披露するレオヴァの正面に座るキングは沈黙の後に、もう我慢出来ないとばかりに手を口の前にかざす。
「フッ…ククク……そりゃあ、レオヴァ坊っちゃんらしいネーミングだ。」
肩を揺らすキングにレオヴァはきょとんとした顔を向けるが、またそれが彼のツボに入ったのか暫く肩を揺らしていた。
「……今回はかなり自信があったんだが…」
「あぁ、レオヴァ坊っちゃん。
あの肉団子野郎のクソくだらねェ冗談の100倍笑えたぜ。」
「…………キング、それは褒めてねェ。」
拗ねた時にカイドウがする表情と同じ顔でじっと見てくるレオヴァに、またキングは笑う。
穏やかな時間を送る二人を乗せた船は、真っ暗な海を進むのであった。
ー捕捉ー
今回、カイドウさんが使用した“ボロブレス”はアニメ版とバウンティラッシュで使用されている火球をいくつも出す方の“ボロブレス”です。
カイドウ:かなりブチギレ
今回の残滅作戦の指示を出した本人。
部下に偽りの連絡をさせて王族と貴族を一気に捕らええ、国は滅ぼした。(国王殺しちゃったのはうっかりミス)
このあとまた他の国を潰しに行く予定。
クイーン:怒状態だが、思考は冷静。
カイドウと共に国を潰しに来たが、本命はレオヴァに頼まれていた情報収集。
キング:謎生物捕獲後、送られてくる予定の馬鹿共を拷問するためにハチノスへ向かっている。
現在はレオヴァとゆったり中。
・後書き
“ピエロ”という紅茶は実在するので、是非機会があれば飲んでみて下さい~!面白い味がしますよ!笑