前回のあらすじ
慧音や妹紅と戦闘
霊夢を責める人間に激怒
壊れた人里の復興を手伝うことに
追記 文章を追加しました。
2025/5/27 最後のシーンから伊吹萃香を削除しました。
「すまなかった!!」
「すまなかったな」
今日という一日は二匹の妖怪の息の揃った謝罪から始まった。
マッシブーンこと俺が元の身体のままだと出辛ぇだの思いながら少年の家を出て、目の前にいたのは、昨夜俺に突進したり燃やしたりしてきた上白沢慧音と藤原妹紅であった。
「眠い。俺は眠い。」
「私が、私が目を覚まさせよう!頭突きは痛いから嫌だよな?ビンタは……昨日されすぎていたな!はは。」
「落ち着けよ慧音」
白い長髪に赤もんぺを来た変わらぬスタイルの少女は、隣の慧音を軽く小突く。俺は肌荒れを知らない自身のツヤツヤテカテカの頬をさすり、昨日の霊夢のきついお仕置きを思い出してぱちりと目を覚ました。
「もういいぜ、俺は気にしてねぇ。むしろ謝るために朝早くから訪問、感謝って感じだ。」
「ははっ……教師の朝は早いよ。」
「不老不死の朝は遅いんだ。頑張って謝りに来てやったぞ」
「妹紅!誤りに来た態度じゃないぞ!」
「お前は俺を殺そうとしてたじゃねぇか!教師さんとは別だ別だ!謝れメスガキ!」
「ガキ?」
途端ににやっと笑った妹紅に、俺はクエスチョンマークを浮かべた。すると妹紅は腕を組んで自慢気に言った。
「歳上を敬え!私は千は超えてるぞ!」
「俺は多分万を超えてるぜ。もんぺメスガキ。」
「んなっ……!」
妹紅が顔を引き攣らせる。無事に年齢マウントを決められた所で、俺は出かけようとした。
「また今度会おうぜ。俺は今日から忙しいのさ。」
「その、壊れた家を直すことについてなんだが。」
「あ?」
妹紅が急に真顔に戻り、俺に向けて口を開いた。
「代わらせてくれよ。家が壊れた理由は私だ。お前は何も悪くない……のか?まぁ、よく分からんが……」
「それもそうだな。じゃあ、お前は人間たちに色々説明しろ。その方がやりやすい。」
「全部私に任せろよ。不老不死は万年暇人だから。」
「いーんだよ!人間に認められるチャンスなんだからよ!なんなら暇だわ俺も!」
俺はマッスルポーズをとって言った。
「クックック……お前らも見ておけ!俺と人間が仲良くする常識破りの世界をな。」
慧音はにこりと笑い、妹紅は申し訳なさそうにする。俺は安全ヘルメットを被る妄想をしたが、長い触覚が邪魔なことに気が付いた。
触覚。目。四本足。首輪。筋肉。筋肉。筋肉。人間も悪くないが、やはり俺は俺だ。そう思った。
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そして一週間の間、俺の密かな戦いは人間たちとの間で繰り広げられていた。
ウルトラジャングルで鍛え上げた俺の大工スキルは、荒々しくも優れたものであったと自負している。加えてこの素晴らしき筋肉質の身体。作業は異常なスピードでこなされ、人間たちをぎゃふんと驚かせた。
実際は、職人たちはずっと俺を黙って見ていただけであり、二日目ぐらいまでは俺を怖がっていた様子だったが、俺がマッスルポーズをとったり、華麗な駄洒落を披露したり、子供たちを笑わせていたりしていたら、いつの間にか心は打ち解け合っていた。
連日晴れていたこともあり、家は続々と完成した。まず俺に一番怒っていた男の家がかなりグレードアップされて出来上がり、その調子でどんどん野郎共や妹紅と協力して家を作っていたら、何と感謝の贈り物さえされてしまった。これには流石に俺の大胸筋もクククと笑ったものだ。表情筋は死んでいたが。
まもなく最後の家が完成する。何故か大勢の人間が外で待っている中で、俺が内装のチェックを終え、新築、木造りの引き戸を音もなく開いた。
「完成だ、お前ら!」
俺が自ら手を叩くと、うおおおお、と歓声が上がり、ぱちぱちぱち、と拍手が鳴った。あの混沌とした黒い夜とは打って変わり、俺は人々に受け入れられている。
「お疲れだマッシブーン。ほら、お前さんの大好きな血だよ、存分に飲め。」
「おお」
大工の棟梁の男が湯のみを差し出し、俺はその中の血をちゅうちゅうと飲んだ。
「……水か?」
「努力で滲むのは血と汗だろ?つまりは血も汗も大差ねぇってことだ。」
「ババァルクウッ」
俺は口に含んだそれを毒霧の如く噴き出した。
「クソばっちいじゃねぇか馬鹿野郎!」
「だっはっは!嘘だ、そりゃ俺のただの飲みかけだ。」
「ばっちぃじゃねぇか」
「あぁ!?」
一斉に他の男たちが笑い、棟梁が俺を小突く。何の飲みかけかはさておき、俺は貰った湯のみの中身を全て飲み干して棟梁に投げて返した。棟梁がへっと笑って湯飲みを置きに行った直後、集まってきた大工野郎共が俺を囲んで大声を上げた。
「胴上げ行くぞー!」
「「「「「「オーーー!!」」」」」」
「うおお!?」
戻ってきた棟梁も混ざり、俺はこれから胴上げをされるようだ。もはや俺は人間たちにとって仲間も同然であり、それが妙に嬉しかった。
(ジーンだぜ……まさかここまでされる日が来るとはな)
「「「「「「「「うおおおお!!」」」」」」」」
「うおおおおおおおお!」
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」
「すまん、重いから無理だ。」
「おう」
333.6キロの壁は厚い。感動は少し薄れた。
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万事解決とわしゃわしゃ喜ぶにはまだ遠く、俺には心残りがいくつもある。あの日以来全く姿を見ない八雲藍、同じく鎌鼬、そして少年の目。
しかし不安だからとはいえ、自分にばかり目を向けるよりも先に、俺にはやるべきことがあった。手と手を合わせたり深々と頭を下げる、あの感謝である。一日一万回の正拳突きの方ではない(俺なら余裕だろうが)。
「ふっ!」
いきなり超高速でクワの家の中から飛び去ったのは鴉天狗の少女であった。その証拠に黒い羽根が沢山ひらひらと舞っている。桜の花吹雪のようであったが、人間で例えるならただの散っていく抜け毛だ。
お帰りになったかと思われた鴉天狗は、空で一回転してから目の前にずどんと舞い降りた。凄まじい風が吹くと、神社で初めて会った時のことが頭に思い浮かぶ。
俺が彼女──射命丸文に感謝せねばならない理由は、彼女のおかげで人間と仲良くなれたからだった。当初、霊夢が考えていた『新聞でマッシブーンのことをさっさと幻想郷に知らしめちゃおう。なぁに幻想郷は全てを受け入れるから大丈夫』作戦は、文が伊吹萃香に捕まって三日三晩酒を飲まされたせいで延期の一直線を辿り続けていた。それが数日前やっと復活したかと思いきや、今度は俺が人間に変身していたので見つからなかったのだそうだ。やっと見つかったのが人里が業火に包まれた日、俺がマッシブーンとして暴れた日である。事後に俺は文と感動の再開を果たし、生まれ故郷の話から好きな女性のタイプまで深々とインタビューで掘り下げられ、カメラを向けられたのでセクシーインナーマッスルなポーズをとり、それが当然盛り上がって何時間も続き……これ以上は長すぎるので説明終了だ。
幸運にも文の『文々。新聞』(人間の里版)は人間たちに割と人気だったので、人里のほとんどの人間が俺の心優しき実態を知ったようだ。俺が大工として活動していた間、興味本位で話しかける人間、インタビューの続きをしようとする人間、さっさと神社に戻りなさいよと催促する人間、やはり紅魔館には貴方が必要よとスカウトしてくる銀髪などがいた。
かくして、妖怪が妖怪の姿のまま人間と仲良くするという第一歩は、間違いなく限りなく成功したと言えよう。これから人里がどう変化するかは知らないが、人と妖怪の本当の共存を、俺は心の底から応援する。
「今の回転、意味あったかよ」
「華麗でしょう?」
至極当然という風に笑う、黒くて大きな翼を生やしたミニスカートの少女は堂々と仁王立ちしていた。両手に持っている黒いカメラは既にクワの写真を撮り終えたのだろう。
「じゃあ俺も!行くぞ?行くぞ?華麗におそらの上の雲を吹き飛ばしちゃうぞ?」
「無駄なのでやめて下さい!この後も私は忙しいので!」
「それはそうと新聞書いてくれてありがとな」
「いえいえ。私は真実を暴いたのみです。」
俺は真上に本気でパンチをした。空振りの爽快感、久しくびゅううと風を吹かせ、雲に小さな穴が一つ空く。あの雲は俺の心によく似ている(自作ポエム)。穴が空いたのは自分のせいだというのも、なんかそれとなくポエムっぽい。おセンチモードの俺だ。
文は空を見上げて小さく拍手をした。
「やっぱり強いですね、貴方」
「ゴマスリはよせやい」
「いえ!しかし、褒め称えなくていい鬼というのも珍しいものです。貴方はずっとそのままでいて下さいね。」
「俺も昔は凶暴凶悪だったんだぜ?」
「"昔の"とか言うところは鬼っぽいです。」
何かを思い出したようにげんなりしている文を見ると、常日頃から鬼には苦労しているのだろうと思った。酒呑みぐうたらの萃香が上下に厳しいとはあまり想像し難いが、天狗の前では多分そうなのだろう。
俺が可哀想な目で文を見ていると、彼女は再び笑い直して言った。
「ええ、貴方のはね、希有ですよ。本当にね。貴方の姿が受け入れられたのは、貴方だから成し遂げられたんだと思います。」
「ゴマスリぐせが出てるぜ」
「あら、ついうっかり。でも貴方の強さはとっても評価してます。私の次ぐらいに強いでしょう!」
「俺が鬼だったらお前と戦う流れだぜ」
文が、おぉ恐ろしい、と肩をすくませて背中を向ける。羽が大きくばさっと動き、飛び去るかと思いきや彼女は振り向いて言った。
「では、今後も取材などしますので、よろしくお願いしますね!良ければ私のスンバラしい新聞も購読して下さい!」
「おう。」
俺は別れのマッスルポーズをとろうとして踏み止まった。
「待て。そうだ、質問がしたい。お前なら情報通だろ?」
「はい!知らないことは愛だけ、清く正しい射命丸です!」
「八雲藍ってどこにいるか分かるか?」
「あぁ、さっき見ましたよ。」
「マジか!」
「はい。──」
文が教えてくれた場所へと俺は走った。
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「藍!」
俺が大声を出すと、周りの人々がざわざわと騒ぎ出した。
「うるさい」
一喝する藍。俺に言ったのか人間に言ったのか分からないが、人々は黙ってまたそれぞれやっていた事をしだす。彼女が店の店主にお金を払ったのを黙って見る。風呂敷でお揚げを数枚包んでから、金毛の彼女はやって来た。
彼女に傷は一つもない。まるで何もなかったかのようだった。それは誰とも戦わず、ありきたりな日常を暮らしてきたかのような。あの白髪頭の妖怪が誰からも忘れられてしまったかの感覚。
「大丈夫だったのか?」
「この通りだ。」
「無事で良かったぜ!」
俺がサムズアップをすると、藍は軽く微笑む。俺は言葉を飲み込んだ。そろそろ吐き出そう。
俺は少し黙って質問をした。
「鎌鼬は?」
「殺したよ。」
「そうか」
「ああ」
俺は頷く。短い問答の後、俺の胸の内に湧いたものは悲しみだとかではなく、一つの疑問だった。
(運命が変わったのか?藍に殺されるはずじゃあなかったけどな……)
不思議には思うものの、とりあえずは彼女の言ったことを鵜呑みにするしかない。俺が首を横に傾けると、彼女が頭を下げた。
「実力不足だった。すまなかった。」
少しだけ驚いたが、彼女の謝罪を俺が上腕二頭筋で無理矢理上げる。
「謝るな。お前が正しいぜ?」
「………」
そうして俺が両手で藍の顔を支え、藍が微動だにせず俺を見つめ、数分が経った。よく見ると流石傾国の美女、顔立ちが微粒子レベルで整っている。俺が感心していると、藍が口を開いた。
「マッシブーン。私はどこか心の底でずっとお前を疑っていた。」
(がーん)
「お前が変な動きを見せればすぐに抹殺しようと考えていた。概念結界で取り戻した本来の力をかなり弱めたのも、私が止めやすかったからだ。」
(ががが)
「けれどなっ!」
軽快な声で煙に包まれた藍は、九尾の狐になった。尻尾が下がっていたので、何となく俺は背中に乗る。
藍がのしのしと歩き始めた。ゆったりと進む二匹のパレードを、通行人が物珍しそうに見ている。いくつかの人間は、俺に向かって大きく手を振った。
「無事に受け入れられたようで何よりだ。約束を果たしてくれた、ありがとう、マッシブーン。私にこの景色を見せてくれて、本当にありがとう。」
「おうよ」
俺も手を振り、パレードは続く。前から走って来たのは慧音の寺小屋に通っている子供たちだった。
「まっしぶーん!」
「おきつねさまー!」
「あかっぱげー!」
「……髪なんかいらねぇよ!バーカ!」
「ふふっ」
俺が軽く怒鳴ると、子供たちがきゃっきゃと笑う。
藍も笑いやがったので頭の毛を少し抜いたら、急に振り落とされてぶん殴られた。そこまで怒らなくてもいいのにと思ったが、反省はした。
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「お邪魔するぜーっと」
音もなくひっそりと家の中へ入ると、囲炉裏の炎はすっかり消えていた。次に俺は目に入った少年、眠るクワの元へとゆっくり近付く。
クワは、一週間前からずっと目を覚まさない。病気ではなく、こいつは目の治療をしている真っ只中なのだった。
永遠亭で鎌鼬が受け取った薬というのは、クワの目を治す薬であった。塗り薬ではなく飲み薬である。飲んだものを眠らせ、再び起きる時には目が治っているという寸法らしい。かがくのちからすげーである。
屁理屈のようだが、クワと母親を会わせるという願いは達成できた。これ以上ここにいる必要はない。寂しくないと言えば嘘になるが、既に心は決まっている。
真相は博麗神社で伝えることにした。その方がこう、なんか……良い感じだったからだ。長々とは待てない上、目を覚ます日が分からないので、一足先に、彼にとっての神さまらしく、博麗神社に居座るつもりだ。
しかし一時的なものとはいえ、何もなしに別れるのは辛い。
「手紙でも書くか。」
俺は初めての手紙を書くことにした。ペンを借りるべく、俺は寺小屋へと急ぐ。
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「……?」
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お前がこの手紙を読んでいるころ、俺はすでにこの世を去っているだろう。嘘です。
お別れの時だ。俺は神様だから、神社に帰らなきゃいけない。短い間だったが、とても楽しかった。人間としてお前と暮らすのも悪くないと思ったぐらいだ。これって凄いことなんだぜ。
願いを叶えてから帰れって?叶えたよ、もちろん。お前は既になんべんも会っていたんだ。お前の母親のことを知りたいのなら、俺がたっぷり話してやろう。初めてお前と会った博麗神社にて、お前を待つ。
それから鎌鼬についてだが、鎌鼬は突然遠くの方へと旅に出てしまったらしい。別れの一言もないとは、辛いもんだな。
最後に。お前を孤独にするのは気が引ける。もし決心がついたなら、お前は神社に住め。俺が巫女さんに土下座してやるから。な?
お前のことが好きなマッシブーンより。
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半妖の子は、手紙を握って家を出た。
何もかもが色付いた鮮やかな世界を、つい先程まで盲目だったクワは眩しがる。地面の薄茶色、空の青色、葉っぱの緑色を眺めながら走るうちに、クワの目からはぽろぽろと涙が出た。
マッシブーンさんに会いたい。そう思うと、クワは風になった。
風は人々を通り抜ける。人里の外への道に構える門さえも上から過ぎ去って、風は赤い鳥居の立つ神社を目指した。
(無事に目が治りました、神さま。)
風はぐんぐん進む。何かを考えながらごぉごぉと進んだ。
(僕、あなたに会いたいです!鎌鼬さんに会いたい!永林先生にも会いたいです!お母さんにも会いたい!会いたい人がいっぱいです!……)
風はやがて人の形をした。クワは長い長い石の階段にもまた感動して、目から小さな涙をこぼした。一段一段を急いでクワは登る。こんこんこんと小気味良い音が鳴って、クワの心は大きく膨らんだ。
(着いた!神社!)
階段を登りきった時、クワは息を必死に吐いていた。久しぶりに動かした身体が凄まじい熱を出していることに、もどかしさを感じるクワ。すっかり何もかもが見えるようになった目は、マッシブーンを探す。
「あっ!」
ようやく誰かを見つけた。
クワが喜びに顔を綻ばせると、急にその表情が冷たく凍りついた。
「あっ……」
クワが見つけた誰かは、クワを見つけるや否や嬉しそうに大きく飛び立った。そのまま自身の元へ近付き、どぉんと轟音を響かせた怪物に、クワが腰を抜かす。
怪物はクワに手を差し伸べた。
「あっ……あぁ」
真っ黒な瞳や銀色のクチバシはこの世の者とは思えない。
(た……!)
それは真っ赤で──
(たすけ……!)
クワにはそれが恐怖に思えて仕方がなかった。足を動かした瞬間、背中を向けた瞬間、すぐにでも僕は殺される。そう思えて仕方がなかったのだ。
クワは心の中で助けを呼んだ。
(助けて!マッシブーンさん!鎌鼬さん!)
助けは来ない。何かを察したように、怪物は手を引っ込めた。そのままクワを両目で見つめる度に、クワの心は恐怖に染まる。
(助けて!助けて!助けて!)
クワは恐怖のあまり、治った目玉から涙を流し続けていた。救いを求めるように水滴が頬を伝い続ける。顔が歪み、過呼吸は更に加速し、死にたくない思いばかりが吐く息となって辺りに充満する。
叫んだ。
(助けて!)
「死に際に……少し付き合え。私の娘。」
風が吹いている。
マッシブーンの目の前に現れた、薄く笑みを浮かべた少女が、クワの目をそっと塞いだ。少女の着物はボロボロで、土汚れが目立っている。
ふと、少女はマッシブーンと目を合わせた。
マッシブーンはサムズアップをした。
少女は親指を下に突き立てる。
強い風が吹いている。
落ち葉が舞い散った頃、そこにはもう誰もいなかった。
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がらがらと襖を開けると、炬燵に入った霊夢が寒そうにしている。
「何してたのよ?あんた」
「風が吹いただけだ」
そう言って俺も炬燵に入ろうとしたが、身体が大きすぎて入らないことに気が付いた。今だけは恨むぜ、この筋肉美。
置かれたお椀の中の味噌汁をずずずと吸うと、冷えた身体が少し暖かくなる。一息付いた後、俺は霊夢に話しかけた。
「これからは暇になるなぁ」
「何言ってんのよ。準備しなさい?」
「ん?これから何があるってんだ。」
「あの世からの招待。」
博麗霊夢は言った。
「明日、冥界の葬式に行くわ。」
風見鶏はやがて止まった 完
夜中にこっそり読んで欲しい小説なので、投稿を21時に固定するようにしました。一年前ぐらいに人里編が始まり、一年後ぐらいに人里編が終わりました。