宗教ってよりもファンクラブ
【前回のあらすじ】
・少女の過去が明らかになった
・少女は記憶を取り戻した
・筋肉蚊教がやってきた
「いいか一号。必ず守ってほしいことがある。」
扉を閉めた後、俺はしゃがんで金髪少女一号に目線を合わせながら、こう言った。
「君が殺してしまったあの4匹の親玉が来ている。絶対に、
彼女の表情が凍りついた。
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「改めて!久しいな!我らが筋肉蚊よ!」
「お前らの所有物になった覚えは無いな」
「所有だと!?烏滸がましい!我々は歴とした信仰者だ!」
一歩、二歩とリーダーが近付き、血鬼の胸筋をゼロ距離で指差す。
「ただし、
途端に血鬼はリーダーを手のひらで吹っ飛ばそうとした。ぶおんと風を切る音がする。
パアンと軽快で大きな音が鳴った。迫る血鬼の手のひらをリーダーが殴って止めた。不意の彼の攻撃に、リーダーは容易く対処した。
じりじりと拳で押しながらリーダーは言う。
「ネタバラシだ!貴様が
彼の胸の翡翠の玉がきらりと光った。銅色の髪を垂らした暗緑色のリーダーが、顔を歪ませながら嘆く。
「だからこそ、昔の貴様は凄かった!研究所にいた者共を皆殺し、誰も彼も見境なく殺しにかかり、屍の山を積み重ね、とうとう火山の封印までやってのけた!大胆不敵という言葉は、貴様の為に存在を許されたのだ!」
ぎりぎりと歯軋りを立てながら。彼は呟いた。
「だぁのに!貴様はすっかり生きることを忘れてしまった!何かを殺すことを極端に避け!こじんまりとした村で孤独に暮らす!まるで隠居した
「ふっ」
血鬼は鼻で笑う。
「そうだな。すっかり
「……ククク。自分が何をしたのか、何を言っているのか分からんようだな。貴様や我々の
ぱっとリーダーが血鬼から距離を取り、両手を上げてニカッと笑った。
「事態は好転した!先日のウルトラホールの発生!降ってきた別次元存在!極めつけに貴様は我々信者4匹を殺害した!不殺だった!観測以来、何かを殺すことは一度も無かった!」
愉快すぎて困るという風に、リーダーは空へと大きく仰いだ。
「一度も無かったんだぞ!?一度だって!あぁ苦しかった待ち焦がれる日々!いくら我々が我慢に我慢を重ねていたからと、こんなにワクワクさせることは非常識じゃないかああああああああ!?」
「嬉しそうじゃねぇか、良かったな。」
血鬼が言いながら辺りを見回した。マガレがにこにこと笑っている。大勢の火山生命体たちがそれぞれ唸ったり笑ったり眠ったりしている。
ずっと後ろに隠れていた金髪少女一号が、ちらりとリーダーの顔を覗き込む。すると目が合ってしまった。
「……ん?そこにいるのは別次元存在だな?ウルトラジャングルにようこそ人間!遺書は書き終わったか?」
「こんにちは。まだだよ。」
「おい!一号に話しかけるな。お前は俺に用事があるんだろう!」
「嫉妬か血鬼?どうやらその人間に執着しているらしいな。マガレから根掘り葉掘り*1聞いたぞ。」
余計なことを、と血鬼はマガレを見た。彼女はにこりと笑うばかりである。事態は悪化するばかりに血鬼は思った。大抵、筋肉蚊教のリーダーがここに来ると悪いことしか起きない。
リーダーがニヤニヤと笑いながら言う。
「今日は確かめに来たのだ。貴様が本当に自分の意思で殺したのかをな!」
「どう確かめるんだ?」
「コイツに聞く」
とんとん、とリーダーは胸の『中心核』を指で叩いた。途端に血鬼は焦った。
(まずいな……。俺の記憶を引き寄せられたら……)
必ずや、金髪少女一号が信者を殺したことがバレてしまうだろう。奴の言うことが本当なら、と血鬼は内心崖の上にでも立たされている気になった。しかし杞憂は杞憂で終わる。
「……のはやめておこう。これでも俺は貴様を崇拝している。貴様を無許可に覗き込むことなどあってはならん!ということで許可をお願いする!」
「駄目に決まってんだろ」
「チッ!」
舌打ちをするリーダーにほっと胸を撫で下ろした血鬼。だが次の瞬間には空気が凍ることになる。軽いジョークでも話すように、リーダーが言った。
「お前以外が殺したとなれば、話は別なんだよ筋肉蚊。例えば!そこの人間が信者を4匹殺したのだと仮定しよう!ならばそれは大罪だ!俺がじっくりと拷問し、ぐずぐずになったものをコイツらに食わせるだろう。殴りまくり、爪を剥がし、ムチで叩き……」
ぴしっと空気が凍った。金髪少女一号は真顔で聞いている。彼女からすれば、それはどうしても冗談には聞こえない。血鬼の横に立っている彼女の手のひらがじわりと汗ばんだ。
「しかし!お前が殺したならば」
「ぐだぐだ言ってんじゃねえよ」
血鬼は静かに激怒した。そして決着をつけるつもりで、金髪少女一号の全てを庇うために、淡々と言った。
「──俺が殺したんだよ。しつこいから殺した。それがどうした?」
「……よくぞ!祝福しよう筋肉蚊!次のステージに進めたのだな!?俺は猛烈に感動している!」
リーダーの目頭が熱くなる。溢れ出した涙は、残留する記憶でしか見たことのない"王者の姿"を垣間見れて感極まった故か。
「では最終段階へと進もう!筋肉蚊!創設以来この教団が目指していたコロシアムへと!」
「………」
血鬼は黙る。リーダーは涙を拭ってにやりと笑う。話す熱量とテンションの差は、山と谷ぐらい違った。
「決闘だ!我々とお前の純粋な殺し合い!日時は三日後の昼!さぁ……俺たちが全員死ぬか!お前が死ぬか!王者の証明をしてみるがいい!」
叫びと共に、闘争の道は開かれた。
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「断る」
「……なにぃ!?」
闘争の道はがちゃりと戸締りをされた。全会一致のつもりで話を進めていたリーダーは驚愕した。
「何故だ!戦えるんだぞ!殺せるんだぞ!好き放題だぞ!」
「お前と一緒にするな!そもそも戦うのは好きじゃない。
「………」
今度は逆転したようにリーダーが押し黙った。すると横で笑っていただけの副リーダー、マガレが彼に話しかける。
「リーダー、もう……」
「黙れマガレ」
しかしすぐに折れた。マガレはにこにこしながら黙った。
「……意味ならあるぞ?筋肉蚊よ。」
リーダーはそう言いながらにやりと笑う。胸に埋まった翡翠色の中心核が、仄かに緑色へと光った。
「えっ?」
突然、金髪少女一号が吹っ飛んだ。まるで大きな引力に引っ張られたかのように。誰もが重力の前には落下することしか出来ないように。リーダーの神器、中心核が彼女を引き寄せたのだった。
吹っ飛んだ先には筋肉蚊教のリーダーやマガレ、その他大勢の火山生命体がいる。彼女は捕まってしまった。
「意味なら今作ったぞ!シンプルだ!コイツが欲しければ、奪いに来い!」
「やめろ!関係無いだろうが!」
「どうでもいいだろ?所有物を奪われた時ぐらい、ぶっ殺してでも取り返せ。あまりがっかりさせるなよ?筋肉蚊。」
ぱんっ、とリーダーが手を叩く。
「襲え」
すると、ログハウスを包囲していた33体の火山生命体が一度に血鬼へと飛びかかった。
「一号!」
「血鬼!」
「嘆くな小娘!貴様も感謝するがいい。お前の為に、奴はこんなにも必死だぞ!」
次々に襲ってくる怪物たちを、血鬼は有り得ないスピードで張り倒していた。が、とうとう圧倒的な物量に埋もれてしまう。低い笑い声を最後に、筋肉蚊教のリーダーとマガレはその場を去ってしまった。
何時間か経った頃。火山生命体たちは一匹残らず張り手の痛みによって鳴きながら逃げていった。彼の不殺を支持する、手のひら理論*2はまだ矜持を保っている。しかし、筋肉蚊教によって、金髪少女一号によって、殺しをしなければいけない時が来たのかも知れなかった。
「……どいつもこいつも、馬鹿か……。どうして命を雑に扱う。どうして俺のために死のうとする。おい……腑抜けた俺は、どうすればいい……。」
血鬼のログハウスは寂しいものになった。狭い部屋にはもう、ワープしてくる少女はいない。
「やるしかないのか?」
彼は揺らいでいた。これまで不殺でいられたのは、あの時少女が4匹の怪物を返り討ちにしていたからだと思った。もし少女が殺していなかったら。彼女が喰われかけでもまだ息があったとしても、自分は奴らを皆殺しにしていたに違いない。彼は確信していた。
執着、と血鬼はリーダーに言われた。確かに彼は彼女に執着していた。長く手触りの良い金色の髪。美しく整った顔立ち。彼女の魅力の全てを独り占めしていたと言ってもいい。様子がおかしくなってからは、逆に彼女が血鬼に執着するようになった。愛を囁き、夢を語る。
(とんでもない。俺が手を汚さない理由が、どこにある。)
一度手を汚してしまった少女。手を汚さずにいられた血鬼。どうしてまだその手を綺麗に保とうとするのか。それは彼にも分からなかった。強いて言うならば、彼は殺さないことで自我を守っていた。
かつてずっと共にいたいと思った者が1匹いた。彼は死んだ。血鬼を庇って死んでしまった。今、同じ過ちを繰り返そうとしていることに、血鬼はふと気付いた。
くくく、と血鬼は笑う。
「何を迷ってたんだろうな?俺は。奴らはむしろ俺が殺すことを望んでいる。全くいかれている。」
独り言を呟きながら血鬼は笑った。真っ黒な目が、今や筋肉蚊教を滅ぼすことだけを見つめている。憎しみと怖気が血に混じって彼の中を循環し、身体は真っ赤に染まっている。四本足がむくりと立ち上がり、銀色のくちばしが呟いた。
「それなら、お望み通りにやってやろうぜ。──」
何かの名前を呟いて、彼は扉の取っ手に手をかけた。
突然、奇妙な音が鳴った。
「ただいまー!」
「え?」
金髪少女一号がワープしてきた。
「ふふふ。逃げてきた。寂しかった?」
「………」
なーんてね、こんな短時間で寂しいわけないよね、と一号は照れ気味に言った。血鬼は思わず太い腕で抱きしめそうになって、自分を戒めた。
烏滸がましい。俺は彼女を守るためなら何だってやるが、あくまで守る者でいたい。というか骨を折ってしまいそうで怖い、などと彼は考えながら安堵のため息をついた。
「寂しかったよ」
血鬼の一言が聞こえた瞬間、一号は抱きついた。
オマケ
神器……神が創造したとされている神秘的な道具。
リーダーが所有している神器
・中心核(ハートコア)……何でも引き寄せることが出来る。誰かの記憶や忠誠心も引き寄せられる。これによって大量のエネルギーを集めて爆発するのが本来の使い道。
血鬼が所有している神器
・古帝の手袋……技の効果を永続させることが出来る手袋。例えば、かみなりパンチによって麻痺した相手は永遠に麻痺し続ける。ただし、治るようなこと(専用のきのみを食べるなど)をすれば治る。
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