筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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追記 人間に変身する方法に結界を用いる→妖力を用いるに変更
   藍の顔を不満→何とも言えないに変更。



☆十五、 マッシブーンというヒト

 

「ちょっと待ってくれ!俺は人間と仲良くしたいんだあああ!!」

 

 彼の抵抗も虚しく、九本の尾を持つ狐の少女が凄まじい怪力でマッシブーンを連れ去った。その場に残った子供は、突然道の真ん中に放置されておろおろとしている。

 

「か、神様が連れていかれちゃった……。どうしよう……」

 

 話しかける人間は誰もいない。人々はみな、『連行』されていたと思わしき子供を気にかける様子もなく、ただ周りでがやがやと先刻の妖怪らしき化物について話し合っているだけだった。

 

 少年にだけ見えるものがある。怒る魂の揺らぎや、恐怖する魂のざわめき。それらが重なって重なって、辺りが埋め尽くされる感覚。誰にも理解されない、おぞましい感覚。

 

「うっ……うう!」

 

 とうとう蹲ってしまった子供の目の前に、一人の女性がやって来た。

 

「──大丈夫か。泣きっ面のガキ。」

 

「あっ……。かまいたち、さん。」

 

 唯一、ただ一人。白い髪の妖怪は、救いの手を差し伸べた。

 

 

 

「ぐわー!」

 

 草むらに無造作に転がされた俺は、わざとらしく声を上げた。人里出禁ならまだしも、これから牢獄にぶち込まれるとか殺されるとかなら俺は全力で抵抗しなければならない。霊夢の忠告に従っておけばよかったと、今更後悔をした。

 

「そこで寝てろ。博麗霊夢を呼んでくる。」

 

(ん?)

 

 しかし後悔は束の間だった。もしやこの狐の擬人化のような少女は、あえて無理矢理外に出すことで俺を救ってくれたのではあるまいかと、そんな考えが思い浮かんだのだ。博麗霊夢(保護者)を呼ぶと言ってるし、多分俺は助かるのだろう。だから、感謝の意を述べた。

 

「いやー助かったぜ。ナイス連れ去りだ、ありがとな!」

 

「何を言っている?変な動きをしてみろ。すぐに燃やしてやるぞ。」

 

「はぁ!?」

 

 驚いて彼女を見ると、冬の寒さによく似た最高に冷たい目をしていた。彼女は白くてぶかぶかな袖と袖を合わせて、俺に尻尾の先をいくつか向けている。なんとなくそれが大変危険な攻撃の行使の合図だと分かったので、俺は地べたに寝ながら誤解を解こうとした。

 

「待った。俺は本当に人間と仲良くしたいんだ!」

 

「嘘だな。その証拠にお前の胸には博麗の巫女の霊力が付与されている。何をしでかしたかは知らないが、要注意な妖怪なんだろう。お前。」

 

「コイツは信頼されてる証拠だぜ!連絡用の便利な……」

 

「逆だ。信頼されてないからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

(……あ?)

 

 ”何を言っているんだ”という言葉が、喉でつっかえて吐き出せなかった。彼女の告げたことは理解しがたいものだった。

 

「その霊力を遠隔で操作されれば、お前の胸の内部はずたずたにされる。命を直接触れられているようなものだ。巫女の匙加減で、お前の生死は思い通り。」

 

 俺の腹筋にぺたぺたとお札のようなものを貼ったあと、彼女は俺に背を向けた。去り際に一言呟いて、当たり前のように飛んで行ってしまった。

 

「つまり、騙されていたということだよ。お前は。」

 

 風が慰めもせずに強く吹いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 そして。

 

「この馬鹿ッッッ!!!!」

 

「いてぇ!」

 

「人里に行くなって言ったわよね!人里に行くなって言ったわよね!?言ったでしょう!耳無いのかしら耳無いわね糞馬鹿筋肉お化け!」

 

「すげえ名前!」

 

 げしげしと、俺は霊夢に容赦無く蹴られていた。こうなるのも仕方がないとは思うのだが、かなり痛いので勘弁して欲しい。そうして人間が倍以上の背丈の怪物を攻撃している様子が不思議らしく、先程の狐の擬人化のような少女が目をまんまるにして尋ねた。

 

「……えー、霊夢。コイツは極悪非道な妖怪ではないのか?この赤いのは。」

 

「は?」

 

「いや、様子が……普段のお前と全く違うから……。まるで、仲が良さそうに見えるの……だが。」

 

 歯切れを悪そうにして彼女は言う。すると霊夢はやっと道端に転がっているものを蹴る遊びをやめてから、少し沈黙した後に口を開いた。

 

「そもそもコイツ妖怪じゃないわよ。」

 

「はぁ。はっ?なんだと!?」

 

「異世界から来たの!だから色々と知らない無知な馬鹿なの!分かった?」

 

「……いや、待て待て……それなら博麗大結界が反応するはずなのに……どういうことだ……?やはり私では役不足?やはり私は駄目な奴?やはり紫様でないと……」

 

 唐突に、狐の擬人化のような少女がぶつぶつと独り言を小声で喋り始めた。その間に俺が立ってお札を外していると、彼女は腕を組んで俺を睨んだ。

 

「……本当に妖怪じゃないのか。その札が全く効いていないとはな。確かに妖力も全く無いようだし……信じるに値すると言える。」

 

「おう。改めて俺の名前はマッシブーン!人間と仲良くなるのが夢だぜ!よろしくな!」

 

 俺は威勢良くサムズアップ(※親指を立てる行為。)をした。

 

「……自己紹介の前に質問だ。何故人里に降り立った?子供を抱えていた理由も言え。」

 

「博麗神社にあのガキが迷い込んで、俺はただ送ってやっただけだぜ。どうだ親切だろう?」

 

「んん……まぁ親切だが。」

 

 彼女は難しい顔をしながら、更に深く考え事をしているようだった。が、やがてため息をついて俺をまっすぐに見た。

 

「──誤解してすまなかった。私の名前は八雲藍。この冬の時期だけ、紫様に代わって幻想郷の管理をしている。世間知らずなお前に一つ、幻想郷の決まり事を教えてあげよう。『妖怪は人間の姿でなければ人里に入れない』。」

 

「貴様……手なんか合わせやがって、いただきますか?」

 

「違う。よく見ておけよ。」

 

 八雲藍と名乗った少女からぽわんと気の抜ける音がして、手で覆うのをやめると彼女は煙に包まれている。

 

 そして風が吹き、煙が晴れるとそこには九本の尾を持った金色の巨大な狐がいた。

 

「どうだ。これが本来の私の姿だ。しかしこの妖怪の見た目で人里に入ってしまうと、最悪すぐにでも近くにいる者によって殺されてしまう。そういう決まりだ。」

 

「はぁ!?じゃあ変身出来ない俺はやっぱり人里出禁じゃねえか!やだやだやだ!」

 

「駄々をこねない。心配しなくても天狗に新聞で『コイツは悪そうで悪い奴じゃありません』って書いてもらえれば行けるわよ。多分。」

 

「やだよもういっそ『突如現れた怪物!正体は人間!?』とか書いてもらえよぉぉぉぉ」

 

「そんなの誰が信じるのよッ!」

 

 俺が地べたでじたばたすると地面が揺れた。霊夢との議論も強制的に彼女の方から打ち切られ、神社に無理やり運ばれる数秒前。救いの手は差し伸べられた。

 

「行けるぞ?今から人里に。」

 

「え?」

 

「私の妖力を使えばな。」

 

 金色の狐が、その時初めて笑顔を見せた。

 

 

 

「よーし、行くか!まずはあの店!」

 

「良いな。団子は私も好きだ。」

 

 触覚の無い黒髪に、真っ白な歯を並べた口。細い眉の下にあるぱっちりとした黒い瞳。着慣れていない浴衣は違和感MAX。だが、何もかもが笑みを浮かばせる。

 

 人間になった俺がついに人里を歩く。それは同時に、大きな夢が叶った瞬間でもあった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 桃色、白色、緑色。丸っこいもちもち食感がたまらない三色団子。

 

「うんめぇ!」

 

「泣くほどか?」

 

 昼頃の定食。玄米に、肉と野菜を甘辛く炒めた物。豚汁をずずずっと飲み干す音で、俺は生きていることを実感した。

 

「うめえ!!」

 

「泣くほどか!?」

 

 仕上げにうどん。言うこと無し。つるつる入ってくる麺とあったかい出汁が身に染みる。

 

「うまーーーーい!!」

 

「……美味い。」

 

 ちなみに出費は全て八雲藍の懐からである。とはいえ彼女もきつねうどんを美味しそうに食べていたので、満更でも無いのだろうと思い込むことにした。

 

「どこに行っても泣くし、食べ物ばかりだなお前は?」

 

「いつだってマッシブーンの瞳は常に乾いているからな。だから今のうちに泣いておくべきだ。」

 

「ふむ。」

 

「そしてあの口じゃあ固形物が全く食えなかった!生まれてからずっと俺は液体しか飲めてなかったんだぜ?酷い話だろ!」

 

「……それは普通に同情するよ。油揚げが食えない人生なんて糞だからな。」

 

「おお。キツネ要素。」

 

 彼女はちゃんと狐だった。

 

 腹を膨らました俺たちは、昼過ぎの人里を歩きながら周りを観察していた。にぎやかな市場には笑っている人間がたくさんいた。その活気の中に、神社に来たあの小さな男の子は見当たらなかった。

 

 やがて木造りの掲示板の前に立った。数ある張り紙の中でも一際目立っていたのが、赤い文字で大きく書かれた『られるべからず』という文字である。

 

「これは?」

 

「近頃人里の間で流行っている公文書。お前が破ったものだ。」

 

「あ?何も破ってないが?」

 

「人間が言うには『ら』が乱暴、『れ』が連行、『る』が類焼。これらの三つに対して特に敏感に、行った者を罰したり自ら行わないようにしていこうという意味が込められているらしい。」

 

「……あぁ。それで、『(連行)』を図っていると勘違いされた俺が迫害の()()になったと。」

 

「そういうことだ。」

 

 怖い見た目のヤツが、怖いことをしてそうだと判断されるのは決して不思議ではない。しかし質問もせずに誘拐犯だと勝手に断定されてはこちらも困る。全く、人間の盲目さは簡単に刃を突きつけてくるものだ、と静かに思った。

 

「だがな、こうして人の姿をしているだけで、お前も人々も安息を得ることができる。これからは一生その姿でいるんだな、ははは。」

 

「やだよ。()()()が怖いしな。」

 

 俺は顔をしかめて見せた。すると、藍が対抗するように顔を真顔に戻してしまった。少し前には笑顔すら見せてくれたのに、国が傾きそうな美人の無表情はまるで先程と別人のようだった。

 

「……言っておくが、私はまだお前を認めていない。だから、しばらくはお前を人間のままにしておくし、毎日観察することにする。」

 

「いやんヘンタイ」

 

「黙れ。」

 

 彼女の目がより一層冷たいものになる。それは初めて会った時の、生か死かを突きつけたあの目とよく似ていた。

 

「霊夢も心の奥底ではお前を信じていないはずだ。その胸の霊力が取れぬ限りは。……そう思っておけ、マッシブーン。」

 

「………」

 

「あまり落ち込むなよ。少なくとも今日のお前は悪い奴には見えなかったし、なかなかに格好の良──」

 

「おっ、アイツじゃん!おーい」

 

 その時、偶然にも神社で見かけたあの男の子を見つけたので、俺はダッシュでそこに駆け寄った。

 

 ちらりと後ろを見ると、藍が何とも言えない顔でこちらを見ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あっ。神様!無事でしたか!」

 

「え?」

 

「さっきは庇えずに申し訳ございませんでした!その……勇気が出なくて。あと神様なら大丈夫と思ってしまって!」

 

「おう感動の再会だな。それでよ、今の俺どんな風に見える?」

 

「……先程と、変わらないように感じます。」

 

「嘘だろオイ」

 

 俺は目の前の子供を心底信じられないという目で見てみた。なんということだろう。二つ、赤くてムキムキで勇ましく格好の良いポケモンと、黒い髪のヒョロガリを並べられて、一体誰が「どっちも同じです」などと言うのだろう。きっとこの世界に一人、コイツしかいないだろうと思った。

 

「もっと、こう……驚いて欲しかったんだぜ俺は?期待してたのによ。一体その目には何が見えてんだよ、おい。おい。おい。あぁ盲目って言ってたな。おい。」

 

「いふぁいです!ごめんははい!」

 

 彼のほっぺを両手で何回かつねったあと、無造作に離してあげた。少年の赤みのかかった頬は柔らかく温かく、何故か負けたような気分になった。このマッシブーンは唯一、若さには負ける。あと食欲。あと霊夢。

 

「あう……僕は、えぇと、普通のモノを見れないかわりに『魂が見える』らしくて。生き物は見えるしモノも見えるので、実はあんまり不便じゃないんです。」

 

 彼の説明を聞き、俺は顎に手を当てて感心した。その一方で、この少年が神社にまで辿り着けた理由を、俺なりの質問で当ててみようと考えた。

 

「ここにあるイス見える?」

 

「はい!ぼんやりと見えます!」

 

「この石ころ見える?」

 

「……???」

 

「ふむ。『魂を込めて作られたモノ』も見えるのか。」

 

 良い職人の造った物には魂が宿ると聞く。だからこの椅子が見えるし、行き先にまで行けたし、博麗神社の賽銭箱も見えたのだろう。謎が全て解決したように思えて、すっきりとした。

 

「──なかなか勘が良いじゃねぇか、人間。」

 

「うわっ!誰だお前!」

 

 冷たい風が吹き、気付けば椅子にふしだらな格好で座っている女がいた。彼女は白い短髪を下へ下へと重力に従わせ、目線は空を向き、薄い水色の着物を着ていた。

 

「かまいたちさん!仕事は?」

 

「休憩中だ。暇だしお前の寝ぼけた顔を見に来た。」

 

「そうなんですか?」

 

 一見人間にしか見えない彼女だが、ただ者ではない。恐らくこれが藍の言っていた、人間の姿をした妖怪なのだろう。とりあえず挨拶をしてみた。

 

「かまいたち……良い名前だ。俺はマッシブーン!風が大っ嫌い!よろしくな!」

 

「いいか、よく聞け。」

 

 俺はこれでもかというほど耳を澄ました。

 

「燃えてる建物があるとするだろ。そこには大事な物がある。お前は何とかしてそれを回収したい。どうする、お前は火の燃える先に向かうか?」

 

「おう。行く。」

 

「糞が。虚勢は誰でも張れる。そこに何があったって行かないんだよ、お前らは。何故かって、お前らは貧弱で醜くて弱っちい生き物だからだ。」

 

 雲行きが怪しくなってきたと感じながらも、俺は耳を澄まし続けた。

 

「一方、妖怪はどうだ。私は風で火を吹き飛ばすし、八雲の賢者ならスキマとやらで楽々。つまりだな、お前ら人間は妖怪より下ってことだ。」

 

 とうとう言いやがったと思った反面、俺は妙にワクワクしていた。彼女は俺が人間だという前提で話しているが、残念ながら俺は筋肉隆々としたチャーミング・マッシブーンである。

 

「そういう訳でさっさと去れ。お前と話すくらいなら、この座り心地の悪い椅子と話してた方がマシだ。」

 

「くっくっくっくっくっ。」

 

「なに笑ってんだ。」

 

「そりゃ笑っちまうに決まってるぜ!かまいたち!何を隠そう俺は妖怪でなく……」

 

「神様なんだよ!かまいたちさん!」

 

「あっ」

 

「は?」

 

 どうやら、どうにも、話が拗れそうだ。かまいたちと呼ばれた妖怪は目元にしわを寄せて、俺を強く睨んだ。

 

 




後から付け足すかも知れません。もしかして編集する度に通知が届くのですかね。だとしたら本当に申し訳ございません。
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