俺がカイドウの息子…?   作:もちお(もす)

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動き始める次世代を謳う者達

 

 

 

麦わらの一味はキッド海賊団と同盟を組んだ。

 

サンジの葛藤やキッドの性格面でも問題などもあったのだが、最終的に同盟は結ばれたのだ。

 

理由は単純だ。

四皇に挑むには互いに人手が足りなかった。

 

ただでさえ百獣海賊団は屈指の人員数を誇り、まさに世界一の戦力と保有していると言ってなんら過言ではない。

 

更には、その海賊団のNo.2である百雷のレオヴァはワノ国の王である。

 

ワノ国と言えば、“百獣国際連盟”を立ち上げ

“非”加盟国を中心に何十ヶ国の国と連携を取り始めており、中には元々世界政府の加盟国だった国もある程だ。

 

今では世界政府に並ぶ勢いで連盟国を増やし、強大な存在へと成りつつある。

 

 

そして、ワノ国は百獣海賊団のナワバリだ。

そうなると“百獣国際連盟”は事実上、海賊団を中心に国を巻き込んだ組織を作り上げていることになる。

 

 

これ程の組織相手では、超新星と呼ばれる彼らでも分が悪いと考えたのだろう。

 

結果、キッド海賊団は同盟相手を増やしており、麦わらの一味もその話に乗ったのだ。

……約一名、事をしっかりと理解出来ているか怪しい麦わら帽子ののんきな少年がいるが。

 

 

 

そして、同盟を組んだ麦わらの一味とキッド海賊団は、早速行動を開始した。

 

魚人島から出港したサウザンド・サニー号には麦わらの一味の他に、キッド海賊団の船長であるキッドとその相棒キラーが乗船していた。

……が、突然の爆弾発言に一味は目を見開いて二人の方を向いたまま固まってしまった。

 

 

「「……へ?い、言ってる意味が…」」

 

理解不能だと、間抜けな声を出すナミとウソップをキッドはイライラしたような目で睨み付ける。

 

 

「何度も言わせるんじゃねェ!!!

今から攻め()るのは“パンクハザード”だ!」

 

怒鳴るように叫ぶキッドに、ゾロが口を挟む。

 

 

「……聞いてた話と違うじゃねぇか。

魚人島では百獣海賊団のナワバリ、“ワノ国”に攻め入るって話だった筈だろ。」

 

かすかに不信感を滲ませるゾロをキッドが睨み返すと、キラーが二人の間に割って入った。

 

 

「待て、キッド!

主語がないから混乱を招くんだぞ!

まずは、何故魚人島と話が違うのか説明させてくれ。」

 

混乱する麦わらの一味に真っ直ぐ向き直ったキラーの言葉に、皆が向き直る。

 

 

「ぜひ、説明して欲しいわ。」

 

「そ、そうだ!

同盟なのに今後も嘘つかれちゃ困るしよ~!…ぅ!」

 

ロビンに続いて声を上げたウソップが、キラーの後ろから睨んでくるキッドの眼力に負け、ゾロの後ろに目にも留まらぬ速さで逃げ隠れる。

 

キラーは説明をするべく、色々な事が書かれた紙を床へ広げて見せた。

 

 

「まず、魚人島は百獣海賊団のナワバリであり、ワノ国とも親交が深い…と言うのは知っているか?」

 

「知ってるわ。

特に最近では“百獣国際連盟”に加入すると言う噂もあるとか。」

 

「そ、そうなの!?

ロビン……詳しいのね。」

 

「えぇ、2年間お世話になった場所は色々な情報が入ってくる所だったから。」

 

キラーの質問に答えたロビンにナミが驚いている中、キラーはそれなら話が早いと会話を続けた。

 

 

「そう言う訳だ。

魚人島は実質、百獣海賊団の傘下と言っても過言ではない。

そしてレオヴァ……百獣海賊団のNo.2はお前達が考えている以上のキレ者だ。

あそこでの会話は全てバレているという、前提で動くべきなんだ。」

 

キラーの言葉にナミ達が目を見開く。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!

なら……私たちの同盟は百獣海賊団にもうバレちゃってるって事になるじゃない!!」

 

ウソップ達の言葉を代弁するように声を上げたナミに、キラーは仮面の下で目線だけ向ける。

 

 

「そうだ。

おそらく……いや、100%バレているだろうな。」

 

「いるだろうな…じゃねぇよ~!!

ど、どうするんだよ!?すぐにでも百獣が来たら!!」

 

慌てるウソップに、キラーが言葉を返すよりも早くキッドが口を開く。

 

 

「だから、ワノ国に行くってフェイク(・・・・)を入れたんだろうが!!

端からアイツに全部隠そうなんて無理に決まってんだろ!!

そうなったら、“どの情報を妥協するか”が重要になってくンだよ。」

 

思いの外、理性的な答えにウソップと数人が面食らっているとキラーがキッドに続くように口を開く。

 

 

「今のキッドの言葉が、魚人島で嘘をついた理由だ。

敵の腹の中で全てを馬鹿正直に話すことは出来ない。

本来なら魚人島で同盟の話をすることも控えたかったんだが、お前達と確実に会う為には仕方がなかった。

魚人島を出られては、お前達を探し出すのに時間がかかりすぎる。

…だが、嘘を言う形になった事は悪かった。」

 

謝罪の言葉に一味は一瞬黙り、ルフィを振り返る。

 

 

「…どうする、ルフィ。同盟続けるのか?」

 

「おう、理由あったなら別にいい!気にしねぇよ!」

 

ニカッと笑ったルフィからキッドが目を反らすと、キラーが話を続ける。

 

 

「そう言って貰えて助かる。

おれ達としても、嘘をつくつもりはなかった。」

 

「ルフィがいいってんだから、もうその話はナシだ。

それより何で“パンクハザード”なのかが知りてェ。」

 

ゾロの返しに、キラーは頷く。

 

全員が集まっている甲板に広げられた紙に指を差しながらキラーが説明を始めた。

 

 

「百獣海賊団のあの戦力の多さは異常…

だが、それと同じくらい奴らの持つ“繋がり”も厄介なんだ。

戦力は後々に削るとして、先にその繋がりを少しでも減らす必要がある。

せっかく戦力を削っても繋がりの関係でまた敵が増えてはそれこそ百獣の戦力を無尽蔵に増やすことになりかねないだろ?」

 

広げた紙を指差しながら説明をするキラーに、フランキーが髪をセットしている手を止めずに問いかける。

 

 

「で、それでなんでパンクハザードなんだ?

説明になってないぜ。

それに、パンクハザードと言えば…あの大将赤犬と青キジがやりあって、島は大惨事になったって言うじゃあねぇか。」

 

大将という単語にウソップが目を見開く。

 

 

「えっ……!?

いや、確かに大将が一騎討ちしたってのは知ってるけどよ!

それ今からおれ達が行く所なのか!?

よし、やめよう。一旦引き返して…」

 

動揺し始めたウソップを無視して、キラーは話を続ける。

 

 

「パンクハザードに行く理由は単純だ。

あそこにはドンキホーテ・ドフラミンゴの闇取引用の工場がある。

それを潰しに…」

 

「ちょ、ちょっと待って!

なんでここで急に七武海の名前が出てくるのよ!!」

 

「……お前、知らないのか?」

 

少し驚いた声を出すナミに思わずキラーは首をかしげた。

知らないとは何を指しているのかと、問おうとした時。

側にいたロビンが先に口を開いた。

 

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ……確か百獣海賊団と繋がりがあると言う噂を聞いたことがあるわ。」

 

「えぇ~!

じゃあ、おれ達……四皇と七武海の両方を敵にまわすのかよ!!?

ルフィ~!考え直せ!」

 

ウソップが真っ青な顔でルフィを振り返るが、当人はけろっとした顔でそうなのか!などと、呑気な声を上げている。

 

そんな光景に黙っていたキッドが眉間のシワを深くしていく。

 

 

「チッ…七武海は政府の犬だぞ、始めから敵だろうが。

邪魔するなら消す……それだけだろ。いちいち騒ぐんじゃねェよ。」

 

「キッドの言う通りだ。

七武海は元々海軍側、相対すれば敵。

どちらにせよ敵ならば、利用させて貰おうと言うわけだ。」

 

相変わらず揺らがないスタンスの2人に小さく頷くと、ブルックが口を挟んだ。

 

 

「私たちが討つのは四皇。

ならば、七武海に恐れをなしている場合ではない…と言うのは分かります。

ですが、同時に敵に回すとなればリスクが伴います。

そのリスクを負うほどのメリットはあるんですか?」

 

ブルックの尤もな意見にウソップ達が強く頷く。

すると、キラーはもう一枚紙を取り出して麦わらの一味へと差し出した。

 

 

そして、その紙を見てロビン達は驚きを露にし、ルフィとチョッパーは首を傾げた。

 

 

「これっ…!?

どうやって、こんな情報を……百獣海賊団から情報を手に入れるのは簡単じゃない筈よ!」

 

驚きを隠せずにいるロビンの言葉に、キラーが答える。

 

 

「あぁ、そうだ。

百獣海賊団の情報はまるで選別されているかの様に、ある一定の情報しか流れて来ない。」

 

「じゃあ、どうやって手に入れたんだよ!?」

 

声が裏返ってしまっているウソップの声を遮るように、キッドが口を開いた。

 

 

「ンなもん、百獣以外から手に入れたに決まってんだろ。」

 

「百獣海賊団の情報を、別の場所から…?

まさか……!取引相手!?」

 

キッドの言葉の真意に即座に気付き、息を呑んだロビンにキラーは小さく笑う。

 

 

「察しがいいな、ニコ・ロビン。

これは百獣海賊団の取引先である、ドフラミンゴファミリーから奪った情報だ。」

 

「なるほどな!

鉄壁の守りの百獣海賊団から奪うんじゃなく、その相手からってワケかよ。

なかなかやるじゃねェ~の!!」

 

感心したように声を上げたフランキーの横で、チョッパーが困惑した顔をする。

 

 

「なぁなぁ、ロビン……これなんなんだ?

そんなに凄いものなのか…?」

 

ハテナをたくさん浮かべるチョッパーに、ロビンはこの情報が何なのか、噛み砕いて話し始めた。

 

 

「これはね、百獣海賊団とドフラミンゴの取引リストよ。

あの革命軍でさえ百獣海賊団の情報を手に入れるのは難しいの…それくらい凄いものって事なんだけど。

これを見る限り……百獣海賊団はドフラミンゴに武器や薬、日用品を売ってるようね…

それにこのSMILE・“insect ver.”と“beetle ver.”って言う項目が重要みたい。」

 

「すまいる…?ばーじょん??

ロビン、おれ分かんね~よ~!」

 

あわあわするチョッパーにロビンは小さく笑いかける。

 

 

「このSMILEというものは、最近一部で流通し始めた特殊な木の実。

これを食べた者は普通ではあり得ない能力を得る……と私は聞いてるわ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってよロビン!

それじゃあまるで……」

 

声を裏返らせるナミの言葉にロビンが続ける。

 

 

「……えぇ、まるで悪魔の実。」

 

「そ、そんな物が……」

 

「おいおい!?

百獣は悪魔の実を売りさばいてんのか!?」

 

驚きのあまりふらつくナミをサンジが受け止め、フランキーはありえねェと声を上げた。

 

動揺が走る一味にキラーが会話を再開する。

 

 

「正しくは、SMILEは悪魔の実ではない。

人工的に作られた物だ。

そして、その実を作る工場の1つがパンクハザードにある。

それも貿易用のSMILEの工場(・・・・・・・・・・)らしいんだ。」

 

「なるほど。

……で、そこを壊すって訳か?」

 

「破壊するのは大前提だ。

今回の作戦の要は、その工場のある施設にいる“イネット”を捕まえる事だ。」

 

「「「イネット…?」」」

 

聞き覚えのない人物の名前に一味は首を傾げる。

 

 

「“元”百獣海賊団の科学者であり、現ドンキホーテファミリーお抱えの科学者。

イネットを捕らえ、その後ドレスローザにある“鍵”を手に入れに行く。

奴は最悪の場合、取引材料としても使える。

ドフラミンゴはレオヴァから部下を預かっている状態だ、イネットの生死には敏感になるだろう。

何せ、レオヴァは何よりも身内を大切にする男だ。

上手くやればドンキホーテファミリーと百獣の間にゴタゴタを起こし、時間を稼げる可能性もある。」

 

話をドンドン先に進めるキラーにゾロが待ったをかける。

 

 

「その“鍵”ってのはなんだ。

わざわざ七武海の本拠地に乗り込むんだ。重要なモンなんだろ?」

 

「そうだ、この“鍵”は絶対に必要になる。

……だが、それよりまずパンクハザードの作戦の話をさせてくれ。」

 

こうして神妙な雰囲気の中、キラーを中心に話が進んでいく。

 

彼らの作戦開始まで、あと数日。

 

 

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麦わらの一味がキッド海賊団に会うよりも前。

 

狂死郎は日和を連れ去られた事を絶望する暇もなく、レオヴァとの対面を終え、鬼ヶ島にある応接間で“親友”に全てを話していた。

 

 

「……と言う訳なんだ。

おれはずっとササキ、お前に……嘘を…」

 

狂死郎は正面に座るササキを見ることが出来なかった。

 

錦えもん達は仲間であり、同じ主に仕える同志だったが。

何年も自分を親友と呼び、倒れそうになる度に支えてくれた一番の“親友”はササキだった。

 

心が辛いとき。これで本当に良いのかと悩んだ時。

必ず変化に気付いて背中を叩き笑ってくれたササキに、どれ程狂死郎は救われたか。

 

 

『後悔ってのは誰だって少しはあるだろ。

“あの時どうすれば良かったのか”って悩むぐらいならよ、“これからどうすれば良くなるか”ってことで悩む方が有意義だぜ?狂死郎。

それにこれからの事なら、おれも一緒に悩めるしなァ!

それでも難しい問題ならよ、レオヴァさん呼ぼうぜ!

確か……三人寄ればモンジューの知恵って言葉があるんだろ?』

 

そう言って胸を張るササキに、文殊の知恵だろうと思わず笑いながら返した記憶も狂死郎を支えてくれる大切なものの1つになっていた。

 

それほど、狂死郎にとって“親友(ササキ)”の存在は大きなものになっていたのだ。

 

 

しかし、もうそれも過去の話だ。

 

ササキには全てを話した。

元々は敵であったことも、狂死郎と言う名が嘘であった事も。

……昨日、百獣海賊団を裏切るような真似をしたことも。

 

 

ここで死ぬ訳にはいかない。

日和様とモモの助を守らねば…と思う自分と。

最期がこの親友の手で迎えられるならと、納得してしまう自分がいる。

 

正反対の二つの想いを抱える自分に、狂死郎は内心で自嘲の笑みを浮かべた。

もう何年も前からまるで自分は二人いるかのような錯覚は続いている。

 

おでん様と生きた傳ジローと、百獣海賊で生きた狂死郎。

どちらも同じ20年ほどの長い時間を過ごした。

どちらの自分も本心なのだ。

 

 

応接間に短くはない沈黙が流れていた。

 

 

「……そうかよ。

で、弁明はなしか?」

 

自分に初めて向けられる冷たい声に狂死郎はうつ向きがちに答える。

 

 

「…………おれには申し開く…資格はない…」

 

「……許してくれとも言わねェのかよ。」

 

「っ……許してくれなど…

おれにそんなことを言える権利など…あるはずが……」

 

完全にうつ向きながら紡がれた言葉に弾かれたようにササキが立ち上がり、狂死郎の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「狂死郎!お前はいつもそうだよなァ!!

資格がないだの、権利がないだのと……誰がそれを決めるんだよ!?何をするのかはテメェの意思だろうが!!

おれは“お前自身”に聞いてんだぞ!!!

この期に及んでまだ、おれにも自分にも嘘を吐くのかよ!?」

 

真っ直ぐなササキの言葉に狂死郎の瞳が揺らぐが、口はきつく結ばれたままだ。

 

 

「なァ、なんで何も言わねェ!!?

おれをっ……親友って呼んだのも嘘だったのかよ!!!

おれは、おれはお前をっ…本当に!レオヴァさんだって!!」

 

顔を歪めるササキに、ついに狂死郎の本音が溢れる。

 

 

「違うッ!嘘じゃない…

ササキ……それだけは、嘘じゃないんだ……」

 

「じゃあ、何で許してくれとすら言えねェんだ!!

…ワザとおれを怒らせる真似をする理由当ててやるよ……

狂死郎、お前は逃げてんだろ……おれから。」

 

ササキは胸ぐらを掴んでいた手を力なく離し、目を合わせない狂死郎を、それでもただ真っ直ぐに見据えて続けた。

 

 

「前に言ってたよな、また失うのが怖いって。

お前は傷付きたくねェから、おれに正面からぶつかって来ないで許されないだの資格がないだのと、本心隠してごちゃごちゃ理由つけてんだろ?

分かってんだよ、全部。

………何年間、お前の親友やってると思ってんだよ…狂死郎ォ…」

 

らしくなく震える声に、ずっとうつ向いていた狂死郎が思わず目を見開いて、ササキを見た。

 

全て、ササキの言う通りだ。

裏切り者として殺されるよりも、敵として拷問されるよりも。

一番の親友に、“許されない”ことの方が恐ろしかったのだ。

 

やっと此方を見た狂死郎の目を、じっとササキは見ながら言葉を続けた。

 

 

「……最後だ、狂死郎。

おれに言いてェこと、あるか?」

 

狂死郎は熱くなる目頭と震える唇を無視して言葉を吐き出した。

 

 

「悪かった…!本当にすまない!!

…ササキ…どうか……どうか、おれを許してくれっ……!!」

 

言い終えると同時にガバッと頭を下げた狂死郎を、ササキは数秒見つめた後、思いっきり拳を振りかぶり、殴り飛ばした。

 

派手な音と共に狂死郎は壁を突き抜けて、隣の部屋へと吹っ飛ばされる。

 

瓦礫の上で小さく呻き声をあげる狂死郎の方へズンズン歩いて行くと、ササキが手を差し出す。

 

 

「…サ、ササキ……」

 

「今回はカイドウさんもレオヴァさんも咎めねェって言ってたし、この一発で許してやる。

……それに、お前が抱え込んでるの何となく分かってたのに吐き出させてやれなかったおれも親友失格だしな…

でも、次はねェからな狂死郎ォ!!

今度からはちょっとでも抱え込みそうになってたら無理やりにでも喋らせてやる!」

 

「ハハハ……あぁ!

本当に、すまなかった…っ!」

 

頬を伝う水を拭うと、狂死郎は差し出された手を掴んだ。

すると、ササキは倒れていた狂死郎の体をぐっと引っ張りあげ、立ち上がらせた。

 

 

「……ありがとう、ササキ。」

 

「……もう、裏切ンなよ。狂死郎。」

 

二人は真面目な表情で互いに顔を合わせたあと、いつものように笑う。

 

わだかまりは感じない。

ただ、狂死郎とササキの頬には水が流れた跡だけが残った。

 

 

 

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今回の件。

カイドウとレオヴァは今までの功績や映像の記録を踏まえて、狂死郎には専属部下の没収と減給、暫しの謹慎を言い渡した。

 

驚くほど軽い罰だが、身内想いな(・・・・・)レオヴァが処罰に関与しているとなれば珍しい話ではない。

 

 

狂死郎は謹慎部屋へと連れて行かれ、ひとりで大人しく時が経つのを待っていた。

日和が連れ去られた焦りはあるが、錦えもんがいるという安心感と

レオヴァが『小紫を迎えに行く』と宣言したことで、目覚めたばかりの時よりは精神が安定していた。

何より今はもう昔のように独りじゃない。親友(ササキ)頼れる人(レオヴァ)がいてくれる。

 

 

 

今は迎えに行く遠征に入れて貰えている。

その後の作戦を試行錯誤する事が重要だ。

そう考え、狂死郎は頭をフル回転させていた。

 

……が、唐突にその時間は終わりを告げた。

 

 

怒りに染まった顔のネコマムシが、謹慎部屋へ押し掛けて来たのだ。

 

ネコマムシの怒りは凄まじいものだった。

それもその筈。

実はネコマムシは前日に聞かされた狂死郎の作戦に反対していたのだ。

 

こっそり逃げるのではなく、ちゃんとレオヴァや百獣海賊団に筋を通してから赤鞘達とワノ国に残るか、外海へ出るか話し合うべきだと主張していた。

 

しかし、狂死郎はその主張を受け入れられなかった。

 

モモの助はおでんの息子である。

いくらレオヴァが話が分かる相手とは言え、男の跡継ぎを見逃してくれる保証はない。

何より、百獣幹部の大看板達や国民がモモの助を良く思っていないのは明白だ。下手をすれば昔の“黒炭家”の生き残りのように扱われる可能性すらある。

 

それに、処刑後すぐの“あの日”から飛ばされて来たばかりの赤鞘の侍達がカイドウやレオヴァの前で一瞬でも変な気を起こせば、全員の命はないだろう。

そう、冷静に狂死郎は考えていたのだ。

 

だが、レオヴァならば大丈夫だと、楽観的過ぎるほど信じきってしまっているネコマムシに狂死郎の懸念の言葉はしっかりと届かなかった。

狂死郎が懸念している相手はレオヴァではなく、一部の百獣幹部と国民なのだ。

 

 

そして、結局狂死郎はネコマムシの意見を飲んだように見せ掛けて勝手に自分の案を実行したのだ。

勿論、日和がそれを肯定し実行に移そうと言ってくれたからなのだが。

 

ネコマムシならば、ミンク族のまとめ役として百獣海賊団に馴染んでいるし、レオヴァからも気に入られているから今後も大丈夫だろうと確信があった。

その為、大丈夫だと確信のないモモの助と赤鞘を説得するために跡地へと赴いたわけである。

 

 

そんな勝手に進められた事情もあり、ネコマムシは怒り心頭であった。

 

あれだけ止めたのに勝手に実行し、守るべき日和が手の届かない場所へ行ってしまったのだ。

怒らないのは到底無理な話である。

 

 

「狂死郎、なにしちゅうか!!

河松は危ない()うたにゃあ!!」

 

「……すまない、警告を無視したおれの落ち度だ…

まさか、あれほど河松が変わってしまっていたとは……」

 

「じゃき、そが()うたやが!

レオヴァが日和様を連れ戻す宣言しちゅうからえぇが、そうじゃなけりゃあ!

今ここで殴ってるところやき!!!」

 

毛を逆立てるネコマムシに狂死郎はひたすら謝った。

 

日和を連れ戻す作戦に参戦できなかったネコマムシの攻撃は暫く続いたが、少し深呼吸すると落ち着きを取り戻したようであった。

 

 

「……これ以上は()うても仕方がなか…

今回はもう手打ちにするにゃあ!!」

 

これで勘弁してやると宣言したネコマムシに狂死郎は眉を下げて小さく笑った。

 

そして、真面目な顔でネコマムシを見る。

 

 

「…ネコ、お前はもしモモの助様が百獣海賊団と戦うと仰ったらどうする?」

 

「……なんぜよ、急に。」

 

一瞬和らいでいた場の空気が、狂死郎によって先ほどよりも引き締められる。

 

 

レオヴァ殿の言葉(・・・・・・・・)を覚えているだろう。

だからこその問いだ。」

 

「……覚えちゅうが…

モモの助様はそんな事言わんきに!」

 

「あぁ…モモの助様はお優しいからな。

しかし、だ。お優しいからこそ家臣の気持ちを汲んでしまうかもしれないだろう。」

 

「そがなこと……」

 

ない、とは言えなかった。

ネコマムシは知っていた、モモの助は本当に優しい子だと。

戦いが怖くとも、きっと家臣達が開国を目指し突き進みたいと涙ながらに懇願すれば、彼は震えながらも首を縦に振るだろう。

 

だが、そうなっては不味い。

 

レオヴァは確かに赤鞘を責める気はないと、手を出すこともしないと言ってくれた。

 

だが、それには条件があった。

百獣海賊団に敵対しない”、“ワノ国の民に危害を与えない”という2つの絶対条件だ。

 

これを聞いた狂死郎とネコマムシは当たり前の条件だろうと、頷いた。

いくら慈悲深いレオヴァとは言え、自分の仲間達や民を傷つけられれば黙っていられないのは当然だ。

 

そして、今。

最悪の状況が起こる可能性が非常に高い。

 

ネコマムシが以前河松を見掛けてから危ないと危惧していたのは、百獣海賊団への確かな敵意を感じたからだ。

だからこそ、狂死郎に河松に気を付けろと口酸っぱく言っていた。

 

狂死郎も今回で河松の危うさをやっと理解した。

 

そして、先ほどの質問に繋がったのだ。

もし、守るべきモモの助が、戦うと宣言したら……

 

 

「ネコ、今度の日和様を迎えに行く作戦はレオヴァ殿の選抜で“大看板”が1人、共に来る。

……もし、その時に…モモの助様が百獣海賊団との敵対を宣言すれば……おれに止める手立てはない!

そうなったら、おれは……日和様だけを連れてワノ国へ戻る事を選ぶ。」

 

「狂死郎っ……何()うとるぜよ!!

モモの助様も守るべき…」

 

ならばどうしろと言うんだ!!!

……ネコ、おれはみんなと会って確信したんだ。

あの目には…百獣海賊団への憎悪があった……もし可能性があるとしたら、錦さんだ。

錦さんだけは日和様とおれの話を聞いて目を揺らしていた……だが、他のみんなは…

レオヴァ殿が日和様を助けオロチを討ったと、ワノ国を良くしたのだと話しても……目の憎悪が消えず、疑惑の目でこちらを見ていた。」

 

言葉を失うネコマムシに、狂死郎は強い意思を滲ませながら話を続ける。

 

 

「おれはオロチを討ったあの時、誓ったんだ。

日和様を守ると……二度とあんな不幸な目にあわせないと!!

全てを守ることが出来ないのなら、おれは日和様を選ぶ。

……言うまでもなくモモの助様のことも大切だ…

だが、日和様もモモの助様も守りたいと欲張って、全て守れず失うくらいなら……選択する覚悟を…おれは持つ。

例え、それでみんなから恨まれても。日和様をお守りする。

ネコ、お前は……どうする。」

 

ネコマムシは静かに瞳を閉じた。

 

選べるものではない。

日和もモモの助もどちらも大切な人だ。

 

けれど、狂死郎の懸念も言っていることも間違ってはない。

どれが正しいのかは、誰にも決められない。

この世に絶対の正解などないのだから。

 

 

ネコマムシの頭を様々な記憶が飛び交う。

 

少しずつ成長して、天真爛漫さを取り戻した日和との記憶。

大好きだった“おでん”の話をしながら、自分達は前を向いて生きようと励ましあったアシュラ童子との記憶。

いつだって日和とアシュラ童子や仲間達の未来の為に仕事を頑張っていた狂死郎との記憶。

獣人島に来ては新しい娯楽を持って来て手料理を振る舞い、ミンク族にいつでも優しく接し、ネコマムシの良き理解者になってくれたレオヴァとの記憶。

 

 

おでんとの十数年は楽しかったし、幸せだった。

けれど、レオヴァとも出会ってから十数年の長い年月を共にしてきた。

 

おでんに向ける尊敬や感謝の念は強く、廃れることはないが、レオヴァへの感謝や親愛の念も強い。

 

そして、共に生きてきた日和達への想いも。

 

 

ネコマムシは閉じていた瞳を開いた。

 

 

 

「……モモの助様もみんなも大切ぜよ…

じゃけども、狂死郎の()うことも分かっちゅう。

…………わしは、もしみんなが戦う()うなら……その時は覚悟できとるぜよ。」

 

「……そうか。」

 

「やき、狂死郎。

もう独りで突っ走るのは無しぜよ。」

 

「ネコ……分かった。

もう勝手な真似はしない。」

 

「ゴロニャニャニャ!

仲間はもっと頼らないかんぜよ!

狂死郎ひとりに背負わせるつもりはないきに。」

 

優しく笑ったネコマムシに、狂死郎は笑い返した。

 

この謹慎が開けた時。

皆を迎えに行った狂死郎を、仲間達は信じてくれるのだろうか。

 

 

 




ー補足ー

キッド&キラー:シャボンディ諸島でもレオヴァを知っている素振りがあったが、一体なぜなのだろうか…?

サンジ:気丈に振る舞っているが、やはりあまり元気がない

カイドウ:狂死郎が裏切ったとレオヴァがキング、クイーンを呼んで4人会議した。
なかなか有能であり強さも申し分ないので、今回の件はレオヴァが良いなら構わねェ!と水に流した。

・狂死郎呼びについて
日和やネコマムシ、アシュラは傳ジローではなく狂死郎と呼んでいる。
日和は小紫を源氏名として使っていただけで、普段はネコ達に日和様と呼ばれていたので“日和”呼びだが
狂死郎は改名のようにずっと狂死郎と名乗り、そう呼んでくれと皆に頼んだ為、“狂死郎”呼びが定着した。
アシュラ童子は、“アシュラ”と“酒呑童子”呼びが混ざっている。
(獣人島ではアシュラ、そこから出ると酒呑童子呼びになっていた為。)

・SMILE・“insect ver.”と“beetle ver.”
レオヴァが共同開発したSMILEのようだが、果たして“ver”とは何なのか……
何故、ドフラミンゴが工場を所有しているのか…

・イネット
彼はウイルス実験の被害にあった筈だが……一体何がどうなっているのだろうか?

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