気が付かないうちに3年間経ってました。3周年イェーイ!
【前回のあらすじ】
・筋肉蚊教がやってきた!
・金髪少女一号が連れ去られた!
・なんかあっさり帰ってきた
「血鬼!少女はここに来ましたか!」
焦った様子のマガレが、許可も無しに俺の家の扉を開いた。
「……良かった。心配しましたよ。休憩中にいなくなりましたから……。」
にこりと笑いかけ、マガレは激しく息をしている。金髪少女一号は抱きつきながら扉の方を向き、ただじっと見つめている。俺は一号をぽんぽんと撫でた。
「あぁ、どうか怖がらないで下さい。私は無事を確認したかっただけ。本当はワインも届けられたら良かったんですけどね。」
「お前がアイツを止めようとしたことは分かってる。何故かは知らないが、お前は俺たちに協力してくれる。」
マガレは黙って微笑んでいた。俺は言葉を続ける。
「だから頼む。どうかこの子を巻き込まないでくれないか。俺は……決闘に参加する
「つもり、とは?」
さぁ?俺はとぼけるように両方の手の甲を地面に向けた。茶化したが、迷っていると言ってやっても良かった。マガレは多分それを見抜いていたからこう言った。
「悩んでいるんですね。自分が虐殺をすべきか、他に道が無いのか、最も良い選択は何か……」
「………」
「えぇ、よろしいですとも。悩む時間が必要でしょう?でしたら私、マガレは
一瞬で空気が張り詰めた。奴の一言で警戒心はMAXになり、俺は片手で一号を隠すように遮った。
(言ってることが違うじゃねぇか!)
やはりマガレは少女を捕まえるつもりだった。腐っても……いや、澄み切っても筋肉蚊教。お山の大将気分でいるリーダーには逆らえないらしい。俺は手のひらを大きく構え、マガレを引っ叩く準備を終えた。
しかし、予想はとんでもなく裏返ることになる。
「!?」
マガレが眩い光に包まれた。彼女は金髪少女一号の姿に変身したのだった。
「ええ。私を預けるのです。」
一号の顔をした彼女が微笑んだ。こっちの方の一号(本物)はそっくりな自分に戸惑っているように見えた。
「そうですね。数日は誤魔化せると思いますよ。少女の身はリーダーに管理され、そのうちストレスを感じるでしょう。『人質を確保したが、一向に筋肉蚊がやって来ないぞ?』……似てるでしょう。」
「そんな可愛らしい言い方じゃない」
「ですね。そしてゆくゆくは……」
金髪少女になったマガレは微笑みながら言った。
「"
「……
俺は小さく呟き、彼女が話し出すまで黙った。
「もちろん、貴方ならその重大さと罪深さが分かると思います。かつて火山を封印した貴方なら。」
「あまり大層に言ってくれるな。あれは
「お呼びでしょうか?」
「まぐれ、だ!火山はあの
何万もの怪物たちが噴出され、それまで生きていた動物たちを蹂躙し、ウルトラジャングルが大混乱の渦に飲み込まれることを俺は想像した。渦が少女を飲み込むことも。
「今でさえ地獄だ。それが10000倍ぐらい地獄になる。だが、そもそも火山を復活させるだなんて、出来るはずが無い。……って言ったらお前、どう反論する?」
「……私も、同じようなことを聞きましたよ。」
マガレ(一号の姿)は相変わらず微笑んでいた。
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「火山を復活させる方法はある。」
昨夜のこと、リーダーは胸に埋まっていた『中心核』を取り出して。壊れてしまうのでは、と心配になる程ぎゅっと握りました。すると彼を中心に緑色の光が中心核から溢れて、すっぽりと辺りが覆われたのです。
「美しいだろう。」
「はい。これは?」
「爆発範囲だ。
「すごいですけど、物騒なので消して下さい。」
ふんと鼻を鳴らしてリーダーはもう一度強く中心核を握りました。緑色の光は神器へと素早く戻って、寝ていた信者の火山生命体の子たちが騒がしく混乱しています。
ククク、とリーダーは低く笑いました。
「こう言いたそうだな?『かつて筋肉蚊が成し遂げた偉業を、最もたる信仰者である貴方が台無しにするのか』と……。」
言い終われば沈黙が流れて、そのうち彼が強く地面を踏みしめ、それから叫び出しました。
「しかァし!しかししかし!俺は盲信しきった盲目の信者などではなぁい!気に入らないものは気に入らない!あんな腐った姿はもう見たくはない!我々の目に映るのに相応しいのは!孤高の王者であったかつての筋肉蚊のみ!」
「……私は賛成しかねます。生命エネルギーはどこから集めるのですか?まさか信者の子たちから?」
「何が悪い?」
「死にますよ。火山生命体は我々とは違うんです。生命エネルギーに依存しきっている。」
「何が悪い?」
「………」
私が静かにしていますと、急にリーダーがじろりと私を睨みました。彼はいつも怒っているような目をしていて、それが一層細くなったのです。彼は問いかけました。
「お前、筋肉蚊の為に死ぬことをどう思う」
「良いと思いますよ。筋肉蚊の為になるのならば。」
「そうだ、奴の為に死ねるのなら本望。何度も言ってきたことだし、ここにいる者どもは皆そう答えるだろう。口は聞けないがな。」
ククク、とリーダーは愉快そうにしています。火山から生まれる子たちの大抵は喋れなくて、好奇心旺盛で、戦いに飢えています。皆『中心核』で見た過去の筋肉蚊に魅せられていて、信仰する心は純正の本物です。中には弱々しい子もいるけれど、とうの昔に土に還りました。
「それに、どうせ我々はもうすぐ死ぬことになる。コロシアムにて全員が奴の復活の餌食となるのだからな!」
嬉しそうに言うリーダーを見て、信者の子たちがキャッキャと笑いました。信者の子たちは皆、遥か昔に生息していたポケットモンスターたちの遺伝子を持っていて、どことなく姿が似ています。人間……いわゆる『ポケモントレーナー』に使役されてバトルすることが日常茶飯事でしたから、戦うことが好きなのでしょう。同じ以上に、筋肉蚊のことが好きなのでしょう。
だから死ぬことは本望?どうしても違和感を覚えます。あの日筋肉蚊が4匹を殺した時、私は嬉しくありませんでした。代わりに、4匹と1匹の仲間を失ってしまった絶望を感じたのです。あぁ、貴方たちは亡くなり、とうとう貴方は殺してしまったのですね、と。
ここにいる私以外の者が『過去の筋肉蚊』を信仰しているなら、私は『今の筋肉蚊』を信仰していたのです。
(何かを尊いと思うことは素晴らしいです。けれど皆には生きていて欲しい。生きて喜んで楽しんで味わって欲しい。そして殺さないで欲しい、死ぬことも死なせることも、当然のように思わないで欲しい。)
私は考え続けます。死んでしまった後のことは、いくら研究しようが分かりません。無になるかも知れないこと。それがどれ程恐ろしいことか。思わず私は呟きました。
「死んでしまうと……貴方はもう彼を見ることが出来ませんよ。」
「俺は霊になったり神になったりして、死後も筋肉蚊を見守り続けるのだ。だからお前もついて来い。いいな?」
リーダーがニヤリと笑いかけて、私は微笑み返しました。
「奴の復活に身を捧げる、その時までお前は生きろ!お前は強いし、飯も美味いし、足が早くて優秀だ!お前は筋肉蚊と俺の次に価値があるのだから!」
「光栄です。リーダー。」
「しかし、どう答えるかと思ったぞ!マガレ!筋肉蚊の為に死ねないのならば、ソイツは何故ここにいるんだ?全く生きる意味が無いではないか。」
リーダーは笑わずに言いました。真剣な話をする時に笑う者は、そういないでしょう。また、笑わない者は本気でそう考えているのでしょう。
私は考え続けます。最近はもう生きる意味を見出せないまま、漠然と生きていました。昔はここにいる理由がありました。しかしそれは、やがて朽ち果てるまで秘めておくものでした。
もう真っ暗闇だったので私は目を瞑りました。空に広がる綺麗な星空とお別れをします。願わくば、火山が復活しませんように。頭に思い浮かべたのは
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「──どうか、少女をお守り下さい。次に、次にで構いません。我々を……なるべく殺さないようにしてくれませんか。」
気が付くとマガレは頭を下げていた。血鬼も金髪少女一号も顔を見合わせる。血鬼が返答を返せないうちに、マガレは思い出したように喋った。
「そうです。お嬢さん、名前は?」
「……一号。金髪少女一号っていうの。」
「……えっ。」
「おいおい、俺のネーミングセンスを馬鹿にするなよ?」
「可哀想と思わないんですか……?」
「私は気に入ってるよ!」
明るい声を聞いた後、マガレはにこりと笑って家を出て行った。その様子を不思議そうに一号は見ていた。自分と同じ姿の彼女が、自分を庇って人質になりに行く。不甲斐なく、心配に思った。
リーダーに捕まった彼女はいかにも怯えているように演技した。ぷるぷる。口も聞けない。見かねてかリーダーが話しかけた。とても緊張を和ませるような声色ではなかった。
「お前、名前は何だったか?」
「……一号です。」
リーダーは少し黙ってから、こう言った。
「違うな。名前は何だったか?」
「……?」
「黙っていても分からん。三度目だ。名前は?」
マガレは困惑した。
(違うとは何でしょう……?)
彼女の変身は完璧であり、どこからどう見ても金髪少女一号だった。なので、自信を持ってはっきりと言った。
「一号です。」
「違うだろ?」
またもや否定された。少女の姿のマガレはリーダーを見上げた。
あの目だった。
昨夜、マガレの信仰心を疑った時の、あの目だった。怒っているような目をもっと細くして、その者の頭の先から足の先まで隅々と疑うような、恐怖を感じさせる目だった。
リーダーはおもむろに膝を曲げてしゃがんだ。そして少女の、金髪に隠れそうな程小さい耳に口を近付ける。
彼は囁いた。
"マガレ。"
ずさーっと何かが土煙を立たせながら転がる音が聞こえた。血鬼と金髪少女一号が固まっていると、次には扉を叩く音がどんどんと響いている。しかし異常だった。必死に力を振り絞って何とか出したようなノック音だった。
「マガレ……?」
血鬼は扉を開ける。そこにいたのはマガレだった。
変身の解けたマガレは、頭から血を流してぐったり倒れていた。凄まじい力で強く頭を殴られている。
金髪少女一号は絶句し、血鬼は遠く遠く離れた先のリーダーと火山生命体たちを見ていた。
リーダーは叫んだ。
「これより!我々は宣言する!3日後の昼、舞台は我々の住む場所、『筋肉蚊信仰主義最高国』のコロシアムにて!」
リーダーは叫んだ。足元のマガレはぴくりとも動かない。
「我々は挑戦者!全力で筋肉蚊に挑む!筋肉蚊はチャンピオン!全力で我々を潰す!もしもこの約束が守られないのならば!」
もはや誰にも止められないリーダーは、一層大きく叫んだ。
「我々は、火山を復活させる!!」
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火山復活宣言から一日後。筋肉蚊教の奴らはぞろぞろと去り、いつの間にか血を流していたマガレは消え、俺たちは……
「今日はそろそろ食べ頃の木の実を取ろう。」
「うん。」
普段通りに過ごしていた。朝起きて軽食を取り、一号がワープ(彼女曰く、スキマというらしい)を使おうとしたので止め、のしのしと狩場まで歩いた。
「筋肉蚊信仰主義最高国って……なんだあの国名、恥ずかしい。馬鹿が考えた名前してやがる。決めるのに一分もかかってなさそうだ。」
「私の名前も大概じゃない?血鬼。」
「良いところに気が付いたな、一号。俺は決めるのに三十秒もかかってない。奴の二分の一だ、俺の方が馬鹿で恥だ。というかぱっと付けてすまなかった。今から変えようか?」
「いいの!血鬼が付けてくれた名前なんだから!」
そうか、と俺は短く返答する。色とりどりの木の実を収穫して帰った後は、冷凍庫にぶち込んで、普段通りに過ごした。なんとなく温泉に入る気分じゃなかったのは共通していた。夜中、キャンプファイヤーを囲みながら一号は言った。
「ねぇ……マガレは大丈夫かな。私の為に色々してくれたから、生きていると嬉しいのだけれど。」
「あの後一日中探しても見つからなかったし、奴らに回収されたんじゃないか。」
「……死んじゃってないよね。」
否定は出来なかった。思えば彼女には恩がとてもある。今一号が着ている紫色の服も、彼女が持ってきたものだった。服リーダーのセンスが光っている。ファッションのことはよく分からないが。
「私ね、こんな服着たのは初めて。着物と全然違うの。すべすべしてて、涼しくてね、可愛いの。毎日着たいぐらい。」
「もう一着持って来させれば良かったな。」
「うん。それぐらい。今度会ったら頼みたいの。」
すっかり一号は心を開いていたようだった。俺は微笑ましく思いながら、彼女が生きていることを祈った。
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火山復活宣言から二日後。一号と同じベッドで目が覚めた。明日は決闘だ。馬鹿みたいな名前の国に移動し、コロシアムとかいう場所でリーダー率いる数多の火山生命体と戦うことになる。
筋トレの時間だった。腕立て伏せ1000回、腹筋1000回、木を粉々に粉砕すること10回、実戦1回。珍しく襲ってきた火山生命体がいたので、遠慮なく明日の練習に使わせて貰った。もちろん殺してはいない。
身体の熱が冷めるまで待っていたら、すっかり日が暮れていた。片手で持てるサイズのランタンを手にして、一号と一緒にノーマル温泉に入った。ばしゃばしゃと身体を洗うのを忘れずに。せーのでどぼん!
「ふぅ〜……」
「久しぶり……?」
「二日前だな……」
二日前でも、久しいものは久しい。俺たちはやっと暗い気分がいくらか取れ、温泉に入る気になった。温かい湯に肩まで浸からせることがこんなにも癒やされるとは。
「ねぇ……明日、早めに起きた方が良いよね……」
「そうだな……。どっちかが起きたら、寝ている方を起こそう……」
「うん……。」
俺と一号はため息を吐いた。これが、明日死ぬか殺すかの決闘を控えている者の会話だった。実際、呆気なく俺が数の暴力に殺されることも有り得る。だから今日はある程度頑張ったのだが、まだ現実味が無いように思っていた。
「ねぇ……。殺しちゃうの?」
「……俺はな、アイツら全員殺したっていい。火山も復活なんてさせない。アイツらもそれを望んでる。だから……」
「血鬼は望んでる?」
「いや、って即座に言えるぐらいには。望んでない。」
俺はまたため息を吐いて、マガレの言葉を思い出した。
"次に、次にで構いません。我々を……なるべく殺さないようにしてくれませんか。"
(絶対じゃなくて、なるべく……ってのは、俺に気を遣ってくれたんだろうな。)
「ねぇ、私知ってるよ。どうすればいいかなんて簡単。」
「マジかよ、天才だな。」
一号が俺の側に来た。どうやら小声で何かを伝えたいらしい。俺の銀色のクチバシ──耳が無い代わりにクチバシが音を拾ってくれるのだ──を小さな両手で優しく握って、金髪少女一号は自らの顔を近付けた。
少女は囁く。
"その前に……私のこと、嫌い?"
"そんな訳無いだろ。"
"そっか。嬉しい。"
彼女の息が先端に何度も当たった。声はちっとも聞こえない。気まずいような落ち着くような、静寂の時間がしばらく流れた。
勘付いてしまった。
彼女の不意打ちを、ぴたりと指先で止める。
彼女は両手でクチバシを握るのをやめて、少しだけ俺から離れた。ぐっしょりと濡れた金髪を垂らし、髪の一本一本から水滴を垂らし、ちらりと俺を一目見て、安心したようににっこりと笑った。
「駄目かぁ」
指先からぴしっと硬直していた俺は、彼女の残念そうな一言でやっと動けるようになった。きっと少女は俺の想像が及ばない程不安なのだろう。案外ずっと明日が来るのが不安だったのかも知れない。それは俺も同じだった。命の危機に瀕した時、生存本能が高まるという知識が何故か思い浮かんだ。
気の迷いは起こさせない、というのが俺の一貫した考えだった。普通、こんな化け物に恋を抱くはずがないからだ。
彼女はすすすと横に来て、恐らくにこにこと笑っていた。直接見ることは、何だか出来なかった。
「好きにすれば良いと思うの。」
彼女は言った。
「貴方が考えたことは正しくて、きっと貴方になら出来る。血鬼ってすっごく強いもん。だから大丈夫!私も手伝う!」
「ありがとな」
「……さっきはごめんなさい。急に……」
「驚きすぎて、悩みとか全部吹っ飛んだぜ。」
「本当?」
「本当だ」
「本当かな」
「本当だよ」
俺と一号は互いに言い合った。時間も忘れて湯に浸かった、明日が来るのを延長するように。ランタンの火がゆらゆら揺れていた。
気の迷いは起こさせない。それでも少しだけ、口付けを受け入れても良かったかも知れないと独り後悔した。
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火山復活宣言から三日後──決闘当日。
コロシアムのど真ん中に、俺は真っ直ぐ立っていた。
※温泉のシーンがとても変わりました。元々こっちの予定だったのですが、邪念と〆切が洋画の恋愛みたいな描写を引き起こしました。