それはとある日の昼下がり。
「そっ、そこのハトー!!待ちなさぁぁぁぁぁい!!」
「ちょっ...アン、アンバーっ!待って!」
彼女の甲高い声が森の中に響き渡る。足場の悪い木々の中を縦横無尽に駆け巡るその姿は、勢いよく跳ねる『兎』のようだ。
「あっ、ズルい!ついに飛んだわね!!だったら私も容赦しないわよ!!」
空に飛び上がる鳩に向けてそう叫んだ彼女は────
「────────それっっ」
崖に足をかけ、そのまま思い切り地面を蹴り鳥の如く背中から『風の翼』を広げた。その機動力、体力こそが取り柄であり、彼女が偵察騎士として誇りを持っている所以でもある。
鳩の足に引っかかっていた青光りする指輪を指で掠め取った後、その騎士は殆ど足音を立てずに着地した。
「はい、これ。今度は無くさないようにね?」
「あ...ありがとうございます!!」
そう言って手渡された指輪を、茶髪の男性は嬉々として受け取る。これで緊急依頼は完了、後は報酬品を受け取るだけだ...と浮かれていると、男性は一つ頭を下げそのまま去っていった。
「...え?何もなし?」
その男性の背中を見届けたまま大袈裟に肩を落とす俺に、アンバーは苦笑気味に答える。
「今回は緊急依頼だからね。正式に依頼として本部に提出してないものは、報酬品管理なんかも依頼人に一任してるんだよ」
「だからって、そこが曖昧なままだったら冒険者協会はただの便利屋さんになるぞ。そういうのはちゃんとしないと」
現に、最近では協会に依頼するまでもないしょうもない事を一々報告してくる輩も居るそうだ。せっかく代理団長が張り切っているのに、この現状では威厳も何もあったものではない。
同じ心境なのだろう、彼女────偵察騎士アンバーも肩を竦めた。
「しょうがないよ、私達じゃどうにもできない事だし...それはそうとして、空。私の依頼に付き合わせちゃってごめんね」
「大丈夫だよ、俺もここら辺に用事があって来たんだし。...まあ、あそこまで全力疾走するとは思わなかったけど」
そう言うと、アンバーは「えへへ...」と申し訳なさそうに頬をかいた。
そういえば初めて会った時も、度肝を抜かれるレベルの身のこなしで華麗に登場していた。流石、飛行大会三連覇のチャンピオンなだけある。
「...そうだ、お礼としてはなんだけど空の用事にも付き合ってあげる!」
「そうか?じゃ、お願いしようかな」
これは手っ取り早い、と密かにガッツポーズをすると、アンバーはなぜか意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あれ?普段は遠慮がちな空が断らないってことは、それ程面倒な事なの?」
「よ、よく分かったな...。実は俺も依頼で、アカツキワイナリーの周辺まで行く所なんだ。腕っ節偵察騎士が居てくれれば助かる」
無意識にからかうと、彼女は可愛らしく頬を膨らませて腰に手を当てた。
「腕っ節って失礼な!...あれ?もしかして褒められてる?」
「はいはい、どっちでいいから早く行こう」
そう言って歩き出す俺を、アンバーは特徴的なリボンを整えながらてくてくとついてきた。
近頃────特にモンド周辺でヒルチャールたちの動きが活発化しつつあると、昨日ガイアが嘆息を漏らしていた。
ヒルチャールというのは千年以上も前から生息していたと言われている種族で、五百年前に起きた『暗黒の災い』と呼ばれる天変地異をきっかけにテイワット大陸中に広まったと言われている。
特徴としては、変な模様の入った仮面、蛮族衣装、黒い角、そして...俺と同じく、『神の目』に頼らずとも元素を扱う、と言った点。
種類や階級ごとによってその差は変動するものの、正直単体としての実力は見習い騎士といい勝負をする程度のものだ。俺やアンバーのような現役は誰に頼らずとも簡単に倒せてしまう。
ただ、それは単体での話だ。
これも頼れるガイア先輩から聞いた話なのだが...つい先日、ヒルチャールのアジトに討伐に出向いた一人の兵士が消息を絶ったという。その兵士は団長に及ばずともかなりの実力者だったそうで、今までの同様の任務も難なくこなしてきた。故に、今回は悪い慣れが出てしまったのかもしれない。
そして彼が敗れたもう一つの要因────これがヒルチャールの怖い所でもある、
奴らは、基本的には俺ら人間を見つけると必ずと言っていいほど仲間を2、3人は連れて突進してくる。太古の昔はそのように頭を使ってはいなかったようだが、今や水と氷を操り氷漬けにしてくる厄介なシャーマンコンビも見かけるくらい発達しているということだ。
交渉は無駄、出会ったら最後どちらかの命が潰えるまで刃を振るうしか出来ない────少しの油断が命取りになる。
そして今回、俺が引き受けた依頼もその兵士と同じような討伐ものだった。ガイアの話を聞く前は一人でも余裕だと思っていたが、その話を聞いてしまった以上なるべくソロでの活動は控えたい。
よって、たまたま近くで走り回っていたアンバーの依頼を手伝い、逆に俺の分も付き合ってもらおうという寸法だ。
────少し性格は悪いかもしれないが。
「Nini zido!!」
相変わらず理解出来ない言語を話す戦士のヒルチャール。その鳩尾に愛剣を叩き込み、
「荒星ッッ!!」
吹っ飛ばされて倒れ込む小柄な身体に、俺は握り拳を作って相手に翳した。
直後、地盤の真底から岩元素と共鳴した岩石がその身体を突き飛ばす。黒い影に包まれ、同時に戦利品をそこら中に落とした。
これで近くの戦士たちは一掃できた。
「矢先...仮面...絵巻...と」
ざっと十五匹程度は倒したか。若干、シャーマンの水攻撃には苦戦したものの難なく予定通りにに全滅させることができた。
さて、あちらの方は...。
「────これで、終わり...っ!!」
その掛け声と共に天空から炎の矢が出現した。
その一つ一つが紅蓮の雨となり、ヒルチャールたちの脳天を衝く。悲鳴をあげる暇もなくその姿を黒い灰へと変えた戦士たちに、偵察騎士は特に疲れた素振りも見せず弓を背中にしまった。
今のは炎元素と彼女特有の矢の撃ち方を組み合わせ応用させたものだ。広範囲に攻撃出来る且つ相手を燃焼状態にもできる、使い勝手のいい技。
なるほど、偵察騎士の名も伊達じゃないな。
「お疲れ、アンバー」
冷水の入った小瓶を投げると、アンバーはそれを両手で受け取り「ありがと!」と言って口をつけた。
そのまま一気に飲み干した後、上品にハンカチで口元を拭い立ち上がる。
「この水、なんか酸っぱくて美味しいね」
「璃月のとある店で売ってたんだよ。ラズベリーの果汁と塩を溶かして作ったらしいよ」
あの店のシェフは料理の腕こそ確かだが、時々とんでもないハズレ料理を食べさせられることもある為、彼女の前で何でもホイホイと口に入れるのはあまりオススメしない。
「......」
と、隣に並んで立っている少女が、どこか寂しそうな目つきで辺りの残骸を見渡していることに気づいた。
「...疲れてるの?」
「───あ、いや。全然だよ!...ただ、何だか寂しいなぁ、って」
「寂しい...?」
「ん。...........ヒルチャールたちとの争いは、いつ終わるのかなって」
瞬間、俺は息を呑んだ。
ヒルチャールとの長い戦い。それは古くから人が抱えてきた問題であり、長年冒険者たちが頭を抱える導因でもある。
彼等との対話や和解を持ち掛ける心優しい人間も少なからずいる。しかし、それを以てしても、未だに人間とヒルチャールは敵対関係にあるのだ。
勿論それは、俺やアンバーを含む西風騎士団の者による殺戮行為も一つの原因だ。
だからといって、こちらに何の抵抗もさせず易々と殺される義務もない。奴らが襲ってきたら、殺す。それだけ。
故に────彼女は、少し複雑な心境なのだろう。この悪循環の環境下で、自分の気持ちに正直になれず任務をこなす。その過程でヒルチャールを殺すこともある筈だ。
「......」
ぶっちゃけ、個人的にはこの状況が一変し────例えば人間とヒルチャールの間に横たわる深い傷がたちまち癒え、種族関係なく手をとりあえるような────安泰な日々が訪れる、なんていうのは夢物語に過ぎないと思う。もしどちらか一方が手を差し伸べても、もう片方にとって自分たちの種族が被害にあったという事実は消える訳では無い。逆のパターンもまた然り。
そもそも、お互い守るものも目的も違うのだ。その時点で和解など希望的観測に過ぎないのだと、誰でも分かる。
...それでも尚、この少女は模索し続けているのだ。そんな希望的観測を現実に手繰り寄せる、何かを。
「...アンバーは、アンバーの好きにすればいいと思うよ」
「────え?」
暫く互いの間に気まずい空気が流れた中。唐突に口を開いた俺に、少女は思わず声を漏らした。
「まあ...俺はモナみたいな占星術師じゃないからアンバーの本心なんてよく分からないけど。でも、少なくとも、君の胸に在り続けるその思いは偽物じゃない」
周りの意見など、所詮他人が考えたものだ。聞く価値もない。
「正直...ヒルチャールとの和解なんて、俺は絶対無理だと思う。普通に考えて。...でもこれはあくまで俺の意見だ」
目を見開いたまま固まる少女と向かい合い、その双眸を真っ直ぐ見ながら。
「だから、その、要するに...」
「......ふふふっ」
肝心な所で言葉が見つからず、急にしどろもどろになる俺を見て、無言だったアンバーが不意に笑い声を上げた。
「もしかして...空、慰めてくれてる?」
「ま、まあ...そんな感じ」
すると、少女は────心做しか少し頬を赤らめ、照れるようにはにかんだ。
「うん。────ありがとう、もう大丈夫!」
すっかりいつもの調子に戻ったアンバーを見て、俺も「そっか」と息を吐いた。
彼女が抱えている問題の答えは、これから彼女自身が見つけるものだ。それがどのようなものでも、俺は一友人としてその過程を見届けるだけ。
と、二人の後方から何かが跳ねるような音が聞こえ、俺とアンバーは同時にその方向を向いた。
「......ん?」
鮮やかな薄紅色の花弁をつけた綺麗な一輪の花────否、それが頭から生えた白くて丸っこい物体。
...が、薄赤く明滅している。
────ん?
「.....っ、空、危ないっ!!」
そんな焦燥に駆り立てられた声と同時に何か柔らかいものが俺の胸に触れ、
直後、熱風が俺たちを包み込んだ。
..................。
............。
........。
...え、もしかして死んだ?
「....え、縁起でもないこと言わないでよぉ〜...びっくりした...」
意識が覚醒した直後、凄く顔と近い場所から聞き慣れた声が聞こえ、俺はゆっくりと瞼を開ける。というかやけに身体が重い。
それに、先程から誰かの息遣いが顔にかかって...。
「────あ」
徐々にピントが合う視界に映し出されたのは...頬を赤らめるアンバーの顔。
謎の爆風から俺を庇ったアンバーが、そのまま俺に抱きつくように倒れ込んでいるということに気付くのに差程かからなかった。
「......ごっ、ごご、ごめん!!私ったら、つい...!!」
跳ね上がるように身体を起こし俺から距離をとる少女。
「あ、いや...こちらこそ。怪我とかない?」
「う、うん!大丈夫!この通り!!」
そう言って空中で体を捻り、綺麗な一回転を披露した。
「...にしても、なんだ今の爆発」
後ろを振り返ると、先程爆発が起きたと思われる場所には黒い焦げ跡が複数ついていた。元素視覚を通して見てみる限り、単なる炎ではなく炎元素のものだろう。
「うん...私の『ウサギ伯爵』が誤作動したのかと思ったけど、それにしては爆発が小規模すぎるし...それにこの数も」
見たところ、比較的小さめなサイズの爆弾がどこからともなく飛んできたようだ。衝撃こそ凄まじかったが、それでも彼女の言う通り、アンバーが愛用するあのぬいぐるみに比べれば少し優しめだった。
もしかしたら誰かに付け狙われているのかも...と危惧した俺はアンバーの方を振り返り、
「アンバーお姉ちゃん、栄誉騎士さんっ!大丈夫!?」
同時に向かいの草むらから小さな人影が飛び出してきた。その可愛らしい声を聞けば、もはや不審者だと疑う必要もなく────。
「あちゃー...クレー、また失敗しちゃった...」
赤を基調としたミニドレスに身を包むその正体は、冒険者協会本部の『反省室の主』こと《火花騎士》のクレーだった。
ちなみにその渾名は、今はモンドでお昼寝中のパイモンが最近勝手につけたものである。
「クレーちゃん...!あっ、もしかして今の爆発は...」
アンバーがわざとらしく腕を組んで軽く睨むと、クレーは「違うの!」と首を振った。
「えっと、その、...びゅーんって、ものすごい強い風が吹いて、飛ばされちゃったの!」
「...今日は風なんて吹いてないけど?」
悪戯な笑顔を浮かべ問い詰めるアンバー。
「...あの、急にこの子たちが言うこと聞かなくて!」
「クレーちゃんの小さな爆弾には、理性なんて宿ってないでしょ?」
なおも言い訳を続けるクレーに、アンバーは「クレーちゃん?」と言う。
「......嘘ついたら、ジン団長に言いつけて一日中反省室の刑に...」
「わーーっ!!それだけはやめてー!!」
ジン団長、というワードが出た瞬間血相を変えたクレー。
「...ご、ごめんなさい...。実は、ここら辺を散歩してる時につい落っことしちゃって...」
...やっぱり。
最近ヒルチャールの主没率が増えていると言ったが、それと同じくらいクレーによる被害の件数も増えている。
勿論故意的にやっている訳ではないのだろうが、時にこうやってクレーが不注意に落とした爆弾が冒険者の周囲にまで転がることがあるのだ。
ちなみにこうやって迷惑をかけた場合、団長の命令により反省室送りにされる。
彼女自身も、反省室がとれだけ退屈で無聊を託つような場所かは身に染みて感じているのだろう、多分。
...何やら最近は部屋の中からバチバチ音がするらしいが。
「お願い!ジン団長には秘密にしておいて!今日はちょっと、大切な用事があって...」
「うーん...いつもなら問答無用で団長に報告だけど...ふむ、大切な用事かー...」
考え込むように唸るアンバーは、不意にこちらに目を向け、
「じゃあ、空が許してくれたらいいよ」
「えっ」
ここでまさか、こちらに振ってくるとは。
クレーが期待の意を含んだ眼差しでこちらを上目遣いに見つめる。
「え、栄誉騎士さん...!」
「...うーん」
特に誰も傷つけていないし、本心からすれば二つ返事で許してあげたいのだが。ここでいい加減に許してしまえば彼女の為にならないのでは。
ジン団長も言っていた。「時には厳しく当たるのも、その人の為だ」と。
...........。
しばらく悩んだ後。
「...分かった。反省室は免除するように、俺から団長に言ってあげるよ」
「...!ありがとう、栄誉騎士さ────」
「でも」
顔に喜色を浮かべる小さな少女の眼前で、人差し指と中指をを立てる。
「条件が二つある。...一つ目。アンバーと一緒でいいから、ちゃんとジン団長に報告すること」
「う、うん...クレー、良い子だからできるよ...!」
その様子を見て、アンバーも微笑ましげに笑った。大なり小なり、自分の侵した罪を秘匿するような悪い子ではないと、俺もアンバーも知っている。
そしてもう一つ、これはこの件と全く関係ないのだが...。
「...で、二つ目は────そろそろ俺の名前、覚えて?」
実は意外と、クレーが未だに『空』と呼んでくれないのが悲しかったりするのだ。
「...ホントに元気だよねぇ」
「元気っていうか...まあ確かに、年に見合わない程エネルギッシュではあるけど」
スイートフラワーの咲き誇る道をたったか駆けていく少女の背中を二人で見ながら、呟くように言った。
元気すぎるせいで周りを振り回すことも多々あるが、それでも彼女の戦力的には西風騎士団の秘密兵器と言っても過言ではない。どんな種類であろうとヒルチャールたちを完膚なきまでに爆撃し尽くすその赫然たる姿は、どの冒険者にとっても頼もしい存在だ。
無論、その最中に迂闊に近寄った冒険者も完膚なきまでに爆撃されるが。
「────じゃあ、私ももう行くね。流石の私でもそろそろ追いつけなくなっちゃう」
「ん、そうだな。ちゃんと本部まで送り届けてくれよ」
その言葉に、アンバーはお馴染みの敬礼のポーズをして応えた。
「...空、あの」
少女は少し恥ずかしげにしてこちらを横目で見る。
「今さっき、私に言ってくれた言葉だけど」
「あ、ああ。それがどうかしたか」
「......私なりに考えてみようと思うよ。まだまだ時間はあるんだし!それに、私には頼れる仲間がたっくさんいるから!」
その仲間とは具体的に誰を指すのか訊ねたかったが、俺の表情を見透かしたアンバーは「ふふふっ」と軽く笑った。
「もちろん、空も頼もしい友達だよ!」
「いや別に、その心配はしてないけど...。でも良かった。もしかしたら、俺のせいで思い詰めさせたんじゃないかって心配で」
「まさか!...嬉しかったよ?」
よく妹やパイモンから『口下手』だと茶化されたものだ。自覚もある。
それでも、ちゃんと俺の思いを伝えられて良かった。
「...と、じゃあね、空!またどこかで!」
「じゃあなー」
と俺が手を振った時には既に、アンバーは翼を広げて飛び立っていた。
...しかし、ヒルチャールとの和解か。
璃月港への道のり、ヒルチャールたちの巣窟を岩越しに見張りながら俺はふと考えた。
今まで彼等との和解を考えたことは一度もなかった。
言い方は悪いが、彼女の甘えた部分もあるだろう。そんなことを今更言ったってどうしようも無いことも分かっている。
それでも、少女は自分自身に素直になっていた。理想の実現が不可能だとしても、それを可能にする為に日々最善の選択をしている。
それに比べ、俺は────。
「Nini zido!Kundala!」
と、そこで奴等の怒号が聞こえ、俺の思考はやむ無く中断させることとなった。
そうだ。俺自身が言った言葉ではないか。
アンバーは、ヒルチャールとの和解を夢見ている。だがそれは俺には関係の無いことだ。
俺は、俺の思うまま、信じたままにやる。
────────妹を、
「...は、馬鹿馬鹿しい」
そう独り言を漏らし、俺は愛剣の柄を握った。
「ねえ、クレーちゃん」
モンド城門の手前で、ふと立ち止まり前を歩いていた少女に声をかける。
「ん?アンバーお姉ちゃん、どうしたの?」
その小さすぎる背中には荷が重すぎる問いかもしれないが、それでも私は一人の騎士の考えを聞いてみたかった。
「クレーちゃんはさ...。ヒルチャールについて、どう思ってる?」
遅れながら、何とも抽象的な物言いだと悔いた。しかしクレーは困惑する様子も見せず、柔らかい声音で答える。
「ひるちゃーる?...んー、クレーにはよく分かんないけど...でもジン団長にお願いされたことはちゃんとやってるよ?」
「...そっかー...」
まあ、予想通りの返答だ。というか誰でもこのように答えるだろう。
私自身でさえ、本当の自分の気持ちに気づけないでいるのに。
「...どうしたの?」
「んん、何でもないよ。ただ─────」
確かに、あの少年の言う通りだ。
周りの評価や意見なんて気にしない、自分の存意を貫くだけ。
「私ももっと、強くならないとなぁって。身体も心も」
「???」
「ごめんごめん、意味わからなかったよね。忘れて」
取り敢えず、今は目の前のことをこなせるようにしよう。
まだ時間はたっぷりあるのだから。
「ちなみにアンバーお姉ちゃん...今さっき、栄誉き...空お兄ちゃんと何してたの?一緒にお昼寝してたの?」
「あっ...ち、違っ!あれは誤解で────────!」