筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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いつも読んでくださりありがとうございます。ほぼ半年ぶりでごめんなさい。年内最後の投稿です。よいお年をお迎えください。


十六、 二匹ママ宣言

 

 白い髪を垂らした少女は、何百年も前から生きていた。

 

 突如としてマッシブーンの前に現れた、風の妖怪。名をかまいたちという。漢字に直してみると『鎌鼬(かまいたち)』。外見は割と幼く、成人をしたばかりの女性の姿に近い。なお、本人はちっともそれを気に入っていない。

 

 (萃香)に勝とうとして死にかけたこともある。復讐を果たす為に激闘を繰り広げたこともある。鎌鼬はそんな乱世の時代から生き延びてきたからこそ、目の前の男が"かみさま"などでないことを持ち前の経験から十二分に分かっていた。

 

 (……だが、コイツ。全く意識していなかったが、()()の妖力を全身に纏っている……)

 

 見つけたのは妖怪の頂点(さいきょう)の痕跡。かつて三大妖怪の一角と謳われていた、白面金毛九尾の狐(八雲藍)によるマーキング。鎌鼬には男が九尾に目を付けられているワケがまるで分からなかったが、とにかく、自身を神などと偽るその醜さを、子供の目の前で露呈させたいと強く思った。

 

「……そうだぁ!」

 

「………」

 

 (げっ怪しまれているぜ)

 

 一方、マッシブーンは僅かに焦っていた。鎌鼬は自称神の男を強く睨みながら、ずんずんと目の前に近付いてくる。彼女が実に熱意のこもった疑念をマッシブーンに抱いていることは誰がどう見ても一目瞭然であるが、ここでマッシブーンが素直に認めてしまうと少年を悲しませてしまうだろう。

 

 (辛い、辛いが、しかし!少年の淡い夢と俺の命を守るためには、嘘を貫き通さなきゃならねぇ!)

 

 マッシブーンは全てを騙すことを決意した。とはいえ、その選択は清廉潔白な意思からではない。もしここで真実を話してしまうと、それが風の噂でどこぞの神社の巫女に伝わり、神を偽っていることがバレて、軽く()()()殺されかけてしまうだろう。動機はそういった懸念からだった。

 

 (咲夜との会話を思い出せ俺!信頼されて欲しいなら態度!)

 

 マッシブーンは深く息を吸った。紅魔館でのあの素晴らしい日々を思い出しながら、培ったノウハウを発揮するべく、やっぱ俺殺されかけたの納得してねえわと思い、しいんとした空気を切り裂くように、ついにマッシブーンは言った。

 

「ブレイモノメワレハカミダゾ!」

 

 その言葉の羅列はまるで呪文であった。マッシブーンの口があまりにも強大な嘘を吐くことに思わず拒否反応を示し、何故か早口のカタコト音頭になってしまったことも呪文らしさを増している。

 

 思わず本物の神が空気を読んで火の一つでも出してあげそうな、呪文たる呪文。だが、燃え盛る炎よりも先に、鎌鼬の手が出た。

 

「おらっっ!!」

 

「あふん」

 

 マッシブーンは殴られた。その瞬間、少年の不思議そうな顔と、鎌鼬の冷酷な視線がマッシブーンの瞳に映る。何とか間一髪で受け止められたものの、マッシブーンは威力を殺せずにずざざっと土煙を上げながら後退りをした。

 

 (人間の身体じゃ反応出来てもイテぇな……敗北感だぜ)

 

「お前、傾国(けいこく)の九尾と関係があるな?」

 

「危ねぇな!はぁ?」

 

「だからかつて"傾国の美女"と呼ばれていた白面金毛九尾の狐と何か関係があるかどうか聞いてんだろぁオイ!」

 

「うるせぇ!殴ったことを謝れ白髪!」

 

「白髪?今私に向かって罵倒したのか嘘吐きで脆弱で頭のおかしい人間風情が!」

 

「言い過ぎだろ」

 

 後退りしたはずのマッシブーンにゼロ距離で威嚇する鎌鼬が、もう次の拳を握っている。その異常な人間への憎しみはまるで狂気であった。理不尽なDV彼氏に詰められている気持ちになりながらも、マッシブーンははきはきと説明をする。

 

「ちょっと待った。えー、九尾ってのはあれか、ほら、藍のことか!いやいや何てことは無いぜ、その九尾に頼んでから俺は今人間に化けて──」

 

警告(けいこく)だ、嘘吐きの屑。」

 

 いつの間にかマッシブーンの目の前には、先程から狼狽えていたあの盲目の子供がいた。そして鎌鼬がノーモーションで声を荒げる。

 

「これ以上コイツに自分が神などと嘘をt」

 

「ババァルクウウウウウウウウウ!!」

 

 たまらずマッシブーンは大声を上げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「──はぁ!?」

 

 よう。俺はマッシブーン。ちなみに今のは鎌鼬の声だ。先程声を出しすぎたせいか、何だか首の中が痛い。全く、人間の体は脆くて厄介だとは、俺も鎌鼬とやらの意見に同意する。

 

 現在、はてなマークを頭の上に出していた盲目の少年はひとまず家に帰らせ、俺たちは平和な話し合いをしていた。鎌鼬の少女(?)は片手を俺の首に掛け、俺を見下ろしている。平和とは何ぞや。

 

「お前、気まぐれであのガキに嘘をついただと!?」

 

「すまんすまん悪かったすまん」

 

 俺は誠意を込めて必死に謝罪したが、彼女は今にも俺を殴らんとわなわなと震えている。

 

 それもそうだろう。彼女は俺に理由を聞く際に、"まさか気まぐれだなんて言わねぇよな"とわざわざご丁寧に前フリを入れたのだ。それが的中したものだから、彼女はウルトラジャングルの溶岩ぐらいには怒りをぐつぐつさせていた。

 

「ちっ……人間ってやっぱり糞だな。弱いくせに虚勢を張るし卑怯だしすぐ嘘をつくし……」

 

 (ごめん全人類)

 

「おい!何をやっている!」

 

 俺のせいで全人類にあらぬレッテルが貼られた所で、複数の人間が俺たちの元へと駆けつけて来た。どうやら暴行事件のように思われたようで、通報されたらしい。鎌鼬は素直に俺から離れ、俺と一緒に事情をしばらく話し、呆気なく解放された。

 

 自警団と名乗った彼らが去った後、すぐに鎌鼬が鋭い目で俺を睨んだ。当然であるが、彼女の腹の虫はまだ治まっていなかった。そしてそのワケに対して俺は非常に反省し、鎌鼬への印象を改めることになる。

 

「あのガキは一人で暮らしてんだ。母親はおろか父親までもがいない。両親共々とっくに死んでるに決まってるだろ。」

 

「……おう。」

 

「だのにお前は、"願い事を叶える"だなんて気安く言いやがって……アイツにとってそれがどれだけ残酷な嘘と思ってやがるんだ?糞野郎。」

 

「……!」

 

 俺はその声に何も言えなかった。

 

「去れ!間違ってもガキに会いに行こうだなんて思うなよ。」

 

「………」

 

「はぁ。」

 

 鎌鼬が大きなため息を吐く。矛先は俺へと向けたまま、彼女は言った。

 

「さっさと去れ!もしもお前が救いようの無い阿呆で、ここを去らないのなら殺す!」

 

「……すまなかった!」

 

 俺は一目散に走った。

 

 とにかく走った。いつもより体が上手く動かないけれど、走り続けた。周りの景色がぐにゃりとぼやけている。途中で人にぶつかりそうになった。目も上手く見えていないと俺は思った。

 

 (馬鹿だ……俺は馬鹿だ……!)

 

 鎌鼬の「ふん」という声が小さく聞こえた瞬間、俺の心が一層重みを増した。少年への罪悪感や、彼女に心底失望された気持ちやら、それらが俺の胸に染みついて取れない。人間の身体になってから、何だか気持ちが安定しない。引っ張られている、というヤツなのだろうか。

 

「おい待て待て待て!」

 

 後ろから誰かの声が聞こえる。けれど構わず俺は走り続ける。凄まじい速さで足音が近付き、追いつかれそうになったので、更に腕も足も動かした。

 

「どこ行ってんだぁ!おい!」

 

 耳をつん裂くような大声は鎌鼬の声である。何故か彼女が走っている俺を追いかけているのだ。抵抗することも出来ず、彼女の手が俺の肩を掴んだが、既に俺は目的地に辿り着いたので潔く止まった。

 

 少年の小屋である。先程鎌鼬と一緒に彼を見送ったので場所は分かっていた。

 

「頭おかしいのか……!会いに行くなって言ったよな!」

 

「はぁっはぁっ"会いに行くな"とは言ってないぞ!はぁっ」

 

「揚げ足取り糞人間……!」

 

「あっ。神さまとかまいたちさん!」

 

「「」」

 

 入り口に掛かっていた簾を手でどかし、声をかけてきたのは盲目の少年だった。彼はじっと鎌鼬の顔を見つめて、そして俺の顔にも目を向けた。彼はずっと、見えない目で自分の母親を探し続け、いつか見つかるようにと願っているのだ。

 

 俺の頭の中に、様々な言葉が浮かぶ。その中から掴んだ言葉は、正直正しいのか正しくないのかよく分からないものだった。俺は息を吸う。吸って吐いて、彼を見つめ返す。

 

 また吸って、俺は言った。

 

「この間の願い事の件だが!」

 

 少年の目が大きく開かれる。俺の答えは決して清廉潔白と言えるものではない。しかし口を閉じない。俺は騙すことを選んだ。

 

 幻想郷に来てからというもの、俺は気ままに観光を楽しんできた。神社巡りから始まり、真っ赤な洋館で一週間メイド体験をして、そして何度も死にかけた。とにかく、俺は楽しみに楽しみまくったのだ。

 

 俺は今日罪を犯した。残酷な嘘だと自分でも思った。だから、例え観光が終わることになろうとも、その償いとして覚悟を決めるのは当たり前だ。この子の母親を必ず見つけ出す。

 

 俺は喉が痛くなるぐらいに大声を出した。

 

「もし、お前の母親がもし、本当に生きているのならば!絶対に叶えてやる!俺は神だから!」

 

「!」

 

「そしてもし!お前の母親が生きていないのならば……いや、母親を探す期間中も!」

 

 そこで言葉は途切れて、再び息を吸う。これが俺の覚悟だ。代償として、償いとして、今、俺はここに宣言をする。

 

「俺がお前の母親になろう!」

 

 観光は終わりだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いい加減にしろよ、お前……」

 

 怒りを含んだ声が後ろから聞こえる。振り返ると、強い風が吹いた。拳を握り締めた鎌鼬が、今までの中で一番鋭い目をして俺を睨んでいる。乱れた白い髪と目を見開いた姿は、見ると少し背筋がぞくっとする。肌がぴりっとする感覚だった。

 

「自分が何言ってるか分かってるのか!!」

 

「分かっている」

 

「お前……!お前は、お前は男だ!母親になれるわけねぇだろうが!」

 

「なれる!」

 

「ほざけ、人間風情が!」

 

「人間風情とか言うな!この子も人間だ!」

 

「黙れ!ほざけ!」

 

 怒気に当てられて少年の方を見ると、明らかに怖がっている様子だった。俺は右手を横に伸ばし、静かに鎌鼬を制する。すると彼女は少しだけ怒りを収めてくれた。

 

 しばし時は経ち、彼女が言った。

 

「お前が神だと?母親になるだと?……馬鹿馬鹿しい、さっさとお前の罪を白状しろ!」

 

「お前、この子のこと好きだろ。」

 

「は?」

 

「誘いだ。」

 

 俺は内心慎重な気持ちになりながら言った。

 

「どうだ、俺と一緒に少年の母親にならないか?」

 

「……えっ?神様?……さっきから何の話です?」

 

 少年は相変わらずきょとんとした顔のままだ。彼の目はいつか治るのだろうか。そのために俺にできることがあれば、最善を尽くしたい。

 

 俺はほとんど一か八かの賭けで鎌鼬に勧誘をした。これが吉と出るか凶と出るかは、天の上の神様にだって予想できないだろう。問答無用で殴り殺しにくるか、勝手にしろと踵を返すか、はたまた俺の口に石を詰め込むか。死ぬか死なないかの瀬戸際に対し、俺はただ待つことしか出来ない。

 

 やがて彼女は重い口を開く。その答えに、俺は笑みを浮かべた。

 

「消え失せろ……」

 

 鎌鼬は宣言した。

 

「私がコイツの母親代わりだ!!」

 

 そして俺の腹を殴った。

 

 




私事ですが来年の後半から諸事情あって恐らく執筆が出来なくなります。何とか人里編までは完結させたい所です。
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