筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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 カラダを大事にしてまた会いましょう


十三、 一週間の終わり

 

 

「……そろそろかしら。」

 

 日差しの強い時間帯。普段なら熟睡しているはずの吸血鬼、レミリア・スカーレットは地下室へ続く扉の前に立っていた。

 

「私が呼ばない限り来るなよ、咲夜。」

 

 メイド服を着た少女は、黙って目を瞑った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 青紫色の髪の吸血鬼がゆっくりと階段を降りる。彼女の従者の能力により底の見えない階段は、まるで無限に続いているかのように思われた。

 

 やがて広い空間に辿り着いた。かつて地下に自らの監禁を申し出たフランドール・スカーレットの部屋である。そこに足を踏み入れた瞬間、妹ではない誰かの血の臭いがより一層濃くなったので、すこぶる眠いというのに気分が高揚した。

 

 

 そして、私はあの赤い妖怪が紅く血塗れで死んでいるのを、しかとこの目で確認したのだった。

 

「ククッ。」

 

 無様に敗れた様子を見ることが出来て更に気分が上がる。私は笑った。報いというものをこの手でしてやれなかったのは非常に残念だったが、どちらにせよ結果は変わらない。

 

 この『()()()()()()』で見た景色。コイツがフランに殺されることは、始めから決まっていたのだから。

 

「……フゥ。」

 

 一息、安心を吐いた。その後周りをきょろきょろと見渡し、我が妹のフランがぐっすり地面で眠っているのを見つけた。

 

 実に数百年ぶりに私達は出会った。彼女は寝ているけれど。

 

 心臓がどくんどくんと鼓動を早める。緊張するのも仕方がないと自分を慰める。いつしか会わないことが当たり前となっていたのだから、どう接すればいいのかも分からず私は変に動揺していた。

 

「フラン」

 

 眠る彼女に近付いて、暖かな金髪を撫でる。そしてゆっくりと確実に自然な動作で、私は彼女を抱きしめた。

 

「フラン。会いたかったわ。こうして貴方を見つけるたびに、私は自分の醜さを感じる。」

 

 彼女が眠っていて良かったと思いながら、私は独り言を呟いた。

 

「貴方が寂しいのかも分からないわ。不甲斐ない姉のことなんて忘れているかも知れない。貴方はずっと苦しんで苦しんで、私は何もしてやれない……」

 

 眠る彼女の頭に手を乗せて、暖かな金髪を撫でる。

 

「ずっと『狂気』を取り除く方法を模索しているの。それは何百年も後になるでしょうけれど……いつか、貴方も食卓に並べられたらって。」

 

 無表情のまま、笑わないまま私は身勝手な言葉を吐き続けた。身勝手は承知の上、こうして彼女に触れられる時間が少しでも長くなることを願い、独り言は独り言のままに。これでいい。後はフランが目を覚ました瞬間、咲夜を呼んで別れを告げる。こうして私達の奇妙な関係は何百年も続いている。

 

 虚しくなどはない。カタチは歪かもしれないけれど、それは何よりも綺麗な宝石にも勝るから。

 

 

 

 

 

「よう」

 

 

 

 

 

 背後から、無機質な声が聞こえた。

 

 背筋がぞくっとした咄嗟に妖力で生成したグングニルを、死体だったはずのそれに全力で投げた。しかしそれは先程まで瀕死だったとは思えない軽々とした動きで、紅の槍をひらりと避けてしまった。グングニルは壁に突き刺さる寸前、露散した。

 

「ククク、怖いな。あんなモノを残りHP四分の一以下の俺に刺そうとするなんて、非道いと思わないか?」

 

「──なぜ生きてる」

 

「非道すぎてイライラしてきた」

 

「なぜ生きてると聞いてるんだッ!!」

 

 息を吹き返した化け物を目の前に、私の感情はぐちゃぐちゃしていた。怒り、焦り、恐怖、困惑、混乱。私は今どんな顔をしているのだろうか。対して化け物は表情を変えず、一体何を考えているのだろうか。

 

 しばらく沈黙が続き、私の息の音だけが血濡れた空間に反響した。そして、重い口を開くといった様子で妖怪は答えた。

 

「……面倒だから詳しくは話さないが、『技』を使わせてもらった。どんな即死の一撃すら俺には効かない。ソイツはどんな攻撃でも──」

 

[ PP 17 / 30 ]

 

「──必ず『こらえる』ことが出来る技だ。お分かりか?レミリア・スカーレット。」

 

「……そんなの!」

 

 (無敵か……?)

 

「ムテキなんて褒められても困る。どんなモノにせよ欠点はあるもんだぜ。」

 

「!?」

 

 まるで心を読んだかのように言葉を発する妖怪に、私は思わず驚愕の反応を示してしまう。底の知れない不気味さを想像するのは、もしやこれが初めてかも知れない。妖怪は話し続けた。

 

「問題は耐え切った後のことだ。残りHPが1になっちまった俺はどんなにか弱い攻撃を受けようがぽっくり逝っちまうだろ?技は連発なんて出来ないし、体力を回復しなければ生きる活路は見出せない。そこで……」

 

 こちらを指差す奴の顔が、笑ったように見えた。

 

「……そこに転がってるフランの血を吸わせてもらった。」

 

「貴様ァッッ!!」

 

 私は激怒して目の前の赤い妖怪に飛びかかった。しかし、奴は私の攻撃を堂々と受け止めたかと思うと、拳を握って思いっきりに殴った。

 

「ガッ……!」

 

 勢いよく転がり壁際に追い詰められた私を、いつの間にか傍にいた妖怪がただ気味の悪い無表情で見下ろしていた。

 

「この際俺の命を狙ってる理由は聞かねえよ。だがな、何故フランに俺を殺させようとした。お前の妹を利用して、何故お前はその手を汚さない?」

 

「………」

 

 しばらく答える義理の無い質問に答えるかどうか迷っていたが、やがて私は口を開いた。

 

「……運命は決まっていた。屈辱的なことに、いくら私がお前を殺す未来を思い浮かべようと運命が変わることはなかった。……私も、この手で八つ裂きにしてやりたかった。今もそうだ」

 

「それでフランに任せたと言うのか?」

 

「……それしか方法は無かったし、フランにとっても良い気分転換になると思った……」

 

「は?」

 

 妖怪は依然として無表情のままだが、その声で明らかに表情が変わったように思えた。

 

「あの子が泣いていることを、お前は知らないのか?」

 

「……!」

 

 それが、フランのことを指しているのだと、一瞬で理解してしまった。

 

「……そう、か。そうかも知れない。フランは私と違って優しい子だから……お前のような奴を殺す時でさえ心を痛めていたかも知れない。そして、今の今まで私はそれを……」

 

「"知らなかった"なんて言うつもりかよ。くだらねぇな。」

 

「……あぁそうだよ!知らなかったんだよ私は!!何百年も何も知らない薄情者のままで!フランに宿る『狂気』のせいでッ!」

 

 感情が、己自身と妖怪への怒りに収束した私の叫びは、気が済むまで続く。

 

「495年の痛みなど、お前には永遠に分かるまい!目を覚まして壊れた幸福たるはずの日々が!泣く泣く孤独の道を選んだフランの感情が!分かるはずがないだろうがッ!お前や私のような妖怪に!」

 

 ビリビリと体を裂くような激しい何かが全身を駆け巡る。目を開き、私は再びグングニルを生成し、声を響かせた。

 

「聞こえているか狂気!お前がいなくなることを私達が何回願ったと思っている!()()()()()()()()()()!今すぐ消え失せろ!フランの中から消え失せろッ!消え失せろ!消え失せろォッ!!」

 

 叫んで叫んで、喉も胸も張り裂けるほどに私の激情は吐き出された。先程から妖怪は一言も話さない。叫びきった私も同様に呼吸音以外は何も口から出さない。

 

 そして辺りは静かになった。

 

 

 息が整った瞬間、私はグングニルの先端を妖怪に向けた。

 

「……殺してやる。お前なんかこの目で運命を見るまでもない。()()()()()()()()()私がこの手で、今度こそお前を──!」

 

 

「お姉さま」

 

 背後から、誰かの声が聞こえてきた。

 

 泣き疲れた後に出すような掠れ声の正体は、私の大事な妹であるフランドール・スカーレットの声だった。

 

「私に、マッシブーンを殺させようとしたの?」

 

「……ええ。」

 

「………」

 

「……貴方には、本当に悪いことをした。……だから!そこで見ていて欲しいの!フラン!今から私が代わりに殺してやるから!」

 

 そう宣言し、両手にありったけの力を込めると、奴が私の方を指差して言った。

 

「……()()を下ろすんだ。やめておいた方がいい。」

 

「あ?これはグングニルといってだな……」

 

「フラン。」

 

 

 私は思わずフランの方を見た。憎き敵を目の前に、振り返ることを躊躇わなかった。

 

 (フラン……?)

 

 憤怒に燃え盛る剣と彼女が、今まで一度たりとも見せたことのないその阿修羅の如き表情を、冷や汗を掻く私へと満遍なく向けていた。

 

「……いい加減にしてよ」

 

 

 

 

「私、許さないからッ!!お姉様!!」

 

 その時だった。

 

 ぽつり、ぽつりと水滴のようなものが空から落ちてきた。

 

 それはやがて段々勢いを増していった。

 

 ここは地下室である。

 

「「……は?」」

 

「えっ……?」

 

 奇しくも妖怪と声が重なり、そしてフランが気の抜けた声を漏らし、その場にいた誰もが天井を見上げたことだろう。この日光を遮る閉鎖空間に雨が降るなんてことが有り得るはずはなく、真っ先に疑うべきは天である。

 

 しかし私は見た。地下室の天井には確かに霧のような暗雲が浮かんでいて、次の瞬間には()()が降ってきたのを。

 

「……ッッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げたのは、恐らくフランも。

 

 吸血鬼は強い。鬼の身体能力に天狗のスピードを兼ね備えると謳われたほどの最強の生物。ただし、その分弱点が多いのだ。例を挙げれば『日光』や『流水』がそうだ。雨は吸血鬼を嫌い、吸血鬼は天を嫌う。

 

 私は歯を食いしばりながら、止めどなく降り注ぐ激痛を浴びた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ずぶ濡れになりながら、未だ『かたくなる』を継続中のガチムチムキムキ筋肉こと俺は酷く困惑していた。空の無い空間から急に雨が降ってきて、しかも何故か吸血鬼姉妹が全身から煙を出して苦しんでいたからだ。

 

「ぐぅッ……フ、フラン!」

 

 吸血鬼姉妹の姉の方であるレミリアが険しい顔で翼を広げたかと思うと、ありったけの力を振り絞るといった感じで後ろに下がり、そのまま妹の方であるフランを覆うようにして庇った。

 

「な……にが……なにが起こっている!」

 

 彼女が言った。

 

 (……そりゃ俺もだ。どうなってやがる?)

 

「──吸血鬼は流水が苦手なのさ、マッシブーン。」

 

「あ、萃香!お前の仕業か。」

 

「今のうちにさっさと逃げな。こうやって私が霧になって、大雨降らせてる間にさ!」

 

 霧となって漂っている萃香は相変わらず酒臭い。しかしそれがかえって安心感を覚えさせる。さて、彼女の言う通り、さっさと逃げなければレミリアによる殺戮祭りが始まるのは確実なのだが、この状況は少し癪に触る。と思っていたところ、レミリアが喋り出した。

 

「待……待てッ!こんな事をやるのはお前かッ!伊吹萃香!どうして、なぜこの妖怪を守るんだ!」

 

「コイツは霊夢の元へ無事に帰ることを約束してるからねぇ!ちょっとぐらいは手伝ってやろうって思ってんのさ!」

 

「その霊夢が()……がッ……!」

 

「お前はいつ会っても五月蝿い(ウルサイ)なぁ全くもう!黙らないともっと勢い強めちゃうよ!」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ……!」

 

「お、お姉さま……!」

 

「うぅぅぅぅぅぅ雨ごときが!クソがッ!!」

 

 心底悔しいと言わんばかりにレミリアが地団駄を踏む。恐ろしいことに地面には亀裂が走った。

 

 彼女達を苦しめる雨はますます酷くなっていく。濡れた髪の下から紅い目を禍々しく光らせて、俺ことを強く睨む彼女の表情には鬼気迫るものがある。

 

「逃げるな……!待てッ!お前は、私が殺さなくちゃいけないんだ!運命を……お前の最期を見せろ!お前の運命、お前の定め……!」

 

 煙が昇り続ける。つい釘付けになってしまって、萃香の逃げろという声も聞こえるだけ、従おうなんて思わない。

 

「……!?」

 

 数滴の雫が彼女の血に触れた刹那、レミリアはとても変な顔をした。不思議でたまらないという顔だった。

 

 

 それも、雨の音と叫びに掻き消えてしまった。

 

「……後か、先か、どちらにせよ!!お前の死ぬ瞬間は!今!ここでなければならないんだぁッッ!!!!」

 

「おいっ!」

 

 

 ばきぃん。

 

「……がぁ……」

 

 宝石が脆く壊れるような、目が破裂する音が聞こえた。少女の両目から血の涙が溢れ出し、やがて動かなくなった。

 

 

 

 

 雨が降っている。

 

 (………)

 

 

 雨の音しか聞こえない。

 

 (……さむい……。)

 

 

 当然の報いと言うべきか。

 

 盲目の果てに、傘を指してくれる者はいなかった。

 

 

 

 

「……?」

 

 突然、雨が止んだと思った。

 

 雨の音は止んでいない。何かが矛盾しているとも思った。そして再び目が再生し、見えないものが見えるようになった時。

 

 

 あの妖怪が、私を雨から守っていた。

 

「──お姉さま!大丈夫!?お姉さまっ!!」

 

「おいっ!もう雨降らせるの止めろ馬鹿!萃香!」

 

「悪いね!これ、全部出し切るまでは止められないの!」

 

「マジかよ!」

 

 フランを覆う私を、妖怪が大きな身体で覆っていた。妖怪の真っ黒な瞳と針のような口が私を見下ろしている。萃香が降らせている雨は全て彼の背中の上で流れ落ちているようだった。

 

「……何庇ってんのよ。殺すわよ。」

 

「やってみろよ。お前もフランももう濡れたくないだろ。な、フラン。フラン?」

 

「……うん。」

 

 うずくまっていたフランが返事をして、私はどうも返事が出来なかった。

 

 とても迷っていた。冷酷非道で、殺戮を何とも思わない奴だと思っていたのに、ソイツに庇われたり。運命を見過ぎたことで見えた『文字』のことはよく分からないし。

 

 この暖かさも、私にはよく分からなかった。

 

「………」

 

「痛いぞ。」

 

 私は妖怪の胸筋を殴った。そうしたら、妖怪は私から離れてしまった。

 

 雨はとっくに上がっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……お前、名前は?」

 

 ずぶ濡れの彼女がそう言う。そういえばまだ彼女には自己紹介を済ませていなかったな、と思い、俺はマッスルポーズをして答えた。

 

「俺の名前はマッシブーン!紅魔館の元メイドだぜ、レミリア。」

 

「不本意だけどお嬢様と呼びなさい。……お前はまだ辞めてないわよ。私からの許可が出てない。」

 

「え?」

 

「咲夜ー!さくやー!」

 

「お呼びでしょうかレミリアさ……大丈夫ですか?」

 

 いつものように一瞬にして現れた咲夜が、真顔のままレミリアに向けて驚きの声を上げた。そして俺の方をちらっと見て、今度はその表情を明るいものに変えた。

 

「後でお風呂を沸かして頂戴。凄く疲れたわ。」

 

「……はい!」

 

 咲夜が嬉しそうに返事をすると、レミリアは非常に複雑な気持ちを顔に表していた。

 

「じゃあ、マッシブーン。私からお前へ直々に最後の命令を下すわ。」

 

 彼女が濡れた髪をかき上げ、おでこを露出させる。じとりとした赤色の目で俺を見て、それから黙った。後ろから座っていたフランがひょこりと顔を出したりして、俺と彼女の様子を伺っている姿に少し癒された。

 

「お前には退職してもらう。それで、少ないけれど一円札を数枚渡してから追い出すわ。」

 

「いや、金より血が……」

 

「そして一言、私から。」

 

「……おう。」

 

 深みのある声で彼女は言う。何を言い出すのかと思って俺が息を止めて待っていると、いつまでも何も話さない。彼女の髪からぽたぽたと水滴が落ちたり、時折唇の上からその牙をちらりと見せたり、そうして時が過ぎた。

 

 そして、俺を軽く睨みながら、

 

 とうとうその言葉を俺にぶつけた。

 

 

「二度と紅魔館に来るな!バーーーカ!!」

 

「………」

 

 

 

 

「……それじゃ、さよなら。」

 

「あばよ!吸血鬼のクソガキ!」

 

 俺はサムズアップをした。

 

 彼女は最後に柔らかな表情をしていたが、俺がクソガキと言った瞬間にまた憤怒を露わにした。フランの静止の言葉も聞かずに紅い槍のような物を生成し、それをあろうことか俺に超スピードで投げつけた。

 

 それがノーガードの俺に刺さる瞬間、咲夜がにこりと笑った気がした。

 

 

 そして、俺は紅魔館の門の前にいた。

 

「……ん?あれっ!?生きてたんですかマッシブーン!?」

 

「レミリアに許してもらったんだ。今度は客としてまた来るぜ、美鈴。」

 

「はい!待ってますよー!」

 

 遠くになってしまった紅魔館をバックに、門番の美鈴が笑顔で手を振っている。俺も手を振って、森の中に消えていった。

 

 

「お前の命令なんか守らねーよ、レミリア。」

 

 最後にそう呟いて、世話になった場所を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 こうして僅か一週間の奇妙な紅魔館生活はクビという形で終わりを迎えた。しかしそれはそれとして、一つだけ疑問に思っていることがある。それは何故レミリアが俺の命を狙っていたか、その理由だ。

 

「………」

 

 確か彼女は「霊夢に手を出す前に」とほざいていた。そのような細かいことを覚えていた自分に驚きだったが。

 

 考えるに、彼女は俺が博麗神社にこれから住むということを知っていたのだと思う。狼煙を合図に、俺が博麗霊夢の元で暮らすようになることを知っていたのだと思う。

 

 俺の考えでは、彼女はそれが気に入らなかったのだ。嫉妬と言うべきか、独占欲と言うべきか、もしくは過保護なのかも知れない。

 

「……もしそうだとしたら厄介だな。吸血鬼だし夜とかに襲われそうだ。」

 

 何にせよ、それだけのことで俺を殺すために奮闘されては、俺の命がいくらあっても足りない。ウルトラジャングルと比べれば赤子のようだが、この幻想郷という場所は想像以上に危険な世界のようだ。

 

 最もそんなことは霊夢に襲われた時点で分かってはいたけれども。

 

「それにしても、血が欲しかったんだけどなぁ俺は。」

 

 そう呟いた頃には、俺は森を抜けて博麗神社の前に立っていた。

 

 雨が降っている。

 

 手元には、大量の紙幣が入った濡れ気味の風呂敷が抱えられていた。そもそも俺が紅魔館で働こうとした当初の目的は己の乾いた体に不足気味な血を分けてもらうことであり、血が欲しいから働いたというのにこれでは骨折り損である。

 

 骨があったら何百本も折れていたような状況にも遭ったし、貴重な経験すら出来なかったといえば噓になる。そして妖精メイドたちと友達になったり、咲夜や美鈴やパチュリーなどと一緒に話したり、そういった経験はなかなか楽しかった。

 

 気掛かりなのはフランだが、狂気もいつの間にかいなくなったようだし何とか皆とやっていけるだろう。レミリアが意外と姉妹愛に溢れていたことも分かったし、フランを庇ったところなんて思わず少し感動してしまった。

 

 とにかく、今日は心から満足して床に着けるような、そういう一週間ではあった。

 

「ただいま霊夢……おーい。」

 

「……ん~……おかえり。外は雨で修業もできないから……ちょっと眠ってたのよ。悪い?」

 

「別に。」

 

 久しぶりに再会した霊夢は、暖かそうに布団の中で蹲っていた。頭の上に付いていたはずの大きなリボンが枕元に置いてあり、珍しい姿を見れたようで少しラッキーに思えた。彼女はのっそりと起き上がり、目を瞑って背伸びをした。

 

「そうだ!なにか土産は無いの?」

 

「みやげバナシなら沢山。後はこの風呂敷とか。」

 

 俺は手に持っていた空っぽの風呂敷を彼女に見せた。彼女は何か俺に金塊百万㌧の期待でもしていたのか、風呂敷を見る前と見た後で表情が露骨にしょぼくれた。

 

「まったく……筋肉だけが取り柄の穀潰しだわ。あっちでは凄い働きぶりだったんでしょ?今日の晩御飯はあんたが作ってよ。」

 

「いいけどさ……俺ちょっと寝ていいか。最近は早朝五時起きだったんでな……」

 

「はいはい。布団もう一個敷くの面倒だからとりあえず私ので寝てなさい。私は賽銭箱見てくるわ。」

 

「おう……」

 

 彼女に甘えて、昼間から遠慮なく爆睡をすることにした。毛布をめくるとまだ熱が篭っている。お構いなしに潜れば、緊張の糸が切れたのか凄まじく強大な睡魔が俺を襲った。

 

 意識がふわふわとする中、霊夢がどたどたと音を立てて帰ってきた。

 

「……ちょっとマッシブーン!!緊急事態よ!!さ、賽銭箱にお金がめちゃくちゃ入ってるわよ!!」

 

「うーん……そりゃ凄いな、うん。ねむい。」

 

 さっき俺が賽銭箱へ無造作に突っ込んだ一円札を、おそらく彼女が発見したのだろう。大慌てといった感じの様子が見なくても分かる。それよりも、俺は今猛烈に眠い。眠いのだ。

 

「ねえったら!!マッシブーン!!」

 

「うーん……」

 

 霊夢との温度差が、繰り返す大雨と日光のように。すっかり晴れ渡った晴天が、ぽかぽかとした陽気で俺の眠気を誘い続けた。

 

 




紅魔館編 6話/8話 完?

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!

そして、誠に勝手ながら作者の身分の都合上、またしばらく月単位で執筆しない期間を空けたいと思います。本当に申し訳ございません。ここまで読んだ感想等、お待ちしております。疑問に思った質問も書いてくだされば出来る範囲で必ず答えたいと思っております。
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