(公式で発表されたら一部、書き直すかもです)
新世界にある、小さな島。
そこは平たい丘に可愛らしい黄色い小さな花が一面に咲き誇る、美しい無人島だった。
しかし、今ではその影もない。
至る場所に地面が
あれほど美しかった花畑は、今や荒地と化していた。
そんな荒地で、短い呼吸を繰り返しながら膝を突く者達がいた。
「はぁっ……も、最悪ッ!!…ぅ…」
普段よりも覇気のない悪態を吐き、愛らしい顔を歪めているのは飛び六胞のうるティだ。
彼女が咳と共に軽く血を吐くと、すぐ側で同じように立てずにいる眼帯を着けた男が口を開く。
「…無駄口を叩いていると…ハァ……もたないぞ…」
「うるせぇドレーク……ゲホッ…」
同じ飛び六胞という幹部であるドレークにうるティが悪態をつくが、いつも通りの勢いはない。
「ゼェ……お前ら…はぁ、喋る余裕あるのかよ……」
首を動かす気力もないのか目だけ動かして、うるティとドレークの方を見る人獣型の姿のササキは膝を突く処か地面に胡座をかいている。
「おい…てめぇ、そんな…ハァ……座り込んで……飛び火来ても、知らねぇぞ…ゴホッ…」
ひびの入った赤いマスク越しにササキを見ながら、フーズ・フーは疲れの滲む声で言う。
「問題ねェよ…ハァ……トリケラトプスは、硬いんだ…ゲホゴホッ」
そんなフーズ・フーの言葉に軽口を叩こうとしてササキは咳き込んだ。
今ここにいる、うるティ、ドレーク、ササキ、フーズ・フーの4人は満身創痍であった。
これが任務中ならば危機的状況だが、今は任務外である。
4人はもう動く気力がない自分達とは正反対に、未だに動けている2人へ視線を移した。
そこにはボロボロになりながらも必死にレオヴァへ攻撃を続けるジャックの姿がある。
「フンッ!!」
8mを超える巨体が拳を振り下ろす。
しかし、その重く素早い一撃は、あっさりとレオヴァの拳によって弾かれる。
弾かれた反動で一瞬、体勢の崩れたジャックの巨体は、その半分程の背丈しかないレオヴァの蹴りで数メートル吹き飛ばされてしまった。
派手な音と共に地面に大きなクレーターができ、砂ぼこりが舞う。
「
流れを意識しろ、不要な場所の覇気を必要な場所に流すんだ。
自分の体を硬くするんじゃねェ、見えない鎧を纏うイメージを持て。」
「…ガハッ……おれに…カイドウさんやレオヴァさんが使ってる技は…」
使えねェんじゃないか、そうジャックが言おうとした言葉に被せるようにレオヴァは言葉を発した。
「いや、出来る。
自信を持て、ジャック。
お前はうちの大看板、父さんを守る3つの災害の一人!!そうだろ!?」
「ハァ…ゴホッ……あぁ、レオヴァさん…おれァ……“旱害”だ!」
「よし、なら次だ。
ジャック、立てるな?」
強い声に答えるように、ジャックはよろりと立ち上がり、その姿にレオヴァは満足そうな笑みを浮かべた。
「…それでこそ父さんが選んだ大看板だジャック!!
お前のタイミングでいい……来い。」
コンマ数秒の沈黙のあと、ジャックは動いた。
直線上に突進……と思わせての方向転換からの強襲であった。
端から見学していたドレーク達でさえ、目で追えないほどの。
凄まじい衝撃音と共に、砂ぼこりが舞う。
「ゼェッ…ゴホッ……やっぱり…敵わねェ、な…レオヴァ、さん…」
ぐらりと巨体が揺れたかと思うと、その場に倒れ込んだ。
砂ぼこりが静まったそこには嬉しげな表情で気を失っているジャックと、ほぼ疲れを感じさせないながらも、腕から血を流すレオヴァがいた。
「ふはははは…!!
流石はおれの自慢のジャックだ!!!」
レオヴァは本当に嬉しそうに笑うと、巨大な鳥の姿へ形を変えて嘴で上手くジャックを咥えると背に乗せる。
「うるティ、ドレーク、ササキ、フーズ・フー。
今日の組手はここまでだ、帰るぞ。」
動けずにいた4人も、ジャックと同じように嘴を使い背に乗せると、島の側に停泊している船へと飛び立って行くのだった。
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地獄の30時間組手を終えた次の日、うるティ、ドレーク、ササキ、フーズ・フーの4人は体のあらゆる場所に包帯を巻かれた状態で船の中にいた。
しかし、さすがは
そんな4人の手当てを終えたローはスレイマンが部下と共に運んで来た昼食を見て、口をへの字に曲げた。
「……おい、パンばっかりじゃねェか。」
「好き嫌いとか子どもじゃん!!」
「…お前に言われたくねェ!」
「ちょ、姉貴……手当てしてくれたローに突っかかるなよ…」
「なんだよ、ぺーたん!!
コイツの肩持つのか~!!?お姉ちゃんの味方しろ~!!
てか、手当てはレオヴァ様にして欲しかったでありんすぅ~!!!」
「いや、我が儘言うなよ~…
レオヴァ様はジャックの手当て行ってるし仕方ねぇだろ?」
「うぬぬぬ……ジャックずるい!!
羨まし~い~で~あ~り~ん~す~!」
「ウゲッ…あ、姉貴、やめろっ…」
怪我人とは思えぬほど強く、ガクガクとページワンを揺するうるティをローやスレイマンは呆れた目で眺め、ドレークは姉弟の不憫な弟へ哀れみの目を向けていた。
「それにしてもよォ!
まさか龍王祭の前に幹部全員が組手やることになるとは思わなかったよなァ!」
けらけらと明るく笑うササキの言葉に、スレイマンが微かなドヤ顔で返す。
「おれはレオヴァ様がカイドウ様に孤島が欲しいと言っていた時点で、薄々気づいてはいたがな。」
「……まぁ、レオヴァさんが飛び六胞と近衛隊の隊長を集合させるってのは…そういう事だろ。」
「最近は龍王祭前に組手をする場合が多い。
レオヴァさんなりに、我々を思ってのことなのだろうが……ふむ。」
スレイマンの言葉にホーキンスが淡々と返し、煙草片手にフーズ・フーも同意を示す。
「ドヤってんじゃねェスレイマン!
あとフーズ・フー、お前さっきから
「嫌なら、部屋に戻れガキ。」
「はぁ~!?
なんで私が戻らねぇといけねぇんだァ!?
お前が部屋に戻れ~!!」
「…アァ?」
部屋の温度がすっと下がる感覚にページワンが慌てると、フーズ・フーの方へじわじわと距離を詰めていたうるティをブラックマリアが優しく捕まえた。
「ケンカは駄目よ、うるちゃん。
もうすぐレオヴァ様も昼食を取りにいらっしゃるんだから、髪の毛整えておめかししましょう?」
「フンッ、仕方がないから今回は私が大人になってあげるでありんす!」
「……ッチ、くそガキ。」
フーズ・フーの吐き捨てた言葉を無視して、うるティはブラックマリアの膝にちょこんと座る。
「ねぇねぇ、あれやって!
編み込みってやつ~!」
「うふふふ♡
任せてうるちゃん、その可愛さをとびっきり引き立ててあげる!」
綺麗に微笑み、ブラックマリアから見ると小さい頭に優しく触れ、慣れた手付きで髪を整え始めた。
そんな光景にページワンは感心したように声をあげる。
「すげェ…よくそんな細かいの出来るよなぁ…」
「あら?
褒めてくれるの、ペーたん?ありがとう♡」
「ぺーたんって言うな!!」
ムスッとした顔で怒るページワンの姿にくすり、と笑いながらもブラックマリアは編み込みを続けている。
そんなやり取りを横目にスレイマンは部下にテキパキと指示出しを行い、昼食の準備を進めていた。
「レオヴァ様到着まで、あと10分。
滞りなく進めるぞ。
それと海鮮については、レオヴァ様がお席に着かれた後にお出しする!
鮮度が命だからな、いいな!」
「「「「はい、スレイマン様!」」」」
「……相変わらず堅苦しいなァ。」
軍隊のように動くスレイマンとその部下達を見て、ササキは苦笑いともとれる笑みを溢す。
地獄の組手の時とは正反対にのんびり流れるひととき。
そんな穏やかな部屋の扉が、ゆっくりと開かれる。
部下が開けた扉から、少し頭を下げてくぐるように部屋に入って来たジャックを椅子に腰掛けていたローが見上げる。
「もう、動けるのか?」
「当たり前だ。
組手で動けなくなるようじゃ、カイドウさんとレオヴァさんに合わせる顔がねェ。」
「そうかよ。
……レオヴァさん、“電伝虫の時”も上機嫌だったぞ。」
「……ッ…本当か!」
「あぁ。」
嬉しげな顔をした後すぐにハッとしたように表情を引き締めたジャックにローは笑うが、気持ちは分かる為、からかいの言葉は内心にとどめる。
ジャックは照れを隠すように、どかりと音を立てながら専用の椅子に腰掛けた。
「ジャックだけかよ!
なんでレオヴァ様が一緒じゃないでありんすかぁ?」
「…レオヴァさんはクイーンの兄御と連絡中だ、すぐに来る。」
「まぁたあのデブ、レオヴァ様にかまってちゃんしてるでありんす!?」
「「おい、流石にそれは怒られるだろ!?」」
不満いっぱいだと、ブラックマリアに編み込みをされながら頬を膨らませるうるティの方を見ずに、ジャックはぶっきらぼうに答えた。
すぐに来るという言葉にうるティはご機嫌を取り戻し、その姿にページワンはほっと胸を撫で下ろし、突然のクイーンへの暴言に思わずドレークとローは突っ込みを入れた。
百獣海賊団の日常の驚くほどのんびりとした時間が、ゆっくりと流れる。
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~フーズ・フーside~
組手を終え、無事に龍王祭の1日前にワノ国へ帰還したフーズ・フーは自室へと早足で向かっていた。
組手での疲労感はほぼ抜けているが、うるさいガキ共のせいでストレスが溜まっているし、何より部屋の鯉の様子も心配だ。
普段、自分がいない間は直属の部下を1人ワノ国に待機させて世話を任せているが、やはりフーズ・フーは重要なことは自分でやらなければ安心出来ない
船を降りて、カイドウとレオヴァに挨拶してすぐ部屋へと向かったお陰で、ちょうど世話を始めようとしていた部下と入り口でかち会った。
「フーズ・フー様、お戻りでしたか!
ちょうど、お部屋の魚さんの世話をしようと思っていた所で。
どうぞ、補充用の餌です!」
「あぁ、今日はもう下がっていいぞ。」
「はい!
では、失礼します。」
慣れたやり取りでフーズ・フーに補充の為に持ってきていた鯉の餌を渡すと、部下は一度頭を下げて来た道を引き返して行く。
それを目で追うこともなく、フーズ・フーは部屋の鍵を開けて中へ入る。
もともと、ここの入り口は
フーズ・フーはこの場所を気に入っており、直属の部下であろうと中へ通す人物は片手で数える程しかいない。
そんな彼の部屋も、他の幹部同様に何区画かに仕切られているのだが、リビングのような場所に例の鯉がいる。
フーズ・フーはまっすぐに、その部屋へ向かった。
寝室とは違い、和風のテイストの強いリビングの端に人口の池がある。
聞きなれたししおどしの音に招かれるように、中を覗けば優雅に二匹の鯉が泳いでいる。
黒に金色が入った個体と、黒地に頭だけ赤い個体の二匹だ。“あの時”からずっと生き続けている。
レオヴァが少し弄ったことで、通常個体よりも頭の良い二匹の鯉はフーズ・フーの姿が見えたのか、こちらへ泳いでくると、ひょこりと顔を出す。
「…腹減ってんのか?
まぁ、今日の飯はまだだから当たり前か。」
言葉に反応するようにヒレを動かして波を立てた鯉に小さく笑い、フーズ・フーはいつものように餌を池へぱらぱらと落とす。
二匹はがっつく様子もなく、ぱくっと餌を口にし、フーズ・フーの教えた通りにくるりと円形に泳ぐと、また此方へ来て見上げてくる。
これは餌が足りない時にやる芸だ。
フーズ・フーはまた餌をぱらぱらと撒いた。
すると、鯉はまたぱくっと食べてくるりと回る。
数回それを繰り返すと、腹が満たされたのか鯉はまた好きに池を泳ぎ始めた。
フーズ・フーは餌を入れるケースに先ほどの補充用の餌を足すと、洗面台で手を洗い、歯を磨く。
そして、寝室へ向かうと仮面をベッドの脇に置き、服を着替えた。
本来であれば、まだ寝る時間ではない。
だが、フーズ・フーは少し寝不足だった。
彼は近くに人の気配がすると、眠りが浅くなるという難儀な職業病を持っている。
その為、船の中ではゆっくり休めなかったのだ。
と言っても、フーズ・フーにとって深い眠りにつけない事は大したことではないのだが、寝れるならしっかり寝れるに越した事はない。
何より睡眠は大切だと、あのレオヴァが言うのだ。
彼の言葉はフーズ・フーにとって大きなものである。
あの時もそうだった。
今ではめっきり無くなったが、フーズ・フーは悪夢に悩まされていた時期があった。
それは脱獄した後も続き、ずっとフーズ・フーを悩ませていた。
けれど、その事実は誰にも知られてはならないと必死に隠し続けた。
弱みを見せることは、この世界では“死”を意味する。
そう思い、フーズ・フーは気を張り続けていた。
かくの如き姿は、まさに手負いの獣のようであり、事実そうであったのだろう。
だが、飛び六胞という幹部になる少し前。
フーズ・フーはレオヴァとワノ国関係の書類仕事を夜中までやったあと、二人で酒を酌み交わしていた。
自分のテリトリーである部屋で、聞きなれたししおどしとレオヴァの声、穏やかな時間にフーズ・フーは気が緩んでいたし、もしかしたら酔っていたのかもしれない。
気づけばつい、うたた寝をしてしまったのだ。
そして、見てしまったのだ。悪夢を。
フーズ・フーはビクッと体を揺らし、勢い良く起き上がった。
息が乱れ、冷や汗が背や顔を伝う。
ドッドッドッ…と煩い心臓の音に唇を噛むと、聞きなれた声が鼓膜を揺らした。
『大丈夫か、フーズ・フー?』
『ッ!?……あ、あぁ。レオヴァ…さんか…』
この時、フーズ・フーは酷く動揺した。
人前で寝てしまった事も、こんな姿を見られた事も。
全てあってはならない事だ。
隙を……弱みを見せては駄目だと、そうやって生きてきたと言うのに。
混乱するフーズ・フーにレオヴァは水を差し出した。
『飲め。
夢見が悪かった時は目を覚し、冷静になるのが一番だ。』
『……』
無言でレオヴァを見るフーズ・フーの瞳には、見定めるような色があった。
この一連のことで、自分への評価はどうなったのか。
弱さを悟られたのではないか、失望させてしまっていないか。
そういう事を伺うような色を、フーズ・フーの瞳は宿していた。
一秒ほど、無言でレオヴァを見ていたフーズ・フーだが結局、小さく礼を述べると水を口にした。
レオヴァは水を飲むフーズ・フーの側で酒を呷ると、少し言い淀む仕草の後、徐に口を開いた。
『…おれも夢見が悪かった。』
独り言のような小ささで告げられた言葉に、フーズ・フーは思わずまたレオヴァの顔を見つめた。
レオヴァはフーズ・フーと目を合わせると、少し眉を下げた。
『アンタが……魘される姿は想像できねぇが…』
『おれだって人間だ。
悪夢を見る時だってある、昔の……な。』
そう言って目線を下げる姿は普段とは違う姿だった。
初めて見る表情に目を丸くした、フーズ・フーにレオヴァは眉を下げたまま笑った。
『これで、フーズ・フーはおれの知られたくない事を知ったワケだが……どうだ?』
『…どうだってことの意味を計りかねるな……』
『深い意味はねェ。
ただ、フーズ・フーはそれを知ってどう思ったか…ってことだ。』
少しの沈黙の後、フーズ・フーは微かに困ったような顔をした。
今は仮面を付けていない。きっとレオヴァはその僅かな表情の機微にも気付いているだろう、そう思いながらも言葉を溢した。
『……正直、意外ではあるが……それでどうってことはねェな。アンタはアンタだ。』
フーズ・フーの言葉を聴くと、レオヴァは微笑んだ。
それに、ほんの少しだけ安堵を滲ませて。
『そうか。
……おれも同じだ、フーズ・フー。
お前が夢見が悪かろうと、何も変わらない。
だから、そんなに警戒しないでくれ。』
『…っ………あぁ。』
やはり察していたか、と気まずさと恥ずかしさが湧き上がってくるが、同時に揺れていた精神に安心感も広がっていく。
肩の力を抜いて、フーズ・フーは自分自身を笑う。
『ハハ……アンタに情けない姿を見られるのは今さらだしな。』
そうだ、今さらじゃねェか。
と、フーズ・フーは少し自嘲を滲ませて笑った。
出会った時から今まで。
散々生きるために必死に足掻く姿を見られて来た。
精神が一番弱っていた時、良く分からないことを口走っていた姿だって見られている。
無駄な思考だった、と溜め息を溢す。
すると、レオヴァがフーズ・フーの方を見て話し始めた。
『フーズ・フー、人間ってのは勘違いで死ぬ事があるって話を知ってるか?』
『……突拍子もねェな。』
たまにある、レオヴァの急な話の方向転換に驚きながらも悪い気はせず、話の続きを待った。
『ふふ、確かに突然だったな。
実はドー・メアブの血実験という資料があってな。
目隠しした人間の足を傷つけるフリをして、この出血量なら何分後に死ぬと言い聞かせ、 足元に置かれた容器に血が落ちる様な音をならした後。
定期的にあと何分で致死量の出血だと教えると、徐々に呼吸&脈拍が乱れ、 カウントダウンが終わると同時に死ぬ……という内容なんだ。』
『…そんな事あるのか。
実際には怪我もなにもしてないんだろ?』
『あぁ、思い込ませているだけだ。
……と言ってもこの資料は証拠が少なく、嘘だという見解が大半で役に立たないとされているんだがな。』
『じゃあ、なんでそんな話を…』
首を傾げるフーズ・フーの方を見て、レオヴァが普段見せない笑みを浮かべる。
『実はな、やったんだ……その実験を。
言い出したのはキングだったんだが、興味深い実験だった。』
『……死んだのか?』
『いいや、死にはしなかった。』
『じゃあ、何がそんなにアンタの興味を惹いたんだ?』
レオヴァは更に笑みを深める。
それはどこかキングの悪趣味な笑みに似ていて、クイーンが研究で成功した時の雰囲気にも似ていた。
『何も怪我をさせていないのに、弱ったんだ。
それも本当に死にそうな程に。
一滴も血を流していないのに貧血のような症状で倒れた奴もいた。
…フーズ・フー、ショック死という言葉は知ってるか?』
『あぁ、知ってる。』
『なら、話が早いな。
言ってしまえば、ショック死に近い状態を暗示で作れるという実験結果だった訳だ。
なかなか興味深いだろう?
脳の誤認で、体に変化が表れる……色々と使えそうだと思ったんだ。』
『まぁ、使えるだろうが……アンタも結構悪趣味だな。』
『否定はしねェ。
が、そう言う実験の積み重ねがウチを支える発明に繋がってるんだ。
知識は力だ、そうだろう?』
『間違いねェ。
…無知な奴は淘汰されるか利用されるかだ。』
フーズ・フーの言葉に頷くと、レオヴァは普段の表情に戻る。
『で、ここからはおれの勝手な持論なんだが。
恐怖を知らない人間より、恐怖を知っている人間の方が強くなれる可能性が高い……と思うんだ。
そこで、だ。
人間ってのが脳の思い込みで死ぬこともあるような生き物なら、その造りを
“恐怖を知る自分は強い”と、脳に言い聞かせてみるのも手だろ?』
『ハハハッ…本当にアンタは突拍子もねェな。
……けど、確かに悪くはねェかもな。』
『ふふふ、だろう?
ん、にしても少し喋り過ぎたな…』
『酔ってんだろ、アンタ。
おれが寝てる間にずいぶん空の瓶が増えたからな。』
少し柔らかく笑うフーズ・フーを見て、レオヴァは微笑んだ。
『たまには、少し気を抜いて酔うのも良いだろ。
フーズ・フーが相手なんだ、多少の事には目を瞑ってくれるだろうしなァ?』
『フッ……とに、飲み過ぎだぜ。レオヴァさん。』
互いに顔を見合わせて、悪巧みをしたあとの悪友のようにクツクツと笑った。
そんな懐かしい記憶。
フーズ・フーにとって、レオヴァの言葉の存在は大きいものだ。
実際、あの後から少しずつ悪夢を見ることは減った。
特にレオヴァと二人で飲んだ後は、体も頭もしっかりと睡眠を取れている気がするのだ。
レオヴァは色んな話をフーズ・フーに聞かせる。
それは興味があるものから、全く知らないジャンルの話まで多岐に渡る。
だが、どんな内容でもレオヴァの口から紡がれるものはフーズ・フーを楽しませ、穏やかな気持ちにさせた。
貰った言葉は、誰にも奪われないフーズ・フーの財宝だった。
懐かしい記憶をうっすらと脳裏に浮かべて、そっとフーズ・フーは瞼を下ろした。
ー補足ー
組手:今回はジャック達と、ロー達という感じに2組に別れて行われた。
動物系じゃないメンバーは回復まで時間が掛かりそうだった為、回復薬を使用。
レオヴァさん+電伝虫の時:幹部がこの2つの単語のみを口にした時はほぼ100%
レオヴァがカイドウと電伝虫で連絡を取っていた時のことを指す。
フーズ・フーの部屋:幹部の中で唯一、鳳皇城に自室を持っている。
一応、幹部になったと同時に鬼ヶ島にも自室が用意されてるのだが基本は鳳皇城の部屋で寝ている。
(自室が2つあるが一応鳳皇城の部屋は褒美としてカイドウに頼んで、レオヴァの許可を得て貰った物。)