警戒しろ、煙の渦巻く先に…
奴は、生きている。
「…はぁ。」
博麗霊夢は、溜息をついた。時刻は深夜。真冬ということもあり気温は極度に低く、白い息が漏れ出る。溜息の原因は、目の前にいた。
最初の印象は「愚か」だった。名を馳せている訳でも無く、特別強い訳でもない、そこら辺にうじゃうじゃといる雑魚のうちの一匹。
悪事を働いているのなら、大妖怪並みの強さを持っているのなら。必ずソレは博麗霊夢の耳に入るはずだ。それが、入っていないということは、
だが、コイツは私の全力を受け止めた。
改めよう。
コイツは「脅威」だ。恐らく大妖怪に匹敵する程の強さを持っている。魔女や吸血鬼、仙人や神…それらと肩を並べることのできる存在。
そして「異変」を起こすことのできる存在。害を為す前に何とかしなければならない。……そう易々と片付けられそうな格下ではないだろうが。
「出てきなさい。筋肉お化け」
霊夢は辺りを渦巻く煙を払うべく、お祓い棒を構える。
そして、一気に薙ぎ払った。
煙は風に撒かれ、四方八方に散り散りに消え去る。
そこから赤くてキュートで筋肉ムキムキでこれマジ?上半身に対して下半身が貧弱すぎて図鑑番号が794で特攻・特防が
「よう。」
マッシブーンは全身の力を抜いて大木にもたれかかっており、大変リラックスしている様子だった。そして、それはもう大事そうに腕に陰陽玉を抱き抱えていた。
そう。何もマッシブーンは馬鹿みたいに真正面から陰陽玉アタックを受けていた訳では無い。策も無しに己の肉体を過信していた訳では無い。誰よりも一番自分のことを理解しているからこそ、次の攻撃を受ければ確実に死ぬとマッシブーンは心で理解していたのだ。
ではどうする?
当たれば即死、言うまでもなく回避は不可能、刹那の時間。
なので、マッシブーンはその一瞬で足りない脳味噌を使って対処法を考えた。自分の持ち味を最大限に活かし、誰も傷つくことの無いハッピーエンド。それは……!
ハグ。マッシブーンは勢いよく迫る陰陽玉に向かって渾身のハグをかました。上腕二頭筋でその勢いをカバーし、傷ついた大胸筋で優しく包みこむ…あったけぇ。攻略不可能と思われた絶望の出落ちイベントに一筋の光が差し込む…まさに完璧といえる対処法。これをマッシブーンは僅か0.5秒で考え、実行。圧倒的力と超絶頭脳を兼ね備えた
「マッシブーンはハグが得意なんだ。知ってた?」
「知らないわ。知る必要も無い
「今死ねって言った?泣いちゃうぞ」
「死ね」
お祓い棒を構えた霊夢の眼が紅く染まる。
「……おっと。ちょっと待っててくれ。準備するから。」
そう言ったマッシブーンは、陰陽玉を抱き抱えたまま素早く立ち上がった。陰陽玉で、胸元の先程受けた傷を隠しているようだ。
殺意のこもった視線と何も考えてなさそうな視線が互いにぶつかり合う。意外にも、立ち上がるまで彼女は待っていてくれた。てっきり急に仕掛けてくるかと思ってたからな。割と意思疎通は通じるらしい。
「さてと。律儀に待っててくれて感謝するぜ。」
「アンタに感謝されたってどうでもいいけど。……ソレ、大人しく渡しなさいよ。」
「渡さないって言ったら?」
「別にいいわ。どのみちアンタを殺した後に回収するつもりだったから。」
念のために聞いておこう。
「和解は?」
「無理よ。諦めなさい。」
予想通りの回答だった。…いや、これでいい。
そう、聞けてよかった。
「そうか。ありがとう。」
「…」
挨拶を交わしただけで攻撃されて、殺されそうになる。自分が思惑する常識など、他の世界では通用しないということを経験を通して理解してしまった。ならもう、理性など捨てて、思うがままに暴れてもいいんじゃないか?
念のため、聞いただけだ。
和解しようなどと、言われなくて良かった。こっちもやられっぱなしはむしゃくしゃするんでな。ちょっとだけ暴れてやるぜ。
「そんじゃあ…後悔すんなよ?」
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博麗霊夢は、思考する。
-今あの妖怪について分かっている情報。
1、移動する能力を持っている。
2、かなりタフな方である。
3、深夜という時間に狙ってくる害悪野郎
だ。
まず1についてだが。これは大したことは無い。ただ、出てきた瞬間にぶちのめす。それだけの話だ。だが、逃げられる可能性が高いので逃げる前に殺す。それか、コイツが能力を使用した際に出現する「穴」に私もついて行く。ここに襲撃に来た時、コイツはあの「穴」を通して此方に来た。あのぐらいの穴の大きさであれば私も余裕で通れるだろう。
次に2について。これは厄介。私の攻撃に耐えれる妖怪はこの幻想郷の中でも有数の存在だ。見た目からして力も強そうだ。いわゆる、脳筋タイプという奴だ。身近な例として、鬼の萃香などが挙げられる。
そして3。これで私は深夜テンションによる殺戮マシーンと化した。
深夜テンションだから殺しちゃっても仕方ない。普段なら戦闘不能にするぐらいで許すのだが、テメーは私を怒らせたので、許さん。
と、ここまで考えた所で、私は目の前の妖怪に意識を向け直す。能力もさほど厄介では無いし、鬼並みに強いといっても私に倒せない訳では無い。その気になれば今すぐ首を刎ねることも出来る。こう、お祓い棒でヒュン、ズバァァァってね。
なのに、なぜ実行に移せない「私」がいるのだろうか。何となく、近寄り難い何かがある。何かが何かは分からない。だが、割と私の「直感」というのは嫌になるぐらい当たるのだ。
「そんじゃあ……後悔すんなよ?」
「…」
辺りは闇と静寂に包まれていた。目の前の妖怪がどう動き出すのか、博麗霊夢は最大限警戒していた。その矢先。
「ババァルクウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
マッシブーンが、辺りに響くほどの爆音で叫びだした。耳をつんざくような音に霊夢は思わず顔をしかめる。そして左手に持つお祓い棒を固く握りしめた。
「……………………………………」
「……………………………………」
「…………………………………?」
「よし。」
よしってなんだ?今の奇行に何か意味があったのか?威嚇なのか?
……もういい、深く考えないようにしよう。私が持つ考えはただ一つ。目の前の妖怪を退治する。それだけだ。
「いやすまん。これで、森の中にいる儚き命たちはみんな遠くに去った。」
「……どういうつもりよ。」
「オレとお前の
「………」
「飛べ。」
「は?」
「飛べっていったんだ。死ぬぞ、人間。」
❗️
勘だ。勘が、コイツの言うことと同じ答えを出している。
曰く「飛べ」と。二文字が頭の中で点滅する。飛ばないとどうなるのか?コイツが言う通り……死ぬのか?何故それを言う必要があったのか。分からない。分からないが、今は従うしか無い。
霊夢が、能力によって夜空の方へと飛ぶ。能力、というのは彼女の能力「空を飛ぶ程度の能力」のことだ。彼女はこれによって人の身でありながらも「飛ぶ」という人を超越した行為を行うことが出来た。
そして、足が地面から遠くなった時、マッシブーンが動いた。とはいえ陰陽玉を抱えていることによって腕は使えない。手負いの妖怪が俊敏に動き回ることも考えづらい。何をするのか?
霊夢の目からは何もしていなかったように見えた。見えたはずだった。だが、
地響きが、
大地の揺れが
「地震」が、まるでマッシブーンによって起こされたかのようなタイミングで発生した。
はい遅れました。誠にすいません。色々と忙しかったんです。嘘じゃないです。これからもマイペースに出していきます。ハッシュタグでも付けておいて下さい。
あっという間に5月になりました。まだ失踪しておりません。