俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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新世界編
夢の続きを。


 

 

そこは海底1万mに存在しているとは思えぬほど、明るく綺麗な光景が広がる島だった。

 

 

「ついたぞ~~!魚人島~~!!」

 

そう言って島に上陸した麦わら帽子の少年、ルフィは元気な笑顔で仲間達と、案内してくれた人物を振り返る。

 

 

「うぅ…死ぬかと思ったわ……もう深海はこりごり…」

 

「すげぇ~!これおっきなシャボンなのか~~!?」

 

「うふふ、綺麗ね。本物の空みたいだわ。」

 

ぞろぞろと船から降りてくる仲間達にニッと笑い返し、ルフィは案内してくれた人物の下へ駆け寄った。

 

 

「ジンベエ、本当にありがとう!」

 

「はっはっは!構わん!構わん!

ルフィくん、これくらいならいつでも頼ってくれ。」

 

少し強面な顔のジンベエは優しく笑うと、船と反対側を指差す。

 

 

「あっちが前に話した魚人街じゃ。」

 

「へぇ!あれが魚人街か~。

レオヴァ(・・・・)からも聞いたことある!うめぇもんあるんだろ!?」

 

目を輝かせるルフィをジンベエは微笑ましげに見下ろした。

 

 

「あぁ、うまいもんも沢山ある!

ぜひ案内させてくれ。」

 

「おう!ジンベエ、頼む!」

 

そうして賑やかに魚人島に上陸した麦わらの一味は、ジンベエと共に観光を始めるのだった。

……一味を影から見つめていた人影と共に。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

あれから麦わらの一味は魚人街を各々で楽しんでいた。

 

ルフィはジンベエと共に探険へ行き、ゾロは酒場で野郎共と飲み比べ勝負で圧勝。

 

ウソップとチョッパーは“ビーストパーク”という中規模遊園地を遊び尽くし、フランキーはその中にある“toySHOP~ワポール~”の店内でインスピレーションを受けていた。

 

ナミとロビンは魚人街にある“ビーストモール”にてショッピングを楽しみ、ブルックも荷物持ちをしながら見たことがない楽器のある店に出会い、無い筈の瞳をキラキラと輝かせた。

 

他にも“迷子になっていたしらほし姫をジンベエと共に城へ送り届ける”など、ちょっとしたバタバタはあったのだが、麦わらの一味にとっては大した騒動ではなく、いつも通りのちょっとしたアクシデントである。

 

こうして、充実した1日を送った一味は船へと戻っていった。

……が、そこには招かれざる客がいたのだ。

 

白と青の独特な仮面で顔を覆っている男を真ん中に、両隣りにも個性的な見た目の男が控えている。

三人の男達はサニー号を前に、麦わらの一味を待ち受けていたのだ。

 

 

「あ、アイツらって……まさかキッド海賊団!?

 

驚きの声を上げたナミを守るように、一歩前へ出たサンジの横をルフィがスタスタと歩いていく。

 

 

「お前、ギザ男と一緒にいた奴か~!」

 

「お、おい!ルフィ~!?」

 

警戒心なく男達に近付いていくルフィにウソップが慌て出す。

 

 

「……第一声がそれか。

話に聞いていた通りだな、麦わら。」

 

 

仮面を付けている男が呆れたような声を出し、一歩前へ出た。

 

 

「おれはお前に話があって此処に来た。

……四皇を討つ算段がおれ達にはある。

麦わら、お前達が“おれ達”と組むならその内容も教えよう。」

 

「「「「…え?」」」」

 

あまりにも唐突に告げられた内容に一味は驚きに目を見開くのだった。

 

 

 

─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「な、なぁ…本当に良かったのかよ~……こんなノコノコとアイツらに付いてきちまってさ。」

 

おどおどしながら小声で呟くウソップをナミが睨む。

 

 

「しょうがないじゃない!

あのバカが肉に釣られて付いて行くって言っちゃったんだから!」

 

同じくナミも小声だが、その声からは帰りたいという思いがひしひしと伝わってくる。

なにより剣幕が尋常じゃなく怖い。

ウソップはそれで全てを察し、諦めたように見知らぬ場所を進んだ。

 

 

「ここだ。

おい、キッド…おれだ。」

 

重々しい扉の前で仮面の男、キラーが声を上げると中からざらついた低い声が帰ってくる。

 

 

「…入れ。」

 

ギギィ…と音を立てながらキラーの両脇にいた男達が扉を開く。

少し暗いオレンジの照明に照らされた部屋の中心には大きなテーブルがあり、その一番奥の席には目付きが悪く、ゴーグルと逆立った赤髪が特徴的な男がいた。

 

行儀悪くドカりとテーブルの上に足を乗せ、こちらを睨むように見てくる男こそ。

ルフィと同じく最悪の世代の一人、ユースタス・キッドである。

 

 

「ギザ男か!

……で、肉どこだ!?」

 

「ア"ァ"…?

誰がギザ男だ、てめぇ!!」

 

「止せ、キッド!

殺し合いをするために呼んだワケじゃないんだぞ!

麦わらもウロウロするな、一度おとなしく席に着け。

料理はすぐ運ばれてくる。」

 

「そうなのか、わかった!」

 

「……ッチ」

 

素直に指差された席へ腰かけたルフィと、額に青筋を浮かべてはいるが口を閉じたキッドを見て、ウソップ達は胸を撫で下ろし、ゾロは刀に触れていた手をそっと定位置へ戻す。

 

そして、促されるままルフィ以外の一味も席に着くと次々に料理が運ばれて来た。

 

ようやく話が聞けると気を引き締め直す麦わらの一味と、ようやく話が出来ると椅子に腰かけたキラーの思いとは裏腹に。

ルフィとキッドはばくばくと料理を貪り始めてしまった。

 

これでは話が出来ないと遠い目をする一味とキラー達は、お互いの船長の食事が落ち着くまで、自分たちも晩餐へと手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

あれから暫く怒涛の勢いで食べていたルフィとキッドだったが、満足したのか今は落ち着いていた。

そんな二人を見計らい、ブルックが声を上げる。

 

 

「…それで、先ほどしていた話。

“四皇”を討つ算段について、お聞かせ頂いても?」

 

ブルックの言葉に一味の瞳に緊張や真剣さが宿ると、キラーが口を開く。

 

 

「あぁ、四皇を討つ為の“同盟”を組まないか…という話をしたかった。

現在、既に2つの海賊団と同盟(・・・・・・・・・)が成立している。」

 

「「「同盟…!?」」」

 

驚くナミ達にキラーは続けた。

 

 

「大きな相手を討つ為に、一時的な同盟を組むのは珍しい話ではないだろ?

…相手は四皇だ、規模も普通の海賊団とは桁が違ってくる。」

 

「フンッ…どうせ人数だけの有象無象だ。」

 

「キッド……そうかもしれないが、その数も万を超えれば大きな障害になると言っただろう。」

 

諭すようなキラーの言葉に口をへの字にしたキッドがジョッキに入った酒を呷ると、フランキーが口を開いた。

 

 

「お前の言うことは分かるぜ。

海賊同士の同盟、確かにそう珍しい話じゃあねぇ。

だが、組んだばかりで連携もなにもない同盟で倒せるほど“四皇”ってのは甘くねぇだろ。」

 

この言葉に同調するようにゾロも飲んでいた酒を置き、言葉を発した。

 

 

「フランキーの言う通りだ。

それに、どの四皇をやるのかも聞きてェ。

同盟組もうってんなら、それなりに腹割って話せよ。」

 

「……生意気言いやがって…」

 

「落ち着け、キッド!

…どの四皇を討つのかはこの後話すつもりだった。

ヒート、アレを麦わらに渡してくれ。」

 

キラーは苛立ちを露にして前のめりになったキッドを止めながら、仲間に指示を出す。

 

ヒートと呼ばれた男がルフィに紙を手渡そうとすると、それをナミが受け取り、ロビン達が紙を覗き込む。

 

すると、一味の表情が驚きに染まった。

 

 

「…あの百獣を討つのか!?」

 

ゾロの上げた驚きの声に、

 

 

「そうだ。

おれ達は百獣海賊団を討とうと考え、同盟相手を増やしてる。」

 

「同盟なんざ興味なかったが…

白ひげがくたばり、我が物顔でドンドン勢力を伸ばしてるアイツ(・・・)の鼻っ柱をへし折る為に必要なら……仕方ねぇ。」

 

二人同時に百獣海賊団を討つことを肯定したキッドとキラーとは正反対に、麦わらの一味はそれぞれの反応を見せていた。

 

 

「待って、百獣海賊団って……ルフィを助けてくれたって…」

 

「そうだぞ!

ルフィの兄ちゃんも助けてくれたんだろ!?」

 

「そ、それにジンベエの友だちっていうレオヴァって人もいるよな…?」

 

「私は魚人街を救ったとも聞いたわ。」

 

ナミ、チョッパー、ウソップ、ロビンが言葉を溢すとキッドの表情が険しくなる。

 

 

「ア"ァ"、なんだァ?

テメェら、そんなくだらねェ感情で足踏みすんのかよ!?

アイツ(・・・)を超えねェで“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を手に入れられる訳ねェだろ!!

 

キッドの怒声に4人が黙った。

一瞬の沈黙が訪れたが、それをルフィが破る。

 

 

「…そうだ。

レオヴァ達もシャンクスもエースも…全員を越えなきゃ、おれは海賊王になれねェ!

 

ルフィの言葉に、ゾロもブルック達も無言で頷いた。

それを見て、キラーが口を開く。

 

 

「……で、どうするんだ。

百獣を討てる算段は、同盟組まなきゃ教えられねェ。

答えを聞かせてくれ。」

 

「わかった。

おれ、お前らと同盟を組む!!」

 

 

ルフィがそう宣言した時だった。

 

 

……ッ…駄目だ!!!

 

そう大きな声を出して、サンジが立ち上がった。

突然のことにウソップ達は驚いたようにサンジを見る。

 

 

「ルフィ、本当に百獣海賊団と敵対するのか!?

あそこには……レオヴァがいるんだぞ!

まずは他の四皇を先に……」

 

サンジがルフィを説得するように話し始めると、ゾロが立ち上がり襟首を掴んだ。

 

 

「おい、クソコック!!

何が他の四皇を先に、だ!

どちらにせよ、倒さなきゃならねェんだぞ。

らしくねェこと言ってんじゃ…」

 

ッ……分かってる!それでもっ…

百獣海賊団は最後で良いじゃねェか!

 

「テメェ…本気で言ってんのか……?」

 

「ちょっ…ゾロ!やめなさいよ!」

 

「サ、サンジ!?

どうしたんだよ突然!」

 

ナミとチョッパーの制止の声が響くと同時に、ゾロとサンジの間に椅子が飛んで来て、二人は反射的に左右反対に飛び退いた。

 

 

「……ったく、くだらねェ。

人の宿で内輪揉めしてんじゃねェよ。」

 

椅子を投げつけた張本人であるキッドが、テーブルの奥にあった扉から出ていってしまう。

 

それを溜め息混じりに見送ったキラーが、ルフィへ向き直る。

 

 

「麦わら、おれ達はあと3日は此処にいる。

一味で話がまとまったら、改めて答えを聞かせてくれ。

……この電伝虫を渡しておく。」

 

「おう、わかった。」

 

受け取った電伝虫をポケットにしまうと、キラーがキッドの出ていった扉とは別の扉を開く。

 

 

「…では、出口まで送ろう。

ここで暴れられたら困るからな。」

 

そうして、麦わらの一味はサニー号への帰路を気まずい雰囲気の中、進むことになったのだった。

 

 

 

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綺麗な浜辺に浮かぶ、サニー号。

あれから少しの話し合いの後、続きは明日にしようと仲間達が寝静まったころ。

 

サンジは一人、甲板にて懐かしい思い出を瞼の裏に映していた。

 

 

 

それはまだ幼かった、コック見習いだった頃の記憶。

 

 

「なぁ、レオヴァ!

オールブルーって知ってるか?

この世の魚達がみんないる海なんだ!」

 

楽しげに話すサンジにレオヴァは穏やかに相づちを打った。

 

 

「あぁ、部下から聞いたことがある。

コックにとって夢の海なんだろう?」

 

「そうなんだよ!

おれ、いつか見つけるんだ!オールブルーを!!」

 

楽しい雰囲気の中で思わず口から出てしまった“夢”に、ハッとしたようにサンジは両手で口をふさぐ。

 

今までもこの話は色々な相手にしてきたが、皆は決まってそんなものは夢物語だと笑うのだ。

レオヴァにも、まだまだ子どもだと笑われてしまう。

そう思ったサンジは、しまった!と手で口をふさいだわけである。

 

やってしまった…と、サンジはおずおずとレオヴァを見上げた。

しかし、レオヴァはサンジの予想とは違い、今までの大人がしてきた馬鹿にするような顔とは違う表情で言葉を紡いでくる。

 

 

「いいじゃねェか、サンジ!

オールブルー、おれにとっても夢の海だ。」

 

レオヴァの言葉に驚いて、サンジはふさいでいた手を外し食い気味に声を出した。

 

 

「えっ…!?レオヴァも…?」

 

信じられないと顔に書いてあるサンジにレオヴァは微笑ましげに笑う。

 

 

「そう、おれにとってもだ。

前にサンジに言ったおれの好物、覚えてるか?」

 

その言葉に合点がいったとサンジは声を上げる。

 

 

「あ…!そっか!

レオヴァって魚とか貝が好きだもんな!」

 

「ふふ、覚えていてくれたか。

おれは魚介類が大の好物だからな。

オールブルーを見つければ好きなものが好きな時に食べられるし、食べたことがない魚にも出会えるだろう?」

 

「うんうん!

おれも料理したことない魚いっぱい捕りてぇな~。

えへへ!けど、なんかその理由だとレオヴァが食いしん坊みたいだ!」

 

「ふふ、それは心外だなァ?サンジ。」

 

無邪気にはしゃぐサンジの頭を優しく撫でると、レオヴァは背を丸めてすっと自然な動作で顔を近付けてきた。

そのレオヴァの顔には意外にも、少し子どもっぽい笑みが浮かんでいる。

 

 

「……なら、サンジ。

おれと一緒に探しに行くか、オールブルーを。」

 

内緒話の距離で、まるで子どもが悪巧みする時のように楽しげに告げて来たレオヴァにサンジは驚きと嬉しさを感じていた。

 

いつも出来る大人の雰囲気を纏っているレオヴァが子どものように、一緒にオールブルーを探しに行こうと笑う姿にサンジは驚いたのだ。

だが、それと同じくらい嬉しさもあった。

皆が夢物語だと真面目に話を聞いてくれず、同じ夢を持つゼフでさえ“一緒に探しに行こう”とは言ってくれなかったし、言えなくしてしまった負い目も子どもながらに感じていた。

 

そんな中レオヴァはサンジの夢に共感を示し、一緒に探そうと笑い掛けてくれたのだ。

嬉しくない筈がない。

 

 

パァっとサンジが明るい表情になる。

そして一言『行きたい!』と言おうとしたが、ゼフが頭に浮かび、無意識に言葉を詰まらせた。

 

 

「…お」

 

なんとかサンジが再び言葉を紡ごうとした瞬間だった。

ドカっと大きな音と共に部屋の扉が開く。

 

 

「おい、小僧!

そんなんでもチビナスは今は重要な人手だ。

引き抜こうってんじゃねェだろうな!」

 

ゼフの登場により、レオヴァはまた自然な動きでいつもの距離に戻ると、悪戯がバレた子どもの様に笑ってみせる。

 

 

「…残念だ。

サンジの美味い料理を毎日食べられるチャンスだったんだがなァ…」

 

眉を下げながらも、やはりどこか楽しげに笑みを浮かべレオヴァはゼフを見る。

 

 

「だったら毎日食いにくりゃ良いだろうが、ボケナスが。」

 

「ふふふ、それも悪くないか?」

 

否定しないレオヴァにサンジは照れながらも、慌てて口を開く。

 

 

「ま、毎日来てたらすげぇ金かかって大変だぞ!

それにレオヴァは仕事だって忙しいんだろ…」

 

「ったく、余計な事を言いやがってチビナス!

店の開店に全財産使っちまってんだ。

馬鹿みてェに食うレオヴァが毎日くりゃあ、良い稼ぎになるだろうが!」

 

「…オブラートに包んでくれ、ゼフ。

確かにゼフ達よりは食べるが、それは身体の大きさによる消費エネルギーの違いであってだなァ、決して…」

 

「また屁理屈かァ、小僧!」

 

「あ~!もう!!

くそジジイもレオヴァも止めろよ!?

出来たばっかの店壊れるだろ!!」

 

 

こんな賑やかを通り越して騒がしい日々だったが、サンジにとっては楽しい毎日だった。

そう、これは楽しくて暖かい……大切な記憶だ。

 

 

 

思い出に浸っていたサンジは、タバコが小さくなってきたことで、現実に戻される。

 

サンジにとって、ゼフは父だった。

血の繋がりなどなくても、彼こそがサンジの家族だ。

そして、同時にレオヴァを兄のように思っていた。

 

足を失ったゼフに、新たな足を授け、

二人の夢の店を建ててくれたレオヴァ。

店が出来上がるまでの少しの間、共に生活した日々は本当の家族のようだった気がした。

……サンジに本当の家族は良く分からないが、確かにそう感じたのだ。

 

失敗した料理でも美味しいと笑顔で平らげ、ゼフに怒られてしょぼくれていれば隣に座りガラス玉などの宝物を一緒に眺めたり、面白い冒険の話をしてくれる。

そんなレオヴァが、サンジは好きだった。

幼心に、優しい兄がいればこんな感じなのかな?と、むず痒くも嬉しく感じていた。

 

店が完成し共に生活することがなくなっても、たまに現れては

『久しぶりだなァサンジ、元気にしてたか?

病気はしてねェな?ゼフにいじめられてもねェか?』

と冗談まじりに声をかけ、その度にゼフに

『いじめてなんざいねぇ!

あまりチビナスを甘やかすなよ、小僧!!』

と楽しげに軽く口を叩き合う二人に、あたふたしていた幼いサンジの頭をわしゃっと軽く撫でてくれたレオヴァを、今も兄のように慕っているのだ。

 

 

だが、今のサンジにとって。

仲間も掛け替えのない存在だ。

 

ゼフやレオヴァを大切に思うように、仲間達のことも心から大切に思っていた。

自分を信じ、必要としてくれる。

絶対に守りたい存在であり、失いたくない人達。

 

 

「……おれはどうすればいい…?

なぁ、レオヴァ……あんたなら…どうする?」

 

震える声に返事はない。

サンジは甲板に座り込み、頭を抱えた。

 

ルフィを海賊王に。

その思いに嘘はない。自分の認め、そして選んだ男は必ず“夢”を果たすだろうと心から信じている。

だからこそ、今までどんな敵が立ち塞がろうとも仲間達と冒険してきたのだ、この想いに偽りなどあるはずがない。

 

それでも、サンジの脳裏にはレオヴァとの温かな記憶が溢れてくる。

 

 

サンジも分かっていた。

ルフィを海賊王にするのなら、いつかは四皇と……レオヴァと敵対しなければならないと。

 

 

滲む視界の中、レオヴァの言葉を思い出す。

 

『おれにとって父さんはたった一人の家族だ。

尊敬する父さんを……おれは“海賊王”にしたい。

こんなおれを育ててくれた恩を返したいんだ…息子として。』

そう言うレオヴァの表情と声はとても穏やかだった。

 

レオヴァにとって、百獣のカイドウは本当に大切な家族なのだろう、自分にとっての“(ゼフ)”のように。

 

 

……もう、覚悟を決めなければならない。

何人もの人間が海賊王になれるわけではないのだから。

 

船長と認めたたった一人の男の“夢”へ、共に歩む為に。

 

サンジは静かな覚悟を瞳に宿し、すっかり小さくなったタバコを握り潰した。

 

 

「……すまねェ。レオヴァ、おれは…」

 

届く筈のない謝罪を、サンジは暗闇に溢した。

 

 

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麦わらの一味が魚人島に到着するより少し前のこと。

 

もうすっかり月が空の真上に浮かんでいる、真夜中。

鬼ヶ島にあるレオヴァの自室をノックする音が響いた。

 

 

「レオヴァさん、起きてるか?」

 

読んでいた書類から顔を上げて、レオヴァは扉の反対側にいる人物に返事を返す。

 

 

「あぁ……入っていいぞ。」

 

返事と共に扉が開き、特徴的な真っ赤なマスクを被った男が部屋へ入ってくる。

 

 

「悪ィな、レオヴァさん。こんな夜中に。」

 

「構わねェよ、フーズ・フー。

この時間に直接ってことは……急用なんだろう?

まぁ、座ってくれ。」

 

頷きながら、レオヴァの正面に座ると、フーズ・フーは言葉を発する。

 

 

「……レオヴァさんの読み通り、“赤鞘”がおでん城跡地に現れた。」

 

「ほう…やはりか。」

 

すっと目を細めたレオヴァが、目線で話の続きを促すとフーズ・フーも答えるように口を開く。

 

 

「その後、何故か分かっていたかの様に狂死郎が小紫と酒呑童子を連れて、跡地に来ていたのも確認出来た。

……理由は不明だが、あれは間違いなく“赤鞘”が来ると知っていた(・・・・・)反応だった。」

 

「ふむ……狂死郎に本気で(・・・)裏切る素振りはなかったがなァ…

まぁ、知っていても不思議じゃねェ。

元々はおでんの侍だ。

“トキ”の能力も知っていただろうし、おれのように推測も可能だろう。

……で、赤鞘はどう動いた?」

 

「こっちもレオヴァさんの読み通りだ。

赤鞘は狂死郎が用意していたと思われる船で、国外へ逃亡した。」

 

「なるほど、やはりそう動くか。」

 

「だが…」

 

頷いていたレオヴァに、言いづらそうにフーズ・フーが続ける。

 

 

「……ひとつ、レオヴァさんの予想にはねェ動きが…」

 

「そうなのか…?どういう動きだ。」

 

「レオヴァさんの読みじゃあ、全員で逃亡…だったんだが。

急に揉めだして、狂死郎は気を失わされた後……置いていかれてる。」

 

「狂死郎が……置いていかれただと?」

 

驚いた顔をするレオヴァに、フーズ・フーが電伝虫を手渡す。

 

 

「おれも良く分からなかったが…

レオヴァさんの指示通り、様子は全て記録してあるから見てくれ。」

 

「ありがとう、フーズ・フー。

……まず、見ないことには始まらないな…」

 

少し特殊な“録画電伝虫”を専用の機械に繋げ、レオヴァは壁をスクリーン代わりに映像を再生する。

 

 

 

今ではほぼ森の様になっている、おでん城の跡地が映される。

 

そこには困惑した表情の錦えもん、カン十郎、雷ぞう、菊の丞、モモの助が居た。

 

そして、五人に泣きながら抱きつく小紫こと日和と、目にうっすら涙を浮かべる酒呑童子ことアシュラ童子、狂死郎の三人も映っている。

スクリーンの映像は暫く、その感動の再会を映していた。

 

だが、そこに河松が現れたことで事態は急変していった。

 

赤鞘を説得していた日和を、河松は気絶させて抱き抱えると狂死郎から遠ざけたのだ。

 

 

『河松…!生きていたのか!

いや、それより日和様になにを…』

 

怪訝そうな顔をする狂死郎を河松は睨み付けている。

 

 

『黙れ、裏切り者!!』

 

その一言から、どんどん映像の中の赤鞘達に不穏な空気が漂っていく。

その後も怒りに任せて狂死郎は裏切り者だと語る河松に、信じられないと動揺する錦えもん達が口を開いた。

 

『お、落ち着かんか河松…冷静さを失っては駄目だ。

傳ジローが裏切るはずなど……』

 

『冷静さがないのは錦えもん達の方ではないか!!

傳ジローは、今では狂死郎と名を変え…!

鳳皇などとふざけた地位を作り、ワノ国を乗っ取った男の部下として大名の地位を手に入れているのだぞ!

可笑しいだろう!?

おでん様への忠義があれば…!!

百獣の手先のような地位を受け入れるなどあり得ない事!!』

 

『それは……確かに…』

 

『なっ…!?

待ってくれ、皆!!』

 

思わず肯定してしまった菊の丞の言葉を聞いて、狂死郎の顔が悲痛な表情へと変化していく。

 

 

『今ここに現れ…日和様を使い、皆にワノ国を諦めさせようとしたのも!

あのカイドウの息子の指示に違いない!!

でなければ、正統な後継者であるモモの助様に将軍を諦め、外海へ逃げようなどと言う筈がない!!』

 

『違う!!

これはおれが勝手に…

日和様とモモの助様を守る為にはっ…そうするしか!』

 

『待て、待ってくれ…傳ジロー、河松!!

拙者たちには、まったく話が……』

 

『錦さん、頼む信じてくれ…!

本当に……百獣海賊団に手を出しては駄目だ…

日和様とモモの助様の幸せの為には、ワノ国を諦め…外海で過ごすことが最善なんだ!!』

 

『裏切り者め……錦えもん、奴の言葉に騙されるな!!

奴が口が上手いのは知っているだろう!?』

 

河松と狂死郎の言葉に、モモの助と赤鞘はどうしたら良いのか分からず、目線を泳がせる。

 

 

『それに、奴は昔からあの憎きカイドウの息子と親しげだった…!

討ち入りの時も、お前が!!情報を流していたんだろう!?

でなければ、あんな用意周到に待ち伏せされる筈がない!!』

 

『そんな事するはずないだろう…!』

 

『か、河松……』

 

『待ってくれ、だが……処刑の時には傳ジローもいたんだぞ!?

一緒に殺されかけて…』

 

河松を止めようと錦えもんが口を開くが、それでも言葉は止まらない。

 

 

『それだけではない……狂死郎は見た目も変わっているではないか!

それが本来の姿だったんだ、拙者たちはずっと…騙されてた!!

それにカイドウの息子だけでなく、百獣海賊団の幹部の恰幅のよい男とも仲が良いというではないか……

錦えもん、アシュラ、菊の丞、カン十郎、雷ぞう……もし、皆なら……おでん様を殺した、あのカイドウがいる百獣海賊団と仲良く出来るか?

拙者には無理だ!奴らと親しくするなど!おでん様への想いがある限り、絶対に。』

 

『『『っ……』』』  

 

言葉に詰まった皆の姿に、河松はそうだろうと頷く。

 

 

『奴は、傳ジローは信用できない!

将軍になるのはモモの助様であり、ワノ国を開国するというおでん様の願いもあると言うのに……それを、ワノ国を諦め逃げようなどと言う者は!

おでん様の侍ではない!!

 

『ッ!?』

 

ショックを受けたように狂死郎の顔が歪む。

その姿に、モモの助が心配したように手を伸ばそうとするが、それを菊の丞が止める。

 

かつての仲間からの圧に堪えながら、狂死郎はそれでも言葉を紡いだ。

守るべき主君の忘れ形見の為に。

 

 

『確かに……開国はおでん様の願いだ…

だが、何よりも優先すべきは……おれ(・・)達が守るべきは日和様とモモの助様のお命ではないのか…?

レオヴァ殿はワノ国を良くしている、それは変えようのない事実だ。

我々にこれ以上に豊かな国が作れるとは……到底思えない。

今、モモの助様が表に出ても厳しい現実があるだけ……もう、モモの助様や日和様は血生臭いことの中心にお立ちになる必要などないのではないか?

ただ……なによりも日和様とモモの助様の未来と幸せを…穏やかな日々を送って頂きたいのだ。おれは…』

 

『騙されんぞ……傳ジロー…!

モモの助様の未来は将軍となりワノ国を統べること!!

それが、おでん様とトキ様の望みであり!モモの助様の夢!』

 

 

その後も、モニターには揉める姿が映され続けていた。

レオヴァはふむ、と独り言を溢すとリモコンで映像を倍速にしていく。

 

早口で流れる問答と映像を眺めるレオヴァをフーズ・フーが横目で眺めていると、あるシーンで倍速再生がピタリと止まる。

 

 

『どちらにせよ、ここは百獣の胃の中!

日和様とモモの助様を連れて、立て直すために一時外へ参りましょう!』

 

『それもそうか…』

 

『ま、待ってくれ錦さんっ!

おれも共に……ウッ…』

 

錦えもんが一瞬の隙を突き狂死郎を気絶させ、背を向けるとモモの助が泣きそうな顔になる。

 

赤鞘達が押し黙っていると、アシュラ童子が目にうっすらと涙を浮かべながら口を開いた。

 

 

『……国を出る為の船はこっちだど。』

 

そういって、赤鞘とモモの助達は画面の端へと消えて行った。

 

 

全ての記録を見終えたレオヴァが、フーズ・フーへ視線を移す。

 

 

「……で、狂死郎はどうした?」

 

「おれの部下に言って、拘束させてある。

まだ意識を取り戻してはねェようだが……牢に入れるか?」

 

「いや……拘束は解かずに、鳳皇城の応接間のソファーにでも寝かせて置いてくれ。

明日、おれが話を聞こう。」

 

「…情報を吐かせて始末しねェのか、レオヴァさん。」

 

意外だと言いたげなフーズ・フーにレオヴァは眉を下げる。

 

 

「狂死郎は大名として、他の侍達と比べ物にならねェほど優秀だ。

記録を見る限りじゃ、想定通り悪意ある裏切りじゃねェ。

それに何より…“ササキのこと”もある。

場合によっちゃ、今回の諸々は水に流してもいい。

元々、赤鞘は泳がせる予定ではあった訳だからなァ。」

 

「レオヴァさんが言うなら、おれも異論はねェ。」

 

ふっと笑うと、フーズ・フーは立ち上がる。

 

 

「じゃあ、おれは狂死郎を応接間で監視しとく。

……もし目が覚めた時に暴れられちゃあ、おれの部下じゃ手に負えねェしな。」

 

「悪いな、フーズ・フー。よろしく頼む。」

 

「任せてくれ、レオヴァさん。

こういうのはおれの得意分野だ。」

 

ニヤリと笑い部屋を後にしたフーズ・フーの気配が完全に遠ざかると、レオヴァは苛立ちを顔に浮かべた。

 

 

「…河松……父さんに対するあの言葉、許せねェ…!!」

 

レオヴァの発する怒気で部屋の窓がガタガタと揺れ、珈琲の入ったカップが割れる。

 

机に広がる黒い液体に、ハッとしたようにレオヴァは怒気を納めた。

 

心なしか震えている電伝虫を軽く撫で、溢れた液体を拭うと、レオヴァは深呼吸をして書類に手を伸ばした。

 

 

「…ハァ……短気は良くないことだ。

感情をコントロール出来なきゃならねェ……そう、キングにも言われたってのに。情けねェ話だ。」

 

 

レオヴァはあの言葉を頭で繰り返した。

 

『レオヴァ坊っちゃん、カイドウさん譲りの“それ”は治すべきだ。

おれ達はいつどんな時も冷静に、カイドウさんを支えられなきゃならねェ。

突然、ストッパーが外れるようじゃ駄目だ。

カイドウさんの敵を確実に殺る為に、動じねェ姿勢を保て。』

 

まだ十代前半の頃、キングがレオヴァを諭した時の言葉だ。

 

カイドウやキングにクイーン、ジャックなど。

レオヴァは大切な者を侮辱されると、瞬間的に理性を怒りが越えてしまう時が度々あった。何の前触れもなく。

 

それはまるで酔っているカイドウが笑い上戸から怒り上戸になる時のように、急に切り替わってしまう。

そんなレオヴァの成長を促すため、キングは助言をしたのだ。

 

共にカイドウを支えると認めた男が、 更なる高みを目指せるようにと。

 

以降、レオヴァは自分の怒りをコントロールするように心がけた。

偉大な父(カイドウ)の隣に立つに相応しい男になる為に、信頼する同志(キング)の期待に応える為に。

 

 

未だにその父の事となると沸点が低くなるのは相変わらずだが、しかしそれはキングとて同じであった。

 

レオヴァは冷静さを取り戻すべく、深く息を吐くと書類の確認作業を再開するのだった。

 

 

 

 





ー後書きー

キッド:2年間暴れ続けて、新世界の荒波を体験。
キラーの助言もあり、確実に“アイツ”を越える為に同盟を了承。
同盟相手はどいつもムカつくとと思いつつも我慢出来ている所に成長を感じる……かもしれない。

キラー:二年間新世界で旅をして戦略不足を感じ、同盟を提案。
理性的な判断力や、情報収集力で他の同盟相手との連絡役であり、キッドとの間を取り持っているスーパー有能相棒

ルフィ:意外にも(?)あっさり同盟を承諾。
カイドウやレオヴァの強さは分かってるので、超えて海賊王になる為には一緒に力を合わせる“友だち”が必要だと考えている…かもしれないし、何も考えてないかもしれない。
カイドウもレオヴァも。そしてシャンクスも超えて海賊王になる!と言う強い気持ちがある。

ゾロ:まだ少しキッド達への警戒心はあるが、ルフィが決めたことなので文句はない。なにより百獣海賊団と戦うなら同盟も必要だろうと冷静に判断出来ている。
サンジの葛藤に気付いていて、尚厳しい言葉を投げたのは
揺らいだ心のまま戦えるほどぬるい相手ではないと理解しているからこそであり、不器用なゾロなりの優しさである。

サンジ:今回、麦わらの一味で一番辛い男。
ルフィと旅に出た時点で薄々分かってはいたが、“理解”と“覚悟”は別である。誰よりも“優しい”男にとって片方を切り捨てる事はいったいどれだけの覚悟が必要だったのか…


赤鞘:国外へ一時、退避。
不安や動揺で揺れつつも、気を失った日和を連れ海へ出てイヌアラシがいるゾウを目指す。

河松:傳ジローは裏切り者で、日和は洗脳されていると信じ込んでいる。
しかし、彼からすれば憎き百獣の配下にくだり、その幹部を親友と呼び楽しげに生活しているだけでなく、大名の地位まで手に入れた男が怪しく見えてしまうのは仕方がないのかもしれない。
20年間一人で温かい記憶が溢れる城の残骸の中で生きていた河松の心境は消して推し量れるものではないのだ。
 
錦えもん:傳ジローを信じているが他の仲間の言葉もあり、置いて行った。
何かあれば自分が他を説得しようという気持ちもあるが、おでんの侍としての矜持もある為に板挟みに。

狂死郎:突然、河松に敵意を向けられ困惑。
ただ、おでんの忘れ形見である日和とモモの助を幸せにしたいだけだった。(その為には百獣と敵対せず、ひっそりと穏やかに暮らすしかないという考えに至った)
静かに消えれば見逃して貰えるという確信もあり、ササキやレオヴァと敵対したくないと言う想いもあった。

 
レオヴァ:元々、消すならワノ国の外で…と思っていたので一度逃がす予定だった(狂死郎がこっそり船を用意しているのも知っていた)
ただ、仲違いが起きたのは予想外だった。
他にも倍速中に聞こえた河松の言葉が逆鱗に触れたなど、色々思う所はあるようだ。
……果たして一度逃がして、どうやって見つける算段だったのだろうか?



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