筋肉蚊の楽しい幻想郷観光   作:すくぇ

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十八、 激突!風神VS人間(マッシブーン)

 

 

 話は遡って数時間前のことだ。八雲藍と俺が色々なことを話している時に、彼女がこんなことを言った。

 

「マッシブーン。人間としてしばらく生きるお前に、とっておきの『切り札』を教えてやろう。自身の身を守るためのな。」

 

「俺は知ってるぜ!スペルカードのことだろ!その切り札ってのは。マッシブーンは叡智・博識なんだ。まぁ咲夜に教えてもらったんだが」

 

「すまないが違う。簡単に言うとだな、()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()があるんだ。」

 

「ふーん」

 

「間違えたからとすねるんじゃない。……詳しい説明は省くが、私がお前に張った『概念結界』によって、お前はお前が『特定の合図をした時に三分だけ元の強さに戻る』ことが出来る。」

 

「そりゃすげえ、素直にな。で、合図は何だ?」

 

「好きに決めていいぞ。」

 

「じゃあ『胸を強く殴られた時』にするぜ。可能か?」

 

 これが八雲藍との会話の一部始終である。そして時は戻り、俺は永遠亭という病院のような屋敷を盲目の少年と共に訪ねていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 (ありがとう傾国の美女……。おかげでコイツに勝てるぜ!)

 

 心の中で俺は素敵な九尾に感謝した。さっき、俺は自分で胸を強く殴った。が、そうした瞬間、誰もが俺のことを気にしていなかった。どうやらこの変貌は誰にもバレていないらしいと分かった時、思わずにやりと笑ったのも仕方あるまい。誰の目からも、俺は依然としてただの貧弱なヒョロガリ人間だったのである。

 

 拳をぐぐっと力強く握りしめる。明らかに感覚が違う。これまでのが雨粒だったとすれば、これは大きく真っ白な滝。見た目は人間のまま、今の俺は確実に本来の強さを取り戻している。

 

「──萃香!俺と鎌鼬、どっちが勝つと思う!」

 

「んー?んー、んー……私!」

 

 顎を手で支えながら、にやにやと笑う萃香の方へと曲げていた首を元に戻す。この場には彼女と俺と鎌鼬と永林がおり、あとはさっきの鈴仙とはまた別の兎少女と兎軍団が遠くからじーっとこちらを見ている。いいぜ、観戦者は多ければ多いほど良い、と独り言。俺は目の前の鎌鼬へと手を伸ばした。

 

 いよいよ俺と鎌鼬は拳を合わせた。彼女の肌はびっくりするほど冷たく、やけにひんやりとしている。そう思ったのが悟られるのを回避しようとして、口早に俺は言った。

 

「よし鎌鼬。萃香のさんにーいちで始めるぜ。さんにーいちより早くはナシだぜ。さんにーいちで全力だ。」

 

 彼女の眼付は相変わらず鋭い。

 

「後悔するなよ。糞馬鹿。」

 

「後悔なんてするだけ損だぞ。馬鹿め。」

 

「……お前は私を舐めているようだから……」

 

 彼女がしばらく黙り、辺りが一目散に静かになる。風がごうっと吹いて、空気が張り詰められたのをひしひしと感じる。腕を伸ばしている鎌鼬が、仏頂面のまま言葉を述べた。

 

「今から死の覚悟をしろ。」

 

「それより歌ってやろうか?」

 

 そして、萃香が叫ぶ。

 

「鎌鼬!マッシブーン!じゃあ行くぞー!せーの!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 (勝ったぜ!)

 

 ドキドキワクワク拳競争、完。勝負が始まるまでの極限とも言える一瞬の中、俺は独りでに確信し、満面の笑みを浮かべた。

 

 霊夢や咲夜などの人間は言わずもがな、美鈴などの妖怪には負けるはずがなく(一度敗北したが)、吸血鬼や伝説の鬼さえも俺のパワーには敵わない(はずだ)。力に関しては、俺は絶対的な自信を持っているのだ。これで勝負に負けたら死んでやってもいい、というぐらいに。

 

 (悪いな、鎌鼬。捻くれ者のお前にはまず俺を認めてもらおうか……)

 

 思考は現実世界に戻り、俺はぐんっと腕を真っ直ぐに伸ばす。それで彼女はよろけて、尻もちをつき、心底驚いたような顔で俺を見上げる。そうなるはずだった。

 

 

 (は?)

 

 だが、腕に力を入れた瞬間、あり得ないことが起きた。ぶつかっている拳を遥か遠くへと進ませた途端に、それは真ん中辺りで止まった。勢いは殺されて、そこから更に力を込めても腕は微かに震えるだけで動かず、言ってしまえば拳は『互角』の位置にあった。

 

 (おいおい……確かにまだ俺は本気じゃない……。だが、結構強めにやってるんだぞ?このぐらいの力ならきっと……そうだな……家ぐらいでけえ岩を粉々に破壊できる……そんな力で俺は今やってるんだぞ……!)

 

 目の前を見る。俺の拳に拳をぶつけている彼女もまた、俺を驚愕の目で見つめている。鎌鼬の頬を流れる汗が、地面に音も無く落ちる。この時初めて、俺と彼女は心が通じ合ったのかも知れない。

 

 (何で張り合えるんだよお前……?)

 

 その一心だった。俺たちは互いに互いを見下し、凌駕される可能性を目の当たりにし、その時初めて勝負は勝負と化したのだ。

 

「あっ、マッシブーン。さっきの質問の答えだけど……。」

 

「……あぁ!?」

 

「鎌鼬だよ。私はね、いくらマッシブーンが強かろうと、鎌鼬が勝つと思う。だって私の弟子だから!」

 

「!!!」

 

 (萃香の弟子!道理でコイツの強さ、萃香並みか!)

 

「ぬぅぅっ!!」

 

「ッ!ふんっ!!」

 

 不意に鎌鼬が力強く押し返してくると、負けじと俺も腕に力を込める。数秒で決着が着くかと思われたこの勝負はもはや耐久戦となっており、そこに持ち込まれたという事実にやはり俺は驚きを隠せず動揺する。

 

 鎌鼬もそうなのだろう。ただの人間が、ここまで粘るとは、夢にも思うまい。その思考に同調するかのように、彼女が呻き声を挙げた。

 

「ぐ……ゔっっ……!!」

 

「……フゥ~……」

 

「てめぇ、おかしいだろうが!!」

 

 俺は歯を食いしばる。

 

 (そりゃこっちの台詞だ……。鎌鼬ィ、舐めてたぜお前のこと……だから……!ここからは本気でやらせて貰う!やってやろうぜ、俺!!)

 

 そして俺はついに全力を出すに至る。目の前の敵を殺すつもりで、久しく越えてはいけない一線を乗り越えた。

 

 (……!?)

 

 が、しかし、そこに生まれたのは大きな違和感。

 

 (何だ……身体は、本気を出していると錯覚している!だが、こんなのは俺の全力じゃねぇ!どこか全力に至らぬよう制御されているような……!)

 

「ぬぅぅぅぅぅ!!」

 

「!?」

 

 更に突然、鎌鼬の力が増幅する。何事かと思えば彼女の全身が少しだけ光っていた。真剣な顔で俺を睨む彼女は何故か緑色に発光していて、その背後からは強い風が吹いており、萃香の髪がめくれておでこが出ている。

 

 (何だ!?光りやがったコイツ!それに加えて豪風によるパワーブースト!意味が分からねぇが奴は全力を出している!クソがッ!!)

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 まさしくそれは接戦であった。熱を伴う激しい勝負。一歩も譲らないこの戦いは終わらないかのように思える。だが、不意に俺はあの事を思い出した。

 

 (まずい。三分が過ぎちまうぞ……このままじゃ死ぬ……)

 

 藍に告げられていたタイムリミット。三分を過ぎればたちまち俺はヒョロガリ人間に戻ってしまい、多分死ぬ。だから俺は必死に叫んだ。

 

「おい!引き分けだ鎌鼬!引き分けで勘弁して!」

 

「良いわけねぇだろうがぁぁぁぁ!!」

 

「!?!?!?」

 

 だが、鎌鼬はその声でより一層拳に力を入れたように俺には感じた。非常にまずい状況である。このままでは俺は身体能力が元に戻り、物凄い勢いで全身が吹っ飛び右半身がぶちぶちと音を立てて千切れてしまうだろう。そんなのは残酷すぎるぜ!

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「終わりだ!鎌鼬!」

 

「っ!!」

 

 勝負を終わらせたのは、彼女だった。

 

「……八雲藍……」

 

「………」

 

 いつの間に現れたのか、藍はそこに無言で立っていた。植物のような静けさを持つ彼女は、穏やかな雰囲気で鎌鼬に言った。

 

「マッシブーンは私の管理下にある。お前が何かこいつにやろうものなら、私はすぐさま気付き、そしてお前を生かさない。今お前が生きているのは、私と紫様の慈悲があってこそだ。」

 

「その名前を出すな……。」

 

 全く穏やかでないことを言う藍と、反抗的な声色を出す鎌鼬。彼女は膝に手をつきながら忙しなく息をしており、雨に打たれたような汗を流していた。そして、それは俺も同じである。

 

 こうして俺は藍に助けられ、勝負は引き分けとして幕を閉じた。あれほど引き分け引き分けと騒いでいて、いざ引き分けに終わってみると、要求していた自分が何とも情けない。

 

 (俺が……負けた……)

 

 俺には分かっていた。これは間違いなく俺の負け。意識を朦朧とさせるほどに、敗北の味は苦い。

 

 (負けた……)

 

 ぼーっとただ立ち尽くしていた。

 

 (負けた……)

 

 誰かと並んで帰っていた。

 

 (負けた……)

 

 狭い空間で誰かと話していた。

 

 (負けた……)

 

 敗北者──

 

 

「!?」

 

 はっとする。気付けばここはすっかり真夜中。暖かみのある赤い光が辺りをぼんやりと照らしており、何事かと思えば火が囲炉裏の中でぼうぼうと燃えていた。

 

 (ここは少年の家か?ぼんやりとは覚えているが……)

 

 俺は両手を天井に伸ばす。すると口が勝手に大きく開き、目が勝手に涙を流した。この現象はあくびだなと一人で納得。すっかり人間の姿に慣れてしまったと思いつつ、かなり楽観的な気持ちで俺は藁の布団に目を向けた。

 

「は?」

 

 そこには全裸の鎌鼬がいた。布の類いを一切纏っていない彼女は目を瞑っており、すぅすぅと寝息を立てている。よく見ると背中に少年がくっついており、少年はあどけない寝顔をしていた。

 

 異様な場面で、俺が抱いたのは色の欲ではない。一つの疑問である。

 

 (腹に痛々しい三つの穴だぜ……?)

 

 それのみが俺の目を惹く。彼女の腹には小さな穴が縦に三つ空いており、何故この状態で寝れているのか、もしや死んでいるのではないか?と無駄に不安を煽る。

 

 ともかく全裸の件について、俺は多分考えなければならない。寝ぼけ眼を擦りながらぼーっとしていると、急に鼻がむずむずしだした。

 

「……へくしゅっ!!」

 

 俺の顔が勝手に何かを噴き出す。この現象はくしゃみだなと一人で納得し、そして俺は閃いた。

 

 (……地肌の体温で少年を暖めているのか……)

 

 筋肉お化け(自慢)の時には気付かなかったが、人にとって冬の夜は信じられないぐらい寒い。そう思った瞬間から、口が勝手にかちかちと震えた。

 

 出会った時から時折思っていたが、鎌鼬はこの少年にだけは割と優しい。俺は眠っている彼女に問いかける。

 

 (なぁ。お前は人間嫌いみたいだが、この子に対してはちょうどいいツンデレって感じだよな。そりゃ、別にめでたいことなんだがな。)

 

「……すぅ……すぅ……。」

 

「ワケがあるんだろ?いつかでいいから、教えてくれよな。」

 

 俺は心の声を漏らし、そして鎌鼬の足にしがみついて寝ようとした。

 

 (あったかい)

 

 すると足の筋肉に力が入り、びっくりするほど遠くまで蹴り飛ばされ、そこで俺の意識は落ちていった……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ………

 

「そんじゃあ昨日人里を襲ったと噂の、赤い化け物について!」

 

 昼下がりのとある店にて、男たちが会話をしている。そして、その近くでは汚い格好をした子供と黒髪の男がうどんを啜っていた。

 

「そいつは鬼だな!昔は、鬼が人の村をわんさか襲ってたって話だ!偉大な偉大な昔のご先祖さんを見習って馬鹿やらかした馬鹿ってワケよ。呆気なくお狐様に連行されてて、ありゃあ笑ったぜ。」

 

「違いねぇ。正義の()()だ。きっと凄まじい()()もあったはずだね。見たかったけどなぁ、新聞を待つしかねぇのが俺らだ。」

 

「馬鹿はお前らだ!あいつは鬼じゃねぇ、鳥の化け物だよ!羽があったの見たか?クチバシだってあったろ?俺には分かる、ありゃ天狗の類いだね。」

 

「ははは!あんな図体の奴が新聞を書くのかね?」

 

「鬼?天狗?違うね、ありゃあマッシブーンだ。ウルトラジャングルからこの世界にやって来た善と筋肉の塊みたいな奴だよ。」

 

「誰だお前」

 

 和気藹々とした会話に割り込んで入ったのは黒髪の男だった。話していた男たちは困惑しつつも、男を無視しようとはしない。

 

「兄ちゃん見かけねぇ顔だな?ここら辺に住んでんのか?」

 

「おう。そんでマッシブーンはポケットモンスターサンムーンを初めとした色んな作品に出ておりアニメにも出ており説明文や見た目の愛らしさから世界中の皆に好かれるキャラクターになった」

 

「おいこいつやべぇって」

 

 そんな男たちの善意を無視するかのようにマッシブーンと名乗った男はぺらぺらと意味不明の言葉の羅列を語り出す。やがて男は店員と揉め、金は払わなくていいからと『一生出禁』を言い渡され、子供と一緒に渋々店を去った。

 

「ちっ、もう入れないってよ。うどん美味かったのになぁ、クワ!なんか変な噂されてやがるし!」

 

「そ、それより神様!お金はらってませんよ!」

 

「別にいい。俺は神だ。それよりタダ飯は美味かったか?」

 

「え、はい!ただめしおいしかったです。」

 

「いいぞ、将来有望だな。」

 

 マッシブーンは子供との昼休憩を無銭飲食と共に終え、畑仕事に向かった。子供と一緒にざっくざっくと土を耕し、日が沈み出したら永遠亭に向かう。ひんやりとした迷いの竹林を幸運の兎とやらに案内され、早々に彼らは辿り着いた。

 

「おーい!迎えに来たぞ。俺たちの子が待ってるぞ!鎌鼬!」

 

「気色悪いことを言うな……私たちはあくまでも仮の母親だ。死ね。」

 

「今死ねって言う必要あったかよ」

 

 心無い暴言を浴びせてくる鎌鼬にやれやれと思いながら、マッシブーンはあわあわしている少年を撫でた。

 

 人里の道を、鎌鼬とマッシブーンは少年を挟んで歩いていた。鎌鼬もマッシブーンも無感情な真顔で歩くものだから、側にいる人々から見れば彼らは異様に冷めた家族であった。

 

 仏頂面のまま、マッシブーンは声を出した。

 

「雇われの身は辛ぇな。ろくに金くれねぇんだから、俺は奴と意見が衝突してばっかりだ。なぁクワ。」

 

「いえ……僕はじゅうぶんですよ。」

 

「偉いなぁクワは。よしよし。お前は反抗期になれ。」

 

 マッシブーンは立ち止まって子供をぐしゃぐしゃと撫でる。それを見ながら、鎌鼬は急に口を開いた。

 

「永林は違うぞ。それはお前の雇い主が人間だからだ。」

 

「……極端だぜ?」

 

「いや、合っている。金だの欲だのが絡むと、人間の悪意は妖怪を凌駕する。立場や力で弱者を虐めるんだよ。つまりお前は弱者だ、弱者。」

 

「あ?弱くはないよな!おい!」

 

「黙れ。」

 

「痛ぇ!」

 

 鎌鼬がマッシブーンのかかとを蹴った。彼女のツンデレ具合に呆れながら、マッシブーンは彼女について考える。彼女は彼女が人を嫌う理由を未だに教えてくれないし、何故そんなに強いのかも分からない。マッシブーンは、彼女について何も知らないのだった。

 

 いつの間にか日は沈み出して、オレンジ色の空はうっすらと暗くなっている。マッシブーンは狭くなってしまった視界を恨みながら、鎌鼬に話しかけた。

 

「そうだ。今更ではあるがよ、少年の名前は『クワ』に決まったぜ!」

 

「あ?」

 

「だから、名前がクワに決まったって。お前もこれからそう呼べよ!」

 

「いつ私たちが犬を飼い出したんだよ……。」

 

 鎌鼬がため息を吐いた。どこかほんの少し話が食い違っていることにマッシブーンは疑問を抱き、はてなマークを頭の上に出す。

 

「おいおい会話が通じないぜ。なぁクワ?」

 

 今度は子供に話しかけたマッシブーン。だが、珍しいことに返事は返ってこなかった。

 

 

「おっ?」

 

 その時、不思議なことが起きた。クワと呼んでいたその子供はすっかり消えていて、どこを見渡しても見つからなかったのだ。何故彼がいなくなったことに気付かなかったのだろう、とマッシブーンは考える。

 

「おい、鎌鼬。クワがいなくなっている。」

 

「だから誰だよ。」

 

「だから少年だって言ってるだろうが!」

 

「……誰だ?」

 

「は?」

 

「誰だって言ってるんだ。私の知り合いに人間の子供はいない。変な冗談はやめろ。」

 

 鎌鼬は言った。

 

 




申し訳ございません。後から文章をかなり追加すると思います。申し訳ございません。嘘じゃないです。追加しました。
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