【前章のあらすじ】
人間になって人里で暮らす
鎌鼬という妖怪、クワという人間と仲良くなる
なんやかんやあって別れる
今更ですが、☆マークの付いているお話はのちのち重要になったりします。
☆序章、 貴方の葬式はこんなにも華やかで ─前編
人里での生活を終えた次の日のこと。霊夢の宣言通り、俺たちは薄暗くもうじき夜になるという夕焼けの頃に、葬式に向かっていた。場所は単純明快、冥界。(言ってみたかっただけだ。)死後の世界で死者を祀るとは、何だか愉快だ。
「葬式なんて初めてだぜ。テンション上がってきたな」
「なにワクワクしてんのよ。不謹慎よ。」
「そうだぞー。ふっきんしん!」
「腹筋神!」
どどん。突然俺は身の丈にピッタリのあだ名を付けられた。何と甘美な響きだろう。腹筋神!腹筋神!腹筋神!……脳内で俺が霊夢や萃香やフランや藍に胴上げされている。名は体を表し、体は名を表すのだ。誇らしいが何だか照れくさい。
そうして俺がウキウキで歩いていると、ドンッ、と俺の逞しすぎる三角筋*1に緑色の何かがぶつかった。それは博麗霊夢に背負われており、中々サイズが大きい。
白い唐草模様。鮮やかな緑色の風呂敷に包まれた数本の酒である。
「それ本当にいるか?」
「いるわ」
「お前の方がワクワクしてないか?」
「いいえ」
黙ってしまった霊夢をじーっと見るのをやめ、今度は萃香を見た。こちらも同じ柄、同じ色の風呂敷を背負っており、サイズは彼女の上半身より大きく、中には同じく大量の酒が詰まっている。彼女は片手で風呂敷を背負い、もう片手でいつもの瓢箪から酒をがぶがぶ飲んでいた。
「それ本当にいるか?」
「私から酒をとってなーにになるのさあ。さああ?あっははははあ!」
「お前の方が不謹慎じゃないか?」
「いや?」
壊れたように酒を喉に流している萃香から目をそらし、俺は前を見た。
葬式といえば鎌鼬だ。昨日クワを連行したアイツは、どこかでひっそりと亡くなっていやしないだろうか。
(あいつ死んだのか?……いや、死んでないはずだ、あいつがクワを置いて死ぬはずが無い。独りぼっちにしてやるな、鎌鼬……。)
模索は野暮だと思った。彼女は、俺の中ではクワと一緒に二匹で慎ましく暮らしているのだ。また会える日を楽しみにしつつ、俺は観光を続ける。
「ここからは飛ぶわ。行くわよ」
「おう!」
俺は自由の翼を大きく伸ばし、ぶぶぶぶと飛び立った。
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雲の上をふわふわ飛びながら。太陽は沈み、もう暗い。未だ酒を飲んでいる酔っ払いが霊夢に絡んだ。
「霊夢ー?飛べるようになったんだね。やるじゃん、人間にしては」
「どの立場から言ってんのよ」
「羽も無いくせによく飛べるよな、この世界の人間」
「なー!霊夢ちゃんは最近ずーっと練習してたもんなあああ。」
萃香がにやにやしながら霊夢を小突いた。ん?と疑問に思った俺。何か俺だけが知っていないような秘密がある気がする。かつて俺を殺すべく宙に浮いていた霊夢が頭の中でフラッシュバックし、俺は萃香に言った。
「元から飛べなかったっけか?」
「あー、言ってないの?霊夢。」
「言う必要が無いわ。」
「のけものにされてる?俺。」
逆けものフレンズ状態である。悲しげにしくしく泣く仕草をしていると、そういうことじゃなくて、と霊夢が言った。
「本当にどうでもいいことなの。現に今私は飛べてるでしょうが。」
「そんじゃあ何でその前に飛べなくなっていたのかを教えてつかあさい」
「突然よ」
霊夢が少しも俺の方を見ずに言った。
「巫女の修行とか、サボってばかりだったからでしょうね。神様が天罰でも寄越しやがったのよ。」
「ふーん……だからって飛べなくするとはな。頭の固そうな野郎だ。」
「あんた、私の前でよく言えるわね」
「だってなあ」
な?と同意を求めるように萃香を見ると、どういうわけか不服な顔をしていた。
「貴方が異世界から来たという妖怪ですか」
「お?知ってるのか。おたくの階段はいい運動になったぜ」
鎌鼬と同じ、白髪頭の少女は驚いたような顔で言った。
「飛ばずに?わざわざ登ってくるなんて、鬼ぐらいしかやらないことですよ」
「こいつら頭が可笑しいのよ。あんな階段わざわざ登るなんて」
「あぁ〜?」
「階段って登るためにあるんだぜ?」
当たり前のことを責めてくる奴らに俺と萃香は抗う。だが確かにその桜花結界とやらを抜けた先の、その『白玉楼』へと続く階段はあまりにも長く、ほとんど全力で登っても一分ぐらいはかかった。途中で萃香も参加して競争になり、普通に俺は負けた。悔しい!
「……何だその白いの?幽霊か?」
「あぁ、これは半霊といいます。私は半人半霊なので。可愛いんですよ、私によく懐いています!」
(嫌がってないか?)
白くてすべすべしてそうな半霊とやらは、彼女に抱き寄せられたものの何とか離れようと抵抗していた。自慢気にしていた彼女もあれ?と困惑している。恥ずかしがり屋なのかも知れない。
白髪頭の少女はぺこりと頭を下げ、俺に言った。
「私は魂魄妖夢といいます。くれぐれも葬式では騒がないようにしてください。斬りますので。」
「おう、お初。地獄から来た超絶ムキムキ紅XJAPANマッスル腹筋神とは俺、マッシブーンのことだぜ」
出た!自慢のマッスルポーズ!一人で盛り上がっている最中、魂魄妖夢は苦笑いをしていた。
「新聞に書かれている見出しとはかなり違いますね……」
「何?」
新聞とは?俺は妖夢が貸してくれた新聞に目を通した。
そして絶句した。
「異世界から来た……
その悪辣な紹介が目に入った後、現在進行形で新聞を配っている天狗を見つけた。
射命丸文である。俺はすぐさま新聞を妖夢に返却し、ありがとよを言い、天狗に向かってダッシュした。
「文ァ!」
「あ!褒めて下さい!配ってますよ!」
「おい!君割るモンスターしてやろうか?」
「いたたたたた!あ、頭痛い!何ですか急に!」
「今すぐ書き換えろ!おい!見出しのところ!俺はポケットモンスターだ!!」
「そんな!夜なべして書いたのに!?」
「ならいいや。頑張れよ。」
「はい……」
目の下にクマのできた奴を問い詰めるほど俺はイジワルではない。彼女は解放されるとすぐに別の場所へと飛んでいった。
見慣れた奴らがいる。さっき新聞を配られていた連中だ。レミリア、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔、フランと勢揃いの紅魔館メンバー。奴らは新聞を見ながら俺をちらちらと見ていた。
「気味悪……」
「気味悪モンスター」
「シーッ、こっち見てるわよ、気味悪モンスターが」
「泣こうかな」
美鈴、咲夜、レミリアからの心無い罵倒に打ちのめされた俺。その場で体操座りをしていると、急に可愛らしい声が聞こえてきた。
「マッシブーン!!」
「おっ」
金髪少女二号、フランドール・スカーレットのことだ。虐められていた俺は彼女という天使を抱きしめ、自己回復し、羽休めし、ふにゃふにゃしなった。
「癒されたぜ!
「そうだよ!外に出れるようになってね、すっごく嬉しい!」
「よしよしよしよし」
俺はフランを撫でつつ、夜中は忙しくなりそうだと思った。そこにレミリアが来る。
「マッシブーン。その節はどうも。本当に感謝してるわ」
「いいぜもう!聞き飽きた!」
「聞き飽きただと!このレミリア・スカーレットの偉大な感謝が」
「お姉さま静かにして」
フランが冬のように冷たい言葉を浴びせると、彼女はその場で体操座りをした。
続々とパチュリーや小悪魔などが俺に話しかける。久しぶりね、だの、
そこに萃香もやあやあとやってきて、因縁の相手であろうレミリア・スカーレットと伊吹萃香は、一方は火花が出るほど睨み、一方はけらけらと笑った。
「なんだい小娘?あの日のことならもう恨みっこなしさ!」
「今夜誘ってもいいかしら?お前を蹂躙する飲み比べ。」
「毒でも入れる気?そうでなきゃ勝てないもんねえ」
葬式どころではない空気になった。実際、俺も酒で萃香に勝る者が存在するとは思えないのだが。その間に俺が挟まって、レミリアに話しかける。
「まあまあ。お前らも呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんか?」
「……えぇ。貴方はしばらく人間になってたと聞いたわ。噂が羽を生やして飛び交っているのよ。」
「俺ってこと?」
「私ってこと」
脳内で俺っぽい羽を生やした噂とレミリアっぽい羽を生やした噂が戦って俺の方が勝った。良い勝負だったぜと手を伸ばすと、は?と返された。
こほん、とレミリアが咳払いして俺に言う。
「貴方、いつの間にか有名になってるわよ」
「今度遊びに行ってもいいか?」
「いいけど話聞きなさいよ」
俺が周りを見ると、永遠亭にいた赤くて青い人や兎人間が二匹……の側に見たことのない凄まじいかぐや姫が実際にいたらコイツなんだろうなって感じの美女、それから離れた所に妹紅と慧音、八雲藍と猫っぽい女の子がいた。もれなく新聞を持っている上、ちらちら見てくるのが少し辛い。
「ほぼ知ってる奴しかいねえなあ」
「月の奴らと話したことあるの?貴方」
「おう。……あ、そうか。やっぱ面識ねえや」
「どっちよ」
うっかりマッシブーン。永遠亭の連中とは人間の状態でしか会っていなかった。なので俺は彼女たちと初対面である。じゃあ挨拶だな、と俺は走った。
「異世界から来ました、ウルトラジャングルの救世主ことマッシブーンだぜ。そこの新聞に書いていることは無視してくれよな。」
「私は八意永琳……あら、あの時の人間よね。魂が抜けていたけれど元気だったかしら?」
「あれ」
「私が教えた」
「藍!」
「久しぶり。この子は私の式の橙だ。ほら、これが前言ったマッシブーンだ。挨拶をおし。」
「は、はじめまして。橙です」
「かわいいぜ!」
「ひっ」
「気味の悪いことを言うな!マッシブーン!」
「えーりん、このやばそうなのが人里で暴れたって奴ー?」
「異世界から来たらしいわよ、姫。今度遊びに来ないかしら?詳しく調べたいのだけれど」
「お師匠様の言うことは聞かないほうがいいよ、そこの珍しいの!」
「てゐ?鈴仙?あんたら食われたいの?」
「なんで私もなんですか師匠!」
「やばそうとは何だ輝夜?知りもしないで燃やすぞ」
「貴女が一番恥知らずなことをしたって聞いたのだけれど?何でも殺そうとしたとか。あないみじ」
「やめろ妹紅!火を消せ!」
「うるせえ慧音!」
「そうだぜ!妹紅は恥知らずだ!」
「おい!マッシブーンを燃やすな!」
各々が喋り、俺はキャンプファイヤーとなり、火葬されかけ、わあわあと収集がつかなくなり、危うく幻想郷が消滅する所だったが、妖夢の一声で俺たちは静まった。
「これで全員集まりました!葬式を始めます!……!?」
夜空の下で燃ゆる俺はさぞ綺麗だったに違いない。
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結論から言うと、その葬式は暗くてじめじめしているのではなく、初めから死者なんていませんよという風に賑わっていた。
長い木造りの机に並んだ、酒。酒。肉を焼いたもの。お吸い物。煮物。山菜を揚げたもの、和えたもの。どれも美味そうだ。
右隣には霊夢がいて、左隣には先程からぺたぺたくっついてくるフランがいる。皆、わいわいがやがやと喋っている。
そう、まるでこれは宴会のよう……。
「??????????」
「えー、皆さん。まもなく葬式を始めます。」
妖夢がそう言えば、未だざわざわとしていたが、だんだんと言葉が減る。辺りは沈黙した。
俺は困惑し、目つきが良いのか悪いのか分からない両目をぱちぱちとさせ(飯が食えないので藍に人間へと変化させてもらった)、まだ温かい料理たちを見て人知れずごくりと唾を飲み込んだ。
「皆様、こちらに注目して下さい。」
白髪っ娘の彼女が手を向けた先に、棺桶はあった。
真っ黒で角張った立方体に思わず釘付けになった。あそこに誰かの遺体がある。丁寧に丁寧に俺は見つめた。
なんだかんだで全員、弔う気はあるらしい。皆が手を合わせたので、見様見真似で俺もした。恐らく幻想郷ではこうして楽しく死者を見送る文化があるのだと思われる。
(成程な……。それにしても)
誰かも分からん奴の死と巡り合う今、思うことがあった。
(死か)
ついでに俺は目を瞑る。実のところ、俺は俺についてよく分かっていない。何者かと問われれば、そりゃマッシブーン。しかし細かな部分はあまりにも抜け落ちている。
寿命。俺は知らない。かれこれ万年は生きてきたであろう俺に、いつ死期が訪れても不思議では無い。悔いのない生き方をしようと観光をしている、今真っ只中。
衰え。この頃身体を動かし辛いなんてことは全く無いが、いざそれが来た時には、それがまだ到来しなかった頃のことを羨ましく思うのだろう。
目の前の棺桶の中の住人は、悔いの無い死を迎えられたのだろうか。
全てのツケを払い終わって死んだのだろうか。
(……祈るか)
何だかんだで神妙な気持ちになった誰かの葬式。
両手を合わせて俺は黙祷した。
そんな訳は無いはずなのだが。
突如として、棺桶の蓋が勢い良くずだーんと後ろに吹っ飛んだ。
「いっきまーーーーす!!」
(は?)
黙祷解除。俺が急いで目を開けると、ずれた棺桶の蓋の側に、ピンク色の髪をした少女がいた。
周りを見ると分かったことだが、どうやら俺以外の全員が酒の入った容器を持っているらしい。まるで狐につままれたかのよう。信じられない物を見るような目をしていると、それぞれはちっとも構わずに己の持つ酒を掲げる。
そして、声高らかに。
「それじゃあ皆、かんぱーーい!!」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
(完敗……)
がやがやと宴会を始めた幻想郷の少女たちを見もせず、俺は棺桶の中の住人に釘付けになっていた。
(あれは、俺が完敗した女だ……!)
その少女は、かつて大食い大会で無双した化け物。
西行寺幽々子だった。
「あら、珍しいわね?男の人だわ」
高貴そうな着物に身を包んだピンク髪の彼女は、こちらに笑いかける。俺は宙に浮いて彼女の目の前まで移動し、問いかけた。
「俺を……覚えているか?西行寺幽々子。」
「誰かしら?」
「今から大食い勝負だ西行寺幽々子!」
「それはおやめ下さい」
妖夢が間に入り、俺に言う。
「宴会用の食事が全て無くなるので」
「宴会用って言っちゃってるじゃねぇか」
結局、葬式は茶番だったということが分かった。
本編は東方文花帖までのキャラしか出ません。後編は明日投稿します。