博麗神社に帰ってきた日の午後。天気は雨で、職から解放されし無敵・無敗・無職の俺はだらだらと平穏を楽しんでいた。
先程俺を助けてくれた萃香もいつの間にか帰ってきていて、俺の隣でだらだら寝転んでいる。しきりに暇だ暇だとぶつぶつ五月蠅く鳴いているが、多分俺と戦いたいのだろう。日曜日は外に出たくない父親の気持ちが分かったような、分からないような。なので俺は、やはり萃香を無視してだらだらと寝ていた。
いつの間にか既に夜になっていたようだ。確か晩御飯を作る約束をしていた俺だったが、ジャングル育ちの料理は焼くか揚げるかしか無かったので却下された。
赤飯と美味そうな煮物を二人分、味噌汁だけは三人分を並べた霊夢が、妙ににこにこと笑っている。萃香は気味が悪そうにしていたが、俺にはちゃんと理由が分かっていた。俺の帰還がそんなに嬉しかったのか。友よ!
「違うわよ!お賽銭よ!どっかのすんばらしい参拝客さまが大量の一円札を!入れてくれてたのよ!いつの間にか!」
「んだよ。そっちかよ。」
「何よ。異世界の野郎はカネのありがたみを知らないのね。全く。」
感謝しろよな、と思いつつ、俺は味噌汁をずぞぞと啜った。美味い。ほっこり安心する味だ。何となく退職金をありったけ賽銭箱にぶち込んだ俺だったが、まぁ、この味噌汁を飲める権利とここに住める権利を買ったぐらいに思っておこう。
「んで?だーれがそんな気狂いみたいなことしたのさ。人間かな?木っ端妖怪にひっそり苦しめられてる奴がいたり?」
「……誰かしらね。分かる?マッシブーン。」
「さあな?ご馳走様だ。味噌汁美味かったぜ。」
パンッ、と俺は手と手を合わせた。何か錬成できそうな気がしたが、なにもできなかった。
「カネのありがたみが分からないから……」
そう呟くのが聞こえると、霊夢は箸を止めて、自分の味噌汁のお椀の中を見つめていた。萃香は止まらずにがつがつと赤飯を口に放り込んでいる。俺は少し立ち止まっていたが、すぐに縁側の方を振り向き、のしのしと歩いた。
「だから、あんなことしたんじゃない?マッシブーン。」
「さあな」
小さく聞こえた声には、小さくサムズアップをして答えた。
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「やっぱり来たか。レミリア。」
「涼しい夜ね。マッシブーン。」
日が暮れた深夜のこと。突如として空を飛んで来たレミリアが、俺の目の前に現れた。
「殺るならあっちでやろうぜ。ここは霊夢に迷惑が掛かるからな。」
「何を勘違いしてるのか知らないけれど、そう構えないで頂戴。貴方を殺しに来た訳じゃないの。」
「えぇ?せっかくカッコイイ台詞を吐けたのに。」
出鼻をくじかれてショックを受けている俺に、レミリアは呆れた視線を向けた。
「じゃあ何の用事で来たんだよ。」
「……非礼を詫びに来たの。それと……」
彼女はそう言って少し俯き、そして頭を上げた。
「フランのこと、貴方の運命のこと。話をしたいの。」
爛々と光る紅い目が、暗闇に輝いていた。