救世主の藍射魔
出落ち風神
復活マッシブーン
※後からこの話の戦闘描写だけリメイクします。
「お前、人間じゃなかったのか……!!」
「暴れろ。」
「リベンジだッ!!」
俺はそう言い、自慢の四つ足に力を込める。久しい自分の身体は何もかも懐かしい感覚で満ちており、今なら誰にも負けない気さえした。
瞬く間に距離を詰めて、俺は鎌鼬を殴る。
「フン!」
「ぐっ!」
同じく拳で拳を殴りにかかった鎌鼬だったが、無論、俺が押し勝った。
「……!」
「ビリビリするだろ?」
一旦下がった鎌鼬に俺は話しかけた。彼女は口を開けており、何かを吸っている様子だ。俺はすぐにぴんときたので、彼女の回復の手伝いをしてやることにした。
間合いを取りながらぴたっと立ち止まる。そして足は動かさずに、まるでちっとも動いていないかのように、残像を残すほど素早い動きで俺は目の前にぶぉんと拳を放った。
当然、いかれた強さの風が鎌鼬へと吹き荒れる。俺の仮説が正しければ、鎌鼬は風によって回復をしているはずなのだ。案の定、彼女は風を全て喰らい、歯軋りをして俺を睨む。
「何のつもりだ!嘘吐き!」
「リベンジって言っただろ」
「………」
俺は右手の四本指を二度曲げて、彼女を挑発する。鎌鼬は仏頂面で少し俺の方へと近付いた。
そして、俺と鎌鼬は拳を合わせた。彼女の肌はびっくりするほど熱く、以前とは全く違う。ドキドキワクワク拳競争での敗北。忘れもしない屈辱を、今ここで晴らす。
合図も無しに競争は始まった。彼女の全身は緑色に淡く光り、力は前回よりも一回り大きくなっているような気がする。背中から吹く豪風によるパワーブーストは健在であり、幻想郷の中でなら彼女の力が一番強いのだろうと思わせてくれる。
だが俺の方が強い。
「ッ!!」
「おらあっ!リベンジ成功!」
鎌鼬、敗れたり。俺は羽を動かし、退いた彼女に急接近する。右手を握りしめて思いっきり殴ると、鎌鼬は間一髪でそれを避け、大胸筋へのカウンターを喰らわせてきた。しかし俺がその程度で止まるはずは無い。左の腕で彼女の首をぐんと押し、右腕で頭にラリアットを喰らわせてやった。
「ぐあっ……」
「脳震盪だねこりゃ」
激しい攻防は長い間続く。俺が殴れば彼女は怯み、彼女が殴れど俺は怯まず。鎌鼬はやはり鬼のように強く、それは歴史に残りそうな激しい肉弾戦であったが、優勢なのは明らかに俺だった。
俺が攻撃で起こした風を、姑息にも彼女は口から吸収している。何だか癪に触ったので、俺は右の中指を彼女の口の中に突っ込んだ。そのまま喉を突き破るつもりだったが、彼女に歯で噛まれて勢いを殺される。
「がぁっ!」
「何だ、口が寂しいのかと思ったぜ。」
俺は噛まれたまま鎌鼬をもう片方の手で殴ろうとした。しかしその前に鎌鼬は下がったので、彼女の口から垂れた唾の糸のみが殴られる。
突如、凄まじい風が俺を襲う。
「オオッ!?」
「待っていたぞ!お前を殺せる妖力が溜まるまで!」
鎌鼬の声が聞こえる。ずざざっと思わず後退すると、さらに強い風が吹いてきた。
「おおおおおお!!」
烈風の勢いは止まらない。重さ333.6kgを自負するこの俺の全身が吹き飛ばされそうになっている。必死に堪えてはいるが、先程から身体がびりびりして痛い。
不意に風は止まった。ほっと安心したのも束の間、今までで一番強い風がどおっと吹き、ついに俺は空を舞った。
「ひこうよんばいいいいいいいい」
俺は多分、遥か彼方へと飛んで行った。吹っ飛ぶ直前、藍が目の前に現れた気がする。
「……?」
気が付けば、俺は大量のモフモフに囲まれていた。
「?????」
四方八方に狐の黄金色の大きな尻尾がある。真ん中には何故か火が浮かんでおり、夜なのに明るい。この、俺の全身を包むモフモフは一体何個あるのだろうか。超高速完璧マッシブーンアイで数えてみると、合計九つだった。
(どうも、また助けられたらしいな……)
恐らくこの天国みたいな空間によって、俺が吹っ飛んでいた勢いは吸収されたのだろう。事実、あのまま飛ばされて何処かに激突していれば割と大ダメージだったので、助かったと素直に感謝した。
(そういやさっきお礼を言うのを忘れていた。この戦いが終わったら、後でまとめて感謝しなくちゃだな。)
俺はそう思考しつつ体を動かそうとする。が、尻尾が俺を離してくれない。否、俺が離れたく無いのだ。
「癒し……直に感じる幸せ……」
しみじみと俺は呟く。このように全身をモフモフで包まれることは、このマッシブーンの生きてきた道の途中で一度たりとも無かった。人里で食べたおうどんが涙を流すほど美味いように、死にかけで飲み込んだ少女の血が死ぬほど美味いように、九つの尾に包まれることは至上の幸福であった。
「っと、加勢しろよマッシブーン」
正気を取り戻し、思い直した俺。危うく味方の藍に癒し殺されるところであった。とんだ廃人セラピーである。
立ち上がったはいいものの、脱出方法が分からない。とりあえず尻尾と尻尾の分け目を殴ってみると、簡単にその円型空間はパリンと砕けた。
俺はひんやりする真夜中へ飛び出し、傾国の美女の元へと戻る。鎌鼬のせいでかなり飛ばされていたようで、なかなか辿り着けない。必死に羽をぶぶぶぶと動かしていると、やっと彼女が見えた。
「なっ!?」
藍は、狐になった状態で倒れていた。衣服の破片などは一切残っておらず、それがかえって凄惨な激闘を物語っている。何よりもぴくりとも動かないその姿は、まるで死体であった。
(俺がモフモフに包まれていた数分で……何があった!?)
俺は急いで藍の元へと向かった。
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数分前。吹っ飛ばされたマッシブーンと両手を伸ばす鎌鼬の間に、八雲藍はいた。
合掌。藍にとって手と手を合わせる行為は、悟りを開くに等しい過集中であり、物事の全てを成功させるまじないでもあった。やや感情的な彼女が最強となり得るのに足りなかったものとは、一切の欲と感情を捨てた精神であった。
藍は自身の九尾のうち、三尾をマッシブーンへと向ける。そして残り六尾を鎌鼬へと向けた。
尻尾の先から、凄まじい速度で妖力を放つ。銀の針を小さい穴に投げ入れるような淀みない操作により、三つ分の妖力はマッシブーンを包んで結界を作り、六つ分の妖力は鎌鼬を包んだ。
(まずい!)
鎌鼬は警戒する。既に妖力はほとんど残っていない。彼女は今、自分が宿しているなけなしの妖力を全て『鎌』に込め、八雲藍の合掌を切り剥がしに来た。それによって攻撃の妨害が出来る。そのはずだった。
だが八雲藍は動じない。鎌は浅く食い込んだまま止まり、鎌鼬は業火に包まれた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
全身を燃やす炎に悶え苦しむ鎌鼬は叫んだ。六つ分の尾から引火する業火は、侮ることなかれ、鬼さえも数十秒で灰と化す程に凄まじい火力を誇る。しかも八雲藍が合掌を止めない限り、炎は消えない。
まもなく鎌鼬は黒焦げになり、藍は処刑を成し遂げる。ただ一つ、誤算があったとすれば──
苛ませる地獄の苦痛が、数百年ぶりに鎌鼬の『奥義』を蘇らせたことだった。
(──!)
極めて水平な平常心を保っていた藍が、無意識のうちに集中を崩してしまう。燃え盛る鎌鼬を中心に一瞬で形成されたドーム型の結界は、彼女の妖力が文字通りゼロになった以上存在し得るはずが無かった。
何なのだ、これは……と小一時間思考したい彼女であったが、目の前を見てその考えを破棄する。異常なことに、鎌鼬の妖力は今にも爆発せんとしている。その時人間の姿から狐の姿へと戻り、防御に回った八雲藍の行為は賢く、その場において最も正しい判断であった。
鎌鼬が奥義を繰り出す。
「”
三秒間の地獄。途端に風が吹いてきた。結界の中心に立つ彼女から全方位に吹き荒れる風は、全ての物質を粉々にする破壊力を持つ。結界は『内側の衝撃で必ず壊れない』故に、後に残るのは殺風景な荒地のみ。八雲藍の張った結界は無残にも一瞬で崩壊した。
奥義とは、ごく少数の妖怪のみが持つ必殺の力である。一定の条件を満たすこと──彼女なら、
「はぁっ!!!はぁっ!!!」
風の妖怪は過呼吸になる。奥義をもろに喰らった後も八雲藍は気を失ってはいなかった。九つの尾をへなりとさせ、どしゃりとその場に倒れ、胸部の骨などは折れて呼吸が出来なくなっていたが、矜持が彼女の気を保たせていた。
(来い……)
八雲藍は倒れながら待っていた。とどめを刺しに来るであろう鎌鼬を、大きな爪で切り裂くことが彼女には可能だった。実際、もし鎌鼬がこの時迫っていれば、彼女は逆に殺されていただろう。
しかし鎌鼬は急いでその場から逃げた。藍が正しい選択をしたならば、鎌鼬もまた正しい選択をする。結局、藍は無呼吸の限界を迎えて気絶することになる。心半ばのまま、視界は真っ暗闇に覆われた。
(こ……い……)
「─────ぶか…!」
次に藍が目を覚ました場所は、やけに巨乳な死神がいる空の上では無かった。曖昧に聞こえる誰かの低い声が、死にかけの妖狐の頭の中で響く。
「大丈夫か!傾国の美女!藍!」
身体が回復し、再び意識を取り戻した頃の妖狐は真っ赤な化け物に見下ろされていた。視点も思考も定まらず、宙に浮いたような不安定さを感じて不安になる藍。
(……意識を失っていたのか、私は……?)
ぼんやりとしたまま八雲藍は頭の中で呟く。倒れたままの状態でふと彼女は、黄金色の体毛の天狐から、元の人間の姿へぼふんと化けた。
「めっちゃ血が流れてるぜ!大丈夫か?吸って良いか?」
「やめろ」
めっちゃ血が流れていること。どうでも良い。彼女にとって真に考えるべきは、鎌鼬に死にかけさせられたという事実だった。
「ふぅ……。」
生に安堵の溜息を吐く。死への恐怖に汗を流す。数百年ぶりの猛烈な痛みは、彼女に残酷な程の敗北感を与えた。だが、藍は怖気付かず、弱気にならない。痛くなるほど拳を握りしめて彼女は言った。
「勝つぞ、マッシブーン。」
「勝つんじゃねぇ、藍。」
「は?」
思わず声を上げた八雲藍。マッシブーンは大きな両手で何かを掴むジェスチャーを行い、そして言った。
「捕縛だ。」
「………」
「捕縛。ほばく。ホバク。」
「!?」
得体の知れないモノを見るような目で、藍は困惑する。
(捕縛だと……?殺さぬように手加減しつつ、相手を無力化させろと言いたいのか……この男!)
「難しいか?」
「至難だろう!分からぬのか!」
「そうだよな。お前には無理だよな。所詮敗北者だよな。」
「どちらの味方だ!乗らんぞ阿呆!」
「阿呆って言った方が阿呆だぜ!」
不毛な言い争いにハァ、ハァ、と肩で息をする藍。今この瞬間にも鎌鼬が襲って来るかも知れないという状況で、二匹は言い争っていた。
「まぁ聞いてくれよ。お前はあいつの呪いを知っているか?」
「……!何故お前が。」
「鎌鼬がぽろっと漏らした。"人間を嫌わざるを得ない呪い"って言ってたぜ。その厄介なお荷物のせいで、あいつはかなり参ってるらしい。」
「………」
藍は黙ったままでいた。マッシブーンは構わず話を続ける。
「なぁ、知ってるか?俺たちが今まで探していたクワの母親ってのは、あの鎌鼬だったらしい。とんだ茶番だろ。」
「……それは知らない。」
「だから、俺はあいつをグルグル簀巻きにして、問い詰めてやりたいんだ。お前はそれを知ってて隠していたのかって。」
「簡単に言うなよ……捕縛だと?あれを無抵抗にするのに、人や妖の命がいくつ有っても足りぬ。」
八雲藍は折れない。必ず鎌鼬を殺してやるという意思に満ち溢れている。阿呆なことを抜かすマッシブーンに対して、藍は大声を放った。
「奴はお前を殺そうともしたぞ!乱心中だ、私が殺さなければ幻想郷に大いなる災害を引き起こすだろう!それだけの奴だ!」
「それでも頼む!」
「どう頼むのだ!責任は持てるのか!」
藍は怒りを言葉に乗せた。無責任なマッシブーンに頭を冷やすよう促す。だが、マッシブーンは首を振った。
「……頭は悪いから、お前を言いくるめるコトはできねぇ。時間もねぇ!だからこう頼んでやるんだよ!ちっぽけな俺にはこんなコトしか出来ねぇ!頼む、あいつを殺すな!」
そう言いマッシブーンはしゃがむ。ずぶっと鈍い音が響いた。
赤い怪物は深々と頭を下げた。奇妙な様であったが、彼にとってそれが土下座ぐらいの意味を示していた。マッシブーンは両手をぶらんと垂らし、銀色の口を地面に半分ほど突き刺す。
藍は言葉を絞り出した。
「……何故だ。」
「………」
「奴はお前を死にかけにしたぞ!死を目の前にして何が絆か!情か!盲目的な愛か!」
「あいつが好きでやってるんじゃねぇ。だが俺はあいつを信じている。呪いのせいでこうなっただけなんだ、そう信じてんだ!お前にも分かるはずだ!お前は意図的に目を逸らしているだけだ!好きでやってはない、俺の信じたことが正しいことだと証明してぇんだ!」
そして、マッシブーンは叫んだ。
「俺が俺の為に頼んでんだ!!」
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色の抜けた白い髪が風で靡く。風は少女の周りをぐるぐると囲んでいた。びゅびゅうと音が鳴り続けるのを、少女自身が遮って言葉を口にする。
「赤いデクノボウはどこに行った?」
「やるべきことをしに」
藍は短く告げた。鈍い黄色の両目が、二つとも鎌鼬を見つめている。彼女の目に映る鎌鼬とは、孤高の災害であり、五百年前からいつまでもいけ好かない少女であり、呪われし悲しい妖怪であった。
「私が憎いか、白面金毛九尾の狐。」
自嘲するように鎌鼬は笑う。それが気味の悪い程すぐに真顔に戻り、生気無く口を動かした。
「知っての通り、遠い昔に私はお前らの大好きな妖怪を殺した……。かつて私の仲間でもあった奴だ。」
「仕方無いことだ」
「何を勝手に割り切ってる?お互いに引き摺り合おうぜ……。」
「そのような趣味はあんまり無い」
少しはあるのかよ、と考えながら鎌鼬は両手を上げる。最強の妖獣、八雲藍には決して勝てないと考えての、事実上の降参だった。
「もしも私を生かせば、アイツが生き返る。そう言ったらどうする?」
「………」
藍はその整った顔を崩さない。鎌鼬が言った。
「アイツを生き返らせる。その代わりに私を殺すな。生きる理由は無いが死ぬ理由も無い。どちらかと言えば、私は生き延びたい。お前と殺し合うのはごめんだ。」
「関係無い」
交換条件を一蹴りした八雲藍が短く言い放ち、鎌鼬の眉間がぴくっと動いた。
「そんなことは何の関係も無い。例え金銀財宝を得られようが、油揚げを貰えようが、私はただ命令を遂行するまでだ。」
言い終わった藍は変化をした。ぼふんと煙に包まれ、晴れた先には金毛の天狐が堂々たる立ち振る舞いをしている。九つの尾がゆらりと靡く八雲藍は、圧倒的な量の妖力をその身に纏った。
かつての、誰もが平伏す妖獣の王。かつての、神に最も近付いた風の妖怪。幻想郷で五本指に入るであろう実力者の二匹が、見渡す限り誰もいない広大な荒地で殺し合う。スペルカードは紙屑と化し、そこだけがまるで室町の戦乱の世に戻ったかのように。
藍はマッシブーンの言葉を思い出した。それは一つの命令。
"頼む!あいつを殺すな!"
鎌鼬が怒りに身を任せ、叫ぶ。
「この犬畜生がァッ!!」
「狐だ!馬鹿者!」
八雲藍はにんまりと大きく笑みを浮かべた。
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………
「いいのか?藍、お前一人で。」
「構わない。鎌鼬なら私一人で全て何とかしてやる。」
「そりゃあ頼もしいな」
「お前にはやるべきことがある。」
「何だっけか?」
「人里を救え。ありのままのお前を、認めてもらうのだ。妖怪が妖怪として人間と共に過ごす……それが決して夢物語でなかったということを、後で私に教えておくれよ。」
「怪我してる奴らを助ける。壊された人里を復旧させる。両方を全力で行う。紙にでも書けりゃあ忘れないんだけどな。」
「そこまで阿呆じゃないだろう、お前。」
「おう。俺は阿呆だが馬鹿じゃねぇ。」
「……違いはあるのか?」
「馬鹿は死んでも治らないが、阿呆は治る見込みアリだ。」
「ふっ。」
真っ平らな地面にぽつりと置かれた扉の前に、四つ足でマッシブーンは立った。
扉を開くと、山の景色がぶわっと広がる。豊かな自然を綺麗だと感じるのは、人間も妖怪も同じだろう、とマッシブーンは考える。姿は違えど、確かに分かち合える物を俺たちは持っている、とも考えた。
「藍!言ってなかったな!」
「何だ!」
「助けてくれてありがとよ!それも二回も!」
マッシブーンが大きな声で言うと、藍はそっぽを向いた。クールな傾国の美女だぜ、と赤い怪物が呟く。すると、くるっと藍が振り向く。
藍が微笑んだのを確認すれば、マッシブーンはもう扉の先へと飛び立っていた。
………
「えーん、えーん」
「大丈夫だよ。痛くないからね。」
崩れた瓦礫で足を挟んだ二人の親子は動けなくなっている。母親が必死に子供を慰めようが、泣き声は止まらない。
深夜の人里は、パニックに陥っていた。死にかけの藍を目撃した者は、あの九尾様が負けてしまったぞと騒ぎ立てる。大きな音で目を覚ました者は、とても強い妖怪が暴れているぞと怯え叫ぶ。
「大丈夫!神様に祈るんだよ。祈り続ければ痛みは消えちゃう。神様が助けにやって来るの!」
「うう……」
阿鼻叫喚の人里の中で、健気に手を合わせる親子。祈りは通じたのか、空から何かが迫っていた。
それはぶぶぶぶと気味の悪い羽音を鳴らしていた。一回転しながらの着地は簡単な挨拶。真っ赤な筋肉隆々の身体はこの世のものとは思えない程にムキムキ。しかし、他を助ける事を厭わない善の塊。
「ババァルクウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
仕上げに叫び、今宵マッシブーンは人里内の、全ての助けを求める人々を救わんとマッスルポーズを行う。
「助けるぜ人間!俺が神様だぁ!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああ!!」
負けじと親子も叫んだ。
人里編が終わるまで後2話です。テスト的に会話と会話の空白を削ってみました。