【前回のあらすじ】
・あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!人間の少女が化け物たちをぶっ殺していた な…何を言っているのかわからねーと思うが
・怪物と少女、和解
・名前決定
少女と怪物が和解した次の日のこと。
さっそく怪物──改め『血鬼』は、『金髪少女一号』を連れ回してウルトラジャングルを観光することにした。
その前に血鬼は彼女の朝食を用意しなければならない。リベンジとばかりに氷の入ったモモンジュースを完成させ、金髪少女一号に渡す。
「どうだ?」
「……おいしい!」
「よーし!甘いだろ。ここにナナシ*1を砕くと美味いんだ」
手応えありとガッツポーズをして喜ぶ血鬼。だが、一度にひんやりとしたジュースを一気飲みしきった少女が頭を痛めるのは、まもなくの事である。
「……!」
「大丈夫か!?」
かき氷現象である。血鬼は慌てふためいた。
朝食が終わったところで、ふと金髪少女一号は血鬼に歩み寄ることにした。ただ純粋に不思議がったというのもある。
「ごはん……食べなくて大丈夫?昨日から……」
「あ、俺?俺はいいんだ。別に腹は減らない。
「そうなんだ……。その、あの時逃げちゃってごめんなさい……。」
「全然。代わりに俺が飲んだからな。だからむしろご馳走様だ。」
ゆらゆらとサムズアップを見せる血鬼。
(……あったかい……?)
こんなに優しくされたことは無い。こんなに守られたことは無い。金髪少女一号の胸が、誰にも気付かれずにぽかぽかと暖かくなった気がした。
というか、全身が暑かった。
「……あつい……」
「こうも蒸し暑いと参るな。川にでも行くか!」
そんな流れでまず二匹は近場の大きな川へと移動した。赤く大きな花が咲き、小鳥がチチチと鳴き、木という木が生い茂っている道の脇を、少女はきょろきょろと物珍しそうに見た。血鬼という大きな存在と分かち合えたことで、彼女はやっと心を落ち着かせ、この未知のウルトラジャングルに心躍らせられるようになったのだ。
しかし彼女は見つけたくないものも見つけた。いかにも襲ってきそうな四足歩行の獣である。深淵を覗く時……と言うほど大層な生物ではなかったが、ともかく獣も金髪少女一号を見つけ、じーっと目を合わせている。しかし襲うことは無かった。
「俺がいるからな。大抵は近付かない。安心しろ。」
ほっと少女は一息つき、怪物の側にぴたっとくっついた。その他大勢の強そうな肉食動物も、無を伴った表情で少女を遠巻きに眺めるだけである。それはそれで不安を煽るものではあったが。
ひんやりとした美しい水に足首を入れる。川の流れは思ったよりも速く、微かに少女は慌てた。
「着いたな。よし……」
血鬼はというと、少し遠くの方で独り言を呟いていた。彼は腰と四つ足を若干曲げ、透き通った水の中を、目を凝らしてよく観察している。
不思議に少女が思っていると、突然血鬼は素早くばっしゃんと両手を川に突っ込んだ。そして次の瞬間にはピチピチと暴れる白魚を取っていた。中々の苦戦の末、尾が激しく動くままの白魚を持って血鬼が少女に話しかける。
「ほら一号、見てくれ。俺たち生き別れの兄弟じゃないか?」
「……ふふ……」
白魚の乾いた目も、血鬼のつぶらで真っ黒な目も、どこか似ている気がする。血鬼はそう言いたいのだろう。微笑する少女だった。
「食べるか?どうする?」
「大丈夫……。帰してあげて。」
「そうか。俺も、殺すのはやはり気が引ける。
血鬼がそう言うと、急にどんよりと少女の顔が曇った。あぁ、そういうつもりじゃなかったんだ、悪い、と血鬼は謝りながら魚を川に帰す。
「君のは無駄な殺生じゃない。嫌な気分になったか?」
「……私、気付いたら襲って来た動物たちが死んでて……他にも……。私、弱いのに……。あのまま……食べられちゃえば良かったなって……。」
「死にたいのか?それは困る。俺の話し相手がいなくなる。」
「……死にたくないけど……死なせたくなかった。」
少女は足元を覆う水面を見た。川は今にも赤く染まり、殺した者たちが這い上がって底の底へと引き摺るように少女は思った。こんなにも暑いというのに、彼女の全身にぞくぞくと悪寒が走った。
血鬼は少し考えて話し出した。
「誰しも、知らない間に小さな虫を一匹殺しているかも知れない。『不殺』なんてのは完全には無理な話だ。だから出来る範囲で、可能な限り生かすんだ。可能な限り、な。完全には無理。俺たちは全てを救えるほど強くない。俺たちは弱いもんな?」
「……うん。」
「一号が気に病む必要は無い。それでも立ち直る時間が必要なら、俺がたっぷり暇を作ってやる。」
血鬼の声に、少女は小さく頷いた。しかし彼女はまだ様々なことを疑っていた。やはり彼は優しい。が、どうしてだろうか。本当に、私が人間というだけで?と彼女は思った。
彼は人間が好きだと言った。私だって……
と考えたところで、少女は一切の思考を捨てた。
まるでトラウマから逃げるようだった。彼女は即座に考えることを止めた。
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川から帰った二匹は話し合う。
「次だ!一番気になる場所は?」
「あの、大きい山かな……」
「オーケー。近付いてみるか。」
血鬼は金髪少女一号を抱えて空高く飛んだ。彼は元々飛ぶのが得意ではなく、練習の甲斐あってか短い間ならその酷く重い図体を魔法のように浮かせられるようになった。ただし羽音は凄まじく、ぶぶぶぶと必死に飛ぶ姿は魔法と言い難かった。
そんなこんなで二匹は火山のよく見える大木の上に降り立った。ここなら少女にもその全貌が、興奮する程によく見えた。
取り分け目立つのは、火山の中から飛び出そうとしている凍った怪物だった。サムズアップをしている大きな大きな氷像は、誰かに造られた訳ではなかった。少女は感嘆した。
「すごい……。あのおっきな……水色の……」
「……迫力満点だな。あれがウルトラジャングルの救世主だ。」
「……救世主。」
「そうだ。今よりずっと前、あの火山はマグマと共に凶悪な生物──『火山生命体』を大量に生み出していた。しかも段々と、より強い化け物を噴出するようになっていたんだ。コイツが厄介だ。数万年後には俺を指一つでぶっ殺せるような奴が出てたかもな。」
「すごい……」
「……まぁ、結局あのでっかい奴が火口を塞いでしまって、もう新しく化け物が生まれることは無くなった。だから救世主って呼んでる。勝手にな。よし、ちょっと近付いてみるか。俺も仕事があるからな。」
血鬼は金髪少女一号をかかえ、火口の淵にまで近付いた。ある程度平らな場所に少女を降ろし、怪物はやや大きめの穴を見つける。
「ここからはアツイぞ。ここで待つか見といてくれ。」
そう言うなり血鬼は火口の中へと飛び降りてしまった。すでにかなりの熱を感じていた金髪少女一号だったが、血鬼のことが気になって先程の穴を覗いてみた。すぐに彼は見つかった。
火山の空洞のほとんどは氷像に埋め尽くされており、マグマは氷像によって黒い岩盤の地面へと変わっていた。狭い空間で血鬼は何かを吸っていた。よく目を凝らすと、緑色にきらきらと輝くもやのようなものを血鬼は吸っている。
少女が持つワープ能力──境界と境界を繋ぎ、裂け目を作る能力。それを使い、彼女はすぐ血鬼の目の前に裂け目を作り、紫色のスキマから上半身のみを出した。
「おわっ!びっくりした!」
「……それがあなたの食べ物?」
「いや?これは生命エネルギーだ。たまに来て吸わないと溜まるんでな、念の為にな。これが火山に集まると噴火して新しい命が生まれちまう。」
「へえ……」
興味深いというのを口には出さず、金髪少女一号は仕草や反応で示した。緑色のもやを手で触ってみたり、臭いを遠くから嗅いでみたり、吸っていいかどうかを血鬼に尋ねている。もちろん彼は腕でバッテンを作る。
(新しい命の素……。だから、俺は生まれる予定だった沢山の命を殺してることになる。残酷にならなきゃ俺たちが死ぬ。一号も気にするなよ。)
血鬼はこう付け加えようとしたが、緑色にきらきらと輝くもやを夢中で見つめている少女を一目見て、やめた。
(……思い出させないことが一番だな。)
火山の観光から帰る途中、代わりに血鬼はこんなことを話した。
「もっと教えなきゃいけないことは沢山あるが……。とりわけ知っておくべきは『危険なこと』だな。」
そう言うと、血鬼は二本指でピースサイン*2を作った。中指を曲げるのと同時に彼は説明する。
「一つ目は『筋肉蚊教』だ。火山生命体で構成されたカルトごっこ集団。アイツらは俺を復活させる為なら手段を選ばない。恐らく今後も化け物を送ってくるだろう。そん時は家に隠れていてくれ。」
次に彼は人差し指を曲げた。ふと出来上がった握り拳をパーにしてから血鬼は説明する。
「二つ目は『深層』だ。ウルトラジャングルには深層って場所がある。そこを縄張りにしてる『最後の噴火者』がやべーんだ。ま、正確には最後じゃないが……ありゃ多分今の俺より強いからな。」
血鬼は立ち止まって昔を思い出した。
既に絶滅している人類が残した資料から、深層には様々な素晴らしいもの、まだまだ解明されていないものがあると血鬼には分かっていた。近くの狩場には生えていない珍しい木の実、あらゆる傷を治す水が満ちた神秘の泉、たくさんの神器*3や人造品*4が眠っている廃墟の研究所。
その深層と呼ばれた場所を、数千年前、突然生まれた一匹の火山生命体が数日で占領した。元々深層にいた凶暴な生物たちはみな忽然と姿を消し、跡には屍すら残らなかった。
頭からツルのドレッドヘアを生やした姿。2メートルの全身を岩盤の鎧に覆われた姿。肩から腕にかけて模られた火山のレプリカ。何よりも目を見張る圧倒的な生命エネルギー量。生まれからして、その生命体は異常だった。
観測された556回目のウルトラジャングルの噴火に起きた、今までに無い事象。通常数万匹の生命体がゆっくりと生まれるはずが、一匹しか噴出されず。鳴り響いた大きな爆音と共に、数万体分の生命エネルギーをその身に宿した『最後の噴火者』は天高く空へと生み出された。
その姿を一目見た時、血鬼は火山を永久に凍らせるべく決意した。想定外こそあったが封印は成功し、一時の安寧は訪れたかに思えた。
だが、最後の噴火者。これだけは血鬼の不安要素であり、唯一勝てる気のしない生命体であった。以前血鬼が何も知らずに深層へ足を踏み入れた時、彼は最後の噴火者による警告を受けた。
立チ止マレ。
短いテレパシーのような言葉の後に、最後の噴火者はニヤニヤと笑った。千メートル程先にいる小さな姿を一目見て、血鬼はぴたりと立ち止まった。じゅるるると獣の腕から血を吸っている姿。バキボキと骨ごと腕を喰らう姿。戦いは起こらず、血鬼は立ち去り、それから数千年もの間に血鬼が深層へと近付いたことは無かった。
(触らぬ神に祟りなし……あいつ寿命で死んでくれてねぇかな)
「……血鬼?」
「何でもない。とにかくよく覚えていてくれ。」
まるでトラウマから逃げるように、血鬼はすたすたと歩き始めた。不思議や不安を抱きながら、金髪少女一号が後を追った。夕暮れが近付いている。
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昼とは打って変わり、ウルトラジャングルは段々と涼しくなってきた。すっかり日が暮れて夜になる前に、血鬼は金髪少女一号を抱えて飛んでいた。
「温泉は良い。俺のおすすめの観光場所だ。」
「……おんせん?」
「あったかい風呂のことだ。癒されまくるぞ!」
血鬼は山の奥にある、特別見晴らしの良い温泉を選んだ。その名も『ウルトラ温泉』。随分と雑に付けられた名前である。
激しい熱気と湯気に、金髪少女は戸惑った。なので、まずは血鬼がお手本を見せることになった。
「まず、ぱぱっとお湯を自分にかける。そんで綺麗になったと思ったら、どぼんと浸かるっ!」
熱い温泉の湯でぱしゃぱしゃと体を清めた血鬼は、ぱっと温泉に飛び込んだ。飛沫がかかって金髪少女は怯んだが、すぐに同じく彼女はぱしゃぱしゃと体を洗い、ゆっくりと湯に浸かった。
「熱い……!」
「じきに慣れる。慣れると思ってたら慣れる!慣れたか?」
「……いちおう。」
肩までどっぷりと湯に浸かる一号。その顔は既に火照って仄かに赤くなっていた。中央の深い場所でこれまた肩まで浸かっている血鬼は、こっち来ると溺れるから来ちゃ駄目だぞ、と彼女の世話を焼いた。
「温泉に入ったら100まで数えるんだ。いーち、にーい、ってな。100を言う頃にはぽっかぽかだ。」
「うん……。いーち、にーい」
「楽しそうですね。私も混ざっても?」
「うわっ!」
その時、茂みの奥からぬっと現れたのは筋肉蚊教の副リーダー、マガレだった。覗きだ覗きだ、110番だと叫びたくなるものだが、ウルトラジャングルにポリスメンはいない。
「いいじゃないですか。仲間外れは酷いですよ?」
「お前が数えるのは今から殴られる回数だぜ。」
またまた、とマガレはにこにこ笑った。
「それに貴方、飛び込むのはマナー違反ですよ。ほら、そこの少女も口を開けて呆然としています。」
「のぼせてるだけじゃないか?……大丈夫か!?」
「にじゅういち……」
うつろな目で数を数える金髪少女一号の顔が、まるで血鬼のように真っ赤になっていた。温泉を取り囲む岩の側にしゃがんだマガレが細い指先を湯に入れ、言った。
「この温度は人には厳しそうですね。早く出してあげて下さい。それから水分補給ですよ。川に行きましょう。」
そう言ったと思えば、マガレは即座に川の方へと走っていった。血鬼は一号を持ち上げて後に続き、走ることで起こる風で彼女を冷やした。
「大丈夫か!?」
「だいじょうぶ……」
(くっ……何て失敗……)
楽しんで貰いたかったのに……と、血鬼は失敗した自分を恥じた。まもなく川に着き、金髪少女一号の口へとマガレが水を運んだ。黙って見ていた血鬼だったが、ふと我に返ったように葉っぱのうちわで彼女に風を送った。
しばらくして裸の少女はぷるぷると震え出した。身体が冷えたらしいので、マガレは眩しい光を放って大きな狼のようなものに変身し、彼女に覆い被さった。
血鬼は葉っぱを捨ててその場にしゃがみ、土下座をした。
「すまんかった!!」
「大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて。」
「……温泉を嫌いになったか?」
「いや……嫌いじゃないよ。熱い!って思ったけど……今は寒いから、もう一度入りたいかも。」
「なら、もう一度俺を信じて欲しい!!頼む!!」
「そんな……裏切ったとかじゃないのに。」
くすっと金髪少女一号は微笑んだ。獣になったマガレは覆い被さったまま黙っている。この場で話すのは、怪物と少女の二匹のみ。血鬼は頭を上げて立ち上がった。
「ついてきてくれ。」
「……うん。」
「もちろんお前もだ、マガレ。」
「あら、嬉しいですね。では私もそのように運んでいただければ……」
血鬼は裸の少女を抱えてぶぶぶぶと空へ飛んだ。ぽつんと残ったマガレはにこにこ笑いながら走って追いかけた。
「あったかい……。」
「だろ!丁度良い熱さか?」
「うん!あったかいよ。」
嬉しそうに金髪少女一号は肩の力を抜く。血鬼が選んだ次の温泉は40度ぐらいのごく普通の温度を保っている。その名も『ノーマル温泉』。随分と雑に付けられた名前である。
今度の温泉は合っていたらしく、金髪少女一号は熱いとも寒いとも言わず、気持ちが良さそうに背中を岩に預けていた。その様子を見て、血鬼は満足していた。自身はもっと熱い温泉が好みではあったが。
血鬼は言った。
「疲れた時も疲れてない時も、温泉はいいもんなんだ。あったかくて熱くて、湯気がもくもくしてる。それを知って欲しかった。」
名案だ、という風に彼は人差し指をオレンジ色の空に向けて立てる。
「よし、明日から君の為にここを最高の温泉にするぞ。茨を張り巡らせて安全にしようか。」
「あはは。大丈夫……。危なくなったらすぐ逃げられると思う。」
金髪少女はぐでんと湯に身を委ね、リラックスした。こっそり小声で言った言葉は、誰の耳にも入らずに。
「血鬼が守ってくれるらしいし……」
「ん?」
「何でもないよ。今日はありがとう。観光……凄く楽しかった。」
血鬼にはにかんだ顔が、真っ白な湯気に隠れた。天気は曇り、日は沈む。まだ彼女と過ごして二日目。ここにある小さな陽の塊を、血鬼は曇らせぬようにこれから何年も頑張るのだろう。
彼女がすっかり立ち直り、元の世界に帰るまで。帰りたくない理由は知らないが、血鬼は自分が何をすべきか分かっていた。いつか来る別れの到来を惜しむより、今は全力で少女を楽しませること。それが自分のやるべきことだと血鬼は思った。
ノーマル温泉はその名前から想像出来ない程に広い温泉だった。二人の邪魔をせぬようにと、マガレは遠くからじっと彼らを見つめていた。
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すっかり真夜中。血鬼たちは元の村へと帰り、キャンプファイヤーを囲んで丸太の椅子に座っていた。金髪少女一号は血鬼が用意した大きな黒い布を首から下に被っている。そこにマガレが小走りでやって来た。
「衣服です!必要でしょう?」
じゃーん、と何処に隠していたのかマガレは紫色のワンピースを両手に持ちながら、にこにこと笑った。早速一号が着たいと言うのでマガレはハイどうぞと服を手渡しした。あ、筋肉蚊は後ろを向いて下さいね。マガレはそう付け加える。
短い時間の後、いいよの合図で血鬼は振り返った。
「どう……?血鬼。」
「うん!似合ってるぞ!」
ワンピースを着た少女は恥ずかしそうにえへへと笑い、怪物は両手でサムズアップをした。普段より一個グッジョブが多いのでお得である。紫色に、清楚で可愛らしくなった金髪の少女。血鬼もマガレも大感激した。
「似合う似合う!とっても似合っています。」
「ありがとう……。あの……」
「マガレとお呼び下さい。お嬢さん。以後よろしくお願いします。」
「うん。」
「流石だな……
「えぇ……
血鬼とマガレがどこかズレた会話を行った。またもや二人は喋り続ける。
「よくサイズぴったりの物を用意できたな?」
「私が彼女に変身して、色々試しましたから!楽しかったですよ」
「そうか」
血鬼が少し引いたことに気付かぬまま、マガレはにこにこと笑い、金髪少女一号はしばらく嬉しそうにはしゃいでいた。
キャンプファイヤーも勢いが弱まり、少女が自分のログハウスに戻って深い眠りに着いた頃。血鬼とマガレは火を間に入れて二人きりで向かい合っていた。
実は二人はあまり面識が無かった。血鬼は筋肉蚊教に崇め奉られている孤高の存在。マガレは筋肉蚊教の副リーダーというNo.2の立場。ロクに会話もしたことが無かった二人は、空から降って来た少女によって初めて繋がったのだ。
そもそも直近の襲撃は痺れを切らしたリーダーによる3回目の鉄砲玉役であり、『お前が全力で殺しに行けば筋肉蚊も本気にならざるを得ないだろう』という単純明快なものだった。結局呆気なくあしらわれたマガレであったが、彼女の内に屈辱などは一切無い。流石ですねの一言に尽きた。
しかし、あの時簡単にやられたことよりも、今の筋肉蚊の姿にこそマガレは興味を抱いていた。
「申し訳ございません。貴方のことを誤解していました。」
「……俺も誤解していた。」
「えぇ。貴方は
「お前は
「言いがかりはよして下さい?」
「俺だって違ぇよこの野郎!」
野郎ではないです、とマガレはため息のように言った。
「お互いこうして話したことは無かったですからね。貴方とこんなに会話が出来るだなんて夢のようです。」
「お世辞はよせ。あとお前のリーダーに襲撃をストップさせろ。」
「そうしたいのは山々なんですが……。あの方は私の言うことを聞いてくれないので。」
「チッ」
「襲撃が来ればまた殺せば良いんですよ。あの子を守りたいのならば、です。」
「お前らは……どうしてそう命を無駄にしようとする?俺なんかは放っておけ。何の価値も無い。」
「……ありますよ。
マガレはにこにこと笑いながら言った。
「どうかこれからも少女をお守り下さい。私、心からの願いです。」
「何を企んでいる?」
「あんなに可憐な蝶々が、ひらひらと舞えない世界は嫌です。地獄には花が必要なんです。花を守り抜く
「………」
「そろそろ帰ります。今度は肉やワインでも持って来ますね。」
「ありがとよ。だがワインはいらねぇ。俺も少女も未成年だ。」
血鬼は小さく手を振った。マガレはしばらくにこにこと立ち止まっていたが、やがて口を開いた。
「あぁ、忘れていました。伝えておきます。リーダーからの伝言です。『近々会いに行くぞ!』とのことですので。楽しみにしていて下さいね。」
「は?」
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血鬼と金髪少女一号が観光を楽しんだ昨夜のこと。
遺体を埋め終わったマガレは全速力で走り、数時間で『筋肉蚊信仰主義最高国』に着いた。その国は壁の代わりに巨大な大樹がぐるりと囲んでおり、中に入ると大きな筋肉蚊の像が目立っている。計53個の石を削って造られた筋肉蚊像は、国の何処に行こうが必ず目に入るように、至る所に設置されている。
「──以上です。繰り返しますね。今回の襲撃により、Bクラスの火山生命体4名が筋肉蚊によって殺害されました。」
比較的大きな屋敷の中で、松明の火が暗闇を赤く照らしていた。マガレが報告を終わらせると、筋肉蚊教の『リーダー』はニヤリと笑った。
「……そうか。」
カッと目を見開いたリーダーはその場で飛び上がって着地し、喜びの地団駄を踏んで叫び始めた。
「そうかそうかそうかそうかそうか!!!!筋肉蚊は!!!!復活したのだな!!!!そうなんだな!?!?!?!?」
「少なくとも、好転してきているのは事実ですね。予言のウルトラホールの発生、創設以来初めての殺戮……。兆しは見えてきていますよ。」
「そーーーーーーーーーーーーうかっ!!そうかそうかそうかもう興奮が止められない止められやしない!!昨日の続きだ!!」
マガレが横にずれると、リーダーが真っ直ぐに扉へと走り出した。そして村中に響き渡るような大声で、彼は絶叫したのだ。
「踊り狂うぞお前たちいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
かくして寝ていた者も、肉を喰らっていた者も、マガレ以外の村に住む全ての火山生命体たちは曲のリズムに合わせて踊り始めた。音楽と太鼓と拍手とタップダンスの騒音が今宵鳴り止むことはなく、朝日が昇るにつれて火山生命体たちはバタバタと気絶しだした。
たった一匹残ったリーダーは、楽しそうに笑いながらマガレに言った。
「あぁ、随分と久しぶりに会うことになる!!出発は明後日の朝からだ!!楽しみだな、マガレ!!」
「えぇ」
にこにこと笑う者。ニヤリと笑う者。リーダーを名乗る怪物の胸には、翡翠の色をした宝玉が埋まっていた。